暖かな日差しが心地よい中秋の昼下がり、霧雨魔理沙は珍しく自宅でもある霧雨魔法店に篭っていた。いつもなら博麗神社にでも出向いて茶の一杯でもせびり、ついでに紅魔館に堂々と忍び込んで本を拝借しているところであるが…
「…今年の茸は水気が多すぎるな。やっぱり雨が多く降ったせいか…?」
彼女は魔法使いである。「弾幕はパワー」を信条とし、強力な魔法を乱発する彼女だが、その過程は地道である。元々見つけにくい化け物茸を地道に蒐集し、更にやってみるまでうまくいくか分からない調合を成功させることで、彼女の魔法は初めて流星の如き煌きをみせるのである。普段の彼女ならその情景を思い描き、地道な作業にも愚痴ひとつこぼさず、否むしろ子供の化学実験のように楽しげな表情をみせているのだが…
「クソっ!今思い出しても腹立つあの莫迦天子が!あの野郎、退治されたいとかヌカしときながら派手に暴れまわりやがって!私の八卦炉どうしてくれやがる!」
妖怪の山の一件や月への遠征、ついでに天人の気まぐれなどにより、この一年での彼女のマジックアイテム・八卦炉の負担は膨大なものとなっていた。難題難敵が次々押し寄せる中、ついには八卦炉の魔力出力を強化するための機関・魔力回路が損傷してしまったのだ。
「今のまま大火力の魔砲なんか連射したら八卦炉がバラバラになっちまうし…こーりんの話じゃ補修素材を確保するのにあとふた月はかかるって言うし…」
この惨々たる現状に、終いには彼女の代名詞ともいうべき『恋符「マスタースパーク」』すらも、威力を落とし、射程を縮め、射幅を狭め、という体たらくであった。今もこうして大量の茸を大釜に放り込んでいるがそれは新たな省エネ魔法の開拓、と同時にその魔力を八卦炉の魔力回路の損傷部分の応急処置として使えないかという苦肉の、というより背水の研究であった。
「畜生め、このままじゃMaster(玄人) SparkじゃなくてAmateur(素人) Sparkだぜ…いやMaster (支配人)と考えるならSlave(奴隷)か…?どっちにしたってこれじゃただのレーザーと変わらないじゃないか…アリスが普通に撃ちまくってるあれと…」
普段なら調合中にこれほど無駄口を叩くことはない。だが長雨による化け物茸の不作と、なにより大火力の魔法を使用できないことに魔理沙の苛立ちは頂点に近づいていた。
「ああ撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい……」
…というよりもはや乱射魔(トリガーハッピー)の禁断症状に近い状態である。
「…マスタースパークスターダストレヴァリエダブルスパークミルキーウェイアステロイドベルト…」
ブツブツと独り言を呟きながら見た目も毒々しい粘性の液体が満杯の大釜をグルグルかき混ぜる様は、ある意味魔女らしい不気味な雰囲気を醸しだしていた。
「…あの~」
そんな状態の彼女が、果てしなく珍しい来客があることに気付くはずもなかった。
「…ノンディレクショナルレーザースターライトタイフーンイベントホライズンファイナルスパークドラゴンメテオ…」
「…魔理沙…聞いてる?」
「…オーレリーズソーラーシステムブレイジングスターファイナルマスタースパーク実りやすいマスタースパーク……」
「魔理沙ってば!この白黒泥ぼ「ぬぅうおおおおおおおおおおお!敵かあああああああああ!撃たせろ撃たせろうううたあああせえええろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
「うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
…その日、魔法の森の片隅にすさまじい爆音が鳴り響いた。付近に住む人形使いの魔女は「どうせまたあの莫迦白黒男女が暴れてたんでしょ。まったくキチ○イに刃物とはまさにこのことよね」と後日語った。
