Coolier - 新生・東方創想話

『何事もないお話』又の名を『パルスィのちょっとした受難』

2008/09/17 17:40:37
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※忘れてましたが、一応地霊殿のネタバレを微量だけ含んでます。
体験版をやっていればほとんど問題はないと思いますが、Uターンを視野に入れてみてください。




「よう、橋姫」

 今日もだった。

「おーい、橋姫?」

 とりあえず無視を試みる。

「ダメだよゆーぎ。こういう時はもっとね…」

 土蜘蛛と鬼の組み合わせ。
 旧都で親しくしているらしい。

 …少し妬ましいのは気のせい。

「おーい、パルちゃーん」
「誰がパルちゃんだ誰が!」

 …あ。

「聞こえてるじゃんパルスィ」
「無視してたのよそんな事もわからないのかしら妬ましい頭してるわね」
 まくしたててみる。
 ちょっとくらいペースを崩してやらないと面倒な事になりそうだから。
「橋姫は今日も可愛いなぁ」

 しみじみとした口調で呟く星熊。


 ……はい?

「今、なんて?」
「今日も橋姫は可愛いなぁ、って」

 瞬間、自分の中で「ボンッ」というか、「ブチッ」というか、なんとも言えない音がなった気がした。

「語順が違ったわよっていうか本当に妬ましいわねそんな頭の沸いたこと平気で言えるなんてってか誰が

可愛いのよ冗談抜きでキレるわよ!?」
「うんうん。キレちゃったパルちゃんも可愛いなぁ」
 顔真っ赤だよパルちゃん、と続ける土蜘蛛。
 なんでこいつは他人がキレようとしてるのに笑ってるんだろうか。ちょっと頭がおかしいのかもしれな

い。

「つかニヤニヤしながら頭撫でんな星熊!」
「おお、これは失礼。喜んでくれるかと思ってな」

 …やはりこいつらが来るとロクな事がない。



「ま、深呼吸でもして落ち着けって」

 ようやく私をからかうのを止めた星熊がまた頭を撫でながら言う。
 なんか妬ましいが言ってることは正論なので深呼吸。
 星熊の横で「『パルちゃん』より『パルにゃん』の方がいいかな…」とか呟いてる土蜘蛛は無視。
「で、何の用なのよ?」
 ロクな用じゃないだろうからとっとと帰れ、と言外に匂わせつつ聞いてみる。
「んにゃ?別に用という程の用はなかったんだが……」
 しまった。こいつらにそういう回りくどい言い回しは通用しないかしても無視されるんだった。
 忘れていたわけではないのだが、何故迂闊なことを言ったんだろう。
 まさか、自分でも何か面倒に巻き込まれたいとでも思ったのだろうか。

 …まさか、私が、ね。

「おお、パルにゃんパルにゃん!」
「結局貴女はパルにゃんなのかしら!」
 とりあえずいきなり飛びついてきた黒谷にキレてみる。
「む、パルにゃんってちょっと可愛い響きでいいじゃん」
 何がどういいのかわからない。
「ま、おいといて、そういえばパルにゃんって私達の名前呼ばないよね?」
 突然話が変わって面食らう私に、黒谷が畳み掛けるようにして、
「私達のことを名前で呼ぶようになったら『パルにゃん』という名前を考え直してやろう」
 などと胸を張って言い出した。

「はぁ?」
「む、友達の話に対していきなり『はぁ?』は失礼だぞパルにゃん!」
 そう言われてもどこをどう繋いで考えたらさっきの結論に行き着いたのか全く理解が出来ないんだから

仕方ないじゃない。

 …というより。

「友達?」
「うん」
 こくり、と頷く黒谷。
「誰が?」
 え?と一言、とても意外そうな顔をする黒谷。
「私と、ゆーぎと、パルにゃん」
 最後に音符でもつきそうなくらい弾んだ声で、順番に三人を指差しながら唱えた黒谷。

 え?

