Coolier - 新生・東方創想話

やっぱり従者

2009/01/10 05:34:11
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 『輝夜のパソコン室』と札がかかっている部屋の中でカチャカチやっているのは輝夜…ではなく永琳であった。
 『仕事用。ゲーム禁止!』と注意書きが張ってあるパソコンの画面を、せわしなく視線を動かし眺めている永琳の顔は何かに追い詰められているように見える。

 「よしお…一発ネタすぎる、エド…乙女のプライドからして却下! ダンディ…なんだっけ?」

 彼女が探しているのはネタである。
 なぜ彼女がネタを探しているかというと数日後行われる『なんでもいいからおもしろいことやれよ大会』に参加する為だ。
 ここ最近、幻想郷はお正月の宴会で賑わっていた。
 その宴会でレミリアが突然「かくし芸大会っぽいものが見たい!」と言い出したのだ。
 その意見は概ね好評であり、紅魔館負担で一位には金塊一年分というよく分からないがすごそうな賞品がでるということもあって参加者一同の気合は最高潮に達していた。
 そんな中、永遠亭も参加することにしたのだが。

 「永琳なら何かものすごい事ができるんでしょうね。だって天才ですもの」

 「師匠ならきっと優勝ですね! だって天才なんですよ!!」

 「永琳様なら楽勝よ。だって永遠のえいりんさんじゅうはっさいだもん(コキッ)」

 と身内からの過度な期待に加え、永琳=宇宙人という認識の幻想郷の住人からの宇宙人チックな何かへの期待が加わり、永琳はかつてないほど追い詰められえていた。

 「あ~も~、全然いいネタが見つからないわ! だいたい月出身って言っても不死な以外は可憐な少女、少女なのよ!! それなのに宇宙人っぽいことを期待されるなんて……酸性の唾液でも出せというのかしら」

 必死にネタを検索していた永琳だったがこれといった宇宙人っぽくて実践可能なネタは見つからない。
 なにかの飛び道具を扱うのが神業級だった気がするのだが、焦りまくりの永琳はすっかり忘れてしまっていた。

 「こうなったら、ケンシロウにやられて爆散するザコキャラの物まねを」

 永琳が観客でトイレが満杯になりそうなスプラッタネタをやろうと本気で考えていた時。

 「!! これよ! これだわ、宇宙人っぽいもの。そうだわ、冷静に考えれば芸にこだわらなくても宇宙人っぽければ、もっと大雑把に言えば宇宙っぽければ連中は満足なのよね」

 検索して出てきたとある文章を読んだ永琳は、己の勝利を確信して声をあげて笑った。

 「フハハハハハハ! これで幻想郷は我らの物だー!!」

 と突然、バンッ! とパソコン室の扉の戸が開き輝夜が姿を現した。
 
 「ちょっと永琳! 勝手に人のパソコン使わないでよ!」
 「いいじゃないですか輝夜ー。エロゲーがパソコンにはいってても誰にも言いませんから」
 「そのエロゲーをインストールしたのはあなたでしょうが! あと、壁紙をエッチぃイラストにしたのも!!」
 「まあまあ、過ぎたことは忘れて頂戴。それに今回は真面目に使ってるから」
 「…そう? まあ使うなとは言わないけど一言いってよね」
 「はいはい。それより輝夜、今回の優勝は私達がいただけそうですよ」

 その自信満々の言葉に輝夜は嬉しそうに笑い、永琳にさすがね! と言って抱きつく。
 そのあまりの愛らしさにパワーボムを決めたくなったが、我慢して優しく語り掛ける。

 「優勝したら、新しいカツラ買いましょうね」
 「地毛よ地毛。うふふ」






 そして『なんでもいいからおもしろいことやれよ大会』の日がやってきた。

 『さて、いよいよ始まります紅魔館主催のな(r大会。司会進行はこの衣玖が務めさせていただきます。さて優勝者には金塊一年分が進呈されるとのことです!』

 ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 『二位や三位になった出場者にも豪華、お嬢様グッズが待っております!!』

 ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!! (約一人)

 『それでは時間も勿体無いのでサクサク行きましょう』
 
 衣玖が叫ぶと紅魔館の館内に設置されたステージに天子が瓦を持って歩いてきた。

 「一番天子! 頭突きで調合金ニューZ製の瓦を割ります!! …ちえいりゃあぁ!!!」

 ゴシャァン!
 シーン………

 ……(小声)衛生兵、状況は? 脈無し、呼吸無し、出血は大量、脳みそは小さいですか。とりあえず撤去で。

 『ゴホン。天子さんが瓦で頭を割るという斬新な芸を見せてくれました!! この調子でガンガン逝きましょう!!』

 こんな感じで大会は自虐ネタ、当たり障りの無いネタなど交え多数の犠牲者を出しながらも進行していった。
 そして遂に永琳の順番がやってきた。

 「ねぇ永琳、一見なんの準備も無さそうに見えるけど本当に優勝できるの?」
 「うふふ。まかせなさい。次、永琳行きマース!」

 永琳がステージに立つと観客からの期待に満ちた視線が集中する。
 しかし永琳は動揺しない。

 「うっふん。えー、皆さんは私が宇宙人っぽい芸をするのを期待していると思いますが、残念ながらやりま銭湯」

 ブーブー

 「しかし、私は宇宙っぽくインパクトあるものを用意しました! カモーン」

 パチーンと永琳が指を鳴らしても最初は何も起きなかった。
 だが、しばらくすると館の上のほうからゴォォォとなにか落ちてくるような音と振動がし始める。そして轟音とともに館の屋根を破壊して何か巨大な物が落下してきた。
 悲鳴が起こる中、永琳は大声で叫んだ。

 「皆さん! これは私が鳥もちで捕獲した宇宙怪獣、我意眼です!」

 その巨大なものは永琳が言う通り、グラサンっぽい単眼に鍵爪となった腕と腹に回転ノコを持つ怪獣と呼ぶのが相応しい生物であった。
 会場のざわめきを聞きながら永琳は優勝を確信し、ほくそ笑んでいた。

 (ふふ、お馬鹿さんたち。鳥もちで怪獣が捕まるわけないじゃない。コイツは通販で買ったのよ!)

