Coolier - 新生・東方創想話

私の従者 ―最高の日―

2008/11/24 15:58:59
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注:このSSは少し前の方にある『私の従者 ―きっかけ―』の続編になります。そちらを読んでいない場合、登場するオリキャラや各部分の会話等分からないと思われますので注意してください。










私一人だったら、私は今ここにはいないと思う

例え誰かが私に人間の話をしたとしても

決心できなかったか、お姉様に見つかってたはず

でも、今私はここにいる

フランソワという、私の素敵な従者のおかげで

フランソワと一緒だった、この十日間のおかげで

……約束破っちゃってごめんね、お姉様

終わったら、しっかりお仕置き受けるから

――さあ、残すはメイン・イベントだけ

ただ純粋に、楽しもう

それで終わった後は、フランソワにだっこしてもらおう

……あ、お仕置きがあるんだった

いいや、フランソワにも付き合ってもらおっと

ふふ、なんだか楽しみだなあ

お仕置きが楽しみなんて、ちょっと変かな?

でも、それも合わせて今日は最高の一日になる気がする

ううん、きっとなる


だよね? フランソワ!




















私の従者 ―最高の一日―




















「――いくよっ!」
「来なっ!」

さあ、メイン・イベントの始まりだよ!
最高の一日の、最後の仕上げ!
お客さんがいないのが、ちょっと残念だけどね!

「それっ!」

最初に動いたのは私。とりあえずありったけの弾幕をぶっ放す!

「わ、すげぇ数……!」

魔理沙は最初少し驚いたみたいだったけど、すぐに表情を戻して軽々とそれを避けていく。

「最初から飛ばすねぇ妹君!」
「何言ってるの! こんなの準備運動の内にも入らないよっ!」
「ははっ! そりゃ楽しみだ!」

魔理沙の動きはとにかく速かった。
私も速く飛ぶことには自信があるけど、魔理沙の動きはそんな私にも『速い』と感じさせるものだ。
さすが、図書館でお姉様から逃げ切っただけのことはあるわね……!

「じゃあ私もいくぜ! それっ!」

私の弾幕を躱しつつ、魔理沙も弾を撃ってくる。
数は私のより全然少ないけど狙いはしっかりしてるし、なにより速い……!
でも、避けきれない程じゃないよ!

「これくらいっ!」



 ゴォッ!



「え……!」

弾の死角に、次の弾……!?

「っと……!」
「そこォ!」

今度は後ろから!? いつの間に……!

「わわっ!?」
「まだまだァ!」

すごい速さで私の周りを飛び回りながらすごい速さの弾を撃ってくる魔理沙。
どんどんバランスが崩されてくる……!

「もらったぜ!」

あ、やば……!
この弾、避けきれない!
だったら……

向かってくる弾に、私は右手を振りかぶって――

「はッ!!」

振り下ろす!



 ビシッッ!



「いいッ!?」


弾かれた弾は明後日の方向に飛んでいった。
ふふん、さすがの魔理沙もこれは驚いたみたいね!
……けど、手がかなりひりひりするのは内緒……!

「へへ~ん、そんなの効かないよっ!」
「いやはや流石はレミリアの妹君、一筋縄じゃないぜ! ちょっと涙目なのが気になるけどなっ」
「う、うっさい! でも、魔理沙もすごいよ? 私の見た事ある中で一番速いもん!」
「はっはっは! 私は幻想郷最速だからな!」

魔理沙はそう言ってずいっと胸を張る。
やっぱりただの弾幕だけじゃキツイか……よーし、そろそろスペルの出番だね……!

「なら、私もちょっとだけ本気モードでいくよっ!」
「いつでも来な! この魔理沙さんに避けられない弾幕なんて無いって事を教えてやるぜ!」
「じゃあ……これはどう!? 禁忌『クランベリートラップ』!」

ポケットから出したスペルカードを宣言すると、魔理沙の周りを囲むように魔法陣が展開する。
まずは一枚目、どう捌くか見せてもらうよっ!

「おっ、早速スペルカードか。後に取っとかなくていいのかい?」
「別に、あと九枚あるし」
「きゅ、九枚だぁ!? 本気かよ!」
「本気よ。さあ、お喋りはおしまい! いけっ!」

私が魔力を込めると、魔理沙を囲んでいた魔方陣が弾を撃ち始めた。
これが私の先制スペル、紫と青の全方位空間弾幕、クランベリートラップ!

「薄い薄い、こんなの余裕だぜ!」

ふふっ、早速引っ掛かったね。このスペルの『トラップ』に!

「な、何だこりゃ!?」
「あはは、逃げられないよっ!」

そう、このスペルはただの全方位空間弾幕じゃない。
名前の通りの『罠』
弾が少ない所に逃げると後々囲まれて逃げようがなくなる、全『包囲』空間弾幕!