完
「………な、わけないわよ!人を無視してしかも攻撃してくるなんてそんなの人間の町のドラ猫だってしないよ!」
「人じゃなくて猫だろ、猫。この猫」
その当の猫と呼ばれた少女・橙は見た目にも目立つ二又の尻尾を逆立たせていた。
「そんなことはどうだっていいでしょ!」
「化け猫。二足歩行型猫。ハイパー猫フルアーマーカスタムMk-2」
「意味わかんない!」
要するに怒っていた。
「ふぅ~~~~!」
猫の威嚇のようなうめき声で抗議の意を表す橙を見て、何故か魔理沙は困った奴だ、とでも言わんばかりな表情を浮かべ、
「なあ橙よ。自分から退治されにくる殊勝な精神は認めてやってもいい、が時を考えてくれ。ブッ放しすぎて八卦炉がやばい」
激しく身勝手なことをほざき始めた。
「依頼人攻撃しといて何よその言い草!危うく黒こげになるとこだったんだよ!」
「何言ってやがる!?黒こげなんて中途半端なマネするか!本気なら跡形も残さん!」
「反論する意味と威張る意味がこれっっっぽちも分からない!」
「……ところで…だ…」
「な、なに?」
「今更だけど…仕事の…依頼…だった…のか?」
「…………………………」
「…………………………」
「………………グスッ…」
「………………グスッ?」
「………うにゃああああ!人間がいじめるううううううう!」
あまりにマイペース(というより傍若無人)な魔理沙の前についに泣き出す橙。
「うにゃあああああああああああああ!ふにゃあああああああああああああああああ!」
「うわ!な、泣くな泣くな!」
さすがの魔理沙も泣く子には勝てない、というより
「お前泣かしたのが藍にばれたら八つ裂きにされちまう!私が悪かったから、な?」
自分勝手ながら切実ではあった。(生命の危険的な意味で)
「要するに帽子を取り返してほしいってことでいいんだな?」
改めて依頼人として橙の話を聞き、魔理沙は事実を整理するように聞き返した。当初から気にはなっていたが、橙の猫のような耳が生えた小さな頭に、常にかぶっていた緑色の帽子が無い。
「で、その帽子はあの湖の妖精たちが持っていっただろう、と。それは確実なんだな?」
「うん、ちゃんと見た。あたしの帽子…藍さまから貰った大切な帽子をあいつらオモチャにして遊んでたんだよ!絶対許さないんだから!」
「まあ、落ち着け。あくまで帽子を取り返したいんだろ?だったら奴らを懲らしめるのは後にとっておけ、な?」
「う、うん…」
いかんせん精神的には橙はまだ子供同然である。そのため長く話していると突然一人で盛り上がったり、逆に急に落ち込んだり、話が脱線したりということも多々あるが、魔理沙はそれをうまくなだめ、励まし、修正しながら巧みな話術で話の要点を引き出していく。嘘つきだ泥棒だと言われる魔理沙だが、そのスキルを正しい方向に使えば聞き役としてはこの上無く有能と言えるレベルであった。
…今回は久々の正式な依頼ではりきっているという本音はあるが。
「そして藍に気付かれないこと…まあ、こいつは多少厳しいが…」
「…藍さまに見つかったらきっと怒られちゃうよ…怒られるのいやぁ…」
そう言うと親に叱責をくらうのを子供が無条件に恐れるように、たちまち本当の子猫みたく小さくなってしまう。
「大丈夫だ。見つからんようにやるさ」
「…ホントに?」
「藍相手に出来ないことで意地は張らない、つーか張ったら命に関わる。だから嘘は言わん、心配するな(アイツがその程度のことで橙を怒るとは到底思えないが…まあ人間風情に協力仰いだのがばれたら面倒かもしれないな)」
内心苦笑しつつも魔理沙は状況を頭の中で整理していた。
(橙が帽子を失くした経緯は分からんが…仮にも妖獣相手にそんな大それたマネする奴は…心当たりはある。てかアイツ以外いない)
さっきから頭に思い描くのはあの氷の妖精・チルノのことだ。普段からあれは妖精の癖に無駄な地力があるせいで付け上がっており、こういう身の程知らずの蛮行に走ることが間々ある。
