5月の終り、天候は晴れ――
だというのに湿っぽい。気温も例年よりも数度高い。
春が終わったと思ったらすぐにこれですか、うんざりしてくるぜ。
ただでさえジメジメした魔法の森だ、雨が降れば不快指数は一気に高まっていく。
梅雨は相当地獄を見るだろう。
要するに、私――霧雨魔理沙はこれから来る時期が大嫌いだったし
朝だというのにジメジメとしているこの5月の陽気が憎かった。
「あー、面白いことないかなぁ」
クソクラエ、と叫びたくなるような現状で、研究をしようとはどうにも思えない。
椅子にふんぞりかえって、頬杖をついての思考モード。
いっそ何か異変でも起きたほうが退屈しなくて済むのだが、異変の起きる気配なんてどこにも転がっていない。
もっとも、異変が起きているなら異変レーダーの霊夢が先に動き出すだろうが。
あー退屈だ退屈だ!! こんな日でも霊夢はいつもどおりに境内の掃除でもして
それが終わったら縁側でお茶でも啜ってるんだろう。
「霊夢、そうだ、暇つぶしに霊夢のところにでも行こうーっと」
妙案だ! と心の中で呟く
――暇だったら博麗神社に顔を出しているので、これは妙案であるはずもない。しかし、退屈しのぎにはなるだろう。
大体霊夢のほうも、お茶と掃除だけじゃあ退屈するに違いないのだ。
魔理沙様がわざわざ押しかけてあげるのはあいつのためでもあるのだと勝手に納得。決めたら最後。
椅子から勢い付けて跳ね降りて、乱雑に散らかった床を駆ける。
壁にかけてあったお気に入りの帽子を被り、玄関口のこれまたお気に入りの箒を手に持って、玄関から飛び出す。
「行ってくるぜ!」
誰に向けた言葉でもなく、いつもの習慣で家の中に呼びかけるB
箒にまたがってグングン高度を上げると、湿っぽい空気も気持ちもどこか飛んでいってしまった。
目標、博麗神社。
霧雨魔理沙号発進だぜ。
心の中で号令を発し、そのまま風になる。
青空を吹き抜けていく感覚というのは言い表し難い快感で――
先ほどまで心に巣食っていた陰鬱な気持ちはどこかへ吹き飛んでしまった。
『魔理沙って単純よね、犬みたい』
私は親友だと思っている霊夢が、いつだったか私をこう評した。
違いない、私は散歩が好きだし、誰かと遊ぶのが好きだ。
『だったら、霊夢は猫みたいな奴だな。気まぐれで何を考えてるかわからない』
こう返すと、霊夢は表情も変えずにお茶を啜った。
『まさか、私は猫ほど行動的でも情に薄くもないわよ』
それもまた、違いないと思う。
霊夢は異変のときにはキッチリ働くし、ああみえて面倒見もいい奴だ。
かといって、必要以上に馴れ合わない。
それでも、あいつの周りには人が、妖怪が集まってくるんだよなぁ。
今もこうして、霊夢のところに遊びに行こうとしているわけだし。
可笑しくなった。
傍からみれば奇妙な光景だろうが、大声を出して笑ってみる。
よーし、陰鬱な気分は完全に消え去った。
今日は何をして遊ぼうか。
うん、霊夢の掃除している様を見ながらお茶を飲むのがいい。
途中、里で羊羹の一つや二つを買っていって、それをお茶請けにするのも魅力的だ。
土産を持っていっても、霊夢は表情一つ変えないだろう。そういう奴なのだ。
でも気づくとしっかり自分の分をキープしている。そういうところが可愛い奴だ。
よし、決めた、今日の土産は芋羊羹だ。
霊夢の微妙な反応が楽しめるとなると、自然心も躍ってくる。
里の和菓子屋で芋羊羹と大福を数個。
どうせ博麗神社のことだ、私のほかに来客がいなくたって、硬くなる前に消費されるだろう。
幻想郷の人気スポットに奉納すんだから、ちょっとぐらい多目に買っておくのが正しい買い方だ。
◆
「わふぅー」
ハイテンションで博麗神社に舞い降りると、とんでもない光景が目に入った。
霊夢が、和室で丸くなっている。
いや、丸くなっているだけなら何の問題もないんだ。
耳が生えてる。
そんなの当然? いやいや違うんだよこれが。
「い、い、犬耳だああああああああああああああああああああ!!!?」
~~霧雨娘とわふう巫女~~
私の出した大声に驚いたのか、犬霊夢は焦げ茶色の耳をピンと立てて襖の奥へと引っ込んでしまった。
入れ替わりに奥から出てきたのは隙間妖怪、八雲紫。
いままで寝ていたのか、いつもの格好ではなくネグリジュ姿だった。
「なぁにぃ、そんな大きな声だして。せっかくいい感じにまどろんでたのに台無しじゃないの」
「な、なぁにぃじゃないだろ!! 霊夢が犬だぞ犬!! 犬耳っ!!」
「ああ、それ。私がやったし、和風巫女だしわふう巫女?」
「やっぱりかああああああああ!!」
つーか親父ギャグかよ、紫、お前のセンスはちょっと疑わしいぜ。
だけどよ霊夢が紫の裾をギュっと掴んでるとことか・・・・・・ヤバイ、超可愛い。
霊夢が紫にベッタリ。
親父に対する思春期の女の子ばりの冷徹さを醸し出し
近寄るなとか暑いとかいって突き放していることが多い昨今
この光景は僥倖をロケットで月まで飛ばすレベルの怪奇現象だった。
なぜか勝ち誇った笑みをする紫。霊夢に構ってもらえたのがそんなに嬉しいのか?
それをネタに紫をからかうのも大層魅力的なプランではあるが
そんなことばかりしていたらそのまま日が暮れてしまう。
気になることは聞いてしまおう、それに限る。
「で、なんでまた霊夢に犬耳を生やしたんだ?」
「犬耳だけじゃないわよ、全体的に犬属性をつけてあげたわ。八意永琳の協力もあったし簡単簡単。」
ダメだこの幻想郷、早くなんとかしないと。
みんな大好き博麗の巫女に悪戯をするためだけに、能力をフルパワーで発揮しちゃう
うっかり者の自称賢者どもにはいつか鉄槌を下さなければいけないと思う。
「わふぅー」
「あら霊夢どうしたの? 緑茶でも飲みたい?」
「わふっ」
あれ、よく見たら尻尾も生えてる、凄いふさふさ。耳も柔らかそうな毛がモサモサだ。
ヤバイ、ちょっと触りたい。ううんちょっとじゃなくてメッチャ触りたい。
撫でまわしたいし、ちょっと少年誌じゃダメなレベルでとろけてみたい。
「なぁ、紫、私にもちょっとさわ「ダメ、犬霊夢は私のもの。八意永琳にも高い金積んだんだもん」
ちくしょう!! これだからブルジョワ層は!!
