―――――生まれては、消え。消えては、また生まれる。―――――――
―――――その発生に際限は無く、きっかけに限りはない。――――――
―――あらゆる場所、時間に存在し、人々の記憶と会話に住まう。―――
――文明が発展しても、いや、発展したからこそ生まれしものたち。――
―――――文明という光に照らされた社会に残る、新しき闇。―――――
――――光の洪水の中で生きている人々は、それらをこう呼ぶ。――――
―――――――――――――『都市伝説』と―――――――――――――
Modern legend of Alice ~紅の密室~
湖にそびえ立つ紅の館『紅魔館』。
しとしとと降る雨にぬれるその姿は、まるで血を流しているようにも見える。
そして、その表現はここの主にとってふさわしい表現ともいえる。
なぜならここの主は吸血鬼であり、その血まみれの姿からスカーレットデビルの通り名を持つからである。(といってもその血まみれの原因はいささか微妙なものではあるのだが・・・)
その吸血鬼=レミリア・スカーレットを主とするその屋敷で、アリスはそこの主の友人であり地下図書館の管理人でもある七曜の魔女と共に研究にいそしんでいた。
「興味深いわね。機械と魔術についての研究なんてこちらではなかなか出来ないし。あなたを泊めてもらうようレミィに頼んだ甲斐はあったわ」
「そう?ありがとう」
パチュリーの言葉に、アリスは手にしている本から視線を少し上げる。
とある事情で紅魔館にしばらく滞在することになったアリスは、滞在の代償として携帯を使って行った実験の成果をパチュリーに差し出したのだった。
研究に関しては人に知られる事を嫌う魔法使いであるが、パチュリーとアリスは魔法の方向性が異なるし、なにより彼女が管理する図書館の資料を使わせてもらうわけだからアリスは躊躇わずに己の研究結果を彼女に晒した。
もちろん、全てではないがそれは相手もわかっていること。
パチュリーだって、本当に大事な本は隠しているわけなのだからお互い様である。
だから、お互い隠していることに関しては何も言わない。
魔女達の共同作業とはそういうものだからだ。
「それにしても、まさか携帯の設計図まであるなんて思わなかったわ」
「ここは外からもいろいろな本が流れてくるからね」
パチュリーは表情を変えることもなく、でも少しだけ得意そうな口調で言葉を返した。
「アリス、パチュリー様、お茶をお持ちしました」
図書館内に咲夜の声が響いたと思ったら、いきなり目の前に淹れたての紅茶と一切れのケーキが置かれていた。
「あら、今日はチョコミルクレープなのね」
置かれたケーキは茶色の層が何層にも重なっており、その上から粉砂糖が雪のようにまぶされていた。
「はい、良質のカカオが手に入ったのでクレープ生地にココアを入れ、それで甘さを控えたガナッシュとカスタードを合わせたものを二十層ほどはさみました」
「それは美味しそうね」
アリスが目を輝かせてミルクレープを見る。
アリス自身もたまに作るのだが、クレープの大きさや厚さにどうしても少しばらつきが出てしまうので綺麗な円柱状になったためしがない。
だが、咲夜の作ったミルクレープは中心が盛り上がることも無く、端も綺麗に円を描いていた。
手先の器用さには自信があるのだが、こういうのを見ると料理に関してはまだ咲夜にかなわないといつも思ってしまう。
「いいカカオが手に入ったのなら、またあれを作ってくれないかしら?確か、食べると中からチョコレートが出てくる奴」
「チョコレートが出てくる奴といいますと、フォンデショコラのことですか?」