(おそらくそれは橙も分かっているはずだ、が…)
並みの妖精なら橙の敵ではない。だがチルノは本気になると、実際自分や霊夢でも油断すると危ないときがある。
(しかもアイツには取り巻きの妖精どもが結構な数揃っている…だから橙も藍の元ならともかく、そうじゃない自分ひとりじゃ無理だと考えた)
しかし実際誰かに協力を頼むにしても藍には間違っても頼めない。まさか紫に頼むわけにはいかないし、霊夢に泣きついても彼女が妖獣ごときの頼みごとを聞き入れるとは考えられない。結局消去法で魔理沙に白羽の矢を立てたのだろう。
(そういうことだったら妖夢とか早苗あたりにでも言えば無償で手伝いそうもんだけどな…まあ深い意味はないんだろうが)
「あの…魔理沙?」
「ああ、悪い。とりあえず依頼内容は大体把握した…それで、だ」
一通り思案した後、改まって魔理沙は橙に向き合った。
「分かっているとは思うが私は何でも屋だ。慈善事業で人助け…もとい、妖獣助けなんかしない。まあストレートに言うと報酬を確認させてもらうわけだが…」
はっきり言って今回のこの程度の依頼など魔理沙からすれば肩慣らしにすらならないのだから報酬など不要なのだが…
「別に報酬は現金である必要は無い。日用品、雑貨、食料品、本、名品、珍品…依頼内容と釣り合いが取れるなら特になんでもいいぜ」
「分かってる…これは絶対失敗してほしくないから…魔理沙が一番喜びそうなものを用意しといた…」
「ほお…」
実際大した期待はしていなかったのだが…橙の表情からはそれが本当に魔理沙を喜ばせるに値するものであるという確固たる自信が見て取れる。
「じゃあ早速見せてもら…お…う……」
「にゃふふ…どう?これなら魔理沙も納得でしょ?」
橙が手持ちのバッグから取り出した物、それは魔理沙のよく知る化け物茸であった。
「魔理沙ってばいつもこの変な茸集めてるって聞いてね、そういえば最近この森でこんな変な茸がいっぱい生えてる場所見つけたなって思い出したの。とりあえずこれは前払い金ってことにして、ちゃんと帽子が返ってきたらその場所の地図を渡すってことで…って、魔理沙?どうしたの?聞いてる…もしかして…これじゃ駄目「我が世の春が来たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」わにゃあぁぁ!!」
茸を目にしてからずっとうつむいていた魔理沙が突然咆哮を発した。
「ま、魔理「よくやった!マジよくやった橙!よしktkr!これでかつる!よしすぐ行こう!今すぐ妖精どもを一匹残らず絶滅させよう!そんですぐに場所を教えろ!答えろ!茸はDOKODA!!!!」分かったから落ち着いて!「おうスマン!喜びのあまりテンション上げすぎちまったZE!HAHAHAHAHAHAHAHAHA!」…」
その後、ハイになった魔理沙とそれを鎮める橙の攻防はしばし続いた…
「ふう、ふう…お、落ち着いた…?」
「ああ、バッチリだ。悪かったなあ、つい舞い上がっちまったぜ」
「…そんなに良かったんだ、この茸…」
「ああ!見てみろこの色!質!ツヤ!これほどの茸は私だって一度二度しか見かけたことないような最上級品だぜ!しかもこれに匹敵する茸が群生しているんだぞ!?テンション上がりすぎておかしくもなるってもんだぜ!!」
「ああ…そうなんだ…」
もはや言葉も返す気力も無いらしくうなだれる橙。しかしこのままつぶれているわけにはいかない。
「それで魔理沙…帽子…」
「フッ、分かってるさ。頭も冷えたし早速行こうぜ」
(…大丈夫かなあ…)
不安が募る。こんな調子でちゃんと魔理沙は目的を達してくれるのか…
「…私が信用できないか?」
突然、こちらの考えを見透かしたように魔理沙が問いかけてきた。
「…え?」
「ま、確かにちょいとふざけ過ぎちまったが…これだけは信じてくれ。私は頼まれごとを引き受けたなら絶対に成し遂げる。お前の帽子は絶対に取り戻す」
