霧雨魔理沙。人間の魔法使いである。
“短いお話”
物の価値を知らぬ者から見れば単なるゴミの山に過ぎない。物の価値を知る者から見れば貴重品の埋もれているゴミの山。
そんな有り様の自分の住処に戻って来て、先ずはふうっと一息、身体を伸ばして息を吐く。
泥棒だ何だと言われつつ、それでも周りからは何とは無しに認められていた魔理沙の行為。
知り合いのお屋敷に黙って侵入し、そこでメイドにでも顔を合わせれば気軽に話をして、そうして図書館に入れば姿を隠しつつ面白そうな本を物色。当然見つからぬ様に気を付けてはいる心算だが、そこは文字通り人並外れた魔力を持つ図書館の主、大概の場合はあっさりと見つかってしまう。
相手の機嫌が悪く且つ体調の良い時であれば、スペルーカード戦にだってなったりもする。弾幕の美しさを競うこの世でもっとも無駄なそのゲーム、勝てる時もあれば当然負ける時もある。
そうして負けたが最後、ここは吸血鬼の館なのだ、二度と舐めた真似の出来ぬ様にと粉微塵にされて暗黒空間に。
バラ撒かれたたりする訳でもなく、服の端っこから小さく煙を出しながらメイド長の淹れた紅茶をご馳走になり、また来るぜ、もう来るな、そんな挨拶を交わして手ぶらで家へと帰る。
泥棒と言うには加害者側も被害者側も余りに暢気。友達の家に遊びに行き、お茶とお菓子を出してもらって、そうしてゲームで勝負をして勝ったら物を借りていく。結局はそんな話。
勿論一方的に物を持って行く、そうした事に後ろめたさが全く無い訳でもない。だから向こうから頼み事をされれば悪態をつきながらもそれに応じる。この間も地底に潜らされて、危うく地獄に堕ちる羽目になったりもした。と言うより実際、生きながらにして灼熱地獄を体感する事態になった。その間、依頼主達は地上で安穏としながらあれこれの指示とちょっとした手助けをするのみだった。
直後には冬の雪山登りもさせられた。同時刻、依頼主は暖かい家の中で暖かい紅茶を飲みながらアンニュイなアフタヌーンを満喫していた。
結局の所、何のかんのでバランスは取れていたのだ。魔理沙に悪意は無いしゲームである弾幕ごっこを除けば誰かを傷付けたりもしない。拝借した物の分のお返しだってする。と言うかさせられる。
誰かが一方的に被害を受ける、そんな事態にはなっていない。だから周囲も、泥棒だと囃しながらそれでも魔理沙の行為を認めていたのだ。
だが。
魔理沙は泣きそうに目を細め唇の端を噛み締める。
この数日で事態は大きく変化した。
スペルカードルールなんて知った事ではない。捕捉のされない遠距離から高速で突進、門だの壁だのを吹き飛ばしつつ館に飛び込み、相手が何を言おうと聞きもせず、無駄な弾幕ごっこもせずに無理矢理本を奪って即座に逃げ去る。今迄は確かに存在していた筈の奇妙な信頼やバランスをドブに投げ捨てるかの様なその行い。
魔理沙の暴挙により、霧雨魔理沙の名は地に落ちた。
けれども、彼女にそんな事を一々気にする余裕は無い。何はともあれ時間は過ぎてしまった。
カーテンの隙間から入り込む日差しが照らす薄暗い家の中で、魔理沙はゆっくりと手を握り、そうしてまたゆっくりと開く。自分の存在が間違い無くここに在る、その事を確認する為に。
昨日の昼過ぎ、魔理沙は久し振りに霧の湖の畔に在る紅魔館へ行った。当然と言えば当然だがそこには敵は居なかった。その後、たまたま留守だった人形遣いの家を一応の確認といった感じで覗き込み、それから幻想郷中を飛び回る。
結局それでも目的を果たす事は出来ず、日が変わってからは姿を隠し周囲の気配に神経を尖らせつつ、昼過ぎに久しく留守にしていた住処へと戻って来ていた。
魔理沙は想像する。魔理沙が為した暴虐の被害者達が、今頃どんな顔をし、どんな事を話しているのだろうか、と。
事がここ迄に至れば、もはや敵も逃げ隠れはしないだろう。それに対抗する為危険を承知で住処に戻り、転がしてある蒐集品の山から何か役に立ちそうなものはないかと探しているのだ。
暫くそうして時間を潰すものの、大した物も見付からなかった。結局、他人の力ばかりを頼りにするしかない。
それでも。
「何とかしなくちゃ、何とか」
呟いて魔理沙達は外に出る。日は既に西へと向かって傾き始めていた。
霧雨魔理沙。人間の魔法使いである。
彼女は外見(そとみ)も内心も、その見せる色は確かに白であった。
“短いお話”
