「見たまえ魔理沙。これが、自動販売機だ」
香霖は、眼鏡をくぃっと上げて控えめに、しかし得意げに言った。
「自動販売機、ねぇ」
私の目の前にあるのは、赤い色を基調とした金属の箱で、色々とデザインチックな英語が書かれている。
その『自動販売機』とやらは前面にガラスの扉がはめ込まれており、その中には前に飲んだ瓶入りのコーラが詰まっていた。
「文字通り、自ら動いてものを販売してくれる機械だよ。これはコーラの自動販売機、人の手を介さなくても自働でコーラを売ってくれる素晴らしい機械だ」
「コーラ以外は売れるのか?」
こんなにバカでかくコーラを売るしか能がない機械など、香霖が普段語っている合理的過ぎる外の世界のイメージとズレすぎている。
そう思った私は、香霖に聞いた。
「残念だが、これはあくまで『コーラを売る』道具らしくてね。おそらくコーラ以外を売ることはできない」
「なんというか、役に立たない気がするんだが」
これだけ大きくて、できる事はコーラの専売とは、外の世界にも香霖みたいな生産性皆無な奴が居るのだろうか。
「良いじゃないか。逆にこれだけ大きくて出来ることがコーラを売るだけ。それはそれで風情が合って良いだろ」
「そんなものかね」
風情というか、酔狂というか。
まあ、酔狂は香霖の十八番なんだが。
「試しに一本買ってみてはどうかな。冷えていて美味しいはずだ」
そう言うと香霖は、自動販売機の1銭と手書きで書かれたプレートを指差し、続いてそのプレートの下にある細長い穴を指した。
どうやらそこに一銭銅貨を入れろ、という意味らしい。
「ん」
「……魔理沙、少し聞きたい事があるんだが、なぜ手を出すんだい?」
「手持ちが無くてな、おごってくれ」
私がそう言うと香霖はため息を一つ吐いて、財布から銅貨を一枚取り出すと、私の手のひらに置いた。
「サンクス。香霖、愛してるぜ」
「はいはい、僕も愛してるよ」
素直にお礼を言ったのに香霖は適当に流している。
こんな可憐な乙女に『愛してる』と言われてまるで嬉しそうじゃないなんて……実に失礼な奴だ。
「じゃあ、銅貨をコイン投入口に入れるんだ」
「あいよ」
銅貨はチャリンとなかなか良い音を立てて、自動販売機の中に入った。
しかし、その後何も起こらない。
「……何も起こらんぞ」
「コインを入れたら、扉を開けるんだ。それから、好きなコーラを引っ張り出す」
妙に嬉しそうに香霖が解説する。
香霖の解説通りに、私は自動販売機のガラス扉をあけた。
「おお、冷気が!」
微妙に、本当に僅かだがガラス戸を開けると微かな冷気が漂ってくる。
「どうだ、凄いだろう? 自動販売機の売りはそこさ。常に冷たいコーラを販売できる、それがコーラの自動販売機の最大の特徴なんだ」
香霖のテンションが上がっているみたいだ。
私も、飲み物が冷たいことが嬉しくて、少し興奮している。
「で、引っ張り出せばいいんだよな?」
王冠をかぶった頭をこっちに向けるコーラの瓶たち、どれも同じコーラなのに、私はどのコーラを飲もうか迷う。
まったく同じコーラなのに、なぜか味が違うような気がしたのだ。
少し悩んだ末、私は一番上に入っていた逆さにかぶった王冠が目立つコーラを手に取った。
「つめた!」
自動販売機のコーラはとても冷えている。
栓抜きが無いことに気が付き、香霖に貸してくれと頼むと、香霖は笑って自動販売機のコイン投入口下にある穴を指した。
「って、まさか……」
ある事に気が付いて、私は瓶コーラをそこに突っ込む。
それはコーラの王冠に見事にハマった、穴の奥には固定式の栓抜きが仕組まれているのだった。
ポン、という良い音と共に抜けるコーラの王冠、シュウシュウと弾ける炭酸の音。
私はコーラに口を付けて、飲むと、
「相変わらず、薬臭いな」
と感想を漏らす。
「それは美味いのか、それとも不味いのか」
微妙に怪訝な顔で香霖が私に尋ねる。
確かに、薬臭いは全然褒め言葉にはならないだろう。
