「阿求、ちょっとお前のロボを見せてくれ」
「ロボですか。良いですよ」
庭で一汗書いていたとこで不意に慧音先生の声がしました。客人を連れてきたそうです。流石にこのままの格好でお相手するわけにはいきません。なんせジャージですから。先ほどまでふり続けていた竹刀を縁側にゴトリと置くと、いそいそと脱衣所へ向かいます。汗と墨に塗れたジャージを脱ぎ捨て、いつもどおりの格好に着替えました。姿見には紅く火照る私の顔。鼻まで真っ赤にして、実に気持ちのよい汗をかきました。客人をあまり待たせるわけにはいかないので廊下をパタパタと走り、客間へと向かいます。
「ようこそ。幻想郷の歴史を綴る稗田の家へ、あまりたいしたもてなしもできませんが、ゆっくりとしていってくださいな」
「あ、はい。ご丁寧にありがと」
ふかぶかと頭を下げて一礼。客人は魔法の森の人形遣い、アリスさんでした。さっきの慧音先生のセリフからすると、我が稗田の誇る秘密兵器を見物しに来たのでしょう。来るもの拒まず、視るもの拒まず、です。秘密が秘密ではないような気もしますけれど。客人にあわせて淹れた紅茶をすすめると、妹紅さんが脇から何も言わずに紅茶をガブガブ。その様子に慧音先生は頭突きをガツン。沈黙した妹紅さんをよそに何事も無かったかのように話を続けます。
「ところで阿求、さっきのは、何だ?」
「何だ、と申しますと?」
「物干しに紙をぶら下げて、竹刀に筆を括りつけて、汗という文字を書いていたじゃないか」
「ああ、アレですか。なんでも外の世界で一部の人たちに流行っていた競技だそうで……。あまり外に出ないものですから、気分転換がてらに私流の独自要素を加えてやってみたんですが、コレが意外とはまりましてね」
「ふむ」
「弘法処構わず。爽快感に溢れるこの競技をエクストリーム執筆と名づけました。競技人口が今のところ1人しかいないので私が1人で幻想郷レコードを更新し続けています。慧音先生もどうです?」
「……いや、私は遠慮しておくよ」
楽しいのに、誰に説明しても理解してもらえません。孤高の競技でした。街中の中心で紙にベタリ、神社の境内で紙にざんざんざん。実に爽快です。ちなみに今までで一番危なかったのは川底でやったときでした。紙は流されるわ墨は混ざってしまうわで河童に怒られたのもいい思い出です。次は滝行をしながらやってみたいものです。当分、私の中での流行は続くことでしょう。
「そ、そんなことよりも、早く見せてよ、そのロボとやらを! 人形作りの大きなヒントになるはずだわ!」
「ああ、そういうことでしたか。分かりました、早速お見せしましょう。地下深くで建造中の阿求ロボを」
「建造中!!?」
新しく淹れた紅茶を豪勢にも噴出すアリスさん。
「いえ、冗談ですが。はいコレです」
包み箱を取り出して机の上に乗せます。箱を丁寧に開くと中に座していたのは私そっくりの小さな人形。
「これが、阿求ロボ……」
「なんてことはない絡繰人形ですよ。ここの仕掛けが――」
人形の後ろに付いている小さな紐を引っ張ります。ジジジ、と何かが巻かれる音がして人形に命が吹き込まれました。
人形は硯に墨を溶き、筆を握ると紙に文字を描きます。
動作は緩慢にて、されど私の生き写し。
筆を置く力の入れ具合なんかも私にそっくり。
人形は精魂込めて紙に刻みます。
私が記すべきもの、私達が残すべきもの、即ち『想』
これぞ稗田の誇る秘奥。
「……凄い」
「私が代替わりする度にこの阿求ロボも代替わりするんです。そっち方面の知識には疎いのですが、手入れするくらいなら何とかなりますからね。大切な戴き物ですし。……名前を聞きそびれてしまった名も無き人形師。記すべき歴史に、記すべき名の無いあの人。それでも生きた証を然りと刻んでいる。お気に召したでしょうか?」
人の形は崩れども、人形として確かに此処に。
「ふぅ……。完全なる自律人形、オートマタ。稗田ならもしかしたら、と思ったけど、とんだ期待ハズレね。……だってその人形」
貴女の想いで生きているのでしょう?
