Coolier - 新生・東方創想話

ホワイトクリスマス

2008/12/22 22:16:30
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「綺麗……」

 目の前に広がる美しい光景に、アリス・マーガトロイドは思わず言葉を漏らした。
 朝、ベッドに一番近い窓のカーテンを開けた時に、眩しい光と共に瞳に入ってきたのは、一点の穢れも無い、白銀の世界だった。
 秋が終わりを告げ、美しかった紅葉も色褪せ、くすんだ褐色の世界だった昨日までの魔法の森。
 しかし今日は違う。
 白い化粧を施したように、魔法の森は白く、そして鮮やかに変化していた。
 この世に生を受けてから、窓の外の世界が一夜にして白くなっていたことは何度目のことであるかは分からなかったが、それを「美しい」と思う感情は、アリスの中で色褪せてはいなかった。
 アリスは窓を開き、しばらく目の前の景色を堪能していた。
 白い衣を身にまとったかのような森。白い空からしんしんと降り続ける雪。そして、音を無くしたかのように静かな世界。
 冬の与える理由の無い美しさに、彼女は陶酔していた。
 やがて、自分の吐く息が白いことと、未だ自分が寝巻きのままである事に気付いて、窓を閉めた。
「冷えるわね……」
 家の中ですら吐く息が白いほど、室温が下がっていたので、アリスは暖炉に向かって手の平を向け、火を起こした。
 勢いよく暖炉に火がつき、パチパチと音を立てた。
 それを確認したアリスはとりあえず、紅茶を飲むために湯を沸かす事にした。
 キッチンで火を起こす簡単な魔法を唱え、湯を沸かす。その間に紅茶の葉とティーポット、そして愛用のティーカップを用意した。
 そして、出来た紅茶をひと口だけ啜ってテーブルの上に置く。
 ベッドの横のクローゼットを開け、いつも着ている服よりも装飾の多い、薄い黄色と白色を基調としたドレスを取り出す。
 寝巻きを脱ぎ、ベッドの上に放り出し、ドレスに体を通す。
 主張しすぎない色のドレスは、アリスの肌の白さを強調し、彼女の美しさをより際立たせていた。
 姿見でドレスがよく自分に似合っていることを確認する。
「うん、かわいい♥」
 アリスは嬉しそうな表情でテーブルの席に着き、残っている紅茶をまたひと口啜るのだった。

 彼女がいつもの格好ではなく、珍しくドレスを着ているのには訳があった。
 実は今日は、これから魔理沙の家でクリスマスパーティーをすることになっていたのだ。
 魔理沙の家で午前11時に集まり、魔理沙、アリス、パチュリー、そしてにとりの4人でパーティーの予定である。
「♪~~♪~~」
 アリスは鼻歌を歌いながら、上海人形と蓬莱人形を起動させ、
「研究室から私のコートを持ってきて。あとグリモワールもね」
 そう命じた。
 移動した二体の人形は、アリスの声にコクンと頷くと、そのまま彼女の研究室の方へとふわふわと飛んで行った。
「そう言えば、今何時かしら」
 アリスは自分が起きてから時計を確認していない事に気付いた。
 雪が降っていたことに気を取られ、時間のことを忘れていたのだった。
 アリスは自分でもうっかりしていたと思いつつ、ベッドの横の鏡台に置いてある懐中時計を手に取り、時間を確かめた。
「……あ」
 現在時刻を確かめたアリスは、反射的に間抜けな声を上げていた。
「ええと、約束の時間は11時で、現在時刻は10時55分……」
 一瞬己の目を疑い、口に出して反芻してみるが、
「……まずい! 遅刻……!」
 約束の11時まではあと5分という結果は変わらないのだった。
 アリスは急いで鏡台の前の椅子に座り、髪の毛を整える。
 そしていつも付けている愛用のカチューシャをつける。
 それと同時に上海人形と蓬莱人形が、アリスのコートとグリモワールを二体で分担して運んできた。
「ありがとう。ちょっと時間無いから、急ぐわよ!」
 アリスは上海人形が持っていたコートを受け取るとすぐに着て、蓬莱人形の持っていたグリモワールを左手に抱えると、急ぎ足で家を出た。
 そして、上海人形と蓬莱人形が彼女に続いて家から出るのを確認すると、玄関の鍵に施錠した。
「ああもうなんだって今日に限って――!」
 そんなことを愚痴る。そうして、慌しくも霧雨邸へ向かうべく、アリスは雪の舞う白銀の世界の中へ飛び立ったのだった。





