Coolier - 新生・東方創想話

紅鬼

2009/02/24 20:30:53
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 殺し合いに理由などいらない。だが、予約は必要だったらしい。
 永遠亭までやってきた妹紅は、輝夜の不在を知らされてそう思った。何とも、世知辛い世の中になったものである。いや、単に相手の都合を考えなかった自分の落ち度か。てっきり輝夜は毎日家にいるものだと思っていた。
 ただ、今日はどういう気まぐれか永琳と一緒に里まで診察に行ったんだとか。留守番をしていた兎に教えられた。
 特にする事もなかったので永遠亭までちょっと輝夜を殺しに来たのだけれど、とんだ無駄足を食わされてしまった。おかげで、今日の予定は全て白紙だ。リザレクションの時間も計算していたせいで、夕方までみっちりと殺し合いをするつもりだったのに。
 こんなことになるのなら、慧音からの誘いを断るんではなかった。仕事を手伝わされる目に遭ったかもしれないが、退屈で一日を終わらせるよりマシである。
 いや、まだ走れば間に合うかもしれない。慧音の様子を鑑みるに、それほど急ぎの用事というわけでもなさそうだった。
 大地を蹴って空を飛ぼうとする。しかし、ふと妹紅は足を止めた。
 視線が向くのは、迷いの竹林。多くの人間を餓死に導き、白骨死体が転がっている物騒な竹林である。妹紅はここでよく案内役のような真似事をしており、里の人間から有りがたがられていた。
 いわば、妹紅にとっての仕事場である。だからだろうか。何か言いしれぬ違和感を覚えた。
 正確に表現すれば、違和感というよりかは予知に近い。飛ぶのではなく、ここを抜ければ何かがある。それが何かは分からないけど、確実に何か起こるのだ。
 安全で慧音と一緒にいられる空の道を行くか。
 危険で何が起こるかわからない竹の道を行くか。
 選択肢は二つ。妹紅は躊躇うことなく、竹林に向かって歩き出す。
 別に仕事がしたいわけじゃない。何かあるというのなら、当然こちらの選択肢を選ぶに決まっている。
 欠片の警戒心も見せず、自宅のように気軽な足取りで竹林を進む。
 辺りに変わった様子はない。ただ気になることがあるとすれば、雀やらの鳥の声が聞こえてこないことぐらいか。動物自体はあまり数がいないし、そもそも竹林が広いので滅多に姿を見ることはできない。だが、雀は別だ。どこにいたのかというぐらい、竹林には多数の雀が生息している。
 だが、その雀たちの声が聞こえてこない。まさか、生息地を別の場所へ移したわけでもあるまいて。
「んんー、段々ときな臭くなってきたわね」
 警戒するような言葉とは裏腹に、その口調は至極楽しそうだ。輝夜には如実にその気が現れているが、妹紅もまた退屈を嫌う人種である。不死という性質上なのか、それとも元々の性格がそうなのか。自分に限っては理解できないが、おそらく輝夜は前者なのだろう。
 だから輝夜が妹紅と同じ立場にいたとしても、きっと同じように竹林を歩いた。それが逆に腹立たしいけど、面白くもある。
「さて……」
 しばらく歩いた頃、不意に妹紅は歩みを止めた。この先は、ちょっと開けた広場のような空間がある。輝夜との連戦により、燃え尽きた竹林のなれの果てだ。取り囲む竹もうっすら焦げ、地面も若干黒く変色している。
 輝夜と最も戦った場所を挙げるなら、躊躇わずそこの広場と答えるだろう。そして、待ち伏せするにも最適な場所である。
 この世に生を受けてから幾年月、自分を恨んでいる人間がいないと言えば嘘になる。なにせ、妹紅は常人よりも遙かに長く生きているのだ。買った恨みも両手両足で足りるものではない。待ち伏せするような相手だって、咄嗟に五人は思い浮かぶほどだ。
 もっとも、だからといって警戒に値するような相手はそうそういない。この幻想郷に限るとすれば、せいぜい輝夜か永琳ぐらいだろう。後は待ち伏せしないか、そもそも相手にならないのどちらか。
 輝夜と永琳が引き返して、広場で待っているという可能性も零ではない。だが、それは零でないだけ。あの輝夜が、そんな面倒な手段をとるわけない。やるんだったら、そもそも永遠亭を出ていない。ただの待ち伏せで満足するほど、あの二人は馬鹿ではないのだ。
 だとすれば、広場に待つものは何か。これだけの胸騒ぎ、よもや三下の待ち伏せ程度では終わるまい。
 鬼が出るか蛇が出るか。
 意を決し、妹紅は広場へと足を踏み出した。
 どこも燃えていないのに、焦げ臭い香りが鼻腔をくすぐる。
「よお」
 まるで旧知の間柄にするように、気軽な挨拶でもって手をあげる。鉄の蛇が這うような音を聞いた。両手両足に巻き付いた鎖が、鳴き声のように悲鳴をあげたのだろう。手首や足首にはめ込まれた鉄の輪は罪人にするように、隙間無く填っている。