限られた資源を(主に心のオアシスとしての)独占するだなんて。
なんだその勝ち誇った目は、ちくしょうちくしょう!!
悔しさに膝を折り、両手を天に挙げて吼えてみる。
『神よ! 何故あなたは私を見捨てたもうたか!』
みたいなセリフが似合うだろう。
悲劇的な格好をして大袈裟に悲しみをアピールしている割に、私の思考は案外クール。
「仕方ないわね魔理沙。30秒だけ触らせてあげるわ」
勝ち誇った笑みをたたえ、背中をスっと押す紫。いつか飛ばす。
前に押し出され、キョロキョロと所在なさげにする姿が・・・・・・ちくしょう、愛らしい。
我慢、できねえ。
「うわあああ可愛いわああああ」
抱きついてほお擦り開始
「1~、2~、10~」
はええよ!! なんて無粋なツッコミはしない。
そんなツッコミはこの時間が終わってからでいい、今は霊夢との触れ合いを大事にしなくては。
ああ、ふさふさしてるよ霊夢のお耳。毛が柔らかくって凄くハッピー。
ちょっと迷惑そうな顔してるけど、「わふぅ」なんていって我慢してる犬霊夢最高。
尻尾をパタパタさせたり、ホントは喜んでるんじゃないのかこやつめハハハ。
「13~、30!! 終了、終了だって!! 離れなさい!! 犬霊夢は私のものなの!!」
「おイィ? でっかい声出すと霊夢が怯えるぜ。な? 霊夢」
「わふっ!!」
頭を撫でてやると、霊夢は嬉しそうに目を細めた。アリだな。
「霊夢―! お願い、私を見て!!」
滝のような涙を流す紫、しかし霊夢は尻尾をパタパタさせて私にしがみついてきている。
勝った、圧倒的に勝った。ザマアミロ紫、ブルジョワ層は労働者層に敗北する運命なのだ。
勝ち誇りながら頭を撫でていると、耳をペタンとたたんで頬を舐めてきた。
くすぐったいからよせよ、何より紫が見てるんだぜ?
「お、おろろーん」
気持ち悪い泣き方をするな。
しかしここまでされるとそろそろ哀れになってくる。
勝者の余裕を見せつけたあとで、霊夢を返してやる。
すると紫は途端に泣き止み、頭を撫でたり頬擦りしたりと溺愛しはじめた。
「ごめんねごめんね、お母さんもう霊夢を離したりなんかしないから」とか言いだしてる。
いつからお前は母親になった。
・・・・・・でも、この光景見てるとなんだか藍と橙を思い出すなぁ。
もしかしたら紫と藍にもあんな時期があったのかもしれない。
でも、想像すると狐の爪で引き裂かれそうな気がしたから詮索はよそう。
ついでだが、紫に抱かれる犬霊夢が、微妙に嫌そうな表情をしてたのも胸のうちだけに留めておく。
◆
部屋に転がっていた大きめのボール。
大体両手で抱えれるぐらいの大きさのボールを霊夢へ投げてやると、そのまま飛びついて転がりだした。
地面で遊ぶと痛いから畳部屋で遊ぶんだとさ。ちなみにボールは紫が持参したものらしい。
ボールを突っついたり抱きついたり、匂いを嗅いで見たりする様を眺めながら、これからのことを相談する。
「んでさ、犬霊夢はいつまで続くんだ?」
「大体1日で元に戻っちゃうって薬師は言ってたわ。この霊夢が楽しめるのは今日限定ってわけ」
ボールに乗っかって派手にすっ転ぶ霊夢。
鼻がちょっと赤くなって涙目になっているけれど、懲りずにボールで遊びだした。
子供を見ているみたいでなんだか新鮮な気持ちだ。
「それで、だ。1日神社で霊夢を観察するのか?」
その言葉に、紫は表情をグニャリと歪ませる。
「そんなわけないじゃない。せっかくの1日よ、存分に楽しまなきゃ損じゃない」
「ほぅ、気が合うな・・・・・・。私も丁度そう思ってたんだ。面白いことはもっと大勢と共有しなくちゃいけないってな」
「そう・・・・・・。じゃあ今夜、犬霊夢を囲む宴会なんてどうかしら?」
「もちろん、昼間は私たちの独占状態だよな?」
「とぅーぜん、他の連中と圧倒的差をつけておくに決まっておくじゃない」
ガッシと堅い握手を交わす両名。ここに、犬霊夢同盟が結成された。
そのとき霊夢は再度ボールへとのっかり、コテンと転げ落ちていた。
「わふっ」
めげずにボールに抱きつき、そのまま横に転がる。
ぶっちゃけ、このまま1日観察してても飽きないと思う。
「で、どうする? 人間の里にでもお披露目に行くか?」
「ま、それもアリね。っとその前に、藍に言伝しておくわ、宴会するから連絡まわせって・・・・・・」
そういって、空間を引き裂き、頭を突っ込む紫。
そこに、霊夢が突っ込んできた。
きっと、空中に尻だけ浮かんでるのが珍しかったんだろうな。
「おぁっぷっ!!」
ケツごと隙間の向こうへと消えていく紫。アバヨ。
犬霊夢はわけがわからないといった表情で首をかしげていた、ちくしょう可愛い。
誘拐しちまおう。
「ほら、霊夢こっちに来い、私と一緒に遊びにいこうぜ」
「わふーっ」
鬼の居ぬ間の洗濯、紫の居ぬ間の犬霊夢だ。
幸い萃香にも嗅ぎつかれてはいないようだ。
どうせ酔っ払って寝てるんだろう。
うるさくなる前に脱出だぜ。
犬霊夢同盟は約2分で破棄。
こうして、私と霊夢の逃避行が始まった。
「さ、乗れよ霊夢!」
「わふっ」
箒の後ろに霊夢を乗せて、一気に高度を上げる。
陽が真上から照りつけるけれど、それ以上に、吹く風が心地よい。
さあ、どこへ行こうか?
