Coolier - 新生・東方創想話

魔砲使いの優しい魔法

2009/01/17 18:19:54
最終更新
サイズ
21.42KB
ページ数
1
閲覧数
1298
評価数
4/29
POINT
1430
Rate
9.70

分類タグ


「あー、こういうのを相変わらず世は並べて事もなしっていうのね。ダラダラ過ごせるっていいわね、うん、平和っていいわー」
 冬場のコタツはほんと凶悪だ、こんな素敵な物を考えた人の顔を見てみたい。何なら表彰してあげてもいいくらい。
「何がこういう時はだ、常にダラダラしてるじゃないか。知らない人が見たら巫女ってのはそれが仕事なんじゃないかと勘違いしかねないぜ」
 すかさず突込みが入る。相変わらず余計な事を・・・・・・ここはあんたの家か!と言いたくなってきた。第一、自分の家でくつろいで何が悪い。
「ちょっと魔理沙、人の家に居座って人のコタツでくつろいでる癖にそういうこと言う訳?何なら今すぐ追い返してもいいのよ。それに普段はちゃんとやることやってるわよ。ダラダラ掃除したりダラダラお茶飲んだりダラダラお菓子食べたりね」
「そんな冷たい事言うなよー。私達の仲だろ?色々おかしな発言には突っ込まないでおくから許してくださいお願いします」
「いやいや、そこは突っ込みなさいよ・・・・・・突っ込まない事に怒るわよ、惨めになってくるじゃないの」
 まぁこれもいつものやり取りだ。最近特に変わった事もない訳だし、ダラダラしていても罰は当たらないだろう。今年ももうすぐ終わる訳だし、今休まずにいつ休むんだってね。
 しかし、一年が終わりに差し掛かってるのにこのまま年を越すのはいかがなものかとさすがの私でも思ってしまう。そう、こういう時はお酒だお酒、宴会だ。さすが私、怖いくらい冴えてる。年越しにはやっぱりお酒がないと。
 そうと決まれば善は急げ、魔理沙に買出しに行ってもらおう。料理やらそのほかの準備は私がすれば文句はないはず。
「そういえばさ、魔理沙。今年ももうすぐ終わりよね?」
「何だ突然、まぁもうすぐ終わりなのは間違いないが」
「というわけで、里に下りてお酒でも買ってきてよ。あと食料ね」
「というわけでってどういうわけだよ。説明してくれないと分からないぜ」
 魔理沙は納得いかないようだ。今年ももう終わりと説明したじゃないか、察して!説明するのめんどくさいから察して!
「だーかーらー、年越しにはお酒なのよ、宴会なのよ。料理は私がしてあげるから里に買出し行って来なさいよ」
「分かったような分からないような・・・・・・しかし今何かぐうたら巫女の霊夢にはあるまじき発言があったような気がするぜ。私の聞き間違いじゃなかったら料理するとか聞こえたんだが」
「怒るわよ・・・・・・私が料理するのがそんなにおかしいか!そういう気分なんだからいいじゃないの。私がそうしたいって思ったんだから」
「わかったわかった、そういうことなら任されたぜ。ちょっくら里まで行って来る」
 言うが早いか、魔理沙は箒に跨り神社を飛び出していき、瞬く間に青い空に吸い込まれていった。
 唐突に思いついた計画だったが意外とよかったんじゃないか。うん、お酒を飲みながら静かに年を越す。考えただけで楽しくなってきたではないか。
「あー、料理するって意気込んだのはいいけど魔理沙に食料買って来てとしか伝えてないわ」
 あれだけ聞いて飛び出していける魔理沙もどうかと思うけど・・・・・・まぁどうにでもなるか。こういうのは雰囲気が大事なのだ食べて飲んでのんびりすることに意義がある。
「どうせ自分の好きなものばっかり買ってくるに違いないわね。何買って来るのか想像出来ないのがちょっと怖いけど・・・・・・」
 そういえば魔理沙の好きなものって何だろう、しょっちゅう会ってる割には聞いたことなかったな。帰ってきたらそれとなく聞き出してみるのもいいかもしれない。じゃあ今日はそれ作ってあげるわよなんて――
「って私は旦那の帰りを待つ新妻か!」
 いけないいけない浮かれすぎにもほどがある落ちつけ私、博麗の巫女妄想暴走テンコ盛り状態じゃないか・・・・・・とりあえず魔理沙が帰ってくるまでのんびり待っておくか。ただいま愛しのコタツ。
 意気揚々とコタツの前に腰掛け、足を入れる・・・・・・何だこれは。足に何かが当たる、嫌な予感がして中を見ると空気の読めないスキマ妖怪が不敵な笑みを浮かべていた。何というかすごくシュールな光景だ。
「あらあら、珍しく浮かれてるようね。こんなにも寒いのに頭の中はもう春真っ盛りなのかしら」
 あーよりにもよって何でこんな時にこんな厄介な奴が・・・・・・何もこんな日に現れることないんじゃないか。
「ちょっと紫、コタツの中から出てくるのはやめてよね、しかも頭の中が春一番到来中って何よ。別に私は浮かれてませんいつもと何も変わらないわよ」
「春一番って・・・・・・浮かれすぎて耳詰まっちゃってるのかしらこの巫女は――まぁいいわ。で、なにやら面白そうな事計画してるみたいじゃないの」
 紫が出てきた時点で嫌な予感はしてたけど・・・・・・こやつは一体いつから話を聞いていたんだか。私のプライバシーとやらは一体どこへ?訴えてやりたい訴えて勝ってやりたいそれにこのスキマ妖怪さっきの口ぶりじゃ自分の混ざる気満々ではないかこんな寒いんだし家で冬眠でもしていて欲しいあぁ不幸だ不幸だ不幸だ。
「何しようと私の勝手でしょ、あんたには関係ないわ」
「もう隠しても無駄なのにー、まぁいいわ適当に参加者集めてくるんでよろしくね、じゃあまたねー」
 ちょっ、まてまてまて――紫一人ならまだしも参加者集めるってどういうことだ。考えたくはないがうちの神社に人集めてどんちゃん騒ぎするつもりなのか。
「はぁ・・・・・・もういいわ、どうせ言っても聞くような奴じゃないし」
 あれこれ考えても仕方ない。とりあえず魔理沙が帰るまで眠るとしよう――







