Coolier - 新生・東方創想話

大晦日の異変

2009/01/09 03:33:44
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「早苗ー、準備は進んでるかい?」
新年を迎えるために着飾られた守矢神社の境内に神奈子の声が響いた。
しばらくすると、境内の片隅で雪かきをしていた早苗がひょこっと顔を出した。
「えぇ、もちろんです。ここの雪を片付ければ準備はほぼ完了です。」
そう笑顔で答える早苗に神奈子は満足そうに微笑んだ。
「あとは、参拝に来られた方に振舞う甘酒の準備くらっ…くしゅん!」
ビュウッと北風が境内を駆け抜けた。
守矢神社のある場所は妖怪の山の頂上付近だ。それに外の世界と比べて気温もグッと低い。
早苗は鼻を押さえ、肩を揺らした。するとその肩にふわりと上着がかけれた。
慌てて振り返ると、早苗の後ろにはスキーウェアだろうか?完全防寒装備の諏訪子が立っていた。
「す、諏訪子様!?」
「いつまでも雪かきなんてしてたら風邪引いちゃうよ?
 残りの雪かきは私たちに任せて早苗は甘酒の準備してきなさいよ。」
肩にかけられた上着と完全装備の諏訪子を交互に見て、早苗は目をパチクリさせた。
諏訪子はそんな早苗に意地悪そうな笑顔を向けると、
「早苗に風邪を引かれたら、誰が参拝客迎えるのかな?」
そう早苗向かって問いかけた。
その言葉を聴くと、早苗は可笑しそうに笑い、
「わかりました。」
と、二人の神様に一礼すると外よりは暖かいであろう、台所へと向かっていった。
そして早苗の姿が台所の中へと消えると、二人の側に黒い影が舞い降りてきた。
「で、準備はどうだい?」
神奈子は舞い降りた影に向かって声をかけた。
「もちろん準備は万端です。」
影のほうも何の迷いもなく神奈子の問いに答えていく。
「妖精に、その他妖怪たちの協力も得られました。あとは夜になるのを待つだけです。」
その答えに神奈子は満足そうに顔を歪ませた。
それにつられるかのように、一瞬だが影も顔を歪ませた。
その一瞬に気付いたのか、諏訪子が少々呆れ気味に声をかけた。
「あんたも本当に悪知恵が働くねぇ。お姉さん感心しないなぁ。」
「いえいえ、何を仰いますか。これも全て貴女方への信仰心故にですよ。」
黒い影は素直な笑顔でそう答えた。もちろん営業スマイルの類だが…
「ではでは、最終調整に行ってきますので、私はこれにて失礼させていただきます。」
黒い影はそういうと、来たときと同様に風のような速度で去っていった。
その後姿を見送ると、諏訪子は困ったように神奈子に向かって声をかけた。
「ねぇ、本当にやるつもり?どう考えても、あの子が言うとおりに上手くいくとは思えないのだけど。」
「私も全て信用しているわけじゃないよ。でも、面白そうじゃないか?」
悪戯をする子供のように笑う神奈子に、諏訪子は苦笑を向けた。
「ホント、どうなっても知らないよ?」
そして夜が更けていく。


夜も更け、日付も変わろうとする頃
人里では初詣にいこうと準備をする集団があった。
目的地はもちろん博麗神社だ。
博麗の巫女の話では、神社の近くに温泉が作られ、道もある程度整備した(させた)とのこと。
ならば、今年は初詣のついでに温泉で初日の出でも見ようじゃないかと、
どっちが目的かわからない企画が発案されたようだ。
「それじゃ、いくか。」
「あぁ、とりあえず今から行けるのはこれくらいだろう。」
この集団の引率者らしき二人の男が声を掛け合うと、十人ほど集団は博麗神社に向けて歩き出した。
いくら、博麗の巫女が道を整備した(させた)とはいえ、神社までの過程には狭い道、暗い場所はいくつもある。
里の人間では一人、二人で神社まで行こうと思う者はまずいないのだ。
しかし、大晦日に人を襲うような妖怪はいたとしても低級な、妖怪退治の専門家でなくとも追い払える程度の者だろう。
妖怪にとっても大晦日や正月は特別な日なのだから。
だが、異変は里を出てすぐに起こった。
博麗神社に向けて歩いていたはずなのに、気付けば全く別の道を進んでいたのだ。
何度か元の道へ引き返そうとするのだが、またすぐにこの道に戻ってしまうのだ。
人里を出た集団は恐る恐る進むしかなくなった道を歩み始めた。

