この作品は、作品集72「人形遣いと地獄鴉」と作品集74「人形遣いと地獄鴉と火車」の続きとなっております。
宜しければ先にそちらをお読みください。
午後1時 魔法の森
「ふぅ…………」
アリスは昼食とその後片付けを終え、紅茶を啜っていた。
「今日も良い天気ね~」
そして外を見ながらそう呟く。
「こんなに良い天気だと、少し外に出てみたくもなるわね…………」
普段は家で人形を作っているアリスだが、偶(たま)に外出することだってある。
そして、雲も少なく、青空が空の大半を占めるこの空を見ると、どうにも家に居るのが勿体なく感じてしまう。
「………よし、備品の補充も兼ねて、人の里にでも行ってみましょうか」
誰にともなくそう呟いて、アリスは出かける準備をする。
「戸締り良し。さ、行きましょうかしらね」
家の戸締りを確認した後、何体かの人形を連れてアリスは空へと飛ぼうとする。
そこへ
「アリスーーー!!!」
聞き覚えのある声が響いて来た。
「この声は…………」
アリスは声の方を見る。
「見つけた!!」
そう叫びながらアリスの前で停止したのは、最近、アリスの家に二度ほど厄介になった霊烏路空だった。
「空じゃない、どうしたの?」
アリスが驚いたように尋ねる。
「えっとね!さとり様が地霊殿に来いって!」
「貴女のご主人様が?何で?」
アリスも一応、地下の異変の時に人形越しにではあるが、空の主、古明地さとりの事は知っている。
「えっとね!えっとね!……………あれ?」
どうやらここに来るまでに頭から抜け落ちてしまったようだ。
「兎も角、来て!!」
言うが早いか、空はアリスの手を取るとそのまま飛び始めた。
「ちょっ!?ま、待ちなさい!!」
そんなアリスの制止の言葉も耳に入らずに。
地霊殿
「さとり様~!!連れて来たよ~!!」
後ろで疲れきっているアリスを余所(よそ)に、空はさとりを呼ぶ。
空のスピードはアリスには結構速かったようで、振り落とされまいとしっかり掴まっていたので結構疲れたのだ。
そして、疲れている理由はもう一つ。
「御苦労さま、空。そして、地霊殿にようこそ。こうして顔を合わせるのは初めてですね、アリスさん…………………どうかしましたか?って、あら?」
疲れきっているアリスの様子を見て何事かと思ったさとりだったが、その時異変に気づく。
「あ、あんたねぇ…………ペットの躾(しつけ)、もうちょっとしっかりしなさいよ」
肩で息をしながらアリスは言う。
「それは失礼をしました……………しかし、どう言う事でしょう………」
「ふぅ……………私の思考が読めない事?」
一息吐(つ)いてアリスは尋ねる。
「はい。おかしいですね………貴女は確かにここに居る。なのに、貴女の心が読めません」
そう、さとりの感じた異変とは、さとりの心を読む能力が発動していないのだ。
いや、正確には発動はしている。
現に、空の心の声は聞こえる。
アリスだけ聞こえないのだ。
「魔法にだって相手の思考を読む物があるのよ。そりゃそうよね。相手の知ってる事を手っ取り早く知るには心覗くのが一番手っ取り早いもの」
アリスは言う。
「ま、禁術の一つだけど。けどまぁ、そう言った魔法があれば、当然対抗する魔法もある」
「つまり、貴女はその心を読む魔法に対するカウンター魔法を使用している訳ですね?」
「そう言う事。効果があるようで良かったわ。貴女には悪いけど、流石に心を読まれるのは良い気分じゃないもの」
アリスが疲れているもう一つの理由が、この魔法を必死に掴まりながら詠唱し、使用したからだ。
「解っています。それ故に私はここに居る訳ですから」
誰だって心を読まれるなんてされたくないに決まっている。
故に、心を読めるさとりは人妖を問わず、あらゆる者に嫌われていた。
普通では意思疎通の出来ない動物たちを除いて。
「さて、それは兎も角、何の用かしら?」
アリスが尋ねると、さとりは意外そうな顔をして
「……………空?」
空の方を見た。
さとり自身は空にちゃんと用件は伝えたのだ。
それをアリスが知らないと言う事は、空が伝えて無いと言う事だ。
「………うにゅ?」
が、さとりに見られても空は「何?」とばかりに首を捻るだけだった。
そして、空の心の中に既にさとりの用件の事が抜け落ちて居る事を知る。
「………………」
思わず無言で頭を抑えるさとり。
「さっすが鳥頭。期待を裏切らないねぇ」
燐も出て来てそう言った。
「やはり貴女も連れていくべきでしたね」
「そう言ったじゃないですか、さとり様」
手を広げて、やれやれと首を振りながら言う燐。
「予想通りの行動を取ってくれて、後でからかいのネタになった、ですか。そう言う事を考えているなら私の前に出ない方が良いですよ、お燐」
「あにゃ!?」
自分の企みをさとりに見抜かれて慌てる燐。
「便利ねぇ」
「煩(わずら)わしいだけですよ」
アリスの言葉にそう返すさとり。
「さて、それでは改めて貴女を招待した理由を説明します」
「招待?それは純粋に歓迎されてると見て良いのかしら?」
地上で嫌われた妖怪達が住まうこの地下世界。
地上の者を「招待」するとは些(いささ)か考え辛い。
「はい、そう思って下さい。理由は以前に空とお燐が貴女に世話になったからです」
「あ~」
アリスは以前の事を思い出す。
恐らく、二人の口から語られなくても心を読んでそれを知ったのだろう。
「お礼をするのなら本来私の方が出向くのが筋なのでしょうが…………」
そこでさとりは言い淀(よど)む。
「解ってるわ。貴女にとって地上は辛いでしょう」
多くの者が様々な場所で生息する地上。
一定範囲内に居る、それらの心の声が否応(いやおう)なしにさとりに流れ込んでくる。
智慧(ちえ)を持った者の心にある「本音」など、大概が耳を塞ぎたくなるような淀んだものだろう。
それらが否応なしに流れ込んでくるなど、さとり自身にとっても不快極まりない。
「御理解して頂けて助かります」
「でね、前にあたい達がおねーさんにお世話になったから、今度はあたい達がおねーさんを持て成そうってなったのさぁ」
燐が横から出て来てそう言った。
「そうそう、それそれ!!」
漸(ようや)くさとりの言伝を思い出したのか、空も頭を縦に振りながらそう言う。
