あたいはチルノ。こうりのようせい。
今日は「てい」とかいうヘンな名まえのウサギによばれて、「えいえんてい」というところにやって来た。
「いらっしゃい。よく来てくれたわね」
そう言ってあたいを出むかえたのは、「えーりん」という人だった。
なんでも、この人が、あたいのことをひつようとしているらしい。
やれやれ、どうやらこのあたいのサイキョーぶりは、こんな山おくにまでうわさになっていたみたいね。
「さっそくだけど、チルノちゃん」
えーりんがほほえみながら、あたいによびかける。
「あなた、アタマをよくしたいとおもわないかしら?」
「へ?」
あたいは、えーりんがなにを言ったのか、わからなかった。
えーりんもそんなあたいのようすを見て、もういちど、同じことを言った。
「あなた、自分のアタマをよくしたいとおもわない?」
「うーん……?」
二回言われても、イマイチいみがよくわからない。
アタマをよくする??
「つまりね」
えーりんは、ちかくにいた、耳の長いウサギにあいずをした。
すると、ウサギがトコトコと、あたいのところになにかをもってきた。
「なにこれ」
あたいはウサギからうけとった、くすり?のようなものを手にとってながめる。
「それが、あなたのアタマをよくするおくすりよ」
「え??」
「それをのめば、あなたはアタマをよくすることができるわ」
「……はあ?」
いったいなにを言っているのだろうか。
こんなくすりをのむだけで、アタマがよくなるだって?
そんなことあるわけないじゃないの。
だいいち、あたいはそんなことしなくちゃいけないほど、バカじゃないわよ。
「もちろん、それはわかってるわ」
あれ? かんがえていたことをよまれた? そんなばかな。
あ、たんにあたいが、かんがえていたことを口に出していただけか。
「チルノ。あなたはけっしてバカじゃない。でも、今よりもっとアタマがよくなるとしたら、それはすばらしいことだとおもわない?」
「うーん……」
まあたしかに、アタマがよくなって、ソンすることはなさそうだ。
今までよりもっと、こったイタズラとかもできるようになるかもしれないし。
「それに、もし気に入らなければ、いつでももとにもどせるわ」
「そうなの?」
「ええ」
「うーん……まあそれなら、のんであげてもいいわよ」
「ホント?」
「うん」
いざとなったらもとにもどせる。
それならべつに、あえてことわらなくてもいいかとおもった。
「じゃあさっそく、のんでみてくれるかしら」
さっきのウサギがまたトコトコとやってきて、水の入ったコップをあたいにわたしてきた。
あたいはふかくかんがえずに、えいやってかんじでそのくすりをのんだ。
「どう?」
えーりんが、なんとなくうれしそうなかんじで聞いてくる。
「うーん、べつに……」
とりあえず、とくになにかがかわったかんじはしない。
「まあ、そんなにすぐにこうかは出ないからね」
「ふーん」
「また明日、いらっしゃい」
「わかった」
そんなかんじで、あたいは「えいえいんてい」を出た。
うーん、なんかダマされてんじゃないかしら?
まあいいや。
早くかえって、みんなとあそぼうっと。
――その次の日。
「おーい、起きろー」
「んあ?」
声が聞こえたから目を開くと、昨日のウサギがいた。
確か名前は……。
「てい」
「おー、よく覚えてたね」
ホントだ。我ながらよく覚えていたわね。まあ変な名前だったからだろうけど。
「でもアクセントが微妙に違う。『てい』じゃなくて、『てゐ』」
「どーでもいいわよ、んなこと」
「よくない」
「それで、何の用なの」
言ってから気付いた。そういや昨日、えーりんが「明日また来い」って言ってたんだっけ。
「ああ、あたいを迎えに来たのね」
「そーいうこと。あんた、物忘れ激しそうだから」
「失礼ね。ちゃんと覚えていたわよ」
本当はたった今思い出したところだけど。
そんな感じで、昨日に続き、あたいは「えいえんてい」にやって来た。
「いらっしゃい。気分はどうかしら?」
あいかわらずえーりんは笑顔だった。
「別に普通だわ」
「そう」
えーりんが、また近くにいた耳の長いウサギに合図をした。
ウサギが、またトコトコとやってきて、何冊かの本をあたいに渡してきた。
「何? これ」
「今日はあなたにお勉強を教えるわ」
「お勉強?」
「そう」
「なんでいきなり?」
「あなたの頭が本当に良くなってるかどうか、確かめるのよ」
あー、なるほど。
まあ正直めんどうだけど仕方ない。どうせヒマだったしね。
「ではまず、文字から教えるわね」
そう言って、えーりんは一つ一つ、あたいに文字を教え始めた。
ひらがな、カタカナ、漢字、数字、アルファベット……。
うー、やっぱりめんどくさいわ……。
正直、帰りたい。
「……とりあえず、こんなもんかしらね」
えーりんがそう言ったのを聞いて、どっと力が抜けた。
なんかとてつもなく長い時間、勉強させられていた気がする。
……そう思ったのだけれど。
「お昼ご飯にしましょう」
「え?」
えーりんの言葉に、思わず耳を疑った。
お昼、ご飯?
まだそんな時間だったの?
あたいはもうてっきり、夕方くらいにはなってるものだと思ったのだけれど。
「チルノ。あなたの頭、ちゃんと良くなってるわよ」
「え?」
「たった三時間ほどで、あなたは、これだけの文字を覚えてしまったのよ」
えーりんはそう言って、さっきまであたいが文字を書いていたノートをぱらぱらとめくった。
「…………」
なんだ、これ。
こんなに、たくさん、文字を書いていたの?
この、あたいが?
