「美鈴。あなた、クビね」
と、目の前の主、レミリア・スカーレット様が言った。
…はて、九尾とは何のことだろう?
まさか私に尻尾でも生やそうと言うのだろうか?
頭の中で尻尾の生えた自分の姿を想像してみる。
……ありゃあ、こりゃ似合わない。
「お嬢様、私に尻尾なんて似合いませんよ」
と苦笑いしながら返す。
するとお嬢様は顔をしかめた。
「あなたは何を言っているのかしら?
…じゃあ言葉を変えましょう。リストラよ」
リスと虎…。
頭に浮かんできたものは、リスの尻尾が九本生えた、虎の柄をした自分。
…これではただの化け物ではないか!
こんな姿になるのだけは御免だ。
「それじゃあ怪物じゃないですかぁ!そんなの嫌ですよぉ…」
と返すとお嬢様は、見ただけで分かるくらい、苛立っていた。
「言葉くらいちゃんと理解しなさいよ!解雇よ!かい…」
と言いかけてお嬢様は言うのをやめた。
「…どうなるかは予測できたわ…、こんなやりとり続けても意味が無いわね」
と、私に伝えようとするのは諦めたようだ。
このままでは機嫌を悪くしてしまいそうだ。
そうなると色々と恐いので、
「冗談ですよ、冗談。…で、なんでしたっけ。私がリストラされるんでしたっけ?」
と、きちんと今までの対応は冗談です、と説明した。
「……貴方のことだから本気で間違えてるのだと思ったわ…」
「そ、そこまで馬鹿じゃ有りませんよ」
そんなに馬鹿だったら今ごろここにいないで寺子屋にいるだろう。
「…というわけで、あなた、クビよ」
お嬢様は笑いながらそう言った。
「はぁ、クビですか」
「えぇ、クビよ」
「私がクビになったら門番がいなくなりますよ」
「あら?いてもいなくても変わらないでしょう?」
「ははは…ひどいですねぇ…」
と苦笑いしながら言う。
「それにしても…」
そう言って空を見上げる。
お嬢様も私につられてか、空を見上げる。
しばらくその状態が続いた。
私はさっき言った言葉につなげてこう言った。
「お嬢様、どうしよもなく暇なんですね」
お嬢様は欠伸をしながらえぇ、と見るからに暇そうに言った
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「暇だからって私のところに来られたって困りますよ」
「いいじゃない、何か面白い話とかないの?」
そういわれても困る。
毎日門の前に立ってるだけ特に変わったことは起きない。
「パチュリー様の所の方が面白いと思いますよ」
「パチェは今何かの実験をしているわ。とても何か話してくれそうにも無い」
「じゃあ本を読めばいいじゃないですか」
そういうとお嬢様はそうねぇ、と呟き考え込む仕草を見せた。
「本を読むのだって面白いですよ」
と付け加えると、
「じゃああなたのおすすめの本を教えて頂戴」
と返してきた。
「それこそパチュリー様に聞いてください」
あまり読まない私が教えられる訳が無い。
「…さっきも言ったでしょう、話してくれそうに無いのよ」
そうだった。
「…自分で探すと言うのはどうでしょう?」
やはりこれが一番だろう。
「それこそ無理だわ。面倒くさいし」
…確かにあれほどたくさんの中から探していくのは何十年もかかるだろう。
「…なら、妹様と遊んではいかがですか?」
「駄目よ。あの子は今寝ているから。起こしたら可愛そうじゃない」
むぅ…、パチュリー様も駄目、妹様も駄目。
恐らく私の話なんて聞かせてもつまらないだろう。
ひゅう、と風が吹く。
お嬢様はうわ、と声をあげ帽子を抑えた。
風は意外と強く、意外と長く続いた。
お互いに帽子を抑えて喋るのを止めた。
…しばらくすると風も止み、先ほどと同じく穏やかな暖かさに戻った。
その風が吹いている間の沈黙が私に何を話そうか考える時間を与えた。