「ま、嫌いじゃないな。癖にはなるぜ」
私の答えに香霖は「だから、どっちなんだ」とまた聞いてきたが、その問いには答えようがない。
コーラの味は美味いとか不味いとかじゃなく、薬臭くて癖になって嫌いな味ではないとしか、私には表現のしようがない。
また、口の中で痛いほど弾ける、この炭酸という奴も悪くない。
もしかしたら、それは美味いという事で、私はコーラの事が好きなのかも知れない。
「しかし、こいつは良いな。いつも冷たいコーラが飲めるなんて素敵じゃないか」
香霖は普段は使えないものばかり、あるいは使い方の分からないものばかりいじっているが、今回のこれは久しぶりの会心作だ。
「うむ、色々と試行錯誤に改造などを繰り返してね、結構苦労したんだぞ? 一体どれほどのゴムや歯車を消費したか……特にコーラを冷やす仕組みには苦心した」
「ほうほう」
それはいい事を聞いた。
物を冷やすカラクリとな。
それがあればいつでも冷たいものを飲めたり、腐りやすいものを冷やしたりと大活躍間違いなしだ。ぜひ知りたい、てか教えろ。
「ちょっと見せてもらうぜ?」
私は自動販売機が開かないか、適当に引っ張ってみる。
「仕事中よ」
中には氷の妖精が入っていた。
膝を抱えて、狭い自動販売機の中に入り込み、コーラが冷えるように氷の羽根をしかるべき場所に差し込んでいる。
氷の妖精と見つめあってしまった私は「そいつは悪かった」と、謝って自動販売機を閉じる。
氷の妖精は、その冷気を使ってコーラを冷やす仕事をしているようだ。
これでは我が家では使えない。
私は、モノを冷やすカラクリを諦めた。
「外の世界もこうやってるのか?」
「さすがにそれは無いな。結局、どうしてもコーラを冷やす仕掛けが分からなかったから、チルノを冷却係として雇っただけだよ」
妙に得意げな顔で香霖が言う。
つまり、これは『自動』販売機ではないという事か。
私が、そんな事を言うと、
「何を言うんだ。販売に関しては自動だぞ。冷却を妖精に任せているだけさ」
と、さも心外そうに私の発言に抗議する。
「しかし、それなら自動販売機を使わず、氷の妖精に販売もさせた方が良いんじゃないか?」
かの戦国武将の若き日の逸話のように、懐に瓶コーラを入れれば、いい感じに冷えるだろう。
そうして冷やしたコーラを妖精に売らせれば、合理的じゃないだろうか。
ごく、真っ当なことを私が言うと、なぜか香霖は「わかってないな」と頭を振った。
「自動販売機のコーラだから美味いんじゃないか」
「……確かにな」
思いっきり自動販売機にはしゃいでいた私はその主張に同意する。
何より、このコーラの自動販売機というものは味があって良い。
「もう一本欲しいな」
私はさりげなく香霖を見たが、カラの財布を私に振って見せる。
どうにも香霖は甲斐性というものが無い、困ったものだ。
「仕方無いな……」
私は蝦蟇口を取り出して、そこから銅貨を二枚取り出して自動販売機に挿入する。そしてコーラを二本取り出すと、その内一本を香霖に放り投げた。
「おいおい、手持ちが無いって言ってなかったか?」
「おごってやるんだ、堅苦しいこと言うなよ」
私の好意に何故か香霖は苦笑している。
常々思うのだが、香霖はもう少し素直になった方が良い。
コーラは冷たくて薬臭い、それが妙に……美味かった。
どうやら、私は薬臭いと連呼しながら、コーラの虜になってしまったようだ。
「そういや、お前も飲むか?」
コーラの自動販売機を叩いた。
せっかく美味いコーラを味わってるのだ、こういうのはみんなで飲んだ方が美味い。
「あたいは、いいよ」
自動販売機の中から、チルノが断った。
「なんだ、付き合い悪いな」
「仕方無いだろ、魔理沙。強炭酸は子どもにはつらいものだ」
なかなか香霖も上手い事を言う。
「……ッ! あたい子どもじゃないもん!」
そんな会話を交わしていたら、チルノが食いつかない道理がない、まるで飛んで火に入る夏の虫じゃないか。