「霊夢、どっか行きたいところはあるか?」
「わふっ」
「そうか、じゃあしっかり掴まってろよ」
霊夢が何を言ってるかなんてわからない。
けど、服をギュっと掴んでもらえるあたり、私は信頼されているんだろう。
それが、素直に嬉しかった。
「飛ばすぜぃ!」
風景が一瞬で加速する。
吹き飛んでいく森、川、里、湖。
行く先なんて考えていない。
当たり前じゃないか、これは逃避行。
今日1日紫から逃げ切ってやるって今決めた。
真正面からぶつかる風を障壁で弾き飛ばし、風景も映らぬスピードでかっ飛ばしていく。
霊夢も後ろでわふわふはしゃいでる。
何を言ってるかはよくわからないけれど、喜んでいることだけは間違いない。
っと、そうしているうちに、幻想郷の端っこ、無銘の丘まで来てしまった。
ここは遊ぶには向かないな。なるべく人と会いそうになくって、犬霊夢が自由に遊べる場所。
「うーん・・・・・・。幽香んとこでいいか、あそこなら滅多に人もこないだろ。な? 霊夢、お前だって花は好きだろ?」
「わふっ!」
「よくわからないけど、畑でいいな。また飛ばすぜ、しっかり掴まってろよ!!」
丁寧に障壁を展開して、また箒を加速させる。
腰に回された腕に、燃え上がる気持ちを感じながら――
◆
太陽の畑。
夏になればヒマワリが一面に咲き誇る、幻想郷の中でも一際幻想的な光景を醸し出す場所だった。
しかし、5月には青々とした草に混ざって小さな花が咲くばかり。
夏ほどの優美さや生命力を感じることはできない。
だからこそ、この時期は閑散としている。
訪れる人も妖怪も少ないので、犬になった霊夢と遊ぶには絶好の場所だった。
「ついたぜ」
箒から霊夢を降ろしてやると、鼻をクンカクンカとひくらせる。
そういえば、霊夢は嗅覚も鋭くなってんのかね。
一通り空気を嗅ぎ終わったのか、その辺を駆け回り始めた
エネルギッシュに動き回る霊夢ってのは珍しいかもしれないな。
神社にいるときなんて、お茶飲んでるか掃除してるかの大体2択。
年寄りくさいって言ったらお払い棒ではたかれたっけ。
青草に座り、しばらく霊夢が駆け回っているのを眺めていると、ふと視線を向けられているのに気づいた。
「・・・・・・なんだ、幽香もいたのか。さっさと出てくればいいのに案外照れ屋なんだな」
視線に向き直って、いつもどおりの軽口を飛ばすと、視線の主――風見幽香が笑顔で歩いてきた。
「ごきげんよう、あなたたちがここに来るなんて珍しいわね」
「ああ、たまにはこんな風の吹き回しもあるのさ」
「あなたなら風で飛んでいきそうだけど、霊夢の場合は神社に根を張ってるから格別に珍しいわ」
隣いいかしら――その言葉に軽く頷いて答えると、幽香は青草の上に腰掛けた。
霊夢を眺めながらの無言。言葉を選んでいるのか、この場での会話は無粋なのか。
私から会話を切り出す気もなく、犬っころがちょうちょを追っかけている様をしばし眺めていた。
「で、霊夢はなんで犬耳なわけ?」
「紫がやった」
「まぁ、そんなとこなんでしょうけど」
そしてまた無言。
しかし、バレバレだぜ? 言葉では興味がないことをアピールしていても
穴が開くくらいに見つめてちゃぁ子供にだって考えてることが駄々漏れだ。
頬を上気させ、少し呼吸が荒くなってる。気持ちはわからないでもないぜ。
霊夢の犬耳だとか、尻尾のふかふか感だとかは触ってみなきゃぁその魅力はわからない。
触りたいだろ? プライドを捨てるか? どうするんだ最強妖怪風見幽香りん?
ニヤニヤ眺めていると、私の視線に気づいたのかキッとこちらを睨みつけてきた。
おお怖い怖い。だけど顔が真っ赤だぜ?
ま、幽香をからかっていても仕方がない、今大事なのは霊夢だよ犬霊夢。
どうやらちょうちょは捕らえ損ねたらしく、また鼻をスンスンひくらせていた。
そしてまた、無邪気にトコトコ歩き出した。
花に鼻を近づけてくちゅんと小さなくしゃみを一つ。花粉でも吸い込んでしまったんだろう。
その姿を見て、しばらく幽香とクスクス笑い続けた。
「あの霊夢は邪気がなくって可愛いわね、普段もあんなに無邪気ならいいのだけど」
「そんなんだったら、お前は霊夢に興味なんて持たないだろ」
「そうかもね、霊夢はちょっとぐらい傍若無人だったほうがらしくていいわ」
「同意するぜ」
普段とのギャップが、犬霊夢の絶妙さを生み出していることは紛れもない事実。
めんどうくさげに応対する巫女が、「わふわふ」言いながら走り回っているから芸術なのである。
普段から人懐っこい性格の奴が犬になったところでなんの面白みもない。
なんだ、適任がここにも一人いるじゃないか。
「幽香、お前も犬になったらどうだ?」
「死にたいの?」
笑顔だったが殺意がムンムンと立ち昇っていた。
これだから冗談を解さない奴は困るぜ。
「冗談」だよと軽口で返してみたけれど、幽香のほうは「あなたが言うと本気に聞こえる」と不機嫌そうにしていた。
でもまぁ、本気で怒っちゃぁいないだろ。幽香が案外気の長い奴だってのは少し付き合えばわかる。
機嫌を直したのか、鼻唄を歌いながらまた霊夢の様子を眺める幽香。
結局コイツも、霊夢のことが好きなんだよな。神社にも頻繁に着ているみたいだし。
ちぇっ、ちょっと嫉妬するぜ。
自然と人も妖怪も集めちまう、霊夢にさ。
「霊夢、ちょっとこっちにこいよ!」
「わふっ」
「おぁ! 圧し掛かるな!」
呼びかけると、ピンと耳を立てて尻尾をふりふり。
愛らしい笑顔で飛びついてきた。
自分よりも少しだけ背の高い霊夢が突進してくるのを支えきれるわけもなく。
そのまま青草の上に押し倒される。