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「なら咲夜さんのところに…」
そう言いかけてふと思い出し、言葉を止めた。
「あっ!…す、すいません…」
それに対してお嬢様は、
「…大丈夫よ、気にしてないわ」
と言い、悲しそうな顔をして空を見上げた。
空は青く澄んでいて、それが酷く悲しく見えた。
「……あれからどれくらい経ちましたっけ?…」
「そうね…。二ヶ月くらいかしら」
「あぁ、もうそんなに経ちますか…、早いものですね。時間が経つのは。ついこの間まで叱られてたような気がして……」
ふふ、と小さく笑いそう言う。
「えぇ、咲夜は時間を操るのが得意だったから。私達の感覚の流れも止めちゃってるのかしら」
お嬢様も同じく小さく笑う。
「咲夜さんがいなくなって、何か変わりましたか?」
その問いにお嬢様はいいえ、と答えた。
「咲夜がいなかった時に戻っただけよ。優雅にお茶を飲んで一日をゆっくりと過ごすだけ。
……あぁ、たまに宴会に行くわね。今度はあなたも連れて行こうかしら」
そう言って私に微笑みかける。
それにつられて私も笑う。
「咲夜さんがいなくなって、悲しいですか?」
その問いにお嬢様はいいえ、と答えた。
「咲夜は従者、従者は主を悲しませてはいけないものよ。主も従者の死を嘆いてはいけないわ」
そういうと一息ついて、また話を続けた。
「咲夜は私にこう言ったわ。私の死は気にせずに、お嬢様はお嬢様らしく生きてください、ってね。
咲夜は最後まで従者らしかったわ。私はその願い裏切ってはいけないのよ」
「……お嬢様は強いんですね」
「ふふ、ありがと。
…咲夜は私に教えてくれたの。死は止められるものではないから、死が訪れるまでの時間を大切にしなければならないことをね。
私は咲夜と過ごした日々を忘れず、大切にしていくわ」
お嬢様がそう言うと、穏やかな風が吹いた。
……そう、咲夜さんは生きている。私達の心の中に…。
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「お嬢様、お茶の準備が出来ましたよ」
と、そんなやりとりをしていると後ろから声がした。
「今日はクッキーと紅茶を用意してあります」
「えぇ、今行くわ。……そうね、美鈴、貴方も一緒にどうかしら?」
私が持ち場に戻ろうとするとお嬢様がそう言った。
「私もいいのですか!?」
こんなことは初めてだろうか。そりゃあもう喜んで御一緒するに決まってる。
「えぇ、貴方のおかげで暇をつぶせたからね」
そういうとお嬢様はついて来なさい、と言い、館のほうへ歩いていく。
私は遅れないようにとお嬢様の横に駆け寄った。
「…それにしても美鈴、よくあんなお芝居思いついたわね」
「それほどお嬢様の悩みを解決しようと言う気持ちが強かったのですよ」
「それでも私の従者を勝手に死んだことにするのはいけない事ね。お仕置きが必要かしら?」
「か、勘弁してくださいよー。退屈せずにすんだんですから、いいじゃないですか」
といって二人揃って笑い出す。
「……あの、お嬢様。何の話をしていたのですか?」
お嬢様の隣に立つ、先ほどお嬢様を呼びに来た女性が尋ねる。
「そうね……、貴方は自分が死ぬとき、私に悲しんで欲しいかしら?」
と質問に質問で返す。
その問いに彼女は、
「いいえ、主を悲しませてしまえば従者失格ですわ。いつまでもお嬢様らしく生きてください、とだけ言い残します」
彼女はそう答える。
それに対して、私とお嬢様は顔を見合わせ、再び笑い出した。
彼女はどうやら何のことだか分からないようだ。
紅魔館は今日も平和である。
と、目の前の主、レミリア・スカーレット様が言った。
…はて、九尾とは何のことだろう?