「覚悟はしてたけどこれじゃ大宴会じゃないの・・・・・・紫の奴、いくらなんでも集めすぎよ」
 神社の境内は人妖入り乱れの乱痴気騒ぎ、吸血鬼にメイド長、亡霊に半人半妖、スキマ妖怪蓬莱人うさぎに鬼、挙句の果てには説教くさい閻魔までいる。皆一様に酒が入っており騒ぎっぷりが普段の比ではない。大晦日だからなのか?そんなことお構いなしな連中ばかりのような気がしないでもない。全く、家を宴会場か何かと勘違いしてるんじゃなかろうか――それに魔理沙も魔理沙だ、皆に混じってお祭り騒ぎ、この状況に異論を唱える気はないのか
「もう飲まないとやってられないわよ!」
 少々やけ気味にしばらく一人で飲んでいると不意に足音が聞こえた。誰か来たんだろうか、昼間の不意打ちはロクなことがなかったので無視してやろうか、そうだ、そのままあちらの宴会に巻き込まれないとも限らないのだし。
 無視を決め込みお酒をあおっていると、その足音は私の後ろでぴたりと止まり、こちらの事情もお構いなしにその来訪者は声をかけてきた。
「よう霊夢、こんなところにいたのか。どうした?一人寂しく飲んでるのか?」
 誰かと思えば魔理沙か――魔理沙なら無視する事もないか
「見れば分かるでしょ。博麗の巫女は何事にも縛られないのよ、一人で飲んでてもいいじゃない。それと寂しくって何よ、ほっといてくれないかしら」
「む、なんだなんだ妙に荒れてるなー、どうしたんだよ?らしくないぜ」
 荒れてるように見えるのか――そんなつもりはなかったのに、その上らしくないか・・・・・・本当はこんな一日になるはずじゃなかったのになぁ。
「別に私はいつも通りよ。で?あんたは何しに来たのよ」
「これといって用はないんだが、まぁその、境内の方に霊夢がいなかったからちょっと気になってな。ふらふらとここまでやって来たってわけだ」
 私を探しに?いやいや用事だ、何か用事でもあったんだろう。飯が足りないぞー、とかそんな感じだそれ以外考えられない。
「へぇ、私はずっとここにいたしこれからもここにいるわよ。だからもう戻っていいわよ、誰かと飲んでたんでしょ?戻ってあげなさいよ、魔理沙さんの帰還を待ちかねてる方々がいるでしょうに」
「いやー霊夢見つけたら連れて行こうかと思ってたんだが、魔理沙さんはたった今気が変わった。お前に付き合うことにする。というわけでよろしく頼むぜ」
 そういって豪快にお酒を注ぎだす魔理沙。何というか様になってる、それはもう怖いくらいに。でも魔理沙がここに残るのは予想外だった――まぁ本音を言えば願ったり叶ったりといったところか。気を取り直して私も飲むとしよう。






