博麗 霊夢は限界だった。
私はふと、目を覚ます。
体を起こそうとして、床に腕を突き立て、
起き上がろうとする。
腕に力が入らない。
がくがくと、腕が震えて体重を支えられない。
このままでは、死ぬ。
私ははっきりと、眼前に迫る死の気配を感じた。
このままでは、確実に、死ぬ。
博麗神社の居間。
見慣れた風景。
ここが死地となるかもしれないことを、私は悟った。
悪魔はもう、すぐそこまで迫っている。
私の命を刈り取ろうと、もうすぐ目の前まで。
一秒でも早く体を起こさなければ、死ぬ。
今すぐにでもここを離れ、あれを手に取らなければ、死ぬ。
ヤツには敵わない。
どれほど私が力を持っているとしても。
どれほど私が神通力を駆使したとしても。
人間ではヤツには対抗できないのだ。絶対に。
さあ、死にたくなければ立て。
生きたいのならば行動しろ。
こんなところで、無様に倒れるのは死んでも御免だ。
渾身の力を振り絞って、私は体を起こした。
よし、体はまだ動く。
私は体を引きずるように床を這いながら、廊下を進む。
ヤツはじわじわと、まるでいたぶるように這い寄って来る。
もうはっきりと、すぐそこに気配を感じるのだ。
戦う、などという選択肢は存在しない。
もはやそれと戦うほどの力は、私には残されていない。
いや、戦う力が残っていたとしても、
ヤツを退け、一時は黙らせることに成功したとしても、
ヤツは何度でも襲い掛かってくる。
ヤツに対抗する手段はただ一つ。
食事。
ちなみに、そのヤツのことを人は『空腹』と呼ぶ。
「ま・・・けるかぁ!!」
渾身の力を振り絞って、ついに私は台所までたどり着いた。
這いつくばるように歩を進め、お茶菓子類が保管してある棚を開く。
大福。
こんな危機的状況があろうことを予想して、一つだけ大事に残しておいたのだ。
私は迷うことなくそれを手に取ると、黙々とそれに喰らいついた。
閑散とした台所に、しばし咀嚼音だけが染み通る。
「・・・はぁ、流石に今回は死ぬかと思ったわ。」
ようやく立ち上がるだけの力を回復させた私は、
甘ったるくなった口の中を洗い流すためにお茶缶を探す。
探しながら、私は思考を巡らせる。
流石に気絶するほどの空腹感はまずいわなぁ。
最後に食事したのはいつだっけか。
・・・そうそう、3日前だったはずだ。
最近は少しずつだが、お賽銭箱にお金がちらほら入っていることがある。
いままでと比べると何倍の収益が・・・、
いや、0は何倍しても0だった。
とにかく、これはとてつもない快挙なことなのだ。
しかし、現実は厳しい。
私は気付いてしまったのだ。
服はもう買わないことにしているし、
食事だって一日三回から三日に一回に減らした。
節約に節約を重ねて得た結論は、
結局、お賽銭だけでは生活費には遠く及ばないという結果。
最近巷では、
『博麗 霊夢はお茶に含まれるカテキンからあらゆる栄養素を体内で精製することができる。』
などという嘘っぱちな情報が出回っているらしい。
そのおかげで、
『博麗 霊夢はお茶さえあれば何年でも生きていくことができる。』
などという都市伝説まで出回る始末。
言うまでもないことだが、私は人間だ。
そんな、常人どころか超人離れした能力があるはずもない。
私がお茶だけで生活できるのは、精々2ヶ月が限界である。
もちろんそれもコンディションが万全であることが前提で、
今の私ではお茶だけでは1ヶ月と持たないだろう。
そうだ、思い出した。
私はお茶を探す手を止めた。
その顔が、瞬く間に絶望で塗り潰される。
私が突然意識を失って倒れたのも、それが原因なのだ。
お茶が、切れた。
お茶さえあれば三日に一度の食事で十分だというのに、
そのお茶がなくなってしまったのだ。
私にとっては、『お茶が切れる=死』を意味する。
いや、『お茶が切れる⊃死』といっても過言ではあるまいな。
ともかく、お茶は私にとっては死活問題なのである。
そして今は、お茶を買うお金すらない。
考えるだけでも背筋が凍りつきそうな、恐ろしいことだ。
お茶がなければ、食事が三日に一度きりなどという無謀な計画も到底なしえない。
そう、このままでは確実に、死ぬ。
もう一度、改めて言い直そう。
私こと、博麗 霊夢は限界だった。
お茶がなくなり、お金もなくなり、空腹もついに限界に達した。
伝家の宝刀、棚の奥の大福も食べてしまった。
行き着き先は、餓死。それしかない。
それはまずい。非常にまずい。
なにも食ってないけど不味い。
なんとか食べるものを、もしくはお茶を確保しなければならない。
と、そこで、あるものが私の視界を掠めた。
新聞だった。
窓の外からミサイルのような勢いで飛んできた新聞が、
とっくに割れて直す費用もない擦りガラスと障子をすり抜けて、
嫌がらせとしか思えないほど存分に畳を削りながら突入してきたのだ。
やれやれ、またか。
いい加減諦めたという、諦観の表情で私は新聞を拾い上げる。
・・・まてよ、新聞か。
普段は一文字も読むことなく、
雨の日に湿気を取るために靴の中に丸めて突っ込んだり
もしくは、窓ガラスを拭くときに丸めて使ったり、
あるいは、台所に発生したコクロっちを丸めて叩き潰したりと、
とにかく丸めて、活字以外の目的で利用されている新聞。
それに、この食料危機を脱する鍵が書かれているかもしれない。
・・・などとは欠片も考えず、水に浸して丸めて食ったらどうだろうと考える私。
やっぱり丸めて使うことで頭が一杯だった。
インクってカロリーいくつくらいかしら?
なるべくインクが多く付いていそうなページを捲って探してみる。
・・・おやっ?
初めて、新聞の文字が私の目の中に入ってきた。
私を、まるで電撃が走ったかのような衝撃が襲った。
「こっ、これだわッ!!」
まさかこんなところに、この絶望的状況を覆すジョーカーが隠れていようとは。
こうしちゃいられない。
私は嵐のような勢いで出かける準備を始めた。
まずは着替え。そして身だしなみ。
最後に、我が家に残されたわずかばかりの食料を食い尽くして、
十分に力をつけてから神社を飛び出した。
いいのだ。
もう食料を心配する必要はない。
空腹に眠れぬ夜を過ごすのは、もう終わりなのだ。
・・・いや、眠れなくても気絶はするけど。
私は新聞に書かれていた住所を思い出しながら風を切る。
その記事には、こう書かれていた。
『女中喫茶[かりんとう] アルバイト急募』
つまり、私はアルバイトを始めようとしているわけである。
博麗の巫女のプライド?
