Coolier - 新生・東方創想話

別つ目・上

2009/03/04 00:21:52
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※「鈴の鳴る夜」「昼間の月」の後の話になります。
単品でもいけますが、よろしければそちらからどうずぉ!













冬が深まりゆく幻想郷。
大きな湖のほとりに立つ紅魔館。
その紅魔館の正面門。
を、さらに行ったところにある門番隊詰め所。
その窓際の、門がよく見える場所。

暖かく日差しが入り込んでくるその場所で、門番隊隊長こと紅美鈴が、難しい顔をして門を睨んでいた。
いや、その言葉も正確ではない。
正しく訂正するならば、彼女は門の前に立つ一人の少女を見つめていた。

少女、十六夜咲夜がこの館に来てから、そろそろ半年が経とうとしている。
最近では館の住人に笑顔で挨拶をするまでに至り、その変化には皆が喜んだ。
まだ見習いではあるが、今までは美鈴についてやっていた門番も、短い時間なら一人でこなすようになっている。
それ自体は大変喜ばしい。
喜ばしいのだが。

「そろそろ潮時、ですかねぇ・・・。」

一人呟いて、隊長は今日も機会を狙う。
ぶつぶつ呟きながら窓の外を凝視する美鈴に、詰め所にいる者達は呆れ顔だ。
まぁ理由が理由だから突っ込みはしないが。

「あ!」

すると、唐突に美鈴が声を上げる。
その声に反応して、他の隊員たちがわらわらと窓に寄ってきた。
全員が全員窓の外を覗き込む。
ものすごく奇妙な光景だ。

皆が見つめる先には、隊長が可愛がっている少女。
そして一人の・・・。

「むしろ一匹の?」
「どっちでもいいって。」

普段のようにゆらりと立っている咲夜の前に、のそりと現れた影。
やたら長い腕をずるずると引きずりながら現れたその影は、咲夜を見下ろして長く息を吐いた。
妖怪の類だろう。
ゴーレムのような体に、狼の頭。
らんらんと光る目を見るに、知力は恐ろしく低そうだった。

「一発。」
「あたし二発。」
「一口500ね。」
「こらこら、咲夜で賭け事をしない。」

この紅魔館には、時折強い魔力に引き寄せられて、ひょっこりと現れる妖怪がいる。
今回のように知能を持たぬ者から、鋭い知力を持った者まで。
現れる者の種類も妖怪、妖精、人間、動物と様々だ。
アポイントメントもなしに訪れる不敬の輩を追い返すのが、門番隊の義務である。
話し合いのみでお帰り頂けるなら幸い。
実力を行使してくるならば、こちらもそれ相応の対応をとらせてもらう。

ただ、門番隊は無益な殺生を禁じていた。
殺すのは、言葉の通じぬ者、再度邸を襲う可能性のある者のみ。
力を示して相手が逃げ帰るなら、深追いはしない。

これは美鈴が取り決めたことで、今のところ破った者はいなかった。

「今回は×だねぇ。」
「最近○のほうが少ないからね。」

ちなみに門番隊は、対象を×と○で表現する。
生かしておけないものは×。
追い返すことのみを目的とする者は○。
今回は、×だ。

「さぁ、どう出る十六夜咲夜!」
「だから楽しまない。」

実況をはじめる部下を苦笑いで注意しながら、美鈴は咲夜を見つめる。
自分の倍以上の体躯の妖怪相手に、少女は特別な反応は見せなかった。
ただ真正面から見上げて、片足を引いただけ。

仕掛ける。

思ったのは、皆一緒だった。
懐からナイフを取り出した咲夜が、一気に距離を詰める。
目の前の体躯が腕を振るが、そんなものかすりもせずに、あっさりと懐に飛び込んだ。
少し曲がった相手の膝を踏み台に跳躍。
垂直の飛翔で、銀のナイフを喉に突き立てた。

「決まった!」

その光景を見て門番隊の何人かが声を上げたが、美鈴はまだ緊張を解かなかった。

(浅い。)

きゅっと目を細める。
銀のナイフは確かに獣の喉を貫いたが、あれでは致命傷にはならないだろう。

美鈴がそう思ったとおりに、咲夜はすぐさま身を翻した。
一瞬遅れて、咲夜のいたところに拳が叩きつけられる。
自身を省みない攻撃に、狼頭の妖怪は一歩よろけ、無様な唸り声を上げた。

