―――――生まれては、消え。消えては、また生まれる。―――――――
―――――その発生に際限は無く、きっかけに限りはない。――――――
―――あらゆる場所、時間に存在し、人々の記憶と会話に住まう。―――
――文明が発展しても、いや、発展したからこそ生まれしものたち。――
―――――文明という光に照らされた社会に残る、新しき闇。―――――
――――光の洪水の中で生きている人々は、それらをこう呼ぶ。――――
―――――――――――――『都市伝説』と―――――――――――――
Modern legend of Alice ~近づく着信音~
手にした人形を静かに作業台の上に戻し、アリスは人形の出来栄えを確認する。
「うん、上出来ね」
次にアリスは魔法の糸を人形に繋ぎ、魔力を送る。
アリスの魔力という意思と動力源を得た人形は、静かに動き出す。
最初はゆっくりと、そして徐々に激しく動き出す人形を見ていると人形に入り込んだ何かがその体を馴染ませている様だった。
実際その比喩は正しい。
アリスはこうやって人形の具合を確かめると共に、自分の魔力を馴染ませているからだ。
「う~ん、まぁこんなものかしら?」
アリスは人形を台の上に戻し、魔法の糸によるリンクを切った。
すると、それを待っていたかのように一体の人形が紅茶を持ってきた。
「ありがとう上海」
アリスは紅茶を受け取り、上海と言った赤い服の人形の頭を撫でた。
頭を撫でられた人形は、一度だけ目を閉じるとそのままアリスの右肩に座った。
この人形の名前は上海人形。
アリスが最も良く連れている人形でほぼ常にアリスとリンクされているのと、ある程度の(といってもパターンをいくつか組み込んでいるだけだが)自立性があるため、傍目ではまるで生きているように見える。
また他の人形に比べリンク自体も強いため、アリスの感情がそのまま上海人形にも表れるので、ますます生きている様に見えてしまう。
元々呪詛用の人形だったので意思や魔力の伝導率がもともと高く、それ故にアリスのヒトガタとして最適だったのだろう。
まさしくアリスの分身というべき人形である。
他にもリンクが強い人形としては蓬莱人形があり、こちらも元は呪詛用の人形である。
ただし、こちらは首吊りという言葉が上につくように呪い人形としての側面を濃く残しており、その為に上海人形よりもより戦闘向きになっている。
・・・閑話休題・・・
「ふぅ、そろそろ人形の材料が無くなってきたわね・・・」
最近はいろいろあって人形の消耗が激しくなっていたので、これからのことも考え現在大量生産中あった。
その為に元々それほど多くなかった人形の材料が、底を尽いてきたのだった。
「そういば、山の巫女が機械仕掛けの人形の事を言っていたわね。試してみようかしら?」
アリスはそんな事を考えてみる。
ただし、金属と魔力の相性はあまり良くない。
もちろん金属の種類によって変わるが、アリスは試したことは無いが機械ともなると相当相性が悪くなるらしい。
「う~ん、実際に作る前に別のもので試してみたほうがいいかもれないわね。でも、何で試そうかしら・・・?」
アリスは少し考える。
(機械といえば河童か天狗よね。でもどちらも閉鎖的だし・・・あ、香霖堂ならあるかしら?あ、でもあそこの売り物は店主が使い方のわからないものばかりだったっけ・・・私も見たってわからないし・・・あ!)
