*作品集59の「勝手に対談-妹紅とアリス-」と作品集61の「勝手に対談-輝夜とパチェリー-」も
併せてご覧になるとよろしいかと…
勝手に対談 -椛と紫-
ゆさっ
ゆさゆさっ
「んぅ~…無理ムリ。…あと五年寝かせて……」
「わっやっと起きた。って、ええ!?あと五年も寝るんですかぁ?」
「……犬?誰かしら…」
「わぅ、えっと名乗り遅れました。私は警邏隊の白狼天狗、犬走椛と申します。」
「……天狗のワンコが何で私の寝床に…藍は?」
「え、ら、爛ですか?すすスミマセン気が利きませんで。でも、あのあの私持ち合わせが…」
「ああ…いいわ、気にしないで。って…え?」
「お気づきになりましたか?私も起きたらこんな星の海のようなところに投げ出されていて…」
「…ふ~ん」
(隙間も綻びさえも無い気持ち悪い結界ね…大方あの月の姫やら薬師やらによる前回の意趣返しって所かしら。…でもこのワンコは?)
「間違えてたらすみません。貴方は隙間の大妖八雲紫さんに相違ありませんか?」
「ええ、その通り。この私がかのスキマ美少女ゆかりん☆よ。…貴女と何処かでお会いしたかしら?」
「…………」
「何かしら?」
「わふっ!?ごっごめんなさい!えっとあの、ウチの上司の射命丸からお話だけ聞いておりまして~…」
「…ああ、貴女は生贄なのね。」
「いけ…えっ、何ですか?」
「何でもないわ。」
(あの鴉天狗、自分の身代わりに部下を投入したわね…ついでに自分は取材続行とはいい度胸だわ。)
「それで、私そろそろ戻らないと警備の任がありまして…」
「でも、此処が何処だか皆目検討もつかなくて帰れないから私を起こした、と?」
「はっはい!その通りです。」
「因みに此処に来てからどの位が経っているのかしら?」
「む~…お日様が見えないのでハッキリとは分かりませんが恐らく2日ほどだと思います。」
「まあ貴女じゃ千年経っても此処の結界から脱出できないでしょうね。」
(2日間半泣きで駆けずり回ってる姿が目に浮ぶわね。)
「せっ千年!?」
「そんな死にそうな顔しないの。私にいい案があるわ。」
「本当ですか!?」
「ええ。貴女がハンバーグになればいいのよ。」
「はんばあぐ?何かの謎かけでしょうか?」
「いいえ。挽肉を捏ね繰り回してミンチにしてこんがり焼き上げたお料理よ。つまり貴女が私に挽肉にされれば
きっと貴女の上司が此処から出してくれる筈よ。」
「ひっ挽肉…ってえええええええぇぇぇぇっ!?」
「運が良ければ貴女も10分の9ミンチ位で助かるかもしれないわ。」
「10分の9ってほぼミンチじゃないですか!?助かるのは耳ですかっ尻尾ですかっ!!」
「ほんの冗談よ~。そんなに尻尾丸めて興奮しないの。」
(また随分といぢりがいのある子ね。)
「紫さんの冗談は全然笑えません…それでいい案というのは何でしょうか?」
「とても簡単。私と楽しくお喋りをすればいいのよ。」
「はぁ…楽しくお喋り…ですか。」
「不満かしら?」
「わぅっそんなこと無いです。…でも紫さんは強大な力を持つ妖怪だと聞いております。結界とか打ち破れないものかと…」
「確かにそうね。でもこの結界は非常に強力なの。破ろうとすれば私でもこのくらいかかるわ。」
「え…っと、ひ…180日ですか…?」
「いいえ、180秒。」
「ぅええっ?すぐじゃないですか!?乾麺作るのと同じくらい容易いじゃないですか!」
「貴女もおばかさんねぇ。結界を破って疲労しているところにたくさんの敵が待ち構えていたらどうするのよ?」
「はぅ…確かにその通りです。やっぱりこの結界を破るのは骨が折れますか?」
「そうね~…毛抜きで眉毛を整えるのと同じぐらいの集中力と体力が必要だわ。」
「わかりにくっ!?ってか全然戦いに影響ありませんよね?敵を前に武器を構えていたほうがよっぽど体力と集中力要りますよ!」
「その前に眉毛を整えるところに疑問を持ちなさいよ。妖怪の私がそんな事する訳ないでしょう?