 霧雨邸の玄関のドアの正面に降り立ったアリスは、コートのポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認した。
 時計の針は、ちょうど午前11時を示していた。
 大幅に遅刻しなかった事にアリスは安堵すると、魔理沙の家のドアを数回叩いた。
「魔理沙、私よ」
 普段喋るのよりも、若干大きな声でドアに向かってそう言うと、数秒間を置いて家の中から、
「アリスかぁー?」
 という霧雨魔理沙の明るい声が聞こえた。
 ガチャリ、という音と共に玄関の鍵が内側から解除され、玄関のドアがゆっくりと開いた。
 中から魔理沙が顔をひょっこり覗かせる。魔理沙はいつも被っている帽子を被ってはいないものの、黒いドレスに白いエプロンという、いつもの格好であった。
「もうパチュリーもにとりも来てるぜ。今日はめかすのに時間がかかったのか?」
 魔理沙はアリスがコートの下にいつもと違う服装であることを察知すると、少し意地悪そうに笑いながら、そんなことをアリスに言ってきた。
「あーら。この間私の家に集まった時、2時間も遅刻してきたのは誰だったかしらねぇ?」
 いつもの魔理沙の様子に、アリスも少々意地が悪そうに、半眼で笑いながら返した。
「過去ばかり振り返ってると、すぐに年を取るぜ?」
「疑問系を疑問系で返さないの」
 言葉遊びとも取れる、他愛の無いやり取りをしながら、二人は家の中に入った。
 アリスは玄関でコートだけ脱いでドアの外に出し、霧雨邸まで来る時にコートに付いてしまった雪を払った。
「それにしてもそのドレス、よくアリスに似合ってるなぁ」
「あら、お世辞かしら?」
 魔理沙の珍しい賞賛の言葉に、アリスは内心嬉しく思いつつも、皮肉っぽく返した。
「いーや、世辞じゃない。普通に綺麗だぜ」
「ふふ、ありがと」
 魔理沙の言葉はどうやら本心からの言葉らしい、と悟ったアリスは、今度は微笑みながらそう返した。
 
「こんにちは、遅かったわね」
 アリスが魔理沙の後に続いて霧雨邸のリビングに入ると、円形の大きなテーブルの席に既に着いていたパチュリーが口を開いた。
 彼女もいつも通りの格好であったので、アリスはなんだか拍子抜けしてしまった。
 いつもと違う格好だったのは自分だけか、と思ってしまったからだ。
 しかし、その考えはすぐに河童の格好によって否定された。
「やっほう~」
 パチュリーと向かい合うようにテーブルの席についていたにとりが、軽快な声でアリスに向かって手を振った。
 見るとにとりもまた、アリス同様にいつもとは違う服装だった。にとりはいつもの服装の上に、暖かそうな薄緑色のセーターを着ており、愛くるしい外見と相まって、今日の彼女はより可愛らしく見えた。セーターの真ん中には、青いフェルトでできたアルファベットで『NITORI』と書かれていた。手作り感が溢れているのがなんとも彼女らしい、とアリスは思った。
「二人ともこんにちは。遅れて済まなかったわ」
 アリスは二人に挨拶すると、手に持っていたコートを椅子の背もたれの部分に掛けた。
 そして、今まで魔力で操っていた上海人形と蓬莱人形の魔力供給を中断し、機能を停止させた。
「魔理沙、ちょっとこの椅子借りるわよ」
「ああ」
 アリスはグリモワールと人形二体をリビングの隅に置いてある椅子の上に置くと、パチュリーたちの座っているテーブルの席に着いた。
「さて、それじゃあ揃ったことだし、始めますかね」
 一人だけ席に着かず、キッチンの方からシャンパンを持ってきた魔理沙はそう言うと、手の平をテーブルの方へ向けた。すると、テーブルに4つのグラスが現れた。
 魔理沙はそれらにシャンパンを注ぎ、三人に手渡した。
「ありがとう」
「ありがと」
「ありがとっ!」
 三者三様の感謝の気持ちを魔理沙に伝えると、彼女は満足そうに空いている自分の席に着いた。
「じゃあとりあえず、乾杯しましょうか」
「そうだな」
 パチュリーの提案に、魔理沙が同意する。アリスとにとりもコクンと首を縦に振る。
「それじゃ、皆グラスを持ったな?」
 魔理沙が確認を取ると、皆がシャンパンの入った各々のグラスを手に取る。
「それじゃ改めて。メリークリスマース!」
 魔理沙の言葉に続いて、三人分のメリークリスマース! という声が霧雨邸に響いた。それに続いて、霧雨邸からはカチンカチンとグラスを合わせる音が聞こえてくるのだった。

