自分の部屋のカーテンを開けると、ソメイヨシノがついに満開になっていた。
私の十七年の人生の経験上、この桜はもう散り始めていてもおかしくないのだが、今年はやや遅咲きだ。
――今年とか、そういう問題じゃないか。
幻想郷(ここ)は私のいた所とは違うのだ。
私のいた所は地球温暖化云々で気温が高くなり、徐々に桜の咲く時期が早くなっていったのだ。
つまりここではこれが普通。
ふむ、またここの常識に近づいた。
しかし、この桜、急に生えている場所が変わってしまったが大丈夫だろうか?
ここに来る時、神奈子様は「ええい、めんどくさい」と言って神社と家とその周辺にある物をすべてそのまま持ってきてしまった。その辺に生えている草木や電柱も何もかもひっくるめてだ。
おそらく、あの後神社のあった場所はただのさら地になり、周辺の民家は停電になっただろう。
「まあ庭の木は問題ないかな? 現にこうして花を咲かせてるわけだし」
大丈夫どころの問題じゃないかもしれない。最近雑草の伸びるスピードが早いし。
っと、そんなことを考えている場合じゃなかった。今日は大掃除をする予定だった。
私は窓を開け、外の空気を吸う。春とはいえ午前中は気温が若干低い。空気が冷たい。
「さて、っと」
まずは物の整理をしよう。
私は用意しておいた巨大なダンボールに『いらないもの』と極太マジックで書き込み、組み立てる。これで準備完了。
さて、まず何から手を付けようか。
私は部屋の中を見廻し、とりあえず一番最初に目に付いた本棚に近づく。
「えーっと、んじゃあまずは――」
などと言ってみたが、どの本から手を付けようか決まらない。
んー、やっぱり先に衣服を片付けようか? いや、それとも押入れ?
「別にどれを選んでも大差変わりは無いんだけれど……」
「私ならまず着る物を選ぶな。本に手を付けると本に夢中になって掃除にならなくなるからな」
「うきゃん!?」
「おい、何だよ『うきゃん』って」
「ま、ままままま……!」
「私はお前のママじゃないぜ」
さっき開けた窓際に、魔理沙さんが座っていた。
「ど、どこから這入ってきたんですか?」
「ん? そりゃあ、この窓からだよ。決まってるだろ」
「決まってませんよ。うちには玄関があるんですからそこから訪ねて這入ってください」
「でもお前んとこの神様、なぜか私がくるとうるさいからなぁ」
「それは魔理沙さんの日ごろの行いのせいでは……?」
「ま、窓から侵入なんて常識の範囲内だぜ」
「幻想郷の常識ですか?」
「いんや、私の常識」
そう言って魔理沙さんはにやにやと笑い、「私にとっちゃ普通だぜ」と付け加えた。
「まあ幻想郷には何にも無いところからいきなり沸いて出る奴がいるんだからこんなもんまだ可愛い方だ」
「……そんな人がいるんですか?」
「ああ。妖怪スキマババアだ。怖いぞ。どこにでも現れるから悪口なんか言うとすぐにやってきて、人をスキマに放り込むんだ」
「魔理沙さん、今その方の悪口言いませんでしたか?」
「気のせいだろ」
まあそんなことは置いといて。
「魔理沙さん、何か用ですか?」
私は魔理沙さんに訊いてみる。わざわざこの妖怪の山の奥にある神社を訪ねてきたのだ。何も無いなんてことは無いだろう。
「用? 無いけど」
無かった。……ええ、そんなこったろうと思ってましたとも。
「あえて言うなら暇つぶしってとこだな。実はここに来る前に霊夢んとこ行ったんだけど、あいつに『用も無いのにこれ以上茶を集るな!』って言われて追い返されちまったんだ。で、同じ神社だし、たまにはいいかってことでここに来たんだ」
来るんだったら参拝してくださいと言おうと思ったが、この人が信仰なんてしてくれるとは思えないので言うのはやめた。
「で、お前は何やってんだ?」
「え? さっき大掃除してるって分かってて言ったんじゃなかったんですか?」
「ああ、本当に大掃除だったのか」
魔理沙さんはなるほどと手を叩いた。どうやらでたらめに言ってみたらしい。
「それより、お前、服どうした?」
突然、魔理沙さんが私の着ている服を見て言った。
ちなみに私の着ているのは灰色のセーターと、ジーンズだ。これは私が向こうにいるときからよく着ていた服だ。シンプルイズベスト。
「服がどうかしましたか? もしかして珍しいですか? セーターとジーンズって」
「いや、こっちにもセーターはあるし、ジーンズもちらほらとだが現れつつある。私が言いたいのは、巫女服を着ないのか? だ」
「巫女服ですか? そんな毎日着ませんよ。家にいるときはもっぱら私服です。だって寒いじゃないですか。腋とか出てるし」
「ふーん。お前はそうなのか」
……『お前は』?
