はじめまして。突如電波を受信し書きなぐってみました。一応注意書きをつけておきます。
・死にネタ注意
・独自解釈あり
・ありえない事象あり
以上、思いつく限り。それでもいいという心の広い方はどうぞ
満月が見える
昔の自分が居た場所
今の自分では届くことの無い場所
私の瞳はもう狂気を呼ぶことも出来ない
月の兎の力のほとんどを失って久しい
もとより限りある命
力が衰退してゆくのは自明のこと
だからなのか。もう取り戻すことのできない過去を思いつつ
狂おしいまでに輝き、人を狂気に誘う月を私はただ見つめていた。
月の兎は何を見るか
「おめでとう鈴仙。これで免許皆伝よ」
ある日唐突に師の八意永琳から告げられたのは、あの博麗霊夢が巫女の座を次代に受け渡した直後だったろうか。
蓬莱の薬の亜種、寿命以外のあらゆる病を無効化する薬を調合して私が服用し、その効果が間違いも無く本物であ
ることを確かめた私の師匠の言葉だった。
その日から私は師匠からウドンゲとは呼ばれなくなった。ただ鈴仙と愛情――もちろん師弟としての――だけでは
なく確かな信頼を感じる声で呼ばれるようになり、私も師匠ではなく永琳さん――本人は永琳と呼べと言っていた
が――と呼ぶことになった。
しばらくは永遠亭で永琳さんの助手をしていたが、永遠亭が里から遠いがために、急患の中には藤原妹紅の護衛が
あっても間に合わないことがあった。
そこで、私は独立し里で小さな診療所を開くことにした。師匠も・・・いけない永琳さんも賛成してくれた。
里の守護者の上白沢慧音に頼み込み小さな小屋を借りて診療所とした。渋られるかと思ったがすんなり受け入れて
くれたため拍子抜けしたものだ。本人曰く『里のためになることに躊躇する理由はないし、お前が人間に危害を加
えることは無いと思う。これでも人を見る目は確かなんだ』とのこと。なんだかむず痒い気持ちになったのも懐か
しい話だ。
それから、私は診療所で初期の治療や薬で治せる範囲のものの治療に。どうしても専門の設備が必要なときは応急
処置をこちらでしてから永遠亭へという流れが出来上がった。
それから十年ほどたったある日、突如ある病が流行った。外の世界でインフルエンザと呼ばれていた病だ。その強
大な感染力と、すぐに自らの構造を変えてしまう特性――ほんとは1日2日で変わるはずは無いが、幻想郷に入った
時に何らかの干渉があったのではないかと考えられる――のせいで里でも多くの人が罹患した。
私は永琳さんに救援を要請しワクチンと抗生物質の調合に取り掛かった。間に合った人も居たが、間に合わなかった
人も居た。特に体力のない子供や老人がパタパタと死んでいった。
『お前がもっとがんばれば!』
『うちの子を返して・・・』
『ほんとはお前の仕業じゃないのか!?』
飛び交う罵詈雑言の嵐。私は助けられなかった人の家族達からの抗議に耐え切れなかった。永琳さんはやはり何も言
わずただただ耐えていた。今思えば彼女はその長い生故に、失った人の苦しみを理解できたのかも知れない。
慧音も押さえることが出来ない抗議の中、それを沈めたのは里長の一喝だった。
「お前ら!いい加減にせんか!!」
齢60を超え猶壮健な男性は騒ぐ里の人々をにらみつけ言った。
「お前らは先生方がどんだけ苦労して走りまわったか判るか!わしは見とった。朝も夜も一睡もせずに薬を作って走
り回って、また薬を作って。お前らの中に何人世話になったやつが居る!それも考えずに自分達のことばかり・・・
恥を知れ!!!」
思わず涙が出た。助けられなかったのは私なのに、里長の孫娘も同じ病で死んだのに、私を責めてもいいはずなのに・・・。
里のみんなが静かにうつむく。里長は私に向き直って言った。
「お前さんが助けられなかったもんも確かに居るが、ここに居るもんは確かにお前さんのおかげで生きとるんじゃ。
自分を責めんでくれ。そして良かったらまた里の皆を助けてやってくれ」
言葉が出なかった。こんな私を認めてくれる、こんな私に期待してくれるのかと。何も言えない私の所に小さな子供
が来た。忘れもしない私が助けることが出来た娘の一人だ。
「お姉ちゃん。お薬苦かったけど我慢して飲んだら治ったの。お姉ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
ポロポロと今度こそ私は泣いた。助けられなかった人も居た。けど助けられた人も居た。私を許さない人も居るけれど
私を認めてくれる人も居る。この時私は誓った。この身の限り彼らを病から守ろうと。助けられる限り助け続けようと。
それからもいろんなことがあった。『初孫が生まれるから産婆をしろ!』と霊夢に引きずられて行ったこともあった。
――そのときから今代の巫女にいたるまで博麗の巫女は全て私が取り上げた――
人間から魔法使いに鞍替えした魔理沙は怪我のほとんどを私から強奪した薬で治している。――チクショウジブンデツクレルダロウ!!!
