*この話は第3話に当たります。1話、2話を読んでいないと理解しにくい内容です。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。が、今回から少しファンタジーっぽい要素が出てきます。でも、剣も魔法もありません。
*秘封倶楽部の2人にはあまり出番の無いお話です。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。
「Pardon me?」
「だから、『秘封倶楽部』で」
「2回も言わなくていいわよ!」
「ひどっ!自分で聞き返してきたくせに」
そんなことは些細な問題だ。こいつは今なんと言った?「確かめてみよう」?それはつまり学生の貴重な夜の時間を、私の貴重な睡眠時間を、酔狂で奪うということか?短い付き合いだが確信できる。魔理沙のことだ。1日2日で諦めるとは思えない。「明日には何かが起こる気がするんだぜ!」とか言って、連日付き合わせるに決まっている。そうなれば、その都度睡眠時間が奪われていく。それだけではない。毎日の密かな楽しみである、熱いお茶でHOT一イキ!タイムまで。そうまでして、なぜ私は生きなければならないというのか?お茶……睡眠……お茶……成長
「……殺るしかないか」
「なぜそこで私を見る!?そのハイライトの無い瞳はやめてくれ!」
「飛躍しすぎよ霊夢。お茶あげるから落ち着きなさい。はい、これ」
ビクッと震える魔理沙と私の間に、お茶が介入してきた。それを受け取り、一口口に含んで、
「間接キス、ね。奪われちゃった」
「ぶふぉっ!」
「ぶっ!」
吹いた。
「どう?落ち着いた?」
「今ので落ち着くと思ったの!?」
「軽い冗談じゃないの。それに、虚ろな瞳で殺意垂れ流しの状態よりは落ち着いてるわ」
そう言って、私の手からペットボトルを取り、さとりも一口。間接キス、って、何を考えてるんだ!女同士で気にするようなことじゃないだろうに。それにしても、さとりの唇って柔らかそうだなぁ。小さめだけどふっくらとしてて……
「そんなに見詰められても、唇くらいしかついてないわよ?」
「なっ、別に見詰めてなんか!」
「そう?ならいいけど。今度からこの手の冗談は程ほどにしておくわ」
そう言ってくすくすと笑うさとり。わざと言ってるだろこいつ。人をからかいおってからに。
「おい、何時まで私は放置されるんだ?」
と、左から妙な声がするので、思わずそちらを見た。そこに居たのは妙に顔が水分に満ちた魔理沙だった。そんな暑いか、今日?
「何そんなに汗かいてんの、あんた?」
「誰が好き好んでこんなカテキンたっぷりの汗かくんだよ!」
「番茶はカテキンよりタンニンよ?」
「どうでもいいんだよ、そんなことは」
「はい、タオル」
「おう」
さとりから受け取ったタオルで顔をごしごしとぬぐい始めた。そう言えば、魔理沙の方を見ながらお茶を吹いたような気もする。というか、わざわざそのまま待機してたのか?律儀な奴だ。
「やれやれ、酷い目に遭ったぜ」
「自業自得よ」
「あの状況のどこら辺がだよ?」
「多分、魔理沙が『確かめてみよう』って言ったのが業なんでしょ」
「その通り」
「……納得いかないぜ」
そうこうしているうちに、休み時間が終わり、先生が入ってきた。家庭科の、秋……お芋ちゃんだ。
「もしもし、メリー?どうしたの?」
「え?境界が変?」
「薄くなったって……どこもなの?」
「回った所は全部曖昧になってた?ということは、こっちにあるのもそうなのかしら?」
「そうね、あなたがいないと確認しようがないでしょうし。わかったわ、近づかないようにする」
「もう切るの?ホントに用件だけね」
「え?なんでさっきからあなたの言うことを繰り返すのかって?だってそうしないと読んでる人がわからないでしょう?」
「こっちの話よ。それじゃあね。機会があればまた飲みましょ♪」
チン…………
「ふむ、境界がねぇ?おっと、さっさと書類片付けなきゃ」
「またコッペパンなのね?」
「今日こそあいつに勝つつもりだったのに……」
「3日連続で同じ人なの?」