地面に着地した咲夜が、すぐさま相手を振り仰ぐ。
立ち止まったのは一瞬。
その瞳が赤く光った。

(使う。)

そこから先は、本当に一瞬の出来事だった。
咲夜はいつの間にか妖怪の背後にいて、銀のナイフは延髄を深々と貫いていた。

急所を深く抉られた妖怪は、泡を吹きながら崩折れる。
その体が地に伏す前に、くるりと空中を後転した咲夜は、すとりと地面に着地して、びくびくと震える妖怪を見下ろした。

「ほら二発だった!」
「くそー、負けたー!」
「だから・・・はぁ。」

妖怪が完全に事切れたのを見届けた咲夜が、こちらを振り返る。
窓際の傍観者達に合図を送って、これをどうしたらいいかと尋ねてきた。
言ってもどうせ聞かない部下達にため息をつきながら、美鈴は咲夜にそのまま待つように指令を送る。
ちなみに、やりとりは全て手信号だ。

「はいはい、処理班はさっさと行動しなさい。伝達係はパチュリー様に報告を。」
「はーい。」

こうして哀れな骸となった妖怪の大半は、図書館に住まう魔女の実験材料となる。
生きているほうが実験のしがいがあると、常々呟いているが、それはこちらの手間が多くなるので聞き流した。

「ついでに交代の時間だから、次の子も行って。」
「了解。」

それぞれに指令を与えながら、美鈴はじっと考える。
やはり思ったとおり。
だが、まだそれは推測であり、確証ではない。

「試してみるかなぁ・・・。」

ぼそりと呟く。
詰め所にいた他のものがそれぞれ出払って、美鈴のその言葉を聞いた者はいなかった。
独り言は静かに消えて、彼女は、よし、と自分に渇を入れる。

とりあえず、今日の夜にお嬢様に許可を頂こう。

そう思いながら、美鈴は、詰め所に戻ってきた咲夜を笑顔で出迎えた。





■  ■  ■  ■





そして、翌日。
清々しい晴れ。
咲夜も美鈴も体調は万全。

そんないい一日の始まり。
もくもくと朝食を食べる咲夜に、美鈴はこう切り出した。

「私と闘いましょう。」

その簡潔な一言に、咲夜は表情を変えぬまま咀嚼を繰り返す。
むぐむぐと口を動かして、やがてごくりと喉が動いた。

「どうして?」

そうして当たり前の一言を切り返す。
首をかしげて美鈴を見つめる咲夜は、今一状況を理解できていないようだった。

それはそうだろう。
いつものように、おはよう、と挨拶をして、いつものように朝食をとって。
きっといつものように仕事に向かうのだろうと思っていた咲夜には、美鈴の言葉はあまりにも唐突過ぎた。

そんな咲夜の様子に、美鈴はやっと、理由を説明していないことに気がつく。
急いて言葉を選ぶのを忘れていた。

これだから動かない図書館の主から、体力馬鹿と言われるのだろう。

「いやね、貴女がここに来てから大分経ちましたが、私は門番隊隊長として、一度もその力を試していないんですよ。」
「うん。」
「他の子達は全員、力試しをしてから隊に入れました。いくら咲夜とは言え、例外は認められないんです。」

その言葉に、果たして咲夜は納得したのか。
うーん、と小さく唸ってから、もう一度美鈴を見る。

「つまり、私の力が門番隊として足りているか見たいって事?」
「大体そんな感じです。」
「じゃあ足りていたら、正式に門番隊に入れるの?」

そうして、少しの期待をこめて聞いてきた。
いつかのように目がきらきらとしている。
星を散らしたような夜色の瞳を見つめ返して、美鈴は頷いた。

「じゃあ、頑張る。」

そんな美鈴に、咲夜はふわりと嬉しそうに微笑む。
銀灰の髪を梳いてやりながら、美鈴も微笑み返した。

「さ、しっかり食べましょう。腹が減っては戦をできませんよ。」
「うん。」

二人頷いて、朝食を再開する。
時折楽しそうな笑い声が聞こえる部屋で、実は美鈴だけが少し沈んだ思いでいたのだが。
あいにくと、この後のことに気をとられていた咲夜は気付かなかった。