 そして何より目をひくのは、動きやすそうな変わった衣装でも、麦の穂のように流れる金の髪の毛でもない。額から凛々しく生える、星印のついた一本角だ。
 それがあるおかげで、妹紅は彼女の名前を口にすることができた。
「星熊勇儀……」
「おっ、私の名前を知ってるのかい。いやぁ、私もまだまだ捨てたもんじゃないねえ」
 快活な笑顔でもって、立てた膝を叩く。軽そうな口調とは裏腹な実力を妹紅はよく聞いていた。慧音の話によれば、妹紅と輝夜が協力しても勝てないんだとか。しかし、それはそもそもの前提が間違っている。
 妹紅と輝夜が協力できるわけないのだから、相手がチルノでも勝てる気はしない。そう答えたら慧音が、呆れた表情で溜息を漏らしたからよく覚えている。
 しかし、勇儀は地下で暮らしていると聞いた。何故、地上に出ているのか。
 妹紅の視線が厳しくなったのを感じとったか、質問する前に勇儀が答える。至極単純にして、これ以上ないほどわかりやすい言葉で。
「あんたさ、私と喧嘩しない?」










 旧地獄街道。疎まれ者の妖怪や、地上に見切りをつけた妖怪達の楽園である。
 星熊勇儀は行きつけの屋台で、酒の味を堪能している真っ最中だった。日が昇らない地下では、昼間も夜中もありはしない。だから例え地上をお天道様が照らしていても、何ら恥じる事はないのだ。そもそも、鬼が酒を飲むことを恥じるわけがない。
 しかしながら勇儀の表情は曇りきっていた。酒が不味いわけではない。むしろ、昨日飲んだものよりも美味しい。仕入れる先を変えたのだろう。
「あー、うー」
 どこぞの神様のような声をあげ、だらしなく項垂れる勇儀。隣にいたパルスィが、苦々しい顔で酒を煽った。
「鬱陶しいわね。普段の豪放磊落なあなたも鬱陶しいけど、うじうじしてるのも同じぐらい鬱陶しいわよ」
「そうは言うけどさ、この気持ちは誰にも理解できないもんなんだよ」
 微妙に質問と答えがずれている。もう酔ったのか。
 気の良い仲間なら、ここでどうしたんだい、と優しい言葉を投げかける。そして気さくに相談に乗ってやり、時には気の利いた助言などやってみせる。だが、隣にいるのは水橋パルスィ。歩いて棒に当たった犬まで、妬ましいと豪語するほどの妖怪だ。
 ふーん、と気のない返事で会話を終わらせ、無造作に勇儀と距離をとった。
「おいこら」
「なによ」
 素っ気ないパルスィを妬ましげに睨め付ける勇儀。しかしパルスィも負けていない。それは専売特許だとばかりに、刺々しく勇儀を睨み返した。ともすれば火花が散りそうな視線の交錯は、勇儀の強引さによって断ち切られる。
 睨み付けるのに夢中だったパルスィは、ひょいっと伸びてきた手を避ける事ができなかった。
「うわっ!」
 タコが補食するように絡まれ、離れていた距離が先ほどよりも縮まる。友達同士の距離というより、恋人同士の距離だ。パルスィは藻掻きながら離れようとするのだが、鬼の腕力に適うわけがない。抵抗は空しく、勇儀の酒臭い息を浴びる。
「逃げるなよー。私とあんたの仲じゃないか」
「愚痴の次は絡み酒か! 私はあんたの玩具じゃないのよ! 離しなさいっての!」
「離すとも離すとも。あんたが私の愚痴を聞いてくれたら、離すとも」
 誰にも理解できない感情なのに、それを話してどうにかなるのか。咄嗟に出かかった言葉をパルスィは飲み込む。酔っぱらいを相手に、正論を吐いた所で通用しない。ここは無茶な要求だろうと、素直に従うのが吉だ。
 本来なら他人の愚痴など鬱陶しくて耳に入れるのも嫌だったが、身体中を拘束された状態では服従しか道は無い。まぁ、他人の不幸話だと思えば多少の気は晴れるけど。
 溜息を漏らし、パルスィは抵抗を止めた。
「わかったから。愚痴聞いてあげるから、とりあえず離してよ」
「おお、さすがは我が親友だ。キスしてやろう」
「死ね」
 割と本気で拒絶する。顔を殴られた勇儀は痛がる素振りも見せず、素直に解放してくれた。乱れた髪の毛に手櫛を入れながら、こっそりと距離をとる。横目で軽くそれを確認した勇儀は、しかし何も言ってこなかった。こういう素直な部分は評価に値するのだが、それと同時に眩しすぎて妬ましい。
 徳利を傾け、お猪口を酒で満たす。勇儀はそれを一息で飲み干し、熱い息をテーブルに吹きかけた。
「いやね、私は思ったわけよ。空しいなあって」
 唐突な出だしに面食らう。しかしこれが本題なのだと悟り、パルスィは敢えて口を出さずに尖った耳を澄ませた。勇儀はテーブルに顎をのせ、空になった徳利を弄びながら言葉を続ける。