「そうだ、わかる人に聞けばいいんだ!」
アリスは早速、出掛ける支度をした。
「はぁ、それで私を呼んだんですか?」
己の神社の前で早苗はアリスと向かい合っていた。
「そうなのよ。それで、よければ香霖堂で品定めをしてくれないかしら?」
早苗は顎に手を当てて、ちょっと考えてから頷いた。
「まぁ構いませんよ。あそこは最近店主に頼まれて品定めをしましたから、何があってそれが動くかどうかぐらいはわかりますし・・・でも使えて役立つ品物は全部あそこの店主が自分のものにしていますよ?」
「いや、別に動けば有用性は問わないんだけど・・・」
「あ、そうなんですか?」
早苗が意外そうな顔で聞き返した。
「ええ、今回は機械と魔力との相性を調べるのが目的で、使用そのものが目的じゃないし。あ、でもある程度複雑な方がいいかな?正に『機械』ってものとの相性がみたいわけだし」
機械は複雑であればあるほど魔力との相性が悪くなるらしい。
今回は相性の悪い機械に上手く魔力を通わせることが目的なので、相性が悪いほうが今後の役に立つ。
そして幻想郷で普通に見られるような簡単なものなら、わざわざ香霖堂で探す必要は無い。
(問題は行き過ぎた科学は魔力との相性が逆に良くなるって言われている点だけど、流石にそこまでのものは無いと思うしね)
「使えなくてもいいから、複雑かつ動くものですか・・・」
アリスの注文に早苗は考える。
「そうですね・・・・・・あ、いいのがありました!」
「本当!?」
アリスが尋ねると早苗は笑顔で頷き、飛び上がった。
「ええ、じゃあ早速香霖堂に行きましょう」
「これ?」
香霖堂内で早苗から渡されたものは、手のひらサイズの細長い物体だった。
「ええ、これは携帯電話といって、外の世界ではこれを使って誰もが離れた人と言葉や文章をやり取りできるようになる機械です」
「へぇ、こんな小さなものでねぇ」
「はい。ただこの幻想郷には電波・・・えっと、媒体になるものがないのでその機能は使えないんですけどね」
「なるほど、だから『動くけど使えない』ものってわけね」
アリスは早苗の言葉に頷き、携帯をいじくりつつ見ている。
「そうなんです。ゲームは落としていないのか全く無かったし、古い機種だからカメラもついていないし。一応メモ帳や電卓は使えるんですけど、紙とそろばんがあればここの人は必要ないみたいですし」
「・・・え~と、半分くらい何を言っているのかわからないけど一応動くのね?どうやって動かすのかしら?」
「あ、はい。やり方を教えますね・・・まず、ここで電源、えっと、動かすために必要な作業をします。」
そういって早苗はアリスから携帯を受け取り、電源を入れた。
「へぇ・・・」
電源を入れられた携帯は、電子音を出しながら液晶画面を表示した。
「ではまず、基本的なところから・・・」
早苗は普段の器用さからは想像もできないような危なかっしい様子のアリスに、苦笑しながらも携帯電話の扱い方を丁寧に教え始めた。
早苗の教え方は丁寧で、必要なさそうなことまでいろいろと教えてくれた。
アリスも気になることはいろいろと聞いたので、結局日が暮れるまで早苗の携帯講座は続いた。
その間店主は何をしていたかというと・・・。
「ふむ、なるほど。そういった風にも使えるのか・・・」
二人の話を横で聞いて、現代機器への知識を蓄えていた。
「なるほどね。確かに魔力が通いにくいわね」
アリスは早苗から携帯電話の使い方を教わると、早速家に戻り実験を始めた。
とりあえず最初は携帯の周囲に魔力を纏わせ、宙に浮かべてみた。
それ自体は簡単に出来たので、今度は魔力を内部に通して動かしてみようとしたのだが・・・。
「周囲はともかく、内部はまるで結界が張ってあるみたいに外からの魔力を拒む、と・・・」
アリスがいくら内部に魔力を通わせようとしても、何故か上手く魔力が流れないのだ。
「いや、結界というよりそれ単体で完成されたマッジクアイテムみたいね。結界のように拒むというよりは、綺麗に作られていて余計なものが入り込めないって感じだし。やっぱり中にある電気の通り道が一種の魔方陣のようになっているのかしら?」
電源が入っていると魔力の侵入を拒んだ携帯電話だが、最初に電源を切った状態で魔力で内部を走査した時は、比較的簡単に魔力が浸透したのだった。
ただし、その時魔力の通りやすい道が見つかったのだが、どうもそれは電気の通る道だったようだ。
それが電気を媒体とした魔方陣のようになり、電気という魔力を使ったマジックアイテムのようになっているようだった。
「ん~、もしマジックアイテムと考えるなら、どこかからかアクセスする手段があるはずよね」
