Coolier - 新生・東方創想話

黒ノ運命<前編>

2009/02/14 19:48:35
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 オリ設定、こんなレミリアは知らない、この組み合わせは無いだろという人は避難してください。それでもかまわない方はスクロールでお読みください。




 能力の運命を操る事は、本人は意識してかしないでか、周りにいると数奇な運命を辿るようになり、一声掛けられただけでそこを境に生活が大きく変化することもあると言う。まず、珍しいものに出会うことが高くなるらしい。
 東方求聞史記077Pより抜粋


<黒ノ運命>


 この頃レミリアは夢を見るようになった。いや、別に今まで夢を見たことが無いという意味ではなく、正確に言えばこの頃同じ夢ばかり見るようになった。それは昔の夢、遠い昔ではなく500年以上の年月から考えれば最近の話といえるような昔のことをである。
 その夢には一人の人間が出てくる。小さな少女と思われると表現するのはその夢が霞んで見えるからであり、その少女がどのような顔つきで髪の色が何色なのかも理解できないくらいに霞んでいる夢。でも、この頃はその霞も薄くなり始めてその少女がどんな顔をしているのかくらいは理解できるようになった。
 具体的に言えばその夢の内容はただ会話を交わすといった内容である。とてもつまらない夢でこんな夢を毎晩見るようになった理由がレミリア自身にも理解できなかった。そしてこの夢はいつもその少女の笑顔で終わりレミリアの意識は覚醒していく。

「…………」

 目覚めれば、夢は消える。おぼろげな記憶へと変わるはずなのに、その夢だけは色褪せない記憶となってレミリアの心に残り続ける。だから寝起きは気分が悪かった。ふらふらとした足取りで寝床から立ち上がる。
 咲夜はまだレミリアが起きたことに気づいていないようで部屋にはおらず、夜ということもあって紅魔館は異様な静けさを保っていた。寝間着を脱ぎ捨てていつもの服装に着替えるレミリア。鏡に映る白い肌、それに合わない黒い大きな翼が目に入る。レミリアは吸血鬼であり、その背中にはその幼い容姿に似合わない羽を持っている。彼女の妹であるフランもまた吸血鬼でありその背中には羽というには難しいがちゃんと羽を持っていた。
 そしてレミリアは運命を操る程度の能力を持った吸血鬼である。

「お嬢様、紅茶でよろしいですか?」
「ええ、おねがい」

 服を着替えている最中に現れた咲夜は背を向けた状態で紅茶を淹れ、レミリアは着替えを続ける。着替えを終える時間と咲夜が紅茶を淹れ終わる時間はほとんど同じで、レミリア椅子に腰掛けると目の前にカップに注がれた紅茶が差し出される。この頃新しく手に入れた葉を使っているのだろうか、その新しい香りを楽しんでから口に含む。
 真新しい味で、今まで飲んできた紅茶の中でも格段においしいその紅茶にレミリアは素直に感想を漏らした。

「おいしいわ。新しい葉かしら」
「はい、泥棒がお裾分けだと言ってくれたものです」

 泥棒、その言葉で思い浮かぶ人物はこの紅魔館で仕事をしている者たち全てが知っている霧雨魔理沙以外にいないだろう。今日もレミリアが寝ている間に図書館のほうで何か事件を起こして帰ったのかもしれないが、図書館の管理はパチュリーに任せているし、自分自身に何らかの被害が無い限り特に言うことなど無い。
 そんなことを思いながら咲夜を見ると、同じようにカップに紅茶を淹れて席に座り、紅茶の味を楽しんでいる様子が目に入った。その顔は本当にこの紅茶の味に満足している顔で、あの咲夜がうまいと頷く紅茶である。その味が確かなのはもう疑いようのない事実であり、レミリアもまたこの紅茶がうまいことに賛成している。
 静かに過ぎていく時間の中、ふとテラスに目を向けるとそこに映る満月の姿が目に入る。
 月を見ながら飲む紅茶というものはいいものだと思いながら最後の一滴までも飲み干すと同時にレミリアは大きく背伸びをする。まだ起きて時間が少ししか経っていないこともあってどうも体がだるい。
 レミリアにとっての朝のティータイムは終わりを向かえ、すでに日を跨いだ時刻になった。ふわぁと欠伸を漏らす咲夜の姿を見ながら今日はもうやることも無いから休ませてあげようと考えた。