私の毛を抜きたければヒヒイロカネ製の毛抜きを持って来いってのよ。」
「は、はぁ…すんません…」
(何で私が怒られるんだろ?)
「ふぅ…まあいいわ。そういえば何故貴女は2日間も足掻いていたの?私を起こせばすぐに解決できるって知っていたのに…」
「あ…えっと…その……あの~…」
「ん?何か言いにくい理由でもあるのかしら?」
「わぅぅ…えっと、う~…」
「分かったわ。優しいゆかりんが言い易いように足元からミンチにしてあげる。」
「ひゃんっ!?わかった、いいます!言いますよぅ……あの、えっと…天狗には幾つか鉄の掟というものがありまして……
…う~、その中に一つ、スキマに絶対関わるな。一つ、スキマが視界に入っても見て見ぬ振りをしろ。
一つ、スキマに話しかけられてもシカトしろ…というものがありまして……」
「外力『天狗ミンチ製造機』」
「ひぅぅぅぅぅぅ!?ごっごめんなさい!!許してくださいぃぃぃ!」
「大丈夫。優しいゆかりんは椛ちゃんの頭をミンチにするだけできっと許してあげるから。」
「死ぬっ!?死んじゃいます!椛は頭をミンチにされると死んじゃいますからぁぁぁぁぁっ!」
「……ふうっ…まあ貴女のその可愛い顔に免じて許してあげましょう。」
(あんなに尻尾丸めて怯えちゃって…昔の藍を思い出すわぁ~)
「うぅ…ぐすっ…ありがどうございまず…」
「でも鉄の掟って言う割に貴女の上司の射命丸文はよく私に絡んでくるけど?」
「文さんはそういうところがちょっと異端…というか掟とかに縛られるのが嫌いな方なんです。」
「成る程。まあ貴女も苦労しそうね~」
「そんな事ありません!!文さんは尊敬できるとても立派な上司ですっ!」
「でも貴女は文にいけに…うぅん、なんでもないわ。文と最後に会ったのはいつ?」
「ええっと、あ…そういえば此処に来る前の日でしたね。」
「その時文は何か言ってなかった?」
「いや~特には…いえ、強く生きなさいって言ってくれました!優しいですよね。私感動しました!」
「そう、他に妙な行動とかは?」
(絶対に強く逝きなさいの間違いね)
「そういえば何か慌ててましたね。あっでもでもその日私を泊めてくれて、なんと!文さんの普段使っているベッドを
私に貸してくれたんです。さらにさらに、文さんが直接頭までスッポリ布団をかぶせてくれて…
その前にお酒を飲んでたこともあって文さんの匂いに囲まれてすぐにグッスリでした。」
「…それは良かったわね。」
(明らかに囮に使われとんがな…睡眠薬も盛られたか?)
「はい!…まあ起きたらこんな場所にいた訳ですけど。あっ!文さんは無事でしょうか…」
「大丈夫よ。彼女は手も足も速いから…」
(その速さで永遠亭の詐欺兎にでも取り入って此処の取材でもしていることでしょう)
「そうだといいんですけど…」
「それにしても随分文に入れ込んでるのねぇ。あれの何処がそんなにいいのかしら?」
「文さんはとても優しくてかっこいいですし強いですし頭もいいですし、私の憧れです!」
「ふぅん…もうちょっと具体的に話してもらえるかしら?」
「ええ!まずはなんと言っても山の神社の事件の解決ですよ!文さんがそこらを飛んでる巫女と魔法使いをけしかけて解決させたんですよ?