マジックアイテムというからには魔力が通わなくてはならない。
つまりそれ自体は内部に魔力を通しやすい構造をしているのである。
ただし、決められた道以外を通さないようにしているため、結果的に外からの魔力を拒んでいるのである。
言い方を変えれば、その道さえわかれば簡単に魔力を通すことが出来るのである。
しかし、ものによっては道の解析が難しいし、道を解析したとしても今度はその回路の仕組みがわからないと魔力を通しても操ることが出来ない。
(ふつうそこまで解析できれば理論上自分で同じものを作ることが出来るから、そこまではあんまりやんないんだけどね・・・)
だが、今回はその『理論上つくれる』までいくことが目的でもある。
機械のシステムを人形に組み込むことが出来れば、いろいろと幅が広がることが見込めるからだ。
(というわけでさっさと調べますか・・・)
しばらくの間、マーガトロイド邸の明かりが消えることは無かった。
「なるほどね。山の巫女が言っていた電波って言うのは、これを触媒とする通信専用の魔力みたいなものなわけか」
アリスは昼夜を問わず携帯の解析を行い、結果『アンテナ』というものにある種の魔力を与えることである程度外側から動かすことができるということがわかったのだった。
「ただねぇ・・・」
問題はそのある程度というのが、電源を入れる。文字を表示させる程度だったことだ。
むしろ電源を入れるということは、電源が入っていない状態で行うことなので、実質起動状態でまともに動かせたのは文字表示だけだった。
「しかも、メールとしてじゃないと表せないし・・・」
一応、その副産物として音がなる、振動するといったことは起こるのだが、それ単体を発生させることは出来ないので、これは成功とはみなせない。
アリスは悩むが、今のところ新しい方法が思いつかない。
「・・・はぁ、仕方ない。少し気分を変えましょうか」
アリスが携帯をテーブルに置き、そこから離れようとしたとき、
ピロロロロ、ピロロロロ、
突然テーブルの上の携帯が鳴り出した。
「何かしら?勝手に鳴るなんてことは無かったのに・・・」
アリスが携帯をとってみると、メールが届いたという表示が画面に表れていた。
「おかしいわね・・・私は何もしていないのに」
とりあえず届いたというメールを見てみようと思い、携帯を操作する。
開いたメールにはこう書かれていた。
『私#$”&%。今、湖のほとりにいるの』
「何、これ・・・?」
見た感じはまるで自己紹介のようだが、肝心の名前のところが良くわからない文字になっている。
(湖ねぇ・・・何かあるかもしれないし、一応行ってみましょうか)
アリスは携帯を片手に、家を後にした。
湖に着いたアリスは、湖の周りをゆっくりと眺めつつ飛び回る。
すると、川とつながっている所に見知った顔がいるのに気付いた。
「あれは・・・」
アリスがその人物に近づくと、向こうもこっちに気付いたようで声をかけてきた。
「あれ、アリスさん。紅魔館に行く途中なの?」
「ん~ちょっとした散歩みたいなもの。リグルはどうしてここに?」
湖のほとりでしゃがみこんでいたリグルは、アリスの質問に自分の触覚を指して答えた。
「ちょっとね・・・そろそろ蛍が成虫になるころだから、蛍の先輩として注意事項とか美味しい水のありかとか教えてあげようと思って、呼びかけていたところ」
そう言って、リグルは笑った。
「呼びかけるって、その触覚で?」
「そう、普通の虫にとっては感覚器官だけど、私にとっては妖力の元でもあるからね。そういったことも出来るのよ。って、何匹か来たみたい」
リグルが話しの途中で上流を見ると、確かに小さな蟲達がこっちによって来ていた。
「ほんとに来てるわ、流石ね」
「まぁこれでも蟲の王だし。何より元同種だしね」
「確かにね」
アリスはリグルの言葉に頷くと、リグルに別れを告げその場を離れた。
(おそらくさっきのメールは、どうもリグルの波長を拾った見たいね。まぁ私の魔力でも動いたわけだし、意思の伝達という意味ではより近いからそういうこともあるでしょう)
アリスはメールの解釈をそうとらえると、ついでに人里に寄って買い物をしてから家へと帰った。
アリスがいなくなった後の湖のほとりで、見えない足跡が一つの波紋を作り出した。
ピロロロロ、ピロロロロ、
「ん?」
あれからニ、三日後再び携帯がメロディを鳴らした。
アリスは人形を作っていた手を止めて、テーブルの上においてある携帯に近づいた。
「今度は何かしら?」
テーブルの携帯を開いて中を確認すると、そこには前に見たことのある文章が映し出されていた。
『私#$”&%。今、人里の入り口にいるの』
(あれ、前のとおんなじかな?)
