注:このSSにはオリキャラが準主役として登場します。
「なんかお呼びかしら?」
「呼んでないぜ」
私は今、普段いる事のない廊下にいる
「おまたせ」
「あんた誰?」
『勝手に部屋を出ない』というお姉様との約束を破って
「人に名前を聞くときは……」
「ああ私?そうだな、博麗霊夢、巫女だぜ」
そのお姉様は今、咲夜と一緒にお出掛けしててここにはいない
「フランドールよ、魔理沙さん」
「あんた、なにもん?」
そして私の目の前には『人間』の霧雨魔理沙
「私はずっと家にいたわ。あなたがこの家に入り浸ってる時もね」
「居たっけ?」
私が生まれてから495年
「ずっと地下で休んでいたわ。495年くらいね」
「いいねえ、私は週休二日だぜ」
初めてちゃんとした目的を持って部屋を出た
「いつもお姉様とやりとりしているの、聞いていたわ」
「お姉様? 妹君かえ」
お姉様を倒した、この魔理沙に会うために
「私も人間というものが見たくなって、外に出ようとしたの」
「良かったじゃないか。ほれほれ、思う存分見るが良い」
きっかけは十日前
「一緒に遊んでくれるのかしら?」
「いくら出す?」
ご飯を運んできてくれたメイド……ううん、私の素敵な従者に話を聞いたとき
「コインいっこ」
「一個じゃ人命も買えないぜ?」
ちょっと話が長くなったけど、そろそろ始めよう――
「あなたがコンティニュー出来ないのさ!」
メイン・イベントをね!
私の従者 ―きっかけ―
≪十日前≫
コンコン……
「開いてるよ」
ガチャ……
「失礼しますっ。おそくじ……お、お食事をお持ちしました」
「そこに置いといて」
「畏まりました……」
コト、コト……
「………」
最近、お姉様が部屋に来てくれなくなった。
最後に会ったのは確か……一週間と二日前だったと思う。
今までは大体三、四日に一回は顔を出してくれてたのに……
とぽぽぽ……
そういえば……ちょっと前に上がやたらうるさい日があったっけ。
確か、一週間とちょっと前だった。
ここんとこ図書館あたりが騒がしいし時があるけど、それもあの日からだし……
もしかしてお姉様が来なくなった事と関係してるのかな?
カチャ……
「では三十分後に片付けに参りますので、ごゆっくり……」
「ありがと」
うーん、色々気になる……
よし、このメイドに話を聞いてみよっと!
あ、そうそう。
この子は最近よく私の所にご飯を運んでくる新人メイド。
真っすぐできれいな茶色のショートヘアーにちょっと幼さの残る顔、身長は咲夜より頭一つ分くらい小さくて、整った体型に中くらいの胸……
まぁ、『そこそこ』かわいいってとこかな。うん。
因みに名前は知らない。どうせメイドだしね。
「ちょっと待って」
「――あひゃ! は、はい、何でしょうか……?」
ん? ……あひゃ?
あー……顔、すっごい引きつってる……
この子もやっぱり他のメイドと一緒で私の事を恐がってるみたいね……
ま、そういう反応には慣れちゃったから気にしないけど……
「最近お姉様が何してるか、知ってる?」
「――……! はい、知ってます!」
む、今度はすっごい明るい顔になった。
もしかして……弾幕ごっこの誘いじゃなかった、って事に安心したのかな?
まったく……失礼しちゃうわ。私イコール弾幕ごっこだなんて、ねぇ。
「先輩に聞いた話なんですが、お嬢様は最近よく『博麗神社』という所に行っているそうです」
神社……? 間違ってもお姉様がお参りなんてするわけないし……
「それで、その神社にお姉様は何をしに行ってるの?」
「巫女に会いに行ってるみたいです。名前は……確か博麗、ライム……だったかな?」
ライム……何だか酸っぱそうな名前。
果物の妖怪か何かかな?
でもお姉様が会いに行くくらいだからきっと凄い奴なんだろうなあ。
「そのライムっていうのはどんな奴なの?」
「私は実際に見たわけではないですが……もの凄く強い人間らしいです」
「え?」
……人間って、あのご飯とか飲み物の?
「強いって、どれくらい? 美鈴くらい?」
「いえ、もっとです! なんでもこの間、霧雨魔理沙っていう魔法使いと二人で館に乗り込んできて、美鈴さんやパチュリー様、そしてメイド長、さらにはお嬢様までも負かしたとか……」
「――! お姉様が……負けた……!?」
しかも……人間に?
あ! あのやたらうるさかった日に来てた奴……
あれって、人間だったの……!?
「私も話を聞いたときは心底驚きました。まさかメイド長やお嬢様さえも……」
信じられない……!