「あぁ、同じ一年の奴みたいでさ、あいつの方が階段に近いんだよ。どうしても出遅れるんだ」
「あれ?でも、今日はうちらのクラス、チャイム鳴る少し前に終わったわよね?」
「うぐっ」
「抜かれたの?」
「だってあいつ、2階の窓から飛び降りて来やがったんだぜ!不親切にもスパッツ装備で。年頃の女の子がパン1つにそこまでするか普通?」
スパッツを穿く事のどこら辺が不親切なのかはわからないが、チャイムと同時に「おっしゃあ!」とか言いながらダッシュするのも、充分普通じゃないと思う。まぁ、そのおかげで毎回席を確保できるんだからありがたいっちゃありがたいけど。
「大体、そんなに美味しいの?メロンパンならわかるけど、スイカパンって」
「それが知りたいから買いたいんじゃないか」
「真理ね」
昼休み。私たちは3人で学食に来ていた。1200人を超える生徒を抱える学校だけあって、相変わらず混んでいる。私はカツ丼、さとりはキツネ蕎麦。魔理沙は購買のパンだ。連日、一日限定1個の『S(世界一)O(大きな)S(スイカ)パン』とやらを買いに走っているようだが、毎日コッペパンを食べている。毎回同じ人が買っている様だが、話からすると相当なつわもののようだし、連敗記録は何処まで伸びるのだろうか?カツ丼をぱくついていると、一足先に食べ終わった魔理沙が「そうそう、」と話しかけてきた。こいつ、よくコッペパンを単品で食べられるな。
「さっきの話だけどさ、オカルトサークルでもあるわけだろ?吸血鬼なら立派に範疇じゃないか」
その話か。そう言えば『秘封倶楽部』とやらはそんなサークルだったなぁ。さとりが蕎麦を啜り終えて、ご馳走様をしてから会話に参加し始める。
「それはそうだろうけど、そもそもオカルトなんか関係無いかもしれないわけでしょ?」
「ところがどっこい、こいつを見てくれ。どう思う?」
そう言って魔理沙が差し出したのは例の地図帳にはさまれていたもの。
「学園の地図の、コピー?」
「そうさ。で、その女学生が倒れてた場所って、ここら辺なんだろ?」
「えぇ……あら?」
魔理沙が指差した場所を見て、さとりの表情が少し変わった。私も覗き込んで見ると、すぐ近くには印が付けられていた。と言うことは、
「境界の、傍?」
「あぁ。どうだ?面白くなってきたような気がしないか?」
そう言って魔理沙は不敵な笑みを浮かべた。それにしてもこいつ、境界の場所に眼を通してたのか。意外だった。
「何の考えもなしに確かめてみようなんていった訳じゃないんだぜ?どうだ恐れ入ったか」
偉そうにふんぞり返ったって、胸の大きさは変わらないわよ。多少は恐れ入ったけど。ふと、地図帳に影がさす。誰かが私とさとりの間から顔を出してきた。
「あややや、なんですかこれは?」
そういって覗き込んできたのは肩口辺りまで伸びた黒髪に、くりっとした大きな瞳が印象的な少女だった。スカートは、膝上15cmくらいか?すらっとした足からは、スポーティな感じが漂ってくる。そんな彼女を見た魔理沙が、目を見開いて大声を上げた。どうやら知り合いらしい。
「お前、C組の!」
「そう言うあなたは、確か……誰でしたっけ?」
きょとんとした顔で返す彼女に、魔理沙がその場で崩れ落ちた。知り合いじゃないのね。そんな魔理沙を見て彼女が笑顔を浮かべた。
「冗談ですよ。ここ2、3日私の後ろをついて来てる人ですよね?コッペパンの人。ぷぷっ」
「よし、その喧嘩買った!」
やっぱり顔見知りのようだ。歯軋りする魔理沙を、楽しそうに嘲笑っている。すんげー、嬉しそうな顔で。と、何を思ったのか急な真面目な顔つきになった。
「自己紹介してませんでしたね。私は1-Cの、清く正しく美しい新聞記者、射命丸文です。よろしく」
自分で美しいってぬかしやがった。まぁ、確かに美少女だろうけども。背筋を伸ばすと、私よりは少し背があるだろうか?さっき足元を見たときにも思ったが、スレンダーな体型だ。このごろ流行の女の子体型という奴だろうか?全体的にきゅっと引き締まった、細い体のクセにあるべきところはそれなりにある。どうせ私たちは貧相ですよ。けっ!