物の価値を知らぬ者から見れば単なるゴミの山に過ぎない。物の価値を知る者から見れば貴重品の埋もれているゴミの山。
そんな有り様の自分の住処に戻って来て、先ずはふうっと一息、身体を伸ばして息を吐く。
泥棒だ何だと言われつつ、それでも周りからは何とは無しに認められていた魔理沙の行為。
知り合いのお屋敷に黙って侵入し、そこでメイドにでも顔を合わせれば気軽に話をして、そうして図書館に入れば姿を隠しつつ面白そうな本を物色。当然見つからぬ様に気を付けてはいる心算だが、そこは文字通り人並外れた魔力を持つ図書館の主、大概の場合はあっさりと見つかってしまう。
相手の機嫌が悪く且つ体調の良い時であれば、スペルーカード戦にだってなったりもする。弾幕の美しさを競うこの世でもっとも無駄なそのゲーム、勝てる時もあれば当然負ける時もある。
そうして負けたが最後、ここは吸血鬼の館なのだ、二度と舐めた真似の出来ぬ様にと粉微塵にされて暗黒空間に。
バラ撒かれたたりする訳でもなく、服の端っこから小さく煙を出しながらメイド長の淹れた紅茶をご馳走になり、また来るぜ、もう来るな、そんな挨拶を交わして手ぶらで家へと帰る。
泥棒と言うには加害者側も被害者側も余りに暢気。友達の家に遊びに行き、お茶とお菓子を出してもらって、そうしてゲームで勝負をして勝ったら物を借りていく。結局はそんな話。
勿論一方的に物を持って行く、そうした事に後ろめたさが全く無い訳でもない。だから向こうから頼み事をされれば悪態をつきながらもそれに応じる。この間も地底に潜らされて、危うく地獄に堕ちる羽目になったりもした。と言うより実際、生きながらにして灼熱地獄を体感する事態になった。その間、依頼主達は地上で安穏としながらあれこれの指示とちょっとした手助けをするのみだった。
直後には冬の雪山登りもさせられた。同時刻、依頼主は暖かい家の中で暖かい紅茶を飲みながらアンニュイなアフタヌーンを満喫していた。
結局の所、何のかんのでバランスは取れていたのだ。魔理沙に悪意は無いしゲームである弾幕ごっこを除けば誰かを傷付けたりもしない。拝借した物の分のお返しだってする。と言うかさせられる。
誰かが一方的に被害を受ける、そんな事態にはなっていない。だから周囲も、泥棒だと囃しながらそれでも魔理沙の行為を認めていたのだ。
だが。
魔理沙は泣きそうに目を細め唇の端を噛み締める。
この数日で事態は大きく変化した。
スペルカードルールなんて知った事ではない。捕捉のされない遠距離から高速で突進、門だの壁だのを吹き飛ばしつつ館に飛び込み、相手が何を言おうと聞きもせず、無駄な弾幕ごっこもせずに無理矢理本を奪って即座に逃げ去る。今迄は確かに存在していた筈の奇妙な信頼やバランスをドブに投げ捨てるかの様なその行い。
魔理沙の暴挙により、霧雨魔理沙の名は地に落ちた。
けれども、彼女にそんな事を一々気にする余裕は無い。何はともあれ時間は過ぎてしまった。
カーテンの隙間から入り込む日差しが照らす薄暗い家の中で、魔理沙はゆっくりと手を握り、そうしてまたゆっくりと開く。自分の存在が間違い無くここに在る、その事を確認する為に。
昨日の昼過ぎ、魔理沙は久し振りに霧の湖の畔に在る紅魔館へ行った。当然と言えば当然だがそこには敵は居なかった。その後、たまたま留守だった人形遣いの家を一応の確認といった感じで覗き込み、それから幻想郷中を飛び回る。
結局それでも目的を果たす事は出来ず、日が変わってからは姿を隠し周囲の気配に神経を尖らせつつ、昼過ぎに久しく留守にしていた住処へと戻って来ていた。
魔理沙は想像する。魔理沙が為した暴虐の被害者達が、今頃どんな顔をし、どんな事を話しているのだろうか、と。
事がここ迄に至れば、もはや敵も逃げ隠れはしないだろう。それに対抗する為危険を承知で住処に戻り、転がしてある蒐集品の山から何か役に立ちそうなものはないかと探しているのだ。
暫くそうして時間を潰すものの、大した物も見付からなかった。結局、他人の力ばかりを頼りにするしかない。
それでも。
「何とかしなくちゃ、何とか」
呟いて魔理沙達は外に出る。日は既に西へと向かって傾き始めていた。
霧雨魔理沙。人間の魔法使いである。
彼女は外見(そとみ)も内心も、その見せる色は確かに白であった。
コピペして一部だけ改変するってのは芸が無さ過ぎるかな
けど「ひとつの完結した作品」として評価しときます。
またいつか。