「酒に関して文句はないよ。地上の酒も美味いけど、こっちの酒もなかなか味がある。それに、ここでだって地上の酒は存分に飲めるしね。酒は良いんだよ、酒は」
 六回か。心の中で数えていた酒の回数を呟く。
「問題はさ、こっち」
「腕?」
 掲げられた腕には何も握られていなかった。腕の鎖が交錯音を響かせ、力強さとはかけ離れた白い肌が、規則的に並べられた篝火を照り返す。触りたいほど綺麗な腕だが、それを自慢しているわけでもあるまい。もしそうだとしたら、妬ましいの一言に尽きる。
「喧嘩だよ。昔から言うだろ、喧嘩と酒は鬼の華」
「初めて聞いたわよ。誰の言葉?」
「星熊勇儀。昔から言ってるんだけどね、萃香にしか浸透してないんだよ」
 何とも狭い範囲での格言だ。
 たった二人の格言に呆れつつ、パルスィは頬杖をついて勇儀の顔を覗き込む。
「なるほど。つまり、あんたは喧嘩がしたいのに相手がいないと」
「正確には、喧嘩の相手になる奴がいない、だ。殆どの奴らはこてんぱんにしたからさ、もう誰も私と戦ってくれないんだよ。四天王の連中も、最近は姿見ないしさ」
 つまらなそうに唇を尖らせる勇儀。鬼は種族という時点で、他の妖怪と頭一つだけ実力が違う。おまけに、ここは地下世界。地上ならいざ知らず、鬼より強い種族は殆どいないと言ってもいい。
 同じ鬼に相手がいないと嘆くのであれば、それは即ち地下にはもう勇儀と対等に戦える相手がいないという事である。これが意地汚い性格の奴であれば、格下の妖怪共を相手にいたぶるような戦いをするのだが。星熊勇儀はそういった戦いと最もかけ離れた妖怪であった。
「でも、それは別に今までも変わらないでしょ。昨日今日で地下に引っ越してきたわけじゃないんだし」
「それはそうなんだけど……あいつらと出会っちゃったからなあ」
「ああ、あれね」
 寂しそうな勇儀に対し、パルスィの表情は優れない。勇んで挑んだはいいものの、あっさりと返り討ちにされた記憶が蘇ったのだ。勇儀は快活に笑って済ませるかもしれないが、パルスィは当分根に持つつもりだ。
「弾幕ごっことはいえ、埋もれていた血が滾るっていうかな。なんか、こう喧嘩したいなって気分になってきたんだよ」
 生憎とパルスィには理解できない感情だ。あらかじめ前置きがあったとはいえ、唐突に聞かされたなら鼻で笑っていたかもしれない。日々を妬ましさと共に暮らしているからといって、好戦的であるとは限らないのだ。
 豪快に髪を掻きむしり、いきなり叫び声をあげる勇儀。
「あー、喧嘩したいなあ!」
 聞きようによっては、これほど物騒な言葉もない。
 振り上げた拳に釣られて、たわわな果実も弾むように揺れた。妬ましい。
「そういや、あんたとは一度もしたことなかったね」
 フラストレーションが矛先が変える。普段の勇儀なら冗談だと笑い飛ばすところだが、今日の勇儀ならどうだろう。紅玉のような瞳は真剣そのもので、パルスィから外れることはない。
 迂闊に了承してしまったのが運の尽きか。このままでは喧嘩の相手までさせられる羽目になりそうだ。
 パルスィは考える。いかにして、この状況を切り抜けるか。
 しかし、答えはもう既に出ていた。話していたではないか、ついさっきまで。
「思ったんだけど、なにも地下で相手を探す必要は無いんじゃないの。ほら、何だったらまた巫女や魔法使いと戦えばいいわけだし。今はもう、地下の妖怪が地上に出るのは御法度ってほどでもないでしょ」
 真剣だった表情が、ああ、と驚きの顔に変わる。地下で探すから難しいのであって、地上ならば勇儀の相手を出来る奴だってごまんといるだろう。何も無理してパルスィが喧嘩相手を務める必要はない。
 勇儀は何度も納得しながら、景気づけとばかりに注文したばかりの徳利を掴み、そのまま飲み干した。
「そうかそうか、すっかり失念していたよ。いやあ、地上の連中がいたか」
 額を叩こうとして角があることを思い出し、行き場のない手で顎をさする。反応するにも忙しい奴だ。
「それなら選り取り見取りだねえ。萃香とまたやり合うのも楽しそうだし、巫女や魔法使いにリベンジするのも良いねえ。ああ、吸血鬼や天人もいるんだっけか。ふふふ、こりゃあ面白くなってきた」
 先程までの落ち込みっぷりは何処吹く風。沢山の玩具を前にした子供のように、勇儀は瞳を輝かせ、まだ見ぬ強敵共に胸を高鳴らせている。隣にいるパルスィにも、その鼓動が聞こえてきそうだ。ここまで愉しめる事があるというのは羨ましく、何とも妬ましい限りである。
 そういえば。妬ましいという単語で思い出した。
「ああ、アレだったら対等な勝負も出来るかもしれないわね」
「アレって、まさか神様の事かい?」
「違う違う。なんだっけかな……」