■  ■  ■  ■





「ルールの説明をします。試合は時間無制限。勝利条件は相手の急所を取るか、戦闘不能にするか、相手がギブアップするかです。」

門番隊副隊長が、声高らかに宣言する。
広い中庭に、美鈴と咲夜は立っていた。

太陽は中天に差し掛かりつつある。
眩しい日差しが、冷たい風に負けずあたりを暖めていた。

「基本的に、禁止行為はありません。目潰し、砂かけ、その他もろもろ、OKです。武器の使用も可。特殊能力の使用も認められています。」

周りには、本日非番の門番隊メンバー。
そしてメイド達と、あとは。

「わざわざご足労頂いてありがとうございます。」

そう言って美鈴が見上げる先。
二階のテラスから、幼き吸血鬼が見下ろしていた。

「まったくだわ、こんな昼間から。」
「お体は大丈夫ですか?」
「呼んでおいてよく言う従者だこと。・・・まぁなんてことは無いわ。この程度の日差し。」
「それを聞いて安心しました。」
「ならもっとほっとしたような顔をなさい。」

主たるその吸血鬼は、その外見からは想像もつかないほど妖艶な笑顔を浮かべ、美鈴に切り返す。
たはは、と笑いながら、美鈴は改めて主に向かい、頭を下げた。

「我侭を聞いてくださり、感謝いたします。」
「いいわ。その代わり楽しませなさい。」
「はい。」

短いやり取りをして、微笑む。
何百年と変わらぬ、この二人の問答は、際どいものから穏やかなものまで。
様々あれど、不思議に周りを不快にすることは無かった。

「さぁ、準備はいいかしら、二人とも。」
「えぇ。」
「・・・・・。」

レミリアの声に、緩みかけた緊張が再び戻ってくる。
頷く美鈴の視界の端で、同じように頷く咲夜が見えた。

「では、これから適合判定試験を行います。双方前へ。」

副隊長の声で、二人が一歩ずつ踏み出す。

「スカーレットの名に恥じぬ戦いを。」

徐々に空気が澄んでいく。
ぴりぴりとした感覚に微笑んで、レミリアが激励を送った。

「はじめ!!」

それとほぼ同時に、高く上げた副隊長の手が振り下ろされる。
その声を聞いた途端、二人はほぼ同時に地を蹴っていた。


見えたのは、ほぼ残像だけ。
ナイフが光を反射して、その光が空を切り裂いた。

「っと。」

確実に頚動脈を狙ってきた一撃に、知らず美鈴は声をもらす。
迷いの無い、いい一撃だ。
感嘆していたら、くん、と屈折したナイフが、先ほど以上の速さで戻ってきた。
若干体勢が崩れたところへの一撃。
避けようと思えば避けられたが、美鈴はあえてそれを受け入れる態勢をとった。

「っ?!」
「甘い!!」

光の一閃を、人差し指と中指で挟み受け止める。
それと同時に、飛び込んでくる体を摑まえて、強引に振り回した。

「くっ。」

完全に体の自由を奪われた咲夜に、周りは勝負が決まったと確信する。
あまりにも呆気ない。
けれど美鈴は、掴んでいたその手をあっさり離して、地面と平行に咲夜を放った。

横薙ぎに投げ飛ばされた咲夜は、空中で体をひねってなんとか着地する。
体勢を崩しながらも、転ばなかったのは大したものだ。
あげられた顔が、美鈴を捉える。
その時に、瞳が赤色から夜色へと戻ったが、それを見ていたのは美鈴とレミリアだけ。

時を自在に操る能力。

レミリアから聞いて、この目でも何度か見てきた。
一瞬で相手の背後に回りこむように見せて、実は時を止め移動している。
先ほども、あのまま地に叩きつけようとすれば余裕でできた。
けれどそれをしなかったのは、咲夜の瞳が赤く光ったからだ。

叩きつける拳を、むざむざとナイフで貫かれるつもりはない。

だから咲夜が能力を使うより早く、彼女の体を宙に放った。
吹き飛ばされた咲夜は、能力を使うことを中断し、着地に神経を傾けた。

このとき美鈴は確信したのだ。
あの力はまだ不完全だと。
他の事をするには能力の使用を断念せざるをえない。

まだ同時に二つの事はできないが、この能力を使いこなせるようになったら、どれほど強くなるのだろう。
想像したら、背筋を言い知れぬ感覚が駆け抜けた。

面白い。
この少女はとんでもなく面白い。
レミリアがわざわざ連れてきた理由も、よくわかった。

「こないんですか?」

またすぐに攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、咲夜は着地した場所でこちらの様子を窺っている。
先ほどと違って、じっと動かない咲夜に美鈴は口元を吊り上げた。