でもそこにあるのは、紛れもなく、あたいが書いた文字だった。
そして、そこに書かれている文字は全て、正確にあたいの頭の中に入っていて、それどころか、どの文字を、どの順番で書いたのかまで、完璧に記憶していることに気付いた。
「お昼を食べたら、次は算数ね」
えーりんがにっこりと微笑む。
あたいは、なんだか、自分が自分じゃなくなるような、変な感じがした。
午後からは、算数を集中的に教わった。
足し算、引き算から始まって、掛け算、割り算、小数、分数……。
どれもこれも、自分でも驚くくらい簡単に思えた。
こんな簡単なことが、どうして今まで解らなかったのかが不思議なくらいだ。
算数はあっという間に習い終えてしまったので、そのまま数学の範囲に入った。
そして、二次方程式の解の公式の導き方を学んだあたりで、
「あんまり一気に知識を詰め込みすぎると、脳がオーバーヒートするかもしれない」
というえーりんの配慮により、今日はここまで、ということになった。
「う~ん」
右手で左手首をつかみ、思い切り伸びをする。
背骨がパキポキと鳴った。
「どうだった?」
えーりんがにこやかに尋ねてきた。
「うん。なんかすごく楽しかった」
「でしょ?」
「なんていうか、今まで知らなかった世界が一気にぶわーって広がった感じがする」
「ふふ、よかったわね」
「うん」
あたいの言葉は、嘘偽りない、本心からのものだった。
本当に、楽しかった。
学ぶということが、こんなにも刺激的でわくわくすることだったなんて、今まで、全然知らなかった。
こんなに楽しいことを知らなかったなんて、すごく損していたような気がする。
でもまあ、いいや。
今までの分も含めて、これからもっともっと、学んでいけばいいのだから。
その翌日も、あたいはえーりんに勉強を教わった。
昨日は国語と算数・数学が中心だったので、今日は理科と社会。
理科は、大きく分類すると生物学、物理学、化学、地学の四分野に分けられるらしく、各分野の基本的な知識から、若干の応用的な内容までをざっと教わった。
社会では、この幻想郷の地理や歴史に加えて、外の世界の地理や歴史。おまけでえーりんの故郷の、月の世界の地理や歴史も教わった。
あたいは食べることも忘れて、えーりんの講義にのめり込んでいった。
――そんな日々が、一週間ほど続いた。
今日も私は、胸を躍らせながら永琳の講義を聴いている。
今や私は、どんな理論や知識も、一瞬で総体を理解することができるようになった。
そしてそれが、スポンジが水を吸収するように、じわーっと、自分の頭の中に染み込んでいく。
なんて、心地良いのだろう。
神様。
願わくば、この素晴らしき時間が、永遠に続きますように。
……なんてセンチメンタルに願ってみたところで、時間というものの有限性には抗うことができないわけで。
そしてその理は、『永遠』の名を冠するこの邸宅においても、異なることはない。
日が暮れると、私は若干の心残りを感じつつも、住処の湖へと帰らねばならなかった。
もっとも、私が泊まらせてほしいと嘆願すれば、永琳は快諾してくれたであろう。
しかしそうすると、それこそ私は徹夜で本を読むなりしかねない勢いであったので、流石に自粛することにした。
勉強も楽しいが、やはり適度な休息は必要だ。
今無理をして体調を崩したら、その分、勉強できる時間を失うことになる。
それは結局、私の不利益にしか働かないので、休む時はきっちり休むことにしたのだ。
そんなことを、多量の知的刺激により未だ覚醒しっぱなしの脳の片隅でうすぼんやりと考えていたら、見たことのある妖精が私の前を通り過ぎた。
その妖精も、一瞬遅れて、私の存在に気付いたらしく、
「あ、チルノちゃん」
私の名前を呼んだ。
「ああ、大ちゃん」
大ちゃんというのは、この妖精のあだ名だ。
彼女の種族は、個々の個体が互いを識別するための名称を持たないので、便宜上、私は彼女の種族名たる『大妖精』から一文字を取り、それを彼女の呼称としていた。
「こんなに遅くまで、どこに行っていたの?」
「あー、うん。ちょっとね」
「ちょっと、って?」
「まあ、色々あったのよ」
「ふーん」
色々あったのは事実だが、それを彼女に説明するのは、非常に億劫に感じられた。
どうせ「薬を飲んで頭が良くなった」なんて言おうものなら、あれやこれやと、どうでもいい質問や疑問をぶつけられるに決まっている。
正直、今はそんな面倒なことに頭を使いたくはなかった。
「じゃあまあそういうことで。今日はもう帰るね、大ちゃん。またね!」
「え? あ、うん。またね、チルノちゃん」
少し寂しげな彼女の表情に、罪悪感を覚えないわけではなかったが、今はそれよりも優先すべきものがある。
今はとにかく、少しでも早く家に帰って、頭と身体を休めなければ。
そして朝になったらまた永遠亭に行って、今日よりももっともっと、沢山のことを教わって……。
胸が、高鳴る。
明日の朝日を拝むのが、待ち遠しくてたまらない。
私の人生は、今まさに始まったのだ。
今私は、確信を持ってそう言える。
――そして、次の日。
慣れた足取りで永遠亭に向かう。
もう迎えの兎も必要ない。
どうやら私の知能は、放物線を描くような速度で、日に日に増進しているらしい。
初期の頃に比較して、明らかに理解速度が上がっている。
学んでいる内容は一層高度になっているのに、それを把握するために要する時間はどんどん短くなっていく。
今日までの学習で、主たる学問分野の基本的な理論は全て頭の中に入った。
でもまだ、あくまで基本。
明日からは更に、各学問分野の専門性を究めていかなければならない。
学ぶことがある。
それだけで、私は至上の幸福を感じられた。
ところが、夕暮れ時、家に帰ろうとする私に、永琳は意外の一言を放った。
「チルノ、明日からは紅魔館に行ってみてはどうかしら」
「紅魔館?」
「ええ」
紅魔館。私の住む湖のすぐ近くにある、吸血鬼の住まう西洋風の館。
「……なんで?」
「今のあなたなら、もう逐一私が教えるよりも、自分で本を読んで勉強した方が効率が良いと思うの。紅魔館の図書館なら、ここよりもずっと多くの蔵書があるし」
「…………」
言われてみれば、そうかもしれない。
既にここ数日では、永琳の説明を聞いている途中で、自分の頭の中で理論を組み立てて、解答を演繹したということも何度もあったし。
「もしあなたにその気があるなら、今日のうちに紅魔館の主に話をつけておいてあげるわ。そんなに親しいわけではないけれど、おそらく承諾してもらえると思う」
確かに、幻想郷最高の頭脳を持っていると言っても過言ではない永琳の頼みとあらば、吸血鬼も無下にはできないだろう。
また永琳に貸しを作っておくことは、吸血鬼にとっても不利益にはならないはずだ。
それに何より、私はもっと勉強したい。
だとすれば、断る理由などあろうはずもなかった。
「ありがとう、永琳。私、行けるのなら行ってみたい。紅魔館に」
「わかったわ。なら明日は直接、紅魔館に向かいなさい。手筈は整えておくから」
「うん、ありがとう」
こうして明日からの私の行き先は紅魔館になった。
でもやるべきことは変わらない。
ただ、学ぶ。
その先に何かが待ってるわけじゃない。
ただ、楽しいからそうするのだ。
――そしてその翌日。
永琳の言を信じて、私は紅魔館へと向かった。
門の前には門番が立っている。
この門番には、過去に何度か悪戯を試みたことがあった。
こいつに気付かれないように、なんとか紅魔館に侵入できないものかと、無い知恵を振り絞って策を講じてみたり。
……まあ結局、一度も成功しなかったけど。
そんな風に昔を懐かしみながら、今回は堂々と正面から、門番の前に降り立った。
「…………」
門番は私を一瞥してから、
「……お嬢様から話は聞いています。どうぞこちらへ」
どことなく不機嫌そうな声でそう言うと、門の錠を解いた。
おおかた、たかだか妖精風情の私を客人として迎えるのが面白くないのだろう。
それが、以前は悪戯を仕掛けてきたような相手であれば尚更だ。
ここで、私に妖精特有の悪戯気質が少しでも残っていれば、客人という立場を盾に、この門番をからかったりもできたのだが。
しかし、生憎今の私には、もうとうにそんな気質は失せていた。
誰かをからかって楽しむ?