 何かの拍子に話を聞いて、それは大層妬ましいと思った奴らがいるのだ。それは誰か。
 うんうん唸り、やがて勢いよく手を叩く。
「思い出した! 蓬莱人だよ」
「蓬莱人? 悪いが、聞いたことないね。そんな妖怪、本当にいるのかい?」
「いや、妖怪じゃないわよ。何でも永遠の命を手に入れた連中らしく、何をされても死なないんだとか。いわゆる、不老不死って奴ね」
 死なず、老いず。それは幾人もの権力者が求めた夢であった。パルスィとて、貰えるものなら貰いたいところ。彼女らには彼女らなりの苦しみがある事も知っている。だがそれでも、死なず老いずというのは魅力的な力だった。
「ふうむ、不老不死ね。確かに何しても死なないってのは魅力的だけど、ただの人間と戦ってもねえ。それは単なる終わらない虐殺だ」
「元はただの人間だったらしいけど、不死鳥みたいな炎を出すんだとさ。侮ってると、あんたも危ないかもよ」
 炎という単語に、怪訝だった勇儀の顔色が変わる。炎ねえ、と確かめるように口に出していた。
「だったら、ちょいと戦ってみるのも面白いかもしれないね。それで、そいつの名前は?」
「妹紅だったかな。永遠亭の辺りにいるとしか聞いてないから、それ以上は分からないよ」
 パルスィにしては大盤振る舞いの助け船だ。余程、勇儀と喧嘩したくないのだろう。
「妹紅か。よーし、それじゃあちょっくら地上に出てきますか」
 地肌むき出しの天井を見上げ、不適な笑みを浮かべる勇儀。パルスィは酒を一献傾けながら、見知らぬ妹紅に同情の念を送る。他人を同情するのは久しぶりのことだった。
 だが、これが同情せずにいられるか。
 何だかんだと言おうと、この幻想郷で鬼に勝てる種族なんてタカが知れている。不死鳥を出せるくらいでは、歯が立たないだろう。きっと。
「だからって、私が相手するのも嫌だしね」
 悠々と立ち去っていく勇儀を尻目に、パルスィはまた酒を煽る。そして、思い出す。
「ちょ、ちょっと! あんたの勘定は!」
 勇儀の姿はない。パルスィは徳利を握りしめたまま、妹紅への同情を捨て去り、勇儀への怒りに燃えていた。










 反応が遅れたのは、何も妹紅が愚鈍だったからではない。単に想像の範疇から外れた質問をされたので、思わず呆気にとられただけだ。
 鬼というのは、こうも好戦的な性格をしているのか。まさか初対面の人間に、いきなり喧嘩を吹っかけてくるとは思わなかった。これが慧音なら無礼を諫め、輝夜なら呆れて無視していたところだろう。
 自分はどちらを選ぶのか。答えを導き出す前に、口が勝手に動いていた。
「ああ、いいわよ」
 元より、渦巻いていた不満を解消する為に此処へ来たのだ。断るぐらいなら来たりしない。本能はそう考え、勝手に答えを用意していたのだろう。
 一瞬だけ自分の返答に驚くが、すぐに気を取り直した。なに、鬼と一戦交えるのも滅多にある事ではない。これを糧にして、技量向上でも図るか。
「そうこなっくちゃ。あんたもなかなか分かる奴だねえ」
 至極愉しそうに笑いながら立ち上がる。スカートについた土を払い、ほぐすように肩を鳴らした。
「始める前に聞いておくけど、あんたが妹紅?」
 突然名前を呼ばれて面食らう。
「おや、あんただけじゃなく私も随分と有名になったみたいじゃない」
「だったら良いんだ。前々から思ってはいたんだよ、不老不死の奴と戦ってみたいってね。ああ、言っておくけど私はスペカとか使わないから。あんたは好きにするといいよ」
「それはハンデ?」
「いや、単なる趣味。弾幕ごっこならいざ知らず、喧嘩でスペカなんざ、まどろっこしいだけ。だから油断せずに、かかってきなよ」
 特に構えることもなく、腕を組んで佇む勇儀。喧嘩に合図など無いのだから、いつ殴りかかっても良いというのに。
「油断してるのは、どっちかしら!」
 構えを必要としないのは妹紅も同じ事。予備動作も無しに、一羽の鳳凰の羽ばたかせる。
 空気を熱し焦がしながら、鳳凰は勇儀の身体を包んだ。黒ずんでいた大地から、蜃気楼のように炎が立ち上る。並の人間ならこれで致死に至るが、鬼が相手では牽制程度でしかない。
 妹紅は大地を蹴り、拳を握りしめ、炎の中へ突っ込んだ。
 まずは先制の一発を。喧嘩において重要なのは、どちらが致命的な先制攻撃を決めるかだ。
 焼け付く大地を踏みしめ、拳を振り上げたところで妹紅は違和感に気付いた。炎の中に勇儀はいる。いるけれど、意表を突かれてあのまま体勢でいたのなら、頭は妹紅と同じぐらいの位置にないとおかしい。
 だが勇儀の頭は低い位置にあり、その上妹紅を見ていない。奇妙な格好のまま、固まっている。この体勢を表現するのなら、そう、じゃんけんの直前のような。
 気付いた瞬間には、手遅れだった。