霊夢は顔に不思議そうな表情を浮かべて、そのまま頬をなめてきた。
「くすぐったいからやめろよ霊夢~」
押し倒されたまま空を見上げると、雲が多く出てきた、そういえば湿気も多い。もしかしたら雨が降るのかもしれない。
「魔理沙、もうすぐ雨が降るわ・・・・・・。本格的に降り出す前に、屋根のあるところに避難したらどう?」
幽香はジト目で――不機嫌なのは、霊夢がこっちにこないことにヤキモキしてるんだろう。
抱きついてほしいならそういえばいいのに、可愛い奴め。
「ほら、霊夢。幽香のとこにもいってやれよ」
「わふっ!」
圧し掛かるのをやめ、幽香に飛びつく犬ころ霊夢。
一瞬、呆気に取られた表情をしていたが、すぐに頬を緩めて耳を触りだした。
「凄い、柔らかい」
耳を触られると、霊夢はちょっと嫌そうに耳をパタパタ動かした。
幽香のほうといえば・・・・・・。
唾を飲みこむな、こんなところで嗜虐心に火を点けられたら困るぜ。
目が怪しく輝いてきたところで、パンパンと手を叩く。
「終了だぜ、そろそろ私たちは屋根のあるところに避難するんだ」
ハッと我を取り戻した幽香、危ねぇ、もう少しでトリップするところだったな。
渋々霊夢を私のほうへと返すと、なんだか泣きそうな表情をしていた。
「これからどこに?」
未練のこもった口調の幽香。
「あー、そうだな、私の家は相当散らかってるし・・・・・・。やっぱりここはアリスの家かな」
アリス、という言葉を出した瞬間に幽香の表情が凍りつく。
「そ、そう、私はここでお花たちを見ているから楽しんでらっしゃいな」
「ああ、そうするぜ」
アリスが苦手だったのか。
そんな役立たずの知識を思考の隅へと追いやりながら箒にまたがる。
「またね・・・・・・。霊夢、あと魔理沙」
「わふっ!」
ひらひらと手を振りながら、紅い瞳を潤ませる幽香。
霊夢を箒の後ろに乗せ、また一気に高度を上げる。
眼下には、日傘を広げてとぼとぼ歩いていく幽香が見えた。
「またくるぜー!!」
離れていたって聞こえるように、精一杯に大声を張り上げる。
私の声に向き直って、大きく手をふってくる幽香。
霊夢もぶんぶん手を振り回している、暴れると危ないぜ。
さて、向かうは魔法の森だ。
土砂降りになったりしたら目も当てられない。
ギュっと箒を握り締め、魔力を込める。
「しっかり掴まってろよ、とばすぜい!」
「わふっ!」
◆
太陽の畑を出発したところまではよかった。
しかし、飛び始めてから数分後。
急に、バケツをひっくり返したように雨が殴りつけてきた。
運転している身にはもう堪らない。
水滴が当たって痛いし目に入るし体は冷えるし服はずぶ濡れ、おまけにくしゃみが止まらない。
霊夢は雨に打たれることを喜んでいたけれど、段々とくちゅんくちゅんくしゃみをしはじめて
しまいには鼻水を垂らしていた。
魔法の森に入ってからは、雨は茂った木々に遮られて勢いを失くした。
それでも、既に濡れ鼠といった言葉が良く似合う悲惨な状況。
たぶん、服を絞ればバケツ一杯ゆうに溜まるんじゃないだろうか。
着替えを取りに戻ろうかとも思ったが、アリスの家には服が余っていたことを思い出す。
人形作りの延長で、アリスは服のオーダーメイドも手がけている。
たまーに、試作品との名目で着せ替え人形にされているため、私に合う服は残っているはず、そうであってくれ。
アンニュイな思考でボタボタ水滴を垂らしていくと、ようやくこじんまりとした一軒家が見えてきた。
うーちくしょう、どうせ中で暖かい紅茶でも飲んでるんだろうなぁ、恨めしくなってきたぜ。
雨が憎けりゃアリスも憎いの精神で着陸し、鼻をひくひくさせる霊夢の手を引いて扉へ向かう。
万が一、手を離してどこかに駆け出していかれたら、大事になる可能性も否定はできない。
魔法の森は、慣れない者にはかなり危険な場所なのだ。
扉をけたぐって開けようかと思ったけれど、風呂を貸してもらえないと死活問題なので我慢我慢。
実はそんなことをする気は毛頭ないのだけども、ひどい目に合うと人間心が荒むもの。
アリス、私の荒んだ心を許してくれ!! そう思いながら扉をノック、コンコンコン。
「アーリースー、あけてくーれー」
「はいはいどちらさまって、どうせ魔理沙なんでしょうね・・・・・・ってずぶ濡れじゃない。あら? 霊夢もいるのね」
「わふっ!」
「い、犬耳!?」
「悪いけど、風呂やらなんやら借りるぜ。このままじゃあ風邪を引いちまう、いくぜ霊夢」
「わふっ!!」
「ああもう何がなんだかわかんない」
「どうでもいいぜ、風呂に入ってから説明はするから。
服の替えをよかったら用意してくれないか」
「ああはいはい、って二人とも一緒に入るの!?」
「女同士だぜ、問題はないだろ」
アリスが変なポーズをして固まってた。
前から思ってたけど、こいつはどっかおかしいと思う。
霊夢も首をかしげて「わふ?」なんて言ってる、同意してくれるかそうか。
ま、風邪引かないうちに一緒に風呂に入ろうぜ。
「んじゃとりあえず、風呂借りるぜ。湯は張ってないからシャワーになるだろうけどな。ほらいくぜ」
「わふー」
「ちょっと待ちなさい魔理沙、私も一緒に入るから!!」
「何言ってんだよアリス、お前が入る理由はないだろ」
「女同士裸の付き合いってやつよ!!」
「わ、わかったからここで脱ぐな!! せめて脱衣所で脱げ!!」
「わふ?」
---------------------------------------お風呂なので見せられません---------------------------------
少女入浴中...........................