などと思ったのもいい思い・・・思・・・いや無理だ悔しいのは間違いない。
十六夜咲夜に“最後の一瞬まで仕事を続けられる薬”などというものを処方したこともある。
閻魔に『やっとあの時の言葉の意味がわかりましたね』と言われたこともあった。
里の若い獣人に求婚されたこともあった。
七曜の魔女の喘息薬や、吸血鬼の妹を正気にする薬を調合させられたことも・・・まぁいい思い出だ。
いつの間にか弟子が出来、永琳さんに少しでも追いつこうと必死で自らの業を伝えた。
他にも他にも・・・
そして時は過ぎ、人は死んでいった。人を止めた者も居た。人で無くとも死んでいった者も居た。
そして・・・
今度は私の番
いかに私が月の兎とは言え、蓬莱のものでない以上寿命はある。もはや目は霞み、手も顔も皺だらけ。慧音はさ
すがに神獣の力を持つ獣人だからかまだ元気ではあるが、いくら“月の”という言葉がついても私は兎の獣人そこ
まで強固な肉体は持っていない。てゐの様に完全に妖怪化するには少々人間になじみすぎた。
私はもうじき死ぬ。
長いこと医者をやってきたせいだろう。自分の死期もはっきり見えた。今夜の晩日付が変わる頃に私は死ぬ。
冥界との境もいつの間にかしっかり修復されているので、生者と死者が合間見えることは無い。
自分の死期がわかってから、あっちこっちに挨拶に行った。
博麗神社に行くと今代の巫女が深々と礼をして『出来れば自分の子も取り上げてほしかったけど』と言ってくれた。
・・・・良かったな、アイツに似なくて。
魔法の森の前の古道具屋では店主とその妻がいろいろ持たせてくれた。しかし、茸尽くしなのはどうにかならない
のか。
紅魔館では主が自ら挨拶に現れた。妹と親友の薬についてことさらに礼を言われた。門番の美鈴は眠っていたが、
こちらが帰るときにはしっかり礼をしていた。どうも寝てても周囲のことははっきりわかっているらしい。そうい
えばと、彼女に当分の間の傷薬などを渡して帰った。
里の守護者は『次は私の番かな』などとのたまっていたが、大丈夫彼女は最低でもまだ100位はいけるだろう。
いつの間にか増えていた知り合いに、出来る限り挨拶をして回った。
里の人々も相次いで挨拶に来てくれた。『今までありがとう』と言われるたびに目頭が熱くなったのは齢故にだろ
うか。
いくつかの場所を周り、多くの人に挨拶をしたが、
どうしても会えなかった人が一人・・・
「先生」
その言葉で私は目を覚ました。どうも眠ってしまったらしい。
「先生、お加減はどうでしょうか」
私の最後の弟子となる少年だ。もう免許皆伝と言える実力を持っているが、彼がまだここに残ると言い、私の方も
最近は連続の徹夜などは出来なくなっているのでその好意に甘えることにしていた。
「ええ、大丈夫。もうそろそろ、お迎えの時間、みたいね」
身を起こそうとして出来なかった。言葉を一息に言えなくなっていた。そのことで私は自分の死期を再確認した。
「そのようです」
どこまでも真面目なその態度が面白く意地悪を言ってみる。
「あら、こういう時は、『そんなことは、ありません』、とか言うものでは、ないのかしら?」
「自分の死期を僕以上に理解している先生にその言葉は意味が無いでしょう」
「それでもよ」
真摯な少年の態度を好ましく思いながらも先を続ける。
「私が、死んだ後の、ことは以前、言った通りにね」
「はい」
「何か用事は、あるかしら?」
「いいえ、何かお持ちする物はありますか?」
「いいえ、お願いが一つ」
「はい」
「明日の朝まで、この家には、誰も、入らないように、診療は他の弟子に、任せるから」
最後の私のわがままを・・・
「はい。ではそのように」
「ええ」
弟子に頼み・・・
「今まで、お疲れ様でした」
「ありがとう」
私は一人・・・
「あなたもこれから頑張ってね」
「はい」
死を迎える。
れ・・せん・・・
鈴仙・・・
私を呼ぶ声が聞こえて目を開けると、
