*これはここではない現代日本の学園モノです。弾幕が無い世界です。
*この話は第2話にあたります。下の方にあるはずの第1話を見ないと、設定がわかりづらいです。
*それで第1話に目を通してくださるあなたはきっといい人です。
*時間を潰す覚悟と余裕がある方、ありがとう
「で、どうするんだ霊夢?」
そう話しかけてきたのは私の前に座る、自称親友・霧雨魔理沙。いつの間にかHRも終わり、ほぼ全員が帰宅の途についたというのに、呆然と立ち尽くしている私を心配してくれたんだろう。良い奴だ。
「ピンクのチョークって?私としては是非、先生の言うことなんか無視して、成長記録を1から公開して欲しいんだが」
この野郎。笑顔で何言ってくれてるんだ。いい奴だと思った私が浅はかだった。いや待て、今の私の隣には、このバカとは違う、心優しい友人がいるはず。
「私も興味あるわね。いくつまであるのかしら?」
心優しいはずの友人は興味深そうに顎に手を当てていた。さとり、お前もか。私が恨めしそうな顔をしているのに気付いたのか、さとりは「冗談よ」と微笑みかけてきた。魔理沙も「そうそう」と私の肩をポンッと叩く。
「しかし、『秘封倶楽部』だっけか?何なんだそりゃ?」
「知らないわよ。あいつのことだもの、どうせ碌でもないモノに決まってるわ。わかるでしょ?」
そう2人に同意を求める。
「そうねぇ。凄い美人だけど、何て言うかこう……胡散臭い、って言うのかしら?何考えてるかよく解からない人ね。」
「確かに、ぶっ飛んだ感じのする先生だったな。あの規則なんかいい例だぜ。それよりも、霊夢と先生はどういう関係なんだ?」
魔理沙が興味深そうに尋ねてくる。さとりも聞きたいようだ。まぁ、別段話して困るようなことは無い。
「さっき紫も言ってたけど、私の家、結構古い神社でさ。紫はそのご近所さんで、子供の頃からよく遊びに来てたらしいのよ。それで、私が生まれてからはちょくちょく面倒見てくれるようになって。遊んでくれたり、勉強教えてくれたり。ただ、」
「「ただ?」」
「小さい時は別に気にならなかったんだけど、ある程度大きくなって、判断力とか、物事に対する理解が深まってくるのにつれて、段々紫が変人だと気付いてきてね。むしろ、変態?」
「そうなのか?」
「だってあいつ、私の親よりレパートリー豊富な私のアルバム持ってんのよ?しかも『霊夢水着編』とか『霊夢巫女服編』とか、いつ撮られたんだかわかんない写真ばっか。おまけに会う度に『あら霊夢、全然大きくならないわね♪』とか言って胸揉んでくるし。自分がでかいからって調子乗りやがって……おまけにすんごいグ~タラなのよ?」
「霊夢にグータラ呼ばわりされるのか、あの先生は」
「それじゃ、相当な物ね」
どういう意味よそれは。確かに趣味・昼寝かもしれないが、少なくとも、私は自分のことは自分でする。何でもかんでも藍任せの紫とは違うのだ。
「それにしても、随分と仲が良いのね?話を聞いてると、本当の姉妹みたい」
「はぁ?どこがよ?」
「だって、紫先生はそれだけ霊夢のために時間を費やしてくれたんでしょう?若干、偏愛の感は否めないけど、本当の妹のように大事に思ってくれてるんじゃない。私も妹がいるけど、そこまでしてあげようなんて思わないわ。」
「それなりに可愛いとは思っているけど」と呟く。へぇ、妹さんがいるのか。一度会ってみたいものだ。
「それに、紫先生のことを話す霊夢の顔、楽しそうだったわ。『しょうがない奴だ』って思ってるけど『でも、大事なお姉ちゃんなの』って感じかしら?ふふっ」
「んなっ!べ、別にそんなことは」
そんな私を見て魔理沙が笑い始めた。
「ははっ、霊夢はツンデレだなぁ」
「誰がツンデレよ!」
「照れちゃって♪」
「さとり!」
2人して人をからかって……それにしても、友達っていうのはこんな感じだったのか。しょーも無いことしてるだけだというのに、こんなにも楽しい。
「ごめんごめん。でもそうなると、紫先生から聞かないとどうしようもないみたいね」
「だなぁ、まだ帰ってこないのか?」
そう言って扉の方を眺める2人。あれ?