たまに弾幕ごっこに付き合ってくれるお姉様の強さ、私は誰よりも知ってる。
そのお姉様が『ご飯』に負けたなんて……
「……その話、詳しく聞かせて……!」
「はいっ」
その後、彼女は色々なことを話してくれた。
お姉様が太陽を隠すために紅い霧を出した事、博麗ライムと霧雨魔理沙という人間はそれを止めさせる為に館に来たという事、その二人の特徴とか実力、仕事の愚痴、幻想郷七不思議のこと……
なんだか関係なさそうな話題もあったけど、何だか楽しかったから私は出されたご飯もそっちのけで話に聞き入った。
それにしてもこの子、すごい楽しそうに喋るなぁ……
「――と、私が知っている話はこんなところです」
「そう、ありがとう……」
んん……なんだか、落ち着かない気分。
お姉様が負けた、それも人間だか果物の妖怪だか分かんないような奴に……
ちょっと信じられない話だけど、この子が嘘ついてるようには見えないし……最近図書館が騒がしいのも考えると、間違いないんだろうな……
「ふぅ……」
なんか、疲れた。こんな時は紅茶でも飲んで……
「……まず」
……冷めちゃってるよ。
そんなに時間が経ってた様には感じなかったんだけど…
「あ、申し訳ありません。すぐに替えの食事をお持ちします」
「うん、ごめんね」
いえいえ、とにっこり笑いながら食器を回収していく彼女。
「………」
なんだろう……この子。
他のメイドとは、どこか違う気がする。
今まで私の所に来たメイドはいつでもびくびくしていた。
そして、何を聞いても『分かりません、存じません、申し訳ありません』ばっかり。
でも、この子は……
「ねえ、もう一つ聞いていい?」
「はい、何でしょうか?」
手を止めて私の方を向く彼女。
「あなたは私が恐い?」
「いいえっ」
わ、即答……!
しかもはきはきと……
んー、でも『あひゃ!』とか言ってたよね……
よし、ちょっとその辺聞いてみよう……!
「でもあなた、さっき私が呼び止めたときにそれっぽい仕草をしたでしょ?」
「……? ああ、あれは『唐突に職質された不良』的なものです」
「はあ……?」
「つまり『やっべ俺なんか悪りぃ事したっけ?』的なものですよ」
「ふーん……」
なんか分かり辛いけど……そう言われると何となく分かるかも。
それにしてもこの子、話してる最中ずーっと笑ってた……
無理してる様には、見えないなぁ。
「……わかったわ。じゃあ、ご飯よろしくねっ」
「ハイっ!」
ぺこりとお辞儀をして食器を持つと、やっぱり笑顔で部屋を出ていく彼女。
「………」
変わったメイド。
こんなに長くメイドとお話したのは初めてだよ。
でも、出来たら明日も来てほしいかも…ふふ、なんちゃってね!
……それよりもお姉様を倒した人間、博麗ライムに霧雨魔理沙……
会ってみたい……!
◆
≪九日前≫
「――!」
地下まで響く爆発音。
私は、はっと体をベッドから起こす。
きっとあの魔理沙っていう人間だ……!
昨日聞いたメイドのお話を思い出す――
――霧雨魔理沙はあれ以来よく紅魔館に来ているんですが、門番長の美鈴さんや警備のメイドを吹き飛ばすわ図書館の本を強奪するわで困っているんですよ。ちなみに私も、マスタード………パーク? とか言う魔法のとばっちりで吹き飛ばされました……
うん、間違いなさそう……!
「………」
うずうずする……!
すぐにでも部屋を出て会いに行きたい!
でも、勝手に部屋を出ない、というお姉様との約束がある……
約束を破って、もしお姉様に見つかったら(出たときはいつも見つかってるけど……)長ったらしい説教と三日のご飯抜きというお仕置きが待ってる……!
「………」
当たり前だけどそんなのいやに決まってる。……でも、私はそれでも――
「――あ……」
私、今までに……
こんなに部屋を出たいなんて思った事、あったかな……
……ううん。
たぶん……ない。
「………」
思い出してみたら、私は一度もはっきりした目的を持って部屋を出たことがなかった。
今までは、暇だから、ちょっと悪戯してやろう、困らせてやろう、という感じの……そう、気まぐれ。
それに最近はお仕置きが嫌だから、二年前を最後にその気まぐれすら起こしてない。
「でも……」
でも、今回は違う……
『人間に会う』っていう、はっきりした目的がある……!
「………」
胸が、どきどきしてる……
何だか顔が熱くて手が冷たい……
何だろう、この感覚……
暗やみに一歩を踏み出すような怖さ……
初めて冒険に出るような高揚……
悪いことをする、という後ろめたさ……
新しいことを知りたい、という意欲……
全部ひっくるめたような、そんな感じ……
私は……
コンコン
「――! ……入って」
ギィ……
「失礼しますっ」
「ご飯、そこに置いといて」
「畏まりました。……フランドール様、何だか元気がありませんね」
「……えっ? うん、ちょっと悩み事……かな?」
ちょっと、驚いた……!
まさかメイドからそんな事を聞かれるなんて思ってなかったから……
「そうですか、でも悩んでいる姿はフランドール様には似合いませんよ」
「……え?」
「思ったら行動、そんなフランドール様の方が素敵だと思います!」
「――……!」
そう言うと、にっこり笑って食器をテーブルに置いていく彼女。
「………」
この子、メイドのくせに私に意見するなんて……
でもなぜか、ちっとも腹が立たなくて、それよりも、何ていうか、こう……
「――では三十分に片付けに参りますので、ごゆっくり……」
「う、うん」
――ギィ……バタン
「………」
ひとまずご飯を食べよう。
トーストに、ポタージュスープに、ツナサラダ……
んん、何だか今日のご飯はあんまり味がしない……
「……おいしくない」
私はフォークとスプーンをテーブルに放り出して椅子に寄り掛かかさった。
「結局さっきの事も答えが出ず終いだし……はぁ」
さっきの会話を思い出す。
「悩んでる姿は私には似合わない、かぁ……」
悩むなんて私らしくない……
思ったら行動……
そんな私が……素敵――
「――……!」
あ……、そっか……!
そうだよっ!
思ったら行動、それが私!
何で悩んでたんだろ?あははっ!
「……決めたっ!」
人間に……
会いにいこう!
「そうと決まれば……」
しっかりご飯を食べなきゃね!
ぱく……
「あれ? おいし……」
なんでだろ? さっきまでは全然味がしなかったのに。
ぱく、ぱく、ごくん……
これも……これも、全部おいしい!