「おはよう鈴仙。といってももう夜中だけど」
私が最後まで会えなかった人が縁側に、月明かりを背に立っていた。
「永琳さん・・・」
永琳さんに運んでもらい縁側に座る。
二人で月を見てお茶を飲んだ。
「こうやって二人で話をするのはいつ以来かしら?」
永琳さんが問い
「もうかなり、前ですね。確か早苗さん、が現人神から、完全に神に、移った頃だった、かと」
私が答える
そんな静かなやり取りが続き、突如永琳さんがこちらをまっすぐに見つめた。心なしか悲しそうな瞳で問うてきた。
「なぜ、姫やてゐには会って私には会いに来てくれなかったの?」
いつか来ると思っていた質問。私はポツリポツリと答え始める
「なぜでしょうね、自分の師より、早く死んでしまう、ことに罪悪感が、ありました。だから、どうしても、会え
なかった。時間をずらして、会わないように、ハハ、駄目ですね、もう、全然成長しない、あの時の、臆病者のま
ま、です」
それは、私が悪いわけではないのだろう。それでも私は、そう思わずには入れなかった。
「そう。やっぱりね」
「どうしました?」
「何となくそんな気はしていたの。あなたは真面目だから。でもね、鈴仙、貴女はそんなこと気にするかも知れな
いけれど、私はあなたが会いに来てくれないことのほうが辛かった」
だから、会いに来ちゃったんだけどと悪戯っぽく笑う永琳さん。彼女に私は言った。
「私は、貴女に、迷惑ばかり掛けて、きました」
「そうかしら?」
「そうですよ。最初から、最後も、こうして」
「ふふ、でもねウドンゲ」
「・・・え」
あの時、免許皆伝の頃から呼ばれなくなった懐かしい呼び名で彼女に呼ばれた。
「あなたは多くの人を助けた」
「自分の業を次代へ伝える為に奮戦した」
「この際に立っても自らの行いに後悔無く・・・とは行かないみたいだけど、それでも自分のやれることを全うした」
「誇りなさい。貴女はこの八意永琳の最高の弟子よ」
綺麗な笑顔で彼女はそう言ってくれた。
そして、最後のときが来た。
「師匠、お願い、良いですか?」
「何かしら?」
「膝枕、してもらえますか」
「あらあら、ウドンゲは甘えん坊ね」
「すいません」
「いいわよ。いらっしゃい」
ストンと頭が師匠のひざの上に納まった。
師匠は髪をなでてくれている。
「ウドンゲ、私達蓬莱人は貴女が輪廻の輪をくぐる間も生き続ける」
もう声も出せない
「だから、待って居るわ。また会うときを」
意識も消えかけて
「だから、」
私は・・・
「またね」
死んだ。
side eirin
「ウドンゲ?」
そう、逝ったのね。
ほんとに師匠不幸な娘ね。
でもね、さっき言ったことは本当よ。
貴女は間違えなく私にとって最高の弟子だったのよ。
side out
私は最後の一瞬にある光景を見た。姿は違うが確かに“ワタシ”が師匠と共に日々を生きるその姿を。
それは狂気を誘う月が見せた幻覚かも知れない。
だけど私は確信した。
それは決して夢物語ではない。
確かな未来をなのだと・・・・
・死にネタ注意
・独自解釈あり
・ありえない事象あり
以上、思いつく限り。それでもいいという心の広い方はどうぞ
満月が見える
昔の自分が居た場所
今の自分では届くことの無い場所
私の瞳はもう狂気を呼ぶことも出来ない
月の兎の力のほとんどを失って久しい
もとより限りある命
力が衰退してゆくのは自明のこと
だからなのか。もう取り戻すことのできない過去を思いつつ
狂おしいまでに輝き、人を狂気に誘う月を私はただ見つめていた。
月の兎は何を見るか
「おめでとう鈴仙。これで免許皆伝よ」
ある日唐突に師の八意永琳から告げられたのは、あの博麗霊夢が巫女の座を次代に受け渡した直後だったろうか。
蓬莱の薬の亜種、寿命以外のあらゆる病を無効化する薬を調合して私が服用し、その効果が間違いも無く本物であ
ることを確かめた私の師匠の言葉だった。