「もしかして、待っててくれるの?」
そう尋ねると、私を意外そうな顔で見てきた。
「なんだ、一人で聞きたかったのか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど」
「あの状況で見捨てる気にはならないわよ。逆の立場だったら、霊夢は私たちのこと見捨てる?」
3時間前の自分なら無視してさっさと帰るだろうが、今は
「そんなわけないじゃない」
「でしょう?それに、よくわからないものをそのまんまにしてるのも気持ち悪い気がするし」
「だな。『秘封倶楽部』ってのがどんなもんか興味はある。とりあえず、話だけでも聞くとするさ」
ガラガラッ
「あら?霊夢だけかと思ったら」
ようやく紫が戻ってきた。どうやら、私以外に残っているのが意外だったらしい。一瞬目を丸くしていた。
「遅いぜ、先生」
「ごめんなさいね。まさか霊夢以外にいるとは思ってなかったから、お茶飲んでたのよ」
おい、その理屈はおかしいだろ。
「魔理沙と……古明地さん、だったわよね?」
「おぅ」
「はい、古明地さとりです」
紫は、2人をしげしげと眺めた後、私を見て微笑んできた。なんなんだ一体。まぁいい。とりあえず、要件を済ませてからだ。
「で、どういうこと?」
「そうそう、そのためにわざわざ入学式の日から居残りしてるんだぜ?」
「はいはい、そう慌てないの。『秘封倶楽部』って言うのはさっきも言ったとおり、私が学生時代に創ったサークルよ」
「30年も前じゃないの」
「ゆかりんまだ20代だもん!」
「その台詞が出てくる人は、大体『五入』の方だぜ?」
「まだ、まだ時間はあるのよ!」
「そうですね。最近は晩婚化の時代ですから、アラフォーが頑張り時です」
「そこまで?!」
「ふっ」
思わず鼻で笑ってしまった。さっきのお返し、にしては随分割り引いてやった方だろう。とりあえず、話を促さないと。
「で、『秘封倶楽部』って何?」
「そうねぇ……端的に言えば出張探し物サークルね」
「なんだそりゃ?探偵でもやってたのか?」
「いえ、何と言うか、もうちょっとオカルト的なものよ」
「オカルトサークル、ですか。心霊スポットとか、UFOだとか?」
さとりが怪訝な表情で尋ねる。まぁ、今までの話から行き着くのはその答えよねぇ?でも、どうやら違うらしい。
「ん~、少し違うわね。メリーが、あ、メリーって言うのはサークルメンバーの一人ね?彼女が少し変わった娘でね、一種の超能力者とでも言えばいいのかしら?『キョウカイ』が視えるのよ」
「「「きょうかい?」」」
「そう。境界、境目」
「独身貴族と行き遅れの境目とか?」
「違うっ!相手がいないんじゃ無くて、相手がいらないだけなのよ!って、そういう話じゃなくて」
ごほんっ、と咳払いを一つ。意趣返しはこのくらいで勘弁してやるか。3人で続きに耳を傾ける。
「こちらの世界とあちらの世界の境目が視える、って言うのかしら?私や蓮子、もう一人の子のことなんだけど、には普通にしか見えないような場所でも、メリーと一緒にソコに行くと、彼女の言う『境界』の先に別な景色が広がっていたりするのよ」
「「「はぁ……」」」
「……信じてないでしょ?」
そりゃそうだろう。昔から変な奴だったが、「トンネルを抜けると、そこは不思議の国でした」ってか?それが許されるのは14歳までだ。他の二人も大方似たような感想だろう。なんとも微妙な表情を浮かべている。さとりなんか携帯電話取り出してるし。それを見て紫も苦笑いを浮かべた。