 しばらく二人で飲んでいるとさすがに酔いが回ってきた。まずい、歯止めが利かなくなりそうな予感リミッター解除へ一直線だ。でもこうなったのは元はと言えば――
「そうよ、元はと言えばあいつらが悪いのよ!」
「なんだなんだ突然どうしたー?霊夢さんは今お怒りですかー?」
「どうもこうもないわよ、境内で宴会してる連中、普段は見向きもしないくせにこういう時だけ家に来てさ、家の神社は宴会場じゃないってーの!」
「うんうん、わかるわかる。里から戻ったら境内に皆さん大集合でビックリしたのなんのって、思わず乱入してしちまったぜ」
 そう、分かってくれるか魔理沙。皆に混じって騒いでた事はこの際忘れてあげよう。でもほんと、こんな時だけ私に関わるのは――私にも私の都合ってものがあるのだ。こんな時だけといえば魔理沙は普段からかなり頻繁に家に出入りしてる気がする。いつもは気にも留めてなかったが、まぁ暇なんだろう・・・・・いや思い返したら妙に気になってきた、いい機会だから聞いてみよう。
「そういえばさー、あいつらと違ってあんたはしょっちゅう家に来てるわよね。今更だけどどうしてかしら?」
「あー・・・・・・・何でそれを今聞くんだよ。ノーコメントだノーコメント、黙秘権を行使するぜ」
 うまい事逃げたな――しかしそこは私、敏腕検察官霊夢(自分で言っててもう意味が分からない)はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。酒の力をなめるなよーもうこなったらとことんやってやる、玉砕覚悟当たって砕けろどうにでもなれだ。
「黙秘は認めませーん、いいから素直に吐きなさいよー」
「まてまてまてまて、分かったから!分かったからひっつくな!酒臭い!抱きつくなああああ」
「言うまで離れないわよ」
「むぅ・・・・・・さすがにこれじゃこっちの身が持たないぜ、まぁなんだここにしょっちゅう来るのはだな・・・・・・お前といると飽きないか
らだよ。ここにいると落ち着くしな――つまりそういうことだ、もういいだろ!これ以上は勘弁して欲しいぜ」
 ・・・・・・聞いたら聞いたで何か気まずいじゃないか。一気に酔いが醒める感覚、こら魔理沙、そんなにきょろきょろしないで欲しい。
どう切り返せばいいのやら、落ちつけ私普段通りでいいじゃないか、そういつも通り冷静に冷静に・・・・・・
「ま、まぁそういうことならいいんじゃないの?うん、いいんじゃないの」
「ははは、そ、そうだよな」
 や、やっぱり気まずい・・・・・・馬鹿馬鹿私の馬鹿、酔った勢いとはいえ何とことを。博麗の巫女一世一代の失態だ。
 長い沈黙、その後は二人大した言葉を交わすこともなく、境内の喧騒も届かない。部屋にある時計が律儀に時を刻む音だけが響いていた。
 黙っていても情況が好転する事はなく、何気なくふと時計に目をやるともう日が変わっていた。神社の片付けは現在進行形で騒いでる連中に任せて今日はおひらきかな、そんなことを考えていると魔理沙が唐突に口を開いた。
「なぁ霊夢、ちょっといいか?」
「何よ改まって、どうしたの?」
「もしもの話だぜ?もし霊夢がよかったらの話なんだが・・・・・・」
 何やら要領を得ない、魔理沙らしからぬ遠慮っぷり。そんなに言い出せないようなこと言うつもりなんだろうか。しかし二人して黙っているよりはいい、何が来てもいいくらいの覚悟を決めようではないか。
「はっきりしないわねー、とりあえず言ってみなさいよ。言わないことにはどうにもならないわよ」
「まぁその何だ、今から二人でちょっと出かけないか?ちょっと行きたい所があるんだ。宴会の方もほっといても大丈夫だろ」
 何を言い出すかと思えばそんなことか・・・・・・って出かける?こんな時間に?魔理沙のことだから何か考えがあってのことなんだろうけど。
 しばし考える、よくよく考えてみたら後は寝るだけではないか。寝るだけならまだしもここにいたら間違いなく宴会の後始末が私に回ってくる。なんだなんだ迷う事はないじゃないか。
「どこ行くのか何で出かけるのか色々気になることはあるけど――いいわよ。付き合ってあげるわ」
「お?そうかそうか付き合ってくれるか。じゃあ気が変わらないうちに出発しようぜ、って準備しないとな。すぐ済ませるから少し待ってくれ」
 そう言って襖の奥に消えていった魔理沙、別に準備くらいここでできるんじゃないのと思ったがまぁいいだろう。
「考えてみれば厄介ごと以外でこんな時間に出かけるなんて久しぶりね、一体どこに行くのかしら」
 里に下りるくらいしか考え付かない、もし里に行くとしてその後そこで何を?魔理沙の行きたい所というのがまるで想像出来ない。
でもどこに行くのか分からないと思うと――不覚にもテンションが上がってしまう。
 しばらくの間あれやこれやと妄想を膨らませていると、魔理沙の準備が終わったらしい。襖の奥から出てきた魔理沙は古びた風呂敷を背負っていた・・・・・・それ私の風呂敷なんですけど。
「遅かったわね魔理沙、あんまり遅いんで夢の世界に招待されるところだったわよ」
「悪い悪い、ちょっと準備に手間取ってな。そうそうそこの部屋にあった風呂敷借りたぜ、何せ荷物が多いもんでな」
「借りてるって自覚があるならいいわ。とりあえず準備が出来たなら出発しない?」
「そうだな、私が先に行くからちゃんとついてきてくれよ」
「どこに行くのかは秘密ってわけ?まぁそれに文句言うつもりは無いわ、でもその行きたい所ってのには期待していいんでしょうね」
「そうだな、存分に期待してくれて構わないぜ。それじゃあ行こうか」
 箒と風呂敷を手にした魔理沙が神社の裏手に向かう、ゆっくりと後を追う私、神社の裏側は境内の喧騒が嘘のように静まり返っている。先を行く背中に声をかけようと思ったそのとき魔理沙はすでに箒に跨り地面を蹴っていた。慌てて私は後を追う。