「私も?」
 何を言っているのだこの土蜘蛛は。

 そういえばこの土蜘蛛は地下世界では結構人気者だった。
 勿論鬼は畏敬の対象だ。

 なるほど。
 二人で私をからかいつつ、その出来事を旧都で笑い話にして盛り上がろうという魂胆か。
 なんて妬ましい考え。

「誰が貴方達みたいなはた迷惑な連中と友達なのよ勘弁して欲しいわ!」

 怒鳴ってみる。
 この程度のつまらない反応なら酒の肴にもなるまい。


「え、もしかして、迷惑、だった?」
 突然すごい悲しげな顔をする黒谷。
 橋の欄干に背を預けてる星熊も、酒を飲んでいるのに苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 あれ?
 この反応はおかしい。

 いや、騙されるな私。
 これはきっと演技。
 ここでもし同情して本音を出してしまったら間違いなく彼女達の思う壺だ。

「ええ、迷惑よ大迷惑。わかったなら早く旧都に戻って『つまらない奴だった』って周りに言いふらして

来なさいよそれで満足でしょ!」

 これだけ言えば十分だろう。
 沈黙が支配する。

 妬ましくはあるけれど、元々彼女達は私のような負の性格の持ち主ではない。
 負の感情の塊である怨霊とさえ上手くやってる彼女達だ。
 当然旧都で賑やかに酒を酌み交わしているほうがお似合いだろう。


 そう、思っていたのだけれど。

「いい加減にしろパルスィ」

 意外にも、次の声の主は星熊だった。

「ヤマメも私も、そんなに深い考えがあるわけじゃない」

 まるで、私の屈折した感情の底の底まで見透かしたような一言。
 そこで星熊は一度言葉を切り、少し考えた後、「あーくそ」とか呟きながら髪を掻き毟って私に向かっ

て言った。


「私達鬼は嘘を吐かない。その鬼が言わせて貰う。お前と私達は、友達だ」


 私の思考回路が、一瞬、止まった。

 鬼が嘘を吐かないというのは絶対だ。
 それを破る位なら鬼は死を選ぶだろう。
 我々妖怪にとって、『約束を破る』ということはそれほどの重みがある。

 だから、星熊の発言は全て真。

「でも……」
 私は嫉妬狂い。
 あらゆる負の感情が嫉妬心に繋がってしまう醜い妖怪。
 それを偽るが為に明るく見せたりしているだけ。
 きっと彼女達も気づいているはずなのだ。
 黒谷が、いや、ヤマメが『私を友達だ』と言ったときの捻くれた解釈こそが私の心根を表していること

くらい。

「何を暗い顔してるのさ」
 声に振り向くと、私の言葉で酷く傷ついたはずのヤマメが笑顔を向けてくれていた。
 その笑顔が妬ましくて、耐え難かった。
「これが私なの。根暗で、陰鬱で、嫉妬心の塊の妖怪よ。友達なんて……むぐっ」
「はい、そこまで」
 私の言葉を制したのは、ヤマメの指。
 人差し指で、私の唇を軽く押さえる。
 その気になれば、無視して話し続けることは容易かっただろうに、私は自然と黙っていた。
 ヤマメの笑顔を見たときのあの心の違和感もほとんどない。

「いいか、友達ってのはそういうものさ」
 勇儀が私達の肩を引き寄せ、三人で肩を組むような格好で話し始める。
 どうでもいいけど、ちょっとヤマメが辛そうに背伸びしている。
「相手が激情に駆られて醜さをさらけ出したら、何も言わずに全てを聞いてあげるか、その口を塞いで落

ち着かせてあげる。そうやって最後に一緒に笑いあえたら、それはもう十分に友達なのさ」
 そう言って大声で笑い出す勇儀。

 その笑い声は余りに底抜けに明るくて、いつの間にか私もヤマメも釣られて笑い出していた。

「な、簡単なもんだろ、友達ってのは?」

 ひとしきり笑った後、勇儀が私に聞く。
「別に、元から難しいものだとは思っていなかったわよ」
 ちょっと悔しいので頑張って抵抗してみる。
「『嫉妬狂いなことがわかったらきっと嫌われるに違いない』とか考えてたんだろ?」
「なっ!?」
 なんで心が読まれてるの、までは声にならなかった。
 私のリアクションに満足したのか、勇儀はあっさりと白状した。
「いや、この前さとりが旧都に来てたからちょっと覗いてもらった」
「それ反則でしょ!?」
 いきり立つ私を「どうどう」とヤマメが宥める。
 …私は馬か。
 そんな私達を肴にぐいぐいと酒を呷りつつ、勇儀が一言呟いた。

