「…できた」
暗い部屋の奥で、私は呟いた。
目の前には一体の人形。
一見、何の変哲も無い人形だが、これはそんな平凡な物ではない。
自立人形。
糸も命令も必要とせず、自分の意思で動く人形。
今、私が完成させたのはその自立人形だ。
実を言うと、自立人形など本来は作るつもりは無かった。
確かにかつて目指したこともあるが、今はもうそのつもりはない。
人形とは道具。
道具は主人のために動くもの。
自らの意思を持った人形は、道具の範疇から外れているのだ。
しかし私も魔法の探求者だ。
できるとわかれば、とりあえず作りたくなる。
ついつい他の研究で詰まった時、ちょくちょくと手を出してみたら完成してしまった。
「…うーん」
一旦完成してしまったからには、なにもせず壊すというわけにもいかない。
どうするかしばらく考えた末に、とにかく動かしてみる事にした。
何か支障があればその時考えよう。
人形の暗い瞳に、小さな光が灯った。
自立人形は今のところ順調に動いている。
素体に使用した人形から、名前は上海と名付けた。
最近やっと言葉を覚え始め、家の中が少し賑やかになった。
まぁ、世話のせいで研究が進まないのは少々問題だが。
「オカアサーン、オカアサーン」
「はいはい。今行くわよ、上海」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
…気がついたら二体目の自立人形が完成していた。
一号機、上海のデータを下に各種性能が1割増し、さらに軽量化にも成功。
うむ。良い出来だ。
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
「オルレアーン」
「ジバクー」
「(ry
…気がついたら家の中が人形だらけになっていた。
いや、別に記憶が不確かになったわけじゃない。
ちゃんと覚えている。
どうにも良い改良プランが思い浮かんだり、別の用途から新しい人形を作ると、つい自分で動く姿を見てみたくなるのだ。
しかしそろそろ自重しなければならないだろう。
これ以上増えると家に入らない。
前略。家を増築しました。
「おー広くなったな」
「あら、魔理沙」
「マリサ、マリサ」
「だぜだー」
これだけの人数になると家事も大変なのだが、半自立の人形を増やしたり、年長の人形に手を借りたりしてなんとかやっている。
「えらく部屋が増えたな。ホテルでもやるつもりか?」
「まさか。部屋は客用以外ほとんど埋まってるわ」
「…家具で?」
「人形で」
魔理沙が表情を凍らせて廊下を見渡す。
ある程度成長した人形は私物も増えていくので、せっかくだし小さい個室を与える事にした。
荷物整理のついでに新しい人形もだいぶ増えたが、この新家はそれも補える。
まぁ、そのせいで増築というより新築と言ったほうが正しい規模になってしまったが。
「…おまえ、世話できてるのか?」
「ええ。年長の上海とか蓬莱が手伝ってくれるし、そんなにきつくないわよ」
「あ、魔理沙だ。いらっしゃいませー」
「マリサ-」
「弾幕しよー」
「ワタシモヤル-」
「え、ちょっと待て、うわぁぁー!」
人形の波に連れ去られていく魔理沙。
子供くらいの大きさの人形もいるので、数が集まれば力では叶わない。
八卦炉でもあれば別だろうが、四肢は完全に固められている。
「お母さんは行かないの?」
「後で行くわ。魔理沙は頑丈だから、いっぱい遊んでもらいなさい」
「はーい」
「神綺様、また新しい魔界人をお作りになったのですか」
「ええ。ほら、かわいいでしょ」
神綺様の腕には、まだ生まれて少ししか経っていない赤子が眠っている。
「昔みたいに好き放題子作りしないで下さいね」
「…なんだか嫌な響きね」
昔、この広大な魔界は小さな島くらいしか無かった。
それを神綺様がぽんぽこ産み散らかすものだから、どんどん魔界は拡張され続けていったのだ。
今ではもう昔のようなことは無くなったが、時々こうやって同属を創る。
「でも、昔は賑やかで楽しかったわ。またちょっとやってみましょうか。とりあえずパンデモニウムが埋まるくらい」
「止めて下さい。人手が足りません」
「ちぇー」
口を尖らせながら赤子の頬をつつく神綺様。
