Coolier - 新生・東方創想話

お前のことが知りたいんだ

2008/11/26 20:36:46
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私の名前は古明地さとり、旧灼熱地獄跡の上に立つ地霊殿の主である。
相手の心を読むという特殊な能力を持っているため、周りから怖れ忌み嫌われている。
この地下世界にはそんな忌み嫌われた輩が封印されていたのだが、この間ひょんなことから地上の世界への道が開かれる事となる。
まあ正確に言うとウチのペットの不始末を地上の巫女が片付けに来たわけなのだが…
こうして、ちょくちょく地上の人間が遊びにきたり宴会に誘われて地上に上がったりする事が増えた。
私はあまり人付き合いが得意ではないし、迂闊なことを言って相手の機嫌を損ねても面白くないので端っこでチョビチョビ飲んで
いたいのだが代わる代わるいろんな連中がやってきたものだ。
最初は地上との確執もあり快く思われないだろうから、と辞退しようとしたのだが巫女にそう伝えたらシバかれた。
暫く見ないうちに人間は随分乱暴になったと愚痴ったらそれはあの巫女だけだ、と鬼に言われた。
ただ、少し前までは地上に出ようなんて夢にも思っていなかったから自分でも驚くべき変化だとは思う。
妹もペットを連れて勝手に地上へフラフラ遊びに出かけるようになった。
他者に興味を示さなかった妹にとっては良い傾向なのかもしれない。

そんな取り止めのない思考にとらわれていると辺りが急に騒がしくなった。
どうやらまた、地上から人間が来たらしい。
地上から来る人間といえば大体限られている。
あの紅白のめでたい巫女か白黒の盗人魔法使い、他には最近山の巫女や、吸血鬼の従者、半霊庭師なども顔を出すようになった。
妖怪は古の契約があるので、此方に入ることは出来ない。
なので体よく人間を遣いに出しているような状態なのだろう。
どすどすと足音が部屋に近づいてくる。
この無遠慮な足音は間違いなく白黒魔法使いだろう。







      -  お前の事が知りたいんだ  -




「おっす!遊びに来てやったぜ。」


そういって、勢いよく扉を開け放ったのは案の定霧雨魔理沙だった。


「…はぁ、別に来るのは構いませんがもっと静かにお願いできませんか?…それで、私にお願い事とは?」


彼女は本当によく口からでまかせを言う。
もちろん私には嘘は通用しないのだが、彼女は悪気も負い目もなく嘘を吐くので性質が悪い。


「話が早くて助かるな。まあそんな訳でお願いされてくれ。」


私が何も言わないのに、当たり前のようにちゃぶ台の前を陣取ってそこにある茶菓子の煎餅をかじり始める。
これは間違いなく人にモノを頼む態度ではないと思う。
私はため息を一つ吐く。
そんな私の姿を見て彼女は眉をひそめる。


「『言いたいコトがあるなら口に出して言えばいい』…ですか。貴女はお願いの仕方を学んだほうがいいわね魔理沙さん。」

「そうそう、わたしはさとりじゃないんで口に出して言ってもらわないと伝わらないぜ。ただ、これがわたし流のお願いの仕方だ。」


…ああ言えばこう言う。
口で言ったって伝わらないんだから、ここはやっぱり弾幕言語しかないのかしらね。


「まあまあ、そう目くじらを立てるなって。悪かったよ。ちょっと調子に乗りすぎた。」

「『相変わらずめんどくさいヤツだ』とは随分な言いようね。口だけの謝罪など必要ありませんよ。」


もう一度トラウマを想い起こさせてやろうかとカードを構えると、魔理沙は慌てて謝る。
真面目に謝っているようなので許してやるが、どうせすぐに軽口をたたくに決まっている。
ほら、カードを収めたらすぐに不遜な態度をとる。