「そう、それ」
パチュリーが少しだけ嬉しそうに肯定すると、咲夜は頷き、
「わかりました。明日のお菓子はそれにいたしましょう」
「そう、楽しみにしているわ」
そう言ってパチュリーは本を戻し、ティーカップに手を伸ばした。
アリスもカップに手を伸ばし、咲夜の入れた紅茶を味わう。
「そうそう、アリス」
今まさにケーキにフォークを刺そうとしたところで、咲夜がアリスに声をかけた。
「何かしら?」
「お茶が終わってからでいいんだけど、ちょっと来てくれないかしら?お嬢様がお呼びなのよ」
「レミィが?」
「なんの用かしら?」
アリスとパチュリーが疑問符を浮かべると、咲夜は苦笑して、
「おそらく話し相手になって欲しいんだと思います。最近は早起きで昼間でも起きているのですが、今日は生憎の天気ですし」
咲夜が門のある方に視線を向けるながらそう言うと、二人は確かにねと納得した。
太陽が出ていても日傘でどうにかするのだが、雨だと彼女達は外に出る方法を持たないのである。
「いいわ、泊めてもらっている訳だしそれぐらいはお安い御用よ」
「ありがとう。それではまた後で」
咲夜はお辞儀をすると、すぐさまその場から消えた。
おそらく、このお茶が終わるまでを待つ時間すら彼女には無いのだろう。
時間を操る彼女が時間に追われているというのも変な話だが、この見た目以上に広い館の管理をほぼ一手に引き受けている彼女には、無限の時間すら足りないのかもしれない。
その広さまで彼女の力で作り出されているわけだから、滑稽といえば滑稽な話だ。
(まぁ、私には関係のない話よね)
アリスはそう思いながら、ミルクレープにフォークを刺した。
お茶の終わったアリスは、咲夜と共に紅い廊下を歩いていた。
「廊下はあまり拡張していないのね」
「ええ、広げたところで部屋数を増やせるわけではないし、移動に時間もかかるからね」
毛足の長い絨毯を歩きながらアリス達はレミリアの元へと向かっていた。
(ん?)
咲夜と話しながら歩いていたアリスは、ふと足元に何か違和感を覚えて下を見た。
「あれ?なにか落ちてる」
アリスが足元に落ちているものに気付き、それを拾い上げる。
「赤い・・・クレヨン?」
「おかしいわね。ちゃんと掃除はしいているのに」
咲夜がそれを見ていぶかしげな顔になった。
「案外妖精たちが、仕事途中で落としただけかもよ?」
「まぁ遊び半分のあの子達の仕事なら、可能性はあるけど・・・」
咲夜は勤めている妖精たちを思い浮かべ、持ち主を考え出した。
アリスはしばらくクレヨンを見てから顔を上げ、ふと違和感に気付いた。
「あれ、なんかおかしくない?」
「何が?」
「ほら、ここ」
そういってアリスが指したのは、何の変哲も無い廊下の壁だった。
「?ただの廊下の壁じゃない」
「まぁそうなんだけど、ほら今まで通り等間隔に部屋があるならここにも無いとおかしいじゃない」
アリスが前後の廊下を指すと、確かに他の部分に比べここはドアの感覚が長い。
「確かに・・・でも、部屋順自体は変わってないわよ」
咲夜が両隣の部屋を見たが、部屋の順序自体は変わってないようだ。
「空間拡張の比率がここだけ違う?」
「いえ、この部分だけ比率は変えるようなことはしていないわ」
そういって、咲夜は壁に近づき叩いてみた。
壁を叩くと微かに音が反響していた。
「・・・どうも、ここに部屋があるみたいね」
「隠し部屋?」
「そんな感じだけれども、いったい誰が・・・」
そう呟いたところで、主の暇つぶし、魔女の実験、妖精のいたずらといくらでも候補が上がってきて咲夜は頭を抱えた。