同族に怪我人も出ない賢い方法ですよね~」
「ほうほぅ…他には?」
(なんか微妙に話が美化されてるわね…)
「交友関係の広さ、ですかね。冥界の姫や、月の姫、フラワーマスターや紫さんみたいな名だたる大妖怪から果ては
閻魔様にも顔が利くなんて他の天狗では考えられません。きっと皆から信頼されているんですよ。」
「…そうね~…他には?」
(正直疎まれてるけどね~)
「あと私にもとっても優しいんです。天狗の重要な仕事を私なんかにも振ってくださるし…」
「ふむふむ」
(明らかにめんどいから丸投げしてるだけよね。)
「突然修行の相手にいろんな人を紹介してくれますし…まあ皆強くてボコボコにされちゃうんですけどね。」
「へーへー」
(逃げる時の足止めですか。)
「後は潜入の極意なんかも教えてくれます。実戦形式なんで命懸けですよ。」
「はぁはぁ」
(やっぱり囮も…ていうか警邏隊が潜入の極意教わってどうすんのよ?)
「更に弾幕の練習相手にもなってくれます。でも文さん強いですから三分と持たないのが悔しいです。」
「あーうー」
(三分ってどう考えても憂さ晴らしの人間サンドバッグじゃん…)
「警備の最中に差し入れも持ってきてくれますし。終わってから食べると悪くなってるのかお腹こわしちゃうんですけどね。」
「そーなのかー」
(それ残飯だって!そんな一日そこらで悪くならないわよ!)
「あとは~「ちょっ!もう分かったわ。もう分かったから大丈夫!」」
「わうっそうですか?まだまだたくさんあるんですよ。」
「大丈夫!貴女があの子を信頼してるのはゆかりんよ~く分かったから。…でも、」
「でも?」
「あの子が貴女を裏切るかも、と考えた事は無いのかしら?」
「ありません!文さんはそんな人ではありませんから。」
「もしも…よ。裏切るような事があったら貴女はどうするの?」
「…謝ります。」
「……あやまる?」
「文さんが裏切るとしたらそれはきっと私が不甲斐無いから…私がだらしないので愛想を尽かしてしまうからだと思います。
だから謝って許してもらうんです。」
「はぁ…成る程ねぇ~」
「だからそうならないようにいつも修行をしてるんです。」
「……なかなか面白い話だったわ。お礼にある一匹の天狗の話をしてあげましょう。」
「天狗の話?」
「そう………あるところに一匹の天狗がいました。その天狗はとても力が強く優秀でしたが縛られる事を嫌いました。
掟を守らない天狗は仲間から疎んじられやがて孤立してしまいます。その天狗もいずれそうなってしまうと思い
自分の居場所を山の外に求めました。一生懸命居場所を作ろうとする天狗でしたが、やはりうまく行きません。
山の外に行っても天狗は天狗なのです。排他的な天狗とは皆あまり関わろうとはしないからです。そして、とうとう
その天狗は本当に孤独になってしまいました。」
「…その天狗って…」
「ところがそんな天狗を慕ってくれる天狗が現れたのです。孤独な天狗は嬉しい反面とても悩みました。自分なんかを
慕っていたらいずれ、この天狗も孤独になってしまう、自分と同じ苦しみを味わせてしまう。そう思い孤独な天狗は
その天狗にあえて辛く当たります。辛く当たり続けそのうちに愛想を尽かされてしまいます。そうして仲間の下に
戻っていく天狗を見て孤独な天狗はこれでよかったんだ、と自分に言い聞かせます。でもその目からは涙が止まりません。
孤独な天狗はいつまでも涙を流し続け最後には自分の涙で溺れて死んでしまうのでした…めでたしめでたし。」
「……ええ~、何ですかこの話。全然めでたくないじゃないですか。大体何が言いたいか分かりませんよ。」
「貴女はこの孤独な天狗のことをどう思ったかしら?」
「う~ん、最初のところを聞いて一瞬文さんに似てるのかなって思いました…でも全然そんなことはありませんでしたね!
