この作品は、作品集72「人形遣いと地獄鴉」の続きとなっております。
宜しければ先にそちらをお読みください。
午後6時
魔法の森・アリス宅
「………ふぅ」
人形作りを終えて一息吐くアリス。
「あら、やだ。もうこんな時間」
そして、現在の時刻に気づいて人形を操って雨戸を締め始める。
「さて、流石に連日迷子なんて来ないでしょうし、ちょっと早いけどご飯にしようかしら?」
昨日、空が訪れた事を思い出しながらそう呟くアリス。
そこへ
コンコンッ………
家の戸を叩く音がした。
「まさか、連日で?」
アリスの家を訪れる者は少なく、居るとすれば同じ魔法使い仲間の魔理沙くらいだ。
が、魔理沙はあんなに控えめに戸は叩かないし、同時に「アリス~居るか~?」くらいの声は出す。
つまり、今家の前に居るのは魔理沙では無い。
「まったく、昨日の今日で何だって言うの?」
人形を自分の周囲に展開させ、一応の警戒をしてからアリスは玄関へ向かう。
「はい、何方(どなた)?」
アリスはそう言ってドアを開ける。
「えへへ………また来ちゃった」
ドアの前に居たのは空だった。
「今度は何?そっちの子が居るって言う事は迷子の類じゃないでしょう?」
アリスは空の横に居る火車の妖怪、火焔猫燐を見ながら尋ねる。
「あれ?おねーさん、あたいの事知ってるの?」
「確か、火車の………燐、だったかしら?」
「そうそう、火焔猫燐。お燐って呼んでね♪」
燐はそう言う。
「空から聞いてるでしょうけど、私はアリス・マーガトロイドよ。で、もう一度聞くけど、何の用?幾らなんでも猫なら夜目が利かない事は無いでしょう?」
空が昨日迷いの森を抜けられなくなった理由はそれだ。
「勿論、あたいは夜でも普通に見えるよ」
「じゃあ、どうしたの?」
「いや~、おくうが親切にしてもらった人が居るって言うから是非一度会いたいと思って!」
燐はそう言う。
「そうそう!」
空も同意する。
「ふ~ん…………」
が、対するアリスはジト目で見る。
「あ、あれ?なんか、疑われてる?」
燐は少しうろたえた様子で言う。
「夜行性の妖怪でもない私に態々(わざわざ)夜に会いに?」
アリスは尋ねる。
「え?あ、おねーさん夜行性じゃなかったんだ?」
燐はそう言う。
「ええ、知らなかった?」
「うんうん!知らなかった!」
空がそう言った。
「……………霊夢の所で何かしでかしたわね?」
唐突にアリスは呟く。
一瞬、二人がビクンッ!となる。
(図星ね)
アリスは内心溜息を吐(つ)きながらそう思った。
「慌てて家(地霊殿)に逃げ帰ろうと思ったけど、家に戻ったら居場所を知ってる霊夢が来るかもしれないと思った?」
「うにゅ!?」
図星を指されてか空が小さく悲鳴を上げる。
「それに、貴女達のご主人様は心を読む。ご主人様に出会ったら自分達の悪事がバレると思った?」
「あにゃ!?」
今度は燐が小さく悲鳴を上げる。
「で、丁度空から私の事を聞いて、霊夢にもご主人様にも当たりの付けられそうにないウチに来た。違う?」
「お、おねーさんもさとりの能力者?」
燐が尋ねる。
「そんな訳無いでしょ。あんた達の不自然な言動から推測したまでよ」
そう、幾らなんでも昨日の今日でこんな時間に訪れるなんて不自然だった。
来るならもっと早く来れる筈なのだから。
そこでアリスは何かあった、と当たりを付けたのだ。
そして、先程夜行性なのを知らなかったと言う時の空の大袈裟なリアクション。
何かを誤魔化そうとしている感がありありだった。
「ま、自業自得ね。神社に戻るなり家に戻るなりして怒られて来なさいな」
そう言ってアリスはドアを閉じようとする。
「待って~!」
そこへ空が抱きつく。
「ちょっ!?離しなさい!!」
流石に驚くアリス。
「お願いだから今日ここに泊めてよ~!!」
「な、何を勝手な………」
「あたいも~!!」
更に燐も抱きつく。
「は、離しなさいってば!!」
「やだ!泊めてくれるまで離さない!!」
「離さない!!」
二人してアリスに必死に抱きつく。
「だから、自業自得で……」
「お願い~………」
「お願い~………」
二人とも涙目で見上げてくる。
「うぐ……………と、取り敢えず、詳しく話を聞いてあげるから、離しなさい」