 少人数だけれども、賑やかで楽しい今年のクリスマスは、きっと彼女たちに楽しいひと時をプレゼントしてくれるだろう。
 彼女たちのホワイトクリスマスは、まだ始まったばかりなのであった。



――しかし、彼女のいない作者のクリスマスは、始まる前から終わっていたのであった。





 こちらでは初めまして。Takuと申します。
 クリスマスも近いので、こんな小説を書いてみました。
 地霊殿の魔理沙組でクリスマスパーティーという設定でした。
 アリスに焦点を当てた所為で、他三人が影薄いことになってしまいましたが……。
 あと、服の描写が難しかったです。自分の力の至らなさをまたしても痛感することに……。
 そこら辺はこれから精進するとして、今回の話で少しでも皆様に楽しんで頂けたら幸いです。
 サイトへはお気軽にどうぞ~。

※アリスの「うん、かわいい♥」という台詞は、東方文花帖(書籍)の藤原俊一さんの漫画のパロディであることを記しておきます。
Taku
http://3ehorloge.web.fc2.com/
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コメント



0.750簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
短かったですが、全体としては悪くなかったです。

最後のあとがきについて

………………どんまい
4.80煉獄削除
うん、個人的にはもう少し続いて欲しかったかな~。
パーティーの内容とかね?
きっと楽しくなっていただろうし。
話は面白かったですよ。

あと、これは実に個人的な疑問なのですが、
「紅茶入れ」よりはティーポットのほうが言葉的には
良いんじゃないかなぁ……って。
修正するもしないも氏の意思で。(礼)
9.90削除
少し短いけどすごくいい雰囲気が伝わってきました。
友人たちとわいわい過ごすクリスマスはいいですよねー^^
地霊組は個性豊かで大好きです。
14.90名前が無い程度の能力削除
後書き……(´;ω;`)ブワッ

パチュリーの挨拶が昼夜逆転している件について
17.無評価Taku削除
 皆様、感想・指摘など本当にありがとうございます……!
 コメント返しさせて頂きますね。

>>1.名前が無い程度の能力 さん
 来年はこれをリメイクして話を膨らませて書く予定です。
 恋人がいなくても、友達がいればいいんです……いいんです……(大事なことなので2回書きました)。

>>4.煉獄 さん
 これから盛り上がるぞ! ってところで話が終了してますねorz
 上記の通り、来年加筆したもっとクオリティの高いものを投稿する予定です。
 面白かったとのお言葉、ありがとうございます!
 あと、ティーポットに修正しておきました。ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m

>>9.☆ さん
 感想ありがとうございます!
 彼女たちの楽しそうな様子が伝わったら作者として嬉しい限りです。
 そう、友達がいればいいのです。(大事なことなので(ry

>>14. 名前が無い程度の能力 さん
 友達がいれば(ry
 うおお、本当ですね……。修正しておきました。
 ご指摘ありがとうございますm(_ _)m
18.100名前が無い程度の能力削除
後書きに涙した(ToT)
作者の彼女のいるクリスマスは幻想郷入りしたんだよ…きっと
21.無評価Taku削除
>>18. 名前が無い程度の能力 さん
 それは真剣にまずい(笑)。
 来年があるさ多分きっと……!
23.80名前が無い程度の能力削除
作者wwww
25.無評価Taku削除
>>23. 名前が無い程度の能力 さん
 俺自重wwww

 orz
28.90irusu削除
彼女が居なくても友が居れば大丈夫だ。