 そう、この怪獣は永琳がネットで見つけた『怪獣売ります』という所から通販で購入したものである。(輝夜達には内緒)
 普通信じないはずだが、追い詰められると天才でも雑草を食うのか? のごとくなんでもやったのだ。
 そして幸運にも本当に怪獣が買えたのである。
 この怪獣お披露目は大成功したかに思えた。
 しかし、この大会の主催者にして我侭で有名なレミリアが一言。

 「で?」

 この一言で盛り上げっていた会場が沈黙に包まれた。

 「……で? っとは?」
 「だーかーらー、その怪獣は何ができるのかって聞いてるの。怪獣が出てきた時点で何人か戻るを押してるに違いないんだから、その戻った奴が後悔するぐらいの面白いことをやんなさいよ。光線吐くの? 変身するの? 脱ぐんか? あぁ?」

 (さ、さすが紅魔館の当主! 私達には言えないこと(メタ発言)を平然と言いやがる)

 だが、そこに痺れぬ憧れぬ! なぜなら私には輝夜やうどんげやてゐ達がいるからさ!

 (って、そんな場合でもないわね)
 
 レミリアの言葉に、観客も怪獣に何かやらせろという空気になっていき、輝夜のほうを見てみるとGOサインを出している。

 (と、とりあえず説明書を!)

 永琳は怪獣についてきた説明書を読んでみた。

 『我意眼のお買い上げ真にありがとうございます。あなたは宇宙征服の第一歩を踏み出しました。まずは手近な町でも破壊してあなたの力を見せ付けましょう』

 説明書になっていない説明書はスルーして、とりあえず永琳は動物での定番の芸に挑戦してみる。

「お○ん○ん!」

 無視。

「お手!」

 その命令を聞いた怪獣は忠実に命令を実行した。
 手加減なしで。
 そんなことをすれば当然…

 「あべしっ!」

 グチャッ

 と永琳はミンチより酷い状態になってしまった。
 その凄惨な光景を見た観客からは悲鳴があがり、うどんげも思わず叫ぶ。

 「し、師匠ォー! と、とりあえずは足元に飛んできた心臓をマッサージしないと! ハイッ、1,2,3」

 うどんげが意味無く必要のない頑張りをしているのを尻目に、主人を潰した怪獣は案の定、館を破壊し暴れ始めた。
 あちらこちらで悲鳴や怒号が飛び交う。
 
 「わ、私の屋敷ぐぁー!!」

 「キャー! お助けー」

 「神様ーどうにかしてくれよ!」

 「とんでもない、あたしたちゃぁただのお姉さんとケロちゃんだよ」

 「どこだー! 金庫はどこだー!!」

 その光景はまさに地獄であった。

 『こ、これはなんということでしょう!! 怪獣がやっぱりというかなんというか暴れ始めました!! 皆さん早く逃げてください! 私も落ちた金塊を保護、保護をしたら逃げますので! それでは皆さんさようなら、さようならー』






 怪獣騒動から数日後の夜。
 ミンチから復活した永琳はミスティアの屋台で飲んだくれていた。

 「ういー、女将! 酒と焼き鳥追加!」
 「明らかに嫌がらせでしょ。それにお客さんシラフじゃない」
 「うるさーい。気持ちの問題よー」

 酒に酔わないはずの永琳がなぜ飲んだくれているかというと、永遠亭を追い出された、つまりはクビになってしまったのでヤケ酒という訳である。

 「輝夜があんなに薄情だなんて、永く仕えてきたけどまさかの見落としだったわコンチクワ!」
 「はは、そりゃ災難だったねぇ」

 愛想笑いをかえすミスティアだったが

 (でも、永琳の話を聞いたところ完全に自業自得なんだよね)

 ミスティアは永琳から聞いた話を思い返した。



 
 朝、永琳は輝夜に呼び出されていた。
 永琳を呼び出した輝夜はいかにも怒っているといオーラに包まれている。

 「永琳、なぜ呼ばれたかは想像つくわよね」
 「おはようのチューですね。んー」
 「違うわい! 怪獣についてよ!! あなた、あの怪獣…あやしげなサイトから買ったわよね?」
 「ま、まさか、あれは私が鳥もちで…」
 「捕まるわけないでしょ。ちなみに証拠が履歴としてパソコンに残ってるから。だいたい『怪獣を買った方にはもれなく宇宙の半分をあげます』ってあからさまに怪しいじゃない」