「泊めてよ~」
「泊めて~」
「まずは、話を聞いてから!それも断るならこのまま放りだすわよ!!」
アリスはそう怒鳴る。
「うにゅ………」
「は~い」
何とか二人も納得する。
「取り敢えず、立ち話するつもりは無いからウチに入りなさい」
そうしてアリスは空と燐の二人を家へ上げた。
「で、何があったの?」
人形達に紅茶を淹れさせてからアリスは尋ねる。
「えっとね、今日は一旦地霊殿に帰ったんだけど………」
空が説明を始める。
「ストップ。そこまで遡(さかのぼ)らなくて良いわ。貴女達が起こした事の前後を離しなさい」
「えっと、おくうと二人で博麗神社に遊びに行ったのさ」
今度は燐が説明を始めた。
「でも、霊夢が居なかったから二人で神社で待ってたのね」
「それで?」
「で、中々戻ってこないから、えっと、その……………」
燐が口籠(ごも)る。
「その内退屈になって来て二人で遊び始めたのね?」
「うにゅ!?アリスってやっぱりさとり様と同じ能力?」
見事に行動を当てられた空が驚いて尋ねる。
「んな訳無いでしょ。それだったら態々こんな事聞いてないわよ」
空と燐の主の古明地さとりは心を読むさとりの能力を持つ。
その能力があればアリスの言うとおり、態々話を聞かずとも相手の心を呼んで事情を呑み込める。
「それもそうか」
空も納得した。
「で、遊んでて何やらかしたの?」
「えっと、折角だから外で弾幕ごっこしようってなって」
「なっ!?」
燐の言葉に、ガタッ!!とアリスが席を立つ。
「あにゃ!?」
「うにゅ!?」
怒られる、と思った二人はビクッとなる。
「あ、あんた達……いえ、空。あんた外で八咫烏の力使って無いでしょうね!?」
アリスが空に問い掛ける。
「つ、使ってないよ!さとり様に地上じゃ絶対使っちゃダメって言われてるし!!」
空が必死に弁解する。
「そ、そう……なら良いけど」
空の飲み込んだ八咫烏の力は太陽の力。
核熱を操れる。
そんな力を地表でぶっ放されたら辺り一面の風景が変わってしまう。
流石にさとりもその辺りは理解し釘を刺していたようだ。
「で、弾幕ごっこしてどうしたの?」
席に座りなおしてアリスが続きを促す。
「えっと、弾幕の内、一個の弾が狙いが逸れてね…………」
「えっと、その……………湯呑に………………」
燐と空が交互に行った。
「成程………でもまぁ、湯呑くらいだったらそんなに怒られないでしょうに」
アリスが紅茶を啜りながらそう呟く。
「そんな事無い!すっごく怒ってた!!」
燐が反論した。
「まぁ、霊夢なら有り得そうね………」
(代えの湯呑くらいあるでしょうから、ちゃんと謝ればそこまで怒るとも思えないけどねぇ………)
アリスはそう考えて居た。
「うん、凄く怒ってたよ」
「…………ん?なんで貴女達は霊夢が凄く怒ってたって知ってるの?しかも、まるで見て来たかのように」
ふと、アリスが気付いて尋ねる。
「えっと………」
「それは………」
二人が口籠る。
「はいはい、どうせ壊した瞬間はパニックになって逃げちゃったけど、後でやっぱりまずいと思って戻ってきたら既に霊夢も帰って来ていて、壊れた湯呑を見てカンカンだったって訳ね?」
アリスが察して尋ねる。
「や、やっぱりおねーさん、さとり様と同じ能力者でしょ!?」
燐が叫ぶ。
「だから、そんな訳無いって言ってるでしょうに」
単純に「子供」がやりそうなことを推測しているだけだった。
「あうぅぅ…………」
「うにゅぅぅぅ…………」
怒った霊夢の様子を思い出してか、二人とも頭を抱えて唸る。
「代えの湯呑でも持って言って謝りに行きなさいな」
アリスが二人にそう言う。
「お金が……………」
「無い……………」
二人がそう言う。
「やれやれね」
溜め息交じりにそう言うアリス。
(どうしたもんかしらねぇ…………)
アリスは視線を宙に向けながら考える。
「………あら?空、その光ってるの何?」
アリスは空の服から見えた何か光る物を見つけて尋ねる。
「うにゅ?これ?」
空がそれを取り出す。
それは小さいビー玉の様な物だった。
「ええ。ちょっと見せてくれる?」
「はい。何か光ってたから拾ったんだ」
光物を集める鴉の習性だろうか?