そんなものは犬に食わせろ。
むしろ私に食わせろ。お願いします。
それくらい、博麗 霊夢は限界だったのである。
* * *
女中喫茶[かりんとう]
アルバイト急募という広告は伊達ではなかったらしい。
話はとんとん拍子で進んだ。
「あのー、アルバイト募集の広告見て来たんですけどー?」
そう声を掛けると、店の奥から若干小太りの、人の良さそうなおっちゃんが現れた。
いやぁ、待ってたよー。と半ば強引に店の奥に引き込まれる。
店の奥で行われたのは、簡単な面接だ。
どうやら、この小太りのおっちゃんがこの喫茶店の店長らしかった。
面接の質問は、どれも簡単なもの。
名前。
年齢。
職歴。
好みの男性のタイプ。
スリーサイズまで訊かれて封魔針をしこたまブン投げたところで面接は終了。
結果は合格だった。
この面接は本当に必要最低限の社会的常識があるかどうかを見ていただけで、
実際には落とすつもりなどないものだったのだろう。
それくらい人手が不足しているということか。
「キミくらい可愛い娘だったら、ウチのトップ狙えるよ~?」という、
なんともイカガワシイ文句を最後に面接は終了。
若干厚めの接客マニュアルを渡されて、
明日までに全部目を通しておいてね、ということでその日は帰宅となった。
さあ、これで明日から、晴れて勤労者の身となるわけだ。
給料って月に何千円くらい出るのかしら、と私は終始ニヤニヤしながら帰路に着いた。
* * *
そして翌日。
今日から本格的に仕事がスタートだ。
開店の一時間ほど前に女中喫茶[かりんとう]に到着。
仕事の説明は、マニュアルでわかるところはマニュアルで。
やらなきゃわからないことは仕事をしながら覚えて。
ということで、説明などは一切なく、まずは現場の先輩と顔合わせとなった。
「じゃ、この二人がキミの先輩だから。わからないことがあったら彼女達を頼ってね。」
人の良さそうな笑みを浮かべながら、店長は店の奥に居た二人を呼びつけた。
新入りの私を見た二人の反応はまちまちだった。
片方は、この世の終わりを見た、というような絶望に満ちた表情で。
もう片方は、あらあら奇遇ねぇ、というたまたま道端であった近所のおばさんみたいな人当たりのいい笑顔。
愕然とした表情のまま、片方がぽつりとこぼした。
「れ、霊夢にはまだバレてないと思ってたのに・・・。」
バイトをしているところを見られるのがよっぽど恥ずかしいのか、
先輩その1、アリス・マーガトロイドは熱を持った顔と胃の辺りを同時に押さえた。
「世間は狭いものですね。一緒にがんばりましょ!」
握手を求めるように手を差し出され、私は安堵を覚えながらその手を握り返す。
それに先輩その2、東風谷 早苗は満足げに頷き返した。
しかし意外だったのが、この二人がアルバイトをしているということ。
アルバイトをするということは、少なからずお金に困っているということだ。
「へぇ、アリスって意外と金遣い荒かったのねぇ。」
私が思わずそう漏らすと、
それにアリスはカチンと来たらしく、不機嫌そうに言い返した。
「だっ、誰が毎日賽銭入れてると思って―――」
と、そこで急に何かに気付いたようにはっとして言葉を切る。
拗ねたように口を尖らせて、そっぽを向いて、
「・・・別に何でもないわよ。ばか。」
なぜいきなり馬鹿呼ばわりされにゃあならんのかはイマイチ不明だが、
隠すということは、きっと後ろめたい理由でもあるのだろうな。
優しい私はそれ以上は追及しない。
「まあ、アリスはいいとして。早苗もバイト?」
守矢神社はうちの神社と違って、それなりに山の妖怪たちからお賽銭が入っているはずだが。
・・・うちの神社と違って!!
「うん。それなりに節約すれば生活に困らない程度のお賽銭は入ってるんですけど・・・。」
早苗の表情に、すっと影が差した。
なにかあったのだろうか。
「最近山の妖怪たちと仲良くなったでしょ?
そのせいで、宴会も規模が大きくなって、頻繁に行われるようになって。
八坂様に、うちにそんな家計の余裕はありません、って言ったら、
『酒買ってこーい! 金がないなら体売ってこーい!!』って。う、ううぅ。」
「ひでェ!?」
涙ながらに語る早苗。
かわいそうに。
一家の大黒オンバシラがそれではストレスも溜まる一方だろう。
「あっ、でも大丈夫ですよ? この喫茶店で働くのは楽しいから。
ストレス解消はこっちできちんとやってるから平気です。」
そう言って、気丈に笑って見せる。
早苗、ええ娘や。
この喫茶店で働くのが楽しい、と早苗が言った時に、
アリスがこれでもか!というほどに顔をゆがめたのはなぜだろう。
「そういうあんたこそ、お賽銭は入ってるんでしょう?」
アリスに水を向けられて、私はそれに答えた。
「まあねぇ。以前よりはマシになったんだけどさ。
やっぱり生活費には足りないらしくてね。
食事も三日に一度くらいまで減らしてるんだけど―――」
「「三日に一度ッ!?」」
二人が同時に驚愕の声を上げる。
そんなに驚くような数値だっただろうか?