「あたいは、レディーなんだからね! コーラ……だっけ、そんなのいくらでも飲めるのよ!」
自称、大人の氷の妖精は、自動販売機から颯爽と登場する。
「おっし。んじゃ、素敵なレディーに大人の飲み物をプレゼントだ」
私は銅貨を追加で一枚取り出して、コーラを自動販売機から買うと、それをチルノに渡した。
「……なんか、しゅわしゅわ音がするんだけど」
「活きが良い証拠だぜ、早く飲まないと鮮度が落ちる」
「うわ。なんか薬臭い……」
「それが醍醐味だ。それともチルノには大人の味は早すぎたかな?」
「んなことないよ! あたいは大人だから、いくらでもコーラなんて飲めるよ!」
ちょっとした挑発にもチルノは必ず乗る。
やはり、こいつはノリが良くて楽しい。
「じゃあ、息継なしで一気に飲まなきゃな。それがコーラ通の作法だぜ?」
そう言って私は、残ったコーラを一気に飲み干す。
強力な炭酸ガスがこみ上げて、下品にげっぷを出してしまうが、かまいやしない。
むしろ、この食道を駆け上がるコーラの炭酸ガスも、ノドを競りあがるげっぷまでも、それらすべてがコーラの味なのだ。
「うん……」
チルノは美味そうに口を拭う私の姿を見て、意を決したようにコーラを飲み始めた。
「んく、んく、んく……ううう」
「おー、頑張るなー」
なんとか、チルノはコーラを飲み干して、長い、果てしなく長いげっぷをした。
「み、みたか。あたいはれでぃだから、こーらなんてかんたんにのめるのよ……」
涙目になりながら、チルノは私に向って胸を張ってみせる。
「ああ、お前は立派なレディーだな。ところで……もう一本いっとくか?」
私は笑って、チルノの職場を指差すと、
「あいにく、しごとちゅうなんで、これぐらいでしつれい……」
と、チルノは涙目のまま、私にコーラの瓶を渡して自動販売機の中へと消えていった。
「ふーむ、強炭酸のコーラだけじゃなくて、弱炭酸や果汁飲料の自動販売機も仕入れた方が良いかな」
そんなチルノを見て香霖は冷静に呟き、
「もっと強烈な奴でも良いんだぜ?」
私は空になったコーラの瓶を香霖に押しつけた。
げーっぷ
いきなり、自動販売機の中からそんな音が聞こえてきて、私はあまりの面白さに笑い転げた。
香霖は、眼鏡をくぃっと上げて控えめに、しかし得意げに言った。
「自動販売機、ねぇ」
私の目の前にあるのは、赤い色を基調とした金属の箱で、色々とデザインチックな英語が書かれている。
その『自動販売機』とやらは前面にガラスの扉がはめ込まれており、その中には前に飲んだ瓶入りのコーラが詰まっていた。
「文字通り、自ら動いてものを販売してくれる機械だよ。これはコーラの自動販売機、人の手を介さなくても自働でコーラを売ってくれる素晴らしい機械だ」
「コーラ以外は売れるのか?」
こんなにバカでかくコーラを売るしか能がない機械など、香霖が普段語っている合理的過ぎる外の世界のイメージとズレすぎている。
そう思った私は、香霖に聞いた。
「残念だが、これはあくまで『コーラを売る』道具らしくてね。おそらくコーラ以外を売ることはできない」
「なんというか、役に立たない気がするんだが」
これだけ大きくて、できる事はコーラの専売とは、外の世界にも香霖みたいな生産性皆無な奴が居るのだろうか。
「良いじゃないか。逆にこれだけ大きくて出来ることがコーラを売るだけ。それはそれで風情が合って良いだろ」
「そんなものかね」
風情というか、酔狂というか。
まあ、酔狂は香霖の十八番なんだが。
「試しに一本買ってみてはどうかな。冷えていて美味しいはずだ」
そう言うと香霖は、自動販売機の1銭と手書きで書かれたプレートを指差し、続いてそのプレートの下にある細長い穴を指した。
どうやらそこに一銭銅貨を入れろ、という意味らしい。
「ん」
「……魔理沙、少し聞きたい事があるんだが、なぜ手を出すんだい?」
「手持ちが無くてな、おごってくれ」