すると突然、目の前が開けた。
そこには巨大な長細い箱のようなものがあった。
人間たちが恐る恐る箱に近づいて行くと、その箱の中からヒョコリと人影が現れた。
「ようこそ、我らが盟友たちよ!」
人間たちの前に姿を現したのは河童、それもにとりであった。
集団を引率していた二人の男は慌てて刀を抜き払いにとりと対峙した。
二人はまず襲われることは無いだろうと鷹を括っていたことと、ココまで誘い込まれたという事実に気が動転していた。
しかし、対するにとりは不用意に近づこうとせず、
人間たちが多少なりとも落ち着くのを待ってから話し始めた。
「盟友たちよ、今から神社に初詣に行くのだろう?
 ならば、我らの用意した『空飛ぶバス』で送ろうじゃないか。」
人間たちは最初こそ半信半疑であったが、にとりから敵意は全く感じられず、
それどこか無防備といっても良いほどに親しげに接してくるため、ついつい彼女のことを信用してしまった。
彼女に案内されるまま『空飛ぶバス』に乗ってみると、中に設置してあるイスは座り心地の良いものであった。
そうして人間たちがホッとしていると、にとりは運転席に座った。
「さぁ、盟友たち、ちょっと揺れるが我慢しておくれ。なぁに安全運転で行くから落ちる心配は無いさ。」
にとりがそういうと、『空飛ぶバス』はガタガタと動き出し空へと舞い上がった。


その頃、博麗神社では…

「……。」
「なぁ、霊夢?」
「なによ?」
「今回は一段と参拝客が少ないな。」
「……。」
それなりに着飾れた博麗神社の境内に霊夢と魔理沙はいた。
非常に不機嫌な霊夢とぼんやりとしている魔理沙だけがいた。
例年であれば数は少ないとはいえ必ず参拝客がくる時間帯であった。
「おかしいわ…。」
「ぁー?」
霊夢がボソッと声を上げ、魔理沙が思わず反応する。
「絶対におかしいわ!ちゃんと温泉を引いて、道を整備して(させて)、
 更に更に、この前に買出しに行ったときに宣伝までしてきたのよ!?」
「ぁー…何というか、ご苦労様だな。」
荒れ狂う霊夢に対して、魔理沙は非常にやる気無さげだ。
「異変よ!これは異変に違いない!!」
「そうかー?ココに人が来ないのは毎度のことのような気がするんだが…」
やはりやる気のない魔理沙に、霊夢はビシッと指を向けた。
「私は異変の解決行ってくるから、アンタはここで神社の番してなさい!」
「ぁー…別に構わないけど、早めに頼むぜ…。
 流石の私もずっと外にいるのは厳しい。」
魔理沙はそういうと猫のように丸くなるとガタガタと身を震わせた。
彼女はその身体に普段着ている服とは別に三枚も真っ黒いコートを重ね着していた。
山の上でないにしろ、幻想郷の冬は厳しいのだ。
そんな魔理沙に対して、普段と同じ巫女服だけを纏った霊夢が呆れたようにため息を吐いた。
「アンタご自慢のミニ八卦炉で暖を取ってればいいじゃないの。」
「ぉぉ!それは思いつかなかったぜ!」
魔理沙はさっそく近くの焚き木から火を持ってくるとミニ八卦炉へとくべた。
すると、さっきまでの寒さはどこへやら、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
「う~ん。やっぱりこれくらい暖かくないと頭も体も動かないよな。」
満足そうに頷く魔理沙に、霊夢はもう一度ため息をつくと、留守番お願いね、と言い残しふわりと空に舞い上がった。