「否応なしに連れて来てしまったようで申し訳ありません。用事などが御有りならまたの機会でも構いませんが」
さとりがそう言う。
「まぁ、特に用事もなかったから構わないわ。折角だし、お言葉に甘えさせてもらうわ」
「それは良かった。空、お燐、アリスさんを客間に案内なさい」
さとりは空と燐に指示を出す。
「はい!」
「は~い!」
空と燐は返事をすると、アリスを客間へと案内した。
客間
客間に通されたアリスに紅茶と茶菓子が出される。
客間とは言うが、通された部屋はさほど大きく無く、アリス達が座ってるテーブルも4人用の小さな物だ。
「お燐から貴女の家で紅茶を出して貰ったとの事だったので、紅茶にしてみましたが………如何でしょう?」
さとりはアリスに尋ねる。
「ありがとう、頂くわ」
アリスはそう言うと紅茶に口を付ける。
「ん………美味しいわね、これ。って、地底でお茶っ葉なんて作れるの?」
アリスが唐突に気づいた事を尋ねる。
「いえ、太陽の光の届かないこの地に作物は育ちませんよ」
「じゃあ、どうやって?」
「地上の妖怪を地下都市に入れる事は許さなくても、地底の妖怪が地上に出てはいけないと言う条約はありませんから。忘れましたか?鬼の伊吹萃香がそうでしょう」
「ああ、そう言えば」
萃香も鬼であるから、元々はこの地下の住人だ。
が、最近では頻繁に地上に姿を現している。
地上の住人が地下に潜るのは許されなくても逆は制限が無いようだ。
「ですから、偶に地上に使いを出して物資の補給をしているのです」
「なるほど」
地底の妖怪も地上の者に嫌われているのを知っているからであろう、要を済ませたらさっさと地下へ戻ってしまうのだ。
故に地底の妖怪が発見される事は殆ど無い、もしくは、既に忘れ去られているので会っても気付かないのだろう。
「けどまぁ、大した事した訳じゃないから態々(わざわざ)持て成さなくても良いんだけどねぇ」
「余計な事でしたか?」
アリスの様子を伺うようにさとりが尋ねる。
「そうじゃないわ。ただ、大袈裟ねぇ……って思っただけ」
そこう言った所でふとアリスは気付く。
何か、さとりの様子が変だった。
「……………不安?」
「へ!?」
唐突に投げかけられた質問にさとりはビクッとなる。
「そう、そうなのね」
「あ、あの、何を…………?」
動揺しながら尋ねるさとり。
「さとり様!アリスはさとり様と同じ能力持ってるんだよ!!」
「そうそう!絶対そうだよ!!」
同席していた空と燐が言う。
「え!?そ、そうなんですか!?」
「んな訳無いじゃないの。その子達の戯言(たわごと)なんて気にしなくて良いわよ」
茶菓子であるクッキーをかじりながらアリスは返す。
「いえ、でも、その……………」
「貴女の考えてる事をズバリあてたから、かしら?」
「…………本当に私と同じ能力じゃないですよね?」
「そうじゃないわよ。単に、貴女の表情や取り巻く状況などから察しているだけ」
アリスはそう返す。
「そうですか………」
「不安なんでしょう?今までは人が考えてる事が解ったから、自分が何を言えばいいのか、どう動けばいいのかを簡単に選ぶことが出来たから」
人の考えてる事が解れば、そこから自分にとって最善の選択肢を訳もなく選択できる。
が、今のアリスからは心を読み取れない。
本来、相手の考えてる事なんて解らないのだから、相手の表情や雰囲気から様々な選択肢を用意し、そこから良いと思う選択をする。
それが普通のやり方だ。
が、その普通のやり方にさとりは余りに慣れていない。
能力にかまけていた、とも言えるが、否応なしに情報が耳に入って来るのだからしょうがないと言えばしょうがない。
「………ええ。恥ずかしい話、こうして相手の考えている事が解らなくなると、何を話せばいいのか、何をすれば良いのか…………」
「私達にとってはそれが普通なんだけどね。良いんじゃない?偶には自分で考えて言動を選択してみたら?」
アリスは紅茶を飲んでからそう言う。
「…………そうですね。しかし、何から話したものか…………」
流石に急にそう言われてもさとりも困る。
「さとり様!さとり様!」
そこへ空が声を掛ける。
「どうしたの?」
聞き返すさとり。
「おっぱいの大きくなる方法聞いたらどうですか!?」
「ぶっ!?」
突然の空の言葉にアリスが吹いた。
「あ、あんた突然何を…………」
口元をハンカチで拭(ぬぐ)いながら言うアリス。
「あ~………そう言えば、おねーさん結構大きかったよねぇ……少なくともさとり様より全然」
「わ、私は別に大きくないわよ!普通よ、普通!!」
顔を赤くしながらアリスは叫ぶ。
因みにアリスの大きさをアルファベットで表わすならCに近いBと言った所だ。
「…………………妬ましい」
アリスの胸を見ながら呟くさとり。
「へ?」
「いえ、なんでも」
一瞬、さとりから、らしくない発言が聞こえ、驚くアリス。
そこへ一匹の犬がアリスの近くへとやって来た。
「あら、犬。この犬も貴女のペット?」
アリスは話題を変える事も兼ねて尋ねてみた。
「はい。この地霊殿に居る動物は全て私のペットです」
「へぇ…………心を読むと言う能力は良くないかもしれないけど、こう言う動物たちと会話できるのは純粋に羨ましいわね」
アリスは笑顔でさとりに言う。
「そうですね。私も動物達と会話できる事だけは、この能力に感謝してます」
恐らくは、世界に居る動物が好きな者全てが欲する能力であろう。
「因(ちな)みに、この子なんて言ってるの?」
伸ばしたアリスの手をペロペロと舐める犬を見ながら尋ねるアリス。
「その子ですか?その子は………」
そう言ってさとりは犬を見て、そして
「アォォォォン!! オレサマ オマエヲ マルカジリ!! と言ってます」
「へ?」
思わずさとりの方を見て表情が固まるアリス。
「冗談です」
意地の悪い微笑みを浮かべながら言うさとり。
「あ、あんたねぇ…………」
アリスもホッとしてから、軽く睨んで言う。
「すみません。先程から貴女にペースを乱されていたので、少しお返ししてみたくなりました」
「別に乱そうと思った訳じゃないわよ」
「そうだとしても、です」
紅茶を啜りながらさとりは返す。