その日から私は師匠からウドンゲとは呼ばれなくなった。ただ鈴仙と愛情――もちろん師弟としての――だけでは
なく確かな信頼を感じる声で呼ばれるようになり、私も師匠ではなく永琳さん――本人は永琳と呼べと言っていた
が――と呼ぶことになった。
しばらくは永遠亭で永琳さんの助手をしていたが、永遠亭が里から遠いがために、急患の中には藤原妹紅の護衛が
あっても間に合わないことがあった。
そこで、私は独立し里で小さな診療所を開くことにした。師匠も・・・いけない永琳さんも賛成してくれた。
里の守護者の上白沢慧音に頼み込み小さな小屋を借りて診療所とした。渋られるかと思ったがすんなり受け入れて
くれたため拍子抜けしたものだ。本人曰く『里のためになることに躊躇する理由はないし、お前が人間に危害を加
えることは無いと思う。これでも人を見る目は確かなんだ』とのこと。なんだかむず痒い気持ちになったのも懐か
しい話だ。
それから、私は診療所で初期の治療や薬で治せる範囲のものの治療に。どうしても専門の設備が必要なときは応急
処置をこちらでしてから永遠亭へという流れが出来上がった。
それから十年ほどたったある日、突如ある病が流行った。外の世界でインフルエンザと呼ばれていた病だ。その強
大な感染力と、すぐに自らの構造を変えてしまう特性――ほんとは1日2日で変わるはずは無いが、幻想郷に入った
時に何らかの干渉があったのではないかと考えられる――のせいで里でも多くの人が罹患した。
私は永琳さんに救援を要請しワクチンと抗生物質の調合に取り掛かった。間に合った人も居たが、間に合わなかった
人も居た。特に体力のない子供や老人がパタパタと死んでいった。
『お前がもっとがんばれば!』
『うちの子を返して・・・』
『ほんとはお前の仕業じゃないのか!?』
飛び交う罵詈雑言の嵐。私は助けられなかった人の家族達からの抗議に耐え切れなかった。永琳さんはやはり何も言
わずただただ耐えていた。今思えば彼女はその長い生故に、失った人の苦しみを理解できたのかも知れない。
慧音も押さえることが出来ない抗議の中、それを沈めたのは里長の一喝だった。
「お前ら!いい加減にせんか!!」
齢60を超え猶壮健な男性は騒ぐ里の人々をにらみつけ言った。
「お前らは先生方がどんだけ苦労して走りまわったか判るか!わしは見とった。朝も夜も一睡もせずに薬を作って走
り回って、また薬を作って。お前らの中に何人世話になったやつが居る!それも考えずに自分達のことばかり・・・
恥を知れ!!!」
思わず涙が出た。助けられなかったのは私なのに、里長の孫娘も同じ病で死んだのに、私を責めてもいいはずなのに・・・。
里のみんなが静かにうつむく。里長は私に向き直って言った。
「お前さんが助けられなかったもんも確かに居るが、ここに居るもんは確かにお前さんのおかげで生きとるんじゃ。
自分を責めんでくれ。そして良かったらまた里の皆を助けてやってくれ」
言葉が出なかった。こんな私を認めてくれる、こんな私に期待してくれるのかと。何も言えない私の所に小さな子供
が来た。忘れもしない私が助けることが出来た娘の一人だ。
「お姉ちゃん。お薬苦かったけど我慢して飲んだら治ったの。お姉ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
ポロポロと今度こそ私は泣いた。助けられなかった人も居た。けど助けられた人も居た。私を許さない人も居るけれど
私を認めてくれる人も居る。この時私は誓った。この身の限り彼らを病から守ろうと。助けられる限り助け続けようと。
それからもいろんなことがあった。『初孫が生まれるから産婆をしろ!』と霊夢に引きずられて行ったこともあった。
――そのときから今代の巫女にいたるまで博麗の巫女は全て私が取り上げた――
人間から魔法使いに鞍替えした魔理沙は怪我のほとんどを私から強奪した薬で治している。――チクショウジブンデツクレルダロウ!!!