んん、こんなおいしいご飯初めてかも!
かちゃん……
「ふぅ……ごちそうさまっ!」
う~ん、お腹いっぱい! 気分も爽快っ!
さて、それじゃあ早速会いに行く支度を……
どーん…
あれ? この音……もしかして、帰っちゃうの!?
その音はだんだん離れていって、私があたふたしてる間に聞こえなくなった……
「か……帰っちゃったよ……」
もう! もうちょっといてくれてもいいじゃない!
はぁ、と溜め息をついて、私はどかっと椅子に腰掛ける。
「今日はもう無理かぁ……。でも、またそのうち来るよねっ!」
自分に言い聞かせて、椅子から垂れた足をぶらぶらさせる。
楽しみにしていた旅行が延期になった、そんな気分だね……!
「あ、そうだ。どうせなら計画とか立てちゃおうかな。え~と……」
まず扉と結界を壊して部屋を出る。それで人間に会って、弾幕ごっこ。
……以上!
「計画、立て終わっちゃった――……ん、待てよ? これじゃダメ……!」
ふと私は二年前に部屋を飛び出した時の事を思い出した――
――二年前――
「ふっふっふ、今日は派手に行くよっ!」
その日、私は久しぶりに悪戯してやろうと意気込んでいた。
「それっ!」
扉を壊して螺旋階段を駆け上がる。
そして、上がった先に待っていたのはいつもの廊下と…
「え――! な、なんで……?」
「おはようございます妹様」
「あらあらフラン。ダメじゃない、約束を破っちゃ」
不敵に笑うお姉様と、微笑んだまま後ろに控える咲夜だった……――
「うあー! 人でなしー!」
「ほら、手と足をバタバタさせない。そんなんじゃ立派な淑女になれないわよ?」
「お姉様のオニー!」
「あら、ご飯抜きを一日延ばされたいの?」
「やだーー!」
ロクに準備もしていなかった私は抵抗する事が出来ず、出てからたった五分でお姉様に担がれて部屋に連れ戻されてしまった。
……もちろんお仕置きもしっかり受けた。
「うぅ……思い出しただけで身の毛がよだつわ……!」
ぶるっ、と身震いする私。
こんな経験をしたら、そりゃ気まぐれも起きなくなるわ、と思うでしょ…?
「……とにかく、咲夜に見つかっちゃダメね」
確かな筋からの情報(いつだかお姉様が聞いてもないのに教えてくれた)だとこの部屋の結界は咲夜の空間操作とパチュリーの魔法障壁でできてるらしい。
つまり私が結界を壊して部屋を出たら、誰よりも早く気付くのがその二人ってわけ……!
パチュリーは雨を降らすだけであんまり絡んでこないからいいとして、咲夜は前みたいに時間を止めたうえでお姉様と二人で来るはず。
しっかり準備したとしても咲夜とお姉様二人を相手に突破できる自信ははっきり言って、ない……!
「そういえば……」
再び昨日のメイドの話を思い出す――
――お嬢様が博麗霊夢の所にお出掛けになる時はメイド長も付き添いで行くのですが、指揮する人がいないと仕事って思いの外進まないんです。
一応行く前に指示はしてくれるんですが、やはりメイド長が居るのと居ないのでは天地の差があって、どうしても一割くらいノルマに追い付かないんですよ……
そしてその後お嬢様と共に帰ってきたメイド長に私たちは呼び出されるなりナイフを……うう……
う~ん、あの子も色々大変なんだなぁ。
がんばれメイドっ! ……って違う違う。
そっか、お姉様が出掛ける時って咲夜も一緒に行くんだ。
だったら、お姉様がいないときに人間が来たら会いに行けばいい……なんだ、簡単じゃない!
「よ~し、お説教だってご飯抜きだって我慢してやるっ!」
……コンコン
あ、もう三十分経ったんだ。
「入っていーよー!」
ギィ……
「失礼しますっ」
私は部屋に入ってきた彼女に駆け寄った。
「お疲れさまっ!」
「ありがとうございます。今度は何だか嬉しそうですね」
「うん! 半分はあなたのおかげよ!」
「え、私ですか? 何だか分からないけど、光栄ですっ!」
「うんうん! 光栄に思いなさいっ!」
「ありがとうございます、フランドール様!」
あ、また名前で呼んでくれた……!
やっぱりこの子は、他のメイドとは違う。
そう、今まで私は、お姉様以外に名前で呼ばれたことがなかった。
咲夜も、パチュリーも、美鈴も、他のメイドも、みんな私のことを『妹様』って呼ぶ……
それはみんなが、私のことを只の『主の妹』としか見てないということ。
単なる思い込みかもしれない。
私の考え過ぎなのかもしれない。
でも少なくとも、私は今までそう感じてきた……
だから、この子が私の名前を呼んでくれる事が、私は本当に嬉しかった……!
本当に――
「――フランドール様、どうかしましたか?」
「えっ? あ、ああ、何でもないよっ」
何だか心配そうだったので、彼女にニカッと笑ってみせる。
「そうですか。じゃあ私はこれで……」
「うん、ありがと!」
彼女はぺこりと頭を下げてにっこり笑うと部屋から出ていった。
ふふっ、昨日からあの子には助けてもらってばっかりだね!
◆
≪七日前≫
今日はお姉様がお出かけしてる日。
魔理沙、来ないかな?
