アタシ
パルスィ
種族?
橋姫
まぁ、この世とあの世を未練で繋ぐ
嫉妬の妖怪?
みたいな
……と、変な口調で話してみるのも、飽きた。
暇だ。暇なのだ。あぁ、何でもない日バンザイと騒ぎまくれる鬼が妬ましい。妬ましい。
地上と旧都をつなぐ縦穴なんかそうそう誰も通るものじゃない。
地上の妖怪は忌み嫌われた地下に関わろうとしない。地下の妖怪も忌み嫌われに地上に行こうとはしない。
こんなところを通るのといったら、よっぽどの――
「あたいったら最強ね!!!」
――!?
聴きなれない声が私の耳朶を打つ。何だろう、まるでこの縦穴のように底抜けに明るいような声は。
声のしたほうに向き直ってみれば、そこには、髪とか服とか眼とか全体的に青い……妖精? なの? その雰囲気は妖怪のそれではない。
でも、何なんだろう。この異様に堂々とした妖精は。そして、その妖精が小脇に抱えているのは……。
「ふふん、近づいただけで倒れちゃったわ。あたいの『かりすま』にやられちゃったのね」
そして、その小脇に抱えている何かをこちらに放ってきた。慌ててそれを抱きとめると……。
「ヤ、ヤマメ!? どうしたの、あなたともあろうものがたかが妖精なんかに!」
「すやすや」
「寝てるー!?」
そこで、私は初めて辺りを覆う冷気に気がついた。そして、この妖精の正体にも。
氷の妖精! ヤマメはこいつに近づかれて冬眠しちゃっただけだ! 蜘蛛だから!
「そうとわかれば、あなたなんて恐るるに足りないわね」
私は再び妖精と相対する。この奇妙な妖精を、今一度正面から見据える。
「何? あんたもこのあたいの邪魔をするの? 無駄だよ! あたいは幻想郷さいきょーなんだもん!」
淀みのない言葉。見れば見るほど屈託のない笑顔。穢れたことなど何も知らないかのような澄んだ青い眼。
あぁ、妬ましい。妬ましいわ。
「あなたのその綺麗な目を、緑色に塗りつぶしてみたい!」
――妬符『グリーンアイドモンスター』!
これは弾幕ではない。
このスペルは、あなたの嫉妬を掘り起こす! 緑色の眼をした怪物を!
さぁ、私に見せて、あなたの怪物を――
「……何? 何かしたの?」
……え?
その妖精は、きょとんとして立っている。何も起こらなかったかのように。
そんな馬鹿な。嫉妬心を煽られて平然としていられる奴なんか……。
「そうか! あまりにあたいが強いから効かなかったのね! やっぱりあたいったら最強ね!」
「!!」
そ、そうか――!
こいつは自分を最強だと心から信じ込んでいる! そんな奴に、嫉妬心が芽生えるはずもないッ! 自分より上など、存在しないのだからッ!
「ま、負けだわ……。完全、敗北だわ……」
私は地面にへたり込む。
嫉妬を司る妖怪たる私が、相手の嫉妬心を操れなかったばかりか、自分が嫉妬することさえ許されなかった。
だって、あんなになりたいと思う? あんなのに嫉妬したいと思う?
