「おーいパルスィ」
いつも馬鹿みたいに元気なやつが近付いてくる。星熊勇儀だ。これで鬼という強大な力を持つ種族なのが妬ましい。
しかも鬼の中でもかなり強い方だというのが妬ましい。
私じゃ到底敵う相手では無いのが妬ましい。
「元気かい? 一緒に酒飲もう酒!」
こちらが何も言ってないのに、ぐいぐいくる。
ここまでくると、妬ましいというより鬱陶しい。
笑顔で楽しそうに話しかけてくる。私は無視を決め込むことにした。
そうでもしないとこいつは帰らないと思ったからだ。最近何故かこいつによく絡まれる。
「パルスィ?」
無視だ無視。
「パ~ルスィ~」
ベタ~っと私にしがみついてくる。その行動力が妬ましい。
「ひゃっ!?」
「お、やっと反応した」
突然尻を撫でられた。
「なにするのよ!」
「うん、いい形だ」
「話し聞きなさいよ!」
妬ましい。平然と余裕な表情が妬ましい。
「無視するから仕方無く」
「他に方法があるでしょ!」
「まぁ聞いてくれ」
もう反応してしまったから仕方無い。大きな溜め息をつく。
「何の用よ?」
「酒飲もう!」
「帰れ」
即答してやった。
ここ毎日こいつは私と酒を一緒に飲もうと誘う。全て拒否しているけど。
「あんたは他に飲む相手たくさんいるでしょうが」
「まぁそうだけど」
妬ましい。こいつの交友関係の広さが妬ましい。みんなから好かれるのが妬ましい。私と真逆なのが妬ましい。
「パルスィと飲みたいんだよ」
本当にしつこい。何故そこまで私と飲みたいのかが分からない。
「……今夜だけ、飲んであげるわ」
根負けだ。どうせ私が頷くまで毎日これからも来る気なんだろう。
一度一緒に飲めば満足して、もう来ないだろう。
「本当か!? 私は嬉しいぞ!」
「ほら、飲むんでしょ」
本当に嬉しそうな表情を浮かべる。
周りを明るくするこの満面の笑みが妬ましい。
「いやぁ、パルスィと飲める日が来るとは」
「あんたがしつこいから仕方無くよ」
豪快に酒を飲む星熊に対して、私はチビチビ飲む。そんなに酒は弱くも強くも無い私だが、鬼と同じペースで飲むなんて馬鹿なことはしない。
「なあ、パルスィ」
「……なによ?」
「一度笑ってみてくれないか?」
「……は?」
この鬼は何を突然言い出すんだ。
「理由も無しに何で笑わなきゃならないのよ」
「お前さんの笑顔って見たことないんだ」
そう言われて気付く。
最後に笑ったのはいつだったか。思い出せない。
そもそも私はもしかしたら嫉妬以外の感情はほとんど忘れているのかもしれない。
「私と酒を飲み交わすやつはみんな笑顔になってくれるんだ」
だからなんだ。私がつまらないやつだと言うのか。そんなことに今さら気付いたのか。
「つまらないなら他のやつと飲み交わしなさいよ」
「いや、私はお前さんの笑顔が見たい。だからお前さんと酒を飲みたかったんだ」
くだらない。何も知らないのかこいつは。
いや、知っている筈だ。私が嫉妬の橋姫だということを知らないやつはほとんどいない。なら馬鹿なのか。
「無理よ。あんたじゃ私を笑顔にすることはできない」
「やってみなくちゃ分からんだろ」
「現に今がそうでしょ? 私は笑っていない」
妬ましい。今でも私の感情は嫉妬で占めている。
「それに私はあんたみたいに、いつも楽しそうにしているやつが大嫌いなのよ」
「ありゃりゃ、嫌われてるかぁ」
ヘラヘラ笑っている。相変わらず余裕ぶった表情が妬ましい。
「でも、私はパルスィのこと好きだけどね」
「……は?」
耳を疑う。この鬼は何を馬鹿なことを言ってるんだ。
「あ、ちなみに鬼は嘘つかないよ」
「ならなおさら理解出来ないわ。私はあんたが嫌いなのよ?」
「私が楽しそうにしているのが妬ましいんだろ?」
妬ましいを他のやつに言われると何か腹立つ。
「ええ、そうよ」
「だったら一緒に楽しもう!」
言葉を失った。こんなことを言うやつは初めてだった。私は嫌われて当然な存在だったのだから。
「無理よ」
「なんでさ?」
「私の嫉妬は抑えられない。嫉妬は狂気となんら変わらない。そんなやつと楽しむのは不可能よ」
「大丈夫だって」
しつこい。苛々する。
私の何を知ってるんだ。何を根拠に言い切れる。
「あんたが私の何を理解しているというの?」
「いんや、何も理解してない」
「だったらこれ以上私に関わらないで!」
「理解してないからこそ、理解していきたいんだ」
「――なっ!?」
真剣な表情で言われる。なんなんだこいつは。分からない。
でも、心のどこかで嬉しがっている私がいる。
「なんで、そこまで……?」
「言ったろ? 私はパルスィが好きだって、ね」
顔が赤くなるのが分かる。私をこんなに乱れさせるこいつが妬ましい。
「だから、さ」
私に手を差し出す。そして笑顔で――
「一緒に楽しもうよ、パルスィ」
妬ましい。こんなことを平然と言えるのが妬ましい。
「私、嫉妬深いのよ?」
「知っている」
「絶対に後悔するわよ?」
「そんなことはない」
私の言葉は、もうボロボロだった。こいつの前じゃ、私の負の言葉は意味を持たない。
「私は、あんたの手を……とっても良いのかしら……?」
もう分からなかった。久しく忘れた温もりを前にして私の感情は乱れていた。
「当たり前だろ」
「ありがとう……星熊」
星熊と手を重ねる。温かい、柔らかい肌。
「初めてちゃんと呼んでくれたな」
満足そうに笑顔を浮かべる星熊を、妬ましく思いながらも、私も思わず笑顔になった。
色々妬ましいやつだけど、心地良いのは確かだ。
でも、こんなのも悪くないかもしれない。
でも、なんとなく雰囲気が良いですね、この二人の。
ただ、もうちょっと何か話があっても良かったかなぁ……と
自分勝手に思ってしまったり。
やっぱり少し薄味かと思います
作品としては良い雰囲気がでていると思います。もう一歩欲しかったです。
暗にもっと長くしろというわけではないですが、心情の変化を徐々に表現できればより良くなるのでは、と思います。
関係ないけどそのうち「私以外の女と話してる……妬ましいわ」的な展開n(丑の刻参り
本来プチ投稿予定だったものなのでやはり薄かったですよね 読んで下さりありがとうございます。
>>修行さん
次回に生かします。
>>15様
やはり少し展開急すぎでしたか……次回投稿する時はもうちょっとプチとはまた違う練り方をしてみます。
ありがとうございます。
>>名前を表示しない程度の能力
こちらにはやはりこちら用の練り方を考えてみます。
貴重な意見ありがとうございます。
目指せ300点な本来はプチに投稿しようと考えていた作品が目標の3倍以上の点で感激しました。
読んで下さった皆様、全てに感謝します。
楽しんで下さってありがとうございます!本当に嬉しいです。
これからは、より質の高い物を作っていきたいと思います。