Coolier - 新生・東方創想話

3rd eye~complex

2009/01/03 03:23:34
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さわ、と木々を揺らし神社を吹き抜ける風に湯飲みの水面が波紋を立てる。
――地底の異変後。
間欠泉の問題も収まり、霊夢は一人暇を持て余していた。

「今日は萃香もどこかへ行っちゃったし……何をしようかしら」

境内でお茶をすすりながら、怠そうに足をなげる。
一際強い風が吹いた。
木々がしなりを上げ、強い風が音を立てて霊夢の元へと届いた。

「……っ」

風が過ぎると、静かになった神社に一人の参拝客が訪れた。
いや、立っていたのだ。
まるで最初からそこに居たかのように。

「あら……めずらしい顔が来たものね」
霊夢はお茶をすすりながらその参拝客を前に小さくため息をつく。

「こんにちは」
笑顔でお辞儀をすると、霊夢の前に立った。

――古明地 こいし。
地霊殿に住んでいる当主の妹。
あちこちでふらついては、皆を驚かせているとブン屋から聞いたことがある。
さっきまでの神社にはまったく人がいる気配はなかった。
しかし、突然目の前にこいしの姿が現れたのだ。
そう。これがこいしの無意識を操る程度の能力。
……通りで、地霊殿の当主も苦労するはずだ。