この心の強さは、この天衣無縫さは、確かに羨むべきものかもしれない。でも、私はそれに嫉妬できなかった。うらやましいと思えど、嫉妬することは出来ない。
とにかく、次元が、違った。
「ふふん、ここにきて早速二人抜きなんて、やっぱりあたいったら最強ね!」
そうして私の脇を飛びぬけていこうとする妖精を。
「ま、待って!」
反射的に私は呼び止めていた。
その時、私は、私が彼女に興味を持ってしまったのだと、知った。
あまりにも常識はずれな彼女に、惹かれていたのだと。
結局、この猪突猛進な氷精を止めることはかなわなくて、私は今彼女と一緒に旧都への道を飛んでいる。
「……あなたの名前はなんていうの?」
誰かに名前を聞いてしまっている自分に、驚いた。
「あたいはチルノ! 幻想郷さいきょーの妖精だよ! そーゆーあんたは?」
あぁ、しまった。やっぱり名前を尋ねるなんて慣れてないから……。自分が名乗り忘れているなんて。
「私は地上と地下を繋ぐ縦穴を見守る橋姫、水橋パルスィ」
「ばらスィー?」
「違う! 私の名はパルスィ! 水橋パルスィだ! 二度と間違えるな!」
「ご、ごめんねスィドリーム」
「もう原型残ってなーい!」
もう、雰囲気ぶち壊しじゃない! まぁ、そういうところがこの子らしいのかもしれないけど。
そっか、チルノっていうんだ……。いい名前じゃない。
「チルノは何で地下にやってきたの?」
そう、縦穴を通る奴なんかそうはいない。こんなところを通るのといったら、よっぽどの――
……あぁ、馬鹿だっけ。この子。
「それが聞いてよ! あたいが気持ちよく空を飛んでたら、いきなり熱いお湯が地面から吹き出てきたのよ! もう溶けるかと思った! だからあのお湯を出した奴にふくしゅーするのよ!」
うん。馬鹿だなぁ。すがすがしいまでに。
でも地面からいきなりお湯って、間欠泉かしら。だとしたら、うーん……。
「おやおや、パルスィじゃないか。どうしたんだい妖精なんぞと連れ立って」
女性のものながら、どこか雄雄しさを漂わせる声が、不意に聞こえる。
この声は間違いなく……嫌なやつに見つかったな。
「星熊……勇儀……」
旧都の鬼の中でも、特に厄介なのに会ってしまった。。
私が勇儀に威嚇の目を向けていると、チルノはなんのこっちゃといった風に、彼女のツノを指して言った。
「ねぇばらスィー、あいつなんで頭にニンジンつけてんの?」
「あれはニンジンじゃないよ! そして私はばらスィーじゃないよ!」
「ニンジンじゃないとしたら……高麗人参?」
「変わってないよ! あんまり変わってないよ! なんでチルノはこんなとこで無意味に難しいものを知ってるの!?」
「英吉利牛もしってる」
「だから何なのよ!」
もう! チルノったら緊張感がないんだからっ!
「はっはっはっ、なんだ、ずいぶん仲がいいじゃないか」
体操服を髣髴とさせる衣装を身に纏った一角鬼、星熊勇儀が豪快に笑い声を上げる。ツノをニンジン呼ばわりされたことは別にいいんだ?
「やい! そこの妖怪ニンジンヘッド! あんたがお湯の犯人なの!?」
「ななな何言ってるの! せっかくスルーしてくれたのに!」
勇儀はしばらく上を向いて笑ってたけれど、ついに顔を下ろしてチルノを鋭い眼光で射抜く。あぁもう駄目だ! チルノは確かに妖精としてはかなり強いけど、妖怪と鬼でも力の差があるのに!
「そこの妖精! 私を野菜呼ばわりするのは、このオニオンリングを喰らってからにしてもらおうか!」
あぁ、勇儀も結構アホの子だったのね。
私も心の中で妖怪ニンジンヘッドって呼ぼうかしら。妖怪じゃないけど。
「行くぞ妖精! 怪輪『地獄の苦輪』!!」
「返り討ちにしてやるわ! 凍符『マイナスK』!!」
でもいくらニンジンヘッドでも鬼は鬼。まともに撃ち合いにいくのは愚の骨頂よ!?
氷弾がリングに吸い込まれ、リングが弾へと変貌してチルノを襲う。やっぱり駄目だ。打ち負けてる……!
「きゃっ! 何なのよこの弾は!」
「あはははは! なんだ、態度ほどには強くないねぇ……あ」
どうしたのだろう。勇儀の動きが固まった。文字通り、凍ったように。
まさか、チルノの攻撃が効いたとか?