 この日の空は、真夜中だというのに休む事を知らない月の明かりと星の光でいつもより少し明るい感じがした。ただ明るいといってもそこは真冬の夜、さすがに寒い。何この身を切るような冷たい風――魔理沙は寒くないんだろうか。
「ねぇ魔理沙、あんたそんな格好で寒くないの?この寒さで何も羽織ってないとか信じられないんだけど」
「ん?私は寒さには強い方なんでな――というか霊夢、寒いから上着羽織ろうって心がけはいいと思うんだ、でもさすがにそのどてらはおかしいだろ、まてまて分かったぜ、突っ込んで欲しくて着てきたんだな」
「どてらの何がおかしいのよ、他に適当なのがないのよ。私に言わせればいつもと同じ格好のあんたの方が・・・・・・っくしゅん」
「なんだなんだくしゃみなんかして――ちょっと待ってろ」
 魔理沙は速度を落として私の横に並ぶと、背負っていた風呂敷包みの中を探り始める。目当ての物を中々探し出せないところを見ると結構な量の荷物があるようで、一体全体何を持ってきたんだろうか。魔理沙の持ち物についてあれこれ思案しているとやっとお目当てのものを探し当てたのか、風呂敷から取り出したそれを私に差し出してきた。
「ほら、寒いんだったらこれ使うといいぜ」
 はにかみながら魔理沙が手渡してきたそれは――紅と白の縞模様のマフラーだった。
 マフラーなんて持ってるなら自分で使えばいいのに、そもそも風呂敷の中にしまい込んでいたのが解せない。それにこの色、魔理沙が着けるならもっと他にあるだろうに。
「あんたが使わないならありがたく使わせてもらうけど・・・・・・あんたこんな色のマフラー使うの?まさかこれどこかから盗って来たんじゃないでしょうね」
「いくら私でも借りてきた物を他の誰かにあげたりするほど落ちぶれてないぜ」
 それはよかった、さすがにそこまでやるようだとちょっとお灸をすえてあげないといけないところだ。
「そういうことならちょっと借りるわね。大丈夫、ちゃんと洗って返すわよ。あんたみたいに借りっ放しにしたりしないから安心しなさい」
「あーいや、それは返してもらう必要はなくてだな・・・・・・」
「え?返さなくていいってどういうことよ、ちゃんと説明してもらうわよ」
「説明も何も言ったとおりの意味だぜ、あーもう面倒だな!色々察してくれると私としては助かるし嬉しいんだがな・・・・・・お前は間違いなく鈍感だと今この場で悟ったぜ」
 この魔法使い言いたい放題言ってくれるじゃないか、超能力者じゃあるまいし今のやりとりで察してくれと言われても困る
 困ったような顔で頭を掻いている魔理沙をしばらく静観していると、観念したのかぽつぽつと話し始めた。
「返さなくていいってのはだな、そのあれだ、俗に言うプレゼントというやつでだな・・・・・・買出しに行った時里で買ってきたんだよお前のために。日頃神社に入り浸ってるお返しだ、まぁなんなら今年一年の迷惑料ってことでいいから受け取ってくれよ」
「なっ、別に迷惑料とか言わなくていいわよ。そもそも迷惑なんてしてないし迷惑だったら追い返してるしね――ありがとね大事にするわ」
「おう、似合ってるし喜んでもらえたなら重畳だぜ」
 そう答える魔理沙の顔は――まさに純真な子供のような笑顔という表現がぴったりだった。私にはできそうもない顔、重畳だなんて柄にもないこと言っちゃって、そんな顔されたらこっちまでこっちまで釣られて笑ってしまう。何だか妙に恥ずかしくなってきた、さっきまでの寒さも忘れてしまいそう。
 紅白のマフラーに顔うずめ、先を行く魔理沙の後を追う。
 今思うと魔理沙にもっとかけたい言葉はあった、でももう構わない。魔理沙の気持ちは私にはちゃんと伝わっている。
 首もとの暖かさが心地よい。
 その暖かさが――魔理沙との繋がりを強く感じさせてくれる。
 それから私達の目指す場所に到着するまで、私と魔理沙、どちらも言葉を交わすことはなかった。普段より近く大きな月と先ほどよ
り数と輝きを増した星達に見送られ、目的の場所を目指す――先ほどまでの厳しい寒さは・・・・・・・もう感じなくなっていた。
 夜はまだまだ続いていく、前を行く魔理沙は何を思い、この空を飛んでいるんだろうか。
「それを聞くのは野暮ってもんね・・・・・・ほんとありがとね」
 本人には聞こえないようにそっと呟くと、私は速度を上げ魔理沙の隣へ向かう。そのまま目的地を目指した。後どれくらいかかるの
かは分からないが、どれだけ時間がかかろうと構わないそんなこと些細な問題だ、私はそんなことを考えていた。