そんなことをして、一体何の利益になるというのか。
今やもう、目の前の門番にも、それをからかうという行為にも、何の興味も関心も持てない。
私の目的はただ一つ。
少しでも多くの知識を得ること。
それだけだ。
私は何も言わず、静かに門番の後に続いた。
案内された大図書館は、本の城とでも形容すべき空間だった。
どこまで行っても本、本、本。
一体何十万、いや、何百万冊の蔵書があるのだろうか。
思わず、私は身震いした。
これでまた、楽しい毎日が始まる。
そう思うと、心躍らずにはいられなかった。
さて、どこから手をつけようか。
はやる気持ちを抑えながら、ずらっと並んだ本を吟味していく。
ああ、どれもこれも、私の知的好奇心を刺激するものばかりだ。
時間がいくらあっても足りないな。
いっそのこと、この館に間借りさせてもらおうか――。
なんてことを考えていたら、
「あなたが、チルノ?」
背後から声がした。
振り向くと、一人の少女がそこにいた。
私より頭一つ分くらい高い位置から、静かな眼で私を観ていた。
「……そうよ。あなたは?」
「私はパチュリー・ノーレッジ。この図書館の……そうね、管理人みたいなものかしら」
「そう。今日からお世話になるわ。ここの本、自由に読んでいいんでしょ?」
「ええ。話はレミィから聞いてる。好きにしたらいい。ただし、汚したりしたら駄目よ」
「分かってるって」
「そう。それじゃ」
そう言ってくるっと踵を返すと、すたすたと歩いて行ってしまった。
なんか無愛想だな、とも思ったが。
まあ、別にどうでもいいことだった。
それより早く勉強しよう。
時間は有限なのだから。
その日から、私は一日のほとんどを紅魔館の図書館で過ごすようになった。
朝起きては紅魔館に行き、門番が門を開くのももどかしく、地下の図書館に一直線。
あとは日が暮れるまで、ひたすら本を読み続ける。
そして家に帰るとすぐにベッドに横になり、そのまま夢の中へ。
――そんな生活が、一ヶ月ほど続いた。
その時は、突然にやって来た。
心地良いはずの昼下がり。
パチュリーが私に告げた。
「あなたが読むことの出来る本は、もうそれで最後よ」
「……え?」
一瞬、パチュリーが何を言っているのか、理解できなかった。
「な、何を言っているの? だってまだここには、こんなに沢山の本が……」
「……残りの本は全部、魔導書なのよ」
「…………!」
「あなたの力では、魔導書を読むことは出来ない。今のあなたなら、そのことが理解できるでしょう?」
「…………」
魔導書。
それを読むためには一定の魔力が必要であり、それが無い者にはどうやっても読むことは出来ない。
一介の妖精に過ぎない私に魔力なんて、あるはずがなかった。
「……そんな……」
項垂れる私に、パチュリーが静かな声で言った。
「……別に落ち込むことは無いわ。魔導書が読めなくたって、あなたはもう十分過ぎるほどの知識を身に付けた。それこそ知識量だけなら、この幻想郷で一番と言ってもいいくらいに」
「…………」
パチュリーが私を慰めようとしてくれているのは分かったが、今の私には同情にしか聞えなかった。
それでも、それを無下にするほどには、私は愚かではないつもりだった。
「……わかった。これ読んだら、帰るね」
精一杯の笑顔で言った。
パチュリーも笑顔で頷いた。
皮肉だな。
笑顔で交わした最初のやり取りが、最後のやり取りになるなんて。
こんなことなら、もっと仲良くしておけばよかったかな。
そして私は最後の一冊を読み終えると、パチュリーに礼を言って、紅魔館を後にした。
もうここに来ることもない。
そう思うと、途方もない喪失感に襲われた。
……別に、魔導書が読みたかったわけではない。
魔導書が読めなくたって、それに代わるものがあれば、それで私は十分だった。
しかし。
それは、叶わぬ願いだった。
私は、もうこれ以上、新たな知識を得ることはできない。
その事実が、幸福の絶頂にいた私の輪郭をぼかしていく。
私にとって、知を得ることは、生きることそのものだった。
知を得て何かを成したかったわけではないし、また成そうとも思っていない。
ただ、それ自体に快楽を感じていたのだ。
たとえばこれが人間なら、新たに知識を得た場合、それを何らかの形で実践に用いようとするだろう。
しかし、私にはそんな気が微塵も起きなかった。
なぜなら、私は、妖精だから。
妖精の生の本質は快楽にある。
快楽がなければ、妖精は生きてはいけない。
それが妖精の性。
生まれもっての属性。
大多数の妖精は、快楽を得たいという、その欲求を他者――多くの場合、人間――に対して悪戯を仕掛けることなどで、満たしている。
それは、妖精が生来低い知能しか持っていないが故の手段であり、では高い知能を得た妖精はというと――。
何のことはない。
悪戯が学習に変わっただけだ。
結局私は、学習すること、知を得ることに快楽を見出し、それによって妖精としての生を全うしていたに過ぎなかったのだ。
ゆえに、その先のこと、つまり得た知識をどう汎用するかなどといったことには興味が湧かない。
確かに、知識を使って何かを成せば、それにより快楽を得られる可能性はある。
しかしそれは大抵の場合、多くの時間と労力を費やすものであろう。
辛酸と苦渋。忍耐と努力。
試行錯誤を重ねた末に、辿り着く境地。
それはそれで、十分に快楽たりうるものだとは思う。
でもそれは、妖精の本質に副うものではない。
妖精が求める快楽とは、何かを成した結果として得られるものではなく、それ自体から生じるものでなければならないからだ。
つまりは、刹那的な快楽。
いつか得られるであろう快楽のために、今を犠牲にすること。
それは、妖精の求める快楽の形態ではない。
たとえば、悪戯。
悪戯をするという、まさにその瞬間に、妖精は快楽を感じている。
もちろん、その悪戯が成功すれば、より一層の快楽を得られるであろうが、それはあくまで副次的なものだ。
要は罠を仕掛けている瞬間こそが楽しいのであって、実際に対象が罠に引っ掛かるかどうかは、さしたる意味を持たない。
そして、知能を得た私にとってそれにあたるものが、学習だったというわけだ。
知識を得ること。
それ自体が快楽を生むのであり、だからこそ私は、寝食を忘れて学習に没頭した。
その瞬間に、妖精としての生を感じていたから。
結局のところ、妖精は、どこまでいっても妖精だった。
どんなに高い知能を得ても。
どんなに多くの知識を得ても。
妖精が妖精である限り、快楽を得なければ生きられない。
しかし今の私には、もはや快楽を得る術は残っていない。
知識を求めようにも、もう新たに得られる知識は無い。
かといって、この高い知能を持ったまま、他の妖精と一緒に悪戯なんぞに興じたところで、今更快楽など得られるはずもない。
……詰んだ。
あまりにもあっけない幕切れだった。
あんなに幸福だった私の生活が、こんな形で終わるなんて。
しかもそれが、自分自身に内在していた属性によって終わるとは。
馬鹿みたいだ。
ああ、やっぱり私は、馬鹿だったのかもしれない。
妖精は妖精らしく、低い知能のまま、悪戯に興じる日々を過ごしておけばよかったのかもしれない。
そうすればこんな葛藤も、喪失感も、何も味わわずに済んだのに。
今になって思う。
妖精の知能が低いのは、それは妖精が妖精たるために必要だったからだと。
自分の存在意義に疑問を持たず、刹那的な快楽に身を委ねてさえいられれば、それだけで満足を得られる。
快楽を生の本質とするからこそ、それを維持するためには高い知能など不要、むしろ有害ですらあった。