赤子は顔を歪ませるが、そんな態度も面白いらしく、神綺様は口元の笑みを絶やさない。
「そういえば」
「なんですか?」
「アリスちゃんが自立人形を完成させたらしいわ」
「ああ、手紙に書いてありましたね」
自立人形。
神綺様の創造物には及ばないが、聞く限りではアリスが作った人形も確かな意思を持つらしい。
不意に、神綺様が毎日のように家族を増やしていた日々が脳裏に描かれた。
その光景が、どうしてかアリスが人形に囲まれる風景に重なる。
「…」
…いやいや待て待て。
アリスは聡明な子だ。
限度というものはきちんとわきまえてるし、このアホ毛神のように無駄に強大な魔力も持っていない。
大丈夫、大丈夫だ。
「みんなー。新しい姉妹よー」
「わーい」
このまま増え続けたら人形異変とか言われて巫女に退治されそうですね
和むわー
スクロールバーの短さにときめきました。
自立人形として新しい体を手に入れていく子たちとその行動は、なんというか微笑ましい
といった感じで読みました。
上海と蓬莱がちゃんと喋ってアリスの手伝いとかしているっていうのが
もうね…想像できて、アリスと一緒に楽しく暮らしているんだなぁって思いました。
これからもどんどん増えて……いくんでしょうねぇ、きっと。
和むお話でした、面白かったですよ。
惜しむらくはアリス以外のキャラクターの描写が少なかったことでしょうか。
しかし、ショートショートを考えれば充分と思えるのも正直なところだったり。
読み易く、色々と想像の余地がある作品に、アリスがお母さんしている情景が思い浮かんでほのぼのしました。
まだまだ話が膨らみそうな気がして惜しいなぁなんて思いました。欲張りでごめんなさい
自立人形はみなアリスの元から巣立って行きそう。
まぁそんなことはさておき、微笑ましかったです。
見事な構成
微笑ましいお話ですね
やがてアリスの自立人形たちもまた新しい人形を……そんなことはないでしょうか。
上海達が反抗期になってオロオロと泣き出してしまうアリスが見えるぞお!!
その内、神綺様並みにヘタレ属性が……
不器用ながら返事を。
>2さん
解決後、アリスさんは自立人形作りを止められるのだろうか…。
>6さん
魔界一家は和みますよね。
>yuzさん
ありがとうございます。
本当はもう少し長くしたかったんですが、中々書けず…。
>煉獄さん
ある程度成長した人形達がカタカナで話さないというのは人形らしさが表現できないんじゃないかと思ったんですが、なんとか表現できたようで安心しました。ありがとうございます。
>15さん
夢子さんが帰るとそこには宮殿一杯の魔界ベビーが!
>ネコ輔さん
ありがとうございます。
確かに人形達の主観とかも描けば良かったですね。
>19さん
もう少し話を広げられるかな ⇒ 話が収まらなくなってきたぞ ⇒ もう最初のオチでいいや
根性が足りませんでした。ごめんなさい。
>21さん
ありがとうございます。
「自立」人形なのか「自律」人形なのかについてはイザヨイネットさんの記述を参考にさせてもらいました。
原作ではどっちなんでしょう。
直接セリフとして出ているのを見た事がないので分かりません。すいません。
>22さん
今も人形は増え続けている…
>26さん
ありがとうございます。
>31さん
ありがとうございます。
>32さん
ということは夢子さんはおばs(ry
>33さん
ありがとうございます。
>藥さん
ありがとうございます。
それだけ増えると名前考えるのが大変そうですねw
>三文字さん
そして人形が独り立ちするたびに寝込む。
夢子さんみたいな方が誰か残ってくれればいいんですが…。
>49さん
友達百人できるかな。人じゃないけど
内容的には結構ぶっ飛んでるのに読み進めるのに本当に無理が無い。
良いものを見せていただきました。ありがとうございます。
ありがとうございます。
>56さん
不自然な文章じゃないだろうかとビクビクしてたんですが、安心しました。
ありがとうございます。
>59さん
ありがとうございます。
神崎の子はアリスか
どんどん新しい姉妹を作っちゃうアリスの気持ちも分かる気がする
だって想像しただけですげー可愛いし
とても微笑ましくて素敵