 ほどなくして到着したそこは、当初予想していた里とは程遠い小高い丘の斜面にある洞穴だった。こんなところに洞穴があるなんて知らなかった。
 しかし何で洞穴?中に何かあるってことなんだろうか。
「どうした霊夢、そんなところに突っ立ってないで入って来いよ」
 ここはあんたの家か。
 じっとしていても始まらないのでとりあえず中に入る。洞穴の中は月の明かりの入って来ないのか足元もよく見えないほどに暗い。
明かりはないのか明かりは。
「ちょっと何よここ、真っ暗じゃないの」
「まぁ慌てるなって、お楽しみはこれからだぜ」
 待ってましたとばかりに(顔が見えないのであくまでも想像だが)八卦炉を起動する魔理沙。明かりにもなるなんて何て便利な――しばらくすると洞穴内を照らしだした
「あんたの八卦炉って万能なのね、そんなものがあるなら最初から・・・・・・」
 そこでふと気がついた、周囲がほんのり明るくなったかと思うと洞穴の壁一面がまるで星空のように輝いていた。
「うわー・・・・・・綺麗ね」
「へへっすごいだろ?ここに来た理由わかってくれたか?」
 そうか、魔理沙はこれを見せたかったのか。ここにあるのは道端にあるような普通の石ではないのだろう。
「散々もったいぶってただけのことはあるわね、ただの洞穴だと思ってたのに・・・・・・まるで魔法ね、さすがの私も感動したわ」
「魔法か、そうだな魔理沙さん一世一代の魔法だぜ。いやー何はともあれ喜んでもらえたなら連れて来た甲斐があったってもんだ」
 魔理沙は嬉しそうに、本当に嬉しそうにそう言った。何て無防備で無邪気な顔、その無邪気さが私には眩しい、眩しすぎる。きっと魔理沙は人と付き合うのに損得勘定などないんだろう、それが私には羨ましく・・・・・・少し妬ましくもあった。
「何考えてんだか・・・・・・やだやだ」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何でもないわ」
「何でもないなら別に構わんが、突っ立ってないでとりあえず座ろうぜ」
 魔理沙は背負っていた風呂敷を下ろし足元に広げた、用意周到というべきなのか中からはお酒とござが出てきた。
「風呂敷なんか背負って何を持って来てるのやらと思ってたけど、あんたそれ全部私の家にあったやつじゃないの」
「まぁまぁ硬いこと気にすんなって、ほら注いでやるから」
 まるで悪びれる様子もない、もういい今更あれこれ言っても仕方ない。それにお酒は嫌いじゃないむしろそこだけはよくやったと褒めてあげてもいい。
「仕方ないわねー、今回だけは不問にしてあげるわ――静かなところでゆっくり飲むのも嫌いじゃないしね」
「私が持ってきて正解だったじゃないか、こういうところで飲むのもおつなもんだろ?」
 今回ばかりは魔理沙に同意しておこう。一時は――家で宴会始められたときはどうなる事かと思ったけど、今までの浮かない気分を差し引いてもお釣りが来そうな、年を越すにはふさわしい一日になりそうだ。
 私も魔理沙も自然とお酒が進む。時に他愛のない話でああだこうだと笑いあい、時に互いの意見の食い違いでいがみ合ってみたり、そこだけ日常から逸脱したそれこそ夢のように曖昧で、夢見心地なのに鮮明に、二人だけの時間がゆっくりと流れていった。
 こちらの話に対して魔理沙はころころと表情を変える。笑う時も怒る時も、同意するにしても反論があっても、素直に全力で応えてくれた。やっぱりそれは見ていて飽きない。魔理沙が皆に好かれる理由が改めて分かった気がした。