霊夢はそんな事を考えながら、こいしの姿を眺める。
小さい身体に巻き付いた第三の目。そして帽子を被っている姿が何とも印象的だった。

「今度は何? 地霊の事ならもう終わったはずよ?」

「えと、その事が終わったから改めて地霊殿に誘おうと思って来たの」

「………」

「駄目かな?」

「死体になるのは勘弁願いたいわ」

「そんな事しないわよ。この前はお姉ちゃんやおくうを倒したって聞いたからいても立ってもいら
れなくて挑んじゃったけど……今回はそのお詫びもかねてって事で、ね?」

「まぁ、それは構わないけど。裏があったりしないでしょうね?」

「ないない。そこまで疑り深くならなくても良いのに」
両手を振りそんなことはないと主張するこいし。
しかし、その姿に霊夢は目を細めて言葉を続ける。

「……この前は紫のせいで散々な目にあったからね。次はないように注意しているのよ」

「あの陰陽玉の向こうから聞こえてきた声の人?」

「そう。あの後すぐに姿を消すし……まったく、今度会ったらただじゃおかないわ」
手のひらに力を入れる霊夢にこいしはクスクスと笑い出す。

「まぁ、ともかく行きましょう? きっとお姉ちゃんも喜ぶはずよ」

「そうかしら? むしろ邪魔に思われそうだけど」

「そんなことないわよ。お姉ちゃん、貴方を気に入っているみたいだしね」

「……そうなの?」

「えぇ。さぁ、早く」
笑顔で走り出すこいしに手を引っぱられながらも、霊夢も慌てて足並みを合わせる。

境内においた湯飲みの表面に、静かに茶柱が浮いた。





「改めて、ようこそ地霊殿へ」
そう言った、こいしの顔は楽しげだった。

「まったく……本当なら、私は神社で一人ゆっくりするつもりだったんだけど?」

「たまには良いじゃない。もう一人の黒白の人間から聞いたわよ? いつも神社に居るけど仕事は
サボってるって」

「魔理沙……後できついお仕置きが必要ね」

地霊殿の扉を開けるとそこには大きく長い廊下が続いていた。

「お姉ちゃんー!」

大きく息を吸い込み叫ぶ。
屋敷全体に聞こえるかのように、暗い廊下に声が反響した。

その先でパタパタと人の歩くような音。

「あ、お姉ちゃん」
人影を見ると、こいしはその人影に向かって走り出す。

「あら、こいし帰ったのね。ん、そこにいるのはいつぞやの……」

暗い廊下の光から映ったのは、地霊殿の当主の姿。

「……そっか。貴方が居ると話しが早いわね」

「ふふっ、心からそう言ってくれる人間や妖怪は少ないのだけれど……まぁ、いいわ。入って」

そう言うとさとりは笑顔で霊夢を迎え入れた。

「なんか気持ち悪いわね」

「あら、どうしてかしら?」

「いや、昔来た時は敵意満々だったじゃない」

「いきなり、家に突っ込んでくる人を笑顔で迎えられるわけがないでしょう?」

「それは貴方の言うとおりだけど……」

「『笑顔で迎えてくれるとは思わなかったから、拍子抜けだった』ね。貴方は本当に言ってる事と
 思いが同じなのね」

「……貴方の能力は本当に楽でいいわ」

「………」

霊夢の言葉にさとりは難しい顔をした後、「こちらへ」とだけ言い、館内を案内する。

「……さっきからお姉ちゃんとばかり話してる」

「あら、こいし。嫉妬かしら? 地底の橋姫と仲良くなれるんじゃない?」

「む、そんなことないわよ」
頬を膨らませるこいしに霊夢達は苦笑するのだった。





「そこに座って」
指された椅子に座ると、さとりは奥へと下がってしまう。

「貴方のお姉ちゃんは何処へ行ったの?」

「あぁ、今日はお燐やおくうは灼熱地獄跡で怨霊の管理をしているから今はいないの。だから、
お茶を入れに行ったんじゃない?」

「そう。当主なのに大変なのね……」

「そうでもないわよ」
パタパタと歩く音と共にさとりが会話に入る。
手に持ったお盆を置くと、テーブルにお茶とお菓子が並んだ。

「元々ここにはあまり人が来ることはないしね。私を恐れて……」
さとりは心持ち沈んだように目を瞑る。

「ふーん……でも、私の知っているこういった屋敷にはお手伝いさんが沢山いるわよ? メイド長
とか言ってたもの」

「メイド長……さぞ大変なんでしょうね」
さとりは苦笑ながら持ってきたコップを手にした。

「ねぇ、メイドって何?」
お菓子を頬張りながら、さとりに訪ねるこいし。

「お手伝いさんの名称よ。そうね、確かに家にはそんなに大層なお手伝いさんはいないわね」
コト、と悲しい音を立ててコップがテーブルの上に置かれる。

「お燐やおくうが手伝ってくれるからねぇ……あとはお姉ちゃんがやってるし」

「当主なのに?」

「ペットの管理は当主の仕事でしょう?」

「いや、私が知っている当主って……」
難しい顔をしながら霊夢は、吸血鬼や月の姫を思い出す。

「……なるほど。『わがままな自己主張の強い人たちばかり』なのですね」

「そうそう。基本的に変な異変を起こす奴らばっかりよ」

「そう聞くとお姉ちゃんは大分違うね」

「そうね。そう考えると貴方は大分違うわ」

「……私は貴方の思い浮かべた人たちのように立派な当主ではないから」

「どういうこと?」
霊夢は頭に疑問符を浮かべる。

「私は誰からも恐れられている存在。だからここで大人しくしていなければいけないのよ」

「……その能力のせい?」

「そう。この第三の目で全てのものが見えてしまうから……」

――全てのものが見えてしまう。
それは分け隔てなく相手の思いが見えてしまうこと。
つまり、嘘偽りがこのさとりには通用しない。
口にするだけでもおぞましい力。

これが古明地 さとりの能力。
心を読む程度の能力だった。

「私はいつでも相手から恐れられてきたわ。必然的に私に関わってくる人も少なくなった」

「それが嫌だったから私は第三の目を閉ざしたんだけどね」
こいしはそう言って胸に巻き付いている第三の目を指さす。

「相手の心を見れることは確かに誰もが羨む能力かも知れない。ただ、それだけ嫌な部分も沢山見
ることがあるわ」

「……なるほどね」
霊夢は話しに、一頻り頷くと、「よし」と言って立ち上がった。

「次の宴会はここで開きましょう!」

「……え?」

声を大にしてそう言った霊夢の言葉を聞いてさとりたちは呆気にとられていた。

「はぁ……話しを聞いていたの? 私は誰からも恐れられているのよ? こんな所で宴会を開いて
も来るわけがないじゃない」

「まったく、そんなことばっかり考えてるからこんなに性格が根暗で広い館に誰もいないのよ! 
こんなに立派な屋敷に住んでいるのにもったいないじゃない!」

「でも……」

「いい案ね。お姉ちゃん、ここでやろうよ宴会!」

「もう、こいしまで……」

「その根暗な性格、私が叩き直してあげるわ! これは、異変よりたちが悪いかも知れないわね」
そう笑いながら言う霊夢やこいしに対して、さとりはどんどん気落ちしていく。