などと思ったのもいい思い・・・思・・・いや無理だ悔しいのは間違いない。
十六夜咲夜に“最後の一瞬まで仕事を続けられる薬”などというものを処方したこともある。
閻魔に『やっとあの時の言葉の意味がわかりましたね』と言われたこともあった。
里の若い獣人に求婚されたこともあった。
七曜の魔女の喘息薬や、吸血鬼の妹を正気にする薬を調合させられたことも・・・まぁいい思い出だ。
いつの間にか弟子が出来、永琳さんに少しでも追いつこうと必死で自らの業を伝えた。
他にも他にも・・・
そして時は過ぎ、人は死んでいった。人を止めた者も居た。人で無くとも死んでいった者も居た。
そして・・・
今度は私の番
いかに私が月の兎とは言え、蓬莱のものでない以上寿命はある。もはや目は霞み、手も顔も皺だらけ。慧音はさ
すがに神獣の力を持つ獣人だからかまだ元気ではあるが、いくら“月の”という言葉がついても私は兎の獣人そこ
まで強固な肉体は持っていない。てゐの様に完全に妖怪化するには少々人間になじみすぎた。
私はもうじき死ぬ。
長いこと医者をやってきたせいだろう。自分の死期もはっきり見えた。今夜の晩日付が変わる頃に私は死ぬ。
冥界との境もいつの間にかしっかり修復されているので、生者と死者が合間見えることは無い。
自分の死期がわかってから、あっちこっちに挨拶に行った。
博麗神社に行くと今代の巫女が深々と礼をして『出来れば自分の子も取り上げてほしかったけど』と言ってくれた。
・・・・良かったな、アイツに似なくて。
魔法の森の前の古道具屋では店主とその妻がいろいろ持たせてくれた。しかし、茸尽くしなのはどうにかならない
のか。
紅魔館では主が自ら挨拶に現れた。妹と親友の薬についてことさらに礼を言われた。門番の美鈴は眠っていたが、
こちらが帰るときにはしっかり礼をしていた。どうも寝てても周囲のことははっきりわかっているらしい。そうい
えばと、彼女に当分の間の傷薬などを渡して帰った。
里の守護者は『次は私の番かな』などとのたまっていたが、大丈夫彼女は最低でもまだ100位はいけるだろう。
いつの間にか増えていた知り合いに、出来る限り挨拶をして回った。
里の人々も相次いで挨拶に来てくれた。『今までありがとう』と言われるたびに目頭が熱くなったのは齢故にだろ
うか。
いくつかの場所を周り、多くの人に挨拶をしたが、
どうしても会えなかった人が一人・・・
「先生」
その言葉で私は目を覚ました。どうも眠ってしまったらしい。
「先生、お加減はどうでしょうか」
私の最後の弟子となる少年だ。もう免許皆伝と言える実力を持っているが、彼がまだここに残ると言い、私の方も
最近は連続の徹夜などは出来なくなっているのでその好意に甘えることにしていた。
「ええ、大丈夫。もうそろそろ、お迎えの時間、みたいね」
身を起こそうとして出来なかった。言葉を一息に言えなくなっていた。そのことで私は自分の死期を再確認した。
「そのようです」
どこまでも真面目なその態度が面白く意地悪を言ってみる。
「あら、こういう時は、『そんなことは、ありません』、とか言うものでは、ないのかしら?」
「自分の死期を僕以上に理解している先生にその言葉は意味が無いでしょう」
「それでもよ」
真摯な少年の態度を好ましく思いながらも先を続ける。
「私が、死んだ後の、ことは以前、言った通りにね」
「はい」
「何か用事は、あるかしら?」
「いいえ、何かお持ちする物はありますか?」
「いいえ、お願いが一つ」
「はい」
「明日の朝まで、この家には、誰も、入らないように、診療は他の弟子に、任せるから」
最後の私のわがままを・・・
「はい。ではそのように」
「ええ」
弟子に頼み・・・
「今まで、お疲れ様でした」
「ありがとう」
私は一人・・・
「あなたもこれから頑張ってね」