「咲夜、今日はもういいわ。ゆっくり休みなさい」
「そのお言葉に甘えさせてもらいます。お嬢様はどうなさいますか?」
「私は散歩でもしてるわ。眠りすぎて体がなまっちゃうから」
「なら、私もお供します」

 そう言って直ぐに立ち上がる咲夜をレミリアは手で静止させる。その理由としては彼女自身今日は一人でいたいからである。それにほとんど休み無く働いている咲夜を休ませてあげようという主人なりの思いやりもあったからだ。
 
「いいのよ、咲夜。ゆっくり休みなさい」
「お嬢様………、わかりました。十分お気をつけください」

 少しばかり悩みながらもレミリアの言葉に甘えることにしたのかその言葉を残して咲夜は姿を消した。同時に残っていたはずの紅茶のカップも消え、残ったのはカップが一つとポットが一つだけで、あっという間に片付いたその場所を眺めながらレミリアはため息を漏らしながら、今頃ベッドに入って眠りの世界へと入っていった咲夜にお休みと心の中で呟いて行動を開始する。
 テラスへと足を向かわせ、ふわりと上がるイメージを頭の中で思い浮かべながら外の世界へと飛び出す。体が浮いているように感じた一瞬の時間の後に落ちるような感覚もやってくるが、それを忘れるように羽を広げると体は自然と空へと向けて上がり始める。綺麗な月夜が照らす中、レミリアは羽を大きく広げてその空を飛ぶ。もうほとんど何も飛ばない夜の世界、鳥の気配も無ければ妖怪の気配も無い。今日が満月だというのにそれは少し変なことでもあると思えたが、たまにはこういうのもいいと思いながら静かな世界を漂う。
 特に行く場所など無かったから湖の近くのほとりに降りて湖に反射する月の姿を見て過ごす事にした。誰も手を加えていない自然の姿は力強いものであり、湖は夜だというのに珍しく霧を発生させ、近くに立っている木々は枝を絡ませるようにして何重にも重なった姿を見せていた。
 そんな自然を眺めながらのレミリアはあることを考えていた。それは今日まで彼女を苦しめ続ける夢のことである。

「あの子は一体誰なのかしら?」
 
 あの子、夢の中に出てくる少女のことだ。レミリアは昔のことでもそんな一度だけ話しただけのような相手を覚える気などありはしない。それはどんな生物だって同じことだと思う。興味の無いものをいつまでも覚えていることなど出来ないし、覚えていたとするならばそれは興味のあることだったということだ。
 しかしレミリアにはあの夢の内容を忘れられない理由が気になって仕方が無かった。それは興味のあることだから覚えているのではなく、なにか大事なことだから忘れてはいけない事だから覚えているのではないかと思えるからだ。それにレミリアはあの子供をどこかで見たことがある気がしてならなかった。そうそれは昔ではなくここ最近の話だ。
 あの笑顔が過ぎるたびに色々と人の顔を思い浮かべてみるが繋がるような相手は思い浮かばない。まぁ、子供の頃の顔なのだししかも霞んで見えているから今現在は誰の顔とも一致しないのは仕方の無いことである。
 このまま夢を見続ければその霞んで見えていた顔hがよく見えるようになるかもしれないがレミリアはそれを危惧していた。危惧する理由はただそれを完全に知ってしまったら何か悪いことが起きるのではないかという、そんな予感が拭えなかったからだ。

「何を恐れているのかしら私は」

 馬鹿馬鹿しいと思いながら月を見るがその心はどこか落ち着かない。落ち着けと嘆いても心は落ち着きを取り戻さない、だからもう一度眠りに着いてしまう。
 静かに目を閉じる。こんな満月の夜にしかも外で寝るなんて自殺行為だということくらいわかっている。でも、この心を落ち着かせるのに一番適しているのは眠ることだ。 瞼を閉じて眠りの渦に入るまで時間は長く掛からなかった。
 夢が始まる。それは本当に始まりがわかりやすい夢で、レミリアは傘を差して空を飛んでいる。その頃はまだ咲夜がいなかった頃のことだと思うのは彼女が準備してくれるようなお洒落な傘ではなく、ただのこうもり傘を差しているからだ。服は白なのに持っている傘は黒というのは色の見栄え的に言えば良いかもしれないが、咲夜だったら出来る限り統一感を持たせようと同じものを持たせるだろう。
 湖を森を越えて人里の近くまで遊びに出かけている。特に何かしたいというわけでもない、ただ空を飛んでいることだけがレミリアの望んでいたことだったのだろう。そして何より今日の夢は嫌なほどに周りの景色が澄んで見える。森の景色もレミリアの姿を見ている妖精や妖怪の姿もその顔も良くわかるくらいに澄んだ光景、そして私は森の中に降り立つ。
 人里から少しばかり離れたところにある森の中、少し休もうと思って降りて近くの大木に己の身を任せると周りを見回す。
 そこで一人の女の子がレミリアのことを見ていた。人里に住む人間にしてはきれいな服を身に纏っているところを見ると、どこかのお金持ちに順ずる家の人間だろうか。そしてレミリアはいつも通り相手を威嚇するような顔を取る。こんな顔を見れば人間など勝手に逃げていく、弱い妖怪などでも同じだ。出来れば怖い目になど会いたくないし、万が一殺されたりするかもしれないと考えれば逃げ出すに決まっているからだ。