 輝夜は話していて頭痛でもするのかコメカミに手を当てながら、なおも続ける。

 「それと、もう一つの証拠として今朝、永遠亭にとんでもない額の請求書が届いたわ。まあ、怪獣一頭にしてはたぶん安いだろうし、賞品の金塊もあったから被害は最小限にすんだけど」
 「あの、輝夜。私は心臓だけになってたので知らないのですけれど、結局優勝できたのですか?」
 「ええ、ちゃんと優勝して金塊はもらったの。ちゃんと優勝したわ。どさくさにまぎれてなんてことはしてないの」
 「はぁ…」
 「でもね永琳。主人に内緒でこんな買い物する従者を置いておけるかしら? 永いこと一緒だったしあなたには色々助けられたけど今回は許せないわ。決してあなたの作る薬が材料費だけかかって売れずに赤字になるとか、正直永遠亭経営のウサ耳喫茶だけのほうが儲かるとかそういう訳じゃないの」
 「あ、あんまりです! どうかどうか考え直して!! 私は貴方の傍にいたいの!!」

 酷いことを言われても離れたくないとすがる永琳に、輝夜はさすがにクビは大人気ないと思い始めた。
 ちょっと天然なだけで悪気はなかったろうし、冷静になればどれだけ彼女に助けられたことか。
 輝夜が考えを改めようとした時だった。
 すがる永琳の手が偶然にも輝夜の髪を掴む。

 トサッ。

 その掴んだ髪は否、カツラは丸ごと畳に落っこちた。
 あまりのことに驚く永琳が輝夜をみると、輝夜の頭は見事な坊主頭となっており神々しい光すらはなっている。
 輝夜が能力を使っていないのに止まる時間。
 しばらくその状態が続いたが沈黙を破ったのは永琳だった。

 「か、輝夜? その頭は…」

 尋ねられた輝夜はしばらく無言だったが、やがてブルブルと震えだすと涙声で話し始めた。

 「…これはね、怪獣が暴れた時、起こった火事の火が私の髪に燃え移ったの。消火した時には…」

 ここから先は言葉にならないらしく、永琳に背中をむけて黙ってしまう。
 そんな輝夜に永琳は優しく微笑み話しかける。

 「大丈夫よ。あなたは坊主でもかわいくて美人。誰も笑ったりしないわ」
 「でも、妹紅が…」
 「あとで殺っときます。あなたが私みたいに心臓だけとかにならなくて本当に安心しているのよ。いくら不老不死だからって大切なあなたが非道目にあうのは辛いわ」
 「永琳…」

 もはや二人にとって何が元凶だったなど関係ない。
 ただただ二人は絆を確かめ合うのだった。

 ぷぷっ。

 「やっぱりクビ! クビよー!!」



 そんな訳で今や永琳はただの飲んだくれになってしまったのであった。
 ちなみに誰も永琳に味方してくれませんでした。

 「ちくしょー!! 輝夜のハゲー!! うどんげのウサ耳―!! てゐの! てゐの……てーゐ!!」

 ミスティアが別れの演歌を歌いだすと屋台は切ない雰囲気に包まれる。
 今の自分にはお似合いだと永琳はなんともいえない心地よさを感じていた。
 そんな屋台に新しくお客がやってきた。

 「あら、永遠亭の薬師が姫をほうって一人酒なんて……珍しいこともあるのですね」
 「……そう言うあなたも一人で飲みに来るなんてそうそうないでしょ。悪魔に仕えるメイドさん」

 その客とは子馬、紅魔館のメイド長、咲夜であった。
 しかし、いつもは瀟洒なオーラ溢れる姿が今はどこか哀愁に満ちており、よく見ると目も泣き腫らしたように腫れている。

 「咲夜、あなたいったいどうしたの?」

 永琳の問いかけには答えず、咲夜はミスティアにお酒を注文する。そしてそのお酒を一気に飲み干し、首筋に伝った酒をぬぐうとしばらくボーっとしていたが突然わっと泣き出した。
 そして泣きながら咲夜は言った。

 「なんで? なんで私がクビにならなければならないの? 私は今でもお嬢様をお慕いしているのに!!」

 わんわん泣き崩れる咲夜の背中を永琳は優しく撫でてあげ、少し落ち着いた頃によければ話してくれない? と聞いてみる。
 永琳の問いかけに咲夜は自分がクビにされた時の事を話始めた。



 「お呼びでしょうかお嬢様」

 まだ昼頃だというのに咲夜はレミリアに呼び出されていた。
 吸血鬼であるレミリアが普段寝ている時間に呼び出しである。
 これは相当重要なことだと咲夜は考えた。

 「ええ、呼んだわ」

 そう答えるレミリアは何処か違和感があった。
 身長が低いレミリアだが今は一段と背が低い、というか低すぎる。
 それもそのはず、今のレミリアは首から上しかないのだ。
 まさにゆっくりしていってね!!!
 首だけで動けるのはまさしくカリスマのなせる技!
 ただし顔はゆっくりしていない。

 「お嬢様、お体の調子はどうでしょうか?」
 「まあ、ボチボチ治ってるけどもうちょいかかりそうね。でも、今はそんなのどうでもいいわ」

 レミリアは目を瞑ると一言言い放った。

 「咲夜。あなたには本日をもって暇を出すわ」
 「いいえ、お嬢様。お気持ちは嬉しいですが今は紅魔館も復興中です。まだまだがんばらないと」
 「それマジボケ? いい? 暇=クビって意味よ」

 咲夜はしばらく言われた意味を考えていたが、その意味を把握するとガバッと土下座してレミリアに懇願する。

 「お嬢様! 私に何か落ち度があれば直します。だからクビは、クビだけはお許しください! あれですか? 私が大会でやった胸が大きくなったり小さくなったりする手品が不満でしたか? あれはトリックです。私の胸は生チチです。ナイスボインです」