その程度食べなくても人間、死にはしないと思うが・・・。
「あ、あああああんた、ちゃんとご飯食べてきた!?」
「うん。ちゃんと昨日食べたわよ?」
「今日の朝食の話よ!! その『うん』はなんの『うん』!?」
「ちゃんと朝食は食べたほうがいいですよ?」
「うん、わかった。今度から三日に一度の食事は朝に摂ることにするわ。」
「「そういうことじゃねぇ!!」」
二人とも元気だなー。
やっぱり朝ご飯は大事なのね。
「はぁ。じゃあそろそろ開店だから。霊夢、準備しなさい。」
さて、この喫茶店には制服がある。
それに着替えなければならないのだが・・・。
「・・・?」
早苗は霊夢の視線に首をかしげ、
一方のアリスは、こっちみんなと睨んでくる。
言わずもがな、二人はこの喫茶店の制服に身を包んでいて。
これを、着るのか。
その制服は、着るのにちょっと勇気が必要なデザイン。
上は肩むき出し。
下は超ミニの、
和服。
まさかの和服である。
どうやったら和服でこんな欲望丸出しのデザインができるのか。
まさか店長のデザインじゃあるまいな。
「じゃ、僕はオーナーとミーティングがあるから。今日は戻らないから、あとよろしくね。」
店長はそう言い残して、慌ただしく店を出て行った。
オーナーがいるのか。
だとしたら、この制服のデザインはオーナーがしたっぽいな。
ともかく着替えなければ。
私用にあてがわれた制服を手に更衣室に駆け込む。
いつもの巫女服をロッカーにしまって、もそもそ着替える。
動きやすさはバツグンだ。
動きを邪魔するような布がない。
動きを邪魔しないような布すらない。もうちょい布増やしてください。
あと、着てみて気付いたが、肩の辺りに透明な肩紐のようなものがついていた。
肩むき出しという性質上、胸の辺りに引っ掛かりがないと、すとーんとそのまま落下してしまうのである。
持たざるものへの救済措置だ。
先の二人がその紐を利用していなかったのを思い出し、私も断固としてそれの活用を拒否した。
嘗めるな。
サラシという封印を解きさえすれば、私とてその程度の芸当は不可能ではない。
・・・あんまり激しくは動けそうにないけど。
更衣室を出ると、アリスと早苗は臨戦態勢で私を待っていた。
「さあ、開店するわよ。」
店の入り口にかけられていた、『Close』と書かれた札を反転。
『Open』という表記に変わる。
さあ、アルバイター博麗 霊夢の多忙な一日が始まった。
order 1 『お帰りなさいませ、ご主人様』
「さて、霊夢。マニュアルは読んできた?」
アリスに、頷いて返す。
空腹を紛らわせるために何度も読み返したから完璧だ。
「よし。それじゃあ基本的なところはわかってるのね。
最初の客がきたら私が行くから、よく見ておくのよ。」
まずはアリスが手本を見せてくれる、というのだ。
これは接客業。ミスするわけにはいかない。
私はアリスの一挙手一投足も見逃さぬよう、神経を集中させる。
―からんからん...
ドアに取り付けられていたベルが鳴る。
本日最初の客が来たのだ。
すかさずアリスが、すばやく、だが走らずに客の元へと向かう。
まるで床を滑るかのように、ほんのわずかな音だけを立てて。
そしてアリスが、見たものをとろけさせるような満面の笑顔で、
「お帰りなさいませ、ご主人さ―――」
ぴしィ、とアリスの表情が凍りついた。
台詞も途中でぶつ切り。
まるで時間が止まったんじゃないかと錯覚するほどの、完璧な硬直ぶりだった。
本日最初のお客さんは、そんなアリスの反応を見てサディスティックな笑みを浮かべた。
「は~い。今日も来たわよ、マイ下僕。さっさとご主人様にご奉仕しなさいな。」
風見 幽香。
それはもう、最悪の相手だった。
出会った瞬間、確実に殺されるほどの最悪の相手。
流石のアリスも即殺だった。いろんな意味で。
「いつまでご主人様をこんなところで立たせておくつもり?
ホントどん臭い下僕ねぇ。」
「し、失礼いたしました。お席へご案内いたします。」
「はぁ? まず喫煙席かどうか聞くでしょ、普通?
普段私が吸わないからといって、今日吸わないとは限らないじゃない。」
「き、今日はお煙草はお吸いになられますか?」
「吸わないけどねー♪」
「こンのッ!!」
限界まで引き攣った営業スマイルのまま、幽香を席までどうにか案内する。
先輩として駄目な見本を見せるわけにはいかない、というアリスの意地が見え隠れしている。
「幽香さん、ここの常連客なんですよ。よっぽどアリスのことが気に入ってるらしくて。」
「へぇ。ご愁傷様ね。」
こうやってアリスは毎日いじめられてるわけか。
さっき早苗が楽しい職場だと言った時に、アリスが顔をゆがめた理由がわかった。
「き、今日はなにになさいますか、ご主人様?」
「いつもので。間違えたらおしおきね。」
「ぐっ、はい。かしこまりました・・・ッ!!」
もはや隠そうともせず、乱暴な手つきでメニューをひったくると、
アリスはキッチンのほうに引っ込んでいった。
それを実に楽しそうにニヤニヤと見送る幽香。
「ちなみに幽香さんのいつものは日替わりです。一週間でローテーションします。」
「鬼畜。」
ムキーッ、というアリスの悲鳴がこちらまで届いた。
アリスは今日一日持つだろうか?
後輩の私が心配である。
「アリスはちょっといい子過ぎるから、ああやって自分の中にストレスを溜め込んじゃうんですよね。
私みたいに、たまにはちゃんと発散しないと。」
「発散って―――」
―からんからん...
早苗に問いかけようとしたところで、再びドアのベルが鳴った。
次の客が来たのだ。
「ほら、霊夢。頑張って!」
「う、うん。行ってくる。」
さっきのアリスを見習えばいいのよね。
静かに、だが素早く客のもとまで移動。
そして満面の笑顔で、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
よし、完璧だ。
完璧すぎて、
―ぶしゅっ!!
お客の一人が鼻血の勢いで、きりもみ回転しながらお帰りあそばされた。
その様はまさにデーモンキングクレイドル。
「どどどどうしよう咲夜!?
れーむが『ごしゅじんさま』だって!!
あと三回でも言われたら私死んじゃう! むしろそれで死にたい!!」
「お、落ち着いてくださいお嬢様!!」
二人でこちらに背中を向けてごそごそと、
こちらに見えないように(しているつもりなのだろうが)鼻血をふき取り、
何事もなかったかのように再びご来店あそばされた。
紅魔館当主レミリア・スカーレットと、その従者十六夜 咲夜。
これはまた、厄介な客が来たものだ。
しかし客である以上追い返すわけにも行かず、しかたなく席に案内する。
うるさそうな客なので、一番奥の席に案内しておいた。
席に着くなり、レミリアはこちらに足を差し出すように向け、
「さあ、私のかわいい霊夢。這いつくばって靴をお舐め。」
ってこれはなんの真似だ?