「それってつまり、霊夢さんは巫女服以外着ないってことですか?」
「それどころかあいつ巫女服しか持ってないぞ。それも三着程度」
……うわぁ。
いや、でもここではそれが常識なのかもしれない。私も見習うべきだろうか?
「お前は見習うなよ。お前どっかすぐ勘違いする節があるし、何よりお前そういう服似合ってるからな」
魔理沙さんは私の考えを読んでいたのか、そう言った。
……あれ? 褒められた?
ここは私も褒め返すべきだろう。
「ええっと、魔理沙さんも似合ってますよ、その黒服」
「? そりゃ似合ってるだろ。魔法使いなんだから」
「ええ、あ、魔理沙さんもジーンズ穿いてみたらどうですか? きっと似合いますよ」
「まあな。私はまともな服なら何を着ても似合うからな」
そう魔理沙さんは得意そうに言った。
きっとこの人は『謙遜』って言葉を知らないんだろうな。いや、別に謙遜して欲しかったわけじゃないけど。
「おっと、話し込んでる場合じゃないぜ、早苗。とっとと片付け始めようぜ」
魔理沙さんは立ち上がると私を見て言った。
「あ、手伝ってくれるんですか?」
「まあな。折角来たんだ、ここで帰るのも何か嫌だからな」
おお、これは心強い。正直言うと一人で片付けるのも何だか寂しいと思っていたところだ。神奈子様や諏訪子様に手伝ってもらうというのもありだったかもしれないが、神奈子様は料理以外の家事はてんで駄目だし、諏訪子様にいたっては物を散らかす才能に長けているので余計に面倒なことになりかねない。
「あ、もしいらない物があったらくれよ」
……それが本音ですか。
「んじゃあさっさと取り掛かるか」
「ええ。それじゃあまず箪笥の中身を」
「よし」
「あ、言っておきますが、下着はかまわないでくださいよ。こっちに来る前に新調したばっかりなんで」
「オーケイ。分かった」
そう言うと魔理沙さんは箪笥の下から一段目を開けた。
ええっと、一段目には何が入ってたっけな?
私の部屋の箪笥は全部で五段になっていて、一番上と二番目にかけて私服、上から三段目に下着類、四段目に巫女服のストック、という風になっている。
「おお、何だこの服?」
魔理沙さんは興奮気味に声を上げ、服を一着引っ張り出して私に見せた。
――黒いセーラー服だ。
ああ、そうだ。箪笥の一番下の段にはセーラー服やカーディガンなどを入れていたんだ。最近開いていないから忘れていた。
私は魔理沙さんにセーラー服の説明をする。
「それはセーラー服です」
「ん? セーラー服?」
「ええ。私の通っていた高校の制服です。元々水兵さんたちの制服だったらしいのですが、どういうわけか女性用に改良されて、学校の制服になったんです」
「んー?」
魔理沙さんは腕を組んで顔をしかめた。どうやら私の説明では理解できなかったらしい。
まあ、仕方ないか。私説明下手だし。
「ま、いいか。あとで香霖からいろいろ話聞くから」
「こうりん、ですか?」
何だろう? おそらく人名だろうが。
「ああ、森近霖之助って名前でな、魔法の森の近くで香霖堂っていう古道具屋やってる変わりモンだよ」
「へぇ……」
魔法の森の中で魔法使いをしている魔理沙さんも人のことをいえないような気がするのだが……。
「主に外の世界から流れ着いた物を扱ってるから気に入ると思うぜ。今度連れて行ってやるよ」
「え、いいんですか?」
「ああ。アイツ、知識に関しては結構強欲だからな。きっとお前の話を聞きたがるぜ」
ううん、それは会ってみたいような会いたくないような……。
まあそれはともかく。
私は魔理沙さんの持っている私のセーラー服を見つめた。
左胸の所に赤色に縁取られた校章が付いている。
赤色の校章は二年生の印。私はここに来る前、二年C組の生徒だった。
私は特に優等生というわけではなかったが、それなりに成績は良かった。中の上といったところか。
友達も結構いた。幼馴染のあずさ、優等生のサチ、ムードメイカーのココロ、初恋の相手で結局片思いで終わった藤川くん、ギャル系のみーちゃん、どっか不思議なアキ――
まだ他にもたくさんの友達がいた。みんなみんな、まだちゃんと顔や声が出てくる。
みんな、もう三年生か……。
――私だけ、二年生のまま。いや、もう高校生ですらないや。