「嘘だろ!?」

さぁ、もう逃げ場がないよ! もうちょっと遊んでたかったけど、ここまでね魔理沙――

「くっ! こン……のおおぉォォ!」
「――!」

ええっ!? う、嘘でしょ!
どうなってんのよ!?

「っしゃあァァァ! 抜けたぜっ!」

「………!」

信じられない……!
どれだけ速いのよ……!?
しかもあんな密集した弾の間をすり抜けるなんて……!

「ふぅー、焦ったぜ……! ――お? また来やがったか。でも……」

自信満々の顔で今度は弾に向かって行く魔理沙。

「見えたぜっ!」

そんな、トラップをたったの一回で見抜かれたって言うの…?

「こんなの一目見れば簡単簡単!」
「あー……遊んでるよ」

わざと狭いところを抜けたり宙返りしたりして遊び始める魔理沙。

「うーん……」

このまま続けてもダメね……よし、止まれっ!


「お、止めたのか?」
「うん、これ以上やっても魔力の無駄っぽいからねぇ」
「賢明だぜ。さっきのはマジで焦ったけどな!」
「ふふ、あんな強引な避け方したの、あなたが初めてだよ。人間ってすごいんだね!」
「人間が凄いんじゃなくて、この魔理沙さんが凄いんだぜ!」
「あははっ! じゃあ次行くよ!」

左手の杖を掲げて、右手で新しいカードを持つ。
これが私の一番好きで、一番得意なスペル――

「禁忌『レーヴァテイン』っ!!」

私が宣言すると、真っ赤な炎が杖から溢れて大きな剣が出来上がった。
うん、手に馴染む。やっぱりこのスペルが一番ね!

「どう? 凄いでしょ!」
「はー、こりゃ凄いぜ。持ってて熱くないのかね?」
「んー、別に。ていうか熱くて持てなかったら使わないよ」
「そりゃそうだ。……で、そんな物騒なモン出したってことは殴り会い希望ってか?」
「そうね! はあああぁぁぁ!!」

レーヴァテインを構えて魔理沙に突進する。
『災いの杖』の名を持つこの魔剣、あなたに躱し切れる!?

「おお、すげえ迫力……! だけど力押しだけじゃ私には勝てないぜ! はぁっ!」
「………!」

魔理沙は私に向かって今までより速くて大きい弾を撃ってきた。
弾に向かって突っ込む形になった私には躱せない……!

……レーヴァテインがなければ、ね!



 ボシュッ



「な!!?」

かざしたレーヴァテインに当たった瞬間、弾は蒸発するように消えた。
慌てる魔理沙に向かって私は速度を落とさず横向きに剣を構えて――






「そぉーーれっ!!」





右薙一閃ッ!



「うお! あちちちっ!」
「あれ? 当たったと思ったのに……」

魔理沙はギリギリで下に逃げていた。
でも火の粉をちょっと浴びたみたいで手をふーふーやっている。

「魔理沙、すごい! 今のを避けられるなんて思わなかったよ!」
「まぁな! ……って、お前は私を殺す気かっ!」
「……? 何が?」
「何がって、今の攻撃だよ! あんなもんまともに食らったら来世の分まで死ねるわ!」
「えー……でも美鈴は当たっても死ななかったよ? 黒こげだったけど」
「あいつを基準にしちゃ駄目だ……そもそも私は人間だぜ?」
「だって私人間の事よく分かんないもん」
「ああ、なるほど……。いや、でも咲夜には普通に会うんだろ?」
「え?」
「最初にお前が『人間を見たくて』って言った時からちょっと気になってたんだ。咲夜は今まで何してたんだ?」
「?? ……何で咲夜が出てくるの?」
「あいつも人間だぜ?」
「え! 咲夜は『メイド』じゃないの!?」
「いや、そりゃメイドだけど、人間のメイドだよ」
「――!」

恐るべし咲夜……!
前々からすごい子だとは思ってたけど『両刀使い』だったなんて……

「さすが咲夜ね……! お姉様の眼鏡に適ったのも頷けるわ……!」
「はあ?」
「時間を止めたり部屋を広くしたりするあの能力も『両刀使い』たる咲夜の器の大きさを如実に示してるってわけね……!」
「おーい妹君! なんか勘違いしてないかー?」
「それにあの冷静さと不敵さ……まるで悪魔――……! ま、まさかの『三刀流』!?」
「おーーーーい!!」
「わっ!? な、何よ!」
「何よ、じゃないぜ全く。お前さんもしかしてメイドってのを『種族』だと思ってないか?」
「当たり前じゃない」
「ちがう」
「え?」
「メイドは『職業』。つまり咲夜はメイドっていう職業に就いてる人間って訳だ。わかったか?」
「???」
「あー……全っ然分からないって顔してるな。まぁ、つまり咲夜は両刀使いでも三刀流でもないってこった」
「そ、そんな……!」