妖精の進化の過程についてはまだ未解明の部分が多く、私も十分な理解を得ていないが、ひょっとすると、その過程で余分な知能を退化させていったのかもしれない。
それは、高い知能を有していると、生きていく上で、様々な疑問に不可避的に直面するからだ。
たとえば、自分自身の存在理由、すなわち、自分が今生きているということの意味とは、何であるのか。
……そんなことを考え始めると、単純な快楽を得ることさえ、容易ではなくなる。
それはつまり、妖精が妖精として生きられなくなることを意味する。
生きる理由を考えるあまりに生きられなくなるなんて、背理でしかない。
ならばそんな知能など、いっそ無い方がいいのだ。
余計なことを考えなければ、適当に悪戯を仕掛けるだけの日常でも、十分満足することができる。
それだけで、生きていける。
妖精らしく。
紅魔館を後にしてから、小一時間ほど経っただろうか。
行く当てもないので湖上をフラフラと飛んでいると、いかにも暢気そうな妖精と鉢合わせた。
「あ、チルノちゃん!」
大妖精。
随分と久しぶりに見た気がする。
まあ無理もないことだろう。
この一ヶ月間、私は毎日、朝から晩まで紅魔館に入り浸っていたのだから。
しかし、今日はまだ日が高い。
彼女の行動範囲・活動時間帯を考えれば、私が彼女と遭遇するのは必然だった。
「久しぶりだね、どこかへ行ってたの?」
「…………」
「? チルノちゃん?」
……なんだろう、この感じ。
「えっと……どこか具合でも悪いの?」
「…………」
……この、何一つ悩みなどなさそうな暢気な顔を眺めていると、無性に苛々としてくる。
「あ、ごめん。話したくないんだったら、いいんだけど……」
「…………」
……ああ、そりゃあんたはいいだろうよ。
日がな一日ふらふらして、そこらへんの頭の弱い妖精どもとじゃれあって、あははと笑って、それで毎日楽しいのだから。
何を隠そうこの私も、ほんの一ヶ月ほど前まではそんな日々を過ごしていたのだ。
だからこそ、嫌になるくらい分かる。
妖精がいかに馬鹿で無能で、何も考えずに生きているのかってことが。
「…………」
ようやく静かになった。
いっちょまえに、空気の一つでも読めるようになったのかしら。
こういうのを『馬鹿の一つ覚え』っていうのね。はは。
「……私、今日は帰るね。またね」
大妖精は、私の以前とは違う雰囲気を感じたのか、気まずそうに背を向けた。
「……あ、あの」
と、思ったらすぐにまたこちらを振り返った。
まだ何かあるのか。
「あの……」
俯きながら、蚊の鳴くような声で言った。
「わ、私なんかじゃ、その、チルノちゃんの役には立てないかもしれないけど……。でも、もしその、何か悩みがあるんだったら、話聞くくらいなら、できる、から……」
「…………」
唖然とした。
話を聞く?
この馬鹿な妖精が、私の話を?
「ご、ごめん。余計なことだったかな……。そ、それじゃ」
私の表情から、一層不穏な空気を感じ取ったのか、彼女は今度こそ飛び去っていった。
……あんたに、私の何が分かる。
どうせ明日になったら、私の様子が変だったということも、きれいさっぱり忘れてしまうくせに。
そんな程度の知能しかない、馬鹿のくせに。
水平線に消えていく大妖精の背中を見ながら、思い出した。
いつだったか、二人で飛んだ夕焼け空。
真っ赤な太陽に、彼女の緑髪がよく映えていたのを覚えている。
今となっては、もうどうでもいいことだけど。
――それから、一週間ほどが過ぎた。
私は、紅魔館に行かなくなってからというもの、ひたすら自分の家に引き篭もっていた。
家と言っても名ばかりの、氷で作っただけのただのカマクラだが。
何をするでもなく、ずっとベッドに横たわっている。
何もする気が起きない。
あんなに楽しかったのに。
いくら過去を振り返っても、時間は元には戻らない。
いっそこのまま、自然に還ってやろうか。
そうすれば次はまた、馬鹿で暢気な妖精として、再生できるに違いない。
結局、妖精は妖精として生きるしかないというのなら、いっそのこと――。
「おーい! チルノー!」
そんな私の負の思考を遮るように、威勢の良い声が耳に届いた。
聞き覚えのある声だった。
私はゆっくりと起き上がると、頭を掻きながら外へ出た。
するとそこには、一人の少女の姿があった。
箒に跨ったまま、フワフワと浮かんでいる。
「よっ」
霧雨魔理沙。
その人間は、鬱陶しいくらいに晴れやかな笑顔を向けてきた。
「パチュリーから聞いたぜ。お前、永琳の薬で頭良くしてもらったんだって?」
「……それが、何」
私が冷めた反応を見せると、魔理沙は少し驚いたような表情を浮かべた。
「へぇ。確かに前とは、ちょっとフンイキ違うな」
「…………」
「まあいいや、お前の頭がどーなろうと、んなこと私にとっちゃどーでもいい」
そう言いながら、スカートのポケットをゴソゴソとまさぐり、
「勝負だぜ! チルノ!」
一枚のカードを私に突き付けた。
「……はあ?」
「あん? 見て分からんのか。スペルカードだよ」
「それは分かるわよ」
「じゃあ分かるだろ。弾幕勝負だ」
「……何でそうなんのよ」
「おいおい。弾幕勝負に理由なんかいるかよ」
「…………」
「さあ、早く用意しろよ」
……ああ、つくづくこいつも、楽しそうな顔をしている。
結局不幸なのは、私だけということか。
「どうした? やらんのか?」
「やらない」
「は?」
「やらない、って言ったのよ」
「…………」
さっきよりも一層、驚いたような顔をする魔理沙。
「お前……本当に頭おかしくなっちまったのか」
「そうじゃない」
「いやそうだろ。前までは、お前の方から仕掛けてきてたくらいなのに――」
「意味がないから」
私は魔理沙の言葉を遮るように言った。
「……なんだって?」
まるで馬鹿を見るような目で私を見る魔理沙。
そうだ。
こいつはいつもこうやって、私のことをバカにしていた。
「意味がないって、どういうことだよ」
「その通りの意味よ。私とあなたが勝負をする意味がないってこと」
「おいおい。お前、何を訳の分からんことを言ってるんだ?」
私ははあ、と溜め息をつく。
こんなことも理解できない馬鹿のくせに、よくも今まで、私のことを馬鹿馬鹿と言えたものだ。
……まあいい。
今更、過去の事を蒸し返しても無益だ。
適当に言いくるめて、さっさとご退場願おう。
「……つまりこういうことよ。私じゃあなたには勝てない。だから勝負をする意味がない。分かる?」
「…………」
努めて分かりやすい言葉で説明してやったつもりだったが、目の前の人間は、眉根に一層皺を寄せただけだった。
やれやれ。
レベルの低い相手と会話をすることが、こんなに労力を費やすものだったとは。
私は再び――今度はやや大袈裟に――溜め息をついてから、話し始めた。
「……いい? 幻想郷におけるスペルカードルールは、そもそも万人が対等な条件の下で戦えるようにすることを目的として作られたものじゃないのよ」
「スペルカードルールが作られた目的は、強大な力を持った妖怪に、力を適度に発散させるための機会を与えることにあった。そうしなければ、力を抑制し続けることを強いられた妖怪が、いつその力を暴発させるか分からなかったから。もしそんなことが起こったら、一挙に幻想郷全土のバランスを狂わす事態になりかねない。そんな事態を未然に防ぐために、お遊び感覚で妖怪達がストレスを解消することのできる道具として作られたのが、スペルカードルール」