――はい。
人形遣いは、期待ハズレだと言ったのに何故か嬉しそうに帰って行きました。
◇ ◇ ◇
「すまないな、あいつのわがままに付き合ってもらって」
「いえ、私も久しぶりにこの子の顔を見れましたし」
満足ですよ、と言いかけたとき、後ろの襖がガラっと開きました。私と慧音先生と妹紅さん、3人の視線の先には……寝癖が凄まじいことになっている下着姿の稗田家当主、稗田阿求。
阿求が私の赤い鼻をカチリと押し、意識はそこで途絶えました。
「ロボですか。良いですよ」
庭で一汗書いていたとこで不意に慧音先生の声がしました。客人を連れてきたそうです。流石にこのままの格好でお相手するわけにはいきません。なんせジャージですから。先ほどまでふり続けていた竹刀を縁側にゴトリと置くと、いそいそと脱衣所へ向かいます。汗と墨に塗れたジャージを脱ぎ捨て、いつもどおりの格好に着替えました。姿見には紅く火照る私の顔。鼻まで真っ赤にして、実に気持ちのよい汗をかきました。客人をあまり待たせるわけにはいかないので廊下をパタパタと走り、客間へと向かいます。
「ようこそ。幻想郷の歴史を綴る稗田の家へ、あまりたいしたもてなしもできませんが、ゆっくりとしていってくださいな」
「あ、はい。ご丁寧にありがと」
ふかぶかと頭を下げて一礼。客人は魔法の森の人形遣い、アリスさんでした。さっきの慧音先生のセリフからすると、我が稗田の誇る秘密兵器を見物しに来たのでしょう。来るもの拒まず、視るもの拒まず、です。秘密が秘密ではないような気もしますけれど。客人にあわせて淹れた紅茶をすすめると、妹紅さんが脇から何も言わずに紅茶をガブガブ。その様子に慧音先生は頭突きをガツン。沈黙した妹紅さんをよそに何事も無かったかのように話を続けます。
「ところで阿求、さっきのは、何だ?」
「何だ、と申しますと?」
「物干しに紙をぶら下げて、竹刀に筆を括りつけて、汗という文字を書いていたじゃないか」
「ああ、アレですか。なんでも外の世界で一部の人たちに流行っていた競技だそうで……。あまり外に出ないものですから、気分転換がてらに私流の独自要素を加えてやってみたんですが、コレが意外とはまりましてね」
「ふむ」
「弘法処構わず。爽快感に溢れるこの競技をエクストリーム執筆と名づけました。競技人口が今のところ1人しかいないので私が1人で幻想郷レコードを更新し続けています。慧音先生もどうです?」
「……いや、私は遠慮しておくよ」
楽しいのに、誰に説明しても理解してもらえません。孤高の競技でした。街中の中心で紙にベタリ、神社の境内で紙にざんざんざん。実に爽快です。ちなみに今までで一番危なかったのは川底でやったときでした。紙は流されるわ墨は混ざってしまうわで河童に怒られたのもいい思い出です。次は滝行をしながらやってみたいものです。当分、私の中での流行は続くことでしょう。
「そ、そんなことよりも、早く見せてよ、そのロボとやらを! 人形作りの大きなヒントになるはずだわ!」
「ああ、そういうことでしたか。分かりました、早速お見せしましょう。地下深くで建造中の阿求ロボを」
「建造中!!?」
新しく淹れた紅茶を豪勢にも噴出すアリスさん。
「いえ、冗談ですが。はいコレです」
包み箱を取り出して机の上に乗せます。箱を丁寧に開くと中に座していたのは私そっくりの小さな人形。
「これが、阿求ロボ……」
「なんてことはない絡繰人形ですよ。ここの仕掛けが――」
人形の後ろに付いている小さな紐を引っ張ります。ジジジ、と何かが巻かれる音がして人形に命が吹き込まれました。
人形は硯に墨を溶き、筆を握ると紙に文字を描きます。
動作は緩慢にて、されど私の生き写し。
筆を置く力の入れ具合なんかも私にそっくり。
人形は精魂込めて紙に刻みます。
私が記すべきもの、私達が残すべきもの、即ち『想』
これぞ稗田の誇る秘奥。
「……凄い」
「私が代替わりする度にこの阿求ロボも代替わりするんです。そっち方面の知識には疎いのですが、手入れするくらいなら何とかなりますからね。大切な戴き物ですし。……名前を聞きそびれてしまった名も無き人形師。記すべき歴史に、記すべき名の無いあの人。それでも生きた証を然りと刻んでいる。お気に召したでしょうか?」
人の形は崩れども、人形として確かに此処に。
「ふぅ……。完全なる自律人形、オートマタ。稗田ならもしかしたら、と思ったけど、とんだ期待ハズレね。……だってその人形」
貴女の想いで生きているのでしょう?
――はい。
人形遣いは、期待ハズレだと言ったのに何故か嬉しそうに帰って行きました。
◇ ◇ ◇
「すまないな、あいつのわがままに付き合ってもらって」
「いえ、私も久しぶりにこの子の顔を見れましたし」
満足ですよ、と言いかけたとき、後ろの襖がガラっと開きました。私と慧音先生と妹紅さん、3人の視線の先には……寝癖が凄まじいことになっている下着姿の稗田家当主、稗田阿求。
阿求が私の赤い鼻をカチリと押し、意識はそこで途絶えました。
ヨガフレイム言うなwwwww
アレって何かに出てましたよね?pマンだったっけ?違ったかな…。
最後には本人がでてきて顔が真っ赤にしながら言い訳?をする阿求が可愛いですね。
でもヨガフレイムって……。
ともあれ、面白いお話でした。
ちょっといい話に持っていきオチで落とす。
この短さで綺麗に纏めているのが上手い。
まさか偽物とは、タイトルネタバレしてたのにまんまと引っ掛かりました。
アリスとの会話は何処まで真実なのでしょうか。
そんな不思議な余韻も好きでした。