「もう、どうなっても知らないんだから……」
半ば呆れたように、さとりは大きくため息をつくのだった。





――気持ち悪い。

その言葉が頭の中に響き渡る。

「あの子、相手の心が読めるんですって……」

「いやねぇ、近づかないようにしましょう……」

そうやって何度も言われてきた言葉を思い出していた。

人と話しているだけで分かってしまう善悪。嘘偽り。

自分がもっとも嫌いなものをこの目で見られるようになってしまった。

――自分の能力が嫌い。

――この能力を捨てたい。

そう、何度も考えた。

でも、相手の気持ちが分かることは嫌なことばかりではなくて……。

"さとり様。大好き"

そう心から言ってくれる相手もいて。

結局、この能力は良いものなのか、悪いものなのか。

……自分の中でも分からずにいた。





「お姉ちゃんー!! 今日だよ! 宴会!!」
こいしは楽しそうにはね回りながら、宴会の準備をしていた。

「さとり様ー。これはどこに置けばいいですか?」
空やお燐もゾンビフェアリーを連れながら一緒に部屋の飾り付けを手伝う。

「そうね。じゃあ、そっちのテーブルに置いてもらえるかしら?」

「はーい、了解です」
パタパタと忙しなく館内を走り回る。

「今日……か」
さとりは内心不安に思いながら宴会の準備を進めていた。

大勢の人間や妖怪が来る。

それは、一斉に色んな心の声が聞こえると言うこと。

それが不安でしょうがなかった。

"気持ち悪い"

そんな声が聞こえたら……と。

「はぁ……」と、さとりは小さくため息をつくと、すぐにお燐が様子を伺う。

「さとり様? 大丈夫ですか?」

「……えぇ、大丈夫よ」

「顔色が良くないじゃないですか。部屋で寝ていてください」
そう言ってお燐はさとりの背中を押す。

"さとり様、大丈夫かなぁ……"

