「お月さ~まの雲隠れ~♪、光を奪って夜逃げだ大変~♪」
今日の天気はどんより曇り、星どころか月の光さえ届かない夜道は赤い提灯が遠目でも良くわかる。
闇を好む妖怪にとっては過ごしやすく、月の光を力の源とする妖怪にとってはちょっと憂鬱。
ま、私はどちらかといえば闇を好む側だけどね~。
「こんばんは店主」
「あ、慧音さんいらっしゃい~♪」
本日最初のお客さんは里に住む半獣、慧音。
普段はいいけど、たまに悪酔いする苦労人。
今日はなんだかお疲れみたい?
「はい、まずは一杯♪」
「ああ、ありがとう」
「お疲れみたいだけど?」
「最近里の中でいろいろあってね」
「ふ~ん」
慧音の顔が芳しくない。良くないことでもあったのかな?
「話してみる?」
私は頭も良くないし、記憶力だって無い。
愚痴も、悩みも聞くだけしか出来ないけれど、でもそれだけでも楽になる人達がいるのを私は知っている。
だから私は慧音に聞いた。
「ん・・・、そうだな。聞いてくれるか?」
「もちろん!聞くだけでいいなら何でも聞くよ」
「それでもいいさ」
慧音はコップに口をつける。
私は出来たばかりの串揚げをそっと前に出す。
「最近里の中で子供が襲われる事件が相次いでな・・・」
「ふんふん」
「里の中に入ってくるような妖怪は、普通なら里の中で人を襲ったりしないんだが・・・」
「まぁね~」
里の中で人を襲えば、すぐさま周りの人間に見つかる。
そうなれば一度に多数の、しかも戦うことの出来る人間と戦わなくてはいけなくなる。
いくら妖怪が人間よりも強いといっても、流石にこれじゃあ敵わない。
まぁ一部どうにかしちゃうのもいるけど、そんな強い妖怪はそういった秩序を乱すようなことはまずしない。
そういった理由で、里の中は人間にとって安全なのである。
「最初は人間の仕業かと思ったのだが、口が裂けるだの、風のように速く走るだのどうも人間じゃないみたいでな・・・」
「へぇ~」
「で、見回りを強化したのだが一向に相手が見つからない・・・」
「そうなんだ?」
「まぁ、最終的には竹林にいる知り合い達の力を借りて犯人を倒したのだけど・・・」
そこで慧音は、コップの中身を飲み干した。
「そのことがあってから寺子屋の、いや里全体の雰囲気が悪くなってな・・・」
「うん」
「子供達の間には恐怖が、大人たちの間には緊張感が漂い始めて、生徒の何人かは寺子屋に来ないどころか外にすら出なくなってしまったんだ・・・」
あ~、確かにそれは慧音にとっては気が滅入るだろう。
というか、最近人間のお客さんが減ったのってそのせい?
「私がこう言ってしまうのは駄目だとわかっているのだが、どうも今の里は微妙に居心地が悪い」
「・・・」
まぁね~、子供ばかり(でいいんだよね?)が襲われるような状況になったら、そりゃあ親は気にするでしょう。
他の大人だって暢気にはしてられないだろうし。
「はぁ・・・」
慧音はため息をつきながらコップを傾けた。
「あやややや、既に先客がいましたか」
「ん~?そこにいるのは里にいる半獣?」
「あ、いらっしゃい♪」
二組目のお客さんは新聞記者の烏天狗さんと鬼さん。
ちょくちょく二人で飲みに来る。
でも、この二人が来たときは要注意!