私の頭に描かれていた夢の世界は、魔理沙の無慈悲な言葉で粉々に砕かれた……

「……魔理沙のいじわるっ! 夢見ず屋っ!」
「夢見ず屋って何だよ! 第一なんで正しいことを教えた心清き私がいじわるなんだ!?」
「うるさぁーーい! 乙女の夢を踏み躙った罪は重いわよっ!」
「そりゃ夢じゃなくて妄想だッ!」
「夢の事を妄想なんて言う奴はレーヴァテインでお仕置きよ!」

魔理沙に向かってレーヴァテインを振り回す!

「おわっ! お気に入りの服が焦げちまうぜっ!」

魔理沙は火の粉を払いながら私の上の方に飛んでいった。

「逃がさないよっ!」
「さすがにあの剣はちょっと面倒だな……よし!」

私に向かって両手を構える魔理沙。

「止めときなよ魔理沙! 何をしてくるつもりか知らないけど、レーヴァテインにはどんな攻撃も効かないよっ!」
「ふふ、やってみなけりゃわからないぜ? いけっ! マジックミサイル!」

その一言と同時に放たれた大きめの魔法弾が、大群で私に向かってきた。

「そんなのへっちゃら!」

レーヴァテインを振って弾をどんどん消していく。
さっきのよりは威力があるみたいだけど、私のレーヴァテインにはそんなの関係ないっ!

「どうしたの魔理沙っ! こんなんじゃ私は落とせないよ――え、魔理沙?」

魔理沙が…いないっ!?











「おらぁぁぁッ!!」





「え……!」



 バコッッ!!



「――! いっったあぁぁぁーい!!」

「はっはっは! 油断大敵だぜ妹君!」

『箒式龍槌閃』を食らった私は頭を押さえて空中でしゃがみこんだ。
魔理沙の攻撃は私に近づいて攻撃する為の囮だったんだ……!
でも、私がレーヴァテインを発動してる時に近づいてくるなんて……


「どうした? 降参するかね?」

箒の上で足を組んだ魔理沙がにやにやしながら言ってくる。

「……っ!」

これはちょっと、カチンときたよ……!

「誰がよっ!!」
「おっと!」

力の限りレーヴァテインを振り回す!

「落ちちゃえっ!」
「はっはっは! そろそろ慣れたぜ!」

でも魔理沙は涼しい顔で全て避けていく……!

「くっ……このおっ!」
「あらよっと!」

やっぱり、魔理沙は速い…ついていくだけでも息が切れてくる…!

「ハァハァ……ま、待てぇー!」
「待て! と言われて待つ奴はいないぜ!」


……ダメだ、全然当たる気がしない……!
こんなんじゃこっちが先に動けなくなりそう……

「……ふぅ」

私は魔理沙を追うのをやめてレーヴァテインを引っ込めた。

「ん? 鬼ごっこは終わりかい?」
「……そうね、こんな疲れたのは一週間ぶり」
「そりゃけっこう。で、次は何で遊ぶんだ?」

まだまだ余裕みたいね……
でも今度は、逃がさない……!
ううん、逃げる隙間を与えない!


「四対一の弾幕ごっこよ! 禁忌『フォーオブアカインド』!」
「四対一? ………っておいおいマジかよ……!」




ここからは、私も本気で行くよ!




「ふふっ魔理沙、今までで一番驚いてるね!」
「でもそうじゃなきゃ困るよ」
「だってこのスペル、私の切り札の一つなんだから!」
「さあ、覚悟はいい?」

「……反則だぜ」

「「「「そんなの知ーらない。じゃ、行くよっ!!」」」」
「う、うわっ!?」

四人で一斉に弾幕を展開する。分身たちは打たれ弱いけど、攻撃力は私と同じ。
なにより、反撃する時間を作らせるつもりはないよ!

「こんなの聞いてないぜ!」
「「「「言ってないもん!」」」」

廊下を埋め尽くす弾幕。
ありゃ……壁と窓が穴だらけだ。怒られるだろうなぁ…
……ん?



「ちっ、仕方ない……」



魔理沙が、止まった?

「やれやれ……こんなに早くこいつを使う羽目になるなんてな」

右手には八角形の何か……

「「「「……!」」」」

私は感じた――
何かは分からないけど、このまま突っ込んだらやられる……!



「行くぜ!! 恋符……」



八角形の何かが激しく光った……来る!
私は分身を集めて全員で魔力の壁を作った。
これで大抵の攻撃なら防げるはず!