こちらの隙を探している。
今攻撃を仕掛けたら、逆に返り討ちに合うかもしれない。
だが、それを捌くのも面白いか。

思考したのは、三秒にも満たなかった。

今度は美鈴が、一気に咲夜との距離をつめる。
握り締めた拳が、強く風を切った。


ガキィ・・・ン


けれど、次に響いたのは、金属音。
すぐさま飛び退いた美鈴がにこにこ笑う。
対する咲夜は、驚いたようにはじかれたナイフを見つめていた。

「隙だらけですよ。」

呆然とする咲夜に、間髪入れずに襲い掛かる。
拳を振るうフリをして、足を捌いた。
けれど咲夜は体勢を崩すこともせずに、もう一度ナイフを振るった。

ガチンっ

再び不可解な金属音が響く。
慌てて飛びずさる咲夜を追いかけて、美鈴は握った拳と反対の手を、鋭く突き出した。

「っ!!」

咄嗟にナイフで首を庇う咲夜の耳元で、再び金属音がする。
それと同時に、咲夜は時を止めた。

ぴたりと、世界の全てが停止する。
弾き飛ばされかけた体を安定させて、美鈴の手元を見た。

「・・・暗器・・・。」

手の甲に添うようにして、金属の刃が顔を出している。
これのせいでナイフを受け止められたのか。
そう思いながら、咲夜は美鈴と距離をとる。

美鈴の背後。
十分離れた位置に立ってから、いくつものナイフを出して構える。
小さな手には余る大きさだが、投げる分には申し分ない。

両腕を交差させて、体を縮める。
全身のバネを使ってそのナイフたちを弾き出しながら、大声で叫んだ。

「動け!!」

途端時が動き出す。
いくつものナイフが、身構えた美鈴のすぐ眼前まで迫っていた。

「っはぁ!!」

視界に納めたときには、もう捌く時間すらなかったはずだ。
けれど、美鈴は振り向きざまに左手で何本かを弾き飛ばし、残りのナイフは右手でまとめて握り締めた。

ぶしゅ、と手のひらが切れて血が滲む。
捌ききれなかった一本が、太腿に刺さっていた。

けれど息をつく間もない。
視線を上げたら、すでに咲夜が目と鼻の先まで迫っていた。
ナイフがぎゅっと突き出される。
条件反射でそれを避けたら、もう片方の腕が同じようにナイフを突き出した。
ふ、と息を吐いて、皮一枚持っていかれながらもそれを避ける。
切れた頬から血が伝った。