その頃、守矢神社では…

「甘酒も配っていますので、どうぞ暖まっていってください。」
早苗が参拝客の一人一人に丁寧に甘酒を配っていた。
神奈子はというと、本殿のほうで天狗の頭領らと挨拶を交わしていた。
で、諏訪子は半ば冬眠するかのように早苗のそばでウトウトと舟をこいでいた。
「諏訪子様、寝るなら部屋の中で寝ないと風邪引きますよ?」
早苗のほうにもたれかかってきた諏訪子に、苦笑を浮かべながら声をかけると、
諏訪子は目元をこすり大きな欠伸をした。
「ふわぁ~、まだまだ寝るつもりは無いんだけど、こう寒いとねぇ…」
「あはは、蛙故に冬眠ですか?」
「いやいや、私は冬眠はする気は無いよ。でも、やっぱりこう寒いとねぇ…」
諏訪子は同じ文句を繰り返すと、またうつらうつらと舟をこぎ始めた。
完全防寒装備とはいえ、外で寝るのはあまり良くないと、早苗は諏訪子を必死で起こそうとしていた。
その様子をクスクスと笑いながら観察している人影が一つ。
その気配に早苗が慌てて振り返ると、そこには見慣れない大き目のコートを着た見慣れた少女の姿があった。
「アリスさん!?どうしてここに?」
「あら、私は初詣にきちゃいけないのかしら?」
二人を観察していた(正確には早苗の行動をだろう)アリスは意地悪い笑みを浮かべて早苗を見返した。
「いえ、別に悪くは無いですけど…」
ちょっとした意地悪だということはわかっているが、どうにも言葉を濁してしまう早苗に、
アリスは笑いながら謝った。
「ふふ、ごめんなさいね。まぁ、初詣も目的の一つだけど
 あなたの手伝いをしようと思ってね。」
「え?手伝いですか?」
思いがけない言葉に、早苗は驚きの表情を顕にした。
その驚き方にアリスは少し心外だとでも言いたげに苦笑で答えた。
「えぇ、手伝いよ。向こうは魔理沙が手伝いに行っているようだし、
 こっちにも一人くらい手伝いがいても良いかなと思ってね。」
そう言いおわると、アリスは優しげに微笑んだ。
思いがけない言葉、そして何よりアリスの穏やかな笑顔に早苗は一瞬呆けてしまった。
その拍子に先程まで必死に揺すっていた諏訪子を放り出してしまう。
ゴツッという音が二人の間に響いた。
「いったぁぁっぁああああああ!!??」
「すっ諏訪子さまぁ!?」
諏訪子が情けない悲鳴を上げる。頭から石畳にぶつかったのだ。
早苗が慌てて諏訪子を抱き起こす。
その様をアリスは何かを思い出すように微笑ましく眺めているのだが、
そのアリスの背後には甘酒を貰うために集まった妖怪たちの長蛇の列が…
少し名残惜しそうに肩をすくめると、アリスは早苗たちの方へと場所を移し甘酒を配り始めた。
「ぁ、アリスさん!?すみません!手伝わせてしまって…」
アリスが甘酒を配り始めたことに気付くと、早苗は申し訳なさそうに謝った。
しかしアリスは特に気にする風も無く手際よく甘酒を配って行く。
「だ・か・ら、手伝いに来たって言ってるでしょ?
 貴女が申し訳なさそうな顔する必要は無いわ。」
にこりと笑うアリスの周りにはいつの間にか数体の人形たちが器用に飛び回り、効率よく甘酒を配っていた。
アリスにとってこの程度の作業は片手を使うまでも無くできることなのだ。
アリスの勇姿に早苗はホッと落ち着きを取り戻し、ぁーぅーと頭を押さえている諏訪子の介抱に専念した。
「ホント、まるであの頃の自分を見てるみたい…。」
「ぇ?何か言いましたか?」
アリスの呟きに早苗が反応する。
だが、アリスは何でもないと返事をすると早苗と諏訪子を横目で見ながら甘酒を配る作業に戻っていった。