「お、お酒が、お酒が凍ってるぅー! こりゃあロックってレベルじゃねーぞ!」
勇儀の手にした盃。その中の酒が凍ってしまったみたい。
「これじゃあこぼそうと思ってもこぼせないし、飲むことも出来ない……」
あ、そういえば勇儀は戦いの中で酒をこぼさずに飲みきることを自分に課しているって聞いたことがあったっけ。
「酒を狙われるとは盲点だった……。この場は負けを認めるよ。くやしいけどね」
「なんだか知らんがとにかくあたいったら最強ね!」
な、なんてこと。チルノったら、あの勇儀を退けちゃった。ピースサインで勝ち誇ってる。
でも全然実力じゃないから、全然妬ましくないわ……。
「間欠泉? ふぅん。確かにここのところちょっと熱いかなと思っていたんだ。だったら灼熱地獄跡にある地霊殿あたりが怪しいんじゃないかな?」
「ち、地霊殿ですって!?」
勇儀の言葉に私は驚いた。こともあろうか地霊殿!
サトリの妖怪と無数のペットの住む、地上に忌まれた地底の民にすら忌まれる場所!
「そこにお湯の犯人がいるのね!」
「ちょっとチルノ! いくらなんでも地霊殿に行くのは無謀すぎるわ!」
「大丈夫大丈夫、あたいはバリバリ最強NO.1なんだから!」
「もう……!」
ダメだ。いくら相性とマグレが重なったからといっても、私たち三人を次々に倒したのは事実。勢いに乗った彼女を止めることなんてできない……。
「ごめんください。ここは地霊殿ですか?」
何そこらへんの民家の戸を開けてるのよ!
「いいえ、ここはぢ霊殿です」
ぢ霊殿!?
「そうですか。失礼しました……ここじゃなかったみたいね」
「当たり前よ!」
チルノの言動に頭を抱えていると、後ろから勇儀の笑う声がした。
「あははは、なかなか愉快だねえ。地霊殿はあそこに見える建物さ。用心していきなよ」
「おっ、ありがとねニンジンヘッド! 行くよばらスィー!」
「お前は名前を覚える気がないんかい!」
まったくもう。話は聞かないしさっさと行っちゃうし! 私が押しかけたとはいえ、せっかく一緒に行動してるんだから少しくらい意見を聞いてくれたっていいじゃないのよ。
「行かないのかいパルスィ」
あー、もう、勇儀も勇儀だ! なんであんなに軽率に!
「なんで地霊殿の場所をチルノに教えたの? いくら自分ルールで負けたとはいえ、あの子の実力をわかってないはずじゃないでしょう?」
「それは、お前があの氷精についていく理由と同じだよ」
……しれっと答えちゃって。何もかもわかってるっていうの? まったく、妬ましいわ。
わかったわ。行けばいいんでしょう。
あの子一人を地霊殿に放り込むなんて、できるわけがないもの。
「じゃあ、がんばってな、パルスィ」
「……ふん」
私はぷいと顔を背けると、チルノを追って飛び出した。
チルノはもう、はるか遠くに見える。
どうしてそう迷いなく飛べるのか。私は少しうらやましい感じがした。
広い広い屋敷の中。薄暗く不気味な雰囲気が漂う。
ここが地霊殿か。初めて踏み入るこの忌まれた空間に、足が震えてくるのが判る。
――にゃーん
「っ!?」
び、びっくりしたぁ。
「ちょっと、くっつかないでよ」
「わひゃ!?」
もっとびっくりしたぁ! 思わずチルノに抱きついてしまった自分に今更気づく。ってか冷たい! ひんやりしてる!