ちなにみ昨日は来てたんだけど、お姉様がいたから会いにいけなかった。
うーん、『急いては事を仕損じる』なんて言葉があるけど、考えた人はきっと天才ね。
だって、まさに今の私の状況そのまんまだもん。
まぁ、それはいいや。今私は何をしてるかと言うと……
「スペルカードは棚で、杖はここ。うんっ、これでいつ魔理沙が来てもすぐに出られるわ!」
魔理沙が来た時のために準備をしてたりする。
楽しく弾幕ごっこするなら支度は完璧にしておかないとね!
「ふふっ、は~やく来ないかな~?」
準備は万端! 確かこういうのって、『人事を尽くして天命を待つ』っていうんだよね!
「あ、そうだ。どうせなら準備運動もしておこっと。それっ!」
その場でぴょん、と飛び上がると、背中の羽が嬉しそうに、しゃらん、と鳴る。
最近あんまり飛び回ったりしてなかったから入念にしとこっと!
「とおっ!」
まずは宙返り!
「やあっ!」
トカチェフ!
「てりゃー!」
そして……新月面っ!
「よ~し、今日も絶好調っ!」
なんだか今日はいつもより体が軽い気がするっ!
二時間後……
「ぜぇーっ……ぜぇーっ……つ、疲れたぁ……」
あれからずっと動き回っていた私はとうとうダウンして床に寝そべっていた。
体は汗びっしょりだし、羽は動かしすぎてぷるぷる震えてる……
「もう……何で来ないのよー……」
……コンコン
あれ、もうご飯?
なんだか時間が経つのが早いなぁ。
「んぁ、入っていーよー!」
ギィ……
「失礼します。……って、フランドール様! どうしましたっ!?」
あはは……部屋の主が地べたで大の字になってたらそりゃ驚くだろうなぁ。
「あー気にしないで。運動しすぎて疲れただけだから」
んん、運動した分お腹もペコペコ。
私は起き上がって椅子にどかっと座った。
「はぁ、運動ですか」
「そうそう準備うんど――……とっ、とにかく運動よ! ほら、たまにあるじゃない! 無性に体を動かしたくなる時って!」
「ああ……確かに」
ふぅ、危ない危ない。
私が部屋を出る計画は誰にも知られちゃいけないんだからもっと注意しないと……
とりあえず話題を変えよう。
「そういえばさー、博麗ライムは紅魔館にはこないの? あ、ご飯はいつものとこね」
「畏まりました。博麗ライムですか……確かに最初に来た時以外は見ませんね」
「何でだろうね? 魔理沙はよく来るのに」
「うーん、怠け者か、めんどくさがり屋かどっちかですね」
「あ、なるほど。きっと博麗ライムは怠け者なんだねっ!」
「はいっ」
「……じゃあ、魔理沙は働き者?」
「……?」
「………」
「……なんだか違う気がします」
「なんだか違う気がするね」
「……ぷっ」
「……ふふっ」
「「あはははははははっ!」」
本当に下らない話……!
でも、すっごく楽しい!
こんなに笑ったのは、いつ以来だったかな?
「ふふ、あなたって本当に面白いね。周りの子からなんて言われてるの?」
「メイド長曰く、『竹で頭をカチ割ったような性格』……だったかな? らしいです」
「うわ……何なのそのグロテスクな性格?」
「ですよねぇ……私メイド長に嫌われてるのかなぁ……?」
「かもねー、咲夜はホント真面目だし。正反対のあなたが目につくんじゃない?」
「え!? 私ってそんなに不真面目ですか!?」
「そうじゃなくて、オーラ的な話だよ」
「あの虹色とか赤とかだとアツいやつですね!」
「何の話よ……あ、いけない。またご飯冷ましちゃう所だった」
「私もそろそろ戻らないと……、じゃあフランドール様、三十分後にまた来ますので、ごゆっくり」
「うん! じゃーねっ!」
「はいっ! 失礼します!」
ギィ……バタン
……名前聞こうと思ったけど、やっぱりちょっと恥ずかしいや……!
さ、ご飯ご飯っ!
◆
≪二日前≫
「あ……来た」
聞き慣れた爆発音が微かに響く。……魔理沙だ。
そして……今日はお姉様がお出掛けしてない日……
あの子がご飯を持ってくる度にさりげなく聞いてるから、確かな情報だ。
決意の日から一週間。
魔理沙は今日もあわせて三回館に来ていた。三回ともお姉様がいる時に……
……ちなみに、お姉様はその三回を除いたの全ての日にお出掛けしてたりする……!
「うー……なんでこんなにタイミングが悪いのさっ!」
ベッドの上で意味もなくじたばたしてみる……
気分はもう『泣きっ面に蜂』だ……!
我慢というものが大嫌いな私。
というよりも、それまで私は我慢という事をした記憶がなかった。
「………」
いっその事今から――、そんな考えが頭に浮かぶ……
「~~っ! ダメだダメだっ! 早まるな私っ! 今出ていっても咲夜とお姉様に捕まっちゃうって!」
ぶんぶんと頭を振って、ばさっと布団を被る。
「………」
全然寝れる気がしない……
起きてから五時間、むしろ一番目が冴える時間帯だ……!
「ダメだ……寝れっこない……」
おまけに時々聞こえてくる、私を誘ってるかのような爆発音……
私にはこの状況を我慢し続けられる自信がなかった。
「うー……」
少しずつ、さっき振り払ったはずの考えが頭を埋め尽くしていく……
ダメだって事は分かってるけど……もう、限界――
コンコン
……っ!? ……ああ、お昼か。
「あーーい」
そうだ、こんな気分が悪いときはあの子に話を聞いてもらおう……!