「・・・とりあえず、調べてみましょう」
なんか悩みだした咲夜を励ますように、アリスが提案した。
「そうね・・・この館の中で私が知らないことがあるのは困るし」
「じゃあ、どうやって入る?」
壁を壊せば簡単だが、流石にそれはまずいだろうとアリスは思ったのだが、
「ここを壊しましょう」
「え、いいの?」
咲夜の提案にアリスはかなり驚いた。
「入り口は見つからなかったから、ここを壊すしかないみたい」
「見つからなかったって・・・あ、調べてきたのね」
そういえば、咲夜の位置が少しずれている。
おそらく時を止めて館中を調べてきたのだろう。
「じゃあ・・・ってあれ?」
そして気がつくと、そこには一枚のドアが綺麗に掘り起こされていた。
(また、時を止めたのね)
多分、壁を壊したときに出る欠片で汚れた廊下を見せたくなかったのだろう。
(さすが、完全で瀟洒なメイド)
「さて、行きましょう」
そう言って、咲夜はドアノブに手をかけた。
ドアノブをひねると、簡単に回りアリスたちを部屋の中に受け入れた。
「あら?」
「見事に何にもないわね」
ドアの先には何も置かれていない、ただ真っ白い部屋だけがあった。
「なんか、ただ壁をくり抜いたって感じね」
「そうね。妖精たちの好きそうなものも無いから彼等の遊び場とは違うみたい」
そういいながら、アリス達は部屋へと踏み入る。
――パタパタ――
――ギィッ――
「あら、随分と綺麗ね」
「本当ね。誰かが掃除していたのかしら?」
――パタパタ――
――ギィッ――
「私以外にここまでちゃんと掃除できるのは殆どいないはずだけど」
「ゼロじゃないなら、その数少ない心当たりに聞いてみれば?」
――パタパタ――
――ギィッ――
「とりあえず、この部屋の中には手がかりなさそうだし、外に出ましょう」
「そうね」
――パタパタ――
――ギィィィッ、パタン――
「「!?」」
二人が音に反応して後ろを振り向くと、いつの間にか扉が閉まっていた。
「誰かが閉めたのかしら・・・」
咲夜がドアに近づき、ノブを捻る。
「あ、あれ?開かないわ」
「鍵でもかけられた?」
「そんな感じね」
咲夜が肩を竦めながら答えた。
二人とも屋敷の妖精たちの悪戯だと考えて苦笑している。
「仕方ない。壊しましょう」
「なら、私がやるわ。こういったことはナイフより魔法のほうが向いているでしょう」
そう言ってアリスは懐から人形を取り出し、ドアに向けた。
咲夜はそれを見て、何も言わずに少しドアから離れた。
外のように道具をとって来れないなら、自分がやる必要は無いと考えたのだろう。
――呪詛『魔彩光の上海人形』――
アリスの人形からレーザーが放出され、ドアに向かって伸びていく。
「さぁ、これで・・・うそ?」
レーザーを放出し終えたアリスが入り口のほうを見ると、レーザーの直撃を受けたはずのドアが傷一つ無い姿で残っていた。
「どういうこと・・・」
咲夜もそれを見て驚いてた。
いくら紅魔館が頑丈に作られているとはいえ、あのレーザーを受けて傷一つつかないということは明らかにおかしい。
「もしかして・・・」
アリスは魔力を使って、部屋を探査した。
調べ終えたアリスは、難しい顔をして人形をしまう。
「・・・まずいわね、この部屋結界みたいになってる」
「どういうこと?」
「殆ど魔力を受け付けなかったからなんともいえないけど、内側からのあらゆる攻撃を封じ、中にいる者を閉じ込めるようになっているみたい」
「本当に?」
試しに咲夜はナイフを投げてみたが、ドアには傷一つつかなかった。
「だったら・・・」
――メイド秘技『殺人ドール』――