「まったく、そんなに驚くなんて意外に気が弱いんだねぇ。何が怖いんだか。ただの英吉利牛の鳴き声じゃない」
「いや英吉利牛じゃないよ! 英吉利牛があんな声だったらホントに怖いよ!」
と騒いでいると。
「……なぁに? 騒がしいわね」
ぞくん、と。部屋の温度が下がったような気がした。チルノにくっついてるからとかそんなんじゃなくて、感覚的に。
その原因は、間違いなくこの気だるげな声にあるわけで。
「……あら、橋姫がこんなところに来るなんて、珍しいこともあったものね」
闇の中からゆったりと現れ出たのは、物静かな雰囲気に包まれた紫髪の少女。間違いない。心臓の辺りにある奇妙な目に見据えられたとき、確信する。
この少女こそ、地霊殿の主であるサトリの妖怪だと。
「……ご名答。私が地霊殿の主、古明地さとりです。そんなにおびえながら地霊殿にやってくる者も珍しいですね。そもそもおびえるような者は来ませんから。もっとも……」
さとりはちらりとチルノを見る。
「そちらの妖精さんはくぁwせdrftgyふじこlp;@:」
突如として意味不明なことを叫びだしたかと思うと、サトリの妖怪は昏倒した。
「え? え!?」
自体が飲み込めずに呆然とその様を見つめていると、
「にゃーん!」
と、私のそばを黒猫が通り過ぎた。そして、みるみるその黒猫が黒い服に赤い三つ編みの髪を持った猫娘に変化し、さとりを抱き起こす。
「さとり様! 大丈夫!? さとり様!」
「一たす一……わからない……?」
「さとり様!? 何言ってるの!? さとり様!」
「そろばんって……おいしいの……?」
そういい残すと、さとりは黒猫の腕の中で、かくりと力を失った。
「さとり様!? さとり様ァーーーーーーーーーーッ!」
黒猫は主を抱えて、がっくりとうな垂れる。
「ううっ……さとり様、酸素欠乏症にかかって……」
黒猫は涙をぬぐうと主をやさしく床に寝かせ、キッとチルノをにらみつけた。
「そこの妖精! よくもさとり様を! 許せん!」
うわぁ、なんだかよくわからないけどすごく恨まれてる。チルノが。
ん? どこからともなく手押し車のようなものが現れて……黒猫の手に? はっ、ま、まさかこいつ……!
「あたいは火焔猫のお燐! さとり様の仇、とらせてもらうよ!」
火焔猫! やっぱり火車の妖怪だったのね……。これって氷精のチルノにとっては天敵なんじゃ……!?
今までは相性でどうにかなってきたけど、今度こそはダメかも……!
チルノ、ここはもう……。
「な……あ、あたい!? ふ、ふふん、まさかあたいや小町のほかにも『あ大神』に認められた者がいたなんてね……!」
「それそんな大層な一人称だったの!?」
まったく動じてなーい! これは頼もしいのかそうでないのか……。
むぅ、でも相手も火を操るってことは寒さに弱いはずだし、私も加勢すればいい勝負に持ち込める……?
なんて考えてるのをよそに、向こうのあたいズはヒートアップしているようで。
「地底で思わぬ強敵に出会ったわ。言っとくけどあたいは手加減しないよ!」
「ふふん、あたいもなめられたもんだね。手加減なんて期待してない。心行くまで遊んでいってよ。死体になるまで! さぁ、おりんりんランド、開園だよ!」
燐の周りに弾幕が作られ、挨拶代わりとばかりに一気にチルノめがけて射出される。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノはその弾幕を凍らせ、その隙に弾幕を抜けていく。
ああもう、戦いが始まっちゃった! どうしよう。
「やるじゃないお嬢ちゃん! でもよかったの? ホイホイ抜けてきて! あたいは妖精だって構わず死体にしちゃうような火車なんだよ!?」
「!?」
「さぁいくよ! 呪精『ゾンビフェアリー』!」
ゾンビフェアリー!? 妖精の……ゾンビ!? そんなことが!
妖精で同士討ちさせようっていうの? チルノはそれをどう思うんだろう。
私は気になって、そっとチルノを見る。
そこには……なんかドロドロしたチルノが!