そうして、しばらく経つと甘酒もほとんど行き渡ったのか、
三人の前に集まる妖怪たちはほとんどいなくなっていた。
「やっと落ち着いたねぇ。」
そう言いながら残っている甘酒を啜っているのは諏訪子だ。
額にはぺたりと大きな絆創膏が貼ってある。
「そうですね。それにしてもアリスさんが手伝いに来てくれて助かりました。」
早苗も諏訪子同様、甘酒を啜りながらホッと息をついた。
アリスはそんな二人の様子を近くに用意されていたイスに座って眺めていた。
「まぁ、どこの神様も似たようなものなのかしらね。」
その手に中には先程まで甘酒を配りに飛び回っていた人形たちが収まっていた。
ふと、そのとき一体の人形がアリスの肩に飛び乗り境内の入り口の方を指差した。
「あら?何かあるの?」
アリスがそっちの方に視線を向けると大きなざわめきとともに、ドーンという何かが落ちるような音が響いた。
「っ!!」
その音に反応して、早苗がバッとざわめきの中心へと飛び込んでいった。
一方の諏訪子は笑顔とも苦笑ともつかない複雑な表情をして、その場を動こうとはしなかった。
アリスはその反応の違いから厄介なことが起こると感じた。

「ちょっとどいてください!一体何があったんですか?」
早苗は妖怪たちの間を潜り抜け、騒ぎの中心に降り立った。
そこには幻想郷には無いはずの観光バスが悠然と居座っていた。
「……バス?」
呆気に取られている早苗を余所に、バスの中からにとりが現れ
その後に続くように人間たちが続々と降りてきた。
「へ?ぇ?え?何で里の人たちが??」
疑問符がそこらかしこから出てくる中、天狗の頭領たちを伴って神奈子が姿を現した。
神奈子を見つけた早苗は慌てて神奈子に駆け寄って行く。
「あっあの、神奈子様…なぜか里の方たちが……。」
早苗はどうしたら良いものかと困惑気味に尋ねるが、神奈子は堂々としていた。
「話は聞いてるよ。早苗、里の人間たちにも甘酒を振舞って上げなさい。
 彼らも立派な参拝客なのだから。」
神奈子は早苗にそう指示すると、天狗の頭領たちを見送って行くと言い残して山を下っていった。
残された早苗は訳のわからぬまま、次々と到着する里の人間たちのために大慌てで甘酒の準備をした。
もちろんアリスも何食わぬ顔で早苗の手伝いを始めていた。




博麗神社への道にて……

「あはははー!人間なんて鳥目なんだから月明かりぐらいでも十分迷うのよ♪」
「こんな簡単なことでご馳走が貰えるなんて美味しい話がよく転がってたわね。」
「ちなみに鳥目にしてるのは私の能力だからねー。」
「よ~し!次はあたいがやっつけてやる!!」
「いや、やっつけるとかじゃなくて迷わせるだけだから。」
「そーなのかー。」
「あら?誰か一人でこっちに近づいてくるわよ。」
口々に騒ぎまくる妖精と妖怪の集団
その中の妖精が異変に気付いたようだが、既に遅すぎた。
彼らの前に紅白の蝶が舞い降りる。