呆れかえる私に、咲夜から痛いほどの視線がぶつけられ、
って、これ嫉妬されちゃうような行為なのッ!?
「んんっ。ご主人様、当店ではそのようなサービスは行われておりません。」
「あら、そうなの?」
ちっ、と悔しそうに、レミリアはテーブルに向き直った。
同時に、ほっとしたように胸をなでおろす咲夜。
だから反応おかしいだろそこッ!!
・・・気を取り直して。
オーダーを取らなければいけないので、二人にメニューを渡す。
「今日はなにになさいますか?」
「霊夢二人前、つゆだくで。」
「メニューから選べよ!」
速攻無視しやがって!!
つゆだくってなんじゃい!!
「融通の効かない店ね。」
「効くかッ!!」
やれやれ仕方ない、と肩を落とすレミリア。
あるぇー、困ったちゃんなのは私ですか?
「じゃあショートケーキとアイスティー。ガムシロップ5個で。」
「多いよッ!!」
「なによ、また問題あるの?」
問題あるだろう、常識的に考えて。
メタボ街道まっしぐらじゃないか。
いや、もういいや。
レミリアがどこぞの冬の妖怪みたいに、当たり判定でかくなっても私のせいじゃない。
「咲夜はどうするの?」
「はい。それではガトーショコラとアイスティーを。ミルク5個で。」
「だから多いって!!」
「なにか問題でも?」
「お前の味覚だよ!!」
* * *
注文どおり、ケーキと紅茶を2つずつと、
籠一杯の甘味料を持って戻ってきた。
持ってきたものをテーブルに並べると、
なぜかレミリアは、おもむろにフォークを私に手渡してきて。
「あーん。」
なにかを期待するように小さな口を開けて待つ。
これは、あれか?
食べさせてくれとか、そういうことなのか?
横から焼け付くような視線を感じて、咲夜のほうをちらりと伺うと、
咲夜は、
それは私の役目なのにキィー!!、
というような表情で、
「それは私の役目なのにキィー!!」
と、そのまま遠慮なく叫んでいた。
はぁ、と私は疲れを感じてため息を吐き、
「ご主人様、当店ではそのようなサービスは行われて―――」
「いるわよ?」
ほい、とレミリアが指差した先では、
アリスが甲斐甲斐しく、幽香の口に三色アイスを運んでいた。
こぼしたらネチネチと嫌味を言われるので、アリスも必死の形相だった。
「そういうわけで、あーん。」
やらなければならないようだ。
うわぁマジでぇ、と思いつつ、ショートケーキを一口大に切る。
それをフォークで刺してレミリアの口に、
―ぽろっ
「あっ。」
失敗した。
人に食べさせる、というのは、実は思った以上に難しいことで、
崩れやすいケーキなら、なおのこと難易度の高い作業だった。
「あん。零れちゃったわ。霊夢、拭きなさい。」
レミリアは満足気に私に指示する。
というか、こいつわざと口を小さく開けて難易度上げやがったな!?
しぶしぶ、私はレミリアの服の胸の辺りについてしまったクリームを吹き取ろうとして。
今度は強烈な、突き刺すような殺気を感じた。
咲夜は、
テメェそれ以上お嬢様とイチャコラしやがったら微塵切りにして野良ルーミアのエサにしてやる、
と言わんばかりの表情で、
「テメェそれ以上私のお嬢様とイチャコラしやがったら微塵切りにして野良ルーミアの―――」
「はいはい。口に出さなくても通じてますから。」
もうさっさと帰ってもらおう。
幸い、ケーキを食べるペースの主導権はこちらが握っているのだ。
ガシガシ詰め込んでしまえ。
うう、咲夜の視線と殺気と、時折視界をちらつく銀の輝きが痛いです。
それに気付いたレミリアが、咲夜を嗜める。
「咲夜、嫉妬はみっともないからやめなさい。」
「えっ? あ、いや・・・。今日は空が青いですね、お嬢様!」
「曇りだから出てきたんじゃない。あなたはなにを言っているのよ。」
* * *
ようやく、この厄介な客も帰る時が来た。
いやぁ、ストレスの溜まる客だった。
代金をもらって、レミリアたちを店の入り口まで送る。
「いってらっしゃいませ、ご主人様。」
よし、任務完了。
ふぅ、とため息をついて、私は店内に戻ろうとして、
「あっ、忘れてたわ。霊夢!」
それをレミリアが呼び止めた。
嫌そうな顔を全力で押し込んで、営業スマイルで振り向く。
「博麗 霊夢をテイクアウトで。」
「帰れッ!!」
order 2 『飼い主に似る』
「お疲れ様。ちゃんとできてたじゃないですか。」
「今ならストレスで世界が滅ぼせそうな気分よ。」
いつの間にか、他の客も来ていたようで、早苗はその客についていた。
ということは、次の客も私か。
うう、やだなぁ。
また変なのが来そうな予感が・・・。
―からんからん...
早速来た。
静かに、だが素早く客のもとまで移動。
そして満面の笑顔で、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
よし、完璧だ。
完璧すぎて、
―ぶしゅっ!!
お客の一人が鼻血の勢いで、縦回転しながらお帰りあそばされた。
その様はまさに禅寺に潜む妖蝶。
あれ、この光景さっきも見た?
「どどどどうしよう藍!?
れーむが『ごしゅじんさま』だって!!
あと三回でも言われたら私死んじゃう! むしろそれで死にたい!!」
もういっそ、それで殺してやろうかと思った。
唯一の救いは、そんな紫を冷ややかな目で見ている藍の姿だった。
今度の客は八雲一家だ。
八雲 紫とその式の八雲 藍。と、その式の橙。
休日の家族連れ、というアットホームな空気は、紫の鼻血で瞬く間に塗り潰された。
「はあぅ、霊夢たん萌え。」
無視無視。
応急処置として鼻つっぺを突っ込まれた紫とその式たちを席まで案内する。
それぞれにメニューを手渡して、
「今日はなにになさいますか? メニューの中から選んでくださいねッ!!」
私が念を押すと、ちっ、と小さく舌打ちが聞こえた。
やっぱりやる気だったなコイツ。
「じゃあ私はクリームメロンソーダ。」
ちっ、つまんねー、と言いたげに頬杖を付いて紫。
「私は白玉善哉で。橙はなにがいい?」
藍が橙に視線を移すと、橙は言いにくそうにもじもじしていた。
その様子に、藍は首をかしげる。
「どうした、橙?」
「あ、あの、藍さま。なんでもいいですか?」
「いいよ。好きなものを頼みなさい。」
ぱっ、と橙の顔が晴れ渡った。
そんなに頼みづらいものなんて、このメニューの中にあっただろうか。
いや、実はメニューの内容を全然把握してないものですから・・・。
「じゃあこの―――」
「―――ギガ・カロリー・スペシャルで。」
「「なにそれッ!?」」
思わず私も、紫と藍と一緒にメニューに喰らいついた。
あった!