「ははっ!」
 笑いながら決められた一発。身体の捻りと筋力が加わった一撃は、ただの正拳突きを凶器へと昇華させる。
 比喩ではなく、胸がくぼんだ。
 肋骨は向きを変え、守るべき内臓を傷つける。肺は役目を忘れたように、酸素の受け取りを拒否していた。
 えげつないのは、これだけ致命傷を与えておきながら妹紅の身体を吹き飛ばさなかったことだ。本来、これぐらいの衝撃があればゴム鞠のように身体は吹き飛ぶ。だが勇儀は衝撃の向きを下に向けた。
 だから胸だけでなく地面がくぼむことはあっても、妹紅の身体が飛んでいくことはない。即ち、距離をとることができなかったのだ。
「ほら、もういっちょ!」
 呼吸困難で蹲っていた妹紅の後頭部に、容赦なく筋肉の槌を叩きつける。後頭骨が壊滅的な音を立てて、壊れていく音が頭中に響いた。直接手を突っ込まれたように脳がかき回される。頭が真っ白になるというのは、まさにこの状態を言うのか。
 完全に思考を停止した妹紅だったが、脊髄反射で鳳凰を放つ。さしもの勇儀も零距離で撃たれては怯みもするのだろう。その一瞬の間に、妹紅はもてる限りの力を尽くして距離をとった。
 無様に地面を転がりながら、後頭部を押さえる。呼吸は相変わらず不規則なままで、動くたびに内臓が痛い。たったの二撃で、最早勝負は決していた。
 あくまで、妹紅が普通の人間ならばの話だが。
 押さえていた手から放たれる鳳凰。しかしそれは勇儀に向けてではなく、自らの頭に向けてのものだった。一瞬にして頭部が塵になり、即座に蘇生する。くぼんでいた胸も、いつのまにか何もない普通の状態に戻っていた。
「ほお、さすがは不老不死だね。なんとも便利な能力じゃないか」
 心底驚いたように勇儀が言い放つ。
「だけど、耐えてばかりじゃなつまらないねえ。喧嘩の華は殴り合いだよ」
「別にあなたの流儀に従う必要もないでしょ」
「それもそうだ。だったら、あんたの流儀を見せてくれよ。まだまだ、本気じゃないんだろ?」
 これが輝夜との戦いだったら、ちょうど始めたばっかりというぐらいだ。いきなり頭蓋骨をたたき割られるとは思わなかったものの、壊されるのは慣れている。蓬莱人ゆえの特権か。一度死んで確かめられるというのは。
「あんたの動きは見切ったからね。生憎と、もう攻撃を喰らうことは無いとだけ言っておく」
「じゃあ、やってみろと返しておこうか」
 不適な笑みを浮かべ再び、じゃんけんを出すような構えをとる。これにまた正面から挑むほど妹紅は馬鹿じゃない。かといって、そう易々と後ろを取らせはしないだろう。上空からも以ての外だ。あの構えなら、丁度良い対空砲になる。
 狙うは側面。それも理想を語るなら、勇儀が正拳突きを放ってからの攻撃にしたい。
 避けられるか。自問自答に返ってきた答えは、避けられなくとも構いはしないだった。
 勇儀が一撃を重視する戦闘スタイルをとるように、妹紅もまた一撃を大事にしている。似たようなスタイルの二人が戦うのなら自然と、戦い方も似通ってくるのは当たり前の話だ。
 妹紅は駆け出す。一瞬勇儀が反応するが、すぐさま待ちの体勢に戻った。射程距離に入ったならば、容赦なくその弾丸を撃ち出してくるだろう。それを喰らえば妹紅は不利になり、よければ有利になる。
 ギャンブルじみた展開であるが、なかなかどうして面白い。それに分かりやすい。策を弄する輝夜とやり合っている時とは、また違った感覚が味わえる。たまには見知らぬ誰かと戦うのも楽しいものだ。戦闘中なのに、ふとそんな事を思った。
 気が付けば距離は充分。七歩ほど詰めれば、身体がぶつかる。
 一歩踏み出す度に、勇儀の右手への視線が強まる。早く、早く。その拳を打ち出して欲しい。
 あと三歩というところまで来て、微かに勇儀の右腕が動いた。瞬間、妹紅は作戦を変えた。確実に考えが読まれている。ならば、このまま真正面から突っ込んだ方が相手の虚をつけるし、勢いもある。
 考えは当たっていたのだろう。勇儀の視線も、どことなく横を気にしているようだった。
 これならば。
 勢いそのままに、顔面を足の裏で踏みつける。横へ意識を逸らしていた勇儀はこれに体勢を崩し、顔ごと仰け反った。
 妹紅はそのまま軸足を変え、側頭部を足で刈る。どれだけ頑丈な身体をしていようと、脳で考え動いている以上、頭部への攻撃は致命傷となりえる。
 ぐらついた勇儀の身体。この好機を逃す手はない。側頭部を刈り取った勢いで、身体を回転させる。先程まで軸足だった右を、踵を凶器に変えて同じ箇所へたたき込んだ。いわゆる回転蹴りである。
「っく!」
 頭部への三回連続の蹴り。これには勇儀も応えたらしく呻き声が漏らす。
「っははははは、あんたもやるねえ!」
「なっ!」
