ぱらり。
私は本のページをめくる。
ちょっとかび臭い、古びた魔法の本。
人間には読む事も理解する事も叶わない、魔法使いのための本。
魔法使いの本を読む私も、当然魔法使い。
肩に乗っている上海人形が、私の読んでいる本をまじまじと見つめる。
見ても意味はないだろうに、と少しだけ思ってしまう。
人形作りを始めて随分経ったけれど、私は未だに、目標である「自立人形」を作る事に成功はしていない。
…ああ、人形作りを始めてから、随分時間が経ったはずなのに。
「…何で、あなたが私の書斎で本を読んでいるのかしら?」
テーブルの向かいで同じように本を読んでいた、紅魔館図書館の主が、急にそんな事を言い始めた。
「私が来るたびにそう言うわね。もう結構通い続けてるはずなんだけれど?」
「私は一人で本が読みたいの。」
「じゃあ何で使い魔なんて雇ってるのかしら?」
「…むきゅ…。」
よし、勝った。
なんだか知らない間に、随分と言葉に強くなってしまったなぁ。
…ああ、これもきっと、あの魔法使いのせいなんだろうな。
あのすばしっこくて、黒くて、白くて、いい加減で、ぶっきらぼうで、それでいて結構負けず嫌いで…。
…嫌な奴“だった”はずなのに、如何しても嫌う事が出来なかった、あの魔法使いの…。
「…ねえ、パチュリー。」
今度は私から、パチュリーへと語りかけてみる。
しかし呼ばれた当人は、本から眼を離さずに黙っている。聞こえていないはずはないだろうに。
…私が言わんとする事を、察しているのだろうか…。
「…今日が何の日か、覚えてるかしら?」
もう一度、私は語りかける。今度は、言葉にちょっと色を持たせて。
…パチュリーの肩が、少し跳ねたのが見えた…。
「…今日は、別に何の日でもないわね。ハロウィンでもなければ、正月でもないわ。」
…判ってるくせに、と、少しだけ言いたかった。
だけど、私はその言葉を飲み込む。
きっと、パチュリーは思い出したくないのだろう。今日が何の日なのかを。
…それでも私は、無理矢理にでも思い出させて上げなくてはならない。
「…10年よ。今日で、丁度。」
…パチュリーの肩が、また跳ねたのが見える。
私としては、10年前の事を…、いえ、10年前までの事を忘れるなんて事、許さない。
勿論、パチュリーがその事を忘れる、なんて事はないけれど。
だけど、その思いを封印して欲しくもない。
パチュリーがあいつの事をどう思っていたのかは知らない。
あいつがパチュリーの事をどう思っていたのかも知らない。
あいつが私の事をどう思っていたのかも、知らない。
だけど、今日で10年なんだ。私たちが、3人から2人になってから。
「…パチュリー、いい加減に行ってあげないの?魔理沙のお墓参りに。」
* * * * * *
10年前、魔理沙はその命の幕を下ろした。
人間にしては長生きだったと思う。霊夢や咲夜も、魔理沙より先に旅立ってしまった。
まあ、確かに元々、そう簡単に死にそうな人間ではなかったけど。
だけど、霊夢や咲夜が普通に死んでしまうのは仕方がない。人間なのだから。
…勿論、それが判っていたところで、私が悲しみに暮れていたのも確かだけれど。
霊夢は恐らく、魔界出身の者を除けば一番最初の“友達”と呼べる存在だった。
人間の癖に魔界にまでママを倒しに来たりで、碌な出会い方ではなかったと思う。
それでも、私は霊夢の事を“友達”だと思っていた。
咲夜は、紅魔館の図書館に用がある時に、何かと世話になったりした。
パチュリーの危ない魔法実験に、一緒に頭を悩ませたりもした。
“友達”とは言えなかったかも知れないけれど、顔見知り以上の存在ではあった。
2人が死んだ時、私は涙が枯れるほどに泣いたのを覚えている。
私は妖怪。霊夢たちは人間。先に死んでしまうのは当然の事。
そうだと判っているのに、私はただただ泣き続けた。
それこそ、今ちょっと思い出しただけでも、眼の下が少し熱くなるほどに。
…だけど、私は魔理沙が死んだ時には、何故か殆ど涙を流さなかった。
実は、魔理沙の臨終の際に、彼女の死を見届けたのは私。
「最近年だから、色々と手伝ってくれ。つーか手伝え。」と、どれだけ経っても変わらない生意気な口調で言われたのが、そもそもの始まり。
可笑しかったのが、年だといいつつ、姿だけは春雪異変の時と何も変わっていなかった事。