確かにあったよギガ・カロリー・スペシャル!
メガを飛ばしていきなりギガ!
どんなだよ、と思っていた私の思考は、
その写真をみて一瞬で納得した。
いうなれば、『バケツパフェ』。
もうそれは、『みそとんこつラーメン、トッピング全部乗せ』みたいなノリで、
とりあえず全部乗っけたらいんじゃね?みたいなアバウトな考えの産物であることは疑いようもない。
つーか写真で、普通のパフェと比較しました、なんてやってるあたり、
店側もサイズが異常なことに気付いてんじゃねぇか!!
誰が頼むんだよこんなもん。
「ゆ、紫様。これは流石に・・・。」
「そ、そうね。幽々子クラスの胃袋がないとちょっと・・・。」
藍と紫も若干引き攣ったような笑みを交わす。
うん。これはムリ。
糖分摂取量が明らかに致死量を越えてる。
これは世界に二つとない、人を殺せるパフェだ。
却下な流れを敏感に感じ取り、橙は見ていてかわいそうなほど残念そうにうなだれた。
「ごめんなさい。これなら、紫さまと藍さまと、みんなで食べられると思ったのに・・・。」
「「ギガ・カロリー・スペシャルで!!」」
ボタボタ垂れる鼻血を隠そうともせずに、紫と藍は同時に言い放った。
この親馬鹿どもめ。
* * *
私はあの戦場を、冷ややかな視線で遠巻きに見つめている。
敗北色は火を見るよりも明らかだった。
橙はバケツパフェの1/3が消費されたところでダウン。
三人で1/3だから、実質1/9を食べたということだろう。
正直、あの小さい体でよく健闘した。
今はあの残った二人で、難攻不落の城壁へと挑んでいる状態。
食べれば食べるほど、目に見えてげっそりしていくのはなぜだろう。
気を利かせて、藍の白玉善哉を後回しにしたのは正解だったようだ。
藍の白玉善哉は、結局キャンセルされた。
当然だろう。
ヤツと戦うのに、無駄な体力を浪費している余裕などない。
それに、あのバケツパフェの中にも白玉善哉は入っている。
order 3 『上下関係』
八雲一家は精根尽き果てた様子で帰っていった。
結局、バケツパフェを攻略することはできず、
かといって、橙の好意を無駄にすることなどできようはずもなく。
半泣きで、残りは包んでください、という藍の顔がとても印象的だった。
次の客はどんな相手だろう。
なるべく、普通の相手が来て欲しいのだが・・・。
あまり期待はしないでおこう。
―からんからん...
来た。
すばやく客を迎えに行く。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「おっ、なかなか似合ってるじゃないか。」
そう親しげに声を掛けてきたのは、三途の船頭、小野塚 小町。
「あら。あんたたち、仕事は?」
「今日は休暇をいただきました。たまには息抜きも必要ですから。」
そっけない態度でそう答えたのは、幻想郷の閻魔、四季 映姫・ヤマザナドゥ。
いくらかマシな客が来たようだ。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「そうそう、たまには息抜きしないとね。」
「貴方は息抜きっぱなしでしょうが。」
「ほいじゃ、席に案内しておくれよ。」
映姫の説教を華麗にスルーして、小町は私を促した。
こんなところで説教垂れ流されるのもなんだ。
私も素直にそれに従う。
「大体あなたは死神という、魂を扱う重要な―――」
移動中も説教垂れ流し。
全自動説教マシンは豊富なボキャブラリーを存分に発揮して、
絶え間なく喋り続ける。
「今日はなにになさいますか?」
「そもそも私たちの職務がどういうものかを―――」
聞けよ。
なにしに来たんだアンタは。
「本来ならば私たちは、一分一秒たりとも休んでいる暇など―――」
「あっ。四季様、いちごパフェありますよ。」
「えっ! どれ!? どこ!? どこッ!?」
小町の声に反応して、いきなりCv:かないみかになった映姫が、
小動物のようなせわしない動きでメニューを漁り始めた。
たっぷり10秒はしてから、はっ、と映姫はなにかに気付いたように頭を振って、
「んんっ。あ、あんまり待たせてしまうのも悪いですね。オーダーしてしまいましょう。」
取り澄ました顔で落ち着きを取り戻した映姫。
隠しきれたつもりなんだろうか。
「あたいはレモンスカッシュで。四季様はなんにします? いちごパフェ?」
「い、いちごパフェなどという子供じみたものを私が好むわけがないじゃないですか!!」
おっ、否定した。
再び、しかめっ面でメニューと対峙する。
むむむっ、と穴が開くほどメニューを睨みつけ、
しかしメニューのページがいちごパフェから動くことはなかった。
小町はニコニコしながら、急かすことなく映姫の注文を待つ。
「ま、まあ、部下の薦めを無下に断るのも大人気ないですね。
しかたなくですよ、しかたなく。」
「はい、ありがとうございますね。じゃあ、いちごパフェで。」
「レモンスカッシュといちごパフェで。少々お待ちください。」
取り澄ました表情のまま、どこか満足気な映姫。
これじゃあどっちが上かわからんな。
* * *
注文の品を運んでくると、ひたすらお経のような映姫の説教が流れていた。
小町にはそれがまったく効いてる様子が、いや、聞いてる様子がない。
終始ニコニコしながら映姫を見つめ返している。
「いいですか。常日頃から貴方という人は―――」
「ほらほら、四季様。パフェのアイス溶けちゃいますよ?」
「だめーーーッ!!」
Cv:こおろぎさとみが店内に轟いた。
やっぱり映姫は、はっと唐突になにかに気付いたような表情になって、
「あ、熱いものは熱いうちに。冷たいものは冷たいうちに食べるのが礼儀です。
先にいただいてしまいましょう。」
いちごパフェに刺さった異様に長いスプーンを引き抜いて、一口。
ほおぉ、とよくわからない感嘆のため息を吐いて、恍惚とした表情の映姫。
それを小町は、ああんもうかわいいなぁ、と言わんばかりの、
にへら、とした顔で相貌を崩しまくる。
もう一生やってろバカップル。
order 4 『たった一人のレギオン』
バカップルの接客が終わり、私はキッチンに引き揚げてきた。
そこには早苗が待機していて。
ということは、客の入りも落ち着いてきたということだろうか。
しかし、そう感じさせないほどに、早苗の表情は張り詰めていた。
「そろそろラッシュアワーです。霊夢、覚悟はいいですか?」
時計を睨みつけるように見ながら、早苗は私に問いかける。
ラッシュアワーとな?