「…『まともに話が進まない』原因は貴女にあります。それでお願い事とは何ですか?」

「そうそう、最近お前も時々宴会に顔を出す様になったじゃないか。そこであの胡散臭い連中が何を考えてるかに興味があってだな。」


それを教えて貰いにきた…と。
いちいち下らない理由でワザワザこんな所まで降りてくる。
強い好奇心が成せる業なのか、彼女が何を考えているのかは分かるのだが理解には苦しむ。
地上の人間達や妖怪はそんなのばっかだ。
山の巫女と半霊庭師、月の兎などはとても共感が持てるのだが。


「胡散臭い連中…というと地上の実力者達の事ですね。話してもいいですが貴女の知りたい事とはおそらく違う答えになりますよ。」

「うんっ?そりゃどういう意味だ?」

「まあ丁度時間を持て余していた事だし、順を追って話しましょう。先ずは………」




<レミリア・スカーレットの場合>

元来、鬼とは嘘を非常に嫌う性質を持っています。
勿論、吸血鬼も鬼の一種と言えるので嘘を嫌うと言えるでしょう。
吸血鬼という妖怪は残忍で狡猾だけれども、ある意味誠実だとも言えるかもしれませんね。
そして、何故嘘を嫌うかと言うと自らが嘘を吐かないのではなく吐けないから、なんて話があります。
脳のような思考回路の無い鬼達は思ったことがそのまま口に出てしまう。
…まあ本人達は頑なに否定しますけれど。
沢山の弱点が広く人に知れ渡っているのにもこういったところに理由がある、という噂です。


「…つまりレミリアは思ったことをそのまま口に出しているって事か?」

「そうですね。さっきのは俗説ですが、彼女や萃香や勇儀を見ているとそうなのかもしれない、と思えるわね。
 思ったことをそのまま口に出しているから我侭だとか偉そうだとか言われているのでしょう。彼女はまだ若いですし…」

「成る程な。じゃあ心を読もうがあんまり意味が無いわけだ。」

「はい、弾幕戦においても鬼達は細かな計算を積み立てていくタイプでなく、何も考えず力で圧倒するタイプなので私としては
 苦手ですね。逆に河童や天狗、あのアリスという人形遣いとは相性がいいと言えますけど。」

「ほう、じゃあ弾幕はパワー!がポリシーな私とは相性が悪いわけだな?」

「いいえ、一見派手で大雑把な攻撃に見えますけど綿密な計算とタイミングで撃っているのが分かります。
 避ける時もよく見極めて口に出しながら回避してますよね?」

「うぐっ…」

「『やっぱりやりづらいヤツ』ですみませんね。逆にあの巫女との相性は最悪です。弾幕の最中ホントに
 何も考えていません。貴女と巫女との相性もきっと…」

「もういい!次いくぞ次!!」



<八意 永琳の場合>

彼女は一体何者なんでしょうね。
はい?…とんでもなく頭がいい。
はぁ、納得です。
何かを考えているのかは分かるのですが、あまりに早くて読み取れません。
まるで言葉を早送りにしたような感じでしょうか。
更に思考がダブって並列して読めたり重なってノイズが入ったりと意味不明です。
意図的に妨害されたのかも知れませんが。


「要するに、何考えてるか分からないって言うことか?」

「私の能力とて完全では無いのです。手に余る存在や理解不可能な相手の考えまでは読めません。」

「ふ~ん…じゃあ山の神様連中や閻魔様の考えてる事は読めないのか。」

「まあ基本的に何を考えてるかは読めますけれど、本心…心の深層については触れる事もかないませんね。」

「なんだ、さとり使えないな。」

「貴女に話しているのはあくまでも例外の話です。迂闊な事を言うと過去のトラウマまでぶちまけますよ。」


<蓬莱山 輝夜の場合>

正直に言ってしまうと彼女も何を考えているのか分かりません。
いえ、心自体はとても読みやすく己に正直な方なのでしょう。
彼女はこの辺りの国の出身ではありませんね?
生粋の月人?ですか、つまりこういうことです。
心に思い浮かべる言語が別のモノなので私には解読が出来ないのです。
心自体の”器”が違うのでしょうか、月の兎のことなら手に取るように分かるのですが…