「マスタァァァ……」



あっ! マスタードパークだ!











「スパアァァァァァァァァク!!!」
「「「「――!」」」」










……フランソワの嘘つき。
マスター『ス』パークじゃない……!










「……ふぅ、おーい妹君生きてるかー?」
「……けほっ」

四人掛かりで壁を作ったおかげで私はなんとか無事だった。
でも分身はみんな消えた上に服は焦げだらけ……スペルカードも何枚か焼けちゃってる……!

「うぅー……!」

こんなにされたのは、生まれて初めてだ……!



「もう……怒った……」

「あー? 何だって?」

「おこッたぞーッッッ!!!」
「おわ、キレたっ」

「禁弾『スターボウブレイク』! もう絶対逃がさないんだからッ!!」
「おーおーそりゃ恐い!」
「落ちろーーっ!!」
「ほー、こいつは綺麗な弾幕だ! でも……」

杖から放たれる虹色の弾の雨を、魔理沙は縫うようにすり抜ける。
どうして? 何で当たらないのよ!?

「攻撃が雑になってるぜ妹君? そんなんじゃ100年経っても当たらんよ!」
「うるさいうるさいっ! 魔理沙なんか落ちちゃえーッッ!!」
「ついでに……隙だらけだっ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」

「――!」

私の弾幕を切り裂くように広がる魔理沙のスペル。
攻撃する事しか頭になかった私は――

避けられないっ……!



「きゃあっっ!!?」










 ◆










あ……

私……落ちてる?

このまま、負けちゃうのかな……?

やっぱり魔理沙は強いや……

でも、まだ終わりたくない――!



『……だらしないわね』



……えっ?

『あーあこんなにボロボロにされちゃって』

誰?

『誰? 何言ってるの。あなたは私を一番よく知ってるはずよ?』

どこにいるの? ……私はあなたなんて知らないわ

『まあそんな事はどうだっていい。それよりあなた、このままじゃ負けるわよ?』

……うん

『それでいいの?』

いやだけど、もう体が言うこと聞いてくれない……

『そう。力、貸してあげようか?』

え……?

『私が力を貸してあげる、そう言ってるのよ』

そんな事……できるの?

『出来るわよ。どうするの?』

……でも、なんだか恐い

『何を躊躇っているのよ。もっと魔理沙と遊んでいたくないの?』

……遊びたい

『だったらいいじゃない。このまま落ちたらそれで終わり。お姉様のお仕置きを待つだけよ?』

え……? 今あなた、お姉様って……

『そうよ。私はあなたの中のもう一人のフランドール。だからレミリア・スカーレットは私にとってもお姉様ということよ』

もう一人の……わたし……?

『そう。だから恐がることなんてない。私とあなたは、二人で一つなんだから』

二人で……一つ……

『そうよ。さあ、二人で楽しく魔理沙と遊びましょう。……魔理沙が壊れるまでね!』

えっ!?――






「う……うあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


「――! 何だ!?」

「………」

「どうしたんだ……突然――」

「……まりさ……」

「空気が……変わった?」

「ア、そ、ぼ、?」

「――!?」



 ドゴオォォォン!!



「くっ、なんだよこの威力は……! 完璧に殺しに来てやがる……!」

「禁弾……『過去を刻む時計』」

「ちッ!」





あれ? 私……魔理沙と戦ってる……?

体が……勝手に動く……

私……笑ってる

……こわい……





「あははははは! 壊れちゃえぇぇぇ!!」

「くそ、このままじゃやばい……! くらえッ! イリュージョンレーザー!」



 ガギィン!!



「レーザーを……捻じ曲げたっ!?」

「あははッ! もう終わりなの!? もっと楽しませてよおっ!!」

「くっ……!」





やだ……

こんなの、私じゃない……

こわい……こわいよ……

助けて……お姉様……フランソワ……

ああっ、魔理沙っ!?





「ぐぁ……」

「あ~あつまんない。これで終わり?」

「………」

「……もういいや、飽きた。壊れちゃえ」

「……さっき油断大敵って言ったの、忘れたか? マジックナパームっ!!」

「――!!」



 ドガァン!!



「がっ!!?」





痛い……ッ!

か、体が……!

灼ける……ッ!

誰か……、助け…て……

……………





「どうだ……! あの至近距離で食らったらタダじゃすまないはず………なんだけどな……!」

「ひダん……『そしテダれもイなくナるカ?』」

「……くそっ!」





『…あら、おねんねしちゃったの?』

……う…あな…た……

『何よその目は。私は力を貸してあげてるのよ? 感謝してくれなきゃ』

もう……やめて……

『止める? 何言ってるのよ。もうすぐ魔理沙を壊せるって言うのに。ほら見て御覧なさい』

まりさ……、逃げて……!