……いけない、胸が苦しくなってきた。片付けに集中しよう。
「で、これどうする?」
「それは……いりません」
「オッケイ、じゃあこっちの『いらないもの』って書いてある箱に入れとくぜ」
「ええ。ついでに一番下の段全部、お願いします」
そう、いらない。いらないんだ。あってもまた胸が苦しくなるだけだ。そんな物、持っていてはいけない。
魔理沙さんは箪笥の一番下の段の引き出しを引っ張り出すと、中身をすべてごっそりと『いらないもの』の箱の中に放り込んだ。
……大き目の箱にしておいて良かった。下手するとセーラー服等でいっぱいになるところだった。
「よーし、次の段」
「あ、他の段はいいです。どうせまだ着ますから」
私服類はここに来る半年前に整頓したばかりだ。体型は全く変わっていないので箪笥の中に私の着れない物は無いはず。
「あー、じゃあ次はどうする?」
「本棚を片付けましょう。とりあえず手軽ですから」
「私は手が止まると思うけどなぁ」
魔理沙さんはそう言いながら苦笑する。
「大丈夫ですよ。……きっと」
私はにっこりと笑って見せた。
自身は無いけど。
「それにしても、お前の本棚、小さいな」
魔理沙さんは椅子の上に膝で立ち、本棚の一番上の段に手をかけながら言う。
「そうでしょうか?」
私は勉強机をはたき棒ではたきながら答える。
私の部屋の本棚は私が手を伸ばした位の高さで、横幅もそれなりにある。大きいとはいえないが、決して小さくは無いはずだ。
「私の住んでいた所ではこれくらいが普通ですよ」
「うーん、そうか? ――って、あ! 漫画じゃねえか! おお、話には聞いてたけど初めて見るぜ! レミリアの奴は密かに持ってるって噂だけど、アイツの部屋まで行けないんだよなぁ。なあ早苗、娯楽品はいらないよな? な?」
「いえ、それはいります」
「チッ」
「あ、での本棚の脇に積んである漫画雑誌はいりません」
私はそう言いながら某じゃ……じゃなくて雑誌を眼で指した。
「おお! んじゃあ後で持ってくぜ! ――おお?」
「今度は何ですか? ラノベですか?」
「早苗のアルバム見っけ」
「ってえええ!? えええ!?」
私は思わずはたき棒を窓から放り投げてしまった。
アルバム!?
アルバムですか!?
「さて、拝見させてもらうぜ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!」
「何でだよ? 見られてまずいモンでもあんのか?」
魔理沙さんは意地悪そうに笑う。
「いや、そんなのは無いですけど、アルバムってなぜか人に見られたくないじゃないですか」
「そうか? 私はアルバムなんて持ってないから分からないな。それよりこっち来いよ。一緒に見ようぜ」
「ええ!? いや、でも、片付けの途中だし、いやいや! そもそも何で勝手に見るんですか!?」
「だって外の世界の写真に興味あるし」
「ああそうですかなら仕方ありませんねいいですよ、なんて言いませんよ!!」
「おお、外の世界の写真はカラーなのか。天狗のと同じだ。それに、赤ん坊の早苗可愛いな」
「って見てるし!!」
魔理沙さんは私が突っ込みに夢中になっている間に床に座って胡坐をかき、勝手にアルバムを開いていた。
「まあまあ、落ち着けよ。ほら、一緒に見ようぜ」
「……まったく」
本当にこの人は身勝手だ。そう思いながらも私は魔理沙さんの隣に座る。
「お、これはお前の両親と赤ん坊のお前だな?」
「……ええ。これは一歳の私と両親の写真ですね」
「お前の両親、今どうしてる?」
「……私が五歳のときに二人とも事故で亡くなりました」
「……悪いこと、訊いちまったな。――お、小さいのに立派な和服着てんな」
「……それは、七五三の三歳のときのお祝いの写真です」
「へぇー。おお、こっちは浴衣か」
「ああ、それは六歳のときの近所の夏祭りのときに撮った写真です」
「夏祭りかぁ、そういや私も修行してた頃に魅魔様と一緒に一回行ったな」
「誰ですか?」
「私の師匠だよ。私がまだ十歳だったころかな? 私が『祭に行ったこと無い』って言ったら連れてってくれたんだよ。まあ半分くらい自分の為だったぽいけどな。――あ、神奈子と諏訪子じゃん」
魔理沙さんが指したのは小学校の入学式のときの写真だった。小学校の制服姿の私の隣に、スーツ姿の神奈子様と同じくスーツ姿の諏訪子様が写っている。