「………奇遇ね。こんな所で見つかるなんて」
「え?何々?それ良い物なの?」
空が尋ねる。
「貴女達が持っていても只のガラス玉程度でしかないけど、私の研究には必要な物よ」
アリスはそう返した。
「難しい事解らないけど、おねーさん、それ欲しいって事?」
燐が尋ねる。
「そうね。勿論、タダでとは言わないわ」
そう言うと、部屋に何かを持って来た人形が入って来た。
「これなんてどう?前に里の人間が迷った時に泊めてあげて、後日里でそのお礼として貰った物よ」
そう言ってアリスが人形に持って来させたのは木箱だった。
そして、その木箱を開ける。
「あ!」
「湯呑だ!!」
二人が叫ぶ。
「どう?これがあればきっと霊夢もそこまで怒らないでしょう。まぁ、逃げた事は怒るかもしれないけど」
「ねぇねぇ、おくう。交換しようよ!」
「うん!交換する!!」
「交渉成立ね」
アリスはそう言う。
「でも、おねーさん、これ使わないの?」
「生憎(あいにく)と私は紅茶派でね。貰ったは良いけど使わないのよ。と言うか、一度も使ってないし」
「じゃ、早速行こう!」
空が木箱を持ってそう言う。
「待ちなさい」
が、アリスが制する。
「うにゅ?」
「もう大分暗くなってるわ。今から博麗神社に行ったら結構な時間になるでしょう」
「飛ばせばすぐだよ!」
アリスの言葉に空はそう答える。
「お馬鹿。茶器は壊れやすいのよ。乱暴に飛んで行ったら神社に付く前に割れちゃうわよ?」
アリスはそう説明する。
「うにゅぅ…………」
馬鹿、と言われはしたが尤(もっと)もな事を言われたので黙る空。
「持って行くなら明日になさい。それに、夜分遅くに押しかけたら霊夢の不機嫌に拍車を掛けるだろうし」
もし既に就寝してたら最悪な事極まりないだろう。
「でも、地霊殿も結構遠いから壊れないか心配だね」
燐が空に言う。
「ったく、泊まって行きなさいって言ってるのよ。どうせそのつもりだったんでしょ?」
アリスはそう言う。
「良いの!?」
空がパァッ!と笑顔になって尋ねる。
「この時間に外にほっぽり出す訳にも行かないでしょう」
「やった~!おねーさん良い人!!」
燐も喜んでそう言う。
「やれやれ、現金ねぇ」
アリスは溜め息交じりにそう言った。
「まぁ、夕飯作る前だったのは不幸中に幸いかしら」
「うにゅ?」
「作り始めてたら貴女達の分を追加で作り直さなきゃいけないじゃないの」
「お~、なるほど」
空がアリスの言葉に納得する。
「さて、それじゃあ出来るまで待ってましょうか」
アリスは紅茶を啜りながら言う。
「あれ?夕飯は?」
燐が尋ねる。
「もう作り始めてるわ」
アリスはそう返す。
「アリスは料理が出来ないから人形に作らせてるんだよ」
空は燐にそう言った。
「お待ちなさい。誰が料理作れないって言ったのよ」
空の言葉にアリスが反応する。
「え?違うの?」
「違うに決まってるでしょ」
「じゃあ、なんで人形に作らせるの?」
「修行の一環よ」
「うっそだ~!作れないんだ!!」
空はアリスの言葉を信じずにそう返す。
「良いわ。そこまで言うなら作ってあげようじゃないの」
負けじと言い返してアリスは席を立つ。
「っと、出来るまで暇でしょうからトランプでもして遊んでなさい」
アリスは部屋を出る前にトランプを燐に渡す。
「何これ?」
「そっか、知らないか」
アリスは空と燐にトランプの事を簡単に説明し、ついでにババ抜きだけ教えて台所へと向かった。
因みにトランプを渡した本当の理由は、霊夢の湯呑よろしく、暇になった二人が色々弄って人形を壊されない様にだった。
「また負けた~!!」
空がジョーカーを手に叫ぶ。
「おくう弱すぎ~♪」
楽しそうに燐がそう言う。
「ほらほら、机の上片付けなさい」
丁度勝負が付いた所にアリスが人形と共に料理を持って来た。