何時までも年を取らない私たちに対抗意識でも燃やしたのか、姿だけは魔法でずっと、みんなが知っている魔理沙のままだった。
とまあ、手伝うのは一向に構わなかったけれど、最初は「別に手伝いいらなくない?」と思うほどに元気だった。
魔理沙は最後の最後まで、姿も性格も口調も何もかも、私の知っている魔理沙のままだった。
…まあ、魔理沙が何か変わったところで、それはそれで不気味なだけだけど。
そんな事はどうでもいい。だけど、前に進むためならどんな障害でもなぎ倒す魔理沙も、流石に寿命だけは倒す事は出来なかった。
段々と弱っていく魔理沙に、私は「ああ、魔理沙ももうそろそろなんだなぁ。」と、不謹慎な事さえ考えてしまった物だ。
…ただそれは、先に霊夢と咲夜の死を見ていたからかもしれない。
魔理沙は、魔法使いでありながら結局、捨食の術も捨虫の術も使う事はなかった。
勿論、使えなかったわけではない。魔理沙を褒めるのは少し癪だけれど、魔法使いとしての実力は相当なものだったから。
魔理沙は「私は人間だ。妖怪にまでなる心算はないぜ。」と、私が捨食の術を使わないのか、と聞く度に答えていた。
…そういう意味では、私は少しだけ、羨ましくもあった。
私も元は人間。人間から魔法使いになった存在。
魔理沙と同じような存在だったけれど、魔理沙とは決定的に違ってしまった存在。
私には、最後まで人間でいるなんて事は出来なかった。人間である事を止めてしまった。
…まあ、そうでなければ、魔理沙の傍に最後までいる事も出来なかっただろうし、そもそも魔理沙に逢う事すら出来なかったかもしれない。
そういう意味での、“少しだけ”の羨ましさ。私は今なら、妖怪になってよかったと、少し思えるから。
最後まで人間として生きた魔理沙が、寿命で死んでしまうのもまた当然の事。
私が幾分か整理したものの、それでも蒐集品にまみれた家の、小さなベッドの上。
そこで魔理沙は、静かに息を引き取った。最後の最後まで派手に生きた魔理沙の最後は、驚くほどに静かだった。
魔理沙が最期に遺した言葉は、「じゃあな、アリス。」だった。
…本当に、魔理沙らしい一言だったと思う…。
…魂が無くなってしまった魔理沙の身体を、私は一度だけ強く抱いたのを覚えている。
魔理沙の身体に私の涙が一滴零れて、そして、それで終わり。
それ以上、私は涙を流す事はなかった。
…何で魔理沙の死の際には、あんなに悲しみが薄かったのだろうか…。
魔理沙の死を紅魔館に伝えに言った時は、悪魔の妹がそれはそれは取り乱したものだった。
私の言う事を信じようとせず、挙句本気で私に取り掛かってくるものだから。殺されてもおかしくなかったかもしれない。
幸い、レミリアと美鈴がフランドールを止めてくれたので、私は魔理沙の後を追う事はなかった。
それでも、フランドールは大声で泣き続けていた。私が泣かなかった分を、代わりに泣いてくれているかのように。
…その時、私はパチュリーには逢っていない。
フランドールの取り乱した姿を見てしまって、それ以上紅魔館にいるのが憚られたから。
レミリアに、パチュリーにその事を伝えておくよう頼んで、私は紅魔館を後にした。
…その後は、家に帰っても、魔理沙の葬儀を執り行っても、お墓参りをしても、如何しても私の涙は流れなかった。
悲しくなかった、と言うわけではない。勿論、魔理沙が死んだのも悲しかった。
嫌な奴だったのに、如何しても嫌う事が出来なかった魔理沙の死が、どうして悲しくないものだろうか。
同じ森に住み、同じ魔法使いで、同じ蒐集家で、ライバルとも呼べる存在だった魔理沙の死が、悲しくないはずはない。
…本当なら、霊夢や咲夜よりも、悲しい死だったはずなのに…。
…ただ、そのはずなのに、私の悲しみは、3人の中で…、…いや、誰の死よりも、一番悲しくなかった…。
…薄情者、自分でもそう思う。
だけど、どうしてあんなに悲しくなかったのか、10年経った今でも答えを見つけることは出来ない。
パチュリーは…、…どうだったのだろうか…。
魔理沙の葬儀の時には姿を見せていた。だから伝わっていなかったはずはない。
…だけど、その時のパチュリーは、何時も通りの表情で、静かに座っているだけだった。