「すげえアリス、お前って着や――」
「ちょ、霊夢お風呂場で抱きつかないで――」
「魔理沙のむ――」
「わふ」
「こら、変なとこさわるなよ――」
DVD版だと湯気が消えます。
---------------------------------------お風呂終わり---------------------------------------------
「やっぱ風呂の後は牛乳に限るぜ」
ミルクティ用に常備されたミルクを腰に手を当て一気飲み。
自宅では滅多にやらない、というよりもミルクを常備していない。
人の家で勝手に飲むのもどうかと思うけど、そこらへんは私とアリスの仲だ、快く許してくれるだろう。
「あー!! ミルク勝手に飲んじゃって・・・・・・。そろそろ雨の季節だから買出しめんどくさいのにぃー」
ブツブツ言ってると器の小さい人間になるんだぜ?
あ、アリスは魔法使いで妖怪だったな、失敬失敬。
飲みかけの牛乳瓶をアリスに見せると、「もうそんなのいらない、勝手に飲んじゃえば」との冷たいお言葉。
火照った体にはそれぐらいの言葉が丁度いいぜと再度一気飲み。
「美味かった、ごちそうさん」
げぷっと、乙女度が駄々下がりしそうなものが出そうになったがそれは我慢。
人前では乙女度を気にしなきゃぁ、恋の魔法使いは名乗れないぜと一人上機嫌にソファーにダイブ。
「あ、こら霊夢、髪の毛ちゃんと拭かなきゃ風邪引いちゃうわよ」
「わふー」
アリスがタオルをもって霊夢を追っかけまわしてる。
こみ上げてくる感情(主に笑い)を前面に出しながら、微笑ましい光景を見守り一言。
「アリス、お前霊夢のお母さんみたいだぜ」
「うっさい、というかあんたも手伝いなさいよ」
「へいへい」
気だるいながらも体を起こし、ハンドタオル片手に霊夢の背を拭っていく。
霊夢、体を揺すった程度じゃ水滴は払えないんだぜ?
わしゃわしゃと髪の毛を拭いてはい終了~。
「魔理沙、適当すぎ。服着せるのも手伝ってよ」
「へいへい、白のサラシでいいかしら、それともレースのブラジャーがいいかしら?」
「ちょ、それ私の下着!!」
◆
「う゛ぁー、雨に打たれたら疲れちまったぜ」
だらーんとこれ以上なくだらしなくソファーに駄弁る。
アリスは呆れてため息をつきながら霊夢の頭を撫でているけど、疲れちまったものは仕方がない。
それに、とにかく腹が空いた。
よく考えれば昼時はとっくに過ぎている時間だ。
仕方がないので、お腹に手を当ててさすってみたり、流し目をしてアリスにアピール。
「何魔理沙、赤ちゃんでもできた?」
「あほ言え、ちょっとお腹が空いたからアリスの手料理を食べてやろうかと思っただけだぜ」
「お昼ごはん食べてないの?」
「ああ、やんごとなき事情があってな」
「ただ単に雨に打たれただけでしょうに。ま、いいわ。
あんたがそんなんじゃ霊夢もお腹空いてるでしょ、おまけで何か食べさせてあげる」
「おいおいひどいぜ、私はおまけ扱いか」
「ひどいと思うなら、少しは態度を改めれば。霊夢のお世話お願いね」
そういってキッチンへ消えていくアリス。
置いていかれた霊夢が所在なさげにしていたので、おいでおいでと手招きをしてやる。
「わふーっ」
嬉しそうに飛びついてくる霊夢。
ソファーで衝撃は吸収されたけどボディプレスは案外、くらう。
でも、私がげほげほむせているときにも、霊夢は機嫌良さそうにわふわふ言っていた。
そのうちに台所から、香ばしい香りが漂ってきた。
一度アリスの料理を手伝ったことがあるが、5分で台所を追い出された。
曰く、「手伝いはいいけどいちいちからかうのをやめろ」だそうな。
ちぇっ、アリスが鼻唄を歌ってるのをからかっただけじゃないか。
心が狭いぜ、なぁ霊夢。
鼻をすんすんとひくらせて、漂ってくる匂いを嗅いでいる霊夢はいつになく上機嫌に見える。
やっぱりお腹が空いてたんだな。
そんな折、台所からアリスが顔を覗かせた。
「魔理沙ー、霊夢って味付けあっても大丈夫かしらー」
「あー、味覚は人間と変わらないんじゃないか? 紫が宴会に呼ぼうとしてたほどだし」
「紫――ああうん、なるほどね。まぁどうせ、そんなくだらないことするのは八雲紫ぐらいだとは思っていたけど」
「そろそろあいつには鉄槌が下されても良いころだと思うぜ、振り回される藍が可哀想だ」
「そんな殊勝な気持ちがあるのなら、パチュリーに本を返してあげたら~」
「死んだら返す、っていつも言ってるぜ?」
「はいはい、じゃあ霊夢にも同じのを出すから」
アリスに対して軽口を叩いているうちに、隣に座っていた霊夢がもたれかかってきた。
疲れてるんだろう、私も相当疲れた。
雨に打たれると、思った以上に疲れるものだ。
「そろそろできるから、席についておいてー」
「はいはいっと」
いくぞ霊夢、と手を引くと、霊夢は眠そうに目をこする。
うんわかった、ご飯食べたら昼寝しような。
テーブルに向かうと、アリスの人形たちがクロスを整えて椅子を引いてくれた。
本人と違って素直でいい子たちだとおもうが、本人に言うと怒られるので胸の中にしまっておく。
椅子に腰掛けて、めしーめしーと軽く騒いで見せると
アリスが呆れながらも、パンの入ったバスケットとスープの鍋を持ってきた。
「ありあわせのものだけど、召し上がれ」
「私は和食派なんだがな」
「わふっ」
「文句言うなら魔理沙の分はなしね」
「そりゃないぜ、アリス様の料理にご同伴できるだなんてこれほどの幸せはございませんとも」
「気持ち悪いこと言わないでさっさと食べなさいよ。私は霊夢に食べさせるから」
霊夢は椅子に座ってキョロキョロしているだけで、スープやパンにどう手をつければいいかがよくわかっていないようだった。
本当は私が世話をしてやりたいところなんだが、残念なことに空腹には勝てない。
目の前のパンに手を伸ばし、引きちぎって口に放り込む。
アリスはというと、パンを一口サイズにちぎって霊夢に食べさせていた。
霊夢も大人しくそれに従い、口を開けては放り込まれるパンの欠片をモグモグゴックン。
尻尾を振っているところを見ると満足しているようだった。
それを肴にスープを飲む、皿を持って。
「あ、魔理沙! またそうやってお皿持って・・・・・・。お味噌汁じゃないんだから」
「いいだろべつに、一番美味い食べ方をするのが私流だ」
「マナー悪いわね・・・・・・。まぁいいわ。はい、霊夢、あーん」
熱くないようにという配慮から、ふぅふぅ息を吹きかけて霊夢の口に運ぶアリス。
そんな飲み方よりも、直接口つけたほうが美味い!! と毎度私は主張するのだが
アリスは「食事のマナーも守れないの?」と鼻で笑ってくる。
けれど、なんと言われようがこればっかりは引くつもりはない。
そう思いながら、パンをスープに浸して口に入れる。
和食派を気取っているけど、まぁたまには洋食もアリかな。
郷に入れば郷に従えって奴だ。
食後のデザートを丁重に断り、ぐだーとソファーにもたれかかる。
正直言って、眠い。
食べたばかりで横になると牛になるというが、まったくそれでも構わない。
瞼を支えているのも辛くなってきた。
ああなんだ霊夢、お前も眠いのか?