私がそう言うと香霖はため息を一つ吐いて、財布から銅貨を一枚取り出すと、私の手のひらに置いた。
「サンクス。香霖、愛してるぜ」
「はいはい、僕も愛してるよ」
素直にお礼を言ったのに香霖は適当に流している。
こんな可憐な乙女に『愛してる』と言われてまるで嬉しそうじゃないなんて……実に失礼な奴だ。
「じゃあ、銅貨をコイン投入口に入れるんだ」
「あいよ」
銅貨はチャリンとなかなか良い音を立てて、自動販売機の中に入った。
しかし、その後何も起こらない。
「……何も起こらんぞ」
「コインを入れたら、扉を開けるんだ。それから、好きなコーラを引っ張り出す」
妙に嬉しそうに香霖が解説する。
香霖の解説通りに、私は自動販売機のガラス扉をあけた。
「おお、冷気が!」
微妙に、本当に僅かだがガラス戸を開けると微かな冷気が漂ってくる。
「どうだ、凄いだろう? 自動販売機の売りはそこさ。常に冷たいコーラを販売できる、それがコーラの自動販売機の最大の特徴なんだ」
香霖のテンションが上がっているみたいだ。
私も、飲み物が冷たいことが嬉しくて、少し興奮している。
「で、引っ張り出せばいいんだよな?」
王冠をかぶった頭をこっちに向けるコーラの瓶たち、どれも同じコーラなのに、私はどのコーラを飲もうか迷う。
まったく同じコーラなのに、なぜか味が違うような気がしたのだ。
少し悩んだ末、私は一番上に入っていた逆さにかぶった王冠が目立つコーラを手に取った。
「つめた!」
自動販売機のコーラはとても冷えている。
栓抜きが無いことに気が付き、香霖に貸してくれと頼むと、香霖は笑って自動販売機のコイン投入口下にある穴を指した。
「って、まさか……」
ある事に気が付いて、私は瓶コーラをそこに突っ込む。
それはコーラの王冠に見事にハマった、穴の奥には固定式の栓抜きが仕組まれているのだった。
ポン、という良い音と共に抜けるコーラの王冠、シュウシュウと弾ける炭酸の音。
私はコーラに口を付けて、飲むと、
「相変わらず、薬臭いな」
と感想を漏らす。
「それは美味いのか、それとも不味いのか」
微妙に怪訝な顔で香霖が私に尋ねる。
確かに、薬臭いは全然褒め言葉にはならないだろう。
「ま、嫌いじゃないな。癖にはなるぜ」
私の答えに香霖は「だから、どっちなんだ」とまた聞いてきたが、その問いには答えようがない。
コーラの味は美味いとか不味いとかじゃなく、薬臭くて癖になって嫌いな味ではないとしか、私には表現のしようがない。
また、口の中で痛いほど弾ける、この炭酸という奴も悪くない。
もしかしたら、それは美味いという事で、私はコーラの事が好きなのかも知れない。
「しかし、こいつは良いな。いつも冷たいコーラが飲めるなんて素敵じゃないか」
香霖は普段は使えないものばかり、あるいは使い方の分からないものばかりいじっているが、今回のこれは久しぶりの会心作だ。
「うむ、色々と試行錯誤に改造などを繰り返してね、結構苦労したんだぞ? 一体どれほどのゴムや歯車を消費したか……特にコーラを冷やす仕組みには苦心した」
「ほうほう」
それはいい事を聞いた。
物を冷やすカラクリとな。
それがあればいつでも冷たいものを飲めたり、腐りやすいものを冷やしたりと大活躍間違いなしだ。ぜひ知りたい、てか教えろ。
「ちょっと見せてもらうぜ?」
私は自動販売機が開かないか、適当に引っ張ってみる。
「仕事中よ」
中には氷の妖精が入っていた。
膝を抱えて、狭い自動販売機の中に入り込み、コーラが冷えるように氷の羽根をしかるべき場所に差し込んでいる。
氷の妖精と見つめあってしまった私は「そいつは悪かった」と、謝って自動販売機を閉じる。
氷の妖精は、その冷気を使ってコーラを冷やす仕事をしているようだ。
これでは我が家では使えない。
私は、モノを冷やすカラクリを諦めた。
「外の世界もこうやってるのか?」