元々少し虚ろな表情をしているので、悲しみを隠しているだけなのか、それとも私と同じだったのかも判らない。
…ただ、私と違ってパチュリーは、一度も魔理沙のお墓参りに行く事はなかった。
この10年間、ただの一度も…。
* * * * * *
「行かないわよ、私は。」
パチュリーの口から帰って来たのは、そんなあっさりとした返事だけだった。
またか、そう思って私は立ち上がる。何の事はない、今読んでいた本を読み終えたので、次の本を取りに行くだけだ。
パチュリーを魔理沙のお墓参りに誘ったのは、何もこれが初めてな訳じゃない。
此処に用がある度に誘ってはいる。しかし、返ってくる言葉は何時もこれ。
何でなのかと問い質せば、外に出たくないだの髪が痛むだのと言う理由ばかり。
それが真意なのか、それとも他の理由があるのか…。
…考えても仕方が無い、と最近はもう諦めている。
パチュリーは何だかんだで結構強情だ。例え他に理由があったところで、よほどの事が無い限りは言わないだろう。
ああ、結局10年目も失敗か。仕方が無い、今日も私一人でお墓参りに行こう。
「…あら?」
そう思ったところで、次の本をとろうと思った私の手が止まる。
私が今読んでいた本は、一日で読み終わるのが困難なほどに分厚いくせに、全34巻になる超が付くほど長い書物。
今まではそのあまりの長さに読む気がしなかったのだが、紅魔館図書館に通うようになってからは、頑張って読むようにしている。
今私が読んでいたのは19巻。とすれば次読むのは当然20巻なのだが…。
…その20巻が無いのだ。
パチュリーが今読んでいる本は別の本だし、あの真面目な使い魔が違う所に入れたとも考え難い。そもそもこの本を何処に入れ間違えると言うんだ。
「パチュリー、この本の続きは?」
こういう事は、この図書館の主に聞くのが一番だろう。私は素直に尋ねてみる。
…だが、何故かパチュリーからの返答がない。
聞こえてないはずはないのに、何故か黙って本を読み続ける。
…どうしたのか、聞き返そうと思った、その瞬間だった…。
「…何が「死んだら返す」よ…。死んでもちっとも返しに来やしないじゃない…。」
…ああ、そうか…。
10年経って、今更気付くのも変な話なんだけれど…。
少し考えれば判る話だった。この本の続きがない理由は、使い魔の手違いでなければ、そもそもこの図書館にないとしか考えられない。
じゃあ、どうして本が無いのか…。…この図書館から本を借りて、返しに来ない奴なんて、一人しかいないじゃないか…。
…この本の続きは、魔理沙がこの図書館から持って行って、それっきりなんだな…。
…それと同時に、パチュリーがどうして魔理沙のお墓参りに行かないのかも、少しだけ理解する。
だけど、そうだとしたら…。…パチュリー、あなたは間違ってる…。
あなたが期待している事は、もう絶対に起きる事はないのだから…。
「…パチュリー。魔理沙は、もうこの図書館には来ないのよ。」
…パチュリーは、黙して何も語ろうとしない。
…きっとパチュリーは、ある意味では魔理沙の事を信じているのだろう。
「きっとまた、嵐のように箒に乗って、魔理沙がこの図書館に来る」と言う事を。
例え、死んだとしても、幽霊になっても、何があったとしても…。
…だけど、それじゃただの現実逃避だ。
死んだ人間が、本を返しに来る事も、そもそも図書館に来る事も有り得ない。
パチュリーは魔理沙の死を言葉では認めておきながら、心の底では、10年経った今でも、それを認めていないのだ…。
「信じたくない気持ちは判る。だけど、魔理沙はもうこの世にいないの。
もう10年も経ったのよ?いい加減に引き篭ってないで、ちゃんと…。」
「違うの。」
…私が言葉を言い切る前に、パチュリーは静かに、ただ力強くそれだけを言う。
「違う。魔理沙がいないのはもう理解してる。魔理沙が二度とこの図書館に来ない事も、もう判ってる。
…だけど、私は魔理沙に逢いにいけない…。…怖いのよ。今の私を、魔理沙に見られることが…。」
…それは、私が勝手に想像したパチュリーの心情とは、全く違うパチュリーの本心…。
「…私は、魔理沙が死んだ時、少ししか悲しくなかったの…。」
…その言葉に、私は完全に言葉が止まってしまう。
まさか、パチュリーも私と一緒だった…?パチュリーも、魔理沙の死が悲しくなかった、と…?