大体文さんは孤独じゃないですし…知ってます?文さんには内緒なんですけど秘密のファンクラブがあって若い天狗に
大人気なんですから!山の件で上も一目置いてますし。まあ、文さんは天狗の会合に全然顔を出さないのでそんなこと
夢にも思ってないでしょうけど。だからその天狗は正に文さんの正反対ですね。」
「…そう、それじゃあもし孤独な天狗が貴女の傍にいたら受け入れられるかしら?」
「もちろん放って置きませんよ。天狗の結束力は人間のそれよりずっと固いんです。孤独になんてさせてやりません。
例え辛くあたられてもです。」
「くすくす…貴女は本当に面白いわね。…どうかしら、この八雲紫の式になってみる気はない?」
「えっ!?………う~すみません。とても光栄ですが、私には文さんという上司がいますので…」
「…冗談よ。さて、そろそろここから出るとしましょうか。」
「う…わ…結界がわれてく…」
(あっという間に…紫さんはホントにすごい妖怪なんだ…)
「まあ、私にかかればこのくらい何てことないですわ。」
(起きてからずっと結界に干渉してたけど思ったより時間がかかった。八意永琳…やはり侮れないわね…)
「紫さん、どうもありがとうございました!」
「…天狗よ、聞きなさい。幻想郷は全てを受け入れる。その住民である貴方達も相手を、そしてすべてを受け入れなさい。
そう遠くない未来、そんな日が来ることででしょう。」
「………はい!」
「そうそう、あと文に会ったら思いっきり抱きついてやりなさい。」
(仕返しはこれで勘弁してあげましょう…)
「…?わかりましたっ!」
「それでは行きましょう…」
「わんっ!」
………………………………………
…………………………
……………
併せてご覧になるとよろしいかと…
勝手に対談 -椛と紫-
ゆさっ
ゆさゆさっ
「んぅ~…無理ムリ。…あと五年寝かせて……」
「わっやっと起きた。って、ええ!?あと五年も寝るんですかぁ?」
「……犬?誰かしら…」
「わぅ、えっと名乗り遅れました。私は警邏隊の白狼天狗、犬走椛と申します。」
「……天狗のワンコが何で私の寝床に…藍は?」
「え、ら、爛ですか?すすスミマセン気が利きませんで。でも、あのあの私持ち合わせが…」
「ああ…いいわ、気にしないで。って…え?」
「お気づきになりましたか?私も起きたらこんな星の海のようなところに投げ出されていて…」
「…ふ~ん」
(隙間も綻びさえも無い気持ち悪い結界ね…大方あの月の姫やら薬師やらによる前回の意趣返しって所かしら。…でもこのワンコは?)
