フランドールは、朝日と共に目を覚ました。起こされたわけでもない。ただ、ぱちりと目が開いてしまったのだ。習慣である。
「……あれ。明るい?」
カーテンで仕切られている部屋に、ほんのりと陽光の明るさが満ちている。直接浴びれば気怠くて動けなくなる陽光も、こうして見ると実に温かそうで良い。
明るく輝くカーテンは、それ自体がオーロラにでもなった様で、少しばかり寝惚けていた頭を覚ましてくれた。
「……ここどこ?」
キョロキョロと周囲を見る。見慣れない……いや、見慣れた部屋。自分の部屋ではないが、馴染みの深い部屋である。
そして思い出した。ここは自分の姉、レミリアの部屋であることを。特別理由があったわけでもないが、今日は二人一緒に眠ったのだ。
横を見れば、そこにはこの部屋の、というよりも館の主であるレミリアが眠っていた。穏やかな寝顔で、まだしばらく起きそうにはない。
温かそうな光に誘われ、フランドールはベッドから降りようと体を動かすと、右手が何かに引っ張られ、小さな体は再び柔らかなベッドに沈んだ。
「………?」
自分の右手を見る。すると、その手からレミリアの左手が続いている。寝ている間、二人で手を繋ぎ合っていたらしい。
最初は姉に手を捕まれているのかと思っていたフランドールだが、良く見れば、お互いに指を絡め合っていた。
「……うわぁ」
ちょっと恥ずかしくなった。
少しだけぶんぶんと振ってみるが、外れる気配はない。力強いわけでもないのに、放さないとばかりにレミリアの手はしっかりとついてくる。
「………」
フランドールは諦めた。
姉の手を伝って感じる温もりが、毛布よりも少し温かかったので、そのままそっと握り返す。そしてしばらくの間は、眠るレミリアを眺めていることにした。
よくよく見てみれば、レミリアはとても緩んだ表情を見せている。普段の、威厳を保とうとして相手を見下したような鋭さは、今は面影もない。猫のように身を丸くして、幸せそうに寝息を立てている。
そんな姉の頬を、なんとなく左手で突く。柔らかい。
「おー、ぷにぷに」
張りのある肌は、押せば押し返そうとする。そのくせ、指はゆっくりと沈んでいく。面白い手触りだった。自分のもそうなのかと突いてみるが、よく判らない。他人じゃないと駄目なのか、寝ていないと駄目なのか。
少し考えて、判りそうにないと結論づけると、とりあえずフランドールはもう少し姉の頬を突くことにした。
そんなことをしていると、もぞもぞとレミリアが動いた。その様子がかわいくて、思わずフランドールはレミリアの上にのし掛かり、そっと頬に口づけをする。
その途端、ハッとする。
「な、何してるのよ私……」
顔、真っ赤っか。
幸い、まだレミリアは起きていなかったが、自分のしたことを思い出すと頬が熱くなるのを抑えられない。
妬ましく、うるさく、鬱陶しい姉。でも、憧れていて、大好きで、誇りでもある姉。全部の思いに気づいているわけでもないが、それでも、好きと嫌いとを一緒に抱いていることをフランは知っていた。だから、今の行動が嬉しいような、悔しいような、複雑な気持ちで一杯だった。
「んん……」
フランドールが自分の火照った顔を手で扇いでいると、もぞもぞとしていたレミリアが、ゆっくりと瞼を開いた。
「ん……もう起きてるの、フラン?」
「寝る」
フランドールは毛布に潜り込んだ。顔を見られたくなかったのだ。それを少し寝惚けた目で見守りながら、レミリアは上体を起こす。
「おはよう、フラン。咲夜はまだ来ていないのかしら?」
「見てないよ」
毛布の隙間を、声だけが抜けてくる。
「そう。珍しいわね、咲夜がすぐに来ないなんて。まだ寝ているのかしら」
毛布の中でふにゃふにゃと蠢くフランドールを上からつんつんと突く。すると、びくびくと揺れて意外に楽しかった。
「出てきなさい。二度寝なんて勿体ないわ」
「吸血鬼らしくて良いと思うわ。お姉様、昼に起きて夜眠るなんて、血への冒涜よ」
別段、そこまで血に誇りを持っているわけでもない。それに、寝たいわけでもない。単に、ぐずぐず言いたいだけなのだ。
