「真っ白茸の傘の下~♪、大雪小雪で雪だるま~♪」
今日はちょっと風が強めの朧月夜。
風の音に負けないようにちょっと張り切って歌ってます。
嵐の日でもお客に届ける私の歌声。
さぁさぁ今日の聴衆はどなたでしょうか?
「へぇ、ここが妖怪のやっているという屋台ね」
「えぇ、あの鬼の娘がよく来るといっていましたからそれなりに良いお店なのでしょう」
「いらっしゃ~い♪」
最初のお客は青と白と桃の少女と黒白ふわふわの人。
ってかあの桃食べられるのかしら?
「こんばんは。二人空いているかしら?」
「どうぞどうぞ~♪今日はお客さんが最初だからどこでも空いてるよ~♪」
二人が椅子に腰掛けると、私は焼いた肝を出した。
「これは『お通し」ですか?」
「何、『お通し』って?」
「飲み屋などで最初に出されるおつまみですよ」
「へぇ~」
ふわふわな人が桃の人に説明している。
桃の人はあまり外で飲んだことないのかな?
「お通しって言えばお通しだけど、お客さんは始めての人だからサービス品だよ♪」
普段はお通しなんて出さないけど、今日は気分がいいから何となく♪
「あら、それはありがとう」
「へぇ、貴方って結構いい妖怪なのね」
「それほどでも~♪」
「全く、あの子鬼といいあいつらもこれくらいまともなら・・・」
「・・・総領娘様がそれを言うのもどうかと」
「何かいった?」
「いえ、この肝焼きが美味しいと言っただけです」
「うん、たしかに美味しいわね。ねぇねぇ、ここのオススメって何かしら?」
桃の人が聞いてきたから、私は歌うのをやめてちょっと考える。
「う~んと・・・今日のオススメは木の芽と山菜をつかった揚げ物や酢の物系かな。もちろんヤツメウナギは常にオススメだけどね♪」
「じゃあ、それを頂戴。あ、あとなにか飲み物を」
「お酒?」
「それ以外に何を飲むのよ?」
「私ももらえますか」
「は~い♪」
桃の人が苦笑して言う横で、ふわふわの人が同じものを注文してきた。
「真っ黒カラスに白鳥の奥さん♪生まれた子供はアヒルの子~♪」
「へぇこれがもう一つの名物、意味不明理解不能の歌ね」
「総領娘様、本人の前でそれをいうのは・・・」
・・・いいもん、慣れてるから。
「おう、やっているかい?」
「邪魔するわよ」
「いらっしゃい~♪」
次のお客さんはなにか瓶に入れた植物みたいなものを持った黒白魔法使いと、赤白緑のお花の妖怪。
なんか珍しい組み合わせ?
「あら、貴方は霧雨の・・・」
「お、天子と衣玖か」
「知らない顔ね。天人と竜宮の使い?」
「始めまして、比那名居の天子よ」
「永江衣玖と申します」
「風見幽香よ」
「とりあえず、酒となにかくれ」
「は~い♪」
和やかに自己紹介をしている横で、魔理沙が注文をする。
・・・でも気のせいだと嬉しいけれど、幽香と桃の人の空気がちょっとだけ張り詰めているような?
「そうだ!なぁなぁ、天界って地上とは違った植生をしているんだよな?」
魔理沙はそんな空気に気付いていないのか、桃の人に急に尋ねた。
「しょくせい?」
「あ~、地上にはない植物があるってこと」
「まぁ、確かに地上にはない植物とかあるけど・・・」
「じゃあ、これ知らないか?」
桃の人がそう言うと、魔理沙は手に持った瓶を見せた。
中には真っ黒で変なものが入っていた。
なんだろう?見た目は花みたいだけど全体がぼやっとしていてちゃんと見えないし・・・?
ん~花びらみたいなものの真ん中に種みたいのがあるけど、種というより真っ黒いビー玉みたい。
下のほうは根みたいなものがうにょうにょ生えてるし、一番近いのは向日葵かなぁ・・・?
というか、これ本当に植物?
「・・・なにこれ?本当に植物??」
桃の人もおんなじ風に思ったみたい。
私も歌うのをやめてまじまじと見ちゃった。
「多分・・・魔法の森で見つけて、見た目が向日葵っぽいから幽香に聞いたんだが幽香も知らないらしくてさ」
「というか、私が知らないのに他の人が知るわけないでしょう」
幽香は自信たっぷりに言っているけど、わからないってことは自慢になんないと思うよ?
「でも、変な植物ね。触わっていい?」
「だ、駄目だぜ!」
桃の人が瓶を開けて触ろうとしたら、魔理沙が急に取り上げた。
「少しくらいいいじゃない」
「いや、こいつは触れないんだ」
「はい?」
触れない?どういうことだろう??
