Coolier - 新生・東方創想話

さとりとこいしの姉妹喧嘩

2009/02/13 16:30:04
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――――――――――――――――――――――――――





最近どうもこいしの様子がおかしい。
なんだかそわそわしているというか私たちに意識させないままになにかやっているような気がする。
さとりがそう思い始めたのはつい最近。
はじめは気のせいだと思っていたのだが、だんだんその“異変”も目立つようになってきた。
もう気になって気になって仕方がなかったさとりはついにそのことについて聞いた。

「ねぇこいし、最近私に隠れて何かしてないかしら」
「え……?」

案の定。
こいしはギクリと分かりやすく身体を震わせると声まで震わせてこういった。

「な、なんのことかな?おねえちゃんのきのせいじゃないの?」
「そうね、はじめは私も気のせいだと思ったわ、でも日が経つにつれて気のせいじゃないことが分かったわ」
「べ、べべ別になんでもないからね」
「ふーん、つまり教えてくれないのね?」
「私隠し事なんてしてないもん!」

こいしがあまりにも隠そうとするものだからさとりの知的好奇心はどんどん膨れ上がっていった。
さすがにここまで隠したがるということはこいしにとって重要なことであるのは間違いない。
たとえ姉妹であっても嫌がる相手の心を読んでしまうのはまずい、親しき仲にも何とやらというやつである。
でも抑えきれないこの好奇心、ちょっとだけ!ちょっとだけなら!!という欲望がさとりを支配し始めた。
こいしは以前心を閉ざしていたため今では読めはするものの読みにくかったりする。
だから読めても上辺だけ、詳しいことは分からない。
ついにさとりはほんの少しだけこいしの心を読んだ。

「……バレンタインデー?」
「っっっっっ!!!!?」

自分の想像していたものとあまりにもかけ離れていたためつい口に出してしまった。
そもそもバレンタインでーって何なんだろう。そんなことを思いながらこいしの様子を伺った。
はじめは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたこいしだったがその顔はみるみるうちに怒りの色へと変わっていく。

「おねえちゃんはどうしてすぐそうやって人の心を読むの!?私にだって知られたくない事だってあるのに」
「え?あ、その、ごめん……」

あまり見たことがないこいしの怒っている姿、そもそもここまで感情を表に出していること自体が珍しい。
よっぽど知られたくなかったことだったらしい。

「そうやってその能力に頼ってるから人の本当の気持ちが分からないんだよ、もうおねえちゃんなんてしらない!!」

そういってこいしは自分の部屋に閉じこもってしまった
『そうやってその能力に頼ってるから人の本当の気持ちが分からないんだよ』その言葉が胸に刺さった。
“心を読む”ということはその人が考えていること、思っていることが全て分かるということ。
でも“本当の気持ち”って。
分からなかった、さとりはここまで人の気持ちが分からなくなったのは初めてだった。

「ねぇ、こいし」
「……」
「こいし……」
「……」

さとりはこいしの部屋の前で立ち尽くしていた、また心を閉ざしてしまうのではないかと心配だった。

「こいし……、ごめんね、もう一回話そう?」
「……」

やはり黙ったままである。
仲直りをしたいと思っていても話ができないのでは仕方ない。
今こいしがどう思っているのか、さとりは心を読もうとした。

「また……」

また心を読んで何とかしようとしてしまった、その罪悪感でおしつぶされそうになる。
再び頭に響いてくるあの言葉。

この日はどうしようもなく自分の部屋にこもった。
何度かお燐が食事を持ってきたがのどを通るような状況ではなかった。
もしかしたらこいしと喧嘩するのは初めてかもしれない。
だからこんな時にこいしがどう思っているのかが分からない、やっぱり、能力に頼りすぎていたんだろうか。
ふと、『バレンタインデー』を思い出した。
こいしがずっと隠していたこと、これがいったい何なのかも分からなかった。
明日誰かに聞こう。そうしてさとりは瞼を閉じた。





――――――――――――――――――――――――――





翌日、お燐とお空に聞いてみたが二人とも分からないらしい。
外の世界のものなんだろうか、そう思ったさとりはこの日博麗神社へと向かった。

博麗神社、いつぞやの巫女が境内でボーっとしているのが見える。
やがてさとりに気づくと霊夢はだるそうに立ち上がるとこちらへと歩いてきた。

「あら、珍しい客ね、今日は何の用?」
「少し聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?ますます珍しい、分かる範囲なら答えるわ」
「『バレンタインデー』というものを知っていますか?」
「……ごめんなさい、聞いたことないわ」

霊夢はしばらく考えるそぶりを見せた後静かに首を振った。

「そう、ありがとう」
「あ、もしかしたらそれ外の世界のものだったりしない?」
「私もそれは考えていました、でも実際どう調べたらいいのでしょう」
「うーん、そうだ、守矢神社に行ってみたら?」
「守矢神社?」
「あそこに外の世界から来た人がいるから、その人に聞いてみたら分かるんじゃないかしら」
「分かったわ、いってみます」
「場所はあの妖怪の山よ、そこで誰かに守矢神社に行きたいとか言えばつれてってもらえるわ、結構有名だからね、いろんな意味で」





――――――――――――――――――――――――――





さとりはそうして妖怪の山を訪れた。
今は冬のため木々に葉はなくどれも寒々しい。
そんな茶色だけの景色に朱色が映った。
それが人であると分かったさとりは声をかけた。

「あの……、守矢神社に行きたいのだけれど」

その朱色の服を着た少女はさとりの声に顔を上げた。

「そこへいってどうするの?」
「そこの人に聞きたいことがあるの」
「そう、いいわ、ついてきて」

そういってその少女は歩き出す。さとりもそれに続いた。

「私は秋静葉、あなたは?」
「古明地さとり」
「さとり、いい名前ね、ところであなた」

静葉は振り返ってさとりの顔を覗き見た。
さとりはじっと目を見られて恥ずかしくなって下を向いた。

「どうしてさっきから暗い顔をしているの?」

そんなに暗い顔をしていただろうか。

「悩みがあるなら言ってよ、神社まで連れてってあげるかわりにさ」

そういわれてしまっては仕方ないと、半ば諦めて全てを話した。
何よりなぜかこの少女はとても話しやすい相手のように感じた。

「私、妹がいるんです、その妹と昨日喧嘩しちゃって……
 実は、心が読めるんです、私、それで妹が隠し事をしていたから、そのことを読んだら、怒られちゃいました」
「うん、それで?」
「仲直りしたいけど、喧嘩したのって初めてだから、どうすればいいのか分からなくて……」
「そう、私もね、妹がいるのよ、似たもの同士ね」

静葉は楽しそうに笑ってさとりの両手を握った。

「そういうときは、自分の本当の気持ちを伝えてあげたら?
 いじわるするために読んだんじゃなくて、心配だったんでしょ?妹さんが」
「いえ、妹が必要以上に隠すものだから、すごく気になっちゃって」
「そっか、そりゃあ怒るよ、誰にだって秘密はあるもの」
「秋さんは妹と喧嘩したときってどうしてますか?」
「静葉でいいわよ、穣子と喧嘩したときねぇ……、あ、私の妹穣子っていうの、実はね私たちも喧嘩してるのよね」

静葉は照れくさそうに目を細めた。
その表情はどこか寂しげでもある。

「やっぱりね、こうして離れていると、喧嘩してても寂しいのよね」
「寂しい……」

さとりは今とっても寂しい、でもこいしはどう思っているのだろうか。
気がつけば昨日からずっとこいしのことを考えていた。

「あなたも今寂しいんでしょ?そんな顔してるもの」
「寂しいわ、でもこいしはどう思ってるのかしら……」
「こいしちゃんっていうんだ、あなたの妹さん、そうねぇ、どうかしらね」
「こいし……う、ひっく……」

さとりは耐え切れなくなって嗚咽を漏らす。
それを見た静葉がおろおろとなぐさめる。

「あぁ、ごめんごめん、言い方が悪かったわ、もう、心読めるんだったら私の言いたい事分かってくれてもいいのにぃ……」
「……すん、ぐすっ、こいしにね言われちゃったの、おねえちゃんはその能力に頼りすぎだって、だからしばらく使わないって決めてたの」
「そうだったの、うん、ごめんね、でもそういうのってさ、心を読む能力を使わなくたって分かるんじゃない?」
「え?」
「私はね、いつも一緒にいた穣子がいなくてすっごく寂しい、だからね、穣子も寂しいって思ってくれてると思うの
 もしかしたら私の願望かもしれないけれど、ただなんとなく、そんな感じがするんだ、姉妹だからかな?」
「そういうものなの?」
「そういうものなんじゃない?」

なんとなく、か、心を読めばいいだけだから相手の気持ちを想像することなんてなかった。
だからそれがとっても難しくて、どうしてもネガティブに考えちゃって、またさとりの目からは涙があふれた。

「だめね、私、どうしてもこいしが私がいなくて寂しいと思ってるなんて考えられないわ、本当にひどいことをしちゃったから」
「だったら、その寂しいって気持ちを伝えて、心を読むんじゃなくて、聞いてみたら?あなたは今どう思っているのかって」
「無理よ、嘘をつくかもしれないじゃない」
「あなたの妹さんは嘘をつく子なの?」
「それは……」
「そんなに妹さんが好きなんだったら、もっと信じてあげなよ、姉妹なんでしょ?」
「うん……、うん……」
「ほら、いつまで泣いてるの?涙拭いて」

そういって静葉はハンカチを取り出してさとりに差し出した。
そのハンカチからは果物のとてもいいにおいがした。

「それはね、穣子がくれたんだ、もう冬なのに秋のいいにおいがするでしょう?」
「私は地底にいるから、秋がどういうものなのか分からないわ、でも、とってもいいにおいがするわ」
「そうでしょ?」

そういって静葉はまた嬉しそうに笑った。

「喧嘩してても妹の事を褒められると嬉しいものなの?」
「そりゃあね、確かに憎いって感じるときもあるけど、やっぱりさ、自慢の妹だから、私の」
「ふふっ、私たちもそんな姉妹になりたいわ」
「何度も言ってるじゃない、姉妹ってこういうものよ、あ、あれが守矢神社よ」

静葉が指差した方向には大きい鳥居が見える。
話しながら歩いていたせいか、結構長い道を歩いていたとは思えないほど早くついた。
最後に静葉は手を振りながらこういった。

「妹さんによろしくね、きっと仲直りするのよ!」
「ありがとう」

さとりも手を振り返し神社へ向かう。
途中気になって後ろを振り向くと誰かが静葉に抱きついている。

「仲直りできたのね、二人とも、本当に嬉しそう、よし、私も頑張らなくちゃ」

と、やる気を出してみたものの自分には合わない掛け声にすこしだけ可笑しかった。

見えていた鳥居をくぐるとそこには立派な社があった。
境内には霊夢と同じ巫女服だが、色が違うものを着て掃除をしている人がひとり。
その女の子はさとりに気がつくとほうきを持ったままパタパタとかけてきた。

「寒い中ごくろうさまです、参拝の方ですか?」
「いいえ、少々聞きたいことがありまして、ここに外の世界から来た人がいるって聞いてきました」
「あぁ、それでは中へどうぞ、立ち話もなんですから」

そう招かれて社に入ると、思ったよりも生活感あふれる部屋へと迎えられた。

「あら早苗、客人かい?」
「ええ、外の世界の事を聞きたいそうです」
「早苗ー、お茶出すなら私にもちょーだーい」

そこにいたのは大きな縄のわっかを背負った中年の女性、机をぺしぺしと叩いている奇妙な帽子をかぶった女の子。
そして早苗と呼ばれていた巫女さん、なんとも妙な組み合わせだ、とさとりは内心思っていた、もちろん口に出すことはない。

「はい、お茶をお持ちしました、どうぞ、はい諏訪子様、火傷しないように気をつけてくださいね」
「もう、子ども扱いしないでよねー、あちちちちちっ」
「私にお茶はないのかい?」
「あ、すみません、ただいまお持ちします」
「ひゃ、ひゃなえ~、ひゅいでひみじゅ~(さ、早苗~、ついでに水~)」
「だから言ったじゃないですか、あ、もう少々お待ちください」
「それで、今日はどこから?」

目の前に座っていた女性が唐突に話しかけてきた。

「地底の地霊殿です」
「地霊殿?すると君はあの地獄鴉の……」
「空を知っているのですか?ということは」
「あぁ、すまない、さきの異変は私たちの仕業なんだ」
「ひょうひょう、ひゃっひゃのえへふひーひゃふへー(そうそう、河童のエネルギー革命)」
「あんたは何言ってっか分からないから黙ってな」
「ふぁーい(はーい)」
「話が脱線したな、あの時は本当にすまない、君たちに一言言ってからやるべきだった」
「空に力を与えたのはあなた達だったのですね」
「あぁ、そうだ、それで、今日はそのことだったのかい?」

すると台所らしきところからさっきの巫女が戻ってきた。

「はい神奈子様」
「ありがとう」
「あ、まずは自己紹介させていただきますね、東風谷早苗と申します」
「八坂神奈子だ」
「ごくっごくっ、ぷはっ、このために生きてるー!!あ、洩矢諏訪子だよ」
「古明地さとりと言います」
「さとりさんですね、では、質問をどうぞ」
「あ、はい、『バレンタインデー』とは何か知っていませんか?」

3人がいっせいに顔を見合わせる。
と、なにやら小声でひそひそと話している。
そして神奈子と諏訪子が早苗の肩に手を置くと別の部屋へといってしまった。
さとりがやや不愉快そうな顔をしていると早苗があわてて説明をしだした。

「申し訳ありません!いえ、これに別に深い意味はないんですけど、ただ驚いてしまったものですから」
「驚く?」
「えぇ、まさかこっちにきてこの単語を聞くとは思ってもみませんでした」
「それで、結局何なのかしら」
「女性が想っている異性にチョコレートをあげる日です、暦上は……明日ですね」
「チョコレート?」
「はい、とても甘くて美味しいお菓子なんですよ」

なるほど、するとこいしはだれかにそのチョコレートとやらを渡すのかな。
いや、でもこいしが想い寄せる異性だなんて……
そんなことをさとりが考えていると、早苗がチョコレートを一つ持ってきた。

「幻想郷ではあまり出回ってないですからね、でもたまに道具屋さんに売ってますよ、一つ食べてみます?」
「いただきます」

と、さとりはそのチョコレートを一つ口に入れた。
口に乗せた瞬間に甘いくちどけ、さらに心まで温かくするような味だった。

「美味しいですか?」
「はい、とっても」
「ところでさとりさんは誰かにあげるつもりだったんですか?」
「いえ、特には……」

と、いいかけたところでこいしの顔が頭に浮かんだ。
異性ではないけれど、これをあげてみようか、こんな美味しいものをこいしにも食べさせてあげたい。
そう思ったさとりは早苗に頭を下げた。

「これを一つ譲ってもらえませんか?」

突然頭を下げられた早苗は大慌てしている。

「え?え?そ、そんな、頭を上げてください!!」

さとりはあまりの早苗のうろたえぶりに頭を上げる。
下げたままだと話が進まなさそうだから。

「ふぅ、チョコレートはそのままあげるより手作りのほうがいいですよ」
「これは作れるんですか?」
「ええ、作るといっても溶かして固めるだけなんですけどね、やってみます?」
「はい」

そうして台所に案内される。
すると早苗は1枚の板を取り出した。
その封を開けて中の銀紙を外すとさっきのチョコレートが板状になっている。

「これをきざむんです、こういうふうに」

そういってまな板の上に置かれたチョコレートをトントントンとリズムよくきざんで行く。
そして包丁がさとりに渡され見よう見まねでやってみる。

「案外固いのね」
「そうですね、怪我しないように気をつけてくださいね」

トントン、トントン、トントントン、ガリッ
と、滑った包丁が添えていたさとりの指を深く裂いた。

「っ!」

と手を引っ込める、そこからは赤い血が流れて行く。

「大変!絆創膏を持ってきますね」

早苗が戻ってくるとその指に絆創膏が巻かれた。

「これは危ないですから、私がやりますね」
「ううん、自分でやるわ」
「でも……」
「やらせて」
「……分かりました」

さとりの確かな思いを早苗は尊重した。その後も何度も指を切ってしまったが早苗はもう「代わる」とは言わなかった。

「できたわ」

1枚の板がすべてきざまれた。
それを今度はボウルに移す。

「今度はこれを湯煎といってですね、溶かすんですよ」

そういって用意してあったお湯にそのボウルをつける。
こんどは平らなしゃもじのようなものを渡されてそれでかき混ぜる。

「全部解けるまで混ぜてくださいね」
「なかなかとけないわね」
「じっくり、ゆっくり、さ、ここで想いをこめましょう」
「想い?」
「はい、さとりさんの想う相手が喜んでくれるように」
「……」

さとりはこいしのことを思い浮かべながらかき混ぜた。
こいしがこれをもらって喜んでくれる姿を思いながらかき混ぜた。
そうしてまた仲良くできることを思い浮かべていた。

「はい、よくできました、ではこれを今度は……」

早苗は小さな四角い穴がいくつも空いた箱を持ってきた。

「ここに流し込んでくださいね、はい、上出来です」
「これで完成?」
「いいえ、これを冷やして固めればいいんです、外にでも置いておきましょうか」
「はい、これでいいのね?」
「はい、お疲れ様でした」

それから1時間後、早苗が型から抜いて四角く固まったチョコレートを持ってきた。

「これをですね、きれいにラッピングするんですよ」
「あの、東風谷さん、一ついいですか?」
「はい?なんでしょう」
「こころなしか楽しそうですね」
「え?ま、まぁ、女の子ですから……」
「そうですか、あ、ラッピングは3つに分けてください」
「3つですか?ほほー、なかなかやりますね、3人同時狙いですかー」

なにやら早苗がニヤニヤしているが、さとりにはなんの事だか全くわけが分からなかった。

「あ、一つはやらせてください」
「はい?いいですよ」

こうして出来上がったのは奇麗にラッピングされたのが2つ、お世辞にも奇麗とはいえない崩れているのが一つ。

「これでいいと思いますか?」
「もちろんですよ、さとりさんがやったってことに意味があるんです」
「もう、なにからなにまでありがとう、東風谷さん」
「いえいえ、私も楽しかったですから」

さよならー、と手を振る早苗に手を振り返す。
と、帰り道に見知った二人が手をつなぎながら歩いているのが見えた。
一瞬さっきのお礼の事も考えたが、邪魔したら悪いだろうと思いさとりはそのまま地霊殿へと帰った。





―――――――――――――――――――――――――





地霊殿に帰るなりお燐が詮索のまなざしでさとりをにらみに来た。

「やや、さとり様、今日一日どこにいらしてたんですか?」
「ええ、ちょっと地上に」
「その、今朝聞かれました『バレンタインデー』とやらと関係あるのですか」
「まぁ、そんなところよ」
「結局なんだったのです?」
「明日になれば分かるわ」
「明日になれば……ってさとり様!?その手、どうなさったんですか!?」
「あぁ、これ?気にしないで」
「気にしないでってそんな……」
「これについても明日になれば分かるわ」
「また明日ですか……、いったいなんなんでしょう……」

うむー、とその場で考え込んだお燐を無視して部屋へ戻る。
袋に入っていた3つの包みをそっと戸棚の中へ閉まった。
肌身離さず持っていたかったが温まると溶ける、と早苗に教わったのでなるべく涼しいところにおいておいた。

「さとり様ー、今日のお夕飯はいかがなさいますー?」
「そうね、今日はいただくわ」
「分かりましたー」

そうして夕飯の時間。

「あら、一人足りないような気がするんだけど……」

さとりは自分の目の前の席が空いていることに妙な違和感を覚えた。
普段は誰かがここに座っていたような……、と、なんだか落ち着かない。

「そうですか?これで全員だと思いますよ?」
「そうかなー」
「そうですよ、さとり様は今日地上に行ってらしたんですからお疲れなんじゃないですか?」
「そうかもね、いただくわ」
「はいはい」

お燐が言うならそうなのだろう、でも、この胸のもやもやは収まりがつかなかった。
その後もこの目の前の席の主は現れず食事だけが冷めていった。

「ねぇ、ところでこの食事は誰のためのものなの?」
「え?それは……ありゃ?どうして1人前余分に作ってしまったんでしょう」
「知らないわよ」
「あわわ、ただいま片付けます」
「いいわ、おいておいて」
「え?なんでです?」
「なんとなくよ」
「分かりました……、さとり様がおっしゃるなら」

と、その食事には布がかけられその場に置かれた。
そうして皆各自の部屋へと戻って行く。
そんな様子を傍らで見ていた人影が一人。

「おねえちゃん……、お燐……」

ぐきゅるるぅ~、とこいしのお腹の虫がなった。
こいしはあれから地霊殿の皆に無意識のうちに自分のことを忘れさせていた。
それでも用意された食事、姉の反応。
こいしは自分のために用意された冷めてしまった食事を一人で済ませた。食事は冷めてしまっていたけど心が温まっていくのを感じた。
その後こいしはある場所へと向かった。





――――――――――――――――――――――――





さとりは目を覚ます、はて、今日は何の日だったか。

「そっか、バレンタインデー」

目覚めの回転していない頭でもすぐに浮かんでくる、今日は大切な日だった。
昨日入れた戸棚の中には包みが3つ入っている、3つ?
お燐と、お空と……、あと……
さとりは昨日感じた妙な違和感を思い出しながらそれらを持って部屋を出た。
部屋をでてちょうどよくお燐の姿が目に入る。

「お燐、はいこれ」

そういって奇麗な包みを2つお燐に手渡した。

「さとり様、これはいったいなんですか?ふんふん、なんだか甘い香りがします」

お燐はその袋を透かしてみたり、軽く振ってみたり、においをかいだりしている。

「それが『バレンタインデー』の正体よ」
「これが、ですか?」
「えぇ、その中にはね、チョコレートっていうお菓子が入っているの、それを好きな人に渡す日らしいわ」
「好きな人……ですか、うふふ、ありがとうございます、でもなんで二つ?」
「お空に渡してあげなさい」
「分かりました!結局その怪我は?」

といってさとりの絆創膏だらけの手を指差した。
さとりは恥ずかしそうにその手を後ろに隠す。

「これ作ってるときに怪我しちゃったのよ、でもあなたたちのためにね」

ぱぁぁぁっとお燐の表情が明るくなる。

「ありがとうございますさとり様ー、私も大好きですー!!」

そういってさとりに抱きつくお燐。珍しく終始クールなさとりの頬も心なしか緩んでいた。

「じゃあ、渡してきますー」

そういってお燐はすごいスピードでかけていってしまった。
朝ごはんはどうするのかしら、と若干疑問に思ったがそれもすぐに気にならなくなった。

「問題は後一つ、このチョコレートは何のために、っていってももう分かってるんだけどね」

と、崩れてしまっているラッピングのチョコレートを眺めていた。
ふとそれを握っている手の絆創膏が目に移った。

「大変だったのよね、本当に、何度も指を切っちゃって」

誰のために、誰に喜んでもらうために、これを作ったのか、忘れられるはずもない愛しい妹。

「痛かったのよね、でも私、がんばったんだからね、こいし」

ガタッ、と後ろから音がした。
びっくりして振り向くとそこには同じくびっくりしているこいしの姿。
二人して目が合う。

「おねえちゃん……、どうして、私のことを忘れさせてたのに……」
「……ばか」
「え?」
「ばかばかばか!こいしのばかぁ!忘れられるわけないじゃない!!」

さとりは泣きながらこいしに抱きつく。

「ずっと悩んでたんだから、ずっと寂しかったんだから!!」
「おねえちゃん……」
「ごめんね、ごめんね、こいし」
「もういいよ、もういいから、苦しいよおねえちゃん」

さとりはあわててこいしからはなれる。
そしてちょっとだけためらってからチョコレートを差し出した。

「こいし、これ、バレンタインの」
「え?」
「受け取ってほしいな」
「……おねえちゃん、また人の心読んでない?」
「読んでないわ、本当に、信じて!?」

ちょっとだけ怖い顔をしていたこいしだったが、やがてにっこりと笑うと

「うん、信じる、もらうね、これ」
「どうして?どうしてこの前心を読んじゃったのに、そうやって信じてくれるの?」
「おねえちゃん、手も足も震えてるよ」

さとりは自分でも今気づいた。手足はがくがくと震えていて心臓もドキドキとすごい速さで打っている。

「ね、人の気持ちが分からないって怖いでしょ?でもね、だからこそ分かることだってあるんだよ
 私はね、心は読めないけど、おねえちゃんが私のために本当に頑張ってくれたことは分かるんだよ」
「こいし……」
「ありがとう、おねえちゃん!」

またにっこりと微笑むとこいしは後ろに隠していた物をさとりに差し出した。

「こいし、これは?」
「私からのバレンタインデーのプレゼント」
「私に?」
「うん、本当はね当日にこっそり渡そうと思ってたんだけど、心読まれちゃったからさ
 もう作る気なんて無かったんだけど、昨日のおねえちゃんたちの反応を見てたらさ」
「ありがとう、こいし、じゃあ、一緒に食べましょう」
「うん!」





――――――――――――――――――――――終、とみせかけて





お空にチョコレートを持っていったお燐、彼女達はその後どうなったのか。


灼熱地獄“跡”のお空の元にチョコレートを持っていったお燐だった。

「鳥頭、さとり様からのプレゼントだって、なんだかんだ言って優しいのよね、さとり様」
「へぇ、それはなかなか興味深い物だね、それで、なにをもらったの?」
「チョコレートなるお菓子、あなたの分ももらったから一緒に食べましょ」
「へぇ、食べ物だったのか、その茶色いドロドロしたのもの」
「へ?きゃあああああああ!!!」

それは奇麗にラッピングされたはずの紙袋から茶色いドロドロしたものがとめどなく染み出ている。

「あうう、さとり様~」
「後で謝っておくんだな、私は知らん」

チョコレートは涼しいところで保管しましょう。





――――――――――――――――――――――終。
はい、1日早いですけど、バレンタインネタでした、あんまり関係ないきもしましたけど。
こいしとさとり、扱いづらいキャラクターでした、そして静葉、風神録でしゃべりませんからどうしたものやら。
それに加え前回からの指摘、『ボリュームアップ』『長編』、はい、無謀ながら挑戦してみました。
若干さとりんのカリスマを無視していますが、やっぱさとりんはこういう落ち度があったほうが可愛いなぁ!!w
そして最後のアフターいらねぇえええええええ!!!!!1!!!!1!!
やっぱだめだね、私には物を書く才能というものがないのか、すこしは才能くれよ~

なぜか静葉と早苗とのからみを大量に入れてしまった。
静葉は姉つながりで、でわなぜ早苗?と思う方も多いでしょう。
外の世界から来た女の子だから……ではなくイニシャルがS.Kだから。
早苗・S 東風谷・K
さとり・S 古明地・K
ほらほら!!どうでもいい!!まぁ実際外からきたからですけど……

まぁ、そういうことで、当日までに間に合ってよかったと思います。
それでは誤字脱字等の報告ありましたらコメントまでお願いいたします。
そして、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
よいバレンタインデーをお過ごしください。
(これ書いてて本気でさとりん手作りのチョコがほしくなった俺は負け組み、あ、早苗もいいなぁ……)
宵月
ttp://eveninglunatick.blog81.fc2.com/
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コメント



0.1110簡易評価
3.100八咫猫削除
良い話でした、面白かったです。
そして最後に言わせて下さい。

猫(その他の動物も含む)に
チョコレートやっちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
4.80名前が無い程度の能力削除
最後のところ、空の口調がなんか新鮮でしたwカッコイイ!
早苗さん、後ろで二柱がソワソワしていますよ?
7.70NEOVARS削除
さりげなく、早苗さんから腐の匂いが……w
10.90白徒削除
さとりんかわいいなー。

…あれところで。
「姉のさとりも閉ざされたこいしの心だけは読む事は出来ず」じゃなかったっけ?
でも「また心を閉ざしてしまうのではないか」って書いて在るから開いた仮定での話?
でもそうすると「私はね、心は読めないけど」って事は閉じたままですよねぇ…。
この矛盾だけが気になってしまいました。誰か教えて。

誤字報告ー。
>そうしてこいしは瞼を閉じた。←多分さとりん。
12.無評価宵月削除
<3さん
ありがとうございます、えっとそれは知ってましたよwだから最後に灼熱地獄なんかに持っていって溶かしちゃったんですよwww

<4さん
あぁ、そうですねぇ、その辺もっと詳しく書いておくべきでしたwww

<NEOVARSさん
腐ではなく百合では……?w「早苗だって女の子なんだもん☆」を、いわせようとしてSSのジャンルから外れるので没にしました。

<白徒さん
誤字……もとい人違い修正しましたww大変申し訳ありません!!
えっとですね、一応神奈子も言っているとおり異変後の話なんですよ。
地霊殿付属のキャラ設定にも、こいしはペット達と触れ合っているうちに変わってきている様、のようなことが書いてありました。
だから少しだけなら読めるんじゃないかなー?みたいな感じの設定です、はい、分かりづらくてごめんなさい!!
そこまで深く読んでいただいてもう涙ものですよ!!

評価してくださった皆様もありがとうございます。
でわ、1次の誤字修正報告&返答を終わらせていただきます。
19.100名前が無い程度の能力削除
溶けてやがる、暑すぎたんだ・・・
22.80☆月柳☆削除
書ききるだけすごいかと。
ちなみに自分も貰うなら早苗さんがいいなと思った(他多数は何が入ってるかわからんしw)
欲を言えば二柱にもう少し絡んで欲しかったかな。
面白かったです。
23.90名前が無い程度の能力削除
さとりじゃ!少女さとりじゃ!!

……静葉のハンカチが芋の香りじゃなくてよかった。
24.60名前が無い程度の能力削除
>縄のわっかを背負った中年の女性

作者、無茶しやがって……。
25.無評価宵月削除
<24さん
ええ、自覚してますとも!!
ただたんに私の文章力がないだけです……ごめんなさい……