「ったく…………でも、意外ね。貴女にそんな茶目っ気があったなんて」
「………そうですね。自分でも少し驚いてます」
普段なら心が読めるので、こんな悪ふざけすら思いつかなかった。
そんな事よりも相手にとって、そして自分にとって最善の選択をしていたのだから。
何より、相手も自分の心を読まれる相手と長く会話をしようなどと思わない為、そんな茶目っ気を発揮する機会すらなかった。
「良いんじゃないかしら?偶にだったら」
「ふふ………そうですね。私は今、初めて人と話す事が「楽しい」と感じていますよ」
「それは良かったわ。だったら少し話しましょうか。私も聞きたい事とかあるし」
「ええ、そうしましょう」
そして、二人は暫くの間他愛もない雑談を楽しんだ。
因みに、空と燐の二人は主にお菓子を食べながら偶に雑談に口を挟んだりしていた。
午後5時
「あら?もうこんな時間」
アリスがふと気付くと、既に5時になっていた。
「あ、ごめんなさい。話に夢中で時間に気付きませんでした」
「別に良いわよ、楽しかったし」
「そう言っていただけると助かります。私もこう言う風に話すのは初めてで楽しかったです」
「そう、それは良かったわ」
アリスは微笑んでそう返す。
「良ければ、今日は泊まって行かれませんか?空達も泊めて頂いた事ですし」
「そうねぇ………今からここ出ても結構な時間になりそうだものね」
行きは比較的早く着いたが、それは道を知ってる空がかっ飛ばしたからだ。
案内が付いてもアリスが自分のペースで飛んだら家までかなりの時間が掛かる。
「そう思います。どうでしょう?」
「どうせだし、泊めて貰うわ」
「ええ、そうなさって下さい。それでは、夕食の準備をさせましょう」
そう言うと、さとりはパンパンッ!と手を叩く。
それで察したのか、ペット達が数匹動いた。
「あら?ペット達でも出来るの?」
「はい。空達の様に人間体になれる者も居るので、その者達に作らせています」
「成程」
空や燐だけが人間体になってる訳では無い。
それはアリスとて地上で様々な妖怪を見ているから良く知っている。
「じゃあじゃあ、ご飯出来るまでトランプしよう!!」
空はそう言うと、テーブルにトランプを出した。
「貴女、それどうしたの?」
以前来た時に確かにアリスは空と燐にトランプを教えたが、あげてはいない。
「前に霊夢の所に行ったらあったから貰った!」
「大丈夫。ちゃんと霊夢の許可貰ってるよ」
空の後に燐が盗んだのではない、と付け足す。
「とらんぷ?」
さとりが頭に「?」を浮かべる。
「まぁ、知らないわよね」
地上の、しかも外の世界の遊戯だ。
地底に居るさとりが知っている筈もない。
「じゃあ、簡単なババ抜きからにしましょう」
「私も混ぜて~」
「はいはい、別に仲間外れになんかしないわよ」
背後から聞こえて来た声にアリスはそう返す。
そして、ふと気付く。
「ん?」
アリスの正面にはさとり。
右に空で左に燐。
では、今の背後の声は?
「こいし。貴女いつの間に…………」
アリスの背後に居る人物を見てさとりが驚いたように声を上げる。
「ただいま~。上でおくう見かけたから追っかけて来ちゃった。寄り道してて遅くなったけど」
アリスが振り返ると、そこに居たのはいつぞやの山で遭遇したさとりの妹、古明地こいしだった。
「貴女は確かさとりさんの妹の………」
「お姉ちゃん、これ誰?新しいペット?」
こいしがアリスを見ながら尋ねる。
「こいし!失礼な事言わないの!そちらはアリスさん。お客様よ」
「へ~、珍しいね~」
さとりの叱りも大して利いてないようだ。
「こいしさん、よね?」
「あれ?私の事知ってるの?」
「覚えてないかしら?妖怪の山で黒白の魔法使いとその側に居た人形の事」
「ああ、あの時の人形遣いのシーフ…………あれ?でも黒くも白くもないね」
当時の事を思い出しながらこいしが言う。
「あの時の私は人形を遠隔操作してたからあの場に居なかったもの。実際に顔を合わせるのはこれが初めてよ」
「成程」
こいしも納得したようだった。
「で、何しようとしてたの?」
そして改めて尋ねて来た。
「とらんぷと言う物らしいわ。私も詳しくは知らないのだけど」
「私が教えてあげますね!」
空が言う。
「おくう、ちゃんと覚えてるの~?」
燐がからかう様に言う。
「覚えてるって!えっとね………」
そして空によるトランプのババ抜きの説明が始まった。
途中、空の説明が危うくなった時はアリスが助け船を出していた事を追記しておこう。
午後7時
「うぁ!?負けた………」
「あはは!こいし様の負け~!!」
最後に手元にジョーカーを残し、こいしが呟き、それを見て楽しそうに燐が叫ぶ。
「う~……!次!次は勝つわよ!!」
こいしもムキになって言い返す。
「残念。その前に夕食よ」
さとりの下(もと)に一匹のペットがやって来ていた。
声は聞こえないが、夕食が出来た事を伝えに来たのだろう。
「じゃあ、夕食食べたら再戦!!」
こいしが叫ぶ。
「ダメね」
が、アリスがそう言う。
「どうして!?」
こいしが問い掛ける。
「人様の家庭事情に首突っ込みたくは無いんだけど…………」
アリスがこいしの側に寄る。
「………何?」
こいしは尋ねるが、アリスは答えずに
「………………ねぇ、さとりさん。地霊殿って皆こうな訳?」
こいしの頭の匂いを嗅いでからそう尋ねた。
「こう、とは?」
心が読めないのでアリスの言わんとしてる事が読めないさとり。
「皆不衛生なの?って聞いてるの。貴女の所の空と良い、お燐と良い。どうしてこんなに汚れてるの?」
そう、こいしも普段からフラフラしてるので体などが結構汚れているのだ。
「ペット達の自主性に任せる事にしてるので………なんせ、数が多いので私が直々にやってたらキリがありませんから」
確かに地霊殿のペットの数は半端が無い。
それを一々さとりが洗ってたら終わった端から新しく汚れてる者が来る。
こうなると最早自主性に任せるしかない。
「そうかも知れないけど…………ちょっと酷いわよ、これは」
こいしの頭を見ながらアリスは言う。
「返す言葉も有りません」
さとりも申し訳なさそうにそう返すのが精一杯だった。