「諏訪子似合ってねぇ」
「ええ、さすがの私もこれはあんまりだと思います……」
そういえばこの日、諏訪子様は中学生と間違えられたんだっけ。
「で、こっちは何だ?」
次に指されたのは小学四年のときの運動会の写真だった。
「これは運動会で二人三脚をしているときの写真です」
「ああ、運動会か。こっちにもあるぜ。私は参加しないけど。ってことはこれは二人三脚か。この組んでる奴は誰だ?」
「幼馴染のあずさです」
「ふーん、これが早苗のむこうの友達か」
確かこのレース、ゴール前で思いっきり転んでビリになったっけ。
あそこで転んでなければ一位だったけど、まさか神奈子様がカメラを構えて並んで走っているとは思わなかったんだもん。
「じゃ、これは?」
「これは中学二年のときの修学旅行の写真です」
「旅行か。すげえな。幻想郷は旅行って言っても歩いて山のむこうとかそんなレベルだからな。これ、なんて所だ?」
「京都、です。千年以上前に日本の都があった場所です」
「京都、あ、聞いたことあるぜ。輝夜が昔その都に住んでたって言ってた」
「え? もしかしてあの人本当に輝夜姫なんですか?」
「さあな」
修学旅行は本当に大変だった。グループ行動のときには迷子になるし、財布は落とすし、ホテルを抜け出す人は出てくるし、どういうわけか神奈子様と諏訪子様が私に内緒で付いて来た。
いろいろなことが起こったけど、あの修学旅行はその分印象的に私の心に刻まれた。
「さて、この写真で最後みたいだな。早苗、これはいつのだ?」
「ええっと、これはですね――」
と、写真を見た瞬間、私は固まってしまった。
この写真は、私が高校に入学したときの写真だ。
セーラー服を着た私の隣に、私のおばあちゃんが立っている。
――おばあちゃん。
両親を失った私を、神様二人と三人でずっと見守ってくれていた。
私の高校入学を誰よりも喜んでくれてた。
私が悪戯したとき、ちゃんと叱ってくれた。
このとき、もうおばあちゃんの病気は、かなり進行していた。
大丈夫なはずないのに、無理して『大丈夫』と言って私の入学式にやってきた。
そしてその後、おばあちゃんは私が二年生になってすぐに、息を引き取った。
あの後私、大人気なく大泣きしたっけ。神奈子様や諏訪子様だけじゃなく、友達にも迷惑かけたっけ。
「――この写真は、私が高校に入学したときのものです」
「この人、お前のばあちゃんか?」
「ええ」
「優しそうな人だな」
「優しくて、とってもしっかりした人でした」
「そっか……」
魔理沙さんはそう呟いて、残りのまだ写真のしまわれていない――否、もうしまわれることのない十数ページをぱらぱらとめくった。
――その白いページを見た瞬間、私の脳裏にもう電池が切れて動かなくなったケータイに入っている写真たちの数々が浮かんだ。
夏休みのバイト、文化祭、体育祭、二度目の修学旅行、あずさの部活の試合、クリスマス、初詣――まだまだ他にもいろいろたくさんある。
それらの記憶が、鮮明に頭に浮かぶ。
たくさんの思い出たちを、私はすべて思い出せる――思い出せてしまう!
本当は思い出せてはいけないのに、本当はすべて捨ててきたつもりなのに。
胸が痛くなる。息が詰まりそうになる。
「早苗、これ、いるだろ?」
魔理沙さんが訊いてくる。
「それは――いりません」
私はそう答える。
「いらないのか?」
「ええ、いりません」
胸が痛い、苦しい。
「本当に、いらないのか?」
「本当に、いりません」
痛い、苦しい、せつない。
「本当に、本当にいらないのか?」
「本当に、本当にいりません」
むねがはりさけそうになる。こえがうらがえる。
「心の底からそれを、いらないと思ってるのか?」
「……何で、何回も訊くんですか?」
「いや、だって――」
魔理沙さんは私の頬に触れ、真剣な顔で、
「お前、泣いてるぜ」
言った。
私は――確かめるように自分の頬を触った。
――涙でぬれていた。
――とてつもなく、せつなかった。
「う、ううう、うぐっ、うう」
私の中で、何かがはじけた。
「う、あああ、あああああ、うう」
涙が止まらない。
嗚咽が止まらない。
早く、止めなければ。
すべて私の心の中から引きずり出さなければ!