「…ち、ちがうよ…魔理沙が強いなんてことは2度も軽くあしらわれたあたしにはよく分かるけど…心配にもなるよ、あたしにとっては大事なことだけど魔理沙にはただの余興にしかならないって…いくらあたしがお子様でも分かるよ…」
「……だったらこうしよう。さっき私は奴らを懲らしめるのは後で、とそう言ったな」
「う、うん…」
「そんな回りくどいことしないで正面から堂々と奴らにケンカを吹っかける。それだけじゃ芸が無いから…八卦炉を一切使わないで奴らを倒す!いや、もういっそレーザータイプの弾幕は全部封印!通常弾幕と派生弾幕オンリーで縛る!どうだ!?こんだけやれば私が本気だとわかるだろ!!」
「……え、ええええええええええええ!?」
絶句、そして驚嘆。無謀、あまりに無謀。いくら圧倒的に格下の相手とはいえ数で圧倒的に勝る相手に自分の得意な戦術を完全に封じて真っ向勝負を挑むなど…
「…ふ、ふざけないでよ!あたしの帽子取り返すんじゃないの!?あたしが信用しないみたいだからって意地張って!それで出来もしないゲーム仕掛けて脅そうなんて酷いよ!」
当然の反応…しかし魔理沙は平然と切り返す。
「私は出来ない賭けは基本しないぜ…」
「…ホントに…出来るの…?」
すると魔理沙は、
「やってみたいことが色々あるんでな。それに…久々に頭を使いたくなってな」
まるで子供のように無邪気な笑顔で答えた。
一方その頃、橙の住居マヨヒガでは…
「…まだ橙は帰ってこないのか…はッ!やはり橙の身に何か…!しかし遊びまわって時間を忘れている可能性も…だとしたらここを離れるわけには…………ぬおおおおおおおおおお!どうすればいいんだぁああ!橙!橙!!ちぇん!!!ちぇん!!!!ちぇぇぇええええええええええええええええええええええええええん!!!!!」
ちなみに藍さまはこの先の話に特に関わったりはしません…
おおざっぱに続くかもしれないね。
「…今年の茸は水気が多すぎるな。やっぱり雨が多く降ったせいか…?」
彼女は魔法使いである。「弾幕はパワー」を信条とし、強力な魔法を乱発する彼女だが、その過程は地道である。元々見つけにくい化け物茸を地道に蒐集し、更にやってみるまでうまくいくか分からない調合を成功させることで、彼女の魔法は初めて流星の如き煌きをみせるのである。普段の彼女ならその情景を思い描き、地道な作業にも愚痴ひとつこぼさず、否むしろ子供の化学実験のように楽しげな表情をみせているのだが…
「クソっ!今思い出しても腹立つあの莫迦天子が!あの野郎、退治されたいとかヌカしときながら派手に暴れまわりやがって!私の八卦炉どうしてくれやがる!」
妖怪の山の一件や月への遠征、ついでに天人の気まぐれなどにより、この一年での彼女のマジックアイテム・八卦炉の負担は膨大なものとなっていた。難題難敵が次々押し寄せる中、ついには八卦炉の魔力出力を強化するための機関・魔力回路が損傷してしまったのだ。
「今のまま大火力の魔砲なんか連射したら八卦炉がバラバラになっちまうし…こーりんの話じゃ補修素材を確保するのにあとふた月はかかるって言うし…」
この惨々たる現状に、終いには彼女の代名詞ともいうべき『恋符「マスタースパーク」』すらも、威力を落とし、射程を縮め、射幅を狭め、という体たらくであった。今もこうして大量の茸を大釜に放り込んでいるがそれは新たな省エネ魔法の開拓、と同時にその魔力を八卦炉の魔力回路の損傷部分の応急処置として使えないかという苦肉の、というより背水の研究であった。
「畜生め、このままじゃMaster(玄人) SparkじゃなくてAmateur(素人) Sparkだぜ…いやMaster (支配人)と考えるならSlave(奴隷)か…?どっちにしたってこれじゃただのレーザーと変わらないじゃないか…アリスが普通に撃ちまくってるあれと…」