「悪いんだけど、夕食終わったらこの子、お風呂に入れて良い?」
「私?」
こいしが自分を指さして尋ねる。
「そう、貴女」
「なんで?」
「汚れてるからよ」
「そう?」
「ええ、そうなの」
話していて軽く空と喋っている感じに襲われるアリス。
「そうね……確かに、貴女少し汚れ過ぎてるわね」
さとりもこいしを見てそう言う。
「決まりね。夕食はもう出来てるみたいだから、夕食終わってからね。空、お燐。あんたらも一緒に入りなさい」
「「は~い」」
何故か大人しくアリスに従う二人。
「………………」
その様子を見て目を丸くするさとり。
「どうかした?」
そんなさとりにアリスが尋ねる。
「え?いえ、この二人が私やこいし以外の言葉にあっさりと従うのが珍しかったので」
「だって、アリス言う事聞かないと怖いし」
「そうそう。鬼ババァだねぇ」
空と燐がそう言う。
「だ~れが鬼ババァですって?」
その言葉にアリスが反応する。
「あ、食器出して来る!」
「わ、私も!!」
燐がそう言って逃げ出し、空もそれに続く。
「ったく」
呆れたようにアリスが零す。
「ふふ………」
その様子を見て笑うさとり。
「そう言う風にも笑えるのね」
自然なさとりの笑顔を見て言うアリス。
「そうですね………人前では久しぶりだと思います」
動物達の前では普通に見せているが、本音と建前を持ち合わせる者達の前ではどうしても表情が硬くなってしまう。
心を読めるが故に仕方の無い事なのだが。
「思っている以上に不便な能力なのね、さとりさんの能力は」
「ええ、そう思います。それと、私の事はさとりで良いですよ、アリスさん」
「そう?なら私もアリスで良いわ」
「アリス!」
アリスがそう言うと同時にこいしが叫んだ。
「こいし。貴女はちゃんと「さん」付けなさい」
「え~?」
こいしが不満そうに零す。
「別に良いわよ。その代り、私も貴女をこいしと呼ぶけど、良いわよね?」
「うん、良いよ」
こいしは即答だった。
「それじゃあ私達も食堂に向かいましょうか。こいし、アリス」
「ええ」
「うん!」
そうして3人とも食堂へと向かって行った。
午後8時
「御馳走様でした」
「お粗末様でした」
アリスの言葉にさとりが返す。
「お粗末様でした!」
そして空もそう言う。
「あんたの場合は御馳走様、でしょうに」
アリスが突っ込む。
「うにゅ?」
「お粗末様って言うのは持て成した人が言う言葉なのさ、おくう」
首を傾げる空に燐が説明する。
「それでは、お風呂の方に参りましょうか」
「そうね」
そうして4人はさとりについて風呂場へと向かった。
風呂場
「これって温泉?」
アリスが尋ねる。
「ええ、地霊殿より上った所にある温泉です」
さとりが説明する。
言葉通り、下の方に地霊殿が見える。
「ここは地霊殿専用の温泉です。他にも何箇所かありますよ、地底の温泉」
「へ~……そりゃ、地底開拓してれば温泉の一つや二つ見つかるわよね」
さとりの説明にアリスも納得した様子を見せる。
「しっかし、こんなに立派な温泉あるのに、なんであんた達汚れてるのよ」
空、燐、こいしを見てアリスが言う。
「水、嫌い!」
「あたいは良く入るよ!」
「気が向いたら入ってる~」
空、燐、こいしが三者三様の返答を見せる。
「まぁ、良いわ。折角の温泉だし、入りましょうか」
アリスがそう言って、皆服を脱いで浴場へ向かう。
「よ~し!」
浴場に入り、さっそく湯船に向けて駈け出そうとする空。
「まちなさい」
が、しっかりとアリスに肩を掴まれる。
「え~?」
「え~?じゃないの。体洗ってから、最低でも体をお湯で流してから入りなさい。そのままじゃ汚れるでしょうに」
不満そうな空にアリスが言う。
「大体、あんた今さっき水嫌いって言ってたのに、何でそんなに飛び込みたがるのよ」
「入るしかないなら楽しんだ方が良いじゃん!」
空はそう返す。
「まぁ、そうかもしれないけどねぇ…………」
アリスは返答に困った。
「おねーさん、おねーさん」
「ん?」
燐に呼ばれるアリス。
「こいし様、良いの?」
「え?」
気付くと、こいしが居ない。
こいしは存在感が希薄な為、ふと目を離すと簡単に見失ってしまう。
見ると、こいしは今まさに温泉に入ろうとしていた所だった。
「待ちなさい!こいし!」
アリスが叫ぶ。
「何?」
入ろうとする足を止めてこいしは振り向く。
そのこいしにアリスは近づく。
「何?じゃないの。貴女一番汚れてるんだからまだ入っちゃダメでしょうに」
「え~?」
「え~?じゃない!ったく………空を二人相手にしてる感じだわ」
頭を抑えるアリス。
「こいし、ちゃんと体洗ってから入りなさい」
さとりもこいしにそう言う。
「は~い」
姉に言われてか、素直に従うこいし。
「何か、不安だから私が洗うわ」
アリスの脳裏に以前の空の姿が過(よぎ)り、アリスはそう言った。
「大丈夫、洗えるよ」
が、こいしはそう言った。
「そう?まぁ、そうよね」
(まぁ、空と違って動物からなった訳じゃないし、体の洗い方くらい問題ないか)
アリスもそう考え、自分の体を洗い始めた。
「お姉ちゃん、これどうするの?」
垢すりを持って尋ねるこいし。
「体を洗うに決まってるでしょう?私がやってあげてたでしょう」
「これは?」
「石鹸。垢すりに染み込ませて体を洗うのよ」
「ふ~ん…………」
その二つをボーっと見るこいし。
「ごめんなさい。やっぱ私が洗うわ」
我慢できなくなったアリスが手早く自分の事を済ませてそう言い、こいしの垢すりと石鹸を取り上げる。
「え?」
「良く見ておきなさい。こうするのよ」
そう言ってアリスはこいしに垢すりと石鹸の使い方を見せる。
「お~」
興味深げにそれを見るこいし。
(本当に空相手にしてるみたい………)
そう思うアリスだった。
「で、こうやって泡が付いたら………」
アリスは泡が立っている垢すりでこいしの体を洗い始める。
「こうやって体洗うのよ」
「成程~」
やはり興味深そうに見るこいし。
「ちゃんと覚えなさいよ」
「は~い」
アリスの言葉に返事をするこいし。
「すみません、アリス」
「別に良いわよ。元々、私が気になってお風呂に入れるって言ったんだし」
謝るさとりにアリスが返す。