「信じ難いのはわかるけどね。私だって、いきなりそんなこと言われたら救急車の用意を、お願い、かけないで。まだその時間じゃないわ」
紫の話を華麗にスルーして番号を押しはじめたさとりを、紫が慌てて止めた。
「本当に不思議な体験をしたんだけどね」
そう言ってどこか寂しそうな溜息をついた。同性の私から見てもかなり絵になっている。これだけで男の10人や20人、簡単に虜にできるのだろう。で、一緒に飲むとみんな逃げ出す。
「それを実証しろといわれても難しいし、今となっては別段重要な話でもないわ。大事なのはサークルの存続なのよ」
「存続、って言うと、部員がいないとか、そういうことか?」
「そう、それ。元々3人でやってたサークルで、成立ギリギリの条件だったけど、今はもっとギリギリでね」
「確か、条件がありましたね。一定の年数部員数が定員割れすると廃止されるんでしたっけ?」
「そうなのよ。根本的に設立時のメンバー以外は一人しかいなくて、今正に大ピンチなのよ。」
「『今』も何も無いじゃないのそれじゃ」
「そうなのよねぇ。私たちは3人とも、一昨年で院も卒業しちゃったし、藍も今年で4年だから」
「藍、ってのが、唯一の設立時以外の先輩なのか?物好きな」
「あぁ、藍っていうのは紫の、」
「紫先生」
私が呼び捨てにしたらわざわざ訂正を促してきた。面倒な。
「紫先生の妹よ。ここの学生で、紫先生と妹の橙の世話を全部こなしてんの」
「それは大変そうね」
「姉の特権よ。私の稼ぎで大学通ってんだから、文句は言わせないわ。ま、それはそれ。このままだと部室を明け渡さなきゃいけなくなっちゃうのよ」
「部室?部室ってのは、そんな少人数サークルでも確保できるもんなのか?」
「いや、ホントに偶然運良く手に入っちゃってね。今でも休憩室代わりに使ったりもするし、手放すのが勿体無くて。だって、冷暖房、TV、PC完備で光熱費はタダなのよ?今更冷蔵庫とか、おこたとか運び出すのも面倒だし」
「なるほどねぇ……」
いかにも紫らしい理由だ。が、惹かれる物はある。部室棟は夜の10時まで使えたはずだ。今は幸運にも1人で一部屋を使っているが、何時同居人が現れるとも限らない。そんな時、放課後に気兼ねなく使える部屋があるというのは中々魅力的だ。うん、別荘持ちは憧れる。『便利な部室>怪しいサークル』そう頭の中の天秤が傾きかけたときに、さとりが手を挙げた。
「何かしら?古明地さん」
「霊夢と魔理沙がOKする前に聞いておきたいことがあるので」
どうやら、魔理沙も私と同じような考えを顔に出していたらしい。相変わらず良く見てるなぁ。
「サークルって、毎年活動報告書を出さないといけないはずですよね?他にも会計報告だとか、書類関係が色々あると思うんですけれど」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
天秤が戻った。危ない危ない。そんな書類仕事みたいな面倒なこと、やりたくないぞ私は。
「これ、私が4年の時の、活動報告書とかの提出書類一式よ」
そう言って、紫が紙の束を……いや、束って程でもないわね。それと、アルバム?建物の写真とか、よくわからん石の写真だとかが貼ってあるようだ。魔理沙が一式を手に取って、ぱらぱらと眺めた後、紫に尋ねる。
「これだけなのか?」
「えぇ。会員名簿が1枚に、活動報告書が1枚、部室の更新書が1枚。会計報告だけど、別に補助金貰って活動してるわけじゃないから必要ないわ。それに活動って言ったって、表向きは唯の旅行サークルみたいなものだもの。行った場所の写真を証拠に、アルバム作って提出するだけよ。境界の向こう側の写真は幻想的過ぎてパチモンくさいから使えないし。その年は、卒業旅行も兼ねて京都の方へ行ったのだけれど、前の年なんか電車で1時間もかからないところの写真ばかりだったわ」