むしろ逆に、お客さんも減ってきたような気がするんだが・・・。
「私はいつでも動けるように、ここに待機しています。
霊夢、あの人が来たらオーダーをお願いします。」
あの人?
あの人って・・・・・・
まさか。
―からんからん...
「来たッ! 行って、霊夢!」
私は妙な胸騒ぎを覚えながら、新たな来店者の下へ向かった。
* * *
案の定、だった。
やはり食べ物がらみのネタでコイツが絡まないはずがないのだ。
「あら、霊夢もここでアルバイト始めたのね~?」
白玉楼の亡霊嬢、西行寺 幽々子。
それとその従者の、魂魄 妖夢。
こいつぁヤクいぜ。
一騎当千の猛将が現れやがった。
「まあ、その、なんだ。頑張れ。」
「ありがと。」
なぜか妖夢から意味不明な励ましを受ける。
とりあえず礼を言っておいて、幽々子たちを席まで案内する。
「今日はなにになさいますか?」
メニューを手渡して、覚悟を決める。
幽々子はなんの感慨も浮かばない表情で、メニューを端から端まで流し見た。
さあ、どうくる!?
「ミニあんみつとオレンジジュース・・・」
あれっ、意外とかわいい注文・・・
「以外全部を・・・」
以外全部!?
喫茶店のメニューを範囲選択!?!?
さらに、幽々子は指を2本突き立ててきて。
2セット!?
まさかメニューの中身を2週するつもりじゃあ―――
「それぞれ2ダースずつ。」
「パフェの単位はダースじゃねぇよッ!!」
2ダース!?
1ダースっていくつだっけ!?
知ってるけど考えたくない!!
「妖夢もはやく選んじゃいなさい。」
幽々子に促されて、妖夢はメニューに一瞬だけ目を移し、
それから、こっそりテーブルの下で財布の中身を確認し、
「水で。」
自嘲と諦観の入り混じったような表情で短く言い捨てた。
―ぶわぁっ!
なぜだか目から湧き水が止まらなかった。
* * *
それからしばらくは記憶がない。
忙しすぎてなんにも覚えていない。
気が付いたら、満足気に立ち去る幽々子を店の入り口で見送っていた。
なんとか生き残った・・・。
ふぅ、と疲れを吐き出すようにため息を吐き、
開いているテーブルからメニューを手に取った。
一体あの化物の胃袋はどうなっているんだ。
明らかに体より大きい量の食事を摂っているはずなのに。
幽々子が一体どれだけの量を食べていったのか、
何気なくメニューを流し読みしながら追ってみた。
数ページにもわたるメニューのバリエーションの中、
最後に、『ギガ・カロリー・スペシャル』の文字が目に飛び込んできて、そっとメニューを閉じた。
あのバケツパフェを2・・・、
私は考えるのをやめた。
order 5 『クレーマー・クレーマー』
―からんからん...
また新しい客が来た。
もう正直、先の激戦をくぐり抜けた私はなにが来ても平気だと思う。
ミサイルが打ち込まれてきても対応できそうな気すらする。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
マニュアル通りの挨拶をして、私は目を丸くした。
今度の客は意外な組み合わせだった。
犬猿の仲、蓬莱山 輝夜と藤原 妹紅の二人組みだったのだ。
なぜこの二人が仲良く喫茶店に?
「見りゃわかるでしょ。デートよデート。」
「違ぇよッ!!」
「照れるなよ、もこたん。」
「もこたん言うな!! ミディアムレアに焼き上げるぞコラァ!!」
理由はこういうことだった。
この間、お茶代おごりをかけて殺し合いをして、輝夜が勝ったらしい。
輝夜は妹紅におごらせるために、ここに二人で仲良くやってきたわけだ。
なんでも、輝夜が勝負の前日に妹紅を闇討ちしたらしいのだが、
それでもちゃんとおごっちゃうのはちょっと人が良すぎないかい、もこたん?
「ほら。さっさと席に案内しなさいよ、下僕。」
げ、下僕・・・。
ちょっとカチンと来たが、ここは営業スマイルで押さえ込む。
「そ、それではこちらのお席へご案内―――」
「はぁ? まずは煙草吸うかどうか聞くでしょ、普通?
そんなこともわからないわけ? レベル低いわねこの店!」
ぐっ、ぬぅ・・・。
我慢我慢。
「・・・失礼致しました。今日はお煙草はお吸いになられますか?」
「吸わないけどねー♪」
「こンのッ!!」
上等だコラァ! もっこもこにしてやんよ!!
と思ったが、輝夜がこちらの反応をみてニヤニヤしていたのでやめた。
こいつはとにかくいちゃもんをつけたいだけなのだ。
隙を見せてはいけない。
OK、大丈夫。
あの戦場を生き残った私なら、やれる。
「おい、輝夜。大人気ないだろお前。」
「いいのよ。お客様は神様っていう言葉があるでしょう?」
それは客が言っていいセリフじゃねぇんだよ!!
そんな様子はおくびも出さずに、輝夜たちを席に案内する。
さり気なくトイレに一番近い席に案内してやった。ざまあみろ。
「今日はなにになさいますか?」
二人にメニューを手渡す。
妹紅はさっとメニューに目を走らせて、
「んー、じゃあアイスコーヒーとホットサンド。」
「はい、かしこまりました。」
「輝夜はどうするんだ?」
輝夜はメニューに目もくれずに言い放った。
「ビビンバ。卵だくで。」
まさかのビビンバ。
しかも卵だく。
喫茶店にビビンバがあるわけねぇだろ!!
焼肉屋に行け!!
「あの、ビビンバはちょっと・・・。」
「はぁ? ビビンバ置いてないのぉ!?