 あれだけ顔を蹴られたというのに、それでもまだ愉しそうな表情を浮かべたままの勇儀。そして彼女の構えもまた、ぐらついてはいたが解かれていなかった。鎧を着て銃を持った奴を蹴り続けていたようなものである。
 だとするならば、この後は。
「だけど、それじゃあまだまだ私は倒せないよ!」
 手首を返し、血脈が空へと向けられた。拳が向かってくる先は妹紅の顎。攻撃を終えたばかりで、防御する暇もない。
 何の対策もとれず、勇儀のアッパーをマトモに食らう。大地と足が離れ、ロケットのように打ち上げられた。首が引っこ抜けなかったのは、不幸中の幸いだ。
 しばらく意識を失っていた妹紅だったが、身体が重力に負け始めた辺りで目を覚ます。そして、慌てて落ちるのを止めた。危ういところだ。下では勇儀が落ちてくる妹紅に狙いを定めていた。あのまま落ちていたら、そのままトスバッティングのボールのように横殴りの衝撃を受けていたことだろう。
 まったく、それにしても鬼というのは規格外の種族である。
「あなたも大概に頑丈ね」
「いやいや、さすがの私でも首がもげたら死ぬよ。多分」
 自分が言えた台詞ではないが、そこに多分が付く辺り恐ろしい。今にして思えば、こうしてわざわざ地上に出てきた理由も何となく察することができる。こんな化け物、相手に出来るのは限られた連中のみ。妹紅も不死という特性が無ければ、初撃で死んでいた。
 首の具合を確かめながら、勇儀を見下ろす。こうして飛び続けていても、何も始まらない。だが、降りたとて何か有効な手段はあるのか。相手が輝夜ならば弄した策を見破り、拳を叩きつければいい。何だかんだと言いながら、輝夜の防御力も人間程度のもの。頭を蹴れば怯むし、腕をもげば顔をしかめる。
 しかし勇儀が相手ではそうもいかない。頭を蹴っても怯まないし、そもそも腕をもぐほどの力は妹紅にない。打てば返され、守れば破られ。これが将棋ならば最早詰んでいる。とっくに投了を迎えてもおかしくない局面。
 それなのに、妹紅の口は喜悦を感じているように歪む。
 何を怯える必要があろうか。どうして竦む事が出来ようか。
 目の前に最高のご馳走があるというのに。それを食さずして何になる。
「結局は、同じ穴の狢というわけね」
 勇儀が喧嘩を楽しんでいるように、妹紅もまた楽しんでいた。例え肋骨を折られようと、頭蓋骨を割られようと、楽しいものは楽しいのだ。蓬莱人ゆえの異常性かもしれない。死を恐れぬがゆえに、生と死のやり取りを楽しいと思ってしまう。
 だが、それでいいのだ。どうせ、妹紅は人間じゃない。だったら、人とは違う楽しみがあったっていいじゃないか。鬼との殴り合い大いに結構。楽しむだけ楽しんで、後は勝利を飾って慧音に報告すればいい。慧音はまた呆れるだろうけど、その顔を見るのもまた一興だ。
「どうしたー! 降りてこないから、こっちから行くよ!」
 ボーッとしていた妹紅に向かって、地上から警告が届く。あちらも同じ気持ちなのだろう。一刻も無駄にしたくないのだ、この喧嘩を。
「ああ、悪いわね。ちょっとばかり馬鹿な自分に呆れていただけ。でももう、大丈夫だから。楽しむだけ楽しんで、あんたの悪夢にしてあげる!」
「覚める悪夢など怖くない。それでもどうしてもって言うんなら、覚めることのないトラウマを刻んでやるよ!」
 虚空を蹴りだし、勇儀に突っ込む。さながら弾丸のようであり、隕石にも似ていた。勇儀は臆することなく、砲丸投げのような構えを見せる。このまま突っ込めば、鬼力対空砲の餌食となり、夜空の星と消えてしまうかもしれない。
 勇儀の顔に、勝利を確信した表情が浮かぶ。そして妹紅も、同様に笑った。
 玉砕は特技だが、信条ではない。
 対空砲が放たれる寸前、妹紅の身体が霧散した。
「なっ!」
 体内の炎を凶器に変えて、己の身体を焼き尽くす。それは第三者から見れば、あたかも消えたかのように錯覚するだろう。さながら吸血鬼のように。
 目標を見失った勇儀に初めて焦りの色が見える。
 ここを逃せば、もう好機は巡ってこない。
 勇儀の背後でリザレクションした妹紅は、彼女が振り向く前に背中へ拳を当てた。どうせ、思い切り殴ったところで大したダメージを与えることなどできない。だから、拳を当てるだけで良かった。
 自らを焦がした鳳凰を、零距離で勇儀の背中に叩き込む。
「ぐっ!」
 体操服のような衣装に丸い穴が空き、病弱な少女のように白っぽい肌を焦がした。皮膚を焼く不快な臭いが立ちこめる。
 勇儀は一瞬だけ前へ姿勢を崩したものの、それだけだった。倒れる様子もなければ、油汗を浮かべるでもない。
「ちょっと驚いたけど、でも」
「うぉぉぉぉぉ!!」
 何か口上を述べようとしていたのか。妹紅はそれを無視して、背中へ再び鳳凰を放つ。