「こいつは魔法の森で見つけたんだが、最初は見えなかったんだ」
「見えない?」
「そうだぜ。ただ、月の光が当たるとこんな風に見えるようになるんだ」
「今見えてるじゃない」
私にも見えてるよ。
「これは魔法で見えるようにしているだけだぜ。あと、触ると砂のように崩れて消えてしまうんだ」
「じゃあ、どうやって採ったのよ?」
「魔法で空間を固定して、そのままこの瓶に封入したんだぜ」
「ふ~ん」
ん~良くわかんないけど、普通は見えない触れないっていうから向日葵の幽霊みたいなものなのかな?
「ねぇ、悪いんだけど私にもお酒をくれないかしら?」
「あ、は~い♪」
「そうそう、一番高い奴ね。今日はこいつの奢りだから」
「ち、ちょっと幽香!?」
「何?頼み事しておいて何にもなしなのかしら?」
「お前、何の役にも立っていなかったじゃないか!!」
「あら、私がわからないってわかったじゃない。私がわからなかったら他の誰にもわからないわ。それがわかっただけ良かったじゃない」
「・・・納得いかないぜ」
ん~?まぁとりあえず注文どおりに秘蔵のお酒をだしときましょうか♪
「ちょっと待て、どうしてそんな大事そうにしまってあるお酒を出すんだ!?」
「あら、いい感じのお酒ね」
「年に数本しか作られない大吟醸だよ~♪」
前に来てくれた酒屋をやっているお客さんが売ってくれたんだよね~♪
いや~、随分と高かったなぁ~♪
「や~め~て~く~れ~!」
魔理沙の叫び声が響くけど誰も聞いていない♪
もちろん私も聞こえない~♪
「赤いおめめに白い肌~♪真っ黒お腹の雪兎~♪」
あのあと桃の人とふわふわの人、魔理沙と幽香は帰っちゃった。
でも、大きな大きな忘れ物一つ。
「それにしてもこれ、どうしよう~?」
目の前に真っ黒向日葵瓶詰め一つ♪
大金落とした自棄酒娘の置き土産?
どうして忘れるこんなもの~♪
「こんばんは。空いているかしら?」
「邪魔するわよ~」
「いらっしゃ~い♪」
「あら~、私達だけなのね~」
「そうみたいね。あ、まずはお酒をくださいな」
「はいは~い♪」
次のお客は隙間さんと亡霊さん。
「あら?今日は珍しい花があるのね。なにかしら?」
お酒を手にした亡霊さんが真っ黒向日葵を興味深そうに見つめた。
「ん~、私にもわからないの~♪魔理沙の忘れ物なんだけどね~♪」
「あら、どこで見つけてきたのかしら?こんなもの」
「あら紫、知っているの?」
真っ黒向日葵を見た隙間さんは、杯を傾けながら懐かしそうに眼を細めた。
「それは『ツキノヒカリバナ』って呼ばれるものよ。その名のとおり月の光の中でしか人には見れないものよ」
「へぇ、変った花なのね」
「花・・・とはいえないかもね。これは私と同じように隙間に住む存在。こっちの常識では測れないわ」
へぇ~、隙間さんと同じだなんてすごいものなんだね~?
「ふ~ん、てっきり隙間って紫の専売特許だと思っていたけど、そうでもないのね」
「確かに私の能力は特殊だし、私以外に隙間妖怪はいないわよ。でも完全に他と独立しているわけではないわ。そもそも全く交わらなければこの世界に存在なんか出来ないわ」
「そんなものかしらねぇ~」
「そんなものよ」
??良くわからないけど、隙間さんは一人じゃないってことなのかな?
「それより、おつまみが欲しいわ。山菜系で何か揚げ物はあるかしら?」
「ありますよ~♪丁度今日のオススメ料理~♪」
「それは運がいいわね。じゃあそれを適当にもらえるかしら」
「私は八目鰻がいいわ~」
「は~い♪」
私は早速山菜を取り出した。
「くるくるくるくるなるとの渦巻き♪紅白赤白巫女の色~♪」
「そう・・・妖夢も随分独り立ちしてきたのね」
「えぇ、でも未だにちょっと難しいことがあると反射的にこっちを向くのよね~」
朧月が中天を過ぎた頃。
隙間さんと亡霊さんはお互いの家族について話が盛り上がってるみたい?