咲夜から放たれた無数のナイフが、ドアの一点を集中して襲う。
しかし、それでもドアには傷一つつかなかった。
「あらあら、困ったわねぇ。少しでも傷つけばどうにかなったのに」
「そういえばあなたは、一本のナイフを無限にする技があったわよね」
「ええ、だから物理的に破れるならどんな壁でも壊せるのだけど・・・」
咲夜は困った顔でナイフをしまった。
アリスも打開策が浮かばず、悩む。
「私達が簡単に入ってこれたのを考えると、おそらく外からの干渉には弱いと思うんだけど・・・」
「つまり、館の誰かが気付くのまでこのままということかしら?」
「おそらく・・・」
アリスの言葉に咲夜は疲れたように息を吐いた。
「多分、お嬢様あたりがすぐに気付いてくれるとは思うけど・・・」
「そうね、あなたがいないとこの館は機能しないだろうしね」
「全く、誰がこんな事を・・・やっぱりパチュリー様あたりの実験かしら?」
「多分違うと思う」
咲夜の言葉にアリスは首を振った。
「この結界パチュリーの使う属性魔法とは違う気がする。強いて言えば月の属性に近そうだけど、精霊とかの気配を全く感じないもの」
「どちらにしろ、待つことには変わらないってわけね」
アリスと咲夜はため息をつきながら、誰かが来るのを待った。
「・・・」
「・・・」
この部屋に閉じ込められて既に一日が経った。
その間、誰一人としてドアをあける者はおらず、それどころか廊下の物音さえ聞こえなかった。
(おかしいわね。いくら紅魔館が広いといってもこんなに長い間誰にもみつけられないなんて・・・)
もしかしたら、隠蔽の魔法でも働いているのかもしれないとアリスは考えた。
(もしそうならまずいわね・・・)
アリスは咲夜の方を見る。
とりあえずまだ元気のようだが、彼女はアリスと違って人間だ。
アリスのように食べなくても平気というわけには行かない。
見つかるのが遅くなればなるほど、彼女にとって危険となる。
「咲夜・・・」
「何かしら?」
返事をする咲夜の声は、若干疲れた様子を見せていた。
「寝ていたほうがいいわよ」
「誰かが助けに来たときに、私が寝ていたら示しがつかないわ」
気丈な咲夜の返事に、アリスは首を振る。
「でも、何も口にしていないじゃない。あなたは人間なんだから私みたいに食べなくても平気というわけにはいかないでしょう?寝ていれば多少はエネルギーの消費を抑えられるわ」
「けれど・・・」
「いいから寝ていなさい。見つかったときにあなたが倒れていたらそれこそ示しがつかないわよ?」
「・・・」
アリスの言葉に咲夜はしばらく考えるそぶりをすると、最終的に「では、失礼して・・・」と言って目を閉じた。
それを見たアリスも瞳を閉じ、座り込む。
――カタンッ――
座り込んだ拍子に懐から何かが転がり落ちた。
(何かしら?)
瞳を開き、床に目をやるとそこには廊下で拾ったクレヨンが転がっていた。
(そういえば、ちょうどこの部屋の前に落ちてたわね・・・)
アリスは手を伸ばして、クレヨンを拾った。
――パタ、パタ、――
その時、部屋の中を誰かが歩いている音が耳に入った。
(咲夜・・・?寝るとはいったけど、やっぱり落ち着かないのかしら)
そう思って、咲夜のほうを振り返った。
「あれ?」
そこには先ほどと変わらない姿で、咲夜は目を閉じていた。
もちろん周りを見回してみても、誰もいない。
(空耳・・・?)
聞こえないはずの音が聞こえたらなら、誰もがまずそう思う。
アリスも例に漏れず、再び目を閉じようとした。
――パタ、パタ、――
「!?」
(違う、確かに聞こえている!!)