「こんにちわ~」
 
 そんなレミリアの予想を裏切るように無邪気な顔で挨拶をしてきたのには、この子供は馬鹿なのかもしれないと思っていた。ニコニコの笑顔はどこかレミリアにとっては重たく感じてられてしまう。人間からこんな表情を返してもらったことなど今までに一度も無かったからかもしれない。
 だからレミリアは作ったような笑みを作って別れの言葉を返してその場から逃げ出す。本当にたったそれだけの夢で、これ以降に続きなど無く直ぐに世界は終わりを迎える。
 ただ今回の夢はあまりにも澄んでいたからその少女の顔も、髪の色も全て覚えているのはこの女の子が一体誰であるかを知りたかったからだ。
 目が覚めれば暗闇の世界にいた。
 まだ月が空に上がっていて気持ちの良い夜が続く、気分はあの夢を見た後だというのにどこか爽快としていて妙に体の調子が良く、レミリアは太陽が昇るまで散歩を楽しみ続けた。





 あの日を境に夢を見なくなった。それはとても嬉しいことであるとレミリアは嬉しく思っていた。生活習慣も前のようなものに戻り、昼間でも傘を差して外に出ることが多くなったし、なによりあの夢を見なくなったおかげで快眠生活を送れているのだからこの頃は妙に気分が良かった。

「なぁ、この聞こえてくる轟音は何なんだ?」
「レミィが暴れてるのよ、なんかこの頃寝不足気味だったらしいから治った途端にこんな感じよ。寝不足の腹いせなのかもしれないわ」
「この頃のレミリア様は妙なテンションですからね~、咲夜さんも困ってるみたいですし」
「なんというかカリスマなんて微塵も感じさせない騒ぎっぷりね。ありがとう小悪魔」

 地響きのような音が遠くから聞こえてくるヴワル魔法図書館内の中心に設けられた机を囲むようにして魔理沙、パチュリー、小悪魔、アリスの四人はその音を聞きながらそれぞれの言葉を呟きながら紅茶を口に運んでいた。今日は小悪魔がこの頃始めた紅茶作りの最新作をみんなで飲む会を行っているのである。
 小悪魔が紅茶作りに凝り始めたのは魔理沙がこの前もって来た紅茶のおいしさに心引かれ、作りたいなら自分で作ってみればいいんじゃないかという彼女の助言の元、ヴワル魔法図書館の片隅に庭園を築き、現在書斎整理の合間を縫っては紅茶作りに励んでいる。

「中々おいしいわね」
「おお、本当だ。小悪魔は腕を上げたな!」

 魔理沙とアリスが感想を漏らしながら紅茶を楽しむ。小悪魔としては魔理沙の持ってきてくれた紅茶と同じくらいのものが出来ればいいなと考えており、まだまだ試行錯誤の段階ではあるのだがこうして素直に褒めてもらえると気恥ずかしい気持ちになってしまうというものだ。
 にへら~と、嬉しそうな顔をする小悪魔を見ながらパチュリーは少しばかりため息を漏らしてその味を楽しむ。たしかにおいしい、この味に達するまでに今まで飲んできた紅茶の味を思い出すパチュリーにとってこれは体を張った甲斐があったというもので、出来ればこのような紅茶を毎日提供してくれることを祈っているわけだ。

「それにしても小悪魔がこれほど紅茶にハマるなんてね」
「いやはや、お恥ずかしいです」

 頭を掻きながら笑顔を零す小悪魔のBGMは地響きというなんともシュールな光景の中、その音の源がどんどん近づいてきているのをパチュリーは感じていた。でもレミィのことだから図書館に入ってまで暴れるとは思えないと再びカップに口をつけて、