そう、心の声が聞こえた。

「ありがとうお燐。……ごめんなさい」

そう言って部屋に下がるさとりの表情は冴えないままだった。





――宴会開始十分前。

会場にはそれなりの人、妖怪が集まっていた。

霊夢は宴会会場を見ると満足げに頷いた。

「やっほー、お姉さん! 久しぶりだねぇ!」

「あぁ、例の異変以来かしら?」

「いや、あたいもここまで地霊殿に集まるとどいつから死体にすればいいか困っちゃうよー」

「今日は止めておきなさいよ……」
呆れた顔をしながら、お燐に突っ込む。

「お姉さん、どうやってここまで集めたんだい?」

「あぁ、ブン屋に頼んだのよ。新聞記者の天狗がいてね。そいつに」

「へぇ、お姉さんは顔が広いんだねぇ」

「できれば、これ以上は知り合いたくないけどね」
霊夢がため息をつきながらぼやくとお燐は大声で笑った。

「そう言えばさとりはどこ?」

「ん? さとり様かい? 何か顔色が優れないから部屋に戻したけど……」

「まったく、主催者がいないんじゃ始まらないでしょうが」

「元々、さとり様はあまり乗る気じゃなかったしねぇ。それにお姉さんがけしかけたんでしょ?」

「それでも、ここまでしているのに主催者が閉じこもってどうするのよ」

ズンズンと足音を立てながら、大股で歩いていく。

「さとり様は向こうの部屋だよー」

そんな、お燐の言葉を聞きながら霊夢はさとりを探すのだった。





部屋の前に立つと、霊夢は扉をノックしながら大声で呼ぶ。

「主催者が出てこないんじゃ宴会が始まらないわよー?」

パタパタと扉の向こうから足音が聞こえる。

「分かってる……分かってるのよ」

「……? さっさと扉を開けなさい。じゃないとぶっ壊すわよ?」

「貴方には聞こえてる? 皆の声が」

「ん? 何のこと?」

「みんな思っているわ"どうしてこんな所で宴会を開くんだ、博麗神社でいいじゃないか"って」

「………」

「さっきからそんな声ばかり聞こえる。本当はみんな無理をして来ているんじゃないかって」

「………っ」

「だから……」

「あぁ、もうっ! はっきりしないわね! 神霊……」

「……え? えぇ!?」
さとりの怯えたような声が扉越しから聞こえる。

霊夢の足場に陰陽玉の魔法陣がひかれ、辺りに虹色の玉が広がる――。


「『夢想封印』」


無数の玉が扉を目がけて飛んだ。

――――。

大きな音と共にどよめく声が宴会会場から上がる。

扉は無数の玉により跡形もなく消え去っていた。

「あ……」

その中から部屋にしゃがみ込むさとり見ると霊夢は話しかける。

「まったく、話しをするなら人の目を見て話しなさい」

「………」

「怪我はないでしょ? 大分弱めたもの」

「わ、私は……」

「貴方は心が読めるから良いけど、私には心を読める能力はないのよ。ちゃんと言葉にして私に分
かるように喋りなさい」

「……さっきから大勢の声が聞こえるのよ」

"何でこんな所でやるんだ?"

"まったく神社の方が行きやすいのに"

"ここの主って誰だっけ?"

"心が読める妖怪だってさ。霊夢もまた変なのと知り合いになったよなぁ"

「こんな不満の声ばかり聞こえてくる。それにこんなに人が来たのは初めてで私どうしたら……」

「はぁ、そんな事だろうと思ったわよ……」
霊夢はこめかみに手を押さえながらため息をつく。

「いい? 貴方は少し外に出て人と話すことに慣れなさい。ただでさえ、その第三の目で人の心
が読めるのよ? なおさら好都合じゃない。それを人に役立てることだって出来るでしょう?」

「でも、それは……」

それだけ、人の心が見えてしまう。
相手方の善悪が見えてしまう。
嘘偽りだって分かってしまう。
また人に……嫌われてしまう。

小さくなるさとりを見て、霊夢は笑顔をもらした。

「ふふっ、ここにはそんな奴らはいないわよ。だって"ここ"は……」



   ―――幻想郷―――



「……なんだよ? お姉ちゃん」

「こいし……」
こいしの後ろには霊夢が連れてきた大勢の人間、妖怪が集まっていた。

「少なくとも私の仲間内には貴方を嫌う奴なんかいないわよ」

「あ……」
瞳から一粒の涙が床にポタリと落ちた。

「さーて、主催者も出てきたことだし、宴会を始めましょう!」
霊夢の一言に皆が同調する。

「ほらいくわよ。主催者さん?」
そう言ってさとりに手を差し伸べる霊夢。

「……ありがとう」
差し伸べられた手を取り立ち上がる。

「ありがとう。ありがとう……」
何度も言葉を続ける。

「らしくもないわね。そんなに私に感謝する人も少ないわよ? そうね、言葉を返すなら……」

"貴方なら大丈夫。きっとその殻から抜け出せるから……"

さとりの顔からは今までに見たこともない笑顔が溢れていた。
新年あけましておめでとうございます。
そして、初めまして飛燕と言います。
たびたび、ここの掲示板では色んな作品を拝見させていただいたのですが、
読ませてもらってばかりでは悪いので自分の方からも投稿をしてみました。
今回のお話は地霊殿extra後のアナザーストーリーとなっています。
さとりのキャラが大分変わってしまった事には反省しています。はい。
ご意見、ご感想、ご指摘などしてもらえたらと思います。
今後もよろしくお願いします。

そして、最後まで読んでくださった皆様に心より感謝申し上げます。
飛燕
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コメント



0.1660簡易評価
3.70煉獄削除
私はこんなさとり様も好きですよ。
霊夢の行動がなんとも直球ですけど、それが霊夢らしい。
これからのさとり様にはまた違った変化があるのでしょうね。
面白いお話でした。
10.70名前が無い程度の能力削除
優しいお話でした。
11.100名前が無い程度の能力削除
古明地姉妹は温かい話が似合うなぁ
霊夢さんの優しさもらしくて良し
19.70名前が無い程度の能力削除
良かった良かった。
宴会の描写も少し欲しかったかもだけど。
23.80名前が無い程度の能力削除
>少なくとも私の仲間内には貴方を嫌う奴なんかいないわよ

とありますけど、やっぱり紫辺りはどうしても避けるでしょうね。
なのでここの部分だけは、うーん…と思いました。
エピソードがあればいいのですが、まあそれだと冗長になりますねw
でも話自体は温かく心にくるものがありました。素直に良かったと言える話でした
30.無評価飛燕削除
読んでくれた皆様、評価してくださった皆様、本当にありがとうございます。
これからもここで投稿していきたいと思いますので宜しくお願いします。