それが判っているので、レミリアもはいはいと受け流しつつ毛布を奪う。すると、いくらか落ち着いた顔をしたフランドールがちょこんと現れた。
「酷い寝癖ね。梳かしてあげるわ」
そう言うと、フランドールが言葉の意味を理解して遠慮をするよりも早くに、レミリアはそっとベッドを降り、自分の櫛を手に取って戻ってくる。そして両手でゆっくりと、フランドールの髪を梳かしていった。
「良い髪ね、櫛が全然引っかからない」
世辞というわけでもなく言われた言葉が、なんだかフランドールにはくすぐったかった。心地良くてくすぐったいのか、心地良すぎてむず痒いのか、それはフランドールには判らない。
「お姉様だって、綺麗な髪じゃない。それに、良い匂い」
そう言いながら、姉の髪を手に取り、指の間を滑らせる。
「ありがとう」
嬉しそうに微笑みながら、レミリアはゆっくりと丁寧に髪を梳かしていく。
「まだー?」
「もう少しよ」
心地良いのが悟られないようにと、フランドールはレミリアを急かす。妹の髪を妹同様に愛でるように、レミリアはフランドールの髪を梳かす。
時間が、ゆっくりと流れていった。フランドールは、お日様の光よりも、姉の方が温かいこともあるんじゃないかと、一瞬だけ真剣に考えた。そして、またも赤面してしまった。
「はい、終わったわよ」
「つ、次私!」
顔を隠すように、フランドールはレミリアの背後に回り、櫛を奪い取った。
「ちょっと、フラン?」
何をするのか判らず、レミリアは少しだけ眉をひそめる。
「私が髪を梳かしてあげる。お姉様より上手なんだから」
やや必死にそう言うと、そのままフランドールは髪を梳かし始めた。
それは少し力みすぎて荒っぽかったが、それでも、不快というほどではなかった。これはこれで、なかなか心地良い。
「フラン、少しまだ荒いわ。もう少し力を抜いて」
「わ、判ってるもん」
言いながら、力加減を調整していく。
思わずレミリアは、くすりと笑ってしまった。
「ねぇ、お姉様。ポニーテールとか三つ編みとかにしてみる?」
「……面白そうだけど、今は遠慮しておくわ」
「ちぇっ」
温かな会話は続く。
朝日は仲間を見つけたかのように、少女たちのいる部屋を、他より少しだけ明るく照らしていた。
「……わっ」
驚きと呆れを込めた声で、美鈴が呟く。それから、小さな声で話し掛けた。
「まだ待機してたんですか」
「えぇ」
レミリアの部屋の前で、咲夜は立って待っていた。二人が着替えようとしたら、手伝いに行こう。そう思い、ずっとここにいる。
「ノックして入っても良いと思うんですが」
ジッと待機している咲夜に、少し心配そうに美鈴は言葉をかける。
「折角、フランドール様がスキンシップを取ろうとしているのだから、邪魔はできないわ」
「あぁ、なるほど」
そう言うと、美鈴は深く頷いた。その様子が面白くて、咲夜は小さな声でくすりと笑った。
美鈴は、さてとと口にしながら歩き始めた。屋敷の見回りをするのだ。
「咲夜さん。美味しい茶葉が取れました。後で台所に来てください。口切り一杯を差し上げます」
「ありがとう、美鈴。楽しみにしているわね」
二人は微笑み合い、それぞれの仕事へと戻っていった。
まだ今日は、始まったばかりである。
咲夜さんが影でハァハァしてたりしなくてホントよかった…
しかしよい、フラン好きの私にはたまらないwww
読んでいて昇天しそうになりました。
こんな素敵な話をもっと長く見ていたかった、という俺の身勝手な願望によりこの点数で。
最後に、次回作も楽しみにしてます!
おぉ、萌える萌える。
咲夜さんが陰でハァハァしてるのかなぁとか思った私は咲夜さんに殺害されてきますね。
素敵だwwwwwwwwwwww
ほのぼのとしていていいな。
咲夜さんはハァハァしてたと思ったよw
と思っていたら、咲夜さんと美鈴のやりとりまであるとは……良いほのぼのでした。
頬が緩みっぱなしw
フランに対しては、割と素直に愛情を表現するレミリアと、ちょっとまだぎこちないけど間違えなくレミリアが大好きなフラン‥素敵なSSでした。
そしてごめんなさい咲夜さん。陰でハァハァしてるかと。
タグのせいで何かシリアス展開でもあるのかと思ったら…お前らwwww