そう言いながら紫は懐かしそうに写真を見ている。向こう側の景色とやらはわからないが、こんなのでも昔は学生だったんだし、色々思い出が詰まってるんだろう。ま、それはさておき。なるほど、書類は名前くらいしか書くことは無いようだし、然程面倒では無さそうだ。強いて言えば旅行写真だろうが、休み中には実家に帰るわけだし、手分けして適当に写真を撮ってくれば問題無さそうだ。幸いにも実家は神社なわけだし、神様も立派なオカルトの内だろう。その程度の労力なら、別荘の家賃としては安い方だろう。とりあえず、他の2人にも聞いてみるとしようか。
「境界の向こう側云々はさて置き、魅力的ではあるかもね。2人はどう?」
「そうだなぁ……確かに部室がありゃ、便利かもな。宿題の処理も楽そうだし、荷物も置いておけるだろうし」
荷物は自分の部屋に置けよ。とりあえず、魔理沙は乗り気らしい。
「さとりは?」
「2人がその気なら、私は構わないわ。それと魔理沙、宿題は写させないからね?」
「……お前も超能力者なんじゃないのか?」
処理ってのはそういう意味か。とりあえず、2人とも構わないらしい。紫もそれを聞いて安心したようだ。満足げな笑みを浮かべて、1枚の紙を差し出す。会員名簿か。上には藍の名前が書いてある。そして差し出されるボールペン。
「はい、どうぞ」
それを受け取り『博麗霊夢』っと。続いてペンを魔理沙に渡す。そして魔理沙はさとりへ。名簿に3つの名前が加えられた。
「ありがとう♪」
「……別に紫のためじゃないわよ」
「うぐっ!」
爽やか過ぎる笑顔を浮かべる紫に、思わずそっぽを向いてしまったのだが、なぜか紫は奇妙な声を上げて天を仰いでいる。手で鼻を押さえてるのか?魔理沙も驚いたような顔で私を見てくる。私、今なんか変なこと言ったっけ?
「れいむが、れいむがツンデレに!あぁっ♪」
「流石霊夢!私には到底真似出来無いぜ」
「さとり、救急車2つ。白じゃない方」
ダメだこいつら。早く何とかしないと。
「おいおい、私には必要無いぜ?」
「私だってそうよ、ちょっと興奮して鼻血が出そうになっただけだもの」
「紫先生は充分ダメだと思いますけど?」
全くだ。鼻血も収まったのか、紫が鞄から何かを取り出して机の上に広げ始めた。割とカラフルな図形に、記入されている文字。小学校の時分から見慣れた、そのくせあまり使うことの無いもの。
「地図帳?」
「だな。何箇所か印がついてるが」
これが何だって言うのよ?そう言おうとした所、何か察した様子のさとりが口を開いた。
「真の活動報告、ですか?」
「そう、よく解かったわね。これは、メリー達と見つけた『境界』の在り処の地図。メリーがいないとあんまり意味は無いのだけど、一応ね。もし機会があったら行ってみなさいな。もしかしたら、もしかするかも知れないわよ?」
「そっ、一応預かっておくわ」
そう言って受け取った地図を眺めてみる。適当に開いたページには2箇所ほど印がついていたが、まぁ、関係無いか。全く興味が無いとは言わないけど、人をからかうのが趣味みたいな紫のこと、信じようにも信じられない。言った所で、藪が広がってるだけだろう。そんな地図帳より、部室の方が大事だ。