「まだ、よ!」

にやりと笑う咲夜が、突き出した腕を引き戻す。
首の後ろに鋭利な刃物。
両サイドは咲夜の腕。
逃げ場は無い。

だが、美鈴は冷静だった。
右手を垂直になぎ払い、咲夜の顎をぐわりと持ち上げる。

「うわ・・・っ。」

彼女の軽い体が浮き上がった。
それと同時に自分の頭を下げて、ナイフの軌道から逃れる。
同時に力強く一歩踏み出し、がら空きの腹部に頭突きを叩き込んだ。

「ぅがっ・・・!!」

咲夜がくの字に体を折り曲げる。
小さなうめき声が漏れたが容赦はしない。
次ぐ一撃を叩き込もうとして、髪をがっちりと掴まれた。

「いたたっ!!」

吹き飛ばされるまいと、咲夜が必死に髪を握っていたのだ。
予期せぬ痛みに一瞬ひるむと、先ほどのお返しとばかりに、額に痛烈な頭突きを受けた。

「っ!!」
「ぅぎゃっ?!」

覚悟した側と、覚悟しない側では、頭突きの際に感じる痛みも違う。
今回覚悟しない側だった美鈴は、後頭部まで響く痛みに一瞬昏倒した。

足元がよろけて、後ろへ傾ぐ。
けれどなんとか意識を保ち、強く地面に踏ん張った。

「・・・っつぅ・・・や、やりますねぇ。」

大きな隙を作ったが、それは咲夜も同じだったようだ。
額を押さえて、涙目で睨んでくる。

まさかの肉弾戦に笑い出したレミリアの声を遠くに聞きながら、美鈴はだんだんと体の芯が熱くなってくるのを感じていた。
面白い。

本当に面白い。
十六夜咲夜という少女。
限りない可能性を秘めている。
育て方次第では、どの方向へでも行けるだろう。

「あぁ、楽しいなぁ。」

小さい体に、これほどの可能性を秘めている。
この子の成長を、しっかりと見届けたい。
できることなら、傍で見守りたい。

だが。

「咲夜。」

にこりと、まだ額の痛みに涙目の咲夜に笑いかけた。
体をゆらりと揺らす。
決して早い動きでもないのに、一瞬残像が見えた。

「小手調べは終了です。」

左足を軸に、美鈴の体が揺れる。
ふらり、ふらりと。
気配が大きくなるように、その残像が増えていく。

「本気できなさい。でないと。」

砂埃をその場に残して、美鈴が消えた。

「死にますよ。」
「っ?!」

いや、違う。
美鈴は消えた。
美鈴の中へ。

咲夜の周りを、何人、何十人という美鈴が取り囲む。
皆ゆらりゆらりと揺れて、その姿は霞か何かのように覚束ない。

あたりを見回す。
どれが本体だ。
気配を探ろうにも、その気配を消されてしまってわからない。

いつだ、いつ攻撃がくる。
見えざる敵に、咲夜は戦慄した。
時を止めるか。
迷ったのは刹那。
空気がぐわりと動き、咲夜は咄嗟に姿勢を低くした。
頭上を何かが突き抜けていく。

「あらら。」

残念そうな声が、どこからとも無く、した。
次の一撃も、ぎりぎりでかわす。

大丈夫だ、空気が教えてくれる。
風の音に耳を澄ませながら、咲夜は握ったナイフをかちゃりと構えた。
こい。

再び、空気が動いた。
横だ。
思ったのと同時に振り向いたが、そこに美鈴はいない。

驚く咲夜に、上からこえがかかった。

「ここですよ。」

慌てて上を見る。
拳を振りかざし、跳躍する美鈴の姿が見えた。

「・・・あ。」

目がちかちかする。
一瞬動きが鈍った。

「っ!!」

攻撃が見えない。
咄嗟に横に飛んで逃れたが、再び跳躍した美鈴を追いかけるのが、あからさまに遅れた。

「遅い!!」

青空を背に、再び美鈴が襲ってくる。
ナイフを投げたが、あっさりとはじき落とされた。
眩しい。

もう美鈴は、先ほどのような技は使ってこなかった。
咲夜が重い一撃を紙一重でかわすと、美鈴はそのまま地面に深く深く拳を叩きつける。

土ぼこりが舞い上がって、視界が濁った。

「チェックメイト。」

よろけた咲夜の後ろ首を、いつの間にか背後に移動した美鈴が、そっと支える。
後頭部と首の境目あたり。

「延髄です。」

有無を言わせぬ言葉に、咲夜はそっと体の力を抜いた。
美鈴の息は上がっていない。
きっと本気ではなかったのだろう。
その事実に気付いて、苦笑した。
両手をあげて、降参のポーズ。

「勝負あり!!」

同時に副隊長が、大きく叫んだ。





■  ■  ■  ■





「お疲れ二人とも。面白いものを見せてもらったわ。」
「喜んで頂けたなら光栄です。」

テラスから下に降りてきた主が、従者を労う。
太腿からナイフを引き抜きながら応えた美鈴は、心配そうな咲夜に微笑んだ。

「途中から肉弾戦だったわねぇ。」
「あはは、想定外でした。」

咲夜にあんなガッツがあると思ってもいなかった美鈴は、素直にそう言って、笑う。
額がまだ痛かった。

「でも、咲夜の力もわかったし。意味のある試合になったじゃない。」
「そうですか。」
「えぇ、あなたの言うこともよくわかったし。」

やっぱり百聞しても一見には敵わないわねぇ。
そんなことを言う主に、美鈴はただ笑う。
それを見上げる咲夜は、ここに来て初めて、美鈴の笑顔がおかしいことに気がついた。