「はい」
死を迎える。
れ・・せん・・・
鈴仙・・・
私を呼ぶ声が聞こえて目を開けると、
「おはよう鈴仙。といってももう夜中だけど」
私が最後まで会えなかった人が縁側に、月明かりを背に立っていた。
「永琳さん・・・」
永琳さんに運んでもらい縁側に座る。
二人で月を見てお茶を飲んだ。
「こうやって二人で話をするのはいつ以来かしら?」
永琳さんが問い
「もうかなり、前ですね。確か早苗さん、が現人神から、完全に神に、移った頃だった、かと」
私が答える
そんな静かなやり取りが続き、突如永琳さんがこちらをまっすぐに見つめた。心なしか悲しそうな瞳で問うてきた。
「なぜ、姫やてゐには会って私には会いに来てくれなかったの?」
いつか来ると思っていた質問。私はポツリポツリと答え始める
「なぜでしょうね、自分の師より、早く死んでしまう、ことに罪悪感が、ありました。だから、どうしても、会え
なかった。時間をずらして、会わないように、ハハ、駄目ですね、もう、全然成長しない、あの時の、臆病者のま
ま、です」
それは、私が悪いわけではないのだろう。それでも私は、そう思わずには入れなかった。
「そう。やっぱりね」
「どうしました?」
「何となくそんな気はしていたの。あなたは真面目だから。でもね、鈴仙、貴女はそんなこと気にするかも知れな
いけれど、私はあなたが会いに来てくれないことのほうが辛かった」
だから、会いに来ちゃったんだけどと悪戯っぽく笑う永琳さん。彼女に私は言った。
「私は、貴女に、迷惑ばかり掛けて、きました」
「そうかしら?」
「そうですよ。最初から、最後も、こうして」
「ふふ、でもねウドンゲ」
「・・・え」
あの時、免許皆伝の頃から呼ばれなくなった懐かしい呼び名で彼女に呼ばれた。
「あなたは多くの人を助けた」
「自分の業を次代へ伝える為に奮戦した」
「この際に立っても自らの行いに後悔無く・・・とは行かないみたいだけど、それでも自分のやれることを全うした」
「誇りなさい。貴女はこの八意永琳の最高の弟子よ」
綺麗な笑顔で彼女はそう言ってくれた。
そして、最後のときが来た。
「師匠、お願い、良いですか?」
「何かしら?」
「膝枕、してもらえますか」
「あらあら、ウドンゲは甘えん坊ね」
「すいません」
「いいわよ。いらっしゃい」
ストンと頭が師匠のひざの上に納まった。
師匠は髪をなでてくれている。
「ウドンゲ、私達蓬莱人は貴女が輪廻の輪をくぐる間も生き続ける」
もう声も出せない
「だから、待って居るわ。また会うときを」
意識も消えかけて
「だから、」
私は・・・
「またね」
死んだ。
side eirin
「ウドンゲ?」
そう、逝ったのね。
ほんとに師匠不幸な娘ね。
でもね、さっき言ったことは本当よ。
貴女は間違えなく私にとって最高の弟子だったのよ。
side out
私は最後の一瞬にある光景を見た。姿は違うが確かに“ワタシ”が師匠と共に日々を生きるその姿を。
それは狂気を誘う月が見せた幻覚かも知れない。
だけど私は確信した。
それは決して夢物語ではない。
確かな未来をなのだと・・・・
悲壮感のない、良い死に様だと思います。
鈴仙にとっては良き人生であったのでしょうか。
良い話でした。
それでも話の質を損なわせるようなわけではなく、心地のよさだけに作用するような感じです。
優しい作品でした。
これって誤字ですかね。
内容のほうはとてもしっくりきて、良い感じでした。
GJ!こんなSSを待っていました
ただ月の兎は獣人じゃないのでは?
いつの日か転生した優曇華が、ふたたび永琳に出会うところまで幻視しました
これ以上無い、綺麗な死に方だったかと。
里の長が優しくていいです。そういう人になりたいです。
関係ないですが霖之助は魔理沙と結婚しましたか。
重くなくてとてもいいです。