「さすがにそれは無いな。結局、どうしてもコーラを冷やす仕掛けが分からなかったから、チルノを冷却係として雇っただけだよ」
妙に得意げな顔で香霖が言う。
つまり、これは『自動』販売機ではないという事か。
私が、そんな事を言うと、
「何を言うんだ。販売に関しては自動だぞ。冷却を妖精に任せているだけさ」
と、さも心外そうに私の発言に抗議する。
「しかし、それなら自動販売機を使わず、氷の妖精に販売もさせた方が良いんじゃないか?」
かの戦国武将の若き日の逸話のように、懐に瓶コーラを入れれば、いい感じに冷えるだろう。
そうして冷やしたコーラを妖精に売らせれば、合理的じゃないだろうか。
ごく、真っ当なことを私が言うと、なぜか香霖は「わかってないな」と頭を振った。
「自動販売機のコーラだから美味いんじゃないか」
「……確かにな」
思いっきり自動販売機にはしゃいでいた私はその主張に同意する。
何より、このコーラの自動販売機というものは味があって良い。
「もう一本欲しいな」
私はさりげなく香霖を見たが、カラの財布を私に振って見せる。
どうにも香霖は甲斐性というものが無い、困ったものだ。
「仕方無いな……」
私は蝦蟇口を取り出して、そこから銅貨を二枚取り出して自動販売機に挿入する。そしてコーラを二本取り出すと、その内一本を香霖に放り投げた。
「おいおい、手持ちが無いって言ってなかったか?」
「おごってやるんだ、堅苦しいこと言うなよ」
私の好意に何故か香霖は苦笑している。
常々思うのだが、香霖はもう少し素直になった方が良い。
コーラは冷たくて薬臭い、それが妙に……美味かった。
どうやら、私は薬臭いと連呼しながら、コーラの虜になってしまったようだ。
「そういや、お前も飲むか?」
コーラの自動販売機を叩いた。
せっかく美味いコーラを味わってるのだ、こういうのはみんなで飲んだ方が美味い。
「あたいは、いいよ」
自動販売機の中から、チルノが断った。
「なんだ、付き合い悪いな」
「仕方無いだろ、魔理沙。強炭酸は子どもにはつらいものだ」
なかなか香霖も上手い事を言う。
「……ッ! あたい子どもじゃないもん!」
そんな会話を交わしていたら、チルノが食いつかない道理がない、まるで飛んで火に入る夏の虫じゃないか。
「あたいは、レディーなんだからね! コーラ……だっけ、そんなのいくらでも飲めるのよ!」
自称、大人の氷の妖精は、自動販売機から颯爽と登場する。
「おっし。んじゃ、素敵なレディーに大人の飲み物をプレゼントだ」
私は銅貨を追加で一枚取り出して、コーラを自動販売機から買うと、それをチルノに渡した。
「……なんか、しゅわしゅわ音がするんだけど」
「活きが良い証拠だぜ、早く飲まないと鮮度が落ちる」
「うわ。なんか薬臭い……」
「それが醍醐味だ。それともチルノには大人の味は早すぎたかな?」
「んなことないよ! あたいは大人だから、いくらでもコーラなんて飲めるよ!」
ちょっとした挑発にもチルノは必ず乗る。
やはり、こいつはノリが良くて楽しい。
「じゃあ、息継なしで一気に飲まなきゃな。それがコーラ通の作法だぜ?」
そう言って私は、残ったコーラを一気に飲み干す。
強力な炭酸ガスがこみ上げて、下品にげっぷを出してしまうが、かまいやしない。
むしろ、この食道を駆け上がるコーラの炭酸ガスも、ノドを競りあがるげっぷまでも、それらすべてがコーラの味なのだ。
「うん……」
チルノは美味そうに口を拭う私の姿を見て、意を決したようにコーラを飲み始めた。
「んく、んく、んく……ううう」
「おー、頑張るなー」
なんとか、チルノはコーラを飲み干して、長い、果てしなく長いげっぷをした。
「み、みたか。あたいはれでぃだから、こーらなんてかんたんにのめるのよ……」
涙目になりながら、チルノは私に向って胸を張ってみせる。
「ああ、お前は立派なレディーだな。ところで……もう一本いっとくか?」
私は笑って、チルノの職場を指差すと、