「そしてこのスペルカードルールは妖怪達にも広く受け入れられ、その結果として、対象を妖怪だけに限定せず、広く幻想郷における紛争解決の手段としてもこのルールを適用することになった。だから私達は、争いごとや揉めごとが起こったら、力任せに解決をしようとはせず、このルールに乗っ取って決着をつけることにした。それが一番平等であり公平だと、誰も疑いを差し挟まなかったから」
「でもこのルールには制度的矛盾が内包されていた。まずこのルールが広く紛争解決の手段として作用するには、ルール自体が平等・公平な内容を持っていることはもちろん、かつそれが紛争当事者間に平等に適用されなければならない。もっともこの点に関しては、現状特に問題は無い。ルール自体と、それの適用についての平等性に関しては。でもこれはあくまで前提。本質的に重要なのは、このルールを適用された双方の当事者が、果たして本当に対等な条件で戦うことができるのか、ということよ」
「この幻想郷においては、力の強弱が、種族や個体によって相当程度異なっている。にもかかわらず、そのような事実上の差異を捨象し、全ての者を『平等』なルールにおいて処断するというのは、結局、個々の能力差がそのまま勝負の結果に反映されるということを許容することに他ならない」
「つまりこの点において、スペルカードルールは明らかに欠陥を有している。それは、対等な条件下で紛争を解決せしめようという、スペルカードルールを紛争解決の手段として採用した趣旨と真っ向から対立する制度的矛盾。要するに、いくら平等なルールを平等に適用しても、肝心の相対立する双当事者が対等な条件を与えられなければ意味がない。格闘技でいえば、体重差が50㌔以上あるような選手同士を、同じリングで戦わせるようなもの。そんなの、いくらルールが平等に適用されたって、勝負の結果は目に見えてる。それを『対等な勝負』なんていう建前で覆い隠すのは欺瞞でしかない」
「このような矛盾が生じたのは、そもそもスペルカードルールを使っての紛争解決、なんてのが後付けの理屈に過ぎず、本当の目的はさっき言った妖怪の力の発散にあるからよ。それなのに、それとは別の目的を立ててルールを運用しようとしたから、このような矛盾が生まれた」
「それでもこの矛盾点が大きく取り沙汰されないのは、それによって不利益を被るのは結局、私達妖精のような力の弱い存在に限られているため」
「力のある者にしてみれば何の不都合もなく戦えるわけだし、それで勝ったり負けたりが楽しめるのなら言うことはないわよね」
「結局は強者の論理。強い者が、強い者のために作ったルール。それを弱い者に対しても『平等』の名の下に適用しようとした結果、齟齬が生じた。でもそれはあくまで付随的なものであって、制度を根幹から揺るがすような矛盾には至らない。せいぜい、弾幕勝負になかなか勝てない妖精達が不満を愚痴る程度で終わる。そんなもの、幻想郷全体の力のバランスを維持するという、スペルカードルール本来の目的に比べれば、問題視する必要すらない、微々たる瑕疵でしかない。ゆえにこの制度的矛盾は黙殺される」
「あとはこれを私とあなたの関係にあてはめてみれば、私達が戦う意味がない、ということが理解できるはず」
「私とあなたでは、誰の目にも明らかな力の差がある。あなたは人間でありながら、そこいらの妖怪にも引けを取らないくらいに魔法を使いこなすことができている。他方、私は所詮ただの妖精。確かに妖精の中ではまだ力が強い方だけど、それでも幻想郷全体のヒエラルキーにおいては下の下に位置する矮小な存在」
「さらに別の喩えを使えば、私はジャンケンにおいて、最初からパーを出すことが封じられているようなもの。ルール上は出せることになっているけど、私の力ではどう頑張ったって出せない。だからあなたは私と勝負をしたければ、とりあえずグーを出しておけばいい。それで少なくとも、あなたが私に負けることは無いのだから」
「でも果たしてそれが、『対等な勝負』といえるのかしらね?」
「……以上よ。ご理解して頂けたかしら」
「…………」
魔理沙は、ぽかーんと口を開けている。
馬鹿丸出しとはこのことだ。
「あー……」
そしてボリボリと頭を掻きつつ、
「……わかったよ。今日はもう、帰るわ」
意外にも、あっさりと引き下がった。
適当にでっち上げたなんちゃって論理だったが、馬鹿には有効だったらしい。
しかし、箒に跨ったまま空中で方向を転換したところで、
「……ホント言うとな。今日はパチュリーに頼まれてここに来たんだ」
予想だにしなかった一言を放った。
「……パチュリーに?」
「ああ。あいつ、お前のこと心配してたぜ。紅魔館を去る時、とても落ち込んでいたからって」
パチュリーの前では、なるべく普通にしていたつもりだったのだが、そこまで見抜かれていたとは知らなかった。
「私は、そんなに心配なら様子を見に行ってやったらどうかと言ったんだが、あいつはどうもそういうのが苦手みたいでな。そこで私が、こうして代わりに馳せ参じたというわけだ」
「……それで何で、弾幕勝負になったのよ?」
「あー? ここは幻想郷だ。互いの手と技を出し合えば、相手が何考えてるかくらい分かるってもんだ」
「…………」
非論理的にも程がある。
たった今、適当な論理誘導でこいつを黙らせた私が言えることではないけど。
「でも、まあ、なんだ」
「…………」
「……パチュリーには、元気にしてたって伝えとくよ」
「…………」
「邪魔して、悪かったな。……それじゃ」
そう言うと、魔理沙はあっという間に私の視界から消え去った。
「……ふん」
馬鹿馬鹿しい。
実に、時間の無駄だった。
私は家に戻ると、またベッドに横になった。
それにしても、あのパチュリーが私の心配をしていたとは。
てっきり私になんて、何の関心も持っていないものとばかり思っていたのに。
だがまあそれも、結局はどうでもいいことだ。
他人に心配されたところで、それが私の快楽につながるわけではない。
――それからまた何日かが過ぎた。
魔理沙が来た日を最後に、誰とも会わない日々が続いている。
まあ別に会いたい相手もいないし、また今の私に会いたがる物好きもいないだろう。
いよいよもって、この生を終わらせるべき時が来ているのかもしれない。
もうこれ以上生きていても、何の楽しみもない。
楽しみを持てない妖精なんて、死んでいるのと同じ、いや、もう既に私は死んでいるのかもしれない。
紅魔館を去ったあの日に、私は死んだのかもしれない。
だとしたら、さしずめ今の私は亡霊のようなものだろうか。
とっくに死んでいるくせに、未練がましく生に縛り付いている醜い存在。
それが亡霊の定義だとしたら、まさしく今の私がそれにあてはまる。
もうこれ以上、快楽を得ることなんてできないと分かっているのに。
それなのに、またあの楽しい日々が始まるのではないかと、心のどこかで期待をしている。
理性はそれを否定するのに、私の妖精としての本能は、今なおそれを希求している。
畜生。
やっぱり私は妖精だ。
快楽のみを追い求める、本能に忠実な下等な生物。
しかし仮に、快楽を得ずとも生きていけるのだとしたら、それはそもそも妖精の定義から外れる。
だとしたら、私は妖精ですらなくなる。
そうなったら、ますます自分の輪郭がぼやけてしまう。
自分を既存の枠組にカテゴライズできないということ程、恐ろしいものはない。
自分の持つ異質性を、他者との相対性によってではなく、絶対性を持って正当化しなければならないからだ。
だから私は、本当は安堵すべきなのかもしれない。
自分がまだ妖精でいられることに。
たとえ妖精としては、既に死んだ存在であったとしても。
……だがそもそも、何で私は、こんな状況に置かれているのだろうか?