そんなに寄りかかられると重くて眠れないぜ。
「あー、二人ともお昼寝? 寝るならベッド貸してあげるからそっちに行きなさいよ」
そこまで行く元気もないぜー、ということを右手を振って表現すると。
ため息が聞こえてきた、ひどいぜアリス。
「上海、蓬莱。魔理沙と霊夢のことを運んであげて」
うぉぉ、人形に運ばせるとはなかなかどうして。
グイグイと服を引っ張られるけど、こいつら運ぶほど力ないだろ。
よくて引きずる程度だ。
「さ、痣ができたくなかったら自分で歩きなさい」
ちぇっ、そういう魂胆か。
眠たい体にムチ打って、ベッドへと向かう。
毎度思うが、アリスのベッドって相当でかい、絶対一人用じゃない。
前に聞いた覚えがあるが、「人形を置くためよ」だとか濁された気がする。
まぁ貸してもらえるなら文句はないんだけどな。
ベッドに前のめりに飛び込んで、さあ惰眠を貪るよー
「ぐべぇ!!」
「わふっ」
油断してた・・・・・・ぜ。
霊夢も一緒に昼寝するんだったな、不意打ちで意識が飛ぶところだったぜ。
体を引き起こして、もそもそと掛け布団の中に潜り込む。
霊夢も同様にもそもそ入ってきた。
なんだか女二人で寝るってのも気恥ずかしいものが
「さ、二人とも寝るわよ」
なんでアリスも来るんだよ。おかしいだろ。
「親睦を深めるためよ」
しまった、文句を言う前に先手を打たれてしまった。
うーんまぁどうでもいいか、いまはもう眠い――。
「ちょっとアレ!? 二人とももうグッスリ!? こういうときって好きな男の子とかの話題で盛り上がったりするんじゃないの!?」
気持ちよさげに寝息を立てる霊夢と魔理沙、一人取り残されたアリスは、ぐすんと鼻をぐずらせた。
「でも、今夜は遅くなるし、寝ておかないと」
◆
自分以外誰もいない野原を歩いていた。
これが夢だという言うのはさっき気づいた。
頬を引っ張っても痛くもなんともない。
雨が、霧雨が野原に降っている。
しとしとと頬を濡らす雨は、どこか涙にも似ていた。
私は一人。
いつからか、自分を曝け出すことが怖くなった。
強気に見せて、わがままに振舞って。
周りがいつか離れていくんじゃないかっていうことに恐怖して。
私は、霊夢がどうしようもなく羨ましかった。
あいつの周りには、人が、妖怪が垣根なしに集まってくる。
私もその一人。
私にとって、霊夢は特別な存在だ。
けれど、霊夢にとっては私はどういう存在なんだろう。
大勢いる知り合いの、顔見知りの一人に過ぎないのではないだろうか。
雨が、霧雨が降っている。
私にピッタリな天気だ。
霊夢だったら、きっと晴天が良く似合う。
あいつ誰にでも平等に光を照らす、気高さを持っている。
人を羨むようなことはしないだろう。
ああ、雨が、若干強まった。
駄々広い野原を当てもなく歩く。
ずぶ濡れになったこの服こそが、自分には相応しいんじゃないか。
勝手に霊夢を羨んで。
輪の中心にいたいと、時には横暴にも見えるほどに我を張って。
雨が、本格的に降り出してきた。
丁度いい、このまま陰鬱とした気持ちを洗い流してくれ。
そうでなければ、私の心を冷たい雨で満たしてくれ。
二度と、太陽に嫉妬しないように。
「――理沙――」
不意に、聞き覚えのある声が響く。
それが誰の声だったかは思い出せない。
そんな折、自分が誰かと手を繋いでいるのに気づいた。
「霊夢・・・・・・」
右手の先には相変わらず、さしたる関心もなさそうにしている霊夢の姿があった。
左手が、誰かと手を繋いでいる。
「アリス・・・・・・」
クールで、たまにお節介焼きな魔法使い。
――ああ、すまなかったな。
永夜のときには世話になったぜ。
あの時は一緒に、霊夢と戦ったっけか。
たとえ、この繋いだ手が私の妄想に過ぎないとしても、少しだけ気は晴れた。
雨足が緩み、霧雨がしとしとと降り始めた。
「魔理沙ったら、そろそろ起きなさいってば」
アリスの言葉にムクリと体を起こす。
「うわっ・・・・・・。変な夢でも見たの? あんた、寝ながら涙流してたわよ」
アリスが奇妙な顔をする横で、同様に霊夢もこっちを心配そうに見ていた。
「いや、なんだその。なんでもないぜ」
ゴシゴシと目元を拭い、いつもどおりに笑顔を作ってみせる。
少し納得がいかない。
そんな表情をアリスはしていたけれど、そこを深く追求する気もなさそうだった。
「それよりも、さっさと出る準備をして」
クローゼットから外行きの服を投げよこしてくる。
よく見たら、霊夢もアリスが良く着ているような服装だった。
巫女服はまだ乾いていないので当然だろうけど。
外行きの服装を着る理由がいまいちわからない。
「は? なんだこれ」
「あれ? 知らなかったの? 今夜は博麗神社で宴会するって紫から連絡がきたんだけど」
◆
「もう宴会ははじまってるのよ、あんたが全然起きなかったせいで遅刻よちーこーく」
アリスの小言を聞き流しながら、箒を飛ばす。
ちょっと待って! 早すぎ! と叫ぶ声が後ろから聞こえたが、この際風の音だと無視しておく。
雨は完全に止み、空は満天の星空だ。
あいにくと月は欠けていたけど、それぐらいが丁度いいんだ。
さあ霊夢、お前を待っている奴らがたくさんいるんだぜ。
私が全力全霊を込めて、お前を会場に送り届けてやるぜ。
スペルカードを構え、魔力を箒に込める。
彗星「ブレイジングスター」