 床に額を擦り付けて土下座する咲夜にレミリアは冷たく言い放つ。

 「あなたの胸が大きいか生チチかなんてどうでもいい。いや、よくはないけど今はどうでもいいわ。あなたがクビになるのはね、私が首だけになった原因があなただからよ」




 大会で怪獣が暴れていた時、レミリアは崩れ行く自分の館を見て放心していた。
 そんなレミリアの上に大きな瓦礫が落ちてきた。
 しかしレミリアは潰されることなく救いだされる。
 彼女に仕える咲夜によって。

 「あ、ありがとう咲夜…」
 「いいえ、お嬢様を命に代えても御守りするのが私の役目ですから」

 あぁ、咲夜はいつも私を助けてくれる。
 こんな立派な従者を持った私は幸せものね。

 レミリアは咲夜の頼もしさに感動しながら、己の館を破壊する不届きものを成敗するため命令をくだす。

 「じゃあ咲夜。私がムカツク奴を命に代えて始末するのも貴方の役目かしら?」
 「もちろんです」
 「では、あの怪獣を剥製にしてやりなさい。瀟洒にね」
 「かしこまりました」

 そう答えた咲夜はナイフを構えると怪獣に向かって飛び立ってい……かずレミリアの後に回ると突然

 「キャー!!!」

 と叫びレミリアを突き飛ばした。

 「ふぇ?」

 何が起きたか分からず呆然とするレミリアに怪獣の鍵爪が迫り…ゆっくりレミリアの出来上がりという訳である。

 「あなたは人間で脆いから恐かったのは理解できるし、逃げたとしても責めるつもりはないわ。でも、主人を盾にする従者って論外じゃないの? おかげで体は行方不明で首から再生しなくちゃいけないじゃない。おまけに優勝者がいないはずなのに賞品の金塊は綺麗さっぱり無くなってたわ金庫の中身も。というわけでそんな役立たずの従者はクビにしまーす」

 頬を膨らませて憤慨するレミリアに萌えながらも咲夜は必死の弁解を始めた。

 「違うんです! あれには訳が」
 「ふーん。訳ねぇ」
 「私は怪獣からお嬢様を守る覚悟もありましたし、戦う覚悟もありました。でもでも、あの場でイレギュラーな事態が発生して本能的に…」
 「本能的に…か、ちなみにどんな事態が起きたの?」
 「ヤツが、黒い悪魔が出たんです」
 「黒い、悪魔?」
 「…ゴキブリが。それで…つい……」

 咲夜の告白を聞いたレミリアはかわいらしく微笑んだ。
 首だけという事実を忘れさせるその笑顔を咲夜は心のアルバムに大切に保管する。
 そして一言。

 「ウン。デテケ」
 



 「だってゴキブリよ! しょうがないじゃない!! うわーん」

 ゴキブリじゃあしょうがない。

 永琳もミスティアも納得した。
 クビになった二人の元従者。
 元主人との思い出話に花を咲かせているとまた一人従者がやってきた。
 
 「あれ? 永琳さんに咲夜さん。こんばんは。珍しいですね」

 銀髪おかっぱが似合う大きな刀をもつ半人半霊の少女、妖夢であった。
 そんな妖夢を見て二人は思った。
 まさか、新しい仲間?
 そんな事を考える二人に妖夢はにこやかに話かけてくる。

 「あっ、もしかして主人自慢ですか? いいですね」
 
 二人は妖夢がクビになりそうな要因に心あたりがあった。
 それは大会当日。
 妖夢の芸は、手品でよくある二つに切った人間が無事に戻るというものを披露していた。
 その切られ役が妖夢の主人である幽々子だったのだが。

 スパーン!

 「はい! ご覧のとおり幽々子様を真っ二つにしました」
 「ねぇ妖夢。もんのすんごい痛いんだけど」
 「大丈夫です。元通りになりますから」
 「でも、下半身の感覚が無いわよ」
 「問題ありません」
 「やっぱり痛い。しくしく」

 結局幽々子は無事(自力で)元に戻っていたが、彼女にしては珍しく食欲がなかったのが印象的だった。
 おそらく妖夢は手品で本当に主人を斬ったことでクビになったのだろう。
 二人はそう考えた。

 「ねぇ、咲夜。一人だけ仲間はずれはかわいそうよね」
 「本当にね。クビになったものどうし親睦は深めませんと」
 『さあ、元従者の集いにいらっしゃーい』

 両手を広げフレンドリーに出迎える二人だったが

 「クビ? 元従者? なんのことです? 私は現従者ですし今日は幽々子様のヤツメウナギを買いに来たんですよ」

 その言葉を聞いた瞬間二人の態度は一変する。

 「帰れ! 裏切り者!!」
 「な、なんですか急に」
 「全く、妖夢は本当に空気が読めませんね」
 「そ、そんなー」
 「馬鹿×百」

 永琳の最後の言葉にしばらくポカーンとしていた妖夢だったがその瞳が次第に潤んできた。

 「ば、馬鹿×百だなんて酷い! 幽々様にいいつけてやるー!」

 そう叫んだ妖夢は泣きながら走り去ってしまった。

 「ざまぁ味噌ずけー」
 「そうでした。あそこの主人はなんだかんだで妖夢ラブでしたわ。妬ましい!」

 客に逃げられたミスティアの迷惑そうな顔にちっとも気がつかず、永琳達は年甲斐もなく盛り上っていた。
 そしてまたまた新たな客が現れた。

 「こんばんにゃーん」

 黒い猫耳、二又の尻尾。
 普段は地底に住んでいる妖怪、通称お燐である。
 見慣れない客に永琳と咲夜はとりあえず挨拶を返す。

 「こんばんは」
 「こんばんは。あなたは紅魔館の大会に来ていた確か」
 「お燐ってよんでください。この呼ばれ方気にいってるんで。あっ女将さん、焼き鳥とお酒よろしく」