アリスは立ち上がり、部屋の中に視線をめぐらす。
――パタ、パタ、パタ、パタ、パタ、――
音は確かにする、でも『どこからしているかわからない』。
パタパタと誰かが歩いている音だけが、部屋の中に響く。
歩いている存在など、誰もいない。
でも、誰かが歩いている。
誰でもない誰かが確かに歩いている。
――パタ、パタ、パタ、パタ、パタ、パタ――
音が止まる。
いつの間にか咲夜も起きていて、警戒を露に周囲を見ている。
――ドンッ!ドンッ!――
「「!?」」
急にドアが強く叩かれた。
一瞬、助けが来たのかと二人は思ったがすぐに違うことに気がついた。
なぜなら、ドアは音がするたびに『内側から外側に向かって』歪んでいたからだ。
「っ!!」
咲夜が思わずナイフをドアに向かって投げつけたが、ナイフは何にも妨げられることなくドアに当たり、硬質な音を響かせて床に落ちた。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!――
――ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――
ノックは次第に早く激しくなり、ドアノブが勝手にガチャガチャと音を立てる。
まるで、誰かがここから出してと必死になっているように・・・。
「アリス・・・!」
急に咲夜がアリスの名を叫んだ。
アリスが咲夜の方を向くと、彼女はドアとは反対側の壁を目を見開いて指差していた。
「な!?」
アリスが壁のほうを見ると、そこにはいつの間にか赤い文字でこう書かれていた。
タ ス ケ テ
二人が驚いて壁を見ていると、いきなり壁に赤い点が生まれ、同色の軌跡を描きながら文字を綴る。
ア ケ テ
――ガリガリガリッ――
「っ!?」
そして、その文字の上を爪あとのようなものが壁中を走り、削り取っていく。
それは、閉じ込められたこの部屋に二人以外の誰かがいて、出口を探そうともがいているようだった。
アケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテ
赤い点は同じ文字を狂ったように壁中に書いていく、
――ガリガリガリッ――
爪あとは赤い文字ごと壁を削り取らんとするように強く、そこかしこに軌跡を描いていく。
タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ
――ガリガリガリガリッ――
文字は壁を赤く埋め尽くそうとし、爪あとはその文字を消そうとする。
異なる事をしつつも、同じ結果を望み、一心不乱に行っている。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!――
――ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――
扉は、未だに内側から開けようと何かが必死に試している。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!――
――ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――
アケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテ
――ガリガリガリガリッ――
タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ
「っ・・・!」
「ぁ・・・!」
部屋中から聞こえ、見える何かの存在が二人の精神を蝕み、すでにまともな声すら上げられなくなっていた。
二人は壁から遠ざかるために必然的に部屋の中心に移動していた。
かろうじて立ってはいるが、体は硬直し、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
その状態がどれだけ続いただろう?
二人の、特に咲夜の足元がふらつき今にも倒れそうになっていた。
そして、限界を迎えた咲夜が倒れかけたとき、
『――!!』
「!?」
「きゃっ!?」
突然咲夜は何かに突き動かされるようにして、倒れる際にアリスを突き飛ばした。
そして、二人の体が部屋の左右に分かれて倒れていく。
――神槍『スピア・ザ・グングニル』――
その直後、二人の間を紅い閃光が通り抜け後ろの壁を貫いていった。
「これは!?」
「お嬢様の!?」
倒れた二人は、今しがた間を通った閃光を見て驚きの声を上げた。
「全くだらしが無いものね、私の従者とあろうものがこのようなものに捕らえられるなんて・・・」
「レミリア!?」
「お嬢様!!」
二人が紅い閃光がきた方向=ドアのほうに顔を向けると、そこには右手に紅い力の残滓を纏わせたレミリアが、少し呆れた顔で立っていた。
「仕方ないわレミィ、これに捕らえられたら私だってそう簡単には出られそうに無いもの・・・」