ガチャ……
「失礼しますっ」
私はベッドから飛び降りて彼女に駆け寄る。
「ねーねー聞いてよー! 魔理沙ってなんでこんなにタイミング悪く来るかなあ!?」
「はぁ、タイミング……ですか?」
「そーそータイミ……!」
わわ……まずっ! 気付かれちゃうよ! なんとか誤魔化さないと……
「そ、そうなんだよね! 魔理沙ったら私が、えと、め……『めいそう』してるときに限って来るんだよっ? タイミング悪いと思うでしょ!?」
あああ! 何言ってるの私!?
「め、瞑想?」
「そ、そうよ……!」
「……フランドール様」
「な、何よ?」
うわぁ……なんか声色が違う……
ガチャン……
邪魔だ、と言わんばかりにテーブルに置かれるトレイ。
彼女はというと私の方をじっと見ている。
ダメだ……やっぱり無理が――
「……素晴らしいですっ! フランドール様は悟りを開く修業をなさっているんですねっ!」
「……!?」
突然右手をがしっ、と両手で捕まれた。
そんな彼女の目はなんだかキラキラ輝いている……
「さすがはフランドール様っ! いつか悟りを開いたフランドール様に菩提樹の下で説法された民衆が跪いて血の涙を流しながら髑髏が垣間見えるまで額を地に擦り付ける姿が目に浮かびます! ……それをあンの腐れ白黒はァ……!」
「???」
「ご安心下さい観世音菩薩様……もといフランドール様! 私がきゃつの頭蓋をパトリオットミサイルでブチ割ってイカれた海馬に直接一京ボルトの電気信号を叩き込みフランドール様の尊さを……うふ、うふふふふふ……!」
「あわわわ……こ、壊れてる……!」
「いいえ断じて壊れてなどいません! 億兆の迷える小羊の声を聞き現世常世の総てを真理に導くであろうイエス様……もといフランドール様に、私は六道輪廻の……」
ん……? 声を、聞く……
「……それだっ!!」
「如何なされました!?お釈迦様……もといフランドール様!?」
「あははっ! またあなたに助けられたわ、ありがとねっ!」
「光栄の極みでございますゼウス様……もといフランドール様! 必要とあらば私は釈迦羅竜王の尻子玉だろうと多聞天の耳垢だろうと手に入れ……」
「というわけで私今忙しいからまた今度ねっ!」
「ああっ! サイババの狡いインチキの手とは違い、天を支えるアトラスの如きその玉手で背を押される私は何という果報者……」
「じゃ、またねー!」
バタン!
「ふぅ……何言ってたか全然分かんなかったけど、『声を聞く』っていうのはバッチリ聞き取れたよっ!」
ご飯を大急ぎで食べた後、私は棚に無造作に置かれていた本を手に取った。
それは前にパチュリーがくれた『簡易魔法辞典』。
「確かこのへんに……」
パラパラとページをめくって魔法を探す。
あんまり厚い本じゃなかったから目的の物はすぐに見つかった。
「……あった!」
そこに書かれているのは、『視聴覚転移法』。
簡単にいうと『覗き見』の魔法ね。
それで私が今使おうとしてるのはこの魔法から『視覚』を抜いたもの。
つまり『盗み聞き』。
なんでわざわざ視覚を抜くのかって? 決まってるじゃない、最初は自分の目で見たいから!
「よーし、集中集中……」
魔導書をテーブルの上に開いて、椅子に深く腰掛ける。
私は魔法は得意だけど、今回はちょっと特殊な詠唱だから気合い入れて掛からないとね……!
「術式展開……!」
両手を前に出し、掌を魔導書に向けて詠唱する。
「………」
しばらくすると青く澄んだ光が魔導書から溢れ始め、それが集まって握りこぶしくらいの光の珠が出来上がった。
でも、難しいのはここから。
珠を維持させながら、それを聴覚のみと同調させなくちゃいけない。
私は両手で壊さないように光の珠を包み、さらに詠唱する。
「…………」
ゆっくり、正確に、少しずつ、確実に……
「……………」
……うん、いけそう……!
「………同調成功、接続完了……! やったぁ!」
見事成功っ!
この土壇場でこの集中力、さすが私ね!
「よ~しっ、目標、図書館っ!」
椅子に座り直し、目を閉じて探るように意識を移していく……
――……
――……ジューッ……
――ジューッ ジューッ
……何か聞こえる。でも何の音だろう?
少し場所を移すと今度は声が聞こえてきた。
――白黒ぉ!? あーもうこっちは調理中だってのに!
――どうせ図書館に行くんでしょ!? 無視無視! それよりちょっと火強いわよ!
――わ、すみません!
――ガシャーーン……
「厨房だ……」
うーん、場所を間違えたみたい。
そもそもこの魔法、元々は視覚で場所を確認しながら使う物だし、やっぱり聴覚だけだと大変ね……
まぁ当然か、目隠しして歩くのと一緒だもん。
気を取り直して、移動を再開。
えっーと、図書館図書館……
――ドカーーーン!!!
「~~~~~っ!!?」
ものすごい爆発音に驚いて私は椅子ごと引っ繰り返ってしまった。
「いたた……なんなのよ、もう!」
――ほらほら私の前に立つとケガするぜっ!!
倒れた椅子を立てて打った頭をさすっていた私の耳に響く、聞き慣れない口調の声――
「――えっ!?」
私はすぐに目を閉じてもう一度意識を集中させる。
聞こえてくるのはいくつもの爆発音、そして、ごうっという風を切るような音。
……間違いない!
「魔理沙だっ!」
◆
「こっちね……!」
音の過ぎ去っていった方向に全力で意識を移動させていく。
そしてその方向からたまに響く爆発音とメイドの声。どうやら間違いなさそうね……
ふふっ、逃がさないよ魔理沙っ!