「スカーレットシュート!」

 紅い火の玉が突如飛来し本棚の一つを蹴散らしていく光景。そして口に含んだ紅茶が吐き出され、これまた目の前にいたアリスの顔に直撃した。その光景は傍から見ている二人からでも恐ろしい光景であったことは確かだが、どちらかというとこの図書館の本棚を破壊するくらいにテンションが高いレミリアの精神状態を少しばかり気にした。

「なぁ、レミリア大丈夫なのか?」
「そうですね~、そう言われると大丈夫じゃないかもしれません」
「だよなぁ~、借りたい本が燃やされるのは少しばかり癪に障るし、ちょっと止めてくる」

 そう言ってホウキに跨り颯爽と飛び上がる魔理沙、そしてその後を追うように小悪魔も空を駆ける。少しばかり紅茶庭園のことが心配になったわけで、それを守るためにはレミリアを止めるのが最適だと判断したからである。
 放置された紅茶まみれのアリスと紅茶を噴出したパチュリーはしばらくの間硬直したままで、やがてパチュリーがその紅茶まみれの顔を手拭でふき取ることで解決を見たわけだが、アリスの顔は硬直したままだった。

「楽しすぎて止まれないわ!」

 図書館を浮かびながら未だにスペルカード発動しっぱなしのレミリアを近くの本棚から眺める魔理沙と小悪魔は少しばかりその頬を引きつらせていた。あれはもしかしたらフランよりも危ない状態なのではないかと思えるほどだ。
 ここにフランがいたら破壊のオンパレードの末、図書館は崩壊、最終的に最終鬼畜姉妹として新たなEXボスになれそうなそんな雰囲気も漂わせている。

「私ではとても太刀打ちできませんねぇ~」
「他のやつでもどうかと思うぜ。あんな中に入ったら命がいくつあっても足りやしない」

 周りを回り続ける球体の数とかが見る見る多くなっていく姿を眺めながらも、さすがに話しかけるくらいはしたほうがいいかと考えて魔理沙は意を決してその球体漂う世界へと乗り込む。最初は球体を出すことだけに専念していたレミリアも魔理沙の接近に気づいたようで振り返る。

(まずはそうだな。にこやか笑顔で挨拶といこう!)

「おっすレミリア!」
「あら、魔理沙じゃないの。どうしたのかしら」

(よし、挨拶作戦成功だ。このままレミリアの暴走を止められれば完全制覇って所だろう)

 心の中でガッツポーズを決めながら魔理沙は次の作戦に移行する。

「なぁなぁ、レミリア寝不足だったって本当か?」
「ええ、そうよ。だから体動かしたくて仕方ないのよ。外は太陽が出てるから遊べないわけで、だったら屋敷の中で遊ぼうって思ったわけ」
「それはなんとも健康的な考えで、でもよ、ここで暴れるのはお門違いだぜ」

 その言葉にレミリアの顔が少々イラッとした表情に変化する。もうなんというか、なんだ私の言うことに文句でもあるのかしら、邪魔するなら容赦しないわよ?と、目が語っている。本気の目であった。
 それにどうにか屈しないように魔理沙はどうにか言葉を続けようと努力する。今日のレミリアはもしかしたらフランよりもたちが悪い存在なのではないだろうかという考えが頭を過ぎってしまう。

「いや、あのその、え~っと、一緒に紅茶飲まないか?」
「紅茶ならもう飲んだわ。だから運動がしたいのよ」
「なるほど~って、納得するところじゃねえよ。なら夜に運動しに行けばいいじゃねえか、今日の夜は宴会もあるしさ」

 今日の夜は宴会がある。この頃はいろいろと問題もあって行えなかった宴会であるが本日久しぶりに行われることとなり、今現在博麗神社ではその作業が進められている。ちなみに魔理沙は幹事であるために参加人数を募集し、仕事が終わったのでこうしてのんびりと紅茶を楽しんでいたわけだ。
 そしてその宴会という言葉にレミリアの眉がピクリと反応する。そこはやはり子供っぽいというかなんと言うか。しかし、内容によってはまた暴れだす気満々なようで、その左手に構えられたグングニルはあろうことか小悪魔紅茶庭園の方に矛先を向けており、魔理沙の背中には小悪魔の悲痛な声が飛び掛っている状態であった。
 ヴワル図書館の小悪魔紅茶庭園の命を任されている魔理沙は少しばかりの緊張感を持ち合わせつつも口を開いた。