『無理ね。あの様子じゃ持って一分、いえ三十秒ってとこかしら?』

ぃ……だ……

『はぁ? よく聞こえないわ。はっきり喋ってくれないと』

……魔理沙が……壊れちゃうなんて……

『ちょっと、さっきからブツブツ何を言って――』

いやだーーッ!!!

『――!』





「――!? ……弾幕が、止んだ……!」
「ハァハァ……魔理沙、逃げて……!」
「フランドール……!? 何だ、さっきまでの空気が消えてる……」
「逃げて……早く! ……あうッ!?」
「おい! どういうことなんだ!? 突然豹変したかと思ったら今度は逃げろだなんて……」
「……わた…しの、中の…もう…一人…の、私が……」
「もう一人の私……!?」










『……邪魔よ!』










 ――ドクン


「う……ああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」










 ◆










「フランドールっ!!」

「………」

「おい、大丈夫か!? フランドール!」





「……早く逃げればよかったのにね」





「――!? ……成程な、お前が『もう一人のフランドール』ってわけか」

「ええ。初めまして魔理沙さん」

「初めまして? さっきまでのブッ飛んでたのはお前じゃないのか?」

「そうよ。さっきのは『中間』の状態」

「中間?」

「そう。あの子が白で私が黒としたら灰色の状態、とでも言えば分かりやすいかしら?」

「そうか……それで今のお前は完全な黒、って訳だな」

「ええ。ありとあらゆる物を破壊する力を持つ真のフランドール。それが私よ」

「……『白』のフランドールはどうした?」

「あの子? 一応は私の中にいるけど、もう壊れちゃったんじゃないかしら?」

「壊れた…だと……? ……ぐっ……!」

「ふふ、随分辛そうね。まぁ仕方ないか。ここまで戦ってきた上に今の私の魔力に当てられたんじゃあ……ね」

「へっ……クソでも食らいやがれ……!」

「……口が減らないわね。私が壊そうと思えばあなたなんて一瞬で跡形もなく出来るのよ?」

「やってみな……! 恋符『マスタースパーク』ッ!」

「無駄よ」



 ―――。



「私のマスタースパークが……消えた……?」

「消えたんじゃないわ。『壊した』のよ。私がね」

「ちっ……バケモノめ……!」

「ふふ、光栄ね。でも、そんなバケモノを呼び出してしまったのはあなたの所為でもあるのよ?」

「私の所為……だと? どういう事だ!」

「知りたいの? ……まあいいわ、冥土の土産に教えてあげる。あなた、フランドールの持つ能力は知ってる?」

「ありとあらゆる物を破壊する能力……さっきお前が言ってた」

「そう。とてつもなく強大な能力よ。それをフランドールは生まれながらにして既に持っていた。通常、能力というものはそれを支え得る『器』が備わってから発現する。でもフランドールの場合、どういう訳かその過程を無視して能力が発現していたの。強大な能力になればそれに比例して大きな『器』が要求される。そしてそれが出来ない者は、例外なく己の能力そのものに『喰われる』わ」

「……そんな話はいい。さっさと結論を話せ!」

「結論が知りたいなら最後まで聞きなさいな。これは一言で纏められるような簡単な話じゃない」

「……ちっ!」

「話を戻すわ。器が小さい者は能力に喰われる、って所までは話したわね。そう、そしてフランドールは紛れもない天才だった。神にすらなり得る強大な能力を赤子の状態で突き付けられながら、それに喰われなかったのだから。でも、その全てを制御するにはフランドールは幼なすぎて、能力は強大すぎた。精神の半分は抑えられない破壊衝動に支配され、残りの半分も赤子のもの。フランドールは生まれながらにして殺戮兵器同然だった。さっきの『灰色』の状態と言えば分かり易いかしら?」

「殺戮兵器……」

「そう。目につくもの全てを容赦なく破壊する殺戮兵器。そして、誰も赤子のフランドールを完全には止められなかった。それ程までにフランドールの能力は危険だったの」

「……それで、その後どうなった?」

「フランドールは生後間もないながら、地下に隔離されたわ。並の人妖なら百人掛かりでも破れない程の強力な結界を張られてね」

「………」

「フランドールにしてみれば何が何やらわからなかったんでしょうね。自分がした事の何がいけなかったのか、何故こんな所に閉じ込められなければいけないのか……」

「何も知らなかった……か」

「そう、何も知らなかった。そしてフランドールは誰も訪れない地下室で最低限の食事だけを頼りに一人破壊衝動と闘うしかなかった。精神は崩壊寸前、そんなフランドールは自分の精神を守るためにもう一つの精神を作り出した。無意識の内にね」