 二発目は僅かに皮膚の黒さを濃くするだけだった。
 ならばと三発。おまけに四発。これでと五発。
 十を超え、二十を超えて、放つ妹紅も疲労を隠せない。
 だが、それは勇儀も同じ事。連続して放たれる鳳凰から耐えることに精一杯で、振り返って殴ってきたりはしない。それをされたら妹紅は万策尽きると知っているだろうに出来ないということは、それほど妹紅の攻撃が効いている証拠だ。
 服はとっくに焼かれ、背中も炭のように炭化している。それでも妹紅は撃つのを止めない。
 勇儀が倒れるまで、勝負がつくまで。この手を止めてはいけないのだ。
 それは勇儀も同じ事。振り向くことが出来ない以上、耐えることが唯一の対抗策。
 互いの精神力がぶつかり合い、相手が倒れるのをただひたすらに待ち続ける。
 何発も何十発も撃たれた鳳凰の果てに、立ち残っていたのは妹紅の方であった。
「っはぁ……ぁ……」
 膝に手をついて、呼吸を整える。顔は雨に打たれたように濡れており、服もべっとりと肌に付いていた。全身が休息を訴え、気を抜けば今すぐにでも倒れてしまいそう。そんな妹紅を支えているのは、皮肉にも地面に倒れる勇儀の姿だった。
 鳳凰の勢いに屈したのか、吹き飛んだ勇儀は糸の切れた操り人形のように地面に倒れ伏している。あれが完全に倒れているという事を確認するまで、意識を手放すわけにはいかない。
 もしもまだ意識があるなら、ここでトドメの一発を決めておかねば、勝敗は容易に逆転する。
 乱れた呼吸のまま、一歩ずつゆっくりと前進する妹紅。
 すっかり黒こげになった大地が、悲鳴をあげるように砂利の音を鳴らす。
「良かったよ……」
 どこからか聞こえてくる声。胡乱な妹紅の瞳が、辺りを見渡す。
「わざわざ地上まで出てきて、本当に良かった。こんなにも熱い喧嘩が出来るなんて、鬼冥利に尽きるってヤツだ」
 声が聞こえてきた先にあるのは、倒れ伏した勇儀の姿。
 考えたくはない。考えたくはないが、認めるしかあるまい。
 ふらふらと歩く事すらままならない妹紅とは違い、勇儀はすっくと立ち上がった。衣装こそ見窄らしく、背中はいまだ黒ずんでいる。だが、その動きが精細を欠いた様子はない。
「お礼にとっておきを見せてあげるよ。大江山が四天王にだけ伝えられた、鬼が放つ最大の一撃。三歩必殺」
 咄嗟に防御しようと腕をあげるものの、最早体力は残っておらず、ベニヤ板よりも心許ない。
「ああ、防ごうとしても無駄だよ。三歩で必ず、あんたは一度死ぬ」
 リザレクションしたところで、おそらくもう勝負にはならない。ここで殺されることは敗北とイコールで繋がれるのだ。
「では、まずは一歩目」
 力強く踏み出された一歩が、大地を文字通り揺らす。そのあまりに激しい振動に、立つことすらままならない。妹紅は尻餅をつき、押さえるように地面へ手を突いた。
 勇儀は一歩目をバネにして、思い切り蛙のように跳躍した。
「そして二歩」
 五十センチもない距離に着地して、そう言い放つ。これほどの至近距離での一歩。その揺れは先程の比ではない。
 反撃することすら出来ずに、妹紅はただただ揺れる大地にしがみつく。
「私の勝ちだな。これで、三歩目」
 足だけでなく、拳も振り下ろされる。動きを封じた上での、渾身の一撃。避ける術もなければ、受けてどうなるものでもない。絶対不可避の一撃をもって、これを三歩必殺と言うのだろう。
 一切の抵抗を捨てた妹紅は、最後にそんな事を思っていた。
 拳の弾丸が腹部を貫き、そして妹紅は内から爆ぜた。
 竹林の中に爆発音が木霊する。










 西の空が赤く染まろうとしていた。時間が経つのを忘れるとは、きっとこの事なのだろう。地面に座り込みながら、妹紅は夕焼けを見上げていた。山からの風が周りの竹をさらさらと揺らす。頬を撫でる風が冷たくて気持ちいい。
 笹が舞い、空が赤らむ。絵心があれば、思わず筆をとりたくなる光景だ。絵を描かない妹紅は、その光景をただただ目に焼き付ける事に専念する。
「……んあ?」
 笹が擦れる音に紛れ、間の抜けた声が聞こえてきた。首だけをそちらに向ける。どうやら、ようやく勇儀も目を覚ましたらしい。頭を押さえながら起きあがり、半眼で辺りの様子を確認し始めた。
「あれ、何で私地上にいるんだ?」
 そこから覚えていないらしい。どう説明してやったものかと悩みはしたが、放っておいても勝手に思い出すだろう。そう判断して、妹紅は再び夕日へと目を遣った。
「あー!」
 何とも。情緒を愛させてくれない鬼である。
 再び視線を戻してみれば、こちらを見て固まっていた。
「あー、あー。なんだそうか……私の負けか」