妖怪の山前、臨時バス発着所、
そこから少し離れた木の上に彼女はいた。
「ふっふっふっ、闇夜に人間を運ぶ空飛ぶバス!
 これで神奈子さんたちへの信仰は増え、さらにネタが私の元へと舞い込む。
 まさに一石二鳥とはこのことです。」
木の上で空飛ぶバスにカメラを向けている彼女、
射命丸文は不敵な笑みを浮かべていた。
パシャッパシャッとシャッターが切られる。
「ぁ、椛の尻尾が出てます。ちゃんとバスの下からはみ出さずに支えてくれないとネタにならないじゃないですか~
 これはあとでお仕置ですね。」
うんうんと頷く文の背後にスッと舞い降りる紅白の影。
「で、アレは何なのかしら?」
「アレですか?アレはですね。里の人間を守矢神社まで運ぶためのバスです。
 ちなみに動力はバスの下で支えてる椛たち白狼天狗です。」
「へぇ~、そうなの。ちなみに人間たちはどこから連れてきてるのかしら?」
「それはですね。はくr……」
意気揚々と質問に答えていた文はようやく気付く。
「はく…なにかしら?」
「ぇ…ぇぇっとですねぇ…。」
文の全身を嫌な汗が伝う。
「ちゃんと答えてくれないかしら?」
「いえ、あの、決して答える気が無いとかそういうわけでは……。」
鋭い殺気が文の周囲に満ち溢れる。
その瞬間、文は全速力で空を駆け抜けていた。
背後を確認するなんて恐ろしくてできない。
ただただ、前を見て前へ前と全速力で飛んだ。
「どこへ行こうっていうのかしら?あ~やぁ~?」
だが、その声は文の正面から発せられていた。
一瞬のうちに文の正面へと移動した霊夢は文の顔を鷲掴みにした。
「ぎゃっ!いたっ!!痛いっ!!いたたたたたたたたたぁぁあああ!???」
「ねぇ、教えてくれないかしら?一体どこから、誰の客を横取りしてたのかしら?」
ギリギリと文の顔を軋ませながら霊夢は空を飛んでいるバスに近づいて行く。
「あら、にとり。こんな所で何してるの?」
その声にタクシーの運転手のように車内の人間に声をかけていたにとりの表情が固まる。
「…ぇー…っと……」
とてもじゃないが窓の外なんて見ることができない。
にとりは真っ青な顔で固まっていた。
「ねぇ、にとり~、なにしてるのかしら?ちゃんと…」
霊夢がもう一度声を発したとき、にとりは決心した。
いや、正確には恐怖に勝てなかった。
「超・脱・出!!」
にとりはポチッとハンドルのそばにあったボタンを押した。
ボンッと運転席の天井が弾け、そのまま戦闘機の如く、運転席に座った状態でにとりが高速で撃ち出された。
だが、天狗を捕らえる今の霊夢にはその程度のスピードなど視線を向けるまでも無い。
「霊符
 ――― 夢想封印 集 ――― 」
儚くも尊い河童の命が大晦日の夜空に散った。



その頃、博麗神社では……

「ぉ?なんだ?やっと参拝客の到着か?」
ぼんやりと神社で留守番していた魔理沙の前に里に人間たちが現れた。
だが、奇妙なことに彼らは口々に博麗の巫女様だとか、鬼だとか、ごめんなさいだとか、
魔理沙には理解不能な言葉を呟き、驚くほど大量の賽銭を入れていった。
「一体なにがあったんだ……?」
魔理沙はただ混乱するばかりだった。