「アダイッダラザイギョーネ」
「おまえがなるんかい!」
「冗談よ」
すぐにしゃっきりと姿を戻すチルノ。氷精って一体……。
そんなゴチャゴチャやっている間に、燐の周りには色を失った妖精たちがどこからともなく現れて浮遊し始める。
その中の二体は床に倒れているさとりをどこかに運んでいって戻ってきたけど……。主人想いねぇ。
「これぞ呪精『ゾンビフェアリー』! 弾吐いたり復活したり……そんな感じだァ!」
「何よ! そんなのけちょんけちょんにしてやるんだから!」
チルノの氷弾がゾンビフェアリーたちを打ち据える。だけど、しばらく倒れていると思ったら、また動き始めてチルノを襲う。
こ、これじゃあキリがないじゃない。どうすればいいの!? 考えろ、考えるのよパルスィ。
相手は倒すと復活するんだから……倒さなければ!?
「チルノ! 凍らせるのよ!」
「凍らせる? そっか、カエルみたいにしちゃえばいいんだ! もう一度くらえ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノからあふれ出た冷気がフェアリーたちに当てられて、その身が凍っていく。さすがに内面のダメージは無視できても、外からの氷の静止には抗えないでしょう。
その様を見て、燐が驚く。
「や、やるじゃないか。お嬢ちゃんも『あ大神』に認められたというだけあるね……」
「あ大神ホントにいるんだ!?」
「でもお遊びはこれまでだ! あたいの熱気とお嬢ちゃんの冷気、どちらが強いか……お互いフルパワーで行こうじゃないか!」
「望むところよ!」
ええ!? こんな正面衝突、請けて大丈夫なの!?
「――妖怪『火焔の車輪』!」
「――雪符『ダイアモンドブリザード』!」
うひゃあっ、すごい熱気と冷気の奔流がぶつかり合って……。今の時点ならチルノも燐に負けてはいないけど、このまま終わるとは到底思えないわ。
「ううー、炎が突破できない!」
「ふふふ、それだけじゃないよ! 良く見てみな!」
なんということでしょう。燐の熱気に煽られて、ゾンビフェアリーの氷が溶け出しています。まともな一騎打ちでは終わらせないという、匠の周到さが伺えます。
……ハッ、驚きのあまりついビフォー口調に……。
でもこれなら……。
「なっ……」
「お嬢ちゃんはこれでおしまいだね。さぁ、倒したあとはゆっくりとなぶってあげるよー!」
フェアリーたちの氷が完全に溶け、動き始め、にらみつける。――火焔猫燐を。
「へっ!? あんたたち、なんでこっちに……!?」
ふ、ふふっ……。ふふふっ……。
「まさか!」
「ただのツッコミ役だからって、私を無視したのが運の尽きね」
――恨符『丑の刻参り』
人を呪わば穴二つ。その恨みは、あなた自身に舞い戻る。
おしまいなのはあなたよ。火焔猫。
「うわっ、ちょっと待っ……! 来ないでったら! 冷気が……防げな……ぬ、ぬわーーーーーーーーっ!」
ゾンビフェアリーに弾幕を邪魔された燐は、チルノの攻撃を防げなくなってついにダイアモンドブリザードに飲まれた。
そして、吹雪が過ぎ去った後にはカチカチ震える火焔猫がぽつんと立っていて。
「うにゃあい……」
冷気に当てられて体の冷え切った燐が、力なく倒れた。
「か、勝った……私たちが火車に勝った……」
「やったぁ! あたいたちったら最強ね! すごいじゃないばらスィー!」
「だから名前を覚えろ! パルスィよパルスィ!」
ハイタッチして勝利を喜び合うのもつかの間。でもこの炎使いを倒したって事は間欠泉の犯人を懲らしめたって事じゃない?