そんな根本的な疑問が、ふと脳裏をよぎった。
もっとも、その答えなら明白だ。
八意永琳。
あの女が、私に薬を投与した結果、私の知能は増進し、今の状態になったのだ。
そうだ。
あの日、あの瞬間から、私の人生の歯車は狂い始めたのだ。
あんなことさえなければ、こんな苦しい思いはせずに済んだのに。
馬鹿で暢気な妖精のまま、一生を終えることができたのに。
そう思うと、今更ながら、無性に憎悪の念が湧いてきた。
……大体何であの女は、私にあんな薬を飲ませたのか?
当時は抱きすらしなかった疑問だが、今ならその答えまでもが容易に分かる。
要は、自分の研究の一環――つまり、実験――ということだろう。
結局彼女にとって、私は体のいいモルモットだったというわけだ。
馬鹿だから何の疑心も持たず、リスクも顧みず、言われるがままに協力する。
科学者からすれば、これ程都合のいい被験者はそうはいまい。
……畜生。
ギリ、と下唇を噛む。
この日私は、生まれて初めて――殺意を抱いた。
……殺してやりたい。
こんな気持ち、今まで抱いたことがなかった。
妖精にはおよそ似つかわしくない、負の感情。
だが、一度抱いた殺意を消すことは容易ではない。
あれから何度も何度も、私は頭の中で永琳を殺した。
しかし何回殺しても、私の中の殺意は消えない。
当然だ。
妄想で満足できるような殺意なら、それはそもそも殺意ではない。
対象を現実に殺害することによってのみ、満足を得られる感情。
それが本物の殺意だ。
しかし、私にそれを叶える術はない。
当然だ。
霧雨魔理沙にすら勝てない私が、幻想郷最強の一人に数えられる八意永琳を殺すことなど、できるはずがない。
殺したいのに殺せない。
すなわちそれは、私に殺意を消す手段がないということを意味する。
殺意の主体たる、私自身が絶命するという選択肢を除いては。
さて、これはもう流石に潮時だろう。
生きる糧である快楽は失われ、その代わりに得たものは、永久に満たされることのない殺意。
結局これが、身の丈に合わない知能を得た妖精の末路か。
これは悲劇か、あるいは喜劇か。
まあ、どちらでもいい。
後世の人がどう評価しようが、私が惨めな結末を演じることに変わりはないのだから。
私は重い腰を上げた。
一歩一歩踏みしめるように、外へ出る。
空は曇り。
気候は暑くもなければ寒くもない。
死ぬには良い日だ。
少し遠くに目をやると、何匹かの妖精がじゃれあっているのが見えた。
いつか見た光景に、とてもよく似ている。
でももうそこに、私はいない。
ああ、願わくば。
来世ではまた、あんな風に。
たとえ、今の記憶を失おうとも。
また、あの楽しい日々に戻れるのなら――。
……ん?
なんだろう。
何かが引っ掛かった。
楽しそうな妖精達。
もうそこには戻れない自分。
……戻れ……ない?
「……あ……」
――思い出した。
いや、何で今まで忘れていたのだろう。
最初から、知っていたはずの選択肢。
それは、私に生きる糧を与えるものであると同時に、私の中の殺意を消すための手段でもあった。
……やっぱり私は、馬鹿だった。
意を決して、一気に飛び立つ。
私にはまだ、やるべきことが残っていた。
死ぬのは、その後でいい。
一時間後。
私は、永遠亭にやって来た。
そう。
全ての、始まりの場所に。
「あら。久しぶりね」
八意永琳――私が今、最も殺してやりたい女――は、実に涼しい顔で私を出迎えた。
「何か、御用かしら?」
平然と尋ねてくる永琳に対し、
「白々しいわね」
私は吐き捨てるように答える。
「…………」
「…………」
暫し無言のまま、互いの視線を交錯させる。
先にその沈黙を破ったのは、永琳だった。
「……予想以上に、早かったわね」
「それだけ優秀だったってことね。……あなたが」
私が皮肉を込めて返すと、永琳はくっくっと笑った。
つくづく思う。
嫌な女だ、と。
「……まあでも折角だし、聞かせてもらおうかしら。あなたが、ここに来た理由」
「わかってるくせに」
「確かめたいのよ。自分の目で」
そう言って、にっこりと微笑む永琳。
私は一瞬だけ彼女から視線を外すと、また大きな溜め息をついた。
まあいい。
溜め息とも、今日限りでさよならだ。
ならば今更、出し惜しみしなくてもいいだろう。
私は再び、永琳を真正面から見据えると、ゆっくりと口を開いた。
「……永琳。あなたが私にあの薬を投与したのは、自分自身の薬学研究の一環、つまりは実験のためだった。そうね?」
「…………」
永琳の沈黙を肯定の返事と受け取り、更に私は続ける。
「どんなに完璧な理論でも、実験において実証されなければ意味がない。知能を増進させる薬。あなたはそれの開発の過程で、どうしても実験をして薬の効能を試す必要があった。自分の理論を実証するために」
「しかし、一つの問題があなたを悩ませた。それは被験者の選択」
「一般的には動物実験が相場なんでしょうけど、幸いここは幻想郷。動物以外にも、多くの雑多な種族が共存している」
「そこであなたは考えた。どうせ実験をするなら、少しでも元の知能が高い生物の方がいい。将来、人間、あるいは妖怪に薬を投与する可能性があるとすれば、当然そう考える」
「しかし、だからといって、実際に人間や妖怪を被験者に選ぶわけにはいかなかった。たとえば人間。実験が失敗した場合は言わずもがな、仮に成功した場合でも、『人間を薬の実験台にした』なんて事実が公になれば、あなたは確実に幻想郷における今の地位を追われる。博麗の巫女は勿論のこと、八雲紫、あるいは上白沢慧音あたりが黙ってはいないはず」
「そしてそれは妖怪の場合でも同じ。大抵の妖怪は何らかの同族集団に属している。その中の一匹に手を出したなんて知れたら、あなたは間違いなく報復に遭う。そしてそれは、幻想郷全体の力の均衡を崩すことにもつながりかねない。結果、やはりあなたはここには居られなくなる」
「もちろんいずれの場合であれ、事実を完全に隠蔽することができれば問題は生じない。しかしあなたは考えた。そんな工作をせずとも、つまり堂々と実験台にしても自分の地位に影響が生じない存在がいるのではないか、と」
「そこで行き着いたのが、妖精。放っておいても勝手に湧いて出てくるような妖精なら、一匹や二匹を実験台にしたところで、人妖双方、ひいては幻想郷全体にとっても何の影響もない」
「強いて言うなら、仲間を実験台にされた妖精達が、多少はざわついたりする程度の影響はあるかもしれないが、それも所詮は妖精。元々の知能が低い上、そもそもの個体意識が強くない。なんとなく集団でまとまっていれば、そしてそこに自分が帰属してさえいれば、それでいい。元々そういう種族だから、仲間の一匹や二匹がおかしくなろうがどうなろうが、さして気にも留めないし、留めたところですぐに忘れる。仮に死んだって、そのうち再生するしね」
「だからあなたは妖精を被験者に選んだ。人間や妖怪に比べれば知能は劣るが、それでも動物よりは高い。何より、如何なる点においても幻想郷に影響をもたらさない。それはつまり、実験の結果如何にかかわらず、自分の立場が脅かされるおそれがないということを意味する」