 ミスティアはもう突っ込み疲れたという感じで焼き鳥には突っ込まず黙々と蒲焼と酒を準備する。

 「あら、あなたもクビになったのかしら?」
 「クビ? 私はどこにも就職してないですよ。さとり様のペットです」

 さとりと聞いて咲夜はトランプ手品で見事な腕前を披露していた眠そうな目の少女を思い出し、永琳はペットと聞いてお燐があっはーんな18禁映像を思い浮かべた。真顔で。

 「あっ、ペットって変な意味じゃないですよ。アタイ普段は普通の猫なんです。ほら」

 そう言うとポンッと黒猫の姿になった。
 あらかわいいと手を出す永琳の胸にするりと潜り込む。
 永琳に撫でられて気持ちよさそうに目を細めていたがやがて永琳の腕からするりと抜け出し人型に戻る。

 「人型じゃないと喋れなくて、こういうところじゃこの姿です」

 そう言うとお燐はお酒をちびちび飲み始め、ぽつりぽつりと語り始めた。

 「アタイ、たくさんかわいがってくれるさとり様が大好きです。でも、アタイはさとり様の傍に居る資格なんて無いのかなって思てきちゃったっんです」
 「まあ、それは何故なの?」

 永琳の問いかけにお燐は涙ながらに話す。

 「あの大会の日、怪獣が暴れていたとき、さとり様は私の目の前で怪獣に踏み潰されたんです」
 「それは…お気の毒だったわね」
 「無理かもしれないですけど、どうか気を落とさないでください。あなたが悲しい顔をされていてはさとり様も浮かばれませんわ」
 「あっ、いえ、さとり様は無事ですよ。ただ床にめり込んでるんです。友達のお空と交代で床から救出中ですよ。今はアタイ休憩時間なので二人の夜食調達ついでに一杯のもうかなって」

 けっこう強かな主人とペットであった。
 しかし、お燐の顔はやはり暗い。

 「でも、いくら生きていたとはいえさとり様が踏み潰されたのは事実ですし、その時アタイが何もできなかった駄目ペットなのも事実です。お空はその時寝てましたけどそれはそれ。さとり様はアタイがお詫びしてもアナタ達が無事ならそれが一番と言ってくださいますし、床からの救出作業中も無理しないでねと心配してくださいます。そんな自分よりアタイ達の心配をしてくれるさとり様が大好きなのにアタイ達は何もしてあげられないのが悔しくて悔しくて」

 そこまで話すとお燐は突っ伏して震えだした。
 そんなお燐の背中を咲夜はさきほど永琳にされたように優しくさする。
 お燐はしばらくさすられてやがて立ち上がるとミスティアに蒲焼三人前を注文する。

 「いやー、アタイとしたことが皆さんに恥ずかしい姿を見せてしまいました。でも愚痴を聞いてもらったら元気がでましたよ。お空に任せっぱなしだと心配なんでアタイは夜食をもってさとり様のところへ帰ります」

 そう言い、ありがとうございましたとお辞儀をして去ろうとするお燐に咲夜は声をかける。

 「待って! その、お嬢様は元気だったかしら…首だけになってない?」
 「お嬢様? ああ、あの吸血鬼の女の子かな? なんか偉い感じがしてたもん。普通に元気そうでしたよ。あ、そうだ! あの子には、さとり様救出にメイドさん達を助けにだしてもらったりしてお世話になってるからお土産を持っていったほうがいいね」
 「そうなの…よかった。教えてもらったお礼に蒲焼代は私が払いますわ」
 「そんな、悪いです」
 「いえいえ、是非とも」

 しばらく揉めていた二人だったが、遂にはお燐が折れ咲夜が蒲焼代をし払った。
 二人にお別れを言い、少し歩いたところで何を思い出したのかお燐が振り返る。

 「そうだ、メイドさん。どこかで見たと思ってたんだけど、大会の日、あの女の子の傍に居たメイドさんだ。あの子寂しそうだったから早く帰ってあげてね」

 そう言うと今度こそお燐は去っていった。
 しばらくお燐が去っていった方向を眺めていた永琳と咲夜だったが、やがてお互いにため息をつく。

 「やれやれ、私達ったら」
 「何をやっているんでしょうね」

 そしてお互いに笑い出す。

 「あはは、まったく、こんなおいしそうな夜雀がいるのに食べないなんてどうかしていたわ。性的に」
 「おほほ、あなたは話の流れを理解してましたか? 脳みそが左右逆に入っているのでは? あっ、大丈夫ですよ女将。私が居る限り手は出させませんから」
 「冗談よ冗談。だからナイフはしまいなさい。小パンチ秒で速やかにしまいなさい」
 「まったく。でも、あのお燐って子と話して思ったわ。私ったらクビになってもお嬢様のことばかり考えてる」
 「私もよ。頭にあるのは輝夜のことばかり」

 そんな二人にミスティアは声をかける。

 「そんなに気になるなら帰ったらいいじゃない。お土産に蒲焼サービスするからさ。きっと許してくれるよ」
 「そうかしら」
 「だといいのですけど」
 「そんな情けない顔しない! クビになっても主人を心配するなんてあんたら立派な忠臣じゃないの。今夜はぱーっと飲んで騒ぎなよ」
 「パッドですって!?」
 「違う違う。ほら、今日は特別に二割り引きだから飲んだ飲んだ」