気をつけないと、お店のお酒全部飲まれちゃう。
「ん、文殿と萃香殿か」
慧音は少し億劫そうに今来た二人に返事する。
既にかなりの量を飲んでいるので、ちょっとふらふらしている。
「あれ、なんか良くない飲みかたしてるね。だめだよ、お酒は楽しく飲まないと!」
「まぁそうなのかも知れないが、どうも気が滅入ってしまってな」
「もしかして、最近里で起きていた連続子供襲撃事件のことで?でも、あれは既に解決してなかったっけ?」
流石記者、情報はしっかり持ってるみたい。
「そうなのだが、里の雰囲気がどうも戻らなくてな・・・」
「まぁ、仕方ないね。あんな事件だったし・・・ふむ、もう少し詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
「おいおい、口調が取材時になってるよ?ここには飲みに来たんだろう?」
「そうですけれど、せっかくのネタになりそうなこと・・・」
「それだったら後で聞きに行けばいいじゃない。取材の準備だってしていないでしょう?」
「文化帖は常に持っています」
そういって文はいつも持ってる手帳を取り出した。
「・・・あいかわらずだねぇ。でも、やっぱり今じゃなくてもいいんじゃないか?」
「何を言ってるんです!情報は鮮度が重要なんですよ!?」
「そうかもしれないけどさぁ」
なんか二人がいろいろ言い合っているけど、ちょっと言っとかないといけないことが・・・。
「あの~」
「「何?」」
「もう寝ちゃったよ、慧音さん」
私が指差したほうには、自分の腕を枕にして慧音が突っ伏していた。
「あやややや、残念」
「ん~、これじゃあ話は聞けないね」
「仕方ないわね。また今度聞くことにしましょう」
そう言って二人はやっと椅子に座った。
「んじゃ、とりあえず酒ね」
「私も、あ、あと串揚げも」
「はいはい~。でもほどほどにしておいて下さいね。屋台のお酒を全部飲まれちゃうわけには行かないから♪」
「わかってるよ。ちゃんと瓢箪も持ってきてるから」
そう言って鬼さんは腰の瓢箪を掲げた。
途中からあっちの瓢箪に変えてもらえないと、冗談抜きでお酒が無くなっちゃう。
それじゃあ他の人が飲めなくなっちゃうから、毎回お願いしている。
「じゃあいつも通り、適当につまみをよろしくね」
「は~い♪」
天狗さんがウィンクをして頼む。
私の屋台の特殊メニュー『夜雀のお勧め』。
つまみと酒が無くなったら、注文なしで私が勝手に新しいつまみを作り、酒を注いでいくというもの。
メニューには書いていないけど、常連さんは結構知っている。
というか、最初にこれをやりだしたのは前の二人だし・・・。
この人達、沢山食べて飲むもんだからいちいち注文するのが面倒になったみたいで、空になったら何でもいいから作って、注いでといったのが切欠で、それを見た他の人達が真似し始めたのが始まり。
今は結構な人達が利用している。
といっても、前の二人の場合お酒は途中で止めちゃうけどね♪
「あ~、仕事の後の一杯はいいですねぇ」
「仕事ねぇ・・・天狗も大変だ」
「まぁ、といっても半分趣味みたいなものですけどね」
「でも、生き甲斐でもあるんだろう?」
「もちろんです!」
「ま~、妖怪でしっかり仕事をしている奴っていうのは、趣味が生き甲斐になっているような奴らばかりだからねぇ」
それって私のことも言ってるのかな・・・?
「お邪魔するよ」
次のお客さんは始めてみる人。
青の髪に赤い服、胸元に鏡のようなものがついている。
「あやややや、貴方は!」
「ん、あんたは確か新聞記者の・・・」
「おや~、もしかしてあんた、最近幻想郷に来たって言う神様?」
「えっ!?」
驚いた。まさか神様が私の屋台に来るなんて・・・って、あれ?そういえば前にも誰か来てなかったっけ?
「おやおや、鬼までいるのか?懐かしいねぇ」
「といっても、今地上にいる鬼は私だけだけどね。あ、吸血『鬼』ならいるか」
「ふふ、本当に面白い場所だ。おっと、先に注文をしないとな」
そういって神様は椅子に座って、メニューを見た。
「ん~、早苗は蒲焼が、諏訪子は串揚げが良いって言ってたなぁ」
あ、そういえば前に洩矢諏訪子っていう神様が来ていたっけ。
それに早苗って山の神社の巫女だよね?もしかして同じところに住んでいるのかな?
「店主は何がお勧めだい?」
「あ、え、え~と、お酒を飲むなら串揚げのほうがお勧めかな」
「じゃあ、それと酒をもらえるかい」
「あ、は~い♪」
私はコップを出し、お酒を注いでから魚を捌きにかかる。
「そういえば、そこの人は?」
神様が、毛布のかけられた慧音を見て尋ねる。
「あ~、こちらの人はですね。ん~、ちょっとやなことがあったみたいで自棄酒して潰れちゃったんですよ」
あれ?慧音が潰れたのって、天狗さんたちが来てからすぐじゃなかったっけ・・・?
自棄酒だったなんてわかるのかな?