「更にもう一点。そうは言っても、たとえば実験が成功し、知能が飛躍的に高くなった妖精の存在が幻想郷全土において広く知られた場合、あなたの立場に事実上の影響が生じる可能性はあった」
「たとえば風評。『妖精の次は、人間か』なんて噂が囁かれ始めたら、背ひれ尾ひれがくっついて……なんてこともあるかもしれない」
「まあでもその程度のことなら、薬を飲ませた妖精をこの館にでも閉じ込めておけば済む話。しかしあなたにとっては、結局それすら必要のないことだった」
「……なぜなら、そうなる前に、こうなることがわかっていたから」
「薬を飲み、高い知能を得た妖精は、やがては壁に突き当たる。それは、快楽への枯渇。求めても求めても得られぬ快楽に精神を病んだ妖精は、やがて自分をそんな状況に置いた張本人であるあなたに対して憎悪の念を抱き始める。そしてそれは直に殺意にまで昇華するが、決してそれが満足を得ることはない。妖精ごときにあなたは殺せないし、妖精自身もそのことはよく認識しているから」
「ゆえに妖精は苦悩する。得られぬ快楽。果たせぬ殺意。葛藤の果てに妖精は一つの選択肢を思い出し、再びここ、永遠亭へとやって来る」
「すべてを……ゼロにするために」
私は回顧する。
そう遠くもないはずなのに、もう随分と昔のことのような気のする、あの日の言葉を。
『――もし気に入らなければ、いつでももとにもどせるわ』
それは、知能の低い妖精に対し、得体の知れない薬を飲むことに対する危惧感を払拭させるには、十分だった。
「……もっとも、あなたのあの発言の真意は、いずれ知能が増進するであろう妖精に対し、予め最後の選択肢を教示しておく点にあった」
「あなたは、実験が成功し、私の知能が増進した場合に、その事実を幻想郷全土に知られるよりも早く、私がここに戻って来ると確信していた」
「だからあなたは、薬を投与した後、私を監視する必要もなければ監禁する必要もなかった。この実験が広く知られるよりも早く、私はあなたの所へ戻ってくるのだから。そしてそこで実験のデータを採り、私の知能を元に戻せば、それで全てが丸く収まる」
「つまり、幻想郷における自分の立場や、他の勢力には一切の影響を生じさせず、合理的に薬の効果を実証する実験だけを行う……それが、あなたが私に薬を投与した目的」
「…………」
私が話し終えても、永琳は無言のままだった。
その表情からは、いつしか微笑が消えていた。
だが、すぐに従前の笑みを取り戻すと、パチパチパチ、と拍手をし始めた。
「……素晴らしいわ。チルノ。100点満点よ」
その余裕に満ちた表情が憎たらしくて、私は反射的に悪態をつきたくなった。
「……自画自賛ね。要は、自分の作った薬の効能を称えているだけだもの」
「あらあら。いっちょまえに、皮肉まで言うようになったのね」
「……お陰様で」
ふてくされたように言ってやった。
しかし当然のことながら、永琳はそんな私の態度など、微塵も意に介さない。
「あ、そうそう。一つだけ断っておくけど、あなたを選んだのは只の偶然よ。てゐに、『適当な妖精を一匹捕まえてきて』って頼んだら、偶々あなたを連れてきたっていうだけ」
「……別にどうでもいいわ、そんなこと」
「そう? あとそれから、ちゃんと元に戻れるのかってことだけど。そこは心配しなくていいわ。……ウドンゲ」
永琳に合図に応じて、耳の長い兎――鈴仙・優曇華院・イナバ――が薬状の物体を持って来た。
初めてここに来た日の光景が脳内で重なる。
私は鈴仙から薬を受け取ると、無言でそれを眺めた。
最初に飲んだ薬と、とてもよく似ている。
「見た目は同じだけど、効果は正反対。つまり、最初の薬によって増進した知能を、また元の状態に戻す」
「……でもこの薬については、まだ実験してないんでしょ?」
「問題ないわ。最初の薬と成分は殆ど同じだから。あなたの実験の結果を援用すれば、効果は十分立証できるわ」
「……ま、それならいいわ」
私は薬をスカートのポケットに入れた。
「今、飲まないの?」
「誰が、あんたの前で」
「あらあら。反抗期かしら」
……。
ホントに殺してやりたいわ。
「……それじゃ、私はこれで」
そう言って、永琳に背を向ける。
もうこれ以上、この女の顔を見ていたくはない。
しかし、そんな私の最後の望みすら、永琳は許してはくれなかった。
「チルノ」
「……何よ」
「何もかも、あなたに言い当てられたままだと悔しいから……」
「?」
「最後に一つだけ、私にも反撃をさせて頂戴」
「反撃?」
「明日の午後三時、またここにいらっしゃい」
「……は?」
「美味しいおやつを用意して、待ってるから」
「――――!」
「聞こえたわね?」
この、女……。
「……あんた、やっぱり殺してやりたいわ」
顔だけ振り返り、精一杯の反抗を示す。
しかしそれも、永琳を一層喜ばせるだけに終わったらしく、満面の笑みを向けられた。
「ええ、いつでもどうぞ」
……駄目だ。
これ以上、こいつに抗っても、勝ち目が無い。
私はもう一度前を向くと、今度こそ振り返ることなく歩を進めた。
――実のところ、口ではああ言ったものの、私の永琳に対する殺意は、もう既に失せていた。
私を実験台にしたことに対する恨みが完全に消え失せたわけではないが、どうせそれもすぐになくなるのだと思うと、段々とどうでもよくなった。
というか、あの女に真っ向から殺意を向けるということ自体、甚だ無意味であると、身に染みて分かったのだ。
要するに、分相応、ということだ。
妖精には、妖精に見合った力がある。
妖精には、妖精に見合った知能がある。
妖精には、妖精に見合った生き方がある。
妖精が妖精として生を受けたからには、妖精として生きていくことしかできない。
それが自然の理というものだ。
だから、それに抗ってみたところで、意味などないのだ。
永遠亭を出て、一直線に飛び立つ。
あそこにいたら、色んなことを思い出した。
薬を飲んですぐの頃。
永琳に勉強を教えてもらった日々。
最初は平仮名もロクに書けなかったんだっけ。
何もかもが懐かしい。
やがて住処の湖が見えた。
同時に、西洋風の館が目に入る。
一ヶ月ほどの間、お世話になったあの図書館。
また今度、パチュリーに会いに行ってみようかな。
色々と、心配させてしまったようだし。
そして見慣れた、我が住まいのカマクラ。
私は地面に降りると、ついさっき、ここを出た時とは正反対の軽い足取りで、中へ入った。
勢いそのままに、どさっとベッドに倒れ込む。
そしてスカートのポケットから取り出すは、一錠の薬。
「……これで、お別れか」
なんとなく独り言を呟いてみる。
そう。
これで、この高い知能とも、莫大な知識ともお別れだ。
でも、それでいい。
妖精である私には、どっちも必要のないもの。
妖精である私に、必要なものはただ一つ。
それは、くだらない悪戯をするだけで、毎日を楽しく過ごすことのできる暢気さだ。