――ドガタンッ!
扉を開ける……いや、蹴破る音ね、これ。
とりあえず図書館に着いたみたい。
魔理沙って、パチュリーとどんなこと話すんだろう?
んん、楽しみ!
――何よ魔理沙、また来たの?
――おうパチュリー、また来たぜ!
――……本は持っていかないでよ
――心配するなって、今日は見るだけだ
――……本当かしら
――おいおい、私が信用できないのか?
――出来ないわ
――正解だぜ!
あれ、静かになっちゃった……
本を探しに行ったのかな。
でも、魔理沙って変わった喋り方だなぁ。んー、なんかかっこいいかも!
椅子から垂らした足をぶらぶらさせながら何か聞こえてくるのを待つ……
一分経過……
二分経過……
なかなか声は聞こえてこない……
「……もう、退屈じゃない。早く戻って来てよね……」
はぁ、と一息ついて目を開ける。
「――!! わ~~っっ!!?」
そこには困ったような顔で私を覗き込むあの子――
ガタン!
そして驚いた私は、またしても椅子ごと引っ繰り返ってしまった。
「いたたた……もう! 来てるなら言ってよ!」
駆け寄ってきた彼女の方を見ると何だか心配そうに口をパクパクさせてる。
「何よ!? 言いたいことがあるならはっきり……あ」
あー……そりゃ聞こえる訳ないわ。
私の聴覚は今、図書館にあるんだから……
「………」
うぅ……何だか無性に恥ずかしくなってきた……!
「あ、あははは…瞑想よ瞑想!集中しすぎてたみたいっ! 断じて魔法で盗みぎ……じゃなかった、聞こえてなかった訳じゃないからね! さ、それ持ってもう行ってっ!」
『瞑想』という言葉に反応したのか彼女はさっきより忙しく口をパクパクさせてるけど、かまわず背中を押して扉まで持っていく。
「ごめんなさいね、私は今すんごく忙しい、のっ!」
『のっ!』のタイミングで扉の外に押し出した。
……その勢いのままヘッドスライディングしてたけど、気にしないでおこう……
「あ~びっくりしたぁ……」
私はそのまま扉に寄り掛かって溜め息を吐く。
片付けにくるあの子の事、すっかり忘れてた……
――ギィ……
「わっ!?」
扉が開く音がして私は思わず寄り掛かっていた扉から跳び退いた。
「だ、誰よ!?」
でも、扉は開いていない。
「あれ?」
私の聴覚は、今図書館……
「もう、紛らわしいのよ全く! でも、扉が開いたっていうことは……」
つまり図書館のドアが開いたということ。
でも……誰だろう? 魔理沙はまだ戻ってないし……
――こんにちはパチェ
――あら、こんにちはレミィ
「お姉様?」
聞こえてきたのは、お姉様の声。
――珍しいわね、咲夜も連れないで
――咲夜は今買い出しに行ってるわ
――そう。で、今日は何の用?
――ふふ、今日はあなたを助けに来たのよ
――私を助けに? どういうことかしら?
――あなた最近魔理沙に本を強奪されて困っているんでしょう?
――……よくご存知ね
――だから今日は私が見ていてあげるってわけ
――……暇潰しね
――あらよくご存知ね
「……お姉様ったら、私の部屋にはこないくせに人間とかパチュリーの所には行くのね!」
私はちょっと複雑な気持ちになりつつも続けて耳を傾けた。
――魔理沙さぁ~ん持ってかないで下さいよぅ~
――悪いな小悪魔っ! おーいパチュリー! この本借りて……、げ! レミリア!?
――あら魔理沙、私がいるからには持っていかせないわよ
――い、いやぁ、今日は見るだけだぜ。はははは……あっ! あれは誰だ!?
――侵入者!?
――え、どこ?
――どこにもいませんよ? ……って、あああ~!
――はっはっは! 借りてくぜっ!!
――ああー持っていかないでーげほげほ……
――よくも騙したわね!? 待てえぇぇ!!
――ドカァン!!
「ぷぷ……あははははは!! お姉様いた意味ないじゃん! くっ……くるしぃ~!」
私はしばらくお腹を抱えて笑い転げていた。
これが『抱腹絶倒』ってやつね……!
考えた人はきっと楽しい人だったんだろうなぁ。
――ギィ……
「ぷふふふ……ふぁ? 戻ってきた」
見えないけど、ドアを開ける弱々しい音から察するに逃げられたみたいね。
――……逃げられたわ
――そのようね……
――うぅ……しくしく
――……で、あなたこれからどうするのレミィ?
――そうね、フランの所に行くわ
「えっ?」
――最近顔出さなかったし、寂しがってるんじゃないかと思ってね
――そう。弾幕るの?
――弾幕りたいって言われたらね。まぁ十中八九はそう言ってくるだろうけど
――でしょうね。……ああ、だったらついでにこれ渡しといて
――いいけど、何の本?
――簡易魔法辞典其の二。暴発して危険な魔法はないから安心して
――わかったわ。じゃあちょっと行ってくるわね
――ええ。本よろしくね
――お気を付けて~
――ギィ……バタン
「お姉様……もう、お姉様もパチュリーも私イコール弾幕ごっこだなんて失礼しちゃうわ。まぁ弾幕るけどねっ!」
その後魔法がうまく解けなくて、お姉様との会話を読唇術でするハメになったのは内緒。
そんな状態だけど、もちろん弾幕ごっこは付き合ってもらった!
まぁ……全然思い通りにいかなかったけど、たまにはこういうのも有りかな!