置いとけよビビンバくらい。常識でしょー?」
どこの宇宙の常識だよ!!
もうビビンバ星雲に帰れよお前!!
「ったくしょうがないわねぇ。こっちが折れてあげるわよ。
じゃああんたのオススメで。」
おすすめ?
私に選べと?
「あんたのセンスにまかせるわ。ま、期待してないけどねー。」
ああ、もう限界です。
マジぶち切れました。
「かしこまりました。繰り返させていただきます。」
私は吹っ切れたような満面の笑顔で、注文を繰り返した。
「ホットサンドがお一つ。アイスコーヒーがお一つ。
夢想天生がお一つ。以上でよろしいですね?」
「ちょ、おまwwww」
「ただいま新作発売記念サービス中につき、夢想天生には漏れなく打撃7発がついております。」
「うわァ、緋想天仕様!?」
「少々お待ちくださいね。」
私は輝夜の襟首を掴むと、そのままずりずりと引きずっていく。
「えーりんえーりんたすけてえーりん!!」
無視。
そのまま店の表まで引きずり出すと、
胸倉を掴んで往復ビンタ。
きっかり7発叩き込んだところで、速攻魔法『夢想天生』発動。
胸倉しっかり掴んでノックバックを完全封殺。
至近距離から100を軽く越える枚数の御札を叩き込んでやった。
何Hit?
99から先は数えてない。
3回転半。
輝夜は『縦に』回転して、顔面から地面に突き立った。
私はなにごともなかったかのように店内に戻り、
「そういうわけで、輝夜様は月にお帰りいただきました。」
「自業自得だね。」
それに妹紅は肩をすくめて返した。
* * *
まったく、なにが楽しい現場だ。
今日始まってからろくなことが一つもないじゃないか。
これは早苗にすっかり騙されたな。
当の早苗は、見覚えのない男性客の接客中だった。
実に楽しそうにニコニコしながら接客している。
早苗の基準で楽しいだけなのか。
早苗がオーダーを取って席から離れようとした時、
「早苗ちゃんは今日も可愛いねー。」
とかいいつつ、早苗の臀部をつるりと一撫でした。
あ、あの野郎、早苗のおしり触りやがった!!
「やだぁ、もう。そんなことしちゃ、めっ、ですよ。」
その不届き野郎を、早苗は可愛く叱って。
いやいやいや、私ならグーパンチですよそこ。
寛容にもほどがある。
もちろん言っておくが、ここはそういうお店ではない。
おさわりどころか写真撮影すら厳禁だ。
そこはもう、たたき出して入店禁止処分にしてもいいくらいなのに。
早苗は相変わらずニコニコした笑顔のまま、私の方に、
正確には私の後ろのキッチンのほうに歩き出して。
よし、ここはひとつ、早苗の代わりに私があの野郎を蹴り飛ばして、
「チッ、あーマジうぜぇ。」
ん?
いま、酷く低い声音でなにかが聞こえたような。
とはいえ、妹紅はそんなことを口走る理由がないし、
流れからして先の男性客ではではないだろう。
ほかに考えられるのはアリスだが、
アリスは幽香の接客中でそれどころではない。
・・・っていうか幽香まだ居たのかよ!!
何時間居座る気だよあいつは!!
じゃあ、まさかいまの、早苗?
いやいや、タイミング的には確かに、早苗のすれ違いざまだったけど、
早苗の後姿はスキップしそうなほど上機嫌そうだし。
なんだったんだろう。空耳かな。
とりあえず、妹紅の注文の品を取りに行くために、私もキッチンへ向かう。
* * *
キッチンでは、早苗が例の男性客の注文の用意をしていて。
手際よく、ぱぱっと料理を作り上げる。
最後に、ぎゅっと雑巾を絞って、
「ターーーイム!!」
「ん? なに、霊夢?」
早苗はきょとんとした表情で振り向いた。
待った待った。それおかしいでしょ。
料理を作る工程で、雑巾絞るのおかしいでしょ。
「霊夢、先に使いますか?」
と言って雑巾をこちらに渡そうとして。
「あの、早苗さん?」
「うん、なに?」
「気のせいか、くずきりに雑巾の絞り汁混入してませんでしたか?」
「してましたよ?」
「そっか、うん。気のせいだよね。」
「はい、終わったので使うならどうぞ。」
「使わねぇよ!!」
思わず受け取った雑巾を床に叩きつける。
それに早苗は、しょうがないなぁ、という顔をして、
「そこに牛乳拭いたもっと強烈なヤツがありますよ。
あんまり多用するとバレちゃうんで、ほどほどにしておいてくださいね?」
早苗が指差した方向には、明らかに近づくのすら躊躇うオーラを放つ雑巾が、
圧倒的な存在感を持って流し台に頓挫していた。
まさかこれが?
これが早苗の言っていたストレス発散?
私が牛乳雑巾に気をとられている間に、早苗は注文の品を持って客席に戻っていた。
「お待たせいたしました、ご主人様。」
なんていう、奇妙なほど明るい早苗の声が聞こえてきて。
・・・早苗、恐ろしい子ッ!!
* * *
そうして、私のアルバイトの一日が終了した。
ドアの前の『Open』を『Close』に反転。
長い一日だったなぁ、と更衣室のイスに腰を下ろす。
「ふぅ、二人ともお疲れ様。」
「んー、お疲れー。」
本当に疲れた。
働くのが、こんなに疲れることだったなんて。
でもその疲労感が、今は心地よさにさえ感じられる。
この疲労感が、そのまま私のサイフに返ってくるのだ。
ああ、働くって素晴らしいわ。
「霊夢、妙に嬉しそうね?」
「そりゃそうよー。お金もらえるんだもんねー。」
「あー、霊夢?」
「これで明日からちゃんとご飯が食べられるわ!
白いご飯なんて何ヶ月ぶりかしら。」
「あの、霊夢?」
「さあ、お給料はどこ!?」
アリスと早苗が、なにか痛ましいものを見るような目で私を見ている。
なぜ!?
なぜそんな目で私を見るの!?
やがてアリスが、私の後ろの壁を指差した。
私は振り向く。
そこに私のお給料が!?
振り向くと、そこにはなにもなかった。
いや、あった。
カレンダーが、壁にかけられていた。
3日までが、バッテンで潰されている。
それは今日が4日だからだ。
そして、20日に目立つように花丸が絵描かれていて。
そこには一言、わかりやすい文字で記入されていた。
『給料日』
あ、あははは。
あれー、わたしかんじよめなくなっちゃった?