「あ、ご飯ご飯!」
「おお!美味しそうだね~!」
二人とも急いでトランプを片づける。
そして、机の上にアリスが料理を並べる。
「うわ~………これ、アリスが作ったの?」
空が尋ねる。
「ええ、そうよ」
サラッとアリスは返す。
が、机の上に並んでいる料理を見れば気合を入れたのは一目瞭然だ。
どうやら、料理が出来ないと思われるのは結構気になるようだ。
「おねーさん凄いね~!」
燐も感心する。
「どう?ちゃんと作れるでしょう?言っておくけど、人形に作らせるより私自身が作る方が美味しいわよ?」
「おお~!それじゃ!」
そう言って空が料理に手を付けようとする。
「待ちなさい!」
ピシャッ!とアリスは空の手を打つ。
「痛っ!なんで~?」
空が不満そうにアリスに尋ねる。
「まだ「いただきます」を言って無いでしょう」
「え~?面倒くさい~」
「じゃ、ご飯抜きね」
「いっただっきま~す♪」
燐が抜け駆けするようにそう言ってからご飯に手を付ける。
「あ、お燐ずるい!私も食べる!いただきます!!」
空もよっぽど食べたかったのか、急いでそう言うと、料理に手を付けて行った。
「まったく………貴女達には一度本格的に礼節を教えた方が良いのかしら?」
そう呟きながらもアリスも「いただきます」と言って料理に手を付けた。
「ごちそうさま~!」
「ごちそうさま~!」
二人揃ってそう言って食事を終える。
「はい、お粗末様。ごちそうさまは知ってるのね………」
関心とも呆れともつかない呟きを零すアリス。
「美味しかった~!」
空はそう言う。
「私が料理が出来るって解ったかしら?」
アリスはもう一度空に尋ねる。
「うん!美味しかった!」
笑顔でそう返す空。
「本当本当!」
燐もそう言う。
「ふふ………そう言って貰えるなら作った甲斐があったわ」
アリスも微笑みながらそう返す。
「よし!お燐!さっきの続きしよう!」
「何度やっても同じだと思うけどね~?」
「何~!?」
食事を終えて早速トランプの続きをしようとする二人。
「待ちなさい。貴女達汚れてるんだから、その前にお風呂に入りなさいな」
「え~?」
アリスの言葉に空が不満そうに返す。
「あ、良いね。お風呂」
が、燐は嬉しそうに言う。
「あら?貴女、猫なのにお風呂好きなの?」
猫は本来水気を嫌うものだ。
現に、同じ猫の妖怪である凶兆の黒猫、橙は水を嫌う。
「好きだよ~。特に温泉が好きだね。温泉に浸かりながら熱燗なんて最高♪」
「変わってるわねぇ」
アリスはそう返す。
「さて、それは兎も角…………」
アリスは空の方を見る。
「一人で入らせるとどうせまた鴉の行水でしょうからね」
「うにゅ」
アリスに言われて空は気まずそうに呟く。
「あんまり広くないけど………まぁ、3人なら何とか入れるでしょう」
「おねーさんも入るの?」
「空をしっかり洗ってあげなきゃいけないからね。ついでに貴女も。髪が傷(いた)んでるわよ?」
アリスは燐の髪を触りながら言う。
「え?そう?」
「ええ。取り敢えず、行くわよ。着替えはこっちで用意するから心配しなくて良いわ」
そう言ってアリスは二人を連れて風呂場へと向かった。
「はい、ジッとしてなさい」
アリスはお空を椅子に座らせてそう言う。
「は~い」
今日は空は最初から素直に従っている。
「まぁ、流石に汚れてると言っても昨日ほどじゃないわね」
空の体を洗いながらアリスは言う。
「へ~、おくうって昨日凄かったの?」
「ええ、そりゃもう。泡が全然立たないんだもの」
燐の言葉にアリスが返す。
因みに燐の髪は風呂に入る為に解かれて居る。
「うにゅ………だって面倒なんだもん」
「なんだもん、じゃないの。ちゃんと洗いなさい」
アリスはそう言いながら空の体を洗い終え、泡をお湯で流す。