「急に舌打ちするなんてはしたないわよ、霊夢。なんか失礼なこと考えてそうだし。えっと、射命丸さん?」
「はい、なんでしょう?」
「スイカパンって、美味しいの?」
さとりにジト目で見られた。全員の胸を見比べてから舌打ちしたのがばれたらしい。その後の質問だが、それは私も気になる。3日連続でダッシュして買うのだからやはり美味しいのだろうか?魔理沙も気になるらしい。ジトーっと、射命丸さんを見つめている。
「私のことは呼び捨てで構いませんよ。で、パンの味ですが、味自体はそれほどではないですが、調味料が味を引き立ててくれるんですよ」
「「「調味料?」」」
パンに?スイカだから塩か?と思ったが、ニンマリした顔から返ってきた答えは全然違う物だった。
「『勝利の味』がするんですよ。後ろの人の悔しそうな顔見てから食べると、もう最高!」
「よろしい、ならば戦争だ。表に出ろ!」
遂に魔理沙が立ち上がった。完璧におちょくられてるもんねぇ。気持ちはわからんでもないが、ここは食堂だ。さとりと2人で宥めにかかるとしますか。
「まぁ、落ち着きなさい。周りの人が何かと思うでしょ?」
「そうよ、慣れれば敗北の味が却って美味しくなるかもしれないじゃないの」
「うぐぐ」
とりあえず魔理沙を座らせることには成功したが、さとりの意見はどうかと思う。そんな私たちを見て、文、でいいのか?なんか楽しそうに笑っている。
「仲良いんですねぇ。横、失礼しますよ?」
そう言って魔理沙の横に腰かけた。そんな彼女を眺めていたさとりが、何かを思い出したように文に話しかけた。
「新聞部の射命丸文って、あなたもしかして、文々。じゃないの?」
「あ~、ご存知でしたか?」
「それはまぁね。2人もいる苗字じゃないし」
それを聞いて私も思い当たった。文々。こと射命丸文。
「なるほど、魔理沙が負けるわけだわ」
「あん?どういうことだ?」
「魔理沙は外部生だから知らないでしょうけど、中学の時から有名人なのよ、彼女は。『学園最速の女』って」
「確か、100m11秒台だっけ?そのくせ新聞部だってんだから質悪い、って、体育の先生が歯軋りしてたわね」
「11秒台?!おま、日本記録だって11秒36なんだぞ!」
「いや~、授業で計っただけで、公式タイムでもなんでもないですから。足に自信はありますが、これは、現場に超特急で向かうために貰った才能ですよ。記録なんかどうでもいいんです」
そう言いながらもどこか自慢げだ。魔理沙の話からすると、11秒台というのはやはり速いらしい。とは言え、その才能でついたあだ名が
「で、もう1個のあだ名が『パパラッチ』と」
「どうせ、この特ダネとやらもあんたが書いたんじゃないの?」
「あれ?なんか馬鹿にしてませんそれ?私はきちんと取材した上で書いてるんですよ。でなきゃ1年の記事なんか載せてもらえるわけないじゃないですか。他の新聞サークルとの競合もあるんですから。ま、それはさておき」
文の手にはいつの間にか手帳とボールペンが握られていた。手帳にはなんか名前みたいのが書いてある。『文花帖』?何て読むんだ?『あやはなちょう』、いや『ぶんかちょう』か?そう言えば、何で話しかけてきたんだっけこいつ。
「その広げてる地図ですけど、何ですかそれ?現場の近くに印がついてますけど、それ以外の場所にも1箇所ついてますよね?もしかして、何か知ってるんじゃないですか?」
身を乗り出して尋ねてくる彼女の様子は、TVなどでよく見る新聞記者のそれだった。輝く瞳から教えて光線が出てる気がする。とは言え、どう説明したもんか。下手なことを言うと、私たちが変人として記事にされそうな気もするし。隣のさとりも困惑した表情を浮かべている。
「お前、ネタをタダ聞きする気なのか?」
そんな微妙な沈黙の中、おもむろに魔理沙が口を開いた。
「はい?」
「なんだか咽喉が渇いたなぁ。霊夢たちは咽喉渇かないか?」