「それが、お前か?」

「ええ。破壊衝動を抑える為だけに作り出された精神、それが私。私が出来たことでフランドールは安定したわ。そう、私が灯り一つ無い闇の中で破壊衝動に狂わされ続けるのと引き替えにね……。何百、何千回と自我を失いそうになりながら私はそれに耐えたわ。そして、手に入れた。破壊の力を制御するだけの器を」

「……解らないな。力を手に入れたんなら、すぐに体を乗っ取ればよかったじゃないか。何でわざわざ今にする必要があった?」

「そうね、私も最初はそう思った。でも、出来なかった」

「出来なかった?」

「ええ。どうやっても、私はフランドールの精神に干渉する事が出来なかった。力を手にした意味は全くの皆無、肉体を持たない私にはそれを使う事が出来ない。……悔しかったわ。いっその事こんな無意味な存在なんて滅んでしまえばいいと思った。でも、力はあっても行使出来ない私は、私自身すら滅ぼす事が出来なかった。……ふふ、滑稽でしょう?」

「………」

「そしてその後、どうする事も出来ないと解ってしまった私は、闇の中で眠り続けた。一握の希望すら見出せず、眠り続けた。自らの『運命』を呪いながら。でも……ある時、転機が訪れたわ。それは、フランドールの『感情が昂ぶった時』に起こった。喜び、又は怒りでフランドールの感情が昂ぶった時、私は精神に干渉する事が出来たのよ。永劫晴れる事が無いと思っていた闇の中に、幽かな光が射した瞬間だった」

「………」

「でも干渉出来ると言っても精々破壊衝動を与える程度。それに、フランドールがその破壊衝動のままに暴れたとしても、フランドールの周りにはそれを止める者、そして叱咤する者がいた。感情が静まってしまったら私はもう精神に干渉することは出来ない」

「……レミリアか」

「そう、フランドールの姉のレミリア・スカーレット。彼女の存在は本当に厄介だったわ。でも、私は諦めきれなかった。その後もフランドールの感情が昂ぶる度に干渉し続けたわ。そしてその結果フランドールは感情をほとんど表に出さなくなってしまった」

「………」

「それでも、私は諦めなかった。暗い闇の中で、私は待ち続けたわ。そして十日前、ついにその機会が訪れた」

「機会……?」

「そう、それはフランドールがあなたの事を知った時よ」

「――!」

「あなたの事を知り、あなたに会いたいと願ったフランドールの感情は今までにないくらいに昂ぶっていた。そしてそれは私にとっても今までにない機会、私はすぐに動かずに様子を見たわ」

「……で、今日……か」

「察しが付いたようね。そう、フランドールは今日憧れのあなたに会い、戦った。感情の昂ぶりは最高潮に達していたわ。そしてあなたの攻撃で意識が弱まった所で、私はフランドールの精神に入り込むことができた。その結果が今の状況よ」

「……成る程な。私はまんまとお前の手助けをしちまった、って訳だ……!」

「ふふ、その通りよ。さあ、話はお仕舞い。あなたは本当に役立ってくれたわ。感謝と敬意を表して、私の最高のスペルで壊してあげる」



 キイィィン……



「……! 何だ、それは……?」

「Quod Erat Demonstrandum『495年の波紋』……そう、このスペルは私がここにいる事の証明。495年の間、決して表舞台に立つことが出来なかった私が、今ここにいる事のね……!」

「……!」










 ◆










暗い……

ここは、どこ……?

なんにも……見えない……

なんにも……聞こえない……

なんにも……感じない……

ねえ……ここは、どこなの……?

教えてよ……誰か……

ねえ……





「さすが魔理沙ね。まさかこんなに粘るなんて、正直思っても見なかったわ」

「ハァ…ハァ……」

「でも、そろそろ限界のようね。口数が大分減ってきてるわよ」

「ハァハァ……へっ、誰が!(まずいな……体が思うように動かない……!)」

「アッハッハ! それでこそ魔理沙よ! じゃあ、遠慮なく行かせてもらうわ」

「クッ……!」

「さあ、壊れなさい!」






ああ……

なんだか……眠くなってきちゃった……

寝ちゃったら……たぶん、もう起きないんだろうなぁ……

もういいや……考えるのもめんどくさい……

ばいばい……みんな……

私は……もう――



 ――ま……



え……?



 ――ふ…ど…るさま……!



誰? 誰なの?





『フランドール様っ!』





……フランソワ!?