「はい、次お燐。空はまだ頭洗うけど、体冷まさない様に一旦湯船に浸(つ)かってなさい」
そう言って今度はアリスは燐を椅子に座らせる。
「はいは~い」
燐は素直にアリスの言う事に従う。
「さてと…………………ちょっと、貴女も泡の立ち具合良くないわよ?」
昨日の空ほどじゃないにしても、だ。
「え?そ、そう?」
気まずそうに返す燐。
「貴女もちゃんと洗ってないわね…………まさか、貴女達のご主人様までこんな事無いわよね?」
「さとり様は毎日お風呂に入ってるよ~」
アリスの呟きに空が返す。
「ま、流石にあの子は常識ありそうだったものね」
アリスがさとりの事を思い浮かべながらそう呟く。
「あたいって結構汚れてるの?」
「泡の立ちが悪いから、汚れてるわね」
「お燐、汚れ~♪」
「汚れ言うな!」
湯船から楽しそうに言う空に燐が返す。
一通り洗い終えて、アリスが燐の体の泡を流す。
「はい、もう一度洗うわよ」
「え?もう一回?」
「一度じゃ落ち切れてないわよ、貴女も」
アリスは溜息を吐きながらそう言い、そしてもう一度燐の体を洗い始める。
「あはははは!」
湯船ではその様子を見て空が楽しそうに笑う。
「貴女も昨日こうだったでしょうが」
アリスが呆れ気味に空に言う。
「そうだっけ?」
「もう忘れたの!?」
アリスが驚いて尋ねる。
「覚えてない~」
「流石鳥頭」
空の言葉に燐がそう返す。
「脳細胞が三歩必殺って感じね」
「何それ?」
アリスの呟きに空が尋ねる。
「何でもないわ。はい、終わり」
アリスはそう返してから燐の体の泡を流す。
「さ、それじゃ今度はお燐が湯船に浸かってなさい。空、頭洗うから出てらっしゃい」
「は~い」
アリスに言われて空と燐が交代する。
「はい、目を閉じてなさいね」
そう言ってアリスは空の髪を洗い始める。
「流石に今日は絡まないわね」
髪を洗いながらアリスは呟く。
「お~……おくうの頭が泡だらけ」
燐が空の様子を見てそう言う。
「え?そうなの?」
そう言って空は目を開けて正面の鏡を見ようとする。
「あ、今目を開けたら………」
アリスが制止するより先に
「っ!?痛っ!!目が痛いよ~!!」
空が目を押さえて暴れ出した。
泡が目に入ったのだ。
「ちょっ!落ち着きなさい!」
アリスは急いで空の頭からお湯を掛ける。
「ほら、少し目を開けなさい」
「うぅぅ………痛い~」
目をうっすらと開けながら空が言う。
そこへ、アリスが桶に入ったお湯を手で少しずつ空の目に掛ける。
「どう?流れたかしら?」
「う~………痛かった……」
どうやら流れ落ちたようだ。
「頭洗ってる最中は目を開けちゃダメよ。泡が入ると痛いんだから」
「うにゅぅ………」
「さ、続き洗うわよ」
中断した場所から再びアリスは空の髪を洗う。
そして、トリートメントまで終える。
「はい、もう一回空とお燐交代しなさい」
「はいは~い」
再び燐と空が交代する。
「さて、多分頭の方も二回必要ね」
「あう~」
燐が不満そうに返事をする。
「文句言わないの。普段から洗ってない貴女が悪いんだから」
「いや~、あたいはあまり気にしてないから良いかな~、なんて」
燐はそう言った。
「貴女が良くても私が嫌なの。忘れたの?貴女は今日私の家に泊まる。つまり、私の家の布団に寝るの。汚れたまま寝かせるなんて冗談じゃないわ」
「あう………」
ピシャリと言われて黙るしかなくなった燐。
「さ、観念して洗われなさい」
そう言ってアリスは燐の頭を洗い始める。
「たっ!痛っ!痛たっ!!」
先日の空の様に燐の髪もアリスの指に絡む。
「我慢なさい。貴女が普段から洗ってないから指に絡むのよ」
アリスはそう言って燐の頭を洗い続ける。
そして、一度目を終えて二度目に入る。
「ほら、今度は絡まないわよ」
「あ、本当だ」