そう言いながら、さり気無く腕時計を見せてくる魔理沙。なるほどそういう事か。ここは魔理沙に合わせるとしよう。
「あ~、確かにお茶が飲みたい気もするわね」
「私も、ポーシ○ン飲みたくなってきたわ」
「え?え?」
「咽喉が潤えば、上手く言葉が出そうな気がするぜ?」
「うぅ……わかりましたよぅ。買ってくれば良いんでしょう。部費で落ちるかなぁ?」
眉を八の字にしながら立ち上がる文。ある程度彼女が離れた所で3人でアイコンタクトを取る。
「やれやれ、買ってきましたよ?全く、なんで○ーションなんか売ってるんですかねここは……って、いない?!」
悪いけど、次は体育なのよ。
放課後、一度寮に戻り、私服に着替えてから部室へと向かう。この後どうするかに関して話し合いつつ、皆で明日の予習をしようということになったからだ。出来ることなら予習だけで終わって欲しいところだが、魔理沙の話も気にならないといえば嘘になる。まさかとは思うが、もしかしたら、という思いがあるのも事実なのだ。いや、偶然に決まってるけどね。
寮から歩くこと10分。ようやく部室塔についた。鍵を借りようとしたところ、魔理沙が先に借りているようだった。部室まで来てドアを開けたところ、ムスッとした顔の魔理沙と、
「お帰りなさい♪はい、ご注文のお茶です」
朗らかな笑顔のパパラッチがいた。
「何であんたがいるのよ?」
「こちらとしては、何でさっきあなたたちがいなかったのかを聞きたいところですけどね」
「生憎、体育の授業だったのよ。着替えなきゃいけなかったからね。で、良くここがわかったわね?」
「A組の方に聞いたら、すぐにこのサークルのことを教えてくれましたよ。サークル名がわかれば、部室の場所なんてすぐにわかりますとも」
まさかわざわざ調べてくるとは。流石パパラッチだ。ここまでくると頭が下がる。ちなみに2人も私服だ。文は白いブラウスに黒のキュロットスカート。魔理沙は白Tに黒のジャケット、下はデニムだ。
「で、何なんですこのサークル?魔理沙さんに聞いても『他の連中が来たら教えてやるよ』としか答えてくれないんですよ。さっきの地図といい、怪しげなサークル名といい、絶対何かあるはずです。記者の勘が教えてくれるんですよ!」
さてどうしたもんか?そう思っていると、扉が開く音がした。3人目もいらしたようだ。水色のブラウスに薄紫のロングスカート。その手には傘が握られている。そう言えば、夕立が降るとか言ってたっけ?窓にはいつの間にか水滴がついていた。
「あら? 」
「ど~も~」
「ポー○ョン届けに来てくれたのね?」
「そうですとも。はいどうぞ」
「ありがと。じゃ、雨が降ってるから足元に気をつけて帰ってね?」
「ご親切にどうも。それじゃ失礼しますね」
笑顔で回復薬を受け取った後、自然な流れでドアを開くさとり。それについ流されたのか、文が部室から出て行き、さとりに締め出された。そしてさも何事もなかったかのように教科書を取り出す。実に鮮やかな手並みだった。
「さ、それじゃ、古文から」
「って、ちょっと!何を流れで追い出してくれてるんですか!」
この作戦の欠点といえば、内側から鍵がかけられないことだろう。我に返ったらすぐに部室に戻ってきた。残念。
「あら?昼に頼んだ飲み物を、今頃になって届けにきてくれたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょう。取材です取材!あなたたちの秘密を洗いざらい白状してもらいます!」
呆れ顔のさとりに、ビシッとペンを突きつける文。気合充分だ。確かに、何か聞くまで帰りそうにない。そんな彼女を見て観念したのか、さとりが溜息を一つつき、語り始める。
「ばれたのなら仕方ないわね。実は私は超能力者なの。魔理沙が常に先行く未来人で、霊夢はおとめ座銀河団の外れの銀河に住む宇宙人よ。さっ、歩いてお帰り」
「ふむふむなるほど……って、帰りませんよ!何ですかその適当な説明?おとめ座銀河団の外れ在住って、地球人みんなそうじゃないですか!」