箒の後ろから、夜空を照らす魔砲と、ミルクを零したような甘い星が零れ落ちる。
音を切り裂くほどに加速した箒と、決して離れないようにとキツく回された腕。
吹き飛びそうな高揚感を抱えて、境内へと超高速で飛び込んだ。
先ほどまで降りしきっていた雨のせいで、各所に水溜りができている境内。
いつもは茣蓙を広げて外で飲むのだけど、今夜は居間にでも集まっているんだろう。
楽しそうな声が、社屋から響いてきた。
「ふん、主役を欠いて盛り上がるってのも変な話だぜ」
主役である犬巫女霊夢の手を引き、縁側から上がって襖を開ける。
どうやら、中の襖を取っ払って広くしたらしく、紅魔館の連中を筆頭にして、永遠亭、白玉楼、八雲一家に守矢の連中。
他にもミスティアなんかにプリズムリバー三姉妹に、宴会ごとなら当然萃香。
突発だったろうに、よくもここまで集めたもんだ。
「あら、ようやく来たのね。犬霊夢を独占されちゃったってみんなで残念会をしていたところなのに」
「だったら酔い潰れてるのがいるのはなんでだ? どうみたって楽しんでるだろう」
紫の皮肉に皮肉で返す。霊夢は人数に気圧されたのか、私の後ろで裾をギュっと掴んでいる。
「あらあら~、本当に犬耳が生えてるわぁ」
「幽々子さま、口の端にお醤油の後が・・・・・・」
「永琳、今度妹紅にも犬耳を生やしてみましょうよ」
「かしこまりました」
「輝夜! 本人がいる前で変な相談をするな!!」
「妹紅、宴会場でケンカはするなと言ったはずだぞ」
「わっきみっこ霊夢が犬みっこに~♪」
「メルラン姉さん、ルナサ姉さん、突発演奏会でも開こうか」
「咲夜、あなたも犬耳が似合いそうね」
「レミィ、今度私が薬でも作りましょうか。創薬はあまり得意ではないのだけど・・・・・・」
「丁重にお断りいたします」
「えー、咲夜さんが犬耳生えてたら可愛いと思いますふぎゃっ!!」
「余計なことは言わなくていいのよ、美鈴」
「やんちゃなのもいいが、あまり宴会の場を荒らすんじゃない。橙、悪いが運ぶのを手伝ってくれないか」
「はい! 藍さま!」
「はぅー・・・・・・。神奈子様が三人・・・・・・」
「相変わらず早苗は呑めないねぇ。お? 私と飲み比べかい? 望むところだよ」
「まさか。鬼である私に勝とうと思ってたりはしないよね? 本当の呑みっぷりを見せてあげるよ」
「またまたそんなことを言って。お二人さんは天狗の酒の強さを忘れていますね? その戦い、私も参加させてもらいましょうか」
思い思いに盛り上がっている様を眺めながら、空いている床に座る。
ほどなくして運ばれてくる料理と酒、といっても、あんまり腹は減っていないんだけどな。
騒ぐ面々を肴に、適当に酒をあおる。
「隣、いいかしら?」
「ああ、いいぜ」
紫に対して視線も向けず、ただ返事だけを返す。
どうせ、昼間中霊夢を引っ張りまわしたことへの恨み言でも言うんだろうしな。
「どう? 今日は1日楽しかったかしら」
「まぁまぁ、だな」
「そう」
そのまま、酒の入ったグラスを傾ける紫。
霊夢は先ほど、幽々子に連れられ宴席の真ん中へと連れてかれてしまった。
「羨ましいわ」
「霊夢がか?」
ぽつりと漏らした言葉に即座に反応してみせる。
しかし、紫の返した言葉は私にとっては予想外のものだった。
「魔理沙、あなたがよ」
一瞬、頭が混乱した。
私の何が羨ましいというのだろうか、さっぱり皆目見当もつかない。
「なんだかんだ言っても、霊夢はあなたといるときが一番楽しそう。
人間と妖怪、平等に接するあの子にも・・・・・・。知り合いや友達、親友の区切りくらいは当然あるのね」
そういってまた、グラスを傾ける紫。
空になったのか、藍を呼んでグラスに酒を注がせた。
「ここにいる全員がわかっているわ。あのコンビには敵わないってね。
・・・・・それに、こうして、立場も種族さえも違う者たちが一堂に会してお酒を飲めるだなんて。
かつての博麗の巫女じゃあ為し得なかったことだわ」
「結局、霊夢が惹きつけているんじゃないのか?」
ぶっきらぼうに言い捨てる。
「まさか。あの子だけだったらせいぜい茶飲み友達ができるぐらいよ。
こうして、宴会がたびたび開かれるっていうのは」
――あなたみたいに、壁を打ち砕く存在が横にいなくちゃ。
「はー・・・・・・やっとついた、ってあら魔理沙、どこにいくの?」
「ちょっと、夜風と星空が見たくってな」
「あらそう・・・・・・。寒いんだから風邪引かないうちに戻ってきなさいよ」
「ああ、そうするぜ」
アリスと入れ違いで宴席から離れる。
境内に一人出て、満天の星空を眺めて思いを馳せた。
月は、太陽の光を浴びて輝いているんだそうだ。
太陽がなければ、月は輝けない。
太陽に依存している存在でも、それでも月は人を惹き付ける。
私は、太陽にはなれない。
それぐらいわかっている。
ならば私は月になろう、霊夢の輝きを反射する存在に。
「霊夢の犬耳かーわいぃー、咲夜! お持ち帰りしましょう!」
レミリアのとちくるった声が聞こえてくる。
どうせ、批難轟々で却下されることは目に見えているがな。
まったく、愉快な奴らだぜ。
「あら、魔理沙じゃない」
「あれ、幽香、お前も呼ばれてたのか?」
「ええ、雨が降っていたせいで少し遅れたのよ」
傘を畳み、傘を軽く払ってみせる。