「ちゃんとワインだって用意されてるし、なんならケーキだって用意できるぞ?」
「ケーキねぇ~、ショートケーキかしら?」
「ショートケーキです、はい。他にも団子とかもいっぱい用意されてますから」
「紅茶もある?」
「紅茶もあるぜ」

 見る見る弱まっていくレミリアからの殺気に安心し、魔理沙はその言葉と共に満面のニコニコ笑みを浮かべてレミリアを見つめた。本当の満面の笑みと言う奴を向けられたレミリアはなぜかぴたりとその動きを止めた。そして紅い光が図書館の奥へと飛んでいき、豪快な炎と爆音を上げてから直ぐに消え去ったのはほぼ同時であった。そしてその光景に最初に悲鳴を上げたのは後ろに待機している紅茶庭園管理者兼運営者の小悪魔であったわけだ。
 本棚の陰から飛び出すや、そのモクモクと煙の上がる方角を見つめて力いっぱい叫んだ。

「庭園が~~~!」
「すまねぇ、私の力が足りなかった」

 あまりの出来事に煙の方角に手を向けたまま固まってしまった小悪魔と、その肩に手を置きそう呟く魔理沙の両名は未だに動かないレミリアのことを忘れてその煙の姿をただ見つめていた。
 ここにがんばって作り上げてきた紅茶庭園と、今までがんばってきた(主に紅茶を飲むこと)パチュリーのがんばりが共に0へと戻ったことが確認され、少しばかりの沈黙タイムを終えた魔理沙が振り返るとレミリアの姿はそこにはなかった。
 どこかに行って騒いでいるのかと一瞬考えたが、もうどこからも爆音が聞こえることも無くなり、レミリアが紅魔館内部で騒いでいることが無いのだと考えた。

「小悪魔、お前があの味にまたたどり着けることを期待してるぜ」
「はい、がんばります……」

 消え入りそうな声で答える小悪魔を置いて魔理沙は図書館を後にした。それは今さっきのレミリアが言っていた今日の夜の宴会に必要なものを準備するためでもあったからだ。
 今日は思った以上に忙しくなりそうだと思いながら魔理沙は紅魔館を飛び出し、そのまま神社へと向かっていった。レミリアの要望をどうにか叶えるためにだ。





 宴会は行われた。魔理沙は言われたとおりレミリアの望むショートケーキやら紅茶を用意して宴会を行った。
 久しぶりに行われた宴会だけ会って参加者全員が羽目を外しすぎる事態となり、途中から野球拳などの破廉恥なゲームが行われていたことをやった本人達は覚えていないだろう。できれば覚えていないでほしい。大妖怪である八雲紫が酔った挙句に裸踊りを始めたなどという事が発覚したら幻想郷の存亡関わってしまうからだ。
 そんな光景を眺めながら紅茶を飲んでいるレミリアの顔は朝のハイテンションはどこへ行ってしまったのかというくらいに無表情で、黙ってケーキを食し、紅茶を飲んでからはなにもすることもなくただ静かにしているだけだ。
 その目はどこか虚ろで何も見えていないかのようにさえ見えてしまう。この宴会を主催した魔理沙にとってその表情はかなり気になってしまうことであった。だから自然とレミリアに声を掛けてしまうのだ。
 
「レミリアどうしたんだ、具合でも悪いのかよ」
「魔理沙、別になんでもないわ」
 
 変わらない表情のままそう語るレミリアの姿に魔理沙は心配になる。友人がこういう形でなにかを気にしているというのにそれをどうにもできないのは嫌だったからだ。だから自然と言葉が出てくる。

「その顔が言えることかよ、昼間のハイテンションはどこへと消え去ったんだ?」
「別にあの時は気分が良かっただけよ。今はそんな気分じゃないだけ」
「だったら笑おうぜ。こんな風にさ、まだ宴会は終わりじゃないんだぜ?」
 
 満面の笑みを魔理沙が作ると、レミリアはどこか怯えた表情に変わる。
 その笑みを見ているのが辛くて、心が押しつぶされそうになる罪悪感が襲い掛かってくるのが耐えられなくて、レミリアは立ち上がるなり一方的に言葉を発した。それは逃げるための言葉であり、相手の気持ちを考えられるほどの余裕の無い言葉だった。

「ごめん魔理沙、ちょっと席を外すわ」
「え、レミリア?」
「ごめん………」
 
 その場から逃げるようにレミリアは境内裏の茂みへと逃げ込む。その姿は吸血鬼としての強い彼女の姿ではなく、何かに怯えているだけのただの少女の姿だった。魔理沙は友達だ、それは認める。知り合いなんて失礼な言葉を使う気になどならない。
 そう友達、だからレミリアの心は痛みを帯びてしまう。魔理沙がただの知り合いなら良かった、魔理沙がただの人間で出会うことが無ければよかった。今日の昼間に見た彼女の笑みがあれに被ってしまう。被ってしまう。
 今さっきの会話をしている最中にレミリアは己の力を使っていた。話している相手の運命がどこで変わってしまったかを調べる能力、それは絶対的に知ることの出来ないものであるが、ある影響によって変わってしまった運命なら感じ取ることが出来る。そしてそれが誰によって変えられてしまったのかも知ることが出来てしまうそんな能力。
 遠くから聞こえる宴会の叫び声がどんどん遠ざかる。頭の中にあるのは能力が知らせるその結果、それは彼女の希望をまるであざ笑うかのような結果で、レミリアの足からは力が抜け、崩れるように膝を着いた。
 魔理沙の運命は子供の時に変わっていた。魔理沙が魔法というものに手を出したきっかけは、本来出現することも無かった運命の道であってその運命が狂うことが無ければ、魔理沙は親と共に道具屋で過ごし、今のような絶縁関係になることも無かったはずだった。

「ごめんなさい」

 夢の中に出てきた子供はきらきらした金髪の少女だった。

「ごめんなさい」

 夢の中に出てきた子供の笑顔は彼女にそっくりだった。

「ご、ごめんなさい………」

 夢の中に出てきた子供の笑顔と魔理沙の笑顔はそっくりだった。

「ご………めん……なさい………」
 
 そして…………

「ごめんなさい、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」

 レミリアはボロボロと泣きながら謝り続ける。その言葉が誰かに聞かれているかもしれないということを気にすることも無く、子供のように泣き続ける。
 静かに流れる時間の中、レミリアは己の犯した罪を理解し涙を流し続ける。それは幼い頃の一度の会話、たったそれだけのことだった。


 霧雨魔理沙の運命はレミリア・スカーレットによって変貌し、彼女は魔法使いとなる運命を辿ることになったと、彼女の能力は告げていた………
 はじめましてBN8です。
 今回の話、最初はギャグになる予定でした。レミリアが夢の中で変な力を手に入れてそのままフランとともに最終鬼畜姉妹となっていくハートフルファンタジーになる予定でしたが、どこでどう変わってしまったのか、待ったく別の作品へと変貌してしまいました。
 あ~、なんと言いますか創作最中にですねおもちゃったわけですよ。自分のやってしまったことを気にすることのできるお嬢様も良いんじゃないか、自分の犯した罪に悩むお嬢様も良いんじゃないか、お嬢様泣かせても良いんじゃないかと思っちゃって、結果この話が生まれてしまいました。しかもこれは前編なんですと、後編も書かなきゃいけないなんて俺の文章能力が低い証拠だ。でも、こんなお嬢様もいいなぁ~、なんて思いながらキーボードをたたき続けていた。そしてなぜ魔理沙なのか、それは今でも紅魔郷を魔理沙でクリアできない俺はもしかしたら魔理沙を愛していないんじゃないかと思ったわけで、そう考えたら魔理沙になっていた。でもこの組み合わせ、レミマリって聞いたこと無いな~ってこのあとがき打ちながら思っちゃったわけですよ。
 後編を待ち望んでくれる方がいるかはわからないのですががんばっていきますので、よろしくお願いします。
BN8
簡易評価

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コメント



0.580簡易評価
1.80煉獄削除
これは後編が楽しみですねぇ…。
魔理沙が魔法使いとしての道を歩むことになった原因とは……。
これからどのようになるのかがた気になるところです。
続きを楽しみにしていますよ。

誤字などの報告
>起きる時間は不規則で今日は夜に目を覚ました。。
。が一つ余計ですよ。
>「それにしても子悪魔がこれほど紅茶にハマるなんてね」と
紅茶庭園管理者兼運営者の子悪魔
この部分が「小悪魔」ではなく「子悪魔」になってます。
3.無評価名前が無い程度の能力削除
漢字誤字のオンパレードをどうにかしてくれ。
6.無評価BN8削除
わかる限りで誤字を修正しました。
ご迷惑おかけしました
7.70☆月柳☆削除
続きを読まないとなんともいえない感じですか。
複線がきっちり回収されることを期待しています。
特にレミリアの行動とか!
9.90名前が無い程度の能力削除
こういったお嬢様もめずらしくていいと思います。
後編に期待です。