「お~、そういえば文は里で何が起きたか知ってるんだよな?聞かせてくれない?」
「ん、里で何かあったのか?」
「ええ、まぁ、ちょっとありましてね。実は最近人里で子供が襲われるという事件がありまして・・・」
ん~?なんか、天狗さんたち里での事件について話してる。
まぁ、今の私には関係ないか♪
「・・・最終的には鈴仙さんの力で犯人を見つけ出して、妹紅さんと慧音さんで倒したそうです」
「なるほど~、そんなことがあったんだ~」
「新しい妖怪か・・・私達のように外から来たのかねぇ」
「そういえば、最近紫が忙しそうにしていたなぁ・・・」
「あ、確か藍さんも忙しそうにしてました。で、何で忙しいのかなぁっと取材をしようとしたら脅されましたけど・・・」
「ん~確かに紫もなんか隠しているっぽいしねぇ・・・案外あんた達が来たから結界が脆くなって、外から変なものが来ていたりして」
「なるほど!で、八雲一家はそれの対応に追われていると・・・」
「いや、そんなことはしていない・つもり・・なんだけど・・・なぁ・・・」
あ、神様がなんか考え込んでる。
もしかして、あの二人になんか言われたのかな?
ん~、よしここは一発元気の出る歌を歌おうかな♪
「黒白、黒白、モノクロ二色♪仲間はずれのネズミ色♪」
屋台の外は一寸先も見えない真っ暗闇。
でも酔っ払いには関係ない。
「お~、流石神様、いい呑みっぷりだねぇ」
「あはははは、伊達に山の連中と宴会してないさ!」
「こっちにもお酒くださいよ~」
「おお、悪い悪い」
「私にもくれ」
いや~、なんと言うか、神様ってお酒強いんだねぇ・・・天狗と鬼さんとまともに張り合ってるよ・・・。
そういえば、前に来た神様も結構飲んでたなぁ。
というか、復活した慧音まで入り込んでいるけど大丈夫かな・・・?
「ねぇ、店主は呑まないのかい?」
なんか、いきなり神様がこっちに近づいてきた。
「え、私は仕事中だし・・・」
流石に仕事中は飲めない。
それに、私がいなくなったら誰が料理を作るのよ?
「いいじゃない、そんなの」
「そうだぞ。一人だけ素面というのはずるいではないか」
あ、慧音もなんか参戦してきた。
この人、酔っても口調だけは変わらないからわかりにくいけど、今、相当~~~酔っ払ってるみたい~。
・・・当たり前か、さっきまで潰れていたわけだし。
って、流石にこれはちょっとヤバイ、かな・・・。
そこらへんの妖怪や人間なら無理やり逃げることも出来るけど、これほど強い相手だと流石に無理がある。
(どうしよ~)
私が助けを求めて、天狗さんと鬼さんの方を向く。
「そういえば、ミスティアの酔っ払っている姿は見たこと無いなぁ」
「いいですねぇ、たまには店主と飲んでみたいと思っていたんですよ」
あれ、もしかして味方無し・・・?
「というわけだ。さぁ店主も一杯」
「そうそう。さ、料理なんていいから一緒に飲みましょう!」
「え、わ、きゃ、ちょ、ちょっと~!?」
夜の屋台に響く、客達の歓声と夜雀の悲鳴。
夜明けまでにはまだ少し・・・。
いつも楽しく読ませていただいていますよ
さて、酔っぱらったみすちーが気になって仕方のない私ですが・・・
こういった裏メニューっていいですよねぇ。
なんか通になった気分ですよね。
次回も楽しみに待ってますね~。
ただ、襲撃事件の真相が何かあるように思えたのに結局特になくて少しがっかり。
鬼ヶ島ってどこにあるんでしたっけ?(特には明言されてない?
この屋台シリーズは好きですよ。
雰囲気とかが素敵ですよねぇ・・・。
文章の修正箇所を発見しました。
>「あ~、仕事の後の一杯はいいでですねぇ」となっていますが「で」が一つ余計ですね。
以上、報告でした。。(礼)
>気を張らずに
ありがとうございます。基本は楽観的なのでどうにかなると思っています。
>酔ったみすちー
個人的考えでは、みすちーは酔ってもあんまり変化が無いようなタイプの酔い方をする気がします。
いつか書いてみるかもしれません。
>真相が何かある
すみません、このシリーズでは事件が起きたり、解決したり、重大なことがわかったりはしないつもりです。
お酒の席でそんな大それたことは似合わないと思っているからです。
せいぜい、都市伝説の方とかの複線っぽいものが出るくらいです。
>鬼
とりあえず、幻想郷で地上にいるのは彼女だけといわれているのでそう表記しています。(地下にはいるんですけどね)
鬼ヶ島に関しては全く表記が無いので、ちょっとわかりかねます。
>誤字
報告ありがとうございます。
どうして、こう見逃すかなぁ・・・。