普段なら調合中にこれほど無駄口を叩くことはない。だが長雨による化け物茸の不作と、なにより大火力の魔法を使用できないことに魔理沙の苛立ちは頂点に近づいていた。
「ああ撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい撃ちたい……」
…というよりもはや乱射魔(トリガーハッピー)の禁断症状に近い状態である。
「…マスタースパークスターダストレヴァリエダブルスパークミルキーウェイアステロイドベルト…」
ブツブツと独り言を呟きながら見た目も毒々しい粘性の液体が満杯の大釜をグルグルかき混ぜる様は、ある意味魔女らしい不気味な雰囲気を醸しだしていた。
「…あの~」
そんな状態の彼女が、果てしなく珍しい来客があることに気付くはずもなかった。
「…ノンディレクショナルレーザースターライトタイフーンイベントホライズンファイナルスパークドラゴンメテオ…」
「…魔理沙…聞いてる?」
「…オーレリーズソーラーシステムブレイジングスターファイナルマスタースパーク実りやすいマスタースパーク……」
「魔理沙ってば!この白黒泥ぼ「ぬぅうおおおおおおおおおおお!敵かあああああああああ!撃たせろ撃たせろうううたあああせえええろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
「うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
…その日、魔法の森の片隅にすさまじい爆音が鳴り響いた。付近に住む人形使いの魔女は「どうせまたあの莫迦白黒男女が暴れてたんでしょ。まったくキチ○イに刃物とはまさにこのことよね」と後日語った。
完
「………な、わけないわよ!人を無視してしかも攻撃してくるなんてそんなの人間の町のドラ猫だってしないよ!」
「人じゃなくて猫だろ、猫。この猫」
その当の猫と呼ばれた少女・橙は見た目にも目立つ二又の尻尾を逆立たせていた。
「そんなことはどうだっていいでしょ!」
「化け猫。二足歩行型猫。ハイパー猫フルアーマーカスタムMk-2」
「意味わかんない!」
要するに怒っていた。
「ふぅ~~~~!」
猫の威嚇のようなうめき声で抗議の意を表す橙を見て、何故か魔理沙は困った奴だ、とでも言わんばかりな表情を浮かべ、
「なあ橙よ。自分から退治されにくる殊勝な精神は認めてやってもいい、が時を考えてくれ。ブッ放しすぎて八卦炉がやばい」
激しく身勝手なことをほざき始めた。
「依頼人攻撃しといて何よその言い草!危うく黒こげになるとこだったんだよ!」
「何言ってやがる!?黒こげなんて中途半端なマネするか!本気なら跡形も残さん!」
「反論する意味と威張る意味がこれっっっぽちも分からない!」
「……ところで…だ…」
「な、なに?」
「今更だけど…仕事の…依頼…だった…のか?」
「…………………………」
「…………………………」
「………………グスッ…」
「………………グスッ?」
「………うにゃああああ!人間がいじめるううううううう!」
あまりにマイペース(というより傍若無人)な魔理沙の前についに泣き出す橙。
「うにゃあああああああああああああ!ふにゃあああああああああああああああああ!」
「うわ!な、泣くな泣くな!」
さすがの魔理沙も泣く子には勝てない、というより
「お前泣かしたのが藍にばれたら八つ裂きにされちまう!私が悪かったから、な?」
自分勝手ながら切実ではあった。(生命の危険的な意味で)
「要するに帽子を取り返してほしいってことでいいんだな?」
改めて依頼人として橙の話を聞き、魔理沙は事実を整理するように聞き返した。当初から気にはなっていたが、橙の猫のような耳が生えた小さな頭に、常にかぶっていた緑色の帽子が無い。
「で、その帽子はあの湖の妖精たちが持っていっただろう、と。それは確実なんだな?」