 二人だけの小さな宴はその後も続きどちらもいい感じでできあがった頃、魔理沙ははっと何かを思い出したように懐から小さな懐中時計を取り出し呟いた。
「そろそろいい頃だな・・・・・・」
「ん?どうしたの?」
 そういえば時間なんて全く気にしてなかった、かといって別に気にする事はないじゃないか。でも時間を気にするってことはこの後予定でもあるんだろうか――それはそれで何か寂しい。
「何かあるなら言いなさいよ、別に予定があるならもういいわよ」
「違う違う、勘違いするなって。今日はお前といるって決めたんだ。強いて言うならそうだな・・・・・・魔理沙さん一世一代の魔法そのニのお時間ってところだな」
 もう一世一代じゃないじゃないの、とは言わないで置こう。さすがにこれしきの事で突っ込んでいたらきりがない。
「そのニ?まだ何かあるって言うのかしら」
「言うまでもなく秘密だぜ。細かい説明は後回し、来れば分かる。さぁこっちだこっち」
 魔理沙に手を引かれ立ち上がる、結構飲んだだけあってさすがに少し足元がおぼつかない。
 途中何度かつまづきそうになったものの、洞穴の入り口で魔理沙が立ち止まったので私も釣られて立ち止まる。
「もう何なのよ、急に立ち止まったりして」
「ほら霊夢、顔上げろって。魔理沙さんの魔法第二ステージの始まりだぜ」
 魔理沙に促されて顔を上げると、地平線から太陽が今まさに顔を出さんとしていた。
「うわー・・・・・・綺麗ね」
「ぷっ」
「何がおかしいのよ」
「お前洞穴で八卦炉使った時も全く同じ事言ってたぜ」
「いいじゃないの、ほんとに綺麗なんだから。それだけ私が素直ってことよ」
「はいはい、もう何も言わないぜ」
 無意識に言ったことなんだから仕方ないじゃないか。でも本当に、純粋に綺麗だなと思った。普段は日の出なんて見る機会もないし
見ようだなんて思ったこともない。これは魔法と言ってもあながち間違いではないだろう、魔理沙の一世一代?の魔法も捨てたもんじゃない。
 その後どちらともなく洞穴の入り口に腰を下ろした。ゆっくりと昇っていく太陽、朝と夜の境界が徐々に無くなっていく。日の出を見ている間、私達はずっと手を繋ぎあっていた。
「っくしゅん」
「何よ魔理沙、くしゃみなんかしちゃって。あんたここに来る時寒くなんかないって言ってたじゃないの」
「ははは、来る時はそうでもなかったんだけどな――さすがにずっとこの格好じゃ寒いぜ」
「もう・・・・・・ほんと馬鹿なんだから」
 そう言いながら私はマフラーの余っている部分をそっと魔理沙の首にかける。
「ほらあんたのくれたマフラー、思った以上に長いから余ったとこ使っていいわよ――ちょっともう少しこっち来なさいよ、私の使う分が短くなるじゃないの」
「あ、ああ・・・・・・長さには限りがあるしな、うん」
 おずおずと私の隣――肩と肩が触れ合うほどの距離に魔理沙が座る。何の気なしにやったこととはいえこれは色々とまずい、魔理沙の顔を直視できない。魔理沙も魔理沙だ、黙ってないでいつもみたいに何か言って欲しい。
 結局話し出すきっかけもなくお互い口を開かぬまま、ただただ時間だけが過ぎていった。
 その間も太陽だけはその動きを止めず、長かった夜を終わらせていく。
 やがて沈黙に耐えかねた頃、魔理沙が私の方を見て話し始めた。
「今日は――」
「ん?」
「悪かったな、お前てっきり宴会に混じってると思ってさ、一人でふて腐れてるとは知らなかった」
「ふて腐れてってあんたね・・・・・・まぁいいわ実際そうだったわけだし。それにいい物見せてもらったし楽しかったわよ。マフラーまでもらって・・・・・・色々と、ありがとね」
「なぁに、お安い御用だぜ。っと忘れてた」
「まだ何かあるの?さすがにもう打ち止めだと思ってたけど」
「いや、年も明けたことだしな、今年もよろしくってことで」
 そう言って魔理沙は握っていた手を強く握り直す。
「今年もまたちょくちょく神社には寄らせてもらうぜ」
「そうね、あんたなら来るなと言っても来るんだろうし。私の方こそ今年もよろしくね。それと――今日はありがとね」
 私も魔理沙の手を強く握り直す。
 さっきの言葉通り魔理沙は今年も変わらず神社に入り浸るのだろう、日常は今までと変わらないだろう。でも今は、これからもその日常が変わらないで欲しいと切に願う。
 私はもう一度、心の中で「ありがとう」と呟き、昇っていく太陽に目をやった。太陽は柔らかい光で私達を照らし続けていた。
その後二人は仲良く風邪を引いて寝込みましたとさ。