「普段から綺麗にしておけばこれが普通なのよ」
「へ~」
目をつぶったまま返事をする燐。
「さ、それじゃ次はトリートメントするわよ」
そうして燐もトリートメントをする。
トリートメントの方は特に問題もなく終わった。
「はい、お燐も湯船に浸かってなさい」
そうして漸く自分の作業に入るアリス。
「おくう、もうちょっとそっち行って」
「こっちもきついわよ」
二人は居るにはちょっと浴槽は狭そうだった。
「まぁ、もともと一人用の湯船だから、狭いかもしれないわね」
その様子を見ながらアリスは言う。
「肩まで浸かって10数えたら出ても良いわよ」
アリスは二人にそう言う。
「「は~い」」
二人は返事をして数を数え始める。
そして、10を数え終えて風呂から上がる。
「ちゃんと体拭いて、用意した寝間着に着替えるのよ」
上がって行く二人にアリスは釘を刺す。
「「は~い」」
二人ともそう返事を返して風呂から上がった。
「さて、私も手早くすませましょうかしら」
そう呟きながらアリスは体を洗っていた。
「ふ~………さっぱりした」
程なくしてアリスも上がって居間へと姿を現した。
「あら?」
が、二人の姿が見えなかった。
代わりにさっきまで置いてあったトランプが無くなっていた。
アリスは昨日空を寝かせた部屋に向かう。
「あ~!また負けた!!」
部屋のドアを開けると、空の声が聞こえて来た。
「やっぱりここだったわね」
どうやら、空は昨日ここで寝た事を覚えており、この部屋に移動してきたようだ。
「あ、アリス!」
「ねぇねぇ、おね~さんも一緒にやろうよ!」
二人がアリスに気づき、そして燐が誘って来る。
「ええ、良いわよ。でも、その前に」
そう言ってアリスは空の近くによる。
「やっぱり、頭ちゃんと拭いてない」
「わぷっ!?」
頭にバスタオルをバサッと掛けられて呻く空。
「ちゃ、ちゃんと拭いたよ!?」
確かに、昨日から見ればしっかりと拭かれてはいる。
「もっとしっかり拭きなさい。髪がまだ結構濡れてるわよ」
そう言ってガシガシと頭を拭き始めるアリス。
「うにゅにゅ!!」
再び呻く空。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくわよ、もう…………」
そう言ってアリスは空の髪を拭き終え、簡単に手櫛で髪を梳(す)く。
「はい、お燐も頭出しなさい」
「は~い」
拒んでも無駄だと解ってか、素直に従う燐。
そして燐の髪もしっかりと拭くアリス。
その後、同じように手櫛で梳く。
「お燐は自分で髪結えるわよね?」
「うん、出来るよ」
アリスの問いにリンはそう答える。
「じゃあ、空。後ろ向きなさい」
「あ、髪結ぶの?」
「ええ、どうせこの後寝るでしょう?」
「うん」
「じゃあ、今の内に結っておきましょう」
アリスにそう言われて空は後ろを向く。
そしてアリスは空の髪を結い始める。
「あ、おねーさん」
ふと、燐が話しかける。
「何?」
「あの人形っておねーさんが作ったんだよね」
燐が空の人形を指さしながら尋ねる。
「ええ、そうよ。貴女も欲しいの?」
「良いの?」
アリスが燐の言いたい事を察して先に尋ねた。
「空だけと言うのもアレだしね。構わないわよ」
「やった!」
燐も嬉しそうに言う。
「はい、お終い」
そしてアリスが空の髪を結い終える。
燐の方は流石に手慣れていて、とっくに終わっていた。
「じゃ、やろう!」
空がそう言う。
「ええ、良いわよ」
そうして3人でのババ抜きが始まった。
開始して見てアリスは空が勝てない理由がよく解った。
「……………!!………」
空の持っているカードの前を手でスーッと横に移動させると、ジョーカーの位置で空の表情が反応するのだ。
これでは勝てる訳がない