そして舞台は守矢神社へと移る…

守矢神社では、早苗とアリスが大慌てで甘酒を作っていた。
早苗の予想以上の参拝客が来たため、甘酒が無くなってしまったのだ。
そんな中、ドーンッと今までに無い轟音と振動が神社に響き渡った。
台所で甘酒を作っていた二人は今までに無い大きな音に顔を見合わせた。
「今の音、ちょっと大きすぎませんか?」
「…そうね、今までより酷い振動だったし、何かあったのかもしれないわね。」
二人が頷きあい台所から境内へと飛び出すと、なんとバスが境内の石畳に突き刺さっていた。
そのすぐそばには、文を踏みつける霊夢の姿が…
「「霊夢!?」」
二人は異口同音に声を上げた。
「あら、早苗。探してたのよ?」
その声に霊夢は笑顔で振り向いた。
「何故か知らないけど、うちに来るはずの参拝客がこっちに来てたのよ。」
殺気という名の魅力を纏って。
「貴女なら何か知ってるでしょ?」
その目には鬼がいた。
早苗は訳もわからず向けられる極上の殺気に怯えて悲鳴を上げた。
既に声にさえなっていないが…
「ねぇ、教えてよ。良い子の貴女なら私にもわかるようにちゃんと説明してくれるんでしょ?」
徐々に近づいてくる霊夢から隠れようとしているのか、
早苗はその場で霊夢に背を向けて頭を抱えて座り込んだ。
マジ泣きである。
アリスは人は混乱の極みに達すると意味不明な行動を取るのだな、と早苗の様子を見ていたが、
さすがに早苗の命の危険を感じたので、二人の間に割って入った。
「ちょ、ちょっと待って、霊夢。」
アリスの乱入に、先程までは早苗のみに向けられていた殺気がアリスにも向けられた。
それはもう早苗同様、この場で泣きたくなるぐらいに痛い殺気であった。
それでも何とか気を保ち、アリスは霊夢に問いかけた。
「霊夢、貴女なにを怒ってるの?」
「人のお客を横取りするような子にはお仕置きが必要でしょ?」
霊夢は邪魔するなと言いたげに目的を述べた。
アリスは恐怖で固まりそうになる思考をフルに働かせ、その言葉から回答を導き出そうとする。
その間にも一歩一歩、まるで死刑宣告のように霊夢が近づいてくる。
「れ、霊夢!お客って参拝に来てる里の人間たちのことかしら?」
「それ以外に誰がいるって言うの?」
少しでも時間を稼ごうとするが、霊夢はあっさりと答えるだけで歩みを止めようとはしない。
「横取りって一体どういうこと?」
「横取りは横取りよ。」
アリスは何とかしようと会話を続ける。
「参拝客をどうやって横取りするのよ?」
「天狗がバスを動かしてたわ。早苗たちの指示でしょ?」
これが早苗を救うためのキーワードだった。
アリスの中で途切れ途切れだった道筋が繋がった。
途端に、アリスの思考は落ち着きを取り戻す。
「霊夢……」
「なによ?まだ何かあるっていいたいの?」
霊夢はアリスの目前まで来ていた。
だが、落ち着きを取り戻したアリスは霊夢のさっきに押されることなく言葉を紡いでいく。
「その件に早苗は関係ないわ。」
「あっそ。」
霊夢は聞き耳なしとスペルカードを取り出した。
さすがのアリスも大慌てで言葉を続けて行く。
「いや、だから霊夢!ホントに早苗は関係ないから!
 私は人間たちが来る前からココにいたけど、早苗は人間が来ることを知らなかった。
 その証拠に、早苗は参拝客行き渡っても余るぐらいに甘酒を作ったはずなのに、
 足りなくなってアンタが来る直前まで私と一緒に作ってたの!!」
切羽詰ったアリスの表情に霊夢は少し間を置いて早苗の方を見た。
早苗はガタガタと振るえ、ごめんなさいごめんなさいと繰り返し呟いていた。
「……う~ん。確かにちょっと冷静になると私の勘は早苗が犯人だとは言ってないわねぇ。」
霊夢の勘は百発百中だ。
霊夢はスペルカードを仕舞うと早苗の方をポンっと叩き、脅して悪かったわね、とそう一言謝った。
その一言でガタガタと震えていた早苗はほんのちょっとだけ気を持ち直したようだった。
それでも立ち上がった後は霊夢から隠れるようにアリスの後ろにくっついていたが…

そんな時、陽気な声が境内に響いた。
「ただいま~。早苗~、諏訪子~、今戻ったよ~。」
天狗の頭領たちを送っていった神奈子だ。
神奈子の姿を見た瞬間、霊夢の勘が告げた。
「お前かぁぁぁああああああああああああああああ!!
 神技!!
 ――― 八方龍殺陣 ――― 」
日付が変わるとともに神社の主である一柱の神が夜空に散った。