◆
≪今日(三十分前)≫
「――!」
パチュリーがくれた本を読んでいた私は、微かに聞こえてきたお馴染みの爆発音にガタッと椅子から飛び降りた。
「ついに来たわね……運命の日が!」
そう、今日はお姉様がお出掛けしている日……
あの決意の日から九日……長かった!
「そうと分かれば支度支度っ!」
私は前もって準備してあったスペルカードを棚から引っ張り出す。
クランベリートラップ、レーヴァテイン、フォーオブアカインドなどなど合計十枚。
その中にはまだ一度も使ったことがないカードや見覚えがないカードもあった。
「あれ、こんなカードあったっけ……? まぁいいや」
あんまり気にしないで、私は全部のカードをポケットにしまう。
そして服を整えて愛用の杖を持ったら準備完了!
「それじゃあ……行きますかっ!」
私は扉の前に立って、両手を構える。
「ごめんねお姉様。でも私、決めたんだ。絶対に人間に、ううん魔理沙に会う、って!」
カッッ!
扉が結界と一緒に壊れて消える……
「うん、今日も絶好調っ!」
気分はもう『水を得た魚』だ!
「パチュリーはもう気が付いてるはず、急がなきゃ!」
私はばさっと羽を広げて全力で階段を飛び抜けた。
ここまで待たされた分膨れ上がった期待感が、ぐいぐい背中を押してくる!
長めの階段はほんの三十秒で終わり、私は廊下に立った。
「久しぶりだなぁ。ちっとも変わってないや」
窓に目を向けると雨が降っている。やっぱりパチュリーはすぐに気付いたみたい。
「せっかちねぇ。今日はお外には興味はないわ」
横目で窓を見ながら呟く。全くないといったら嘘になるけど、今はそれよりも魔理沙に会うことの方がずっと興味がある。
廊下の向こうから聞こえる小さな爆発音、今日も派手にやってるみたいね!
「よ~し待ってろ魔理沙っ!」
すぅ、と息を吸って私は音のする方へ飛び始めた。
しばらく飛んでいて、誰にも会わない事に少し戸惑い始める私。
これまで私が部屋を出た時はいつもメイドがいっぱい来てたのに。
「なんでかな? もっと慌ただしいのを想像してたんだけど……」
考えながら音の方へ飛ぶ。
そう、聞こえてくるのはこの音くらい――
「――!」
その時、私の頭に電流が走った。
「そっか、魔理沙が来てるからみんなそっちに行ってるんだ!」
うんうんと納得すると同時に私はにやけ顔になる。
「ふっ……それさえも見越した、なんて完璧な計画……! 今宵はお姉様も咲夜もパチュリーも私の掌の上で踊るのよ! うふ、うふふふふ……!」
自分の世界に陶酔しながら飛んでいると、ふと前の方から気配を感じた。
私はあっさり元の世界に引き戻される。
「誰だぁー? 夢見る乙女を邪魔する朴念仁は……!」
まだ自分の世界に片足突っ込んでる私は向かってくる影に鋭い目を向ける。
そこには手をバタバタと忙しく振りながら走ってくる……――
「ん? なんか見覚えが……」
茶色のショートヘアに、幼さの残る顔に――
「フランドール様あああぁぁぁ!!」
「あなたは……」
あの子だ……!
でも……なんでこんな所に……
「あ……」
もしかして……私を止めるように言われて来たのかな……?
「ハァ……ハァ……!」
彼女は私の前で止まると息も整わないうちに、焦ったような口調で喋りはじめた。
「ふ、フランドール様っ! どこか、お怪我はありませんか!?」
「……え?」
予想外の一言。
私が予想したのはもっと、こう『部屋にお戻り下さい』的な言葉だったんだけど……
「まさか……どこかお怪我を!?」
「う、ううん大丈夫よ。ほらこの通り」
今にも泣きだしそうな彼女を安心させるために、くるっと空中で宙返りしてみせる。
それを見た彼女はそのまま崩れるように座り込んでしまった。
「ああ……良かった、本当に良かったぁ……」
「……ふぅ」
何だか気が抜けてしまった私は、溜め息をついたあと彼女の前に降りた。
「あなたねぇ、誰とも会ってない私がどこをどう考えたらケガするのよ。……っていうか私を止めるように言われて来たんじゃないの?」
「ああ、そう言われれば…で、でも、それよりもフランドール様にもしもの事があったら…私は、私はぁぁ!」
あー……なんかめんどくさい流れだなぁ……
「いや、だからどう考えたら私が……まあいいや。それより私、部屋には戻らないよ」
私がそう言うと、彼女は姿勢を正して真剣な顔で私を見た。
やっぱり……私を止めるのかな……?
「そうお答えになると思っていました。魔理沙に会いに行かれるのでしょう?」
「えっ……!?」
この子、何でそれを……
「フランドール様に魔理沙の話をしたのは私ですし、今日までの落ち着かない様子を見ればそれくらいは分かりますよ」
そう言って、にっこり笑う彼女。
「………」
「フランドール様?」
「……私を、止めないの?」
あれ……? 私何でこんな事聞いてるんだろう……? 止められるに決まってるじゃない……!
どうせ、無理矢理行くつもりのくせに!
でも……私、この子の事を傷つけたくなんて――
「正直最初は止めようと思っていました。命令とか関係無しに、フランドール様の体にもしもの事があったら大変ですから」
えっ?
「……でも私、気付いたんです。フランドール様は今、純粋な探求心を持って部屋を出られたんだ、という事を。それを邪魔する事は、私には出来ません」
この子は……何を言ってるの?