「私の能力が『やっぱり大した事無い』かどうか、貴女には存分に教えた心算だったけどまた味わいたいですか?」

「…いや、丁重にお断りだぜ。ただ心の言語が違うなんてあり得るのか?」

「通常では考えられません。先の例を考えると、もしかしたら彼女らが飲んだと言う蓬莱の薬の作用…という
 可能性もありますね。」

「クスリは『ダメっ!絶対!!』ってやつだな。」


<風見 幽香の場合>

非常に分かりやすい存在です。
思考も手に取るように分かります。
ただ、正直あまり関わりたくは無いですね。
まあ大体想像がつくのでしょうが、彼女の思考は相手をどうやって虐めてやろうかの一辺倒です。
前に私に絡んできた時も、虐めたらどういう反応するか、とかどんな風に泣くか、とかそんなんばっか。
私の心読んでくれた?なんてニヤニヤ尋ねてくるから始末に負えないです。


「成る程、アイツらしいっちゃあアイツらしいか。」

「まあ、強大な妖怪にありがちな自信家ですね。」

「お前の力で弱みとか握れないのか?」

「私の能力は、考えてる事を読む程度のもの。万能なわけではありません。仮に弱点を聞いて心を読もうとしても、
 その前に弾幕が飛んでくる事でしょう。」

「ああ、お前が苦手なタイプって訳だな。」

「『今度、幽香をけしかけてやろうかな』って貴女が思っていた事を彼女に教えてあげますよ。あの手の妖怪は利用される事を
 嫌いますから。」

「ほんのジョークだぜ。」

「貴女の本心はジョークで出来ているようですね。」


<西行寺 幽々子の場合>

単純に彼女は何も考えてません。
…いえ、表現が良くないですね。
心此処に在らずとでも言うのでしょうか、うまく説明できないですね。
私が読めるのは山水画や墨絵、蝶や桜等曖昧なものだけです。
亡霊と呼ばれる存在だし、心が何かに囚われているのでしょうか。
少々気になったのでその旨を話したのですが、本人曰く、まあいいんじゃない?だそうで…


「…まあ、あの亡霊嬢はそんなもんか。」

「非常に不可解です。私の第三の目で純粋に考えが分からないのは彼女と私の妹のみなんです。」

「いや、まあそんなに悩む事じゃないから大丈夫だと思うが…」

「なぜ心が空で動いたり話したり出来るのか私には分かりません。」

「蝶が花の蜜にフラフラ寄ってくのと同じようなもんだろ。アイツに関しちゃ深く考えるだけ無駄だと思うぜ。
 ほっとく分には無害だし。…食いもんに関しちゃ命がけだが。」

「納得がいきません。」


<八雲 紫の場合>

…はい?
八雲紫と言うとあの妖怪の賢者のことですよね?
その妖怪の考えが知りたいとは意外でした。
……いえ、至極真っ当な方ですよ。
少々突飛な言動がありますけど、今まで話した人の中では非常に常識的な方ですね。
皆の事を心配して少しでも幻想郷を良くしようと日夜努力しているみたいよ。
彼女はまあ古くから噂だけは聞いてますけれどいつもあんな感じらしいです。


「ちょっ!ちょっと待て!!紫だぞ!?あの胡散臭さを濾して人の形にしたようなヤツだぞ!?」

「胡散臭いなんてとんでもない。彼女はいつも誠実です。」

「い、いやいやいや!あのニタニタ笑って何考えてるか分からんヤツが誠実だと??」

「ニタニタなんて失礼な。あの穏やかな笑みは全てを包み込むようじゃないですか。…本気で人の正気を疑わないで下さい。
 貴女より彼女のほうがよっぽど信じられると言うものです。」