 ミスティアの言葉に二人は再び笑いあうと互いにコップを持つ。

 「我らの主人に」
 「乾杯ですね」

 ミスティアは再開の演歌を歌い始め、先ほどとはうって変わり屋台は明るい雰囲気になった。
 そして二人は主人の素晴らしさをお互いに自慢するのであった。






 翌朝。
 何故かちょっと豪華になっている博霊神社に霊夢、魔理沙、レミリア、幽々子、紫、萃香、おかっぱ頭の輝夜(気合で髪を生やしたとは本人談)、幽香、映姫、神奈子、諏訪子、天子、衣玖、勇儀、ぬりかべ…ではなく床の周りをむりやり削りだしなんとか動けるようになったさとりとそうそうたる面子が集まっていた。
 一同を前にして衣玖が龍神からのメッセージを話す。

 「皆さん、龍神様が幻想郷を滅ぼす決断をなさいました。それはあの怪獣がとても危険な存在だからです」

 衣玖の話に一同が押し黙る中、霊夢が手を上げる。

 「なんでしょう霊夢さん」
 「あのー、その怪獣ネタ、まだ引っ張るわけ? 一発ネタじゃなかったの」
 「あーあー、聞こえません聞こえません。要するに龍神様は幻想郷ごと怪獣を滅ぼすおつもりなのです」

 その言葉に紫が続く。

 「それは怪獣を私達ごと滅ぼすつもりってことよね。幻想郷の結界が強固になっていて私のスキマですら外に出られなくなってる」
 「あの怪獣を外界に出さない為の処置です。いたしかたありません」

 あまりの衣玖の言葉に天子が激昂する。

 「冗談じゃないわ! あんな怪獣の為に滅ぼされてたまるものですか!」

 天子の意見に皆が頷いた。そして魔理沙がそれに続く。

 「そうだぜ、なんとか龍神を倒して幻想郷を守るんだ!」

 思わず賛同しかけた一同だったが、一応映姫が冷静に突っ込みをいれる。

 「あのですね、倒すのは龍神様ではなく怪獣なのでは?」
 「も、もちろんそうだぜ。ちょっと間違えたんだぜ」

 そっぽをむいて口笛を吹く魔理沙をよそに怪獣退治について話し合いが始まった。
 しかし、相手は今までに無く巨大な怪獣である。
 いつもの異変の様に弾幕勝負して解決という訳にもいかないだろう。
 いい案が出ず、一同に絶望感が漂う中またしても霊夢が手をあげる。

 「ねぇ、もしかしたらあれじゃない。ギャグ体質で死なないってオチでよくない?」

 その発言に紫が本気で嘆く。

 「お願いだからそういう発言はやめて頂戴。レミリアより酷いわよ」
 「確かに、紫の言うとおりよ。私も霊夢には負けたわ」

 なおも話し合いは続くがやはり解決策は出てこない。
 ここ数日の間、怪獣は妖怪の山の麓で寝ているが起きれば暴れだすだろう。
 そうすれば幻想郷は滅びるしかない。
 そんな重い空気の中、あっと魔理沙が何かを思いついたように立ち上がった。

 「そうだ、そこのぬりかべ! あんた心をよんでトラウマを再現できるんだろ。あの怪獣にもできないかな?」
 「なるほど、読んでみる価値はあるしれない。あとぬりかべじゃぁないわよ。念のため」

 魔理沙の言葉に、さとりの答え。
 一同はその答えに一筋の希望が見えた気がした。
 
 「なあ、なんとなくだがいける気がするなぁ」

 勇儀の明るい態度に皆の顔に笑顔が浮かぶ。

 「でもさ、もし駄目だったらどうすんの?」

 そう質問する萃香。しかしその顔はにやけている。
 返ってくる答えに予想がついてるかのように。
 そしてその質問に幽香がにこやかに答え、神奈子が続く。

 「そんなの決まってるわ。正面から美しく、弾幕で実力行使よ」
 「そうさね! いつまでもあんな奴を山にのさばらせてたら神の名折れさ」

 なんとなく大丈夫な気がする。
 皆の士気が高まったところで幽々子が手を打ち声をかけた。

 「それじゃあ、話もまとまったことですし朝ごはんにしましょう。もうお腹ペコペコ」
 「ついでに宴会もしようよ。朝から酒もいいよね?」

 いつもの萃香節に一同どっと笑うのであった。




 そして決戦の時。
 いまだ寝ている怪獣の近くにいつもの弾幕メンバーが集結していた。
 それぞれ友や従者、主人達と思い思いに気合を入れあっている。
 そんな中、輝夜も気合を入れていた。

 「さあ、永琳、うどんげ、てゐ! 私達も華々しく活躍するわよ!」
 「あの姫様、師匠は」
 「あっ……そうだったわね」

 うどんげの言葉にいつも傍にいてくれた従者をクビにしたことを思い出す。
 そのクビになった従者の姿はどこにも見当たらなかった。
 そんな輝夜にレミリアが話しかけてくる。

 「あら、あなたの従者はどうしたのかしら?」
 「そういうあなたのメイドこそ何処にいるのかしら」

 二人はそう言い合うと寂しく笑いあう。

 「まったく、永琳はこんなときに何処で油売っているのかしら」
 「何言ってるのよ。あなたがクビにしたくせに」
 「お互い様でしょ…まったく私は馬鹿だったわ。いままでどれほど永琳に助けられたかという事を忘れてクビにするなんて。やっぱり傍にいてくれないと不安ね。あんな怪獣と戦う時には特に」
 「認めたくないけど私もよ。あんな頼りないメイドでもこんな時傍にいないのは…寂しいわ」

 二人供、永く付き添ってくれた従者をクビにしてしまったことを心から後悔していた。
 そんな気持ちで話をしていると突然周りが騒がしくなる。
 どうやら怪獣が目を覚ましたようだった。

 「さて、そろそろね。これが終わったら頼りにならないメイドはお仕置きしなくちゃ」
 「私も、怪獣退治の自慢を永琳にして悔しがらせるんだから」

 ギャアァァァァァ!!