「行ってくださいフランドール様。魔理沙はこの廊下をまっすぐ行ったところでパチュリー様と交戦しています。……お気を付けて!」
言い終えた彼女はぺこりと頭を下げた。
「………」
……そっか、この子は知ってたんだ。
私が考えてること、望んでること、全部知ってたんだ。
それでいて私の機嫌を取ったりするんじゃなくて、自分が信じた思いを曲げずに私と向き合ってくれた。
ふふ、馬鹿だなぁ私。
踊らされてたのは私の方。
そう、この子と手を繋いで、楽しく……ね。
なんだかちょっと……悔しいなぁ。
でも……嬉しい……!
「フランドール様?」
あ、いけない。
私また自分の世界に入っちゃってたみたい。
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「はい、なんでしょうか?」
悩んでるなんて私には似合わない。もう一度この言葉の力を借りるね!
「あなた、名前は?」
「え……?」
あ、すごい驚いてる。ふふ、さっきのお返しが出来たみたいね。
「名前よ、名前。名無しさんじゃないでしょ?」
「は、はい! フランソワーズと申します!」
フランソワーズ……あはっ、この子ってば、私と同じ『フラン』じゃない!
「フランソワーズ……じゃあ、フランソワって呼んでもいい?」
「はいっ!」
今度はすごい嬉しそう。咲夜と逆で、ホントに表情が豊かな子!
「……こほん。じゃあフランソワ、あなたにお仕事を申し付けるわ」
「はいっ、何なりと!」
さあ、伝えよう……
この子に対する、私の思いを!
「私の『従者』になってもらうわ!」
「え……!!」
あ、泣きそうになってる。
うふふ、ちょっとイジワルしちゃおう。
「あれっ、嫌だったかなぁ? なら別にいいんだけど……」
あっ、泣きだしちゃった……
でも、すっごい笑顔で泣いてる!
「そ……! ぞんなごどありまぜん! わだし、うれじいでずっ……!」
ふふ、泣くのか笑うのかどっちかにしなさいよっ。
「うんっ、しっかりお願い! じゃあ私の従者としての最初のお仕事を言うねっ」
「はっ、はいっ!」
思ったらすぐ行動、そんな私が素敵だって言ってくれたよね!
「だっこ!」
言い終わるのを待たずに私はフランソワの胸に飛び付いた。
そして彼女は『予想外です!』って言わんばかりにそのまま後ろにひっくり返った。
「ひぎゃ!!」
「ありゃ、大丈夫?」
「えへへ……大丈夫です」
倒れたまま満面の笑みでそう言うと、彼女は私をぎゅっと抱き締めた。
私もそれに応える。
「フランソワ……あったかい……」
「フランドール様は……ちょっと冷たいです……」
「ふふ、当たり前よ。だって私吸血鬼だもん」
「えへへ、そうですね……」
「ねぇ、フランソワ……?」
「何でしょう? フランドール様」
「何で……私の所に来ようと思ったの? 他のみんなは私の事避けてるのに……」
「そうですね……簡単に言うと『一目惚れ』です」
「一目惚れ?」
「はい。私、紅魔館に来たの、最近なんです。それで最初のお仕事が、フランドール様にお食事を出す事だったんですよ。覚えてますか? 今から丁度二週間前の夕食の時」
「うん、ご飯置いたあとテーブルに躓いて転んでたね」
「あはは……、そうでしたね。あの時私、フランドール様の事で頭がいっぱいだったから……」
「どうして?」
「一目惚れ、ですよ。美しい羽、綺麗な髪、可憐な顔……」
「えへへ……」
「そして赤い宝石のような、哀しい目」
「えっ……?」
「主を侮辱するような発言、お許しください。……私はあの時のフランドール様の目の奥に、深い闇のような哀しさを感じました」
「………」
「それで私は思いました。その闇に私が光を照らす事が出来たら、どんなに素晴らしいだろう、と。フランドール様の笑顔が見られたなら、どんなに嬉しいだろう、と。…なんだか私自分の事ばっかり考えてますね」
「……うん」
「申し訳ありません。でも、フランドール様は最近よく話し掛けて下さいます。そしてよく笑って下さいます。それが私がフランドール様の所に行く、一番の理由ですよ!」
「……ぐすっ」
「……フランドール様、私はどんなことがあろうとフランドール様の味方です。今も、そしてこれからも、ずっと……!」
「フランソワ……ありがとう……!」
私はフランソワの肩に顔を埋めた。
泣き顔を見られるのが、恥ずかしかったから。
……ふふっ、結局さっきのお返しされちゃったね……!
ドオォン……
「「……!」」
さっきまでより近い爆発音。私とフランソワは体を起こした。
「こっちまで来たって事は、パチュリー様が……突破された!?」
「みたいね……!」
そう言って、私はふわりと浮かぶ。
彼女も立ち上がって私を見た。
「行ってくるね! フランソワっ!」
「はい、フランドール様! どうかお気をつけてっ! あ、それと『マスタードパーク』には十分注意して下さいね!」
「うん! あ、そうだ。一つ約束してフランソワ!」
「はいっ! なんでしょうか?」
「終わったら、まただっこしてっ!」
「はいっ! 必ず!」
後向きで廊下を飛びながら彼女に手を振る。
彼女もそんな私を見て手を振り返してくれた。
「……約束だからね。フランソワっ!」
私は今、普段いる事のない廊下にいる
『勝手に部屋を出ない』というお姉様との約束を破って
私の前にはお姉様を倒した人間、霧雨魔理沙
きっかけは、十日間
フランソワと一緒だった、この十日間
さあ始めよう
素敵な日々の最後を飾る――
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続く
オリキャラもいい味出してていいですね
続編も期待!
続編期待して待ってます!
続編楽しみにしています。