「うん、ちゃんと見た。あたしの帽子…藍さまから貰った大切な帽子をあいつらオモチャにして遊んでたんだよ!絶対許さないんだから!」
「まあ、落ち着け。あくまで帽子を取り返したいんだろ?だったら奴らを懲らしめるのは後にとっておけ、な?」
「う、うん…」
いかんせん精神的には橙はまだ子供同然である。そのため長く話していると突然一人で盛り上がったり、逆に急に落ち込んだり、話が脱線したりということも多々あるが、魔理沙はそれをうまくなだめ、励まし、修正しながら巧みな話術で話の要点を引き出していく。嘘つきだ泥棒だと言われる魔理沙だが、そのスキルを正しい方向に使えば聞き役としてはこの上無く有能と言えるレベルであった。
…今回は久々の正式な依頼ではりきっているという本音はあるが。
「そして藍に気付かれないこと…まあ、こいつは多少厳しいが…」
「…藍さまに見つかったらきっと怒られちゃうよ…怒られるのいやぁ…」
そう言うと親に叱責をくらうのを子供が無条件に恐れるように、たちまち本当の子猫みたく小さくなってしまう。
「大丈夫だ。見つからんようにやるさ」
「…ホントに?」
「藍相手に出来ないことで意地は張らない、つーか張ったら命に関わる。だから嘘は言わん、心配するな(アイツがその程度のことで橙を怒るとは到底思えないが…まあ人間風情に協力仰いだのがばれたら面倒かもしれないな)」
内心苦笑しつつも魔理沙は状況を頭の中で整理していた。
(橙が帽子を失くした経緯は分からんが…仮にも妖獣相手にそんな大それたマネする奴は…心当たりはある。てかアイツ以外いない)
さっきから頭に思い描くのはあの氷の妖精・チルノのことだ。普段からあれは妖精の癖に無駄な地力があるせいで付け上がっており、こういう身の程知らずの蛮行に走ることが間々ある。
(おそらくそれは橙も分かっているはずだ、が…)
並みの妖精なら橙の敵ではない。だがチルノは本気になると、実際自分や霊夢でも油断すると危ないときがある。
(しかもアイツには取り巻きの妖精どもが結構な数揃っている…だから橙も藍の元ならともかく、そうじゃない自分ひとりじゃ無理だと考えた)
しかし実際誰かに協力を頼むにしても藍には間違っても頼めない。まさか紫に頼むわけにはいかないし、霊夢に泣きついても彼女が妖獣ごときの頼みごとを聞き入れるとは考えられない。結局消去法で魔理沙に白羽の矢を立てたのだろう。
(そういうことだったら妖夢とか早苗あたりにでも言えば無償で手伝いそうもんだけどな…まあ深い意味はないんだろうが)
「あの…魔理沙?」
「ああ、悪い。とりあえず依頼内容は大体把握した…それで、だ」
一通り思案した後、改まって魔理沙は橙に向き合った。
「分かっているとは思うが私は何でも屋だ。慈善事業で人助け…もとい、妖獣助けなんかしない。まあストレートに言うと報酬を確認させてもらうわけだが…」
はっきり言って今回のこの程度の依頼など魔理沙からすれば肩慣らしにすらならないのだから報酬など不要なのだが…
「別に報酬は現金である必要は無い。日用品、雑貨、食料品、本、名品、珍品…依頼内容と釣り合いが取れるなら特になんでもいいぜ」
「分かってる…これは絶対失敗してほしくないから…魔理沙が一番喜びそうなものを用意しといた…」
「ほお…」
実際大した期待はしていなかったのだが…橙の表情からはそれが本当に魔理沙を喜ばせるに値するものであるという確固たる自信が見て取れる。
「じゃあ早速見せてもら…お…う……」
「にゃふふ…どう?これなら魔理沙も納得でしょ?」
橙が手持ちのバッグから取り出した物、それは魔理沙のよく知る化け物茸であった。
「魔理沙ってばいつもこの変な茸集めてるって聞いてね、そういえば最近この森でこんな変な茸がいっぱい生えてる場所見つけたなって思い出したの。とりあえずこれは前払い金ってことにして、ちゃんと帽子が返ってきたらその場所の地図を渡すってことで…って、魔理沙?どうしたの?聞いてる…もしかして…これじゃ駄目「我が世の春が来たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」わにゃあぁぁ!!」