「どうして悲しくなかったのか、私だって判らない。咲夜が死んだ時は、本当に悲しかったのに…。
…私は、魔理沙の死に悲しむ事が出来なかった。こんな薄情者が、どの面下げて魔理沙に逢いに行けばいいの…?」
…急に、胸が苦しくなった。
同じ薄情者の私は、しょっちゅう魔理沙のお墓参りに行っている。
…だけどそれは、魔理沙に「あなたが死んでも、私は悲しくない」という事を、見せびらかしていたんじゃないか…。
…そんな姿を見せて、魔理沙は果たして喜んでいるのだろうか…?
自分が死んだというのに、平気な顔してお墓参りに来る私を、魔理沙はどう思っているのだろうか…?
…考えたくない。考えたくないのに、考えてしまう…。
もし私の予想通りだとすれば、私のしてきた事は、魔理沙にとって、全部…。
「そんな事はないと思いますよ?」
…急に聞こえた、暢気な第三者の声。
私とパチュリーが声の方に振りむくと、そこには紅茶を2つ乗せたトレーを持つ小悪魔が立っていた。
…ああ、姿が見えないと思ったら、ただ紅茶を淹れに行っていただけだったんだ…。
…ただ、淹れたばかりの紅茶のはずなのに、何故か温かみのある白い煙は見えない…。
「…何時から聞いてたのかしら?小悪魔。」
「えっと、アリスさんがパチュリー様をお墓参りに誘ったあたりからです。」
パチュリーの鋭い質問に対し、にこにこといい笑顔を浮かべながら答える小悪魔。
…それって、殆ど最初っからじゃ…。
「魔理沙さんはずっと前向きな人でしたからね。きっと、自分が死んだ位で悲しむような人じゃないですよ。
それどころか、死んだら死んだでまた閻魔様辺りと弾幕合戦でも始めそうなくらいです。」
…それは、そうだと思う。
魔理沙以上に人生前向きに生きている人間も珍しいんじゃないか。
確かに家出した身ではあったらしいけれど、結局実家みたいにお店は開いていた訳だし。
とても物売ってるようには見えなかったけど。
「…そんな魔理沙さんが、例えパチュリー様が笑顔でお墓参りに来たところで、悲しんだりすると思いますか?