「間違えてたらすみません。貴方は隙間の大妖八雲紫さんに相違ありませんか?」
「ええ、その通り。この私がかのスキマ美少女ゆかりん☆よ。…貴女と何処かでお会いしたかしら?」
「…………」
「何かしら?」
「わふっ!?ごっごめんなさい!えっとあの、ウチの上司の射命丸からお話だけ聞いておりまして~…」
「…ああ、貴女は生贄なのね。」
「いけ…えっ、何ですか?」
「何でもないわ。」
(あの鴉天狗、自分の身代わりに部下を投入したわね…ついでに自分は取材続行とはいい度胸だわ。)
「それで、私そろそろ戻らないと警備の任がありまして…」
「でも、此処が何処だか皆目検討もつかなくて帰れないから私を起こした、と?」
「はっはい!その通りです。」
「因みに此処に来てからどの位が経っているのかしら?」
「む~…お日様が見えないのでハッキリとは分かりませんが恐らく2日ほどだと思います。」
「まあ貴女じゃ千年経っても此処の結界から脱出できないでしょうね。」
(2日間半泣きで駆けずり回ってる姿が目に浮ぶわね。)
「せっ千年!?」
「そんな死にそうな顔しないの。私にいい案があるわ。」
「本当ですか!?」
「ええ。貴女がハンバーグになればいいのよ。」
「はんばあぐ?何かの謎かけでしょうか?」
「いいえ。挽肉を捏ね繰り回してミンチにしてこんがり焼き上げたお料理よ。つまり貴女が私に挽肉にされれば
きっと貴女の上司が此処から出してくれる筈よ。」
「ひっ挽肉…ってえええええええぇぇぇぇっ!?」
「運が良ければ貴女も10分の9ミンチ位で助かるかもしれないわ。」
「10分の9ってほぼミンチじゃないですか!?助かるのは耳ですかっ尻尾ですかっ!!」
「ほんの冗談よ~。そんなに尻尾丸めて興奮しないの。」
(また随分といぢりがいのある子ね。)
「紫さんの冗談は全然笑えません…それでいい案というのは何でしょうか?」
「とても簡単。私と楽しくお喋りをすればいいのよ。」
「はぁ…楽しくお喋り…ですか。」
「不満かしら?」
「わぅっそんなこと無いです。…でも紫さんは強大な力を持つ妖怪だと聞いております。結界とか打ち破れないものかと…」
「確かにそうね。でもこの結界は非常に強力なの。破ろうとすれば私でもこのくらいかかるわ。」
「え…っと、ひ…180日ですか…?」
「いいえ、180秒。」
「ぅええっ?すぐじゃないですか!?乾麺作るのと同じくらい容易いじゃないですか!」
「貴女もおばかさんねぇ。結界を破って疲労しているところにたくさんの敵が待ち構えていたらどうするのよ?」
「はぅ…確かにその通りです。やっぱりこの結界を破るのは骨が折れますか?」
「そうね~…毛抜きで眉毛を整えるのと同じぐらいの集中力と体力が必要だわ。」
「わかりにくっ!?ってか全然戦いに影響ありませんよね?敵を前に武器を構えていたほうがよっぽど体力と集中力要りますよ!」
「その前に眉毛を整えるところに疑問を持ちなさいよ。妖怪の私がそんな事する訳ないでしょう?
私の毛を抜きたければヒヒイロカネ製の毛抜きを持って来いってのよ。」
「は、はぁ…すんません…」
(何で私が怒られるんだろ?)
「ふぅ…まあいいわ。そういえば何故貴女は2日間も足掻いていたの?私を起こせばすぐに解決できるって知っていたのに…」
「あ…えっと…その……あの~…」
「ん?何か言いにくい理由でもあるのかしら?」
「わぅぅ…えっと、う~…」
「分かったわ。優しいゆかりんが言い易いように足元からミンチにしてあげる。」
「ひゃんっ!?わかった、いいます!言いますよぅ……あの、えっと…天狗には幾つか鉄の掟というものがありまして……
…う~、その中に一つ、スキマに絶対関わるな。一つ、スキマが視界に入っても見て見ぬ振りをしろ。
一つ、スキマに話しかけられてもシカトしろ…というものがありまして……」
「外力『天狗ミンチ製造機』」
「ひぅぅぅぅぅぅ!?ごっごめんなさい!!許してくださいぃぃぃ!」
「大丈夫。優しいゆかりんは椛ちゃんの頭をミンチにするだけできっと許してあげるから。」
「死ぬっ!?死んじゃいます!椛は頭をミンチにされると死んじゃいますからぁぁぁぁぁっ!」
「……ふうっ…まあ貴女のその可愛い顔に免じて許してあげましょう。」
(あんなに尻尾丸めて怯えちゃって…昔の藍を思い出すわぁ~)
「うぅ…ぐすっ…ありがどうございまず…」
「でも鉄の掟って言う割に貴女の上司の射命丸文はよく私に絡んでくるけど?」
「文さんはそういうところがちょっと異端…というか掟とかに縛られるのが嫌いな方なんです。」
「成る程。まあ貴女も苦労しそうね~」
「そんな事ありません!!文さんは尊敬できるとても立派な上司ですっ!」
「でも貴女は文にいけに…うぅん、なんでもないわ。文と最後に会ったのはいつ?」
「ええっと、あ…そういえば此処に来る前の日でしたね。」
「その時文は何か言ってなかった?」
「いや~特には…いえ、強く生きなさいって言ってくれました!優しいですよね。私感動しました!」
「そう、他に妙な行動とかは?」
(絶対に強く逝きなさいの間違いね)
「そういえば何か慌ててましたね。あっでもでもその日私を泊めてくれて、なんと!文さんの普段使っているベッドを
私に貸してくれたんです。さらにさらに、文さんが直接頭までスッポリ布団をかぶせてくれて…
その前にお酒を飲んでたこともあって文さんの匂いに囲まれてすぐにグッスリでした。」
「…それは良かったわね。」
(明らかに囮に使われとんがな…睡眠薬も盛られたか?)