 一人で自己解決して納得したらしい。焦げ付いた背中を大地に降ろし、大の字で空を見上げている。
「いや、どちらかというと相打ちだと思うわよ。私もあれ以上、戦うことなんて出来なかったし」
「いや、私が負けを認めたんだ。だから、これはあんたの勝ちだよ」
 変な理屈だが、ここで強情になっても得はない。素直に勝ちを受け取っておこう。
「うーん、まさか自爆するなんて想像してなかったなあ。いやあ、蛙だった蛙だった。大海は広いねえ」
 感心するように唸る勇儀。しかしそこを褒められても、妹紅としてはあまり気持ちのいいものではない。なにせあれは、本当に最後の最後。追いつめられた時に出す、いわば最後っ屁のようなもの。体内に溜めた膨大な炎を、相手の攻撃でただ爆発させるだけなのだ。スカンクでもあるまいし、あれを誇れるほど太い神経はしていない。
 輝夜だったら、あれも戦術と割り切って勝利を噛みしめることだろう。いや、その前に敗者の傷口に塩を塗りたくっているか。あれと誰かが戦っているのを見たことがないので、何とも言うことはできないが。少なくとも妹紅が敗者であれば、輝夜は容赦しないことだけは分かっている。
「そういえば、あんたは何してるんだい? ひょっとして、私の回復を待っててくれたとか?」
「馬鹿言わないで。ただちょっと、私も疲れて動けなかっただけよ」
 意地を張っているわけではない。本当に疲れて一歩も動けなかったのだ。肉体は蘇生されても、体力は戻らない。不老不死にだって、不便な部分は幾らでもある。
「そうかい。なら別に良いんだけど……うおっ、右手がない!」
 頭でも掻こうとしたのか。挙げた腕には肘から先が無かった。断面は焦げ付き、今にも崩れそうなほど炭化している。真正面から爆風を浴びたのだ、むしろ、右腕一本で済んでいる方がおかしい。げに恐ろしきは、鬼の頑丈さか。
「んー、どうしたものかねえ。さすがに右手がないと不便だし、新しい腕が生えてくるまで河童に義手でも作らそうか」
 生えてくるのか。何ともそら恐ろしい話だ。
「そいじゃあ、私はこれて失礼するよ。ええっと、名前は何て言ったっけ?」
「藤原妹紅」
「ああ、そうだった。じゃあね、妹紅。縁が合ったら、またやろう」
 生き残った左腕を振って、勇儀はそのまま去っていく。まだ立ち上がれない妹紅とは違って、もう体力は戻っているようだ。改めて、鬼と人間という種族の違いを見せつけられた気がする。
 焦げ付いた彼女の背中に向かって、妹紅は言った。
「もう二度と、御免だよ」
 いくら楽しくても、それとこれとは話が違ったのだ。





 
 右手が生えてくるまで、パルスィは勇儀のお酌をさせられたんだとか。
 何だかんだ言って、面倒見の良い水橋さんでした。
八重結界
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コメント



0.2970簡易評価
5.90煉獄削除
良い戦いでした。
そしてしわ寄せはパルスィへと行くんですね……。
妹紅と勇儀の戦いはスッキリと読めて面白かったですよ。

一字余計なのを見つけたので報告です。
>相手がチルノがでも勝てる気はしない。
正しくは、『相手がチルノでも』になるかと。
7.100名前が無い程度の能力削除
妹紅と勇儀の戦いは、駆け引きには乏しいですけど華がありますね。
本当に気持ちの良さそうな喧嘩でした。
で、パルスィが‥あんなにお人好しだったとは♪
前半の、無理矢理とはいえ、律儀に突っ込みつつ勇儀の相手をするパルスィは妙に可愛いです。
すっきりと絞られたよい作品をありがとうございました。
12.100名前が無い程度の能力削除
妹紅かっけー
そしていい勇パルwwwww
15.80名前が無い程度の能力削除
鬼の喧嘩は殴り合いに限る。
弾幕主流の幻想郷ではそう相手はいないけど。

結局巻き込まれるパルスィ可愛いよパルスィ
32.80名前が無い程度の能力削除
パルスィってきっと旧地獄街道のどこかにあるスナックのママなんだと思う今日この頃。
41.80斗無削除
なんとも熱い戦いでした!!!
42.無評価八重結界削除
 誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
43.90名前が無い程度の能力削除
妹紅の戦い方すげぇw
面白かったです!
47.80名前が無い程度の能力削除
カコ(・∀・)イイ!!
49.100名前が無い程度の能力削除
熱いねぇ
50.100名前が無い程度の能力削除
妹紅とかはホント弾幕戦より肉弾戦のほうが似合いますね
62.100名前が無い程度の能力削除
妹紅と勇儀の喧嘩……こんなSSがあったとは!
いやぁ、いい華を見せていただきました。