茸を目にしてからずっとうつむいていた魔理沙が突然咆哮を発した。
「ま、魔理「よくやった!マジよくやった橙!よしktkr!これでかつる!よしすぐ行こう!今すぐ妖精どもを一匹残らず絶滅させよう!そんですぐに場所を教えろ!答えろ!茸はDOKODA!!!!」分かったから落ち着いて!「おうスマン!喜びのあまりテンション上げすぎちまったZE!HAHAHAHAHAHAHAHAHA!」…」
その後、ハイになった魔理沙とそれを鎮める橙の攻防はしばし続いた…
「ふう、ふう…お、落ち着いた…?」
「ああ、バッチリだ。悪かったなあ、つい舞い上がっちまったぜ」
「…そんなに良かったんだ、この茸…」
「ああ!見てみろこの色!質!ツヤ!これほどの茸は私だって一度二度しか見かけたことないような最上級品だぜ!しかもこれに匹敵する茸が群生しているんだぞ!?テンション上がりすぎておかしくもなるってもんだぜ!!」
「ああ…そうなんだ…」
もはや言葉も返す気力も無いらしくうなだれる橙。しかしこのままつぶれているわけにはいかない。
「それで魔理沙…帽子…」
「フッ、分かってるさ。頭も冷えたし早速行こうぜ」
(…大丈夫かなあ…)
不安が募る。こんな調子でちゃんと魔理沙は目的を達してくれるのか…
「…私が信用できないか?」
突然、こちらの考えを見透かしたように魔理沙が問いかけてきた。
「…え?」
「ま、確かにちょいとふざけ過ぎちまったが…これだけは信じてくれ。私は頼まれごとを引き受けたなら絶対に成し遂げる。お前の帽子は絶対に取り戻す」
「…ち、ちがうよ…魔理沙が強いなんてことは2度も軽くあしらわれたあたしにはよく分かるけど…心配にもなるよ、あたしにとっては大事なことだけど魔理沙にはただの余興にしかならないって…いくらあたしがお子様でも分かるよ…」
「……だったらこうしよう。さっき私は奴らを懲らしめるのは後で、とそう言ったな」
「う、うん…」
「そんな回りくどいことしないで正面から堂々と奴らにケンカを吹っかける。それだけじゃ芸が無いから…八卦炉を一切使わないで奴らを倒す!いや、もういっそレーザータイプの弾幕は全部封印!通常弾幕と派生弾幕オンリーで縛る!どうだ!?こんだけやれば私が本気だとわかるだろ!!」
「……え、ええええええええええええ!?」
絶句、そして驚嘆。無謀、あまりに無謀。いくら圧倒的に格下の相手とはいえ数で圧倒的に勝る相手に自分の得意な戦術を完全に封じて真っ向勝負を挑むなど…
「…ふ、ふざけないでよ!あたしの帽子取り返すんじゃないの!?あたしが信用しないみたいだからって意地張って!それで出来もしないゲーム仕掛けて脅そうなんて酷いよ!」
当然の反応…しかし魔理沙は平然と切り返す。
「私は出来ない賭けは基本しないぜ…」
「…ホントに…出来るの…?」
すると魔理沙は、
「やってみたいことが色々あるんでな。それに…久々に頭を使いたくなってな」
まるで子供のように無邪気な笑顔で答えた。
一方その頃、橙の住居マヨヒガでは…
「…まだ橙は帰ってこないのか…はッ!やはり橙の身に何か…!しかし遊びまわって時間を忘れている可能性も…だとしたらここを離れるわけには…………ぬおおおおおおおおおお!どうすればいいんだぁああ!橙!橙!!ちぇん!!!ちぇん!!!!ちぇぇぇええええええええええええええええええええええええええん!!!!!」
ちなみに藍さまはこの先の話に特に関わったりはしません…
おおざっぱに続くかもしれないね。
これって続きますよね…?それならば楽しみにしています。
面白かったですし、この後の展開も楽しみです。
続編にwktkさせていただきますわ