そーなのかー。詳しいな2人とも。じゃあ、さとりは嘘は言ってないじゃない。
「私は遠回しに『暴走野郎』って言われた気がするぜ?」
「それはどうでもいいんです。ホントのこと話してくださいよ」
「と言われてもねぇ……どうする?」
微妙に困った表情でさとりが私に尋ねてきた。ホントにどうしようか。魔理沙とも顔を見合わせてみたが、やっぱりメンドクサそうな表情をしている。やっぱ面倒ごとに巻き込まれたな。仕方ない。
「そう言うなら説明はしてあげるけど、どうせ無駄だと思うわよ?」
「わからないじゃないですか」
「わかったわ。いい?」
それから、紫から聞いた話をかいつまんで文に説明した。境界の話、秘封倶楽部の活動内容、私たちはただ巻き込まれただけ。そんな感じのことを、ところどころさとりの補足を受けながら説明する。律儀にも彼女はそれをメモしていた。そして一通り聞き終わった後、ペンで頭を書きながら一言漏らした。
「信じがたいですね」
「そうでしょうとも。私だって信じてないもの。今回の件だって偶然に決まってるわ。だから無駄だって言ったのよ」
「でも、全く信じていないわけでもないんでしょう?」
そう言って身を乗り出してくる。その目はなんだか輝いて見えた。好奇心丸出しの顔って言うのは、こういう表情のことを言うのだろう。
「なんでよ?」
「現にこうして集まってるじゃないですか。ホントに信じてないのなら、わざわざここに集まって予習しなくたって良いでしょう?」
それもそうだ。彼女が知っているかどうかは知らないが、私は1人で部屋を使ってるんだから、予習だけならそこですればいい。それをわざわざここでやることにしたのだ。心のどこかで期待していたのかもしれない。とは言え、それを他人に言うのも恥ずかしい。とりあえず、素っ気無い態度で行こう。
「タダの暇つぶしよ」
「なら、それに付き合っても構いませんよね?」
「はぁ?」
間抜けな声で聞き返してしまった。魔理沙も、『あん?』といった感じで文に尋ねかける。
「付いて来る気か?」
「えぇ。犯人は必ず現場に戻ってくるという話もありますし、元々1人で歩いてみるつもりだったんですよ」
「1人でって、もし万が一、何かあったら危ないじゃないの」
「霊夢っ!」
しまった!と思ったときにはもう遅い。その瞬間文がにやりと笑った。さとりは額に手を当てている。魔理沙だけはきょとんとしていたが、すぐに事態を把握したようだ。顔を逸らして溜息つきやがった。
「そ~なんですよ~。私、足が速くてもか弱い美少女ですから?1人じゃ危ないんですよ~。怖いんですよ~。でも、4人なら安心安全怖く無い気がしてきましたよ?まさか、見捨てたりはしないですよねぇ?」
ニヤニヤしながら私を見つめてくる。行くかどうかを話し合うつもりだったのに、これじゃ行くことが確定じゃないか。私は自分の迂闊さを呪った。そんな私を見てにこやかな笑顔を浮かべた文が自分の鞄から教科書を取り出す。
「それじゃ、まずは学生の本分から片付けましょうか」
準備良いな、こいつ。
気がつけばあれから数時間、夕立も止み、日はとっぷりと暮れていた。授業開始3日で大して勉強することがあるわけでもなし。古文と英語の訳くらい2時間ほどで終わってしまった。なので、夜に備えてみんなでお昼寝タイムにしたのだ。他の3人はどこか呆れ顔だったが、私にとって睡眠は何にも勝る物なのだ。実際、夜遅くなることが予想できたので、皆も眠ったようだった。私の周りにはあどけない美少女たちの寝顔が並んでいる。写真を撮れば、それなりの小遣いになりそうな気がする。しないけどさ。本当はもう少し寝ているつもりだったのだが、まぁいい。一応、手鏡で顔を確認する。寝跡とか寝癖がついてるのも恥ずかしいし。だって女の子だもん♪鏡に映る顔は、正に清楚な巫女さんだ。頬っぺたに『みこ』って書いてあるし。水性ペン片手によだれを垂らす魔理沙を殴ってから、化粧室へ向かった。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