そして、案の定ジョーカーが引かれないまま後半戦へと突入する。
「う~………これだ!…よし!!」
空が燐からカードを引いて、揃ったのでカードを切る。
そしてアリスの番になる。
(しょうがないわね…………)
「……!!…
相変わらずジョーカーの位置がモロバレだった。
そして
「これね」
アリスがカードを引く。
「やったー!アリスジョーカー引いた~!!」
空が嬉しそうに叫ぶ。
「うぐ………ま、まぁ、まだ負けと決まったわけじゃないわ」
アリスはそう言う。
言わずもがな、アリスはわざと引いた訳だが。
「さ、お燐が引く番よ」
お燐はやはり、空を相手にしてた時のようにカードの前で手を横にスーッと動かす。
が、相手はアリス。
表情など変える筈がない。
「こ、これ!」
一か八かでカードを引く燐。
「やった!」
そう叫んでカードを切る燐。
結局アリスのジョーカーは引かれる事なく、アリスの敗北となった。
「やった!勝った!!」
「おねーさん弱~い!!」
「ん~……調子悪かったわね~」
「もう一回もう一回!!」
勝てたのが嬉しかったのか、空がそう言う。
「そうね。負けたまんまじゃ悔しいし、良いわよ」
「へへ~んだ!今度も勝つもんね!!」
「勝つのはあたいだよ!!」
そうしてその後も何度か勝負をした。
例によってアリスが空からわざとジョーカーを引いていたので、結果として勝敗は拮抗した。
「さて、私はやる事あるから、後は二人で遊んでて頂戴」
暫く遊んだ後、そう言ってアリスは立ち上がる。
「「は~い」」
二人とも返事をする。
「あんまり遅くならない内に寝るのよ」
「「は~い」」
やはり揃って返事をする二人。
そしてアリスは部屋を出る。
それから暫くして
再びアリスは部屋に戻って来た。
「…………やっぱりね」
微笑みながら軽いため息をついてアリスは呟く。
そこにはアリスの予想通り、トランプを散らかしたまま布団の上で仰向けに倒れて寝ている二人が居た。
そして、人形達が大勢入って来て、トランプを仕舞い、二人を布団の中へと入れる。
二人が布団の中で寝ているのを確認すると、アリスは部屋の灯りを消して静かに部屋から出て行った。
翌日
「おはよ~」
「おはよ~」
二人が寝ぼけ眼で起きてくる。
「はい、おはよう。紅茶飲むかしら?」
「飲む~」
「飲む~」
二人とも同じ返事をする。
恐らく、昨日の空と同じく、条件反射で飲むと言っているだけだろう。
それを見越して、アリスは少し甘めのミルクティーを出す。
猫舌であろう燐の方は若干温(ぬる)くして。
「あ、おいし~」
「本当だ」
二人ともそれを飲んで少し目を覚ます。
「それじゃ、朝御飯食べたら霊夢の所に謝りに行ってらっしゃい」
「あ、そうだった」
「出た、鳥頭」
既に忘却していた空に燐が突っ込む。
「それから、お燐」
「ん?」
「はい、これ」
そう言ってアリスは何かを燐に渡す。
「あ、あたいの人形!」
それは燐の姿を模した人形だった。
「大事にしなさいよ」
「うん!」
嬉しそうに返事をする燐。
「さて、それじゃちゃんと朝御飯食べて行きなさい」
「「は~い!」」
二人ともそう返事をして、しっかりと「いただきます」と言ってから朝食を摂った。
「それじゃあ、おねーさんありがとー!」
アリスの家を出て空へと飛び上がってから燐が振り返って言う。
「ありがとー!!」
空も礼を言う。
「はいはい」
二人に対してそう言うアリス。
「また遊びに来るね~!」
「今度は違うトランプのゲーム教えてね~!!」
燐と空はそう言って博麗神社の方へと向かって行った。
「トランプ?」
ふと、頭上から違う声が聞こえて来た。
「ん?あら、鴉天狗じゃない」
アリスが頭上を見上げてそう言う。
「はい。清く正しく射命丸です」
そこに居たのは鴉天狗の射命丸文だった。