アリスはその文章を見て、先日のリグルと同じ現象が起きているのだと思い、内容を見た後すぐにさっきまで続けていた人形作りに戻った。
ピロロロロ、ピロロロロ、
しばらくすると、また携帯が鳴り出した。
「何よ、また?」
テーブルに近づいたアリスは、再び携帯を手に取った。
そして、届いたメールを開く。
『私#$”&%。今、道具屋の前にいるの』
その後も、何度かメールがアリスの元に届いた。
『私#$”&%。今、寺子屋の前にいるの』
『私#$”&%。今、広場の前にいるの』
『私#$”&%。今、大通りの真ん中にいるの』
(何、これ・・・)
届いたメールが十通を越えたあたりからアリスは気味が悪くなった。
(・・・電源を入れていなければメールは届かないはず)
電源を落とした状態だと、メールというのは表示されないことは確認済みだった。
アリスは携帯の電源を落とし、その日の作業を上げて眠りについた。
・・・ロロ・・ロ、ピロ・・・・ロ、
(・・・何?)
真夜中、アリスはリビングのテーブルから聞こえる音で目が覚めた。
気になって、リビングに行くと電源を落としたはずの携帯が鳴っていた。
(嘘?電源は入れていないはず・・・。外から電源を入れるほどの力があるの!?)
いろいろな路な考えが頭を巡ったが、とにかく内容を見てみないと始まらないと思い、携帯を開いてみると、画面にはやはり今までと似た文章が映し出されていた。
しかし、今までとほんの少しだけ違っていた部分があった。
『私#$”&%。今、人里の出口にいるの。あなたは今、どこにいるの?』
その文章を読んだ途端、アリスの全身をすさまじい怖気が襲った。
(これ以上をこのメールを見ちゃいけない!!)
それは本能が、魔法使いとしての勘が、このままこのメールを見ることは非常に危険だと告げていた。
しかしそう感じたとはいえ、電源を落としても無駄なのはこのメールで証明済みだ。
だからといって、せっかく手に入れたものを破壊するのは気が引ける。
少し悩んだが、あることを思いついた。
(そうか、電源が絶対入らないようにすればいいのよね)
アリスは携帯を裏返すと、カバーを開き中にある電池と呼ばれるものを取り外した。
「これで、平気よね?」
実際に何度か電源を入れてみたが、どうやっても電源は入らない。
(これでよし!)
アリスは安心して携帯をテーブルの上に置き、寝室に戻ろうとした。
ピロロロロ、ピロロロロ、
「ッ!?」
リビングから出ようとした直後、電池を抜いたはずの携帯が鳴り出した。
(そんな馬鹿な!?だって、エネルギー供給は無いはずなのに!!)
アリスは恐る恐るテーブルに近づいた。
その間も携帯は鳴り続け、その活動を続けている。
ゆっくりと携帯を手に取ると、緊張した面持ちで画面を見た。
そこにはやはりメールが届いていることが表されている。
アリスはそれを少し見た後、意を決してメールを開いた。
『私#$”&%。今、森の入り口にいるの。あなたの家に向かっているところ』
もう迷わなかった。
アリスは持っていた携帯をそのまま床に叩き付けた。
叩きつけられた携帯のディスプレイが剥がれ、アンテナが転がり、ボタンが飛び散った。
(これで大丈夫よね・・・)
アリスがばらばらになった携帯を見て、安心すると上海人形に壊れた携帯の片づけを命じようとした。すると、
ビ・・ロ・・ロ、・・オ・・ロ
濁った音が床の上から聞こえてきた。
アリスがなんだと思ってみてみると、携帯の飛び散った部品からその音が流れていた。
そして、はがれてもう何も移さないはずのディスプレイに文字が映り始めた。
『私#$”&%。今森の中いるの。あなたの家まであと少し・・・』
グシャ!
アリスは文字の移ったディスプレイを踏み潰した。
靴の裏で、ディスプレイが砕けるのを感じた。
アリスは足を動かし、念入りに粉々に鳴るまで踏み砕く。
(これで!)
ビ・・オ・・ロ、・イ・・ロ・オ・
しかし、再び音が流れる。
グシャ!
アリスはそれも再び踏み潰した。
(だ、大丈夫。文字が表示されなければ平気なはず!)