 怪獣の鳴き声により戦いの火蓋はきって落とされた。



 怪獣の眼前を素早く飛びまわる二つの影。
 幻想郷のスピード自慢、射命丸と魔理沙だ。
 寝ぼけている怪獣はそのスピードに翻弄されてろくに手を出せないでいる。
 その隙にぬりかべを卒業したさとりが怪獣の心のトラウマを読もうとしているが、表情が浮かない様子から上手くいっていないようだ。

 「さとり様、どんな感じですか? こらお空! こんな時に寝るんじゃない!」
 
 お燐の問いかけにもしばらく答えず集中していたさとりだったが、やがて首をふり答える。

 「駄目。あの怪獣の心には暴れる欲望しかないわ。トラウマのイメージは薄らぼんやりあるんだけどあの怪獣も理解しきれていない無意識なものらしいの。なんか黒くて動きが速いものみたいなんだけど、読めるのはこれくらい。再現まではできないわ」

 さとりの言葉に怪獣への決定打が無くなった。
 残る方法は直接対決のみなのだが、いざその時になると怪獣の恐ろしげな外見と巨大さに皆圧倒されてしまい動けない。
 そんな一同には目もくれず怪獣は人里へ向かって歩きだした。
 その時である。

 ガキンッ!

 怪獣の顔に火花が散りその動きを止める。
 その怪獣の目の前には二つの影。
 銀髪が美しい勝利の女神のような二人は。

 「永琳!」
 「咲夜!」

 そう今の今までミスティアと酔い潰れていた永琳(雰囲気酔い)と咲夜(本気酔い)であった。
 ちなみにミスティアは現在もダウン中。

 「輝夜に捨てられた身とはいえ、輝夜に危害を及ぼすものは私が消す」
 「永…琳」

 輝夜は思い出す。
 月の使者を皆殺しにし、血に汚れながらも自分を守り抜いてくれた姿を。
 どんなことがあっても私はあなたの味方ですといってくれた永琳を。

 「そういえばお嬢様の命令を済ませていませんでしたわ」
 「咲夜」

 レミリアは思い出す。
 いつも紅茶を淹れてくれるその姿を。
 その紅茶にはいつも変なことを混ぜる事を。
 寝室にいると何かしら潜んでいた形跡を残していることを。
 レミリアは思い出すのをやめた。
 とにかく今は来てくれたことを喜べばいい。

 「さて、ここは協力といきましょうか咲夜」
 「ええ、あなたとなら壮絶な弾幕をつくれそう」

 そう二人が話し終わるといつの間にか怪獣の眼前には怪獣の顔が隠れるほどの弾幕とナイフと矢が出現していた。

 「これで」
 「チェックメイトですわ」

 咲夜が指をならした瞬間、怪獣の顔面で凄まじい爆発が起こる。
 その爆発が収まると…
 あまり傷ついていない怪獣の顔が現れ

 ブクションッ!!

 と盛大なくしゃみを怪獣はかました。

 『キャー!!!』

 そのくしゃみに巻き込まれ、二人はすごい勢いで地面に向かってくる。
 そして

 ボスン!

 二人は地面に頭から墜落した。
 直立で。
 残念ながら鉄の防御術でスカートはめくれていないのでパンツは見えない。

 「モガモガモガ(なんであそこまでかっこつけててこの結果なの!?)」
 「モゴモゴ(そんなの知りませんよ!)」

 そんな二人に輝夜とレミリアの二人が走ってきた。

 「永琳、大丈夫!?」
 「モガモガ(私としたことが…情けないわ)」
 「そんなことない。あなたは自慢の従者よ」
 「しっかりしなさい咲夜!」
 「モゴモゴ(申し訳ありませんお嬢様)」
 「なにを言ってるの。私はあなたのような勇気あるメイドに会えて誇りに思うわ」

 敗退しながらも怪獣に恐れず立ち向かう二人の姿を見て、他の皆は勇気づけられた。
 どうせ死にはしないだろうと。
 決意を新たにした一同が怪獣に立ち向かおうとした時。

 「やっほー、お姉ちゃーん」

 緊迫した状況には相応しくないお気楽な声が怪獣の顔の前から聞こえた。
 声の主はさとりの妹、こいし。
 その右手にはなにか黒いものを持っている。

 「ちょっ、こいし! そんなところで何してるの!?」
 「何って? 皆が遊んでるから混ざりにきたの」

 突然現れたこいしに怪獣はキョトンとしている。
 そんな怪獣にこいしは話かける。

 「はい。これ拾ったからあなたにあげる」

 そういうと手に持っていた黒いものを怪獣の顔に放り投げた。
 その黒いものは怪獣の顔に張り付くと…

 カサカサカサ

 と動き始めた。
 しばらく固まっていた怪獣だったが。

 ピギャァァァァァァス!!