「トランプのゲームとは?と言うより、何故あの二人が貴女の家に?」
文が舞い降りて来て興味津々に尋ねて来る。
「面倒だから話したくないわ」
が、アリスはにべも無くそう答え、ドアへと踵(きびす)を返す。
「え~!そんな殺生な!」
文はそう叫ぶ。
「って、あれ?なにか落としましたよ?」
文がアリスのポケットから落ちた何かを見て言う。
「ん?ああ、これか」
アリスがそれを拾い上げて呟く。
それは昨日湯呑と交換した、空が拾った玉だった。
「ビー玉…………ですか?」
「ええ。何の役にも立たない、ね」
「なんだってそんな物を?」
「あの子と物々交換したのよ」
「物々交換?何とですか?」
「私にとって役に立たない物と、よ。話す事は以上よ。私は今から寝るから邪魔しないで頂戴」
そうとだけ言うと、アリスはドアを閉めて鍵まで掛けてしまった。
「あやややや………まぁ、この事はまた後日聞くとしましょうか」
文もそう言うと空へと飛び上がって行った。
因みに、アリスが空に渡した湯呑は結構な名器で、それを受け取った霊夢はあっさりと二人を許したそうだ。
了
YES!!YES!!オッケー!!!!
もうこれしか言えません!!!
相変わらずのほのぼのした雰囲気と、アリスのお姉さんっぷりが良いですね~
次はいよいよ飼い主の登場でしょうかw
細かい所で申し訳ありませんが、少しだけ気になった表現を…
> 部屋の電気を消して
「部屋の灯り」にした方が良いかもしれません。
(電気による照明ではないだろうと思いましたもので…)
それでは、次回作も期待しています!
>(電気による照明ではないだろうと思いましたもので…)
確かにその通りですね^^;
修正いたしました。ご指摘有難うございます
もうあれだよ、アリスは託児所をはじめればいいと思うよ。
けーねとめーりんと一緒に託児所作ればいいと思うよww
お燐とお空が泊まりにきて、アリスが世話を焼く
この営みがとても微笑ましいですね。
アリスは面倒見の良いお姉さんしてて、二人は
元気イッパイな妹という感じで良いですね。
三人の関係にとても和む良いお話でした
それにしてもいいヒントをもらったな。
よーし、これから汚れた格好で遅い時間にアリスの家へ行って風呂嫌いを装えばアリスが一緒に入っ(ry
お話は前作同様、いいほのぼので面白かったです。
ご飯の前に、前回で覚えた知識をお燐に自慢する空が凄くかわいい
アリスは2人の姉みたいですねw
でも2人がちょっと子供過ぎる感じがしました。
託児所は作って欲しいですww(妹紅.霖之助がいて欲しい)
それにしても、ニヤニヤしすぎて頬が痛いぜ
2人ともアリスと一緒にお風呂に入る必要があると思います!!!
次はさとりでしょうか。
上手い。
このアリスがすごい!を作って入れたい位に良いアリス。
これは良いアリス。
お空が鳥頭というか幼児的思考でけしからんですw
こんな子が娘だったら毎日楽しいと思わされました。
>「私って結構汚れてるの?」
お燐の台詞ならあたいが正しいのでは?
違ってたら申し訳ありません;
>お燐の台詞ならあたいが正しいのでは?
仰るとおりです。
修正いたしました。ご指摘有難うございます。
あと前作でも思ったんだけど、作者さんは情景描写が苦手なのかな?
二次創作でキャラの容姿は原作をプレイしていれば伝わるから書き込む
必要はないんだけど、例えば料理を作ったりした時はどんなものを作ったか
ぐらいは描写しないと読者にはイメージが掴みづらいんじゃないかな。
凄くクールなフリをする超お人好しでなんていうかもう、もう……うにゅう。
くっそぅ、おくうとおりんの髪の毛洗ってあげたいなぁ。
ただ、やはりこいしちゃんもしっかりお風呂に入っていない気がします
一度アリスと入るべきではないでしょうか