まさか私に尻尾でも生やそうと言うのだろうか?
頭の中で尻尾の生えた自分の姿を想像してみる。
……ありゃあ、こりゃ似合わない。
「お嬢様、私に尻尾なんて似合いませんよ」
と苦笑いしながら返す。
するとお嬢様は顔をしかめた。
「あなたは何を言っているのかしら?
…じゃあ言葉を変えましょう。リストラよ」
リスと虎…。
頭に浮かんできたものは、リスの尻尾が九本生えた、虎の柄をした自分。
…これではただの化け物ではないか!
こんな姿になるのだけは御免だ。
「それじゃあ怪物じゃないですかぁ!そんなの嫌ですよぉ…」
と返すとお嬢様は、見ただけで分かるくらい、苛立っていた。
「言葉くらいちゃんと理解しなさいよ!解雇よ!かい…」
と言いかけてお嬢様は言うのをやめた。
「…どうなるかは予測できたわ…、こんなやりとり続けても意味が無いわね」
と、私に伝えようとするのは諦めたようだ。
このままでは機嫌を悪くしてしまいそうだ。
そうなると色々と恐いので、
「冗談ですよ、冗談。…で、なんでしたっけ。私がリストラされるんでしたっけ?」
と、きちんと今までの対応は冗談です、と説明した。
「……貴方のことだから本気で間違えてるのだと思ったわ…」
「そ、そこまで馬鹿じゃ有りませんよ」
そんなに馬鹿だったら今ごろここにいないで寺子屋にいるだろう。
「…というわけで、あなた、クビよ」
お嬢様は笑いながらそう言った。
「はぁ、クビですか」
「えぇ、クビよ」
「私がクビになったら門番がいなくなりますよ」
「あら?いてもいなくても変わらないでしょう?」
「ははは…ひどいですねぇ…」
と苦笑いしながら言う。
「それにしても…」
そう言って空を見上げる。
お嬢様も私につられてか、空を見上げる。
しばらくその状態が続いた。
私はさっき言った言葉につなげてこう言った。
「お嬢様、どうしよもなく暇なんですね」
お嬢様は欠伸をしながらえぇ、と見るからに暇そうに言った
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「暇だからって私のところに来られたって困りますよ」
「いいじゃない、何か面白い話とかないの?」
そういわれても困る。
毎日門の前に立ってるだけ特に変わったことは起きない。
「パチュリー様の所の方が面白いと思いますよ」
「パチェは今何かの実験をしているわ。とても何か話してくれそうにも無い」
「じゃあ本を読めばいいじゃないですか」
そういうとお嬢様はそうねぇ、と呟き考え込む仕草を見せた。
「本を読むのだって面白いですよ」
と付け加えると、
「じゃああなたのおすすめの本を教えて頂戴」
と返してきた。
「それこそパチュリー様に聞いてください」
あまり読まない私が教えられる訳が無い。
「…さっきも言ったでしょう、話してくれそうに無いのよ」
そうだった。
「…自分で探すと言うのはどうでしょう?」
やはりこれが一番だろう。
「それこそ無理だわ。面倒くさいし」
…確かにあれほどたくさんの中から探していくのは何十年もかかるだろう。
「…なら、妹様と遊んではいかがですか?」
「駄目よ。あの子は今寝ているから。起こしたら可愛そうじゃない」
むぅ…、パチュリー様も駄目、妹様も駄目。
恐らく私の話なんて聞かせてもつまらないだろう。
ひゅう、と風が吹く。
お嬢様はうわ、と声をあげ帽子を抑えた。
風は意外と強く、意外と長く続いた。
お互いに帽子を抑えて喋るのを止めた。
…しばらくすると風も止み、先ほどと同じく穏やかな暖かさに戻った。
その風が吹いている間の沈黙が私に何を話そうか考える時間を与えた。
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「なら咲夜さんのところに…」