その後、紫に部室に連れて行ってもらったのだが、予想通り散らかっていた。うん、ゴミだらけじゃないか。藍は家事で忙しくて部室までは手をつけていないんだろう。それにしても、本くらいは棚に入れなさいよ……カップ麺の容器があちこちに転がってるとか、もうね、世の男が泣くわ。思わず溜息をついた私の横で、さとりは信じられないような目で部室を見渡していた。几帳面そうだし、きっとこういう風に散らかった部屋には縁が無かったのだろう。ほとんど動じた風の無い魔理沙の部屋が多少気になるが、まずは目の前の現実と戦うとしよう。仕方無しに皆で片づけを始め、終わった頃には日が沈みかけていた。
「あ゛~、疲れた」
「本当にね。なんでこんなに散らかしておけるのかしら?」
「っ~、腰が痛い。自分の部屋だって片付けた事無いのに、何だって片付けなんか……咽喉も渇いたし、なんか飲みたいぜ」
のどの渇きは同感だが、あんたの部屋はどうなってんだ?廊下にウォータークーラーがあったような気がする。さっさと渇きを癒そう。そう思いドアに向かったところ、急にドアが開いた。内開きだったので、危うくぶつかる所だったじゃないか。入ってきたのはビニール袋を手に提げた紫だった。
「終わったみたいね。お疲れ様、差し入れよ♪」
いつの間にか姿を消していた紫だが、どうやら飲み物を買いに行っていたらしい。どうせいた所であまり役には立たないので、かえってありがたい。そう思っていた時期が私にもありました。買ってきたものを見るまでは。
「はい、ポー○ョン(初代)。体力回復にはこれしかないでしょ♪」
「これ、アンデッド以外回復しないじゃないか」
魔理沙のツッコミにも力が無い。疲れてるのにこの仕打ち。大体この量はどういうことよ?ポ○ション(初代)ダース買いは無いでしょうよ。何『ゆかりんったら優しい♪』みたいな顔してんの?まさか本当に親切心で買ってきたのか?飲むしかないの?そう思い魔理沙と顔を見合わせたところ、
「やっぱり美味しいわねポーショ○は」
「「「ウソ?!」」」
横から衝撃発言が聞こえてきた。思わず目を見開いてハモってしまった。今、3人分の声が重なった気がするが。
「ど、どうしたの3人揃って?」
やはり3人同時だったらしい。やっぱりわざとだったのかこのヤロウ。
「さとり……お前」
「本気?」
「え?何が?」
驚愕に打ち震える私たちを見て、さとりが不思議そうな顔をしている。やっぱ可愛い顔してるなこの娘。いや論点はそこじゃない。いつの間に3本目に手を伸ばしてるんだこの娘は。紫が恐る恐るといった感じでさとりに話しかける。
「き、気に入ってくれたのかしら?」
「はい、わざわざありがとうございます。重かったでしょう?紫先生も飲まれたらどうですか?」
「いいのいいの!気にしないで頂戴!うふふ、喜んでくれて何よりだわ」
「2人は?」
「いや、私は全然咽喉が渇いてないんだぜ?!」
「あら?さっき咽喉が渇いたって、」
「い゛、気のせいだって!どうせなら霊夢に」
「わ、私実は実家がアンデッドの家系で、ポー○ョンもフェニックスの○もダメなのよ!だからさとりが全部飲んでいいのよ!」
「???まぁ、そう言うなら半分貰っていこうかしら?残りはこっちの冷蔵庫で良いわよね」
そう言って心なしか嬉しそうな顔で冷蔵庫に向かうさとり。そんな彼女を見て紫がぼそっと呟いた。
「あの娘も変わってるわね」
「『も』ってのが気になるけど」
「否定はしないぜ」
冷蔵庫にしまい終わったさとりがこちらを振り向いた。
「それじゃ、帰りましょうか?」
「すっかり遅くなっちゃった」
誰も人のいない夜道、街灯も仄暗く感じる。
「あたしも寮に住めば良かったかしら?」
時計の時間も良く見えない。自分の足元も?街灯がそんなに暗い?