「はい!…まあ起きたらこんな場所にいた訳ですけど。あっ!文さんは無事でしょうか…」
「大丈夫よ。彼女は手も足も速いから…」
(その速さで永遠亭の詐欺兎にでも取り入って此処の取材でもしていることでしょう)
「そうだといいんですけど…」
「それにしても随分文に入れ込んでるのねぇ。あれの何処がそんなにいいのかしら?」
「文さんはとても優しくてかっこいいですし強いですし頭もいいですし、私の憧れです!」
「ふぅん…もうちょっと具体的に話してもらえるかしら?」
「ええ!まずはなんと言っても山の神社の事件の解決ですよ!文さんがそこらを飛んでる巫女と魔法使いをけしかけて解決させたんですよ?
同族に怪我人も出ない賢い方法ですよね~」
「ほうほぅ…他には?」
(なんか微妙に話が美化されてるわね…)
「交友関係の広さ、ですかね。冥界の姫や、月の姫、フラワーマスターや紫さんみたいな名だたる大妖怪から果ては
閻魔様にも顔が利くなんて他の天狗では考えられません。きっと皆から信頼されているんですよ。」
「…そうね~…他には?」
(正直疎まれてるけどね~)
「あと私にもとっても優しいんです。天狗の重要な仕事を私なんかにも振ってくださるし…」
「ふむふむ」
(明らかにめんどいから丸投げしてるだけよね。)
「突然修行の相手にいろんな人を紹介してくれますし…まあ皆強くてボコボコにされちゃうんですけどね。」
「へーへー」
(逃げる時の足止めですか。)
「後は潜入の極意なんかも教えてくれます。実戦形式なんで命懸けですよ。」
「はぁはぁ」
(やっぱり囮も…ていうか警邏隊が潜入の極意教わってどうすんのよ?)
「更に弾幕の練習相手にもなってくれます。でも文さん強いですから三分と持たないのが悔しいです。」
「あーうー」
(三分ってどう考えても憂さ晴らしの人間サンドバッグじゃん…)
「警備の最中に差し入れも持ってきてくれますし。終わってから食べると悪くなってるのかお腹こわしちゃうんですけどね。」
「そーなのかー」
(それ残飯だって!そんな一日そこらで悪くならないわよ!)