水滴が飛ばないところを見ると、まぁ結構前から雨は止んでいたんだな。
「私が入れる場所はあるのかしら? ほ、ほら・・・・・・私ってあんまり、仲の良い妖怪がいないから」
「らしくないぜ、だったら連れてってやるよ。壁を突き崩すのが私の仕事だ」
「あらそう? ・・・・・・なんだか雰囲気変わったわね、昼間にも会ってるのに」
「そうか? ・・・・・・そうだな、まぁ行こうぜ! 宴会は楽しまなきゃ絶対に損だ」
「そ、そうね。私もがんばる」
幽香の手を引き、霊夢弄りで盛り上がっている宴会場へと飛び込む。
散々呑んで暴れて倒れ、結局宴会は、日が昇るころまで続いた。
◆えぴろーぐ (霊夢パート)
「あー頭が痛い・・・・・・。ったく、なんで覚えてもいない宴会の片づけをしなきゃいけないのよ」
博麗霊夢は、朝起きて真っ先に絶句した。
なぜか、居間から何からの襖が外され
空の酒瓶と何名かの人間や妖怪たちが死屍累々と転がっている。
どういう経緯で宴会が開かれたのか。
そこがぼんやりと霞がかって思い出せない。
ただ、この頭の痛みはどうやら二日酔いからきている。
気づかないうちに宴会に参加はしていたようだった。
しかし、この惨状はどこから手をつければいいか・・・・・・。
ため息を吐きながら部屋をまわっていると
転がっている面子の中に、よく見知った顔を見つけた。
「ほら、魔理沙起きなさいってば。あと、どうしてこうなったのかを説明しなさい」
''親友''である魔理沙を揺さぶり、頬を軽くひっぱたき
水、水とうわ言を繰り返す口にコップで水をかけてやった。
「さー起きろ、何から何まで説明してもらうから」
「うー・・・・・・あー、おはよう霊夢・・・・・・」
「一体、この惨状はなに? というかなんで宴会が?」
「あー、話すと長くなるんだが・・・・・・」
「なるんだが?」
霊夢がじぃっと睨みつけると、魔理沙は少し居心地悪そうに口を尖らせた。
「つまりはな、霊夢が犬になってたのが原因なんだ」
「へぇ、もう少しマトモな作り話しなさいよ。というわけで手伝え」
軽く頭を引っぱたき、死屍累々と転がっている別のメンツも蹴飛ばしにいく。
最後まで残っていた報いだ、片付けぐらい手伝わせても罰は当たらないだろう。
「なぁ、霊夢」
「なによ魔理沙、あんたも起こすの手伝いなさい」
「私は、私の生き方があるんだ」
「わけのわからないこと言ってないで、手伝えっての」
机に突っ伏して寝ている幽香のうなじに水をかけて起こし、寝ている風祝の頭をぽかりと一発。
ああ、まだまだ寝ている奴らがたくさん。
退屈しないでいいけれど、宴の始末は心底めんどくさい。
また、次の宴会まではお茶でも飲んで過ごそうか。
英気を養わないと、やってられないっての。
◆えぴろーぐ(魔理沙パート)
相変わらず、野原には霧雨が降っていた。
頬を濡らす雨は、涙ではなくしっとりと心を濡らすものだった。
カンカン照りでは、いつか心が乾ききってしまう。
そのことに、私はようやく気づけた。
私は、霧雨魔理沙のままでいい。
恋の魔砲で壁を打ち砕き。
星屑の魔法で、小さく夜を照らす。
余裕がなくて壊れそうになったら、霊夢に頼ればいい。
霊夢の余裕がなくなれば、霧雨を降らしてやればいい。
いつか、霊夢にとって、なくてはならない''親友''になれるそのときまで
唱え続けようか、恋の魔法を。
<終>
わふぅ
私は月になろうのあたりがかなりよかった!
愛を感じましたw
俺もレミィと一緒に霊夢お持ち帰りする^p^
それはともかく犬巫女とか貴方俺に新しい属性植え付けてどうする気ですか。最高だ
DVDはどこで売ってますか?
で、DVDはまだか!!!
……ところで、DVDが通販出来ると聞きましたがどこでしょうか?
ゆうかりんの「仲のいい妖怪が・・・」の台詞に最高に萌えた。ありがとう
それはともかくD・V・D!D・V・D!
DVDの人気にDVDがゲシュタルト崩壊したw
あなたの作品はシリアスもギャグも大好きです^^
DVD売ってください^^
あとアリスが哀れすぐるww
さてDVDを予約しに行かなければ・・・
はやりだろうが二次設定だろうがメジャーにうける作品であれば何でもいいんだぜ、次回も楽しみにしてます。
ただ一つ残念だった事は、
DVDの入手方法が書いてない事です。
私は穏便な性格ですが、こればっかりは流石にふざけるなと思いました。
何度読み返しても消えない湯気に、苛立ちが募るばかりです。
今からでも遅くないと思うのでDVDの入手方法を追記為さってはいかがでしょうか。
10万までなら出します。
まさに羊作品の真骨頂といった感じです。
魔理沙かわいいよ魔理沙。
あと幽香好きなのはもう治らんね。
ところで、文々。でこの日の記事と写真が掲載されて、霊夢が文字にすることすら出来ない恐ろしい有様になりそうな気が……。
さて、それはそうとDVDを売ってもらいましょうか。
限定品ならば、当方は「ころしてでもry」の用意がありますw
最初から締めまでニヨニヨしながら読んでましたGJ!!
あ、DVDの予約はどこで(ry
D・V・D!! D・V・D!!
合わせて俺のストライクフリーダム。
良い作品を読ませて頂きありがとうございました。
最後に一つ、ゆうかりん可愛いよゆうかりん
●苗「どうして『クロノア』じゃないのよぉォォォ~~~~ッッッ!!!」