 凄まじい悲鳴を上げると顔を鍵爪でかきながら空へ向かって飛び立つ。
 そして結界をぶち破り何処かへ消え去った。
 その光景にしばらく呆然としていた一同だったが。

 「もしかして、逃げたの?」

 誰かの一言で脅威が去ったことが分かると

 ワァァァァァァァァ!!!!

 と大歓声があがった。
 
 「えっ、なになに? なんで皆喜んでるの?」

 状況を把握していないこいしに皆が集まりお礼を言ったり誉めたりする。

 「お姉ちゃん。なんで皆私にお礼を言うの?」
 「それはね、あなたが皆を救ったからよ」
 「ふーん。それじゃあなんで私泣いてるんだろう」

 そう首をかしげるこいしの目は確かに涙を流していた。

 「それはね、あなたが嬉しいと思っているからよ。自覚はないかもしれないけど今のあなたは確かに皆の暖かい言葉に嬉しくて泣いてるのよ」
 「嬉しい? 私嬉しいって思ってるんだ。でも、皆を救ったのはお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんが黒い速いってものを怪獣の心から読まなかったら私もゴキブリなんて捕まえなかったもの。お姉ちゃんにこそありがとうだよ」
 「!…こいし!!」

 感極まってこいしに抱きつくさとり。
 抱きつかれたこいしは最初戸惑っていたが恐る恐るさとりの背中に手を回しやがて力いっぱい抱き返した。

 「よし! これから神社で宴会をやろうじゃない!! 今日の主役はさとりとこいしよ。ちなみに酒代は全て私もち! なになにお金は大会の優勝賞品で余裕あるから問題なし!」

 霊夢の提案に一同

 賛成!! 

 と叫ぶとゾロゾロ神社へ向かっていく。
 そんな中、地面から抜かれた永琳と咲夜は立ち尽くしていた。
 その傍らには輝夜とレミリアも居る。

 「はぁ、いいところは全部取られたわね」
 「まったくですわ」

 はぁとため息をつく従者達をそれぞれの主人は慰める。

 「なに言ってるのよ永琳。あなたかっこよかったわ」
 「咲夜もね。あなた達に勇気づけられたのは間違いないわ」

 主人の言葉に二人の従者は顔を赤くして照れる。
 しかし、永琳はすぐに暗い顔になってしまう。
 どうしたの? と尋ねる輝夜に永琳はぽつりと返す。

 「私は、とんでもないことをしました。短絡的な行動で幻想郷に危険を及ぼしてしまって……この償いは必ず」

 輝夜は黙って聞いていたが突然。

 「ふふふっ」

 と笑い出した。

 「か、輝夜! なにが可笑しいんですか!?」
 「だって、あなたがしょんぼりする姿なんて滅多に見られないもの。思ったより可愛いいのが可笑しくて可笑しくて。それにとんでもないことですって? あんなこと幻想郷じゃ起こって当たり前じゃない」
 「しかし…」
 「いい暇つぶしになったわよ。ねぇレミリア?」
 「ええ、私は館がつぶれたくらいで怒るほど狭器じゃないしね」
 「さすがですお嬢様」

 笑いあう主人と従者。
 その間には目に見えなくとも確かに絆が存在していた。

 「さて、私達も宴会に混ざらないと」
 「そうですね。しかし輝夜。そのおかっぱ頭も似合いますね」
 「またー、そういって変だと思ってるくせに」
 「思ってませんよ」
 「本当に?」
 「本当です。ふふっ」
 「あーやっぱり笑った! でもまあ許してあげる」

 和やかに話す輝夜と永琳にうどんげとてゐもやってきて皆一緒に神社へ向かっていった。
 そんな輝夜達を見ながらレミリア達も神社へ向かう。

 「やれやれ、見せ付けてくれるわね」
 「ご心配なくお嬢様。ほら、あちらからフラン様達がやってきましたわ」

 咲夜が指さす方向からは紅魔館組が走ってきている。
 その光景を見ながら、咲夜は再びレミリアの隣に立てることを心から喜んだ。

 「そういえば霊夢の神社が急に豪華になったり、宴会の酒代を出したりするなんていうのはおかしいわよね」
 「ええ、おそらく消えた金塊と金庫の中身と関係があるのでは」
 「そう、ならあなたがやることは言わずとも分かるわね」
 「もちろんです」
 「それならいいわ。ほら、皆咲夜が帰ってきたのを喜んでるわ。皆そろって宴会にいきましょう」
 「はい」

 今回の異変もなんだかんだで無事解決された。
 こんな異変が起こるたびに変化が起こったり起こらなかったりする幻想郷だが、今回の異変ではいろんな絆が強くなったようである。
 静かだったり騒がしかったりしながらも幻想郷はそこそこ平和なのであった。
 このSSには二次設定、厨展開、怪獣、残酷な描写などが含まれております。
 このような表現が苦手な方はすぐに戻るを押していただき、ほかの素晴らしいSSを読むことをお奨めします。
 マジで!

 リハビリ作品でしたが……まあ、ちびちびと書けたら書きたいです。
 遅れすぎですがあけましておめでとうございます。

 ※ 遅くなりましたが誤字修正の報告を。毎度ご指摘ありがとうございます。
 
ゴウテン
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コメント



0.400簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
たしかにこれは真面目になりきれない…

なんでだろう…
こいし様が物凄くかっこよく見える…
3.90名前が無い程度の能力削除
誤字を見つけたので報告
誰にも言わないいませんから=誰にも言いませんから
ではないでしょうか?
9.80名前がない程度の能力削除
床にめりこんでるさとりを想像したらwww

そして咲夜さんwパッドに過敏すぎるww