「あとは~「ちょっ!もう分かったわ。もう分かったから大丈夫!」」
「わうっそうですか?まだまだたくさんあるんですよ。」
「大丈夫!貴女があの子を信頼してるのはゆかりんよ~く分かったから。…でも、」
「でも?」
「あの子が貴女を裏切るかも、と考えた事は無いのかしら?」
「ありません!文さんはそんな人ではありませんから。」
「もしも…よ。裏切るような事があったら貴女はどうするの?」
「…謝ります。」
「……あやまる?」
「文さんが裏切るとしたらそれはきっと私が不甲斐無いから…私がだらしないので愛想を尽かしてしまうからだと思います。
だから謝って許してもらうんです。」
「はぁ…成る程ねぇ~」
「だからそうならないようにいつも修行をしてるんです。」
「……なかなか面白い話だったわ。お礼にある一匹の天狗の話をしてあげましょう。」
「天狗の話?」
「そう………あるところに一匹の天狗がいました。その天狗はとても力が強く優秀でしたが縛られる事を嫌いました。
掟を守らない天狗は仲間から疎んじられやがて孤立してしまいます。その天狗もいずれそうなってしまうと思い
自分の居場所を山の外に求めました。一生懸命居場所を作ろうとする天狗でしたが、やはりうまく行きません。
山の外に行っても天狗は天狗なのです。排他的な天狗とは皆あまり関わろうとはしないからです。そして、とうとう
その天狗は本当に孤独になってしまいました。」
「…その天狗って…」
「ところがそんな天狗を慕ってくれる天狗が現れたのです。孤独な天狗は嬉しい反面とても悩みました。自分なんかを
慕っていたらいずれ、この天狗も孤独になってしまう、自分と同じ苦しみを味わせてしまう。そう思い孤独な天狗は
その天狗にあえて辛く当たります。辛く当たり続けそのうちに愛想を尽かされてしまいます。そうして仲間の下に
戻っていく天狗を見て孤独な天狗はこれでよかったんだ、と自分に言い聞かせます。でもその目からは涙が止まりません。
孤独な天狗はいつまでも涙を流し続け最後には自分の涙で溺れて死んでしまうのでした…めでたしめでたし。」
「……ええ~、何ですかこの話。全然めでたくないじゃないですか。大体何が言いたいか分かりませんよ。」
「貴女はこの孤独な天狗のことをどう思ったかしら?」
「う~ん、最初のところを聞いて一瞬文さんに似てるのかなって思いました…でも全然そんなことはありませんでしたね!
大体文さんは孤独じゃないですし…知ってます?文さんには内緒なんですけど秘密のファンクラブがあって若い天狗に
大人気なんですから!山の件で上も一目置いてますし。まあ、文さんは天狗の会合に全然顔を出さないのでそんなこと
夢にも思ってないでしょうけど。だからその天狗は正に文さんの正反対ですね。」
「…そう、それじゃあもし孤独な天狗が貴女の傍にいたら受け入れられるかしら?」
「もちろん放って置きませんよ。天狗の結束力は人間のそれよりずっと固いんです。孤独になんてさせてやりません。
例え辛くあたられてもです。」
「くすくす…貴女は本当に面白いわね。…どうかしら、この八雲紫の式になってみる気はない?」
「えっ!?………う~すみません。とても光栄ですが、私には文さんという上司がいますので…」
「…冗談よ。さて、そろそろここから出るとしましょうか。」
「う…わ…結界がわれてく…」
(あっという間に…紫さんはホントにすごい妖怪なんだ…)
「まあ、私にかかればこのくらい何てことないですわ。」
(起きてからずっと結界に干渉してたけど思ったより時間がかかった。八意永琳…やはり侮れないわね…)
「紫さん、どうもありがとうございました!」
「…天狗よ、聞きなさい。幻想郷は全てを受け入れる。その住民である貴方達も相手を、そしてすべてを受け入れなさい。
そう遠くない未来、そんな日が来ることででしょう。」
「………はい!」
「そうそう、あと文に会ったら思いっきり抱きついてやりなさい。」
(仕返しはこれで勘弁してあげましょう…)
「…?わかりましたっ!」
「それでは行きましょう…」
「わんっ!」
………………………………………
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……………
すごい嬉しそうな笑顔で笑う椛と、馬鹿なんだからと泣き笑いする文さんが幻視されました。
案外いい二人組かも。
あやや……切ないぜ……
でも文は3日たったら忘れて層だ