「わからなかったら、人に訊く! そこの猫、あんたがお湯を出した犯人?」
いやー、わからなくても当人に訊かないだろー普通はー。
「……よくわかんないけど、あたいは怨霊しか出せないよ。間欠泉のことならたぶんこの下の灼熱地獄跡にいる地獄烏が原因だと思うよ……」
「灼熱地獄跡? そこって熱いの?」
「ものすごく」
その返答を聞いた私は、チルノと顔を見合わせた。チルノがにっこりと笑う。
「かえろっか!」
私も笑顔で返す。
「そうだね!」
「ちょちょちょ、お嬢ちゃんたち、地獄烏を倒しに行くんじゃないのかい!?」
「そんなとこ行ったら溶けちゃうわよ! 異変の犯人はあんた! それでいいの!」
「そんな、ひどい……」
どこからか、震えるような声が聞こえた。具体的には窓の外に広がる中庭から。
「ここまで来て出番なしとは言わせないよっ!」
空気が鳴動し、中庭から火柱のようなものが立ち上る。そして、それが消えた後には何か……よくわからないものが浮かんでいた。
カラスの妖怪のようなんだけど、何? 羽に白いマントをひっかけてるの? 羽ばたけるの? それで。そしてそのマントの裏地が昔地上で見た空の星々のようで……どうなってるの? 他にも右腕はサイコガンだし、胸には『このロリコンめ!』といわんばかりのでかい目があるし……ともかくよくわからん。何あれ?
「ありゃ、こっちまで出てきちゃったか。ご覧、あれが件の地獄烏だよ。どこかで神を飲み込んだせいで、あんな前衛芸術みたいな姿に……」
神を!? まぁ、神ったってピンキリだし、私だって縦穴の守護神と言われてるけどさ。
「こっちに出てきてくれるとは好都合ね」
そうかなー……。さっきの火柱といい嫌な予感しかしないわ。
でも、火焔猫の言葉からすれば、あれが間欠泉の犯人みたいね。倒せるの? 神を飲み込んだようなやつ。
私たちが考えている間に、あいつは窓ガラスをぶち破ってこちらに入ってきた。窓ガラスを割った地獄ガラス……。いや、何考えてるのよ私。
「ふふふ、やっと見つけたわ! 貴方が噂の地上から来た変わり者ね? 私に会いに来るって噂を聞いて、いてもたってもいられなかったわ! 私の名は霊烏路空! 黒い太陽、八咫烏様の究極の力を得た地獄烏よ!」
「れい……なんだって?」
チルノが名前を聞き返す。正直私もなんて言ったのかよくわからなかった。
「霊烏路空よ! れいうじうつほ!」
「……何?」
「うつほ! もうそれでいいから!」
「……ウツボ?」
「違う! うつほ!」
「……ウホッ?」
「うにゅほ!」
「うにゅほね。把握したわ」
「なんで噛んだときに限って理解しちゃうのよ! うつほようつほ! お燐! あんたも何か言ってよ!」
「ごめん。あたいもあんたの名前よくわかってないんだわ」
「チクショー! 私のことおくうって呼ぶ真意がやっとわかった!」
悶える前衛芸術を哀れそうに一瞥すると、燐がこちらへ向き直る。
「まぁ、そんなわけで名前が難しいからおくうって呼んであげてね。仕方ないのよ、彼女究極とか言ってるのを見てわかるように厨二病だから……」
そうか。格好がよくわからないのも、名前が読みにくいのも、能力が半端ないのも、厨二病なら頷ける。
「頷くなー! バカにしやがって! ラスボスなんだぞ! えらいんだぞ!」
あぁ、この子チルノと似たにほひがする……。
……あれ、そういえばチルノはどこにいったの……。とあたりを見回すと。
足元に、彼女の服とそれを浮かべる水溜りが。
「うわあああああああああ!? チルノが溶けてるぅぅぅぅぅぅぅ!」
「あたいったら液体ね!」
「言ってる場合か! ってかしゃべれるのか! すごいなあんた!」