その後ろからパチュリーが顔を出して、室内を見渡しながらそういった。
「パチュリーも!」
「それにしても迂闊だったわねアリス。普段のあなたならこんな危険なところにいきなり入らないでしょうに・・・」
「う・・・」
確かに普段のアリスならこんな胡散臭いところにいきなり入るなんて事はしない。
それだけ最近の出来事や研究で疲れているということなのだが、あまり慰めにはならなった。
「とにかく、二人ともそこから出なさい」
レミリアが少しイラついたように二人を急かす。
二人が部屋の外に出ると、そこにはレミリアとパチュリー、そして・・・
「妹様!?」
「あ、本当に閉じ込められていたんだ?」
そこには七色の宝石を背中に煌かせたフランドールが立っていた。
「本当に申し訳ございません。一日以上も仕事を休んでしまい・・・」
「ふ~ん、中では一日以上経っていたのね・・・」
咲夜がレミリア達に深々と頭を下げていると、パチュリーが変わった事を呟いた。
「中ではって・・・」
「アリス、あなた達が図書館を出て行ってからまだ三十分ぐらいしか経ってないわよ」
そういってパチュリーが時計を見せると、確かに長針は文字盤を半周ぐらいしかしていなかった。
もちろん、短針は殆ど動いていない。
「そんな・・・」
「つまり、この部屋の中では時間が歪んでいたのよ。あ、空間もかしら?まるで咲夜みたいな妖怪ね」
パチュリーが興味深そうに笑うが、アリスは最後の一言が気になって尋ね返した。
「妖怪?」
「あら、気付いていなかったの?これは部屋の形をした妖怪。いや、正確には部屋となっている空間そのものが妖怪なのかしら」
「それって・・・」
咲夜がまさかといった顔で聞き返すと、パチュリーは頷いて、
「そう、あなた達はさっきまでその妖怪の腹の中にいたようなものなのよ」
「「・・・」」
アリスと咲夜はお互いを見て、少し青ざめた。
「私が咲夜の異変に気がついてすぐにパチェとフランを呼びだして、部屋の探索と結界の破壊を頼んだからいいものを、そうでなければいったいどうなっていたことやら・・・」
レミリアがそう言うと、パチュリーは少し笑って、
「そうね、あの時のレミィは相当慌てていたからね。ちょっとした見物だったわ」
「五月蝿いわよ、パチェ!」
パチュリーのからかいに、レミリアは少しだけ赤くなって言い返す。
パチュリーはそれを見てさらに微笑むが、急に真顔になってドアのほうを指した。
「レミィ!!」
「わかっているわ!!」
ドアのほうを見ると、部屋全体が薄っすらと歪んできていた。
「逃がさないわよ」
――運命『ミゼラブルフェイト』――
レミリアが手をかざすと、その先から紅い鎖が飛び出し、部屋の壁を貫きながら部屋全体に鎖を張った。
「確かにお前の力は珍しい。だけど、お前はこの紅魔館に手を出した。その愚かさ、身をもって知るがいい」
鎖が張られた部屋が、まるで逃げ出そうとするようにその輪郭を歪めるが、レミリアに握られた紅い鎖は、その部屋から逃げ出すという運命を縛るようにびくともしない。
「フラン」
「は~いお姉様」
レミリアが声をかけると、フランドールは手にした黒い杖を掲げた。
――禁忌『レーヴァテイン』――
フランドールの杖が紅く輝き、巨大な紅い破滅へと変化する。
「やぁ~~!」
フランドールがそれを鎖で固定された部屋へと振り下ろす。
振り下ろされた杖はそれを縛る運命の鎖ごと部屋を断ち切り、叩き潰し、破壊しつくした。
後には、壁の残骸と赤い鎖の欠片だけがその場に残った。
「時と空間を操るのは咲夜だけで十分よ」
レミリアがそう言って手を振ると、紅い鎖の残骸が音も無く消え去った。
「さて、残るは・・・」
レミリアが部屋の残骸を一瞥すると、アリスの方に近づいてきた。
「あの愚か者の核を破壊しないとね」
「核って・・・」
アリスが怪訝そうにしていると、いきなりレミリアがアリスの服に手を突っ込んだ。
「え?ちょ、ちょっと!?」
「これが核よ」
アリスがいきなり手を突っ込まれてびっくりしていると、レミリアが服の中から何かを取り出した。
「・・・クレヨン?」
「そう、これがあいつの核」
それはアリスが部屋の前で拾ったクレヨンだった。
「ふん、こういう風になっていれば気付かれないと思ったのかしら?でも、私には無駄だったようね」
そう言ってレミリアはパチュリーに向かってクレヨンを放り投げた。
「パチェ」
「ん」
――火符『アグニシャイン』――
パチュリーから放たれた火球がクレヨンを飲み込み、燃えカスすら残さず消滅させた。
「さて、これで今回の件はお終い。さあ、リビングでゆっくりしましょう」
「そうしよ~」
「そうね」
「かしこまりました」
レミリアがリビングに向かうと、他の三人もそれに続いた。
ただアリスだけが少しだけその場にとどまり、壁の残骸に目を向けていた。
(あれが妖怪だとしたら、じゃああの中の『開けて』という言葉は誰の言葉なんだろう・・・?)