「紫の藍みたいにもうちょっと自立してもいいとも思うのよね~」
「そんなこといっても、いざ離れると寂しいものよ?」
「それは経験からかしら?」
「ふふふ、ご想像にお任せするわ」
「はい、串揚げおまちど~♪」
私は揚がった串揚げを差し出す。
ついでにコップにお酒を注いじゃおう~♪
「ありがとう~。そういえばミスティアはどう思う~?面倒を見てきた人が自立するのって寂しくなるものかしら~?」
「ん~?子供は出来たことないからよくはわからないけど~♪」
「子供じゃないって~」
「似たようなものでしょう」
亡霊さんの言葉に隙間さんが突っ込んだ。
普段の二人を見てると私もそう思う~♪
「気にしていた番の雛が旅立つのは確かに寂しいかな~」
「そうなの~?」
亡霊さんが意外そうに聞いた。
まぁ確かに私達空を飛ぶものは、雛が巣立っちゃえばそのままのが多いからねぇ~。
「親鳥だってかなりつきっきりで世話するから、やっぱりそれなりに寂しいものみたいだよ?でもそれが自然だし、それにその雛が番になって新たな雛の顔を見せてくれるのは大きな楽しみだしね♪」
「そんなものかしら~?」
「ミスティアの言うことも一理あるわね。自立も寂しいだけじゃなくて、次の楽しみを与えてくるか・・・ん~、私も案外子離れできていないのかしら?」
「紫には既に次の楽しみにいるじゃない~」
「そうそう♪思い出してくれないと橙が可哀想だよ~?」
「・・・それもそうね」
私と亡霊さんの言葉に隙間さんは苦笑して、コップを煽った。
「でも、寂しいものは寂しいのもよ」
「そうね~、私も覚悟しておこうかしら」
「いいじゃない。自立したからって離れるわけじゃないんだから~♪」
「ま、そうなんだけどね~」
亡霊さんが笑いながらコップを出してきたので、私はそれにお酒を注ぐ。
「紫様、ここにいらしたんですか」
「幽々子様探しましたよ~」
丁度その時、話題の二人が現れた。
「飲むのも良いですが、程ほどになさってくださいね。明日も用事があるんですから」
「出かけるなら書置きぐらい残して置いてください~!」
「あら、丁度いい藍も一緒に飲みましょう」
「妖夢もこっちに来なさい。ここに来て何も注文せずに帰るのは無粋よ」
「「ですが・・・」」
「「いいからいいから」」
あらあら、きっと連れ戻すつもりだったんだろうに、結局お客さんが二人増えちゃった。
「「それじゃ二人にお酒と何かつまみをお願いね」」
「紫様!」
「幽々子様~!」
「はいは~い♪」
朧月夜に響き渡る風と歌と四人の騒ぎ声。
夜明けまでにはまだ少し・・・。
紫様と幽々子の従者たちへの話も、やっぱり親?心なのですね。
いつか橙も立派な式になるのでしょうし、それは楽しみなのかもしれませんよね。
面白かったですよ。
それにしても、平行植物……新種と見るか、幻想と見るか、迷いどころですよね。
やっぱり楸さんのミスティアの屋台モノはいいですね~。
次回作も期待して待ってますね。
通常での目視は不可能で月光によってのみ霧の様な輪郭を現すらしいんで、こっちで正確に把握できている人っていないのかも。しかし、この植物が出てきた意味があんまり…
でも、良いですね。こういうの。
幽香との絡みを予想したが何もない
死にキャラをつくるのはよろしくない
ただ天子と衣玖があまり話しに絡まなかったのが残念です。
話の中心に据えるには知名度的にちょっとツライかも。
待っていてくださった方もおられて、非常に嬉しいです。
平行植物、知っておられる方が結構いらっしゃたようですね。
前にこの本を読んだとき何となく幻想と相性がいいように思ったのですが、知名度があまり高くないようなのでどうしようかな~と思ってて、結局こんな風に知っても知らなくても同でもいいような感じに置くことにしたんですけどね。
まぁ、そのために中途半端になってしまったようです。
天子と衣玖はすみません(汗)
どうもあの二人は書きづらくて、結局話しに全然絡ませられなかった・・・。
天子は言葉遣いが丁寧なのに不遜というのを上手く表す方法が見つからず、衣玖はでしゃばらないということが引っかかって、結局空気に・・・。
次の登場時にはもっと絡めるよう努力します。
そういえば19さんの見て思ったのですが、タグとかにカップリング要素なしとか書いておいたほうがいいのでしょうかね?
いえ、19さんがそれを期待していたかどうかはわからないんですが、それを期待して見る人もいるかもしれませんし・・・。
自分はキャラ同士のカップリングとかネタ的二次設定は使わないわけですし・・・ん~?
新作が読めて嬉しいです♪
私も趣味全開でミスティアの屋台を描かせて頂いてます。
この雰囲気が凄く好きなので、次も期待しています~^^