「ったく、案の定泡の立ちが悪いわ」
こいしの体を洗いながら呟くアリス。
「泡?」
「そう泡。お姉ちゃんのさとりを見てみなさい。ちゃんと泡立ってるでしょう?」
「本当だ」
「泡が立たないのは貴女の体が汚れてる証拠。この説明するの何度目かしら?」
アリスが呟く。
「三度目~♪」
「だねぇ~♪」
温泉の中から空と燐が楽しそうに言う。
「あんた達も後で洗うから待ってなさい」
「え!?わ、私達ちゃんと洗ったよ!?」
「そ、そうそう!」
アリスに言われて二人とも慌てた風に返す。
「嘘吐いても無駄。なんで急いで洗って尚まだ完全に洗いきってない私よりあんた達が先に洗い終えられるのよ」
「うにゅ!?」
「あにゃ~………」
あっさりと看破された。
「空、お燐、私が洗うから出てらっしゃい」
さとりがそう言う。
「お願いできる?この子時間掛りそうだし」
「勿論です。私のペットですしね」
アリスの言葉にさとりはそう返す。
「じゃあ、あたいから行って来るね」
「いってらっしゃ~い」
さとりに洗われに行く燐を空が手を振りながら見送る。
「はい、一回目お終い!二回目行くわよ」
こいしの体をお湯で洗い流してアリスが言う。
「もう一回洗うの?」
「そう。貴女それくらい汚れてたのよ」
「へ~」
「いや、へ~じゃなくて…………」
無関心そうなこいしにアリスが軽く頭痛を覚える。
それを振り切ってアリスはこいしの体を再び洗い始める。
「ほら、今度は泡立つでしょう?」
「本当だ」
「ああ………またデジャヴ………」
呟くアリス。
「あはははは!おねーさん、大変だね~」
燐がその様子を見て楽しそうに言う。
「あんたが言う台詞じゃないでしょうに」
アリスはそう返す。
「しかし、本当にしっかりと洗って頂けたようですね。お燐の体がいつもより汚れてません」
燐の体を洗いながらさとりが言う。
「どうにも気になっちゃう性質(たち)でねぇ………まぁ、その子より空の方が凄かったけど」
「おくう汚れ~」
「私汚れじゃない!」
燐が前回とは逆に空に言った。
「あんた達は好い加減一人で体洗えるようになりなさいな。はい、終わり」
空と燐にそう言いつつ、アリスはこいしの体を洗い終える。
「終わり?」
「まだ。次は頭よ」
「あたわぶっ!?」
喋ろうとしたこいしの頭からお湯が被さって来る。
「どうせ同じだろうから先に言っておくわ。貴女の頭、かなり汚れてるから洗う時に髪が指に絡んで痛いでしょうけど、我慢なさい」
先にそう言ってからアリスはこいしの頭を洗い始める。
「ん~…………たっ!いたたっ!!」
予想通り、アリスの指にこいしの髪が絡んだ。
「はい、我慢する!それから、眼は開けないようにしなさい。シャンプーが入ると痛いわよ」
「うぅぅ…………」
こいしは渋々我慢した。
「あ、この子のトリートメントもしてくれてたんですね」
さとりが燐の髪を洗いながら言った。
「ええ。まったく、女の子ならもっと髪に気を遣って欲しいわ」
「全くですね」
アリスの言葉にさとりも同意する。
「あたいは温泉に入ってお酒をくいっとやれれば良いんですけどね~」
「入るついでにちゃんと頭と体も洗いなさい。はい、次、空」
さとりに言われる燐。
そして洗い終えた燐が温泉に入り、空が出てくる。
「はい、こっちも一回目終了。二回目行くわよ」
こいしの頭を洗い流してからアリスは二回目に入る。
「まったく、最近こんな事ばっかりしてる気がするわ」
「お手数おかけします」
「ま、良いけどね」
頭を下げるさとりにアリスはそう返す。
「流石にさとりは大丈夫そうで安心したわ」
「私は気を遣ってますから」
「一瞬、地底の住人全てがこうかと思っちゃったわよ」
「そうでもないですよ。各地に温泉がある事もあってそんな不衛生な事はありません。私のペットでもしっかりしてる者はしてますし」
「じゃあ、この子達が例外って事ね」
「お恥ずかしい事に………」
「ま、貴女の所為じゃないと思うけどね。はい、終わり」
さとりと話しつつアリスはこいしの頭を洗い終える。
「終わり?」
「最後にトリートメントするわよ」
「とりーとめんと?」
「髪を綺麗にする奴と思えば良いわ」
そう言いつつアリスはこいしの頭のトリートメントに掛かる。
「あら、空も髪綺麗になってますね」
「本当!?」
さとりに髪の事を褒められて嬉しそうに言う空。
「言ったでしょ?貴女髪綺麗なんだから手入れしないの勿体ないって」
アリスがこいしの頭をトリートメントしながら言う。
「これからはちゃんと自分で手入れなさい」
さとりが空に言う。
「でも面倒くさいなぁ…………」
「ったく、本当にもう…………はい、終わり。綺麗になったわよ」
空の発言に呆れつつアリスはこいしの頭のトリートメントを終えて洗い流す。
「終わり?」
「ええ、終わり。もう温泉に入っても良いわよ」
「じゃあ、入る♪」
そう言ってこいしは温泉へと向かう。
「こっちも終わりました。空、入って来て良いですよ」
「わ~い♪」
空も再び温泉へと向かう。
「あ~………疲れたわ」
「お手数おかけしました」
「気にしなくて良いわよ。さっきも言ったけど、私が気になっただけだから」
「そう言って頂けると助かります」
「さ、私達もさっさと洗って温泉に浸かりましょう」
「ええ、そうですね」
そうして二人は自身を洗い終え、温泉に浸かった。
「……っん~……良いお湯ね~」
温泉に浸かってアリスは言う。
「ええ。しかし、こうして大勢で入るのは久しぶりですね」
「そうなの?」
さとりの言葉にアリスが聞き返す。
「ええ、普段は一人か、先に入ってるペット達が1,2匹と言った感じですから」
「入る時間適当なの?」
「ええ、まちまちです」
「なるほどね」
話していると何時の間にかアリスの所にこいしがやって来ていた。
「ん?どうしたの?」
アリスはこいしに尋ねるが、こいしは答えずにアリスの正面に背を向けて座ってから、もたれかかって来た
「ちょっ!?どうしたの?」
再び尋ねるアリス。
「えへへ~………アリス、お母さんみたい」
こいしはそう言った。
「あのね………貴女の方が遥かに年上でしょうに。それに貴女にはお姉さん居るでしょうが」
呆れながらアリスが言う。