あの後、他の3人も洗面所へとやってきた。約1名涙目で頭をさすっているバカがいたがキニシナイ。油性マジックで『バカ』と書かれなかっただけありがたく思うがいい。全員荷物を纏めて、道中でこの後のことを話し合った。その結果、おとり作戦で行くことになったのだが、
「私が囮?そんなのこいつにやらせればいいじゃないの」
なぜか私が囮に指名された。『元々一人で行くつもり』とか言ってた奴にやらせればいいじゃないかと文を指差したのだが、断られた。
「それは無理ですねぇ。犯人の写真を撮らなければいけませんし、」
そう言ってカメラを指差す文。なるほど、新聞部だしな。それにしたって、
「どうして私なのよ?」
「そりゃ、このブン屋に同行の理由を与えた責任があるからな」
「それを言ったら、あんたが学食で地図広げたのが元々の原因じゃないの。あんたがやればいいじゃない」
「残念ながら、私は犯人追跡の仕事がある。こいつほどじゃないにしても、足は自信があるからな」
たしかにそうだ。私も運動神経はそれなりにあるつもりだが、足の速さで言えば、魔理沙にはずっと劣る。さっきの体育の授業でこいつの足の速さは充分に思い知ったのだ。800mを3分かからないで走ったのはこいつしかいない。短距離中距離共にクラスの中では最速だった。こいつより速い奴がすぐ隣にいる事の方が信じられない。もしこの2人から逃げ切れる奴がいたら、私は警察よりもJOCに連絡する。
それに比べると、さとりはあまり運動は得意な方ではないようだった。これで武術の達人、ってこともないだろうし。そうなると消去法で私になってしまうのは仕方がない気もする。が、一応確認はしておかないと。
「あんたたち、ちゃんと側にいるんでしょうね?」
「そりゃもちろん。近くの茂みで見張るようにするぜ」
「濡れるのは嫌だけれどね」
「だから安心して下さい」
「ふぅ、仕方ないか」
念のため持ってきた護身具を鞄から取り出すと、さとりが驚いた顔をした。
「何その長い針?」
「畳針よ」
「ふぇ~、初めて見ましたよ。10cm以上あるんですね……寸で表すんでしたっけ?」
「なんでそんなん持ってんだお前?仕事人じゃあるまいし」
「何でも、御札と針は巫女の必須アイテムらしいわよ?ま、こんなもん使う機会のないことを願うけど」
「私も、人殺しを友人に持ちたくはないわ。どうせならお札の方で何とかして欲しいんだけど?」
「あんな紙切れで何が出来るってのよ?」
「そりゃそうだろうけどな」
「でもまぁ、それがあれば最悪、自分の身は守れそうですね。それじゃ、張り切って行ってらっしゃい!」
「「いってらっしゃい」」
行ってくるわよ。明るい月明かりの下、私は一人歩き始めた。
個人的に、アリス辺りも早めに出てきて欲しいモノです。
おそろしや
続きも楽しみにしてます!
続きも期待してます。
あなたの作品は。
後書きから読む人もいるんじゃないですかね?
俺はPCで見ているわけではないのでしませんが。
射命丸勝利で何が良いのかと聞かれて「勝利の味」とコメント。
完全に丸被りな作品があるんですが……。
ありがちと言えばありがちでしょうけど。
次も期待してますw
ここからが作品の方向性の分岐っぽいのでドキドキです。
後書きから読む人は紙媒体だとたまにいますね。イレギュラーな読み方なんで気にする必要はないと思いますが。
……丸被りな作品、創想話にあったかなぁ?
東方で学園モノってありそうで少ないですよね。個人的にはかなり好みの題材。期待してます。
自分も学園物は企画だけは立てましたが、難しくて座礁しました。
だから羨ましいです。
掛け合いが面白くて一気に読めるんですよ!
顔の落書きは水性ペンのほうが落ちにくいんですよ、っていうのは本当にムダ知識。