「…因みにアイツと知り合ってどのくらいだ?」

「随分と昔からお互い噂を聞きつけての仲、とでも言うのかしら。実際顔を合わして話すのはほんの数回だったけど。」

「お前絶対あのスキマに騙されてるぞ。」

「考えている事が読める私を騙す事などできる訳が無いでしょう。」

「いや、アイツならやりかねん。」

「…ほう『つまりお前の第三の目は節穴だったという訳か』ですか。霧雨魔理沙さん、私はこの地霊殿の主にして怨霊を従える身。
 貴女に是非とも会いたいと言う怨霊だか悪霊だかが何処かにいたようないなかったような…」

「んじゃ!知りたかったことも知れなかった訳だしここいらで御暇するぜ。またなっ!」






こうして彼女は散々騒いで周りを散らかして帰っていった。
全く持って無駄な時間を過ごしたものだ、と思いながらもあまり不愉快でないと思う自分がいる。
昔、忌み嫌われて地下に封印された私達に向けられるのはいつだって白い目と罵言雑言だった。
恐怖、畏怖、嫉妬、忌避、いつだって私が読む心には負の感情が込められていた。
そんな周りの目が厭になって自ら地下に封印されたのだが今はどうだろう。
心が読めると言っても気にする者はなく、それどころか興味と好奇心を持って接してきてくれる。
あの霧雨魔理沙などがいい例だ。
大した用がある訳でもなく、ほんの暇潰しの為にワザワザ地下まで顔を出しに来るのだ。
永い時の中で妖怪たちすら変わって行ったのか、それともあのような人間達が変えていったのか。
どちらにせよ上の世界はとても住みやすそうに見えた。
この籠もった地下にも風が吹いてきた、いや運ばれて来たみたいだ。
私達も変わって行かないといけないな…とそんな風にすら思える。
確かに地下と地上の確執は根強く残っている。
ただ、引き篭もって恨み辛みを抱えていても何も変わらない。
彼女の「またなっ!」という姿を思い起こし自然と笑みが零れる。
とりあえず今度はこっちから宴会を呼びかけてみよう、私はそう思い立ちペット達を呼ぶのだった。




おまけ


<チルノの場合>

「ちょっとした興味で彼女のトラウマの弾幕を覗いたところ、半日前の集団野良妖精との喧嘩の弾幕でした。」

「流石⑨」
…ここでこうやってこう避けて…アーーーッ!!
ピチューン
という初見殺し必墜な魔理沙タイプの飛蝗です。

さとりは知りたいことのカマをかけて相手の思ったことを読む妖怪だと思うんだ。
考えてることが読めちゃうのでssには向かないキャラなのかと思ってたけど案外いけるのかも。

11/27 誤字修正 大感謝
飛蝗
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コメント



0.1830簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
まりさとさとりのやり取りがいい感じ。
題名はそういうことね。
8.80名前が無い程度の能力削除
少し短めな感じですね。
もっと二人の兼ね合いを見たかったです。
でもさとりの心情がうまく出てると想います。
9.90煉獄削除
さとりと魔理沙のやりとりが良かったです。
さとりによるそれぞれの人物が考えていることを教える
場面とかも中々・・・。
考えることは誰しもが違っていて中には不可解な思考をしている人たちもいて
さとりの考えなどを交えた話が面白かったです。
19.70名前が無い程度の能力削除
これは良い感じ。
贅沢を言えば、後半が少し弱いかなーと。
23.80名前が無い程度の能力削除
これは面白いwさとりと魔理沙のやり取りも面白いですが、
大物の思考をさとりの個人意見を交えながら語るソレもなかなか…w

欲を言うなら、神様とかそのほかのキャラのことも聞きたかったなぁ~…とw
24.80名前が無い程度の能力削除
面白かったですがちょっと薄かったかな?という印象が残りました。
後誤字報告です。
>レミリア・スカレーット
レミリア・スカーレットです。
35.70名前が無い程度の能力削除
ちょっとインパクトにかけた感じだけど、とても面白かった。