「でも、お姉ちゃん、こんなに胸おっきくないし」
「ぶっ!?」
こいしは自分がもたれかかってる胸の事を言い、アリスは思わず噴き出す。
「……………………妬ましい」
再びさとりから、らしくない呟きが零れる。
「あの、さとり?何か視線が刺さってるんだけど?」
「気のせいです」
「いや、どう見ても気のせいには……………」
「気のせいです」
さとりはそう言う。
が、その目は間違いなくアリスの胸にある二つの山を見ている。
「ね~ね~、アリス。アリスってどうやって大きくしたの?」
空が寄って来て尋ねる。
「き、気付いたらこうなってたのよ。別にしようと思ってした訳じゃないわ」
「え~?じゃあ、さとり様はもう望みないって事かな?」
燐がさとりの方をチラッと見ながら言った。
「お燐。さとりを挑発しないで頂戴」
「え~?あたいそんな事してないよ~?」
笑いながら燐は言う。
「じゃあ、胸の話題から離れて頂戴。痛いのよ、視線が………」
「あ、でも霊夢もちっちゃいよね」
「うん、さとり様と良い勝負じゃないかな?」
が、話題から離れない二人。
「そう言えば、フラフラ見回ってる時に結構大きい人見たな~。お姉ちゃんって結構、というか、かなり小さいよね~」
「あ、貴女も似たようなものじゃないの」
こいしに言われて流石のさとりも返す。
「あはは~そうかも~」
が、こいしはまるで気にしていないようだった。
「あ、あまり長く浸(つ)かるとのぼせるから、そろそろ出ましょうか」
話を切り上げる為にアリスがそう言った。
「それもそうですね」
さとりも素に戻って賛同した。
「よ~し!出たらまたトランプ勝負だ!」
こいしが叫ぶ。
「ねぇねぇ、アリス。違うのも教えてくれる?」
燐がアリスに言う。
「そうね。あれだけじゃ飽きちゃうものね」
アリスもそう言う。
「ま、おくうが理解できないと無理だけど」
燐が空の方を見ながら言う。
「理解できるよ!」
ムキになって空は返す。
「はいはい、喧嘩しないの」
二人をなだめつつアリスは脱衣場へと入る。
脱衣場に戻り、各々が体を拭き始める。
「空、燐。それからこいしも。ちゃんと体と、特に頭。良く拭きなさいよ」
アリスが三人に言う。
「「「は~い」」」
三人とも返事をする。
因みに、脱衣場には寝巻き代わりの浴衣が用意されて居た。
「風呂上りに牛乳でもいかがですか?」
さとりに言われて振り返ると、そこにはテーブルに牛乳の入った瓶が5本、用意されていた。
「あ、良いわね。頂くわ。その前に……」
アリスはこいしの方へ近づく。
「わぶっ!?」
突然頭からバスタオルが掛かって来て驚くこいし。
「しっかり頭拭きなさいって言ったでしょう」
ガシガシとこいしの頭を拭くアリス。
「拭いたよ~」
「拭き切れてないのよ。空、お燐、あんた達も………って」
振り返ると既に空とお燐は牛乳を飲んでいた。
「ぷはー!」
「っぷはー!」
そしてあっと言う間に飲み尽くす。
「美味しかった~!」
「だねぇ」
「ったく、ちゃんと着替えてから飲みなさいよね………」
まだ裸の二人にアリスは呟く。
「もっと飲みたいな~」
「ね~」
空とお燐は言う。
「他の人の飲んじゃダメですよ」
さとりが先に二人に釘を刺す。
「は~い」
「あ、おくう。まだ飲めるよ」
返事をする空に燐は言う。
「え?」
「ほら、あそこにおっきなミルクタンクが」
「はい?」
燐はアリスの胸を見ながらそう言った。
「ちょっ!?言っておくけど私は出ないわよ!?」
アリスは慌てて胸を隠しながらそう言う。
「え~?」
「さとり様は兎も角、おねーさんのは出そうだけど」
その言葉にピクッとさとりが反応する。
「さとりからも言ってやってよ。出る訳無いって」
アリスはさとりに助けを求める。
「そうですね……………思いっきり吸ったら出るかも知れませんよ?」
「さとりぃぃぃぃ!?!?」
が、さとりはそんな事を言った。
しかも、素敵なほどの笑顔で。
「やっぱり!」
「おねーさん、嘘はいけないねぇ………」
ジリジリと二人がにじり寄る。
「で、出る訳無いって言って……へ!?」
突然、背後からガシッ!と羽交い絞めにされる。
「こいし!?」
こいしだった。
「二人とも、後で私にも飲ませてね~」
「勿論ですよ、こいし様」
「さぁ、おねーさん。覚悟は良い?」
「ちょっ!?まっ!!じょ、冗談でしょ!?」
だが、二人の目は獲物を狩る時の目になっていた。
「おくうは右ね。あたいは左」
「おっけー。それじゃあ…………」
「やめ………!!」
「「いっただっきまーす!!」」
二人同時にアリスに飛びかかる。
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
少女吸引中………………………
「っはぁ………はぁ…………………」
漸く解放され、肩で息をするアリス。
「出なかったね~」
「だね~」
空と燐は残念そうにそう言った。
「だ、だから言ったでしょうが!!」
「そうでしたか………出る人もいると聞いた事があったので、出るかもと思ったんですが」
「私は出ない!」
さとりの言葉にアリスは叫んで返す。
「まぁ、それは兎も角。早く着替えないと風邪をひきますよ」
「わ、解ってるわよ…………先に言っておくけど、さとり」
「何でしょう?」
「幻想郷には私より遥かに「大きい」者が居る事を覚えておいた方が良いわ」
着替えながらアリスは言う。
「………それは、星熊勇儀よりも?」
「あの鬼も結構な物だけど、あれより上よ」
「………………成程。地上には敵が多いようですね」
神妙な顔つきで言うさとり。
「まぁ、味方も多いでしょうけど」
味方になりそうな面々を思い浮かべながらアリスは言う。
「アリス!早く早く!」
既に着替え終えていた空が急かす。
「はいはい………って、あれ?私の牛乳は?」
着替え終えて見ると、5本全部空になっていた。
「え?私は飲んでませんよ?」
さとりが言う。
「あ、ごめん。飲んじゃった」
こいしがそう言った。
「こいし!」
さとりが怒鳴る。
「ま、まぁ、良いわ。後で紅茶か何か出して頂戴」
「ええ、そうさせます」
アリスの言葉にさとりは頷いた。
そして5人揃って温泉を後にし、地霊殿へと戻った。