アリスはなんとなくだが、あれは文字さえ表示されなければ大丈夫だという事を感じ取っていた。
今はディスプレイも砕けているので、文字を表示する方法は無い。
そう思い、ふと窓に目を向けて硬直した。
『ワタシX||―+|-|。イマ、アナタノイエノマエニルノ』
アリスの視線の先のガラスには、釘か何かで傷つけるようにしてそのような文字が書いてあった。
・・・トントン
「!!?」
そして玄関のほうからドアをノックする音が聞こえてきた。
「ッーーーー!!」
アリスは窓を弾幕で粉々に吹き飛ばすと、上海と一緒にそのまま表に出た。
(こうなったらこっちから攻めてあげるわよ!!)
外へ飛び出したアリスは、上海を玄関に向ける。
しかしそこには誰の姿も無かった。
(!どこにいったのかしら・・・)
慎重に玄関に近づくと、ドアの前に確かに何かがいた事を示す足跡があった。
(遠くに入ってないはず!!)
アリスは注意しながら家の周りを回った。
だが、家の周りには何もいない。
念の為何体かの人形で周囲の森も調べさせたが、何も見つからなかった。
(どこにも、いない・・・?)
一通り見て、なにも見つからないのを確認するとアリスは再び窓のところに戻ってきた。
「いったいなんだったのかしら・・・」
アリスがふと、室内に目を戻すと携帯の残骸が目に入った。
(ん?)
ふと違和感に気付いてそれを良く見てみると、アンテナが微かに振動しているようだった。
アリスはなんだろうと室内の方に完全に体を向けた時、
「私~~~。今あなたの後ろにいるの」
「ッ!!?」
アリスのすぐ後ろから女の子の声が聞こえた。
その声を聞いた途端、アリスは完全に硬直した。
「は・・・、は・・・」
人でも、妖怪でも、幽霊ですらもない何かが、今後ろにいる。
その気配のせいで呼吸が上手くできない。
アリスの全身を冷や汗が伝う。
今振り向けば、探していた怪異の原因を目にすることが出来るだろう。
だが、本能が決して振り向くなと告げる。
片方は動かず、片方は動けないといった状況が少しの間続いた。
カサッ
「!!」
後ろの何かが一歩を踏み出した。
振り向くことは出来ない、しかしこのままでも危険だ。
そして、横にも前にも逃げたところで意味が無い事を感じていた。
そう、すでに自分は相手の絶対的なテリトリーに入り込んでいる事に気づいていた。
(どうする!どうする!!)
アリスはパニックを起こしかけている思考を無理やり宥めながら、打開策を考える。
(今手元には上海人形が存在する。攻撃は可能。でも、確証は無いけどおそらく後ろの奴に攻撃を打ち込んでも意味は無い)
アリスは危険すぎる気配が、すぐそこまで近づいてくるというプレッシャーに耐えながら、必死に思考を回転させる。
(勘だけど多分、後ろにいるのは本体じゃなくて他に核となる何かが存在するはず!)
アリスはいろいろな可能性を考えるが、なかなか思いつかない。
当たり前である。殆ど情報の無い相手の弱点を知ろうとすること自体が、すでに無茶苦茶なのである。
だが、現状ではそんなことは言ってられない。
(何か!何か!)
ふと、アリスの目に携帯の残骸が目に入った。
(・・・もしかして!!)
アリスは上海人形を携帯の残骸に向けた。
すでに、後ろの気配はアリスに手を伸ばしている。
(奴は基本メールという存在で私にアピールしていた。でも携帯が核ならあの状態で無事なはずは無い。でも、もし奴の核が『電波』なら!)
それなら『電波』を受信するアンテナさえ破壊すれば、電波自体が存在できなくなるかもしれない!!