そうして私は傷ついて動けなくなったチルノをバケツにつめて、ポケモンセンターへと向かったのだった……。
後ろから厨二病たちの声が聞こえる……。
「あれ? 私の出番結局これだけなの?」
「遺憾ながら」
まったくもう、危ないところだったわ。さすがは自爆した者をも一瞬で蘇らせるという伝説の医療機関ね。
「ふう、いくらあたいが最強でも、あんな熱の塊を倒すのは無理だわ」
「そうよねぇ。どうするの?」
「もういいわ。十分暴れたし、あの館の偉い人は倒したみたいだし、猫も倒したし、あいつもなんか心にダメージ食らってたみたいだし、あたいはもう満足よ」
「そっか。……地上に、帰るの?」
帰って欲しくないと思う自分を、私は否定しない。
チルノといるのは疲れるし、仮に毎日一緒にいたら心が折れると思う。でも、それだけ楽しかった。それは確かだと思う。
この一日を思い返すと、私は久方ぶりに『嫉妬する』ということを忘れられた心持ちがする。嫉妬を司る橋姫としてそれはダメなことなのだろうけど、たまには息抜きしてもいいでしょう?
そういう意味で、チルノは本当に『心のオアシス』だったのかもしれない。だから、地上へと帰ってしまうのが惜しい。帰って欲しくない。
「うん、そうする。いつまでもこんな暗いところにいたくないしね」
でも、当たり前のように彼女は笑って言った。
わかってた。チルノはそういう奴だって事も、そう言うだろうって事も。
それだけ、私は彼女を良く見てたのね。
ねぇチルノ。あなたは私を見てくれてた? あなたは私を見てくれない? 私はあなたにとって、何だったのかしら?
……私は橋姫。彼女を引き止めることは出来ない。地上へ向かう者があるなら、それを見送るのが私なのだから。
「んー、そろそろ行こっかな。……じゃあね、また来るよ」
「……え?」
ちょっと耳を疑った。
また来るって? この暗い地底に?
「なんてゆうかさ、あたいも楽しかったよ。あたいと遊んでくれる人ってあんまりいなかったからさ、こうしてついてきてくれたのが、うれしかった」
照れくさそうに鼻をかきながら言う彼女に、私は驚いてみていた。そして、目頭が熱くなってくるのもわかった。
チルノも、こんな顔をするんだ。私が、こんな顔をさせたんだ。
それが、うれしかった。
「だから、また来るよ。あんたに、会いに」
そう言った彼女の笑顔がたまらなく可愛らしくて。最初に会ったときに緑に塗りつぶしたいと思った瞳は、もう傷一つつけたくなくて。
そして彼女は、唇を震わせる。
「だから、またね」
『ばらスィー』
「最後まであんたって子はー!!!」
いかに嫉妬もするべきか! ――fin
ボケと突っ込みが見事に成立していましたね。
各キャラクターも生き生きしてましたし、面白かったですよ^^
小ネタ満載すぎるwww
さとり様が読解不能なほどすさまじい思考が渦巻いておるのか……w
これがチルノマジックなのか!?
勢いのある作品、バンザイ!、弾幕も小説も、パワーだぜ!!
チルノとパルスィの掛け合いがとても面白かったです!!
「アタイッタラサイギョーネ」に見えて吹いたわ!
チルノの思考で頭がパンクするさとり様がもう……(笑)
小ネタ盛りだくさんで非常におもしろかったです。チルノの勝ち方もうまく考えられていたと思います。
チルノにならばらスィーを任せられそうです(笑)
そしてまさかのラスボス放置プレイ
ポケモンセンターとか中二病とかwww
ばらスィーさんも良いツッコミでした。
やっぱりチルノは強いんだよ、うんうんw
ばらスィー(笑)
ネタ満載で腹筋がw
初見は耐えれたのに、不意打ちくらったぜ