「ふえっくしょい!!……うう」
しんしんと降り続く綿雪の中、厚着した犬走椛は今日も見回りだ。と言ってもこの時期には変わった事などほとんど無く、ただ寒い中を飛んでいるだけである。
「あれ?」
椛は、珍しいものを見つけた。積もった雪に残された足跡である。
幻想郷で、しかも雪の積もった山を歩く者などまずいない。物好きか修験者くらいだが、そんなのはいないはずだ。空を飛んだ方が効率的だからである。
椛はその足跡を追ってみることにした。
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あれから5分が経った。足跡は尚も続いている。
「……一体誰だろう」
足跡のサイズは八寸四分か五分。そこそこ大きな靴を履いている。となると身長もあるはずだ。椛は知り合いから足跡の犯人を推測した。
秋姉妹はテンションも身長も低いし片方は裸足だからまず無い。鍵山雛の細長いブーツとは形が合わない。河城にとりはそもそも出歩くのだろうか。まさか射命丸文は歩かない。
「うーん……あ」
そういえば山頂の巫女はどうだろう。東風谷早苗が確かそんな感じの靴を履いていた気がする。
しかし一つ、合点がいかない事があった。足跡を見ていて気付いたのだが、時折歩幅が倍になったり足を揃えたりと、子供じみた歩き方をしていたのだ。まさか巫女がはっちゃけるとは考えづらい。
「ほんとに誰かなぁ……」
神様は当然、範囲外である。
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更に数分。
今さらながら千里眼で見回した所、あっさり犯人が見えたのである。そして椛は犯人を尾行中。
犯人とは……。
「♪」
「…………」
冬を喜ぶと言えばレティ・ホワイトロックだった。冬場に現れる妖怪である。
「嬉しそうだなぁ……」
雪が降り始めたのは一週間前だ。そのテンションを維持し続けたのなら大した雪好きである。
「♪」
「…………」
しかし、比較的背が高くて大人びたレティが歩幅を変えたり跳び跳ねたりしながら歩く姿は滑稽で仕方ない。さっきから「ふっ」とか「くくっ」とか笑い声が漏れてしまいそうだ。
と、その時である。
「とおっ!!」
「ぶっ!!」
椛は見た。
大の字になって雪にダイブするレティを見てしまった。満足そうに起き上がるレティ。大の字跡が残る雪。うつ伏せだったため、鼻の形までしっかりはっきり残っている。
しばし椛はその場を離れ、上空でおなかを抱えてゲラゲラと笑った。失礼なのはわかっているがイメージ崩壊には勝てなかった。
その後もレティは、仰向けにダイブしたり転がったり、なぜか前宙でダイブしたり木を蹴飛ばして落ちてくる雪をかぶったりと、まるで寺子屋生並みである。その度に椛は上空に逃げて、寒さなどは忘れてしまうほどにゲラゲラ笑った。
しばらくすると吹雪になってしまい、同時にレティも姿を消してしまった。見回り時間もそろそろなので深追いをあきらめた椛は、早速射命丸にこの事を報告したのである。
もちろん射命丸はすっ飛んでいった。
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「あ、文さまおかえりなさい」
10分程で射命丸は帰ってきた。かじかむ手にはしっかりとカメラが握られている。というか体が半分凍結しているが、ひと悶着あったのだろうか。
「椛……」
「はい?」
ガチガチ震えながら、射命丸は親指を立てた。
「グッジョブ!」
後日発行された文々。新聞の一面はレティだった。見出しには大きく
『バカルテットに新メンバー!!名称変更⑨インテットに!?』
と書かれ、十進法ポーズでダイブする瞬間のレティを正面から捉えた写真が。「⑨インテット」とは「5人組」を意味する「クインテット」をもじったものらしい。
更に左端に「コラム『くろまく~』」という萌え発言も付け足されていた。
これが幻想郷中にばらまかれたのだ。
いい記事を書けた射命丸は大満足。ほめてもらえた椛も大満足で、ほぼめでたしめでたしであった。
ちなみに、その年にレティの姿を見たのは射命丸が最後だったという。
楽しいという雰囲気が伝わってくるようなお話でした。
三人の使い方がとてもよかったと思います。
面白かったです。
重複部分の報告です。
>子供じみた歩き方をしていたいたのだ。
「いた」が重複していましたよ。