「霧?」
「ごきげんよう」
「え?」
月だけが静かに佇んでいる。まだ満ち足りぬ幼い紅い月が。
「と言う訳で、アレは美しくないの!だってそうでしょう?コンピューターに解かせただけよ?」
入学式から3日。他の科目は授業が本格的に始まったと言うのに、前のアホ教師は何を言っているのだろうか?最初の授業では「数学の歴史を簡単におさらいするわよ?」とか言っていた。実際そうだったのだが、今日、近代数学の話になって『コンピューター』という単語が出た途端にスイッチが入ってしまったらしい。妙に興奮しながら何かを力説しているのだが……
「わかる?」
「わからないということがわかるわね」
さとりに小声で尋ねてみたが、私と状況は変わらないらしい。おそらく大半の生徒は理解していないだろう。というより、理解することを放棄している生徒の方が多い。魔理沙も何回も欠伸をこらえているようだったし、私も日本語を聞いているはずなのにまるで理解できないので、完全に聞き流していた。いい加減、終わらないものだろうか?神様、チャイムを頼む。
アンアアンアンアアン
「あら?もうそんなに経ってたのね。まぁいいわ。次回からは教科書の内容に入っていくから、予習しておいて頂戴ね?」
どうやら祈りが通じたようだ。妙なチャイムだが、とてもありがたい。紫が教室を出て行くのを見届けてから私と魔理沙は机に崩れ落ちた。
「あ~、しんどかった。今の、数学の歴史だったのか?」
そう言いながら魔理沙は身体を起こし、椅子に寄りかかる。さとりも机にうつぶせになって、顔だけをこちらに向けてきた。
「最初の15分はそうだったみたいだけど……途中からは象がどうだの何だの言っていたわね」
「どーでもいーわよ。そんなことより、お昼まだかしら?」
「まだ2時間目だぜ?」
「朝食べてこなかったの?」
「食べてきたけど空いたのよ」
「そーなのかー。じゃあ昼休みは学食でメガカロリー丼でも食え」
「胸についてくれるならね」
「試してみたら?きっとお腹につくだろうけど」
ガラガラガラ
「ど~も~、清く正しい東方学園新聞で~す!号外なんで、是非読んでくださ~い!」
他愛の無い話をしていたところ、急に賑やかな奴が入ってきた。どうやら新聞部の人らしい。教卓の上にプリントの束を置いていった。早速興味を示した奴がいるようだ。新聞を取りに行く生徒が何人か。そしてここにも1人。って、さっきまで茹だってたくせに、随分立ち直りが早いな。
「どれどれ?」
そう言って魔理沙が新聞を眺めながら戻ってきた。まぁ、暇つぶしくらいにはなるだろう。3人で新聞を覗き込む。
東方学園新聞 4月◆日
学園に吸血鬼出没か?
昨日の朝、学園バス通り近くの小道で、当大学2年のTさんが倒れているのが発見され、病院へ搬送された。幸いにも命等に別状は無く、貧血による失神と診断された。Tさんは長らく陸上部に属しており、マラソンや駅伝選手として活躍している強心臓の持ち主で、過去に貧血を起こしたことは無いという。Tさんの証言によると、帰り道で急に視界が霞みがかったようになったらしい。医師はそれを貧血による物だと判断したそうだが、左腕には針で刺されたような傷があり、『気を失う直前に誰かに声をかけられた』ともTさんは証言している。真偽の程は不明ながら、刺し傷に貧血となると吸血鬼にでも会ったのではないかと思えてくる。
学園側は『セキュリティは万全』としているが、万が一ということもある。夜道の一人歩きにはくれぐれもご用心を。
「なによこれ?」
「何と言うか、三流週刊誌みたいな記事ね」
その他にも、紙面を埋めるためか、吸血鬼伝説や、変質者の可能性なども書いてはあるが、どれも暇つぶしにもならない。いや、吸血鬼伝説≒狂犬病説は少しくらい暇つぶしにはなったが、「ふ~ん」で終わってしまうものだ。さとりも興味を失ったようだった。が、そうではないのが約1名。突然ニヤリとしたかと思うと、耳を疑うことをのたまってくれた。
「なぁ、確かめに行かないか?『秘封倶楽部』の活動としてさ」
なんですと?
次回も期待してます。
展開緩めなのは、流行りなのかなあ。
キャラ物だとこれくらいでいいのかも。
もうちょい最初の事件が起きるまで、パタパタ進んでくれるともっと読みやすかったかも。
続きも期待して待ってます。
ともかく次は紅いお嬢様のご登場ですか、楽しみです。
はてさて、彼女は吸血鬼として登場するんですかねぇ、気になります。
確かに紫にはコンピュータいらんよなぁ…。
本人のスペックが桁違いだし。…この話でどうかはわからないけど。
次回に期待しつつ。
おもしろいくみあわせだと思います
あとゆかりんのいいかげんさにわらたwwwいまどきポーションとか幻想入りっしょ。
次回作もキタイ
幻想とリアルのスキマ、これからの展開を楽しみにしています。
果たして吸血鬼としてでるのか楽しいみです。