この後、霊夢は里の一部の人間から河童や天狗どころか神さえ屠る巫女として恐れられたとか…





数日後

お正月の喧騒も収まり、いつものように霊夢が境内の掃除をしていると
振袖で着飾った三人組が現れた。
早苗に神奈子、諏訪子の三人だ。
「なにしにきたのよ?お説教ならまた今度にしてよね。」
霊夢は三人をいつものように無愛想に迎えた。
だが、霊夢の予想とは反して早苗が彼女の前で深々と頭を下げた。
「先日は本当に申し訳ありませんでした。うちの神様たちがご迷惑をかけてしまいました。」
「私は止めたほうだけどねぇ。」
頭を下げる早苗に反論するかのように諏訪子が声を上げるが、
早苗はその頭を無理やり下げさせた。
「止めれなかったのならばどっちでも一緒です。
 諏訪子様も謝ってください!」
「ぁーぅー、わかったよぉ…」
諏訪子はしぶしぶだが自ら頭を下げ霊夢に謝った。
「まぁ、そういうことだから、悪かったね。」
最後にそうフランクに謝ったのは神奈子だ。
その態度に早苗は顔を真っ赤にした。
「神奈子様!!貴女が一番反省してください!!」
今にも神奈子に掴みかかろうとしている早苗、それを必死で止める諏訪子、
そして大慌てで早苗に謝る神奈子、
霊夢は三人のやり取りを見ていて、思わず噴出していた。
「あははははっ、ホントに何しに来たのよ、あんたたち?」
霊夢に笑われたため、早苗は更に顔を真っ赤にしてホコンと咳払いした。
「今日は先日のお詫びもかねて初詣に来ました。
 うちの神社も昨日まで参拝客で一杯だったので少々遅れましたが…」
「ぷっ、あはははははははははははははっ」
早苗の言葉に霊夢は再び大笑いした。
早苗は心外だと、真っ赤な顔で怒ったが、笑われても仕方の無いことだ。
なぜなら…
「全く、見守る側の神様が初詣に来るなんて聞いたこと無いわよ。
 でもいいわ。そういうことなら家内安全の祈祷ぐらいはしてあげるわよ?」
そういって霊夢はまた大きな声で笑った。
直後に早苗が真っ赤な顔で抗議したのはいうまでも無い。
大晦日っていつだったっけ・・・?
それくらい時間が経ってしまいましたが大晦日のお話です。
相変わらず、短めの話しようとして、いつの間にか微妙に長文になっています。

なお、なんでアリス?的な質問は受け付けません。
私の頭の中はアリスと早苗さんで一杯です。

1/9 20:24誤字修正しました

<01/09 12:05の名無し様
何をしていても早苗さんはかわいいですよね!
仲の良い二人が私の理想ですし、これからもこの路線で行きます

<01/09 17:36の名無し様
まずは、誤字の指摘ありがとうございます
そして、ご指摘のとおり後半部は時間に追われるように書いていました
それくらいしないと今の私では書きたくても書けないもので・・・
あと分類については、何を入れればいいのか迷ってしまいまして
とりあえず、出てくる頻度が高いキャラをと載せました
何かと中途半端で申し訳ないです
緋色
http://hiiro1127.jugem.jp/
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コメント



0.950簡易評価
12.90名前が無い程度の能力削除
怯える早苗さんかわいいよ早苗さん。
そして相変わらず仲良しな二人が微笑ましい。
16.40名前が無い程度の能力削除
> 早苗がバッとざわめきに中心へと飛び込んでいった。
ざわめきに→ざわめきの?

> 直後に早苗が真っ赤な顔で講義したのはいうまでも無い。
講義→抗議?

ドタバタコメディとはいえ、色々な意味で無理矢理すぎるように感じました。
伏線は張られているものの、勢いのままに展開が進んで行くみたいで。
とはいえストーリー自体はシンプルですから付いていけないことはないですし、せめて
キャラクターが魅力的に描かれていればもう少し高い点数を付けられるのですが。
でも分類に書かれている3人のうち、霊夢は良いとして、早苗とアリスは「フツー」
なんですよね……。
24.100名前が無い程度の能力削除
いいじゃない