こんにちは、初投稿になります。
今回こうやって書いてみて妄想を文章にする事の難しさを痛感、改めてここに投稿してる人のすごさを実感しました。
こういう話書くのはすっごい楽しいけどね!!!1

とりあえず魔理沙は俺と変わるべき。
U-1
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1120簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
やあ、これはいい迎春レイマリ。そしていい初投稿。
そして仲良く風邪ひいた二人は看病したりされたりするのかしら。

次回の投稿も楽しみにさせて頂きますね。
3.60名前が無い程度の能力削除
ほのぼのまったり良いレイマリでした。霊夢が乙女してますねえ。
まだまだ冷える季節ですが、暖かい気分になれました。
7.70煉獄削除
ちょっと微笑ましい霊夢と魔理沙でした。
良いですね、こういう関係って。

ちょっと気になったのですが少し読みづらく感じました。
それと脱字なのですが、
>私がそうした思ったんだから~
正しくは「そうしたいと思ったんだから」もしくは「そうしたいって思ったんだから」
になるのでしょう。
19.無評価U-1削除
コメントありがとうございました。
読みづらいのは自分で読み返した時点でも少し思いました。
次はその点うまいことやれればなと

オラやる気沸いてきたよ。
22.90名前が無い程度の能力削除
普通に宴会に呼ばれないアリスに全俺が泣いた