「咲夜。」

どうしたのかと問いかけようとして、主に呼ばれ慌てて向き直る。
まだこの少女が主であるという認識は弱いが、名前を呼ばれると自然体中が緊張した。

「今回の試合で貴女の力は理解したわ。すばらしい才能ね。磨けば光る。」

満足そうな声に、咲夜はしばらく逡巡してから軽く頭を下げる。
そんな咲夜に口元を吊り上げて、レミリアは再度言葉を発した。

「これから貴女には、屋敷内メイドとして働いてもらうわ。」

その言葉に、咲夜はぽかんと口を開ける。
予期せぬ言葉だったからだ。
そんな咲夜を見ながら、無理も無いな、と美鈴は苦笑した。

「明日から一室を授けます。今後のことについては・・・メイド長。」
「はい。」
「彼女に聞きなさい。」

それだけ言って、小さな悪魔は浮かび上がる。
背中の羽が、ぱたぱたと動いた。

「では、今日はよく休むように。」

そうして滑るように飛んでいく主の背を、咲夜は慌てて呼び止める。

「まって・・・まってください!!」

慌てたような声に、彼女は空中で停止した。
ゆっくりと振り返り、咲夜を見下ろす。

「なにかしら。」
「あの、私・・・私は・・・っ。」

混乱する頭と心を押さえつけて、必死に言葉を探した。

本当は門番隊に入りたいんです。
美鈴の傍にいたいんです。

浮かぶ言葉は山ほどあった。
けれど結局なんと言っていいのかわからず、縋るように美鈴を見る。
そうしたら、彼女はただ微笑んでいた。
穏やかに。

なんの感情も読めないその笑顔に、咲夜は絶望を覚える。
心のどこかが、じわりと悲鳴を上げた。

「なに?」
「・・・なんでも、ありません。」

主からの再度の問いかけに、首を振る。
そっと美鈴から視線を外し、うつむいた。
そんな咲夜をしばらく見つめた吸血鬼は、やがて何も言わずに自室へと戻っていく。

腰を折ってその後ろ姿を見送る美鈴は、咲夜に対して、何一つたりとも言う事はしない。
無言がまるで静かな拒絶のようで。
混乱し、かき乱される心を抱えながら、咲夜はぎゅっと胸を押さえた。
我が家の咲夜さんはツンデレでもクーデレでもありません。
ただのデレでs(ry
こんばんは狗月です。
妄想の源泉をうっかり掘り当ててしまいましたおーのぅ!
だばだばと無節操に湧き出てくる妄想におぼれそうですたっけて。

今回は書けもしないくせに戦闘シーンなんて、もの、をorz
この後の展開に必要だった(気がした)んで書いたんですが、やっぱりなれない事はするべきじゃないと再認識。
疲れすぎて読み返す気力もなかったので、誤字脱字がありそう。もし見つけましたらご一報ください。

長くなったのと力尽きたのとで、上下に分けました。てか分かれました。

いつも以上にまとまりが無いですが、読んでくださってありがとうございます。
また次があればーノシ
狗月
http://onimonogatari.blog81.fc2.com
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コメント



0.2380簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
またも素晴らしい美鈴

次も楽しみにしとります
11.100名無し削除
すげー面白かった!!めーりん切ないよ!!
咲夜かわいいよ咲夜!
バトルもカッコ良かった!
続きが気になる!!!
19.100名前が無い程度の能力削除
美鈴にとっての最大の不幸は幻想郷で”弾幕ごっこ”が採用されたことでしょうかw
格闘戦のみならトップクラスなんだろうなぁ。
何も言わない美鈴と言葉を求める咲夜、後半が楽しみです!
24.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり美鈴は肉弾戦だと幻想郷でもトップクラスですよねぇ
強い美鈴は大好き

ひとつ気になった所
>腹が減っては戦をできませんよ

ここは戦ができませんよではないでしょうか?
25.無評価狗月削除
皆様コメありがとうございます。文章についてお言葉をいただきましたので、参上。

>戦をできませんよ。
この文章なんですが、実際私も「戦が」にしようか、「戦を」にしようか悩んだんですね。
ただ、私は非常に捻くれものでして、悩んだなら、あえて回りくどい言い方を選んでしまうんです。いやな奴だ!
なので、こう、なんといいますか、文章的には意味が通じて、だけど接続詞が変だよ!と言うときは、「あー、また捻くれやがって」と思いながら、生暖かい目で見てやってください。
誤字なのか癖なのか判別が難しいかとは思うのですが、何卒、お願い致します。
35.100名前が無い程度の能力削除
あー咲夜さん可愛いー