アリスは一縷の望みをかけて上海人形に魔力を送る。
――呪詛『魔彩光の上海人形』――
後ろの気配がアリスに触れようとした瞬間、上海人形から放たれたレーザーがアンテナを他の残骸諸共消滅させた。
その瞬間、後ろの気配がさぁーっと薄れ、数秒も立たない内に跡形も無く消えてしまった。
気配が消えた事を確認したアリスは、ゆっくりと後ろを振り向く。
もちろんそこには何もなく、ただ『何か』がいた証拠として足跡だけが残っていた。
「・・・はぁ~~っ」
アリスはそれを見た瞬間、大きな息をついてへたり込んだ。
一応安全になったであろうとはいえ流石にその日は眠れず、次の日に博麗神社向かって霊夢に起きた事を話した。
「災難だったわね」
「全くよ。もう携帯はこりごりよ」
霊夢に入れてもらったお茶を飲みながらアリスは嘆息する。
「まぁ、紫にはこっちから言っておくから後始末は向こうがするでしょう。それより本当に安全になったの?」
「多分ね。でもしばらくは紅魔館あたりに世話になるわ。借りは高くつくかもしれないけどあそこなら四六時中誰かが動いているし、防護も完璧だしね。背に腹は変えられないわ」
「魔理沙にはよく入られているけどね」
「あれは特殊」
「確かに・・・」
アリスと霊夢は一緒に笑いだした。
そしてしばらく談笑してから、アリスは立ち上がった。
「じゃあ私はいくわ。紫によろしく」
「はいはい。じゃあね」
「ええ、また」
神社を出たアリスは人形達に荷物を持たせ、空に飛び上がり今回の切欠となった湖へと飛んでいった。
(さて、ついでだからパチュリーの所で今回の実験の解析でもしようかしらね。携帯はもうこりごりだけど、せっかくの結果だし有効活用しないとね)
転んだ時に毎回ただで起き上がるほど魔法使いは弱くない。
アリスは少しだけ機嫌を直して、湖を飛び越えた。
そういえばだいぶ前に逆に遠ざかっていくというコピペをみたのを思い出したw
ネタは分かってるんですが、窓にまで出てくるのは真面目にコエー。
実体が把握できなくて(目に視えない)力技の効かない相手、それがじわじわと確実に迫ってくる恐怖に普段は冷静なアリスも今回はかなり取り乱してましたね。ロリス時代のトラウマもあるのかもしれませんがw
解決時は流石ブレイン派といった感じでしたね。
あ、早苗さんとはもうそこそこの面識があるんですから、いまだに「山の巫女」という呼称はちょっと違和感があります。
普通に名前で良いのでは?
メリーさんなのかなぁ?
けど、違うっぽいし
というか、幻想郷でも猛威を振るうメリーさん。
素直にすごいです。
どうして私は物好きにも学校の怪談シリーズを全巻読んだんだろう……
都市伝説も忘れられれば幻想郷に行っちゃうのでしょうねぇ
面白かったけどね
ただもうちょっと迫り来る恐怖というか、途中経過で恐怖を表現して欲しかったように思われます。
殆どの方が気付いておられるかと思いますが、元ネタはメリーさん又はリカちゃんの電話です。
主な変更点は電話からメールと窓になったことですね。
あと窓の文章、文字化けの変わりに文字をばらしています。
表記では『||―+|-|』なっていますが、実際の窓にはもうちょっと文字っぽく書かれているという設定です。
>山の巫女
えっと接点が今のところあの屋台だけなので、一応まだアリスの中では山にいる巫女という感覚です。
ただ表記はありませんが、携帯の使い方を教えてもらった後は早苗という認識になっています。
>紅魔館
そういえば、魔法の森、人里、永遠亭、妖怪の山と一通り出揃ってますねぇ。
となると、確かに次は紅魔館のメンバーかな?
さて、では誰を出しますかねぇ・・・まぁそれ以前にネタを探さなくてはいけないんですけど(汗)
どっかに落ちてないですかね、いい都市伝説(苦笑)
>迫り来る恐怖
本当は気持ち悪いメールから一日おきにメールが届く予定で、ある程度迫り来る恐怖を描こうと思ったんですが、気持ち悪いメールから一日たつと、アリスが神社に持っていって霊夢に紫の登場をお願いしちゃったんですね(苦笑)
なので、そんな暇を与えないようにすぐメリーさんにお越しいただきました(笑)
おかげで恐怖が減ってしまったのはこちらの力不足です。
精進しますので、以降の作品による成長を気長にお待ちいただけると嬉しいです。
そういえば、リカちゃんというのもありましたね
今でも電話が鳴ると「ひょっとしたら」と思ってしまうくらい子供の時はビビりまくってました。
それを撃破したアリス、GJ!