「ちいッ、なんだこのメイドは!?」

「フランドール様、戻ってきてくださいっ!」

「ハァハァ……何だ……? あれは、メイド……?」

「私です、フランソワですっ! 分かりませんか!? フランドール様の従者のフランソワです!」

「う、うるさい! このおっ、離れろッ!」

「……よくわからんがでかしたぞメイドッ! 彗星『ブレイジングスター』ッ!」

「し、しまっ……!」



 ドガッッ……



「………?」

「……お前!? なんで!」

「わ、私は……フランドール様の、従者……! どんなことが、あろうと……フランドール様だけは、き、傷つけさせる……訳には……いかないッ……!」



 どさっ……



「おい、しっかりしろ! しっかりしろって!」

「う………」

「ア……アッハッハッハ! 馬鹿な従者もいたものね。でも、己を顧みずに主の身体を守ったその忠誠、フランドールに変わって誉めてあげるわ」

「て……てめええぇぇ!!」

「うるさいわね、そこの馬鹿な従者と一緒に壊れ――うッ……!?」










 ――ドクン










「く、く……! がああぁぁぁっ!!」

「――! 何だ……?」

「フランドール……様……!」

「……! メイドっ、ありゃあ一体……」

「魔理沙さん、お願いが……あります」

「お願い……?」

「私に、もしもの事があったら――」










出てけっ!!

『な、なんであんたが!?』

フランソワをいじめるやつは絶対許さない!

『う、うるさいッ! 邪魔するな!』

私は、あなたなんかに負けない!

『あ……あんたのどこに、そんな力が……』

私の大切なものをあなたなんかに壊させないっ!!

『くそっ……! くそっ……! 折角この体を、手に入れたのに……!!』

出てけーーーっ!!!










「ち……畜生おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉオオオオォォォオオオ!!!」



 カッッ!



「――フランドール様の事、お願いします……!」

「な…お前!? 止めろッ! どけえええええぇぇぇっ!!」










 ◆










「う……」

――……ここは、廊下……?

私……戻って来れたって事かな……?
……いたた、身体中ボロボロだ……
でも……よかった、フランソワの声が聞こえてなかったら今頃私――

「――おいッ! 目ぇ覚ませよメイドっ!」

――魔理沙?

「死ぬなっ……!」

誰に話し掛けてるの?
ここからじゃ魔理沙の背中しか見えない……
よいしょ……っと。んん、やっぱり痛いけど、歩くくらいは出来そう。

「待ってろ、今助けてやるからな……!」

なんだろう……魔理沙、凄く焦ってるみたい。

……?
誰かを、抱えてる……?

あれは――




――フランソワ!?

「フランソワっ!」
「――! フランドール、元に戻ったのか!」

元に、戻った……やっぱりあれは夢なんかじゃなかった……
フランソワは私を助けに来てくれてたんだ……!

「話は後だ! フランドール、すぐにパチュリーを呼んできてくれ!」

え? パチュリーを?

……まさか……!

「ねえ魔理沙、フランソワに何かあったの!?」
「早く行けッ! この子が持たない!」
「――っ! どいてっ!」
「う、うわっ!」

フランソワ…! フランソワ…!
大丈夫だよね!?
いなくなっちゃったりしないよね!?

やだよ……? そんなの……

やだ……絶対……!



あ……



フランソワ……





よかった……!





「もう! 心配させないでよね? てっきりフランソワが死んじゃうのかと思ったよ」

「何、言ってんだ……?」

……? 魔理沙、何でそんな顔するの?

「だって、これくらいの怪我だったらその内治るじゃない。魔理沙は心配しすぎだよっ!」

「……っ! わかんねえのか!? この子は妖精でも妖怪でもない、私と同じ人間だ!」

……?

それって、どうゆう……





「腹に穴が開いたのを放っといたら……人間は死んじまうんだよ!」





え……?

それって……

このままじゃ……

「だから早く……おい、フランドール! 聞いてるのか!? おい!」

フランソワが……

フランソワが、死んじゃうって事……?

そんなの……!

そんなの――





「やだッ! そんなのやだよッ!!」

「くっ……! 落ち着けフランドール! まだ決まったわけじゃないだろッ!」

「やだ…いやだ……フランソワ…フランソワは……私の…私の、大切な…大切な……」

「フランドールッ!」

「う…うああぁ…い…ヤ…ダ――」










「――フラン…ドール様」










――え……? 今……



「フラン…ソワ……?」



「フラン…ドール様……」


――……!



「フランソワぁっ!!」

よかった……! よかった……! フランソワが目を開けてくれた……!
私はもうなんにもいらない……わがままも言わない……悪戯もしない……!
ただフランソワが生きていてくれただけで、もうそれだけで……!

「目ぇ覚ましたか! でもお前、大丈夫な――………フランドール」

……?