「なあ、早苗」
魔理沙さんが私の背中を優しくさすりながら言う。
「何もそんな無理することないだろ? お前には『泣く』って生理現象がちゃんと存在してるんだからさ、泣きたいときは泣けばいいんだよ。私だって悲しいときや悔しいときは家に帰って密かに泣くぜ。枕、濡らすぜ。それにさ、何も心の中のモン捨てることは無いだろう? 思い出や過去ってのは言ってみればそいつの足元を固めている地面みたいなものだ。思い出や過去があってこそ、今のお前がいるんだ。何も足元崩してまで前に進むことはないだろう?」
「で、でも、わたしはっ、つよくならないと」
「だから、それはただ無理してるだけだって。んー、なんて言うかな。月日が流れて決別したこととか悲しかった思い出とか思い出して『ああ、そんなこともあったな』って思えるのが本当の強さじゃないか?」
魔理沙さんはそう言いながらにっこりと笑った。
そういえば、おばあちゃんも時々こんな風に笑っていた気がする。
「なあ、早苗。今度文とかにとりとかからカメラ借りてアルバムの写真、増やそうぜ。で、少しずつ増やしてっていつかいっぱいにするんだ。んー、そうだな、まずは手始めに花見かな?」
*
片付けもひと段落付き、数日経った。
私は香霖堂で行われている花見の宴会の席にいた。
「僕の気のせいだろうか。うちでやる必要性がどこにも無いんだが」
「あるぜ。こうしないとお前が来ない」
ぼやく店主さんに魔理沙さんが言う。
私たちは香霖堂の店主さんの居住スペースの縁側から庭の桜を眺め、酒を飲み(私は飲めないけど)、料理をつまんでいた。
宴会、というがいつも博麗神社で行われているものに比べると参加している人数は少ないし、規模も場所の狭さのせいか小さい。
だが人数が少ないおかげで私は今まで見たことはあるけどどんな人なのか知らない人と話がすることができた。みんな個性的だ。
「はーい、みなさんちゅうもーく!!」
突然、文さんが大きな声でみんなの注目を集めた。
「ええっと、これから集合写真を撮りたいとおもいまーす!」
「はあ!?」
文さんの言葉に、霊夢さんが素っ頓狂な声を上げる。
「集合写真? 何、宴会の模様でも新聞に書くの?」
「いえ、いくらなんでもそこまでネタに困ってはいませんよ。まあとにかく皆さん、縁側に大体横三列くらいで並んでくださーい! 一番前の人は座って、二番目の人は中腰で、三番目の人は普通に立ってくださーい! ほら、霊夢さんちゃんと並んで。あ、背の高い人はなるべく後ろに並んでくださいね。紫さん、子供じゃないんだからスキマで心霊写真の真似事をするのは止めてください。霖之助さん困ってますよ。それと妖夢さん、その白いのどっかやってくれませんか? 写真がぼやけるんで。…………はいっ! じゃあ撮りますよ! 笑ってくださーい! ……はい、チィズ、サンドイッチ!」
「……何だよ、チーズサンドイッチって」
こうして私のアルバムは、ゆっくりだけど確実に、写真の数を増やしていった。
黒歴史ノートじゃないかとヒヤヒヤした。
酔う夢
誤字見っけ、上コメさんと同じです。
タイトルを見て某部長を思い出したのは俺だけだろうか…
頑張れ。
負けんな。
力の限り生きてやれ。
順調?に幻想郷に順応してるしwww
酔っぱらった妖夢さんを略して酔う夢?
片づけしているときのアルバムは罠ですよねえ。
良いお話をありがとうございます。
そこに少しずつ幻想郷の写真が加わっていくことで、過去と、これからも続いてゆく現在とが繋がるんですね。
断絶を、鮮やかに連続へと転換してしまった作者様の技量に感服。
魔理沙、よくやった。
というわけで修正させていただきました。
お騒がせいたしました。
椛あたりか
脳内BGMに「思い出がいっぱい」流れた。
少女だったと懐かしく振り返る日があるのさ・・・
「チーズ」の代わりに「バター」って言うと、大笑いした顔になるんだZE☆
だからみんなで笑おう、バタ~。