寧ろ、一緒になって喜んでくれそうじゃないですか。パチュリー様が、自分の死にめげずに生きているんだって知ってくれれば。」
…小悪魔の言葉に、私もパチュリーも言葉が出なくなってしまう。
小悪魔の言ってる事は、確かに正しいかもしれない。
魔理沙だったら、確かに沈んだ表情で逢いに行くよりは、笑顔で逢いに行った方が喜んでくれるかもしれない。
…だけど、それは魔理沙にしか判らない。本当にそうなのか、私達には知る由もないのだ。
小悪魔の言葉は正しいかもしれないが、魔理沙の心は魔理沙にしか判らない。
…多分パチュリーも、同じ事を思っているのだろう。
そもそも、小悪魔だってそんな事は判っているはず…。
暢気な性格ではあるが、彼女は馬鹿ではない。
寧ろ悪魔という種族である以上、頭はいいはずなのだ。狡猾でなければ悪魔は勤まらない。
そんな彼女が、私やパチュリーの思いを読み取れないはずが…。
「…それにパチュリー様、お墓参りに行かなかったところで、きっと魔理沙さんにはもう見られてますよ、そんな顔。」
…俯いていた私とパチュリーは、その言葉にハッと顔を上げる。
「…よく「人は死んでも、誰かの心に生き続ける」って言いますよね。
私、魔理沙さんなら、それを本当に実践出来ると思うんですよ。
だって、思い出してくださいよ。魔理沙さんが、この図書館に初めてやって来た時の事。
アリスさんも、思い出してみてください。魔理沙さんと初めて出会った時の事。魔理沙さんとの思いでも、全部。」
…言われるがままに、私は魔理沙との思い出を思い出してみる。
私が初めて魔理沙と出会ったのは、霊夢と同じく魔界での事。
最も、その時には私はまだ幼い姿だったし、魔理沙も口調が全然違ったから、後で霊夢からそうだと聞いた時には本当に驚いたけれど。
魔理沙と親しい関係になったのは、春雪異変の時。
春を取り戻そうとしていた魔理沙に、私のなけなしの春を強奪された以降の事…。
永夜異変の時は、魔理沙と一緒に夜の幻想郷を飛び回った。
グリモワールの出費はあったけれど、魔理沙と2人で幻想郷を飛び回ったのは、今なお最高の思い出の一つとして残っている。
それだけじゃない。
宴会が続いた異変の時。
天気が荒れ、神社が倒壊するような地震が起きた異変の時。
地霊が温泉と共に湧き上がってきた異変の時。
他にも沢山、魔理沙と出会ってからの、沢山の思い出が…。
魔理沙と知り合ってから、100年近く経とうとしているのに…。
…魔理沙との思い出は、何一つ色あせる事はなく…。…私の心の中を、ずっと駆け巡っていた…。
「…ほら、何も変わりませんよね?魔理沙さんとの思い出は、ずっと心に残っていますよね?
魔理沙さんは、とてもじゃないですけど、忘れたくても忘れられる人じゃありません。
魔理沙さんは、何時だって思い出と共に、パチュリー様やアリスさんの傍にいるんですよ。
勿論、魔理沙さんだけじゃありません。霊夢さんや咲夜さんも、その思いが残っている限り、ずっとです。
…今この瞬間も、きっと、この図書館に…。」
…勿論だけれど、今この図書館に、私とパチュリーと小悪魔の気配以外は感じない。
だけど、自分でも気付かないうちに、私はこの図書館を見回していた。
魔理沙、本当に…。…あなたは今、此処にいるの…?
ふと見れば、パチュリーもまた、私と同じように図書館を見回していた…。
「…私達には見えなくても、きっと魔理沙さんは今も私達を見ていると思いますよ。
きっと、笑ってるんじゃないでしょうか?「何しけた面してるんだよ、パチュリー、アリス。」って。」
…私は、箒に乗りながらくすくすと意地悪く笑う、魔理沙の姿を思い浮かべて…。
…ああ、やっと判った。どうして私が、魔理沙が死んだ時は悲しくなかったのか…。
魔理沙は何時だってそうだった。人の心にまで無理矢理入り込んでくるような、強引な奴だった。
…魔理沙は死んだって、ずっと私の傍にいてくれたんだ…。私の思い出の中に、今なお生きているんだ…。
…だから悲しくなかったんだ。だって、魔理沙は、まだ生きているんだから…。
…霊夢と咲夜にはなくて、魔理沙にあった物。その強引さが、魔理沙がまだ生きているという実感を、無意識のうちに私に与えていた…。
そして今この瞬間に、霊夢と咲夜も生き返ったんだろう。私の思い出の中で、もう一度…。
「…全く、まさか悪魔にこんな事を諭されるなんてね…。」
視線をパチュリーへと向ければ、その表情に、もう先ほどまでの暗さは見られなかった。
パチュリーも、私と同じように、魔理沙との思い出を生き返られたんだろう。
…私とパチュリーの心の霧は、全て消え去った…。
「…でも、その通りよ。魔理沙なら、どんