「ああ、寒い寒い」
楽園の素敵な巫女こと博麗霊夢は炬燵の布団に包まりながら、そう言った。
「寒いな。あ、みかん一つ貰うぜ」
霊夢と同じく炬燵の布団に包まっている、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は、炬燵の上にある小さな籠からみかんをひとつ取り出し、その皮をむき始めた。
炬燵の上に、既に魔理沙が食べたみかんの皮が3枚あることに霊夢は気付き、4つ目の皮をむき始めた魔理沙に嘆息した。
「ちょっと、あんた食べすぎよ。それ4つ目じゃないの。」
「ん? 気のせいだろう」
「んなわけあるか」
しらばっくれる魔理沙に対し、霊夢は体を炬燵の中から伸ばし、魔理沙の手の中から器用にみかんを奪い取った。
「おいおい、みかんの皮くらい自分でむいたらどうだ」
途中まで皮をむいたみかんを奪われた魔理沙は、また新たに籠の中のみかんを取り出そうと手を伸ばしながら言った。
「やかましい」
霊夢はそう言いながら、魔理沙の手が届かないように、みかんの入った籠を自分の座っている横に置いた。
「つれないなぁ」
ぷぅ、と頬を膨らます魔理沙に、霊夢は仕方ないといった感じの表情をする。
「半分あげるから、これで我慢しなさいよ」
霊夢はそう言うと、先程魔理沙から取り上げたみかんの実を、半分だけ魔理沙に差し出した。
「まあ、そういうことなら仕方ないなっ」
魔理沙は快活そうに笑いながら、霊夢の手からみかんを半分受け取った。
「ところでさにゃへははひゃほないの?」
魔理沙にあげたみかんの半分を、霊夢が丸ごと口に放り込んだのを見て、魔理沙はげんなりした表情をする。
「食いながら話すなよ。行儀悪いなあもう」
長年の腐れた付き合いであるからだろうか、魔理沙は食いながらでも霊夢の言っていることを聞き取れることは聞き取れるのだが、年頃の娘としてどうなのよと思ったので、そう言ってやった。
「んで、何だっけ。早苗はまだ来ないのかだって?」
「むぐむぐ」
「こいつは……」
咀嚼しながら、首だけ縦に振る霊夢に、魔理沙は半ば呆れた笑い顔をとる。そして、彼女も手元にある、半分になったみかんの一房を口の中に放り込んだ。
「そのうち来るんじゃないか?」
「ごくん。でも今は外、結構吹雪いてるわよ」
やっとみかんを飲み込んだ霊夢は、外へと繋がる障子の方を指差しながら言った。
「え、本当?」
「うん」
霊夢の言葉に、魔理沙は炬燵から出て、障子をそっと10cmほど開けた。
すると、ぼた雪が風に乗って、しんしんと舞い落ちているのが見えた。外は白銀の世界と化しており、少なく見積もっても20cmは積もっているようだった。魔理沙はそれだけ確認すると、風が入らないようにすぐに障子をピシャリと閉めた。
「……まさか、この吹雪の中飛んできたりしてないよな?」
魔理沙は炬燵に足を入れながら、そう言った。
「その可能性もあるかもね」
霊夢は無表情にそう呟きながら、炬燵に入ったままごろんと寝転がった。
そして、手近にあった座布団を引っつかむと、枕代わりにして頭を乗せた。
「だとしたら、あいつここに来るまでに凍死するかもな」
「っていうか、流石に今日は来れないでしょ。早苗も諦めてるわよ、きっと」
「それならいいんだけどな」
魔理沙もそう言うと、炬燵に入ったまま、仰向けに寝転がった。すると腕の部分が炬燵の布団からはみ出てしまい、炬燵の中と外の温度差に寒気を感じるのだった。
「うう、寒いぜ」
魔理沙は震えながら、炬燵の布団を自分の肩までかぶるのだった。
◆
一方その頃、祀られる風の人間こと東風谷早苗はというと。
「さささささっさささむむむむむううむういいいいいいいい」
横殴りに顔面に打ち付ける雪の粒の、予想外の寒さに全身を震わせながら、妖怪の山から博麗神社へと向かって飛行中であった。
「なななななんなんですかこの豪雪はははははははは」
余りの寒さに、早苗は歯をガチガチと鳴らしながら、そう言った。
今年に限って、幻想郷には毎日のように雪が降っていが、今日は奇跡的に雪が降っていなかったので、早苗は霊夢のところに遊びに行こうと思っていたのだった。
『これだけ雪が降り積もれば参拝客も来ないだろう』という、風祝としては少しいけない気がする勝手な予想を神奈子に告げ、今日一日は風祝の仕事を休ませて貰うことに成功したのだった。
そこで早苗は早速、霊夢のいる博麗神社へ向かうことにしたのだった。
新聞紙に包んだ手土産を持って、手袋に帽子にマフラー、そして厚手のコートを見につけ、
「完璧です!」
と内心軽い気持ちで守矢神社を飛び出したのだが、早苗が飛び始めたあたりから、雪が降ってきたのだった。
最初は吹雪くでもなく、ただ雪が舞っているだけだったので余り気にならなかったのだが、パラパラと降っていた雪が、博麗神社への行程の半分を過ぎたあたりから次第にぼた雪に代わり、早苗の顔面にぺしゃぺしゃとぶつかるのであった。飛行していることも手伝って、顔に当たる雪は、寒さと痛さが交じり合った、悪質なものであった。
さらに悪いことに、早苗は今日も(というか霊夢も魔理沙もだが)いつものスカートを履いていた。ふくらはぎや、すねの辺りに雪がかかると、早苗はより一層寒さを感じる羽目になった。
早苗は、雪が降り始めた時点で守矢神社に引き返せばよかったのだと後悔したが、博麗神社までの行程を半分以上来てしまった今、守矢神社に引き返すことは愚かな考えであった。一刻も早く博麗神社に辿り着き、暖を取らなければ、自分はこのクソ寒い中で凍死して妖怪たちの餌になるのがオチだろう、と早苗は考えていた。
博麗神社を目指して飛び続けるが、既に早苗の顔面は降り注ぐ雪のせいで、半分くらい凍り付いていた。
「こ、れは、し、ぬ」
早苗は意識朦朧としながらも、なんとか意識を保ち、ASAP(As Soon As Possible)で博麗神社へと向かうのだった。
◆
「ところで霊夢、昼飯食おうぜぇ~」
魔理沙は相変わらず炬燵に入ったまま仰向けに根っころがり、温い炬燵の布団の中に体が入っていることの至福を噛み締めながら、霊夢にそう提案した。
「んぁ~?」
それに、座布団を枕にして体は炬燵の中、という体勢をとり続けている霊夢は、寝惚けたような声で返した。
「んぁ~じゃなくてさぁ~昼飯食おうぜ~」
「めんどいからパス~」
「じゃあいいや~」
魔理沙も霊夢も、昼飯を作ることよりも、炬燵でぬくぬくと暖をとりながら、ぐだぐだと寝転がることを優先したようであった。二人とも幸せそうな顔をしているから、本人たちはこれでいいのかもしれない。
「こんな雪が降ってて寒い日は、何もやる気が起こらないわ……」
霊夢は誰に言うでもなく、ぼそりと呟いた。
「なんか言ったかぁ~」
すると炬燵の向こう側から、魔理沙のダラけ切った声が聞こえた。
「別に~」
それに霊夢もダラけ切った声で返した。
まったりした平和な雰囲気が、確かにそこにあった。
しかし平和というものは、得てして長く続かぬものである。
それを象徴するかのように、
スパーン!
突然外へと繋がる障子が、勢いよく開かれた。
「な、何っ!?」
「何だぁっ!?」
突然すぎる出来事に霊夢と魔理沙は即座に体を起こし、開いた障子の方に目を遣る。
すると、そこには1人の人物が立ち尽くしていた。
この吹雪の中に野ざらしに遭っていたのだろうか、綺麗な緑色の長髪は白い雪景色を纏っており……もとい半分凍りついており、顔もどんよりと青ざめている。雪にまみれているので確認はできないが、厚手のコートと思しきものを着込んでいる体はガクガクと震えており、今にも倒れそうな――
バタン。
というか、倒れた。
「ちょ、早苗ぇぇぇぇ!?」
霊夢が悲鳴にも似た声を上げる。
そう。
博麗神社に突如現れてその場に倒れたのは、守矢神社の風祝である、東風谷早苗であった。
「おいおい、これはやばいぜ霊夢! とりあえず体拭くものと着替え持ってくる!」
魔理沙は炬燵から飛び出ると、その場を霊夢に任せ、タオルと着替えのある別の部屋に向かおうとした。
「よろしく! あと湯たんぽ用にお湯も沸かしといて!」
霊夢も炬燵から飛び出ながら魔理沙にそう伝える。
「了解!」
まったり空間を一瞬で極寒の空気に凍りつかせた早苗に驚く暇も無く、霊夢と魔理沙は、そんな訳で早苗の介抱をすることになったのだった。
◆
「ん……あれ……」
早苗が目を覚まし、寝たまま自分の現在置かれている状況を確認する。どうやら今まで布団の中で、今まで眠っていたようだった。早苗の寝ている部屋は明かりがついていたが、外へ繋がる障子は暗く、既に日が落ちていることを示していた。
(なんか……だるいなあ……)
早苗は体を起こそうと思ったが、体が重いことを感じ、すぐにやめた。心なしか頭痛もするようで、気が付くと、自分の額にはまだ少し冷たさの残る手ぬぐいが乗せられていた。
「よう、起きたか」
その声に反応して早苗が寝たまま右を向くと、魔理沙が横にある炬燵に入りながら、みかんを食べているのが目に入った。
「へ?」
それに早苗は間抜けな声を上げる。
「霊夢が今、粥を作ってくれてるから、もうちっと待ってな」
魔理沙のその言葉で、早苗は自分が博麗神社にいることを思い出した。
むくりと上半身だけ起こし、記憶を辿る。
「あー……そういえば、吹雪の中博麗神社に向かって、何とか辿り着いたところまで記憶にあるようなないような……」
「そんでぶっ倒れるもんだから、こっちは焦ったぜ」
早苗の独白に、魔理沙が苦笑しながら突っ込みを入れる。
「え、私倒れたんですかっ!?」
「ああ。なかなか笑えない状況だったな、アレは。あ、みかん食べる?」
自分の身に起こった出来事に『信じられない』といった表情をする早苗に対し、魔理沙は炬燵から抜け出て、籠に入ったみかんを一つ早苗に差し出しながら言った。
「頂きます……なんか迷惑かけちゃいましたね……。ごめんなさい」
早苗は魔理沙からみかんを受け取ると、少し俯き加減になって謝った。
「まあ気にしないでゆっくり休んでいけよ。どうせ霊夢の家だしなっ」
「はは……」
快活そうに笑う魔理沙につられて、早苗も笑顔になった。
「まったく好き勝手言ってくれちゃって」
魔理沙と早苗が声のする方向を振り向くと、霊夢が粥の入った椀を持って、部屋に入ってきたのが見えた。
「あ、霊夢……」
早苗がばつが悪そうに霊夢へと視線を送る。それを見て霊夢は、
「別にウチに来るのは良いけど、倒れるのは勘弁してよね」
と言いながら、粥の入った椀を早苗に差し出した。
「あ、ありがとう。いただきます」
早苗は椀とスプーンを受け取り、一口だけ粥を食べた。
火傷するほど熱くも無く、かと言って温くも無く、まさに早苗の舌に対して適正温度の粥であった。
「どう? 熱くない?」
「ええ、すごくちょうどいい温度です。おいしい……」
少し素っ気無い態度の霊夢に対し、早苗は笑みを浮かべながらそう返した。
すると魔理沙が霊夢を指差しながら、
「こいつ、今は素っ気無いフリしてるけど、早苗がぶっ倒れたとき大慌てだったんだぜ」
と意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「おのれは黙っとけ」
霊夢は、そんな魔理沙の頭にチョップをくらわせた。心なしか、早苗には霊夢の頬が少し紅くなったように見えた。
それに早苗はクスクスと微笑しながら、
「ふたりとも、心配してくれてありがとう」
そう、正直な気持ちを告げた。
「べ、別にお礼なんて言われるほどでもないわよ」
霊夢がやはり、素っ気無くそんなことを言ってくる。
「こいつ、照れて……あでっ」
霊夢の心を見透かしたような魔理沙の空気の読めていない発言に、霊夢はもう一発チョップをお見舞いするのだった。
「いでで……そういや早苗。何で今日わざわざ博麗神社に来たんだ?」
魔理沙は頭をさすりながら、当初から気になっていたことを口に出した。
「そうよ。何もこの吹雪の中来なくても、晴れてる日に来ればいいじゃない」
霊夢も不思議そうに、早苗に尋ねた。
それに早苗は、
「ああ……実はですね……」
と、家を出て少し経ったら雪が降ってきて、少しくらいの雪だったら大丈夫だろうとタカをくくっていたら、博麗神社に行く方が守矢神社に帰るよりも早いくらいのところまで来たときにどんどん吹雪いてきて、最終的に余りの寒さに意識朦朧としながら博麗神社に辿り着いたという、今までの経緯を説明した。
「何と言うか、運が悪いなお前」
「うう……」
ストレートな魔理沙の言葉に、早苗は体を小さくした。
「んで、あんたが持ってきた土産って……この酒?」
霊夢は部屋の隅に置いてあった包みを抱え、早苗の前に持ってきた。新聞紙で包まれてはいたが、明らかにそれは一升瓶の形をしており、中身が酒であることを疑う余地は無かった。
「あ、そうです。山の天狗からいい酒を頂いたので、こっちで皆で飲もうかな、と思って」
「へえ……あら、大吟醸じゃない……グッジョブよ早苗」
包みの新聞紙を剥がし、日本酒のラベルを確認した霊夢は嬉しそうな声でそう言った。
「おお、そりゃ本当か。よし、今から一杯やるか?」
「馬鹿。早苗は病み上がりよ。また今度飲みましょ」
魔理沙の浮かれた声に、鋭く霊夢は突っ込みを入れる。
「それよりお粥、冷めちゃったわよ」
霊夢は早苗がまだ一口しか食べてない粥を指差してそう言った。
「あ」
それに早苗はしまった、という様な顔をする。
「温めなおしてくる?」
「お願いしちゃいます……。なんだか今日の霊夢は優しいですね」
早苗は霊夢の気遣いに感謝しながら、粥の入った椀を霊夢に渡した。
「あら、まるでいつもの私は優しくないような言い方ね」
「そそ、そんなつもりで言ったんじゃ」
「ふふ、冗談よ」
自分の言葉を真に受けて慌てる早苗に、霊夢は微笑しながら台所へと向かった。
「あ、八坂様に連絡しないと……」
早苗は、神社にいる神奈子のことを思い出した。それに魔理沙は、
「もうしてきたぜ」
と答えた。
「えっ?」
早苗が驚いたように声を上げる。
「もう吹雪も止んだしな、ちょっくら山のてっぺんまで行って、お前を一日博麗神社で預かるように言ってきた。お前がぶっ倒れて具合悪いってことも伝えといたから、今日はここに泊まっていきな」
「あ、ありがとう魔理沙」
魔理沙の手際の良さに、早苗はただただ感謝するばかりであった。同時に、周りの人に迷惑を掛けっぱなしであることに対して申し訳なく思い、身が縮まる思いであった。
「いいってことよ、気にするなって」
そんな早苗の心の内を見透かしたような魔理沙の言葉に、
「ありがとう、魔理沙」
早苗は重ねて感謝の言葉を述べたのだった。
決して言葉には出さないが、早苗は霊夢と魔理沙との友情を強く感じていた。守矢神社や地底ではひと悶着あったけれど、彼女たちと接して、彼女たちの優しさに触れて、自分はなんて幸運なんだろうと思った。『二人のような友人に出会えたことが、奇跡なのかも』、なんていう、恥ずかしい想像もしてしまった。そしていつか二人が困っていたら、全力で助けようと思うのだった。
そんな早苗の思考の流れを一気にぶった切るように、魔理沙が口を開いた。
「ところで早苗、お前って結構胸あるのな」
「……はい?」
唐突な言葉に、早苗は目を点にする。
「え? 胸って――まさか」
そこで早苗は漸く、自分がいつも着ている風祝の服ではなく、霊夢の家の寝巻きと思しき服に身を包んでいることに気付いた。
さらに悪いことに、胸に巻いてあったサラシを今の自分はしていないことに気付いた。
早苗の思考の奔流が、まるで鉄砲水のように一気に流れる。
(ということはつまり、寝ている間に私は誰かの手によって着替えさせられたわけであって。寝ている間に着替えたということは、誰かが一度私の服を脱がせたというわけであって。服を脱がせられたということはつまり、私の服を脱がした人によっていろんな部位も見られているわけであって。いろんな部位の内の一つはつまり魔理沙の話によると胸であって。つまり誰かこと魔理沙は私の胸を見たということであって)
「おい、どうした?」
そんな魔理沙の言葉も、早苗の耳には入っていなかった。
「……っ――!」
早苗は顔を真っ赤にして、驚きと恥ずかしさの混じった表情になりながら魔理沙をにらみつけた。
そして、声を詰まらせてぼそりと呟く。
「み、見たんですか」
「ああ見たぜ。なかなかいい形で――」
「きゃあー! 言わないで、言わないで下さいっ!」
早苗は耳まで紅く染めながら、自分の胸の辺りを手で覆い隠し、悲痛な声を上げた。
「いいじゃないか、減るもんでもないし」
魔理沙はお気楽そうに、はっはっはっと、薄ら笑いを浮かべながらサムズアップをした。
「よくないです! えっち!」
「おいおい、恋色の魔法使いを捕まえて何言ってんだ。『恋』ってのは『下心』なんだぜ? つまり多少えっちなのは仕方が無いんだ」
「そんなの関係無いじゃないですか! ていうか意味不明ですっ!」
もはや早苗は涙目であった。
「あら、どうしたのよ。そんなに騒いで」
そこで、霊夢が温めなおした粥の入った椀を持って、部屋に入ってきた。
「いやあ霊夢、こいつ結構いいもん持ってるよなあ?」
魔理沙が言葉の端々に笑みを浮かべ、自身の胸の辺りを指差しながら、霊夢に言った。
「いいもんって、なんかやらしい言い方しないで下さいっ!」
早苗の叫びを聞きながら、霊夢は少し思い出すような仕草をした後、
「そうね。ちょっと嫉妬しちゃうわ」
なんてことを、やはり笑顔で言ってきた。
「~~~~!」
霊夢にまでそんなことを言われてしまい、早苗はもう言葉になっていない悲鳴を上げたのだったった。
◆
一方その頃、山の神様たちは炬燵を囲んで晩酌を愉しんでいた。
「いや、それにしても早苗にもいい友達ができてよかったね」
守矢神社に祀られる神である八坂神奈子は、同じく神である洩矢諏訪子の杯(さかずき)に酒を注ぎながら、どこか嬉しそうに呟いた。
諏訪子は、そんな様子の神奈子に共感を覚えつつ、杯の中の酒をぐいっと一気に飲み干した。
「まさか魔理沙がこの吹雪の中、箒一本で飛んでくるとはねえ。しかも吹雪の中を飛んできたのは内緒にしろときた。何でも、早苗に心配掛けたくないからだってさ。……豪気で優しい友達だよ」
カラカラと笑いながら、諏訪子は空の杯を神奈子に渡した。
「早苗が倒れたって聞いたときは驚いたが、霊夢と魔理沙に任せとけば安心だわね」
神奈子は杯を受け取りながら言った。
「そうね。なんだかんだ言っても、彼女たちは信頼できる良い人間よ」
「違いないね」
二人の神様は、笑いながら頷き合った。
二人の神様は、年頃の娘の早苗をひとり連れてきて、幻想郷に馴染めるのということが気がかりのひとつであった。
まだまだ遊びたい年頃だろうというのに、遊び相手も見つからないのでは早苗が可愛そうだろう、と心のどこかで心配していたのだった。
しかしその心配も、霊夢や魔理沙の存在によって、杞憂に過ぎなかったと思い知らされることになった。
「いろんな人の優しさに包まれて、あの子は幸せもんだ」
誰に聞かせるとでもなく呟いた神奈子の顔は、まるで優しい母親のような表情だった。そして、神奈子は諏訪子に注いでもらった杯の酒を、やはりぐいっと一気に飲み干した。
諏訪子もそれを見て、やはり母親のような優しい微笑を浮かべるのだった。
たまにこういう毒のまったくない話を読むと癒されますw
gj。
一か所、根っころがるになってました。
早苗さんは分社ワープできなかったのかなとも思いましたが、ワープしちゃうと吹雪の中飛んでくる理由を別に考えないといけないかな
早苗とのやりとりは読んでいて微笑ましかった。
面白かったです。
脱字の報告です。
>幻想郷に馴染めるのということが気がかりのひとつであった。
正しくは「幻想郷になじめるのか~」になるかと。(礼)
でも、冷えた身体を温めるにはやっぱり入浴シーンが必要だとおm(ぴちゅーん
17番さんへ
入浴シーンもいいですけど、霊夢と魔理沙が早苗を人肌で暖めるというシチュ(凍えてるはずですからねー)もいいのd(ぴちゅーん
100点…といきたいのですが早苗さんの呼び捨てに違和感を感じてしまったので10点減らしますた
静謐な空気が漂う中でどことなく薫る人間くささがなんともいえません。
やはり氏の描写は不可分なく的確でぐいぐい引き込まれてしまいます。
とくとくと酒を注ぐ音まで聞こえてきそうです。あの音、たまりませんよね。
ほんわかしていてあたたかい話は大好物なので和んでしまいました。
こういう吹雪いた日の酒がまたうまいのです。ああ、呑みたいなあ……
素晴らしい作品でした
何と言うか潤いがある(・ω・)
返信させていただきますね。
>>1.名前が無い程度の能力 さん
こんな感じで、今回は平和に纏めてみました。
毒のある話もいずれ書けるようになりたいです……!
>>2.名前が無い程度の能力 さん
誤字の指摘ありがとうございます。
申し訳ないです。
分社ワープ……だ……と……!?
>>12.煉獄 さん
脱字の指摘ありがとうございます。
またやってしまった……。すみませんでした。
この話でまったりした気分になってもらえたら嬉しいです。
>>17.名前が無い程度の能力 さん
入浴シーン書いてる途中に、私が興奮してここに投下できない作品になること請け合いです(性的な意味で)。
>>26.名前が無い程度の能力 さん
実は意識してました。突っ込んでくださってありがとうございます!
>>36.名前が無い程度の能力 さん
お褒めの言葉を頂き、ありがとうございます!
>>38.名前が無い程度の能力 さん
早苗さんの本当の両親の存在は定かではないので、二柱をこんな感じにしてみました。
ちなみに早苗さんを人肌で暖めるのは私の役目d(ピチューン
>>44.名前が無い程度の能力 さん
違和感を感じさせてしまい申し訳ありませんでした。
勉強し直してきます……。
>>45.与吉 さん
色々とお褒めの言葉を頂き、光栄です。
実は二柱が出たおかげで、話にオチとタイトルがついたのです。
取り留めなく気の赴くままに書いていたらこんな作品になりました。
お酒の描写に関しては、もう少し経ったら自分が飲む側に回れるので、もっと丁寧な描写ができればいいな……と思ってます。
雪をつまみに酒を呑む……という情景、そう言えば他の作家さんの話で見かけたなあ。一杯やってみたいものです。
>>46.名前が無い程度の能力 さん
満点を付けて頂いてありがとうございます!
>>49.名前が無い程度の能力 さん
そこまでの言葉を頂けると、この作品を書いた甲斐があったなあ、と思えます。
読んで下さって、ありがとうございました!
そういえば早苗さんってどうしても「さん」付けで呼んでしまう…どうしてだろうか。
魔理沙の気遣いにほっこりしました。