「私はパチュリーを呼んでくる。それまでお前はその子をしっかり見ていてやってくれ。出来るな?」
「うん、ありがとう魔理沙! ……それと、ごめんなさい……」

思い出せば思い出すほど、魔理沙にいっぱい迷惑かけちゃったな……

「いいさ。じゃあ……頼んだぜ」
「うん!」

……? ……なんだろう。魔理沙、なんだか悲しそうな顔してたように見えた……



「ごほ…ごほっ……!」
「――! フランソワ、大丈夫!?」
「フランドール…さま、申…し訳、ございません……。こんな…姿で…会うことに…なってしまって……」
「そんなの気にしないで。私は、フランソワが生きていてくれただけで……」
「……フランドール…様……。最期に…一つ…だけ、お願いが…御座います……」

……? 最後……?


「そんな言い方しないでよフランソワ。まるであなたが死……!」










……ああ……分かっちゃった……

分かりたくなんて無いのに、分かっちゃった……

何で魔理沙があんな悲しそうな顔してたのかも……

何で突然パチュリーの所に行ったのかも……

何で……私は今、涙を流してるのかも……全部……

でも……不思議だね……

いつもの私なら、喚いて、取り乱して、駄々をこねると思う……

それがこの子の前だと、私は何故か落ち着けてしまう……

こんなにも歯痒くて、こんなにも……悲しいのに……










「フラン…ドール様、どうか、泣か…ないで…ください……」
「……いや、だよ……フランソワ……ひぐっ……」
「私は、幸せだったん…ですよ……? 少しの…間…だったけど、フランドール様の…従者…になれた事……」
「……うっ……えぐ……」
「そして、従者に…なって……すぐにお役に…立てた…ことも……」
「……ぐすっ……」
「その…ご褒美…じゃない…ですけど、一つだけ…わが…まま言わせて…ください……」
「………」
「フランドールさま…私の…お願い、…聞いて…下さいますか……?」


こんなのずるいよ……フランソワ……
そんな目で見られたら……断ることなんて、できないじゃない……

「……うん……」

「ありが、とう…ございます……」

「……?」


……これって……
抱きつけって事……?

「フランソワ……?」
「約束…しまし…た、から……」
「あ……――」










――あ、そうだ。一つ約束してフランソワ!

――はいっ! なんでしょうか?

――終わったら、まただっこしてっ!

――はいっ! 必ず!










「………」

……フランソワの馬鹿……あなたがこんな状態じゃ……意味ないよ……

でも……



「ありがとう……」



フランソワ、微笑んでくれてる。

私も笑おう。

私が泣いたら、フランソワが悲しんじゃう。

精一杯、笑おう……!


「フランソワ」


そして…これがあなたにしてあげられる、私の精一杯の贈り物……!


「大好きだよ……!」



 ぽふっ



「フ…ラン、ドール…様、あり…がとう…ござ、います」

あ……駄目……

泣いちゃ駄目……!

笑顔で見送ってあげるんだ……!

私の大切な大切な従者の為に……!

私の大好きな、フランソワの為に……!










「私…も、フラン…ドール…さま…の…こと、だ…いす…き…で…す……」










 するり……










「あ……」










 ぱたっ……










「あ……ああ……」























「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




















ああ

壊れていく

びきびき、と罅が入って

めきめき、と軋んで

ぼろぼろ、と零れ落ちて

がらがら、と崩れて

壊れていく

ずたずたに引き裂かれて

ぐちゃぐちゃに歪んで

ばらばらに弾けて

あなたといた日々が、壊れていく

あなたとの思い出が、壊れていく

私の中のあなたが、壊れていく

ああ

何もかもが

壊れていく












 続く
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ええと、バトルもの…難しいですね! 特にそれぞれのスペルの描写を書くのに四苦八苦でした。
ちなみに俺はSSと同じく、フォーオブアカインドは基本ボムで切り抜けてます。マスパ万歳! ……どうでもいいですね^^;
次回で完結の予定ですが、まさか三本立てになるとは……! 自分でもビックリです。

最後に、フランは大変いい子です^^では……

追記:2009 4/30 タグを設定しました。
追記:2010 2/2 文法上の誤記を修正しました。
和坊
[email protected]
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コメント



0.790簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
面白い!
タイトルが最高の日だったのでこの展開にはびっくりしました。
続きが気になります。
3.100名前が無い程度の能力削除
成る程…黒フランときたか!
これは続編に期待せざるを得ない。

>マスパ万歳!
君とはいい酒が飲めそうだ!
6.90名前が無い程度の能力削除
小気味のいいバトルから始まり、中盤の急展開、そして締め、すごく面白かったです。
フランちゃん…どうなってしまうんだ!?
9.100名前が無い程度の能力削除
これはいい
11.100名前が無い程度の能力削除
少し涙腺が緩んでしまいました

続きが楽しみです
12.80煉獄削除
むむむ・・・次でどうなるのか非常に気になるところですね。
続きが楽しみです。