あれってなんてかいてあるのー?
どういういみー?
「霊夢。給料出るの、16日後だから。」
「ぎゃーーーーーーーッ!!!」
なに!?
16日後!?
私に死ねと!?
「もう駄目。死ぬ。確実に死ぬ。明日にも死ねる。」
「れ、霊夢・・・?」
「アリス、早苗、お疲れ様。そして私、人生にお疲れ様。」
のそのそと、制服からいつもの巫女服に着替えて、
私は女中喫茶[かりんとう]を後にした。
多分、もう来ない。
明日にはもう、働くほどの体力は残されていないだろう。
ああ、思えば短い人生だった。
命とはなんと儚いものなのだろうか。
この世に救いなんてないのだ。
ちくしょう。絶望した!!
私はその日、一人ひっそりと枕を濡らした。
「ああ、行っちゃいました。」
「まったく、給料日くらいちゃんと確認しておきなさいよね。
ホント、しょうがないんだから。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・なによ?」
「半分出しましょうか?」
「・・・うん。」
翌日。
私は狂喜した。
「おおおおおおおおおお賽銭箱に五千円札が入ってる!?!?
しかも二枚!! 二枚も!!
樋口 一葉が二身合体で福沢 諭吉だよ!!
やったー!! やったー!!
やったーーーーー!!!」
あとあれだ、映姫様のCVが全部ロリキャラっぽい件について。
ストロベリーサンデーが大好きな悪魔を思い出してしまったのは何故だろう。
それを差し引いても充分な作品だと思います
そして幽香から守ってやれw
しかもそれを2ダース食べる幽々子様・・・・。
映姫様も凄い可愛らしかった。 いや、なんかCVがね。
全部ロリ声というか・・・。 合ってそうですけど。(苦笑)
八雲一家も良かったなぁ・・・橙の望みに二人が鼻血を出して頼むあの勇ましい姿は最高です。(ぇ
とても面白作品でした。
早苗さん・・・恐ろしや。
バケツパフェ2ダース分支払った財布はどれほど分厚いのだろう
ってか幽香は毎日何時間もいるのかw
そして早苗の黒さと最後の優しさがイイ味出してる!
そんなゆゆさまを初めて恐ろしいと感じました……
そして早苗さん、何この黒さw
あと何処へ行けば野良ルーミアを捕まえられますか?
つまりはクロエだな。
これは随分と質の高いクロエだ。
つーか、幽香はアリスのことが好きすぎるw
映姫さまと小町のくだりが容易に想像出来ていい気分です。
ところで
>『お茶が切れる⊃死』
論理記号の向きが逆じゃないですか?
「お茶が切れる」は死の色んな形の一部だと思うので、「⊂」を使った方がいいと思いますよ。
まあ、「⊂」も集合に対して使う記号ですので、もし論理記号を使うつもりでしたら「→」の方がベターですけどね。
そしてアリスが……何て優しい子……。
八雲一家と小町、映姫が特に良かったです
とりあえず八雲一家×72倍でもゆゆさま一人に勝てないとかどうなってるんだw
冷静に考えたらオーダーほぼ全部(ギガカロリースペシャル含む)を2ダース出して営業できる店が一番すごいけど。
困る
何はともあれ、アリスは最後に幸せになると信じている。
アリスのこと好きすぎだろw
つーか、好きな子に意地悪するって愛情表現が可愛いw
妖夢、不憫な子
涙が止まんねえや
香霖こんな店開ける程金持ちだったのか…。
一応霊夢一日だけでも働いたから給料はちゃんと出るんだろうけど、
今回のバイト分はきっとツケの代金にされてしまいそうだw
…癒さ…れ……る?
神奈子様wあんたはサラ金の取り立て屋ですかwww
眼福であります
ところで失敗したときのおしおきって帰宅途中に(シャンハーイ
映姫様をはじめ他の面々も生き生きしててとてもよかったです。
声がとっさに浮かばないのが残念無念
どのオーダーも素敵な面々でした。
えっきーのパフェをほおばる様に萌え死にそうです。
あと黒早苗さんは絶対家でもやってると思う。
いつかてゐに弟子入りしそうだ。
>樋口 一葉が二身合体で福沢 諭吉だよ!!
しねーよ!!ww どこの悪魔だよ一葉!www
話の内容とテンポの良さとノリ!!
心もお腹も「大満足」ですよ~~。
そりゃ、黒くもなるわ。
そしてお嬢様は糖分過剰摂取しすぎですよww
ア リ ス か わ い い よ ア リ ス
本当にタフで生真面目でしかし恥ずかしがりやというなんですかこれは
つまりアリスかわいいよアリスといいたいのですけれども
咲夜さんが、もう、とっても、いろんな意味で素敵でした
とかやさぐれてたら、うほっ、いい点数。
すごいなぁ、みんなちゃんと読んでくれるんだなぁ。(*´∀`)
お米おいしいです。
声優ネタがわからないという人が多くて、ちょっと意外でした。
なるべく有名どころを引っ張ってきたつもりだったのですが。
ほら、ポケモンのピカチュウとか。知らないか。(´・ω・`)
アリス?
ああ、僕がこの間やった東方キャラソートで一位だった奴ね。
アリスの頭なでなでしたいです。^^
>サラシという封印を解きさえすれば、私とてその程度の芸当は不可能ではない。
あの食生活でそれだけ育つってことは、まともに栄養摂ってたらどれほどになるんだろう…
霊夢が持つ破天荒さと常識人の微妙なバランスがいいかんじ。
アリスは……頑張れ。生きろ。
まあ面白かったけどね。
>と、そのまま遠慮なく叫んでいた。
吹いたwww
初めてこの感情が理解できたかもしれない…
あ、でも雑巾絞り汁入りの料理はちょっと嫌だな…
読みやすくて面白い話でした。
アリス・・・・頑張れ!!ww
アリス、大丈夫かな
霊夢頑張れ、アリスも超頑張れ。
ところで野良ルーミアってことは、ルーミアは一個体じゃなくてたくさんいるってことですね!?
ちょっと夜の境内裏に行ってくる。
雑巾搾りはらめえ!
客それぞれのネタが面白かった。
アリスかわいいよアリス
妖夢、可哀想…ドンマイ
アリス頑張れ。ついでに言うと可愛い。