そう言いかけてふと思い出し、言葉を止めた。
「あっ!…す、すいません…」
それに対してお嬢様は、
「…大丈夫よ、気にしてないわ」
と言い、悲しそうな顔をして空を見上げた。
空は青く澄んでいて、それが酷く悲しく見えた。
「……あれからどれくらい経ちましたっけ?…」
「そうね…。二ヶ月くらいかしら」
「あぁ、もうそんなに経ちますか…、早いものですね。時間が経つのは。ついこの間まで叱られてたような気がして……」
ふふ、と小さく笑いそう言う。
「えぇ、咲夜は時間を操るのが得意だったから。私達の感覚の流れも止めちゃってるのかしら」
お嬢様も同じく小さく笑う。
「咲夜さんがいなくなって、何か変わりましたか?」
その問いにお嬢様はいいえ、と答えた。
「咲夜がいなかった時に戻っただけよ。優雅にお茶を飲んで一日をゆっくりと過ごすだけ。
……あぁ、たまに宴会に行くわね。今度はあなたも連れて行こうかしら」
そう言って私に微笑みかける。
それにつられて私も笑う。
「咲夜さんがいなくなって、悲しいですか?」
その問いにお嬢様はいいえ、と答えた。
「咲夜は従者、従者は主を悲しませてはいけないものよ。主も従者の死を嘆いてはいけないわ」
そういうと一息ついて、また話を続けた。
「咲夜は私にこう言ったわ。私の死は気にせずに、お嬢様はお嬢様らしく生きてください、ってね。
咲夜は最後まで従者らしかったわ。私はその願い裏切ってはいけないのよ」
「……お嬢様は強いんですね」
「ふふ、ありがと。
…咲夜は私に教えてくれたの。死は止められるものではないから、死が訪れるまでの時間を大切にしなければならないことをね。
私は咲夜と過ごした日々を忘れず、大切にしていくわ」
お嬢様がそう言うと、穏やかな風が吹いた。
……そう、咲夜さんは生きている。私達の心の中に…。
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「お嬢様、お茶の準備が出来ましたよ」
と、そんなやりとりをしていると後ろから声がした。
「今日はクッキーと紅茶を用意してあります」
「えぇ、今行くわ。……そうね、美鈴、貴方も一緒にどうかしら?」
私が持ち場に戻ろうとするとお嬢様がそう言った。
「私もいいのですか!?」
こんなことは初めてだろうか。そりゃあもう喜んで御一緒するに決まってる。
「えぇ、貴方のおかげで暇をつぶせたからね」
そういうとお嬢様はついて来なさい、と言い、館のほうへ歩いていく。
私は遅れないようにとお嬢様の横に駆け寄った。
「…それにしても美鈴、よくあんなお芝居思いついたわね」
「それほどお嬢様の悩みを解決しようと言う気持ちが強かったのですよ」
「それでも私の従者を勝手に死んだことにするのはいけない事ね。お仕置きが必要かしら?」
「か、勘弁してくださいよー。退屈せずにすんだんですから、いいじゃないですか」
といって二人揃って笑い出す。
「……あの、お嬢様。何の話をしていたのですか?」
お嬢様の隣に立つ、先ほどお嬢様を呼びに来た女性が尋ねる。
「そうね……、貴方は自分が死ぬとき、私に悲しんで欲しいかしら?」
と質問に質問で返す。
その問いに彼女は、
「いいえ、主を悲しませてしまえば従者失格ですわ。いつまでもお嬢様らしく生きてください、とだけ言い残します」
彼女はそう答える。
それに対して、私とお嬢様は顔を見合わせ、再び笑い出した。
彼女はどうやら何のことだか分からないようだ。
紅魔館は今日も平和である。
…ともあれ、結果的にはほのぼのしてて面白かったです。
こんな一日があっても良いですよね。
二回目読んだときはあれ?って思いました。
今三回目を読み終えて混乱中。