アリスはふとそんな事を思ったが、わかるわけ無いと首を振って四人の後に続いていった。
> 私達が簡単に入ってくれたのを考えると、
何か、全体的にあっさりしすぎています。
恐らく作者氏はホラーを狙っているんだと思いますが、その割には怖がらせどころを
軽く飛ばしていますし。
アリスと咲夜が状況に翻弄されるだけの『驚き役』にすぎず、見せ場が全く無いのも
物足りません。
また、2人の体感時間では部屋の中で1日以上過ごしたそうですが、その間トイレは
どうしていたのか? という疑問が。
う~ん、ちょっと恐ろしい。
好奇心や相違点に気付いて無闇に行動すると身を滅ぼす・・・・ということかな?
面白かったです。
クレヨンの文字は一体なんだったんでしょうね。
謎が明かされないまま事件が落着したように見える、それがより恐怖をかき立てますね。
果たして本当にこの事件は解決したのでしょうか…?
最初は、前の住人の忘れ物だと思っていたが、掃除した後の場所や、新しく置いた家具の上などにも見つける。
おかしいと思って家を調べてみると、壁の奥に隠し部屋を見つける。
そこには、壁一面に赤いクレヨンで『ごめんなさい』『ここから出して』と書きなぐってあった…
以上が『赤いクレヨンの都市伝説』のあらすじです。
この話は、もともとはヨーロッパのホテルでの話がモデルで、その話では隠されていたのは拷問部屋でした。
赤いクレヨン云々は和製みたいですね。全く同じ話で『青いクレヨン』っていうのも聞いた事があります。
その都市伝説そのものが妖怪化した、といったところでしょうか?
まぁ、古来より怪談忌憚の発祥は、大抵『うわさ』なんですけどね。
長々と失礼。
今回の題材は#15さんの言っているとおり『青いクレヨン』です。
元々はあるタレントがラジオで作った話らしいですね。
実を言うと『赤いクレヨン』の都市伝説は知らなかったのですが、おそらくこれが元、またはこれに他の話が混ざったものなのでしょう。
で、#15さんの言うとおりこれは『赤いクレヨン』という『噂』が妖怪化したものです。
まあ、1st darkでも書いてあるとおり、元々この世界での都市伝説たちは全て『噂』が妖怪化したものと設定しているので、夢や電波といった形のないものが妖怪になったりしています。
さて感想についてですが、今回あっさりしすぎという感想が出てきてしまいました。
まだまだ精進しないといけませんね。
トイレに対する突っ込みですが、あくまで体感時間ですのでそういった生理現象は回避しています。
主に精神の衰弱を狙っているので・・・。
ただまぁ、評価してもらっている側がこういうのはなんですが、そういったリアルな突っ込みはちょっと無粋なような気もするのですが・・・。
もちろん気をつける点ではありますけど。
あと、都市伝説に対するオチが何を求めているのでしょうか?
う~ん、都市伝説に対する考察とか説明なんでしょうか?そういうのも入れたほうがいいんでしょうかね?
あと、一応この事件自体は解決してますよ?『一応』『この』事件自体はですけどね。
短編のホラードラマか何かでも映像化されてたのを覚えてます。
レミリアの無敵っぷりが素晴らしいw 空間すらもとらえるとは、流石は吸血鬼。
最後の文の切れ味も中々。閉じ込められた怨念だったのでしょうか……?
面白かったです。
部屋中にタスケテとか恨み辛みがびっしり書かれた密室って
ホラーゲームとかでも結構ありますよね。
プレイしてる時は何か面白いな~って思いますけど、
実際そういった部屋に閉じ込められたら軽く発狂するんでしょうね、多分
それと、芸能人の伊集院光がホラー番組のためにでっち上げたのが、この都市伝説だそうで。
それと、芸能人の伊集院光がホラー番組のためにでっち上げたのが、この都市伝説だそうで。