妖精である以上、快楽を得ずしては生きられないというのなら、快楽を得る手段を確保すればいいだけの話だ。
たとえそれと引換えに、失うものがあろうとも。
私はまだ、妖精として生きていたい。
過去の私、今の私の延長線上で生きていきたい。
自然に還って再生を待つという手もあるが、それでは今までの記憶が失われる可能性が高い。
それじゃ駄目なんだ。
過去の私と今の私。
その先にいる私こそが、私なんだ。
目を閉じて、もう一度だけ思い出す。
あの日の夕焼け。
綺麗に映えた緑の髪。
今でもまだ、私はちゃんと覚えている。
そしてそれは、明日になっても、忘れるはずがないのだ。
だから帰ろう。
もう一度、あの日に。
私は決意を込めて、手にした薬を口の中に放り込んだ。
迷うことなく、一思いに飲み込む。
――あ。水を用意してなかった。
慌てて冷気を操り、口内に水を張り、一気に流し込む。
うん、ちゃんと飲み込めたみたい。
「―――ッ!?」
途端、頭に激しい衝撃が走る。
うわ、凄い。
なんていうのだろう、脳が揺れてるような感じだ。
最初の薬は、飲んですぐには変化がなかったけど、今回は違う。
頭の中がどんどん、すっきりしていくような、そんな感じ。
ああ、なくなっていく。
この一ヶ月余りで得た、数々の知識達。
でも、思い出を忘れるわけではない。
私はそう、信じている。
あ、でも。
今からどれくらい後かわからないけど、ごく近い未来の私。
どうか、どうか。
あの憎き永琳の、最後のあの一言だけは、余分な知識達と一緒に、忘れて――――。
…………。
……薬を飲んでから、一時間くらいが経った。
どうやらあたいの知能は、もうほとんど元の状態に戻ったようだ。
まだ、完全に元通りではないけど、そのうち、元に戻るだろう。
そうだ。
今のうちに、これからやることを思い出しておこう。
放っておくと、このまま忘れちゃうかもしれないし。
えーと。
まずは……。
そうだ。大ちゃんだ。
前は、ずいぶん冷たくしちゃったから、明日ちゃんと仲直りをしよう。
頭が良くなったあたいは、心の中でだけど、大ちゃんのことを見下したりした。
今思うと、本当にわるいことをしたと思う。
だから、正直にあやまろう。
きっと、ゆるしてくれるはず。
それから、えーっと。
そうそう、まりさだ。
まりさとは、この前、だんまくごっこを断っちゃったきり、会ってなかった。
あれ?
でもなんであたい、だんまくごっこを断わったんだっけ?
うーん。
いまいちよく思い出せないなあ。
なんか「あたいじゃまりさには勝てないから」とかなんとか言ったような気がする。
でもそれってヘンよね。
どっちが勝つかなんて、じっさいにしょうぶしてみなくちゃわからないじゃないの。
薬を飲んでアタマが良くなってたはずなのに、そんなことを言ってたなんて、あたいはかえってバカになってたんじゃないかしら?
だとしたらえーりんはヤブいしゃだわ。
アタマを良くするって言っておいて、逆にバカになってたんだから。
よーし。
しかえしに、えーりんはヤブいしゃだってみんなに言いふらしてやろーっと。
ふふっ。
それからまりさとも、こんどあらためてだんまくごっこでしょうぶしなきゃ。
あたいがサイキョーだってこと、思いしらせてやるんだから!
それから……。
あ。
おもいだした。
パチュリーだ。
あたいがこうまかんに行ってる間、毎日会ってたむらさき色のようかい。
でもあたいは本をよんでばっかりで、あんまりお話しなかったのよね。
だからあたいは、まだパチュリーのことはよくしらない。
だから、もっと仲良しになるために、またこんど会いに行こうっと。
あ、そうだ。
その時ついでに、あのもんばんにも、またイタズラしちゃおうっと。
ふふ、たのしみ、たのしみ。
えーっと。
もうこれでぜんぶかな?
まだなんかあったような……。
あ! そうだ!
えーりんが、明日、おやつをよういしてるって言ってたわ!
あぶないあぶない、いちばんかんじんなことをわすれるとこだったわ。
ふっふっふ。ゆだんしたわね、えーりん。
どうせ、あたいがまたもとにもどったら、アタマがよくなってたあいだのこと、ぜんぶわすれちゃうとおもって、いいかげんなことを言ったんでしょう。
ざんねんだったわね。
あたいは、ちゃんとおぼえているわよ。
やくそくどおり、しっかりごちそうしてもらうんだから。
かくごして、まってなさい。
……ああ、なんだかねむくなってきちゃった。
明日にそなえて、今日はもうねようっと。
あたいはチルノ。こうりのようせい。
あたいは今、すごくしあわせ。
おわり
同じ方だったんですね
前作に比べ、大幅に完成度が上がっていて、面白く読めました
何かほかの作品の要素を取り入れるならそれを気付かせないように心掛けることも大切だと思います。
チルノの心理変化がよく書けていたので読みやすかったです。
ひらがな→漢字→ひらがな、などの配慮も好感を持てました。
偉そうなコメで申し訳ありませんでした。
ただ、結構誤字があった気がするので-10点で。
これ以外にもありますが学のあるところを見せようとするとちょくちょく穴が開いてます。
果たして発想を知識で塗りつぶすのは頭が良くなると言えるかどうか。
主にご意見について、いくつかレスをさせて頂きます。
>『アルジャーノンに花束を』
仰るとおりで、この話の大元のモチーフは同作品です。
全体的な構成などはかなり似せてあるので、ご意見はもっともだと思います。
その点につき、主に同作品をよくご存知の方に対して、配慮が足りなかったかもしれません。
>誤字
申し訳ないです。
見直しましたが、誤字を発見できませんでした。
大変恐縮なのですが、もしよければ、具体的な箇所を摘示してもらえないでしょうか。
>放物線を描くような速度
自分としては、正方向に伸びる二次関数のグラフをイメージした表現だったのですが(一応この場合も『放物線』というので)、確かに分かりづらかったかもしれません。
また、他の点についてもちょくちょく穴があるとのこと、少しでもチルノの知能の高さを表現しようとして、無理が出たのかもしれません。
精進致します。
それでは改めて、読んでくださった全ての方に、感謝の意を捧げたいと思います。
本当に、どうもありがとうございました。
考えると妖精として分相応な生き方なんてのは個人としては受け入れ難い価値観です。
冒頭でチルノは思慮を巡らせたとは言えませんがそれでも
自分の知能、能力の向上を欲求しました。
それは愚かだったのでしょうか?
SSとしての完成度は高いのでこの点数で。
元に戻る(かも知れない)薬を確保した上で、知識を得た結果辿り着いた「えーりんの人体実験の実態」を書き残してけーねに託すなり、文にリークするなりでその危険性に警鐘を鳴らした上で本来の生活に…なんてどうかなと妄想しました。
でもそれすらも結局はえーりんの想定の内になったかもしれませんが…
すばらしい作品をありがとうございます。