「あいにく、しごとちゅうなんで、これぐらいでしつれい……」
と、チルノは涙目のまま、私にコーラの瓶を渡して自動販売機の中へと消えていった。
「ふーむ、強炭酸のコーラだけじゃなくて、弱炭酸や果汁飲料の自動販売機も仕入れた方が良いかな」
そんなチルノを見て香霖は冷静に呟き、
「もっと強烈な奴でも良いんだぜ?」
私は空になったコーラの瓶を香霖に押しつけた。
げーっぷ
いきなり、自動販売機の中からそんな音が聞こえてきて、私はあまりの面白さに笑い転げた。
こーりんからのチルノへの労働の対価はなんなのでしょうか
私も瓶が一番おいしいと思いますね
面白かったけど、それまで笑うこともなかったのに……。
チルノの使い方というか、上手かったと思います。
笑ったのと面白かったです、お見事。
昨今の自動販売機の先駆けとなったコーラの自動販売機。私は実物を見たことはありませんが
幻想郷にこれほど似合う文明の利器もありますまい。それも完全体でないところが余計に色気を感じます。
キャラクターの描写がとてもらしくて、香霖堂での一部始終が鮮明に脳裏に浮かび上がりました。
最後に一言。チルノかわいいよチルノ。
霖之助の偏屈な中の闊達さ、魔理沙の一見粗野に見えて端々に垣間見える少女らしさ、チルノの無敵な可愛さ‥とても素敵に表現されていると思います。
でも、このタイプの自動販売機に、とんと遇わなくなったと思ったら、すでに幻想郷入りしてたのですねえ‥。
そういえば私も子供の頃、コーラの炭酸が苦手だった記憶があります
氷で割ったものなら大丈夫だったんですけどね
効率よりロマンを重視する彼らのことが私は好きです。
魔理沙らしい、霖之助らしい、チルノらしい台詞回し、
特に霖之助の見当違いな考察は原作を思い起こさせてくれました。
チルノが可愛すぎる。そのままちょっとコーラには手が届かないけどファンタとかを嬉々と
して呑む妖精のままでいてくれ。
見事なほのぼのでした!
素朴さが引き立てられて作風に非常に合ってる。
すばらしい
あれも幻想入りしてしまったのか…
しかし…チルノの懐とな(ゴクリ
さすがこーりん!
俺たちには、一瞬想像はするんだけど何を馬鹿なとすぐ却下するようなことをやってのける
そこにしびれる、あこがれるー!
見るとなぜか買ってしまう魔力がある
なんだかチルノが好きになるよ。
とにかくチルノがかわいい。一所懸命でいいですね。
霖之介はどうやって交渉したんでしょうか。
チルノへの報酬ってなんだろう。
ああ懐かしい・・
チルノ「最強なあたいに任せなさい」
こーりん『⑨とはさみは使いようだな』
シンプルながら素直に面白かったです
それにしてもこれはいい雰囲気
http://video.aol.com/video-detail/-/4264501576
に動作の様子があります。多分これではないかと。
または、画像は貯金箱ですけど、
http://www.iscollection.jp/index1_coca-cola_dicast_coinbanks.htm
このタイプかもしれません。
横レス大変失礼致しました。
そのせいかなぁ
俺には無理です、一気飲み。
そのうちレティが入った自動アイス販売機も出てきそうだ・・・
チルノ、かわいいなぁ~♪
それにしても、コーラが飲みたくなってくるお話ですね~
瓶コーラ…何処行けばあるかな…
ちるの可愛いよ
錯覚かもしれませんが
父の友人の会社の人が、取り出し口から手を突っ込んで引っこ抜こうとしたら手が挟まってとれなくなり、救急隊に出動願ったとかw
ちなみに、実家の近所の駄菓子屋では稼働中だったようなw
実はこのタイプの自販機、都内の某市で現役稼働中だったり。今度買ってこようかな・・・・・・
まだ各地に現役が生き残ってはいるようだけど、もはや残党なのかな?
逆に言やあ、そういうとこでしか飲めないんだよなあ。
いい短編でした。