「じゃあ、そろそろ名前で呼んでもらおうか」

「え?」
「いや、だから、友達の証として、ヤマメを苛めた罰として、これからは私達を名前で呼んでもらおうと


「おー、ゆーぎナイスアイデア!」
 ヤマメが諸手を挙げて賛同。完全に向こうのペースだった。
 確かに覚悟しないでもなかった。
 心の中では既に名前で呼んでいる気はするのだが、だが。
「むぅ……」
 なんというか、こう、心がこそばゆいというか、とにかく顔が熱くなって多分傍目にもはっきりと真っ

赤になっているのだろう。
「恥ずかしがってますよゆーぎさん」
「そうさなぁヤマメさん。あれはあれで可愛いからいいけどねぇ」
 五月蝿いぞそこの二人。

 しかし、『恥ずかしい』か。
 何時以来の感情だかわからないが、ひどく懐かしい気分になった。

 なんて、郷愁に浸ってみたところで、これ以上状況が好転することはないみたいだし、私も意を決する



「や……」
「や?」
「ゆ……」
「ゆ?」



「……よ」


 ズガン、と二人が地面に頭突きした。

「何が『やゆよ』よ!結構期待したのに!」
 先に顔を上げたヤマメが猛抗議してくる。
 ちょっとおでこが赤くなっているのが、妙に様になっている気がするのだが、元から可愛げがあるから

だろうか。
「仕方ないじゃない二人ともすごく身を乗り出してくるんだもの恥ずかしいにきまってるでしょ!!」
 そう。
 私だってそんな明らかにつまらない洒落など言いたくはない。
「なら、仕方ないな」
 ずっと突っ伏したままだった勇儀がゆらりと立ち上がる。


「私達の名前を言えるまでずっとこうしてやる!」
「!!??」
「あーずるいー!」
「ずるいじゃねーこの馬鹿土蜘蛛とっとと助けろ!」
「むーそんなこと言うなら助けてあげないし、5秒毎に『パルにゃん』って耳元で囁いてあげるもん!」
 それは本当に勘弁して欲しい。
 と言うより、何故私はいきなり座り込んだ勇儀の腕の中に閉じ込められなければいけないのだろうか。
「だってこうでもしないと一生言えなさそうだし、何より私が役得だからな」
「パルにゃん」
「だからってなんでこんな睦言を交わす男女の図みたいな状態にならなきゃいけないのよ!」
「パルにゃん」
「だって役得じゃないか。別に本当に愛の言葉を囁いてあげてもいいけどな」
「鬼は嘘吐かないんじゃないの?」
「パルにゃん」
「別に嘘を吐くつもりはないが、案外温かくて本気になってしまいそうだ」
「勘弁してちょうだい」
「私も流石にその道には微かに抵抗があるから、早く名前を呼んでくれ」
「パルにゃん」

 ……そろそろ限界。

「わかったわよヤマメに勇儀!これで満足かしら!?」

 私の耳元でまた馬鹿の一つ覚えみたいに囁こうとしたヤマメと、私の頭に顎を置いていた勇儀が笑顔に

なったのがわかる。
 ……どうやって頭上の奴の表情がわかるのか、と聞かれても少し困るのだけれど。
「「パルスィー!!」」

 やっと平和になる、と思った直後、私は耳を噛まれ(本人曰く『甘噛み』)、同時に全身を強く締め付け

られて(本人曰く『嬉しくなって抱きしめた』)気を失った。



 そして、今日もきっと、奴らはやってくるのだろう。



「妬ましいわ……」









「でもさ、『嫉妬心を操る妖怪』なのに、自分の嫉妬心は操作できないのか?」


 ……。


「まさか」
とてもお久しぶりです。初めての方は、はじめまして。
確か5月とか以来な気もします。
しかも最後の後書きに『スカーレットの話』が次回予告だった気もします。
全部スルー、で。ごめんなさい。
あんまり長くなるとアレなので沢山割愛しますが、やっぱりもう少しキャラが固まってから書いたほうが良かったかな、とか。

最後に一つだけ。
最後の「まさか」、発言者は誰だったか。
ご自由にお考え下さい。
六十六卦
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コメント



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4.80名前が無い程度の能力削除
>>パルにゃんパルにゃん
あれ、なんでだろう・・・長い緑の髪をした人が見えるよ・・・え?スモチ?ありませんってば。

最後の「まさか」
個人的には「『まさか』、思いつかなかったのかい?」と続いてほしいなぁ。
10.60名前が無い程度の能力削除
なんとこそばゆい……。
15.100名前が無い程度の能力削除
くっ・・・ニヤニヤが止まらん・・・ありがとうございました・・・