地霊殿
「はい、革命」
「アッー!!!」
5人は戻ると寝室で大富豪をやっていた。
「うあ………私、2とかKとかしかないのに………」
「おねーさんの鬼~」
アリスが革命を起こし、空、燐、こいしの3人は大ダメージを受けていた。
「ダメですよ。革命を予測して弱いカードも残しておかないと」
そう言うさとりは既にルールを飲み込んでいた。
「はい、上がり」
そして革命をして場を荒らしてアリスが上がる。
「あら、私も上がっちゃいそうですね」
アリスの次のさとりが逆転して強くなった4を2枚出す。
当然、全員パス。
「はい、上がりです」
そう言ってさとりはAを出して上がる。
その後は低レベルな争いの後、燐が敗北した。
「次!次は勝つさ!!」
燐がそう言ってカードを集めて切り始める。
「ま、がんばんなさい」
アリスが余裕綽々(しゃくしゃく)に言う。
「なんか、今日のおねーさん、容赦ないね」
燐が言う。
「う~………前より強い」
空もそう言った。
「そう?気のせいよ」
アリスはそう言った。
「お風呂の事怒ってるんだよ、絶対」
空が言う。
「だねぇ」
「あら?気のせいって言ってるじゃない」
がアリスはやはりそう言う。
しかし、その顔は笑顔だ。
とてつもなく迫力のある。
しかし、結局のところ、状況を見つつ適当に手を抜くアリスだった。
数時間後
「予想通りと言うかなんというか」
そう呟くアリスの前には3人の「子供」が寝転がっていた。
「あれだけ騒げば眠たくもなるでしょう」
三人に布団を掛けながらさとりが言う。
「アリスはまだ眠くありませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
「でしたら、少し飲みませんか?」
この飲む、とは勿論酒の事だ。
「良いわね。この子たち相手じゃ余り飲む気にならなくてね」
「ふふ……そうですね」
そうして二人は場所を移した。
客間
「ワインで良かったですか?」
「ええ、私は日本酒とかよりこっちの方が良いわ」
グラスに注がれるワインを見ながらアリスは言う。
「先日のお礼としてお呼びしたのに、なんだか結局迷惑を掛けてしまいましたね」
「ん?別に迷惑だと思ってないわよ?」
さとりの言葉にアリスはそう返す。
「ありがとうございます」
「気にしなくて良いのに」
「しかし、地上も変わったものですね」
唐突にさとりは言った。
「スペルカードルールの事?」
「……………本当に、アリスは心読んでませんよね?」
「読んでないっつの」
しつこく尋ねてくるさとりにアリスは返す。
どうやらまた思ってる事をズバリと当てたようだ。
「スペルカードルールと言えば、地底にもちゃんと流布されてたのね」
地底の異変での戦いを思い出してアリスが言う。
「ええ、先程も言いましたとおり、用事で地上に出る者もいますから、そう言った者達から地底に伝わったようです」
「成程 。まぁ、流布されて無かったらやばかったけどね」
地底の妖怪達は基本的にその「能力」から嫌われている者が多い。
そんな能力をフルに使ってスペルカードルールでの弾幕ごっこでなく、殺し合いをされたら霊夢や魔理沙では一溜りもない。
二番目に出会った妖怪、黒谷ヤマメにすら勝てなかったろう。
いや、その場での戦闘には勝てる。
だが、彼女は病気を操る。
確実にその後に病で倒される。
しかも、ただ倒れるでなく、それは恐らく死に直結する。
スペルカードルール無しに地底の妖怪がフルに能力を使うと言う事はそう言う事だ。
「そうかも知れませんね。まぁ、地底の妖怪は能力故に嫌われてる者が多いですが、話してみると気の良い方が多いそうですよ」
そうですよ、とは、当然さとり自身はあまり関わらない為に知らない為だ。
言わずもがな、その能力故に。
「そうみたいね。霊夢や魔理沙も似たような事言ってたわ」
「妖怪に対して人間がそう言う感想を持つとは……地上は昔とは大分違うのですね」
「そうね。スペルカードルールが出来てから妖怪と人間の間が大分縮まったように感じるわ」
「そうですか…………」
ワインを傾けつつさとりは呟く。
「行ってみたい?」
「………興味が無いと言えば嘘になります。が、行けません」
無論、その能力が理由で。
「そう?………ちょっと試したい事あるから、動物呼んでくれる?」
「え?ええ」
唐突にアリスに言われてさとりはペットの一匹を呼ぶ。
「呼びましたが、どうするんですか?」
さとりの下に燐とは違う猫が来る。
「その子には何もしないわ。所で、当然その子の「声」は聞こえてるのよね?」
「ええ、貴女の心の声は依然聞こえませんが」
「オッケー。ちょっと待ってね」
アリスはそう言うと、何やらブツブツと詠唱を始めた。
「あの………何を?」
さとりの言葉には応えずにアリスは詠唱を続ける。
そして
「………………これで良い筈」
と言った。
「え?何が……………え?」
さとりは何が起きたのかと思ったが、直ぐに解った。
「どう?もう一度聞くけど、その子の「声」は聞こえる?」
アリスはさとりに猫の声が聞こえてるか尋ねる。
「い、いえ……聞こえません………聞こえなくなりました」
「よし、成功ね」
アリスはそう言った。
「これは、一体…………」
「ああ、安心して。直ぐに解けるわ。一時的に貴女のその能力を封印しただけ。正確には少し違うけど」
「私の能力を?」
「ええ。私が貴女の能力を遮断してるのは知ってるわよね?」
「はい」
「それを貴女に掛けた様な物よ。完全じゃないから、相手に触れると聞こえると思うわ」
アリスが使っているのは外から来る力を遮断するが、さとりに使ったのは外に向かっていく力を封じ込めるものだ。
アリスに言われてさとりは猫に触れる。
「あ、本当です。触れてると声が聞こえます」
「流石に完全封印は無理だと思うけど、そう言う風に限定的かつ一時的に封印する事は出来るわ」
アリスはそう言ってワインを一口飲み
「それなら、外に出ても良いんじゃないかしら?」
そう続けた。
「………………」
さとりは沈黙した。
「貴女が外に出たくないのは、心の声が聞こえる事で嫌われるよりも、その心の声の大半が聞くに堪えない醜い物だからじゃないかしら?」
「……………否定はしません」
「その状態ならそう言った声も聞こえないでしょうし、何より、もう地上に貴女がその妖怪だって知ってる者だってあまり多くないんじゃないかしら?」
知ってる者は居るであろうが、忘れてる者も少なくないだろう。
「しかし………」
さとりは決め兼ねている。
「行きましょうよ!さとり様!」
突如、さとりの背後から燐が被さって来る。
「お燐!?貴女起きてたの?」
さとりも流石に驚く。
心の声が聞こえぬ故に気付かなかったのだろう。
「おねーさんとの会話聞いてましたけど、この状態ならあたいの声、聞こえますよね?」
「………ええ、聞こえますよ。それに、見えます。貴女の地上での楽しそうな思い出が」
燐はさとりに直接触れて、自分が地上で経験した楽しい事を思い浮かべていた。
「一度出てみたらどうかしら?妹さんと一緒に」
「こいしと?」
アリスの提案にさとりは聞き返す。
「聞けば貴女は今のこいしを不憫に思ってペットの遊び相手をあげたようだけど、本当は姉である貴女が一番親身に接してあげなければならないんじゃない?」
「そ、それは…………」
「まぁ、地霊殿の管理が忙しいと言うのも理由としては尤もだから、否定出来ないんだけどね」
ワインを傾けてアリスは言う。
「こいし様、空、あたい、それにアリスと一緒に地上回ってみましょうよ!」
燐がそう言う。
「けど…………」
それでも、まだ決めかねるさとり。
「何々?お姉ちゃん、地上に行くの?」
「こいし?」
こいしまで起きて来たようだ。
「この様子じゃ空も起きてそうね」
アリスが呟く。
「空?うにゅ~とか寝言言って寝てたよ?」
が、こいしはそう返した。
「らしいっちゃらしいわね」
その事にアリスはそう返した。
「で、お姉ちゃんも地上に行くの?面白いよ!地上!!変なのも居るし!!」
こいしはそう言った。
「変なのって何よ?」
アリスが尋ねる。
「ん?前にあった紅白と黒白の人間!」
「あ~…………確かに」
その言葉でアリスは妙に納得した。
「面白い?こいし、貴女そう感じたの?」
さとりはこいしに尋ねた。
「うん!」
こいしは即答した。
心を閉じ、感情に乏しくなったこいしが「面白い」と言った。
こいしの閉じてしまった第三の目に変化が生じ始めている証拠だ。
「……そうですね。一度行って見るのも良いかもしれません」
「それじゃ明日行きましょうよ!」
燐がそう提案する。
「思い立ったが吉日……か。あ、正確には明日か。まぁ、何にせよ私は構わないけど?」
アリスもそう言った。
「行こう行こう!」
こいしも乗り気だ。
空は寝ているが、聞くまでもないだろう。
「解りました。それでは、明日行きましょう」
「やった!それじゃ寝て来ますね!!」
燐はそう言うと寝室へと戻って行った。
「あの様子じゃ直ぐに寝れないでしょうに」
そんな燐を見てアリスがそう言った。
「ですね」
さとりも頷いた。
「じゃあ、私も寝る~」
そう言ってこいしも寝室に戻って行った。
「じゃ、私達もこれ空けたら寝ましょうか」
アリスがワインを見ながらそう言う。
「そうですね……………ふふ」
「ん?どうかした?」
突如笑みを零したさとりにアリスが尋ねる。
「いえ………明日が楽しみだと思ったのはいつ以来かと思いまして」
「まぁ、こんな所にずっと居ればそうなるわよねぇ…………」
ほぼ毎日同じ事の繰り返しなのだから。
「折角だし、うんと楽しんだら?」
「ええ、そうするつもりです」
アリスの言葉にさとりはそう返した。
そして、程なくして二人ともグラスを空けると、寝室へと戻って行った。
了
パルスィ化したさとりんが楽しかったです。
続きも待ってますね~。
確かにこいしはフラフラってどこかに行ってるでしょうしねぇ。
しかし…吸引シーンですか…見たかったなぁ。
さとりの地上へ出ることへの躊躇いをアリスに話したり
お燐やこいしたちに誘われたり、ちょっと暗くなる部分もありましたが
ほのぼのしてて面白かったですよ。
次回の地上へ行く話を楽しみにしていますね。
誤字の報告
>「成程 。まぁ、流布された無かったらやばかったけどね」
『流布されて無かったら(または、なかったら)』ではないでしょうか?
>『流布されて無かったら(または、なかったら)』ではないでしょうか?
ご指摘有難うございます。修正いたしました。
おや? 何やら人形が投げ込まれてきt(轟音
アリスのお姉さんっぷりが素敵でした。
次回作も楽しみにしています。
誤字の報告
>「はい、上がり」
>そして革命をして場を荒らしてアリスが上がる。
>「あら、私も上がっちゃいそうですね」
>アリスの次のさとりが逆転して強くなった4を2枚出す。
>当然、全員パス。
>「はい、上がりです」
>そう言ってアリスはAを出して上がる。
上がったのはアリスではなくさとりでは?
仰るとおりです。誤字修正いたしました。ご指摘有難うございます。
続きを楽しみに待ってます!!!
……ゴクリ……
今回もお姉さんアリスがお姉さんしててよかったです。
貴方とは良い酒が飲めそうだ
特にポーカーとかババ抜きとかは
アリス姉さん優しくていいね
次があるとしたらもう少し変化があってもいいかも。
ってこれは慧音先生に消されて正解だったよ
しかしアリスさんはいいお姉ちゃん…いやお母さんか?
いや、地霊殿のお母さん的な立場であるさとり様のお母さんってことはおb…イエ、ナンデモアリマセン人形ヲ出サナイデ下サイ…
さとり様がアリスさんを「姉さん」と呼ぶシーンが頭に浮かんでくる…
少し読むのにダレてしまいました。
お姉さんアリスはとても魅力的なので次回はもう少し変化がほしいです。
次回作を楽しみにしてます。
今のところ名前さえでてないパルスィが次回ででれますように。
ひらがなで書けばいいんじゃねぇの?って思ったのよ
単調で疲れた
次は地霊殿組の地上旅行編ですね。
そして、アリスが引率の先生状態になると(笑)
華月さんの作品は何と言うか折角の良いアイデアを何作品にも渡って繰り返すんで、
次の設定の作品が出るまでどんどん味が薄まっていくんですよ。
もうお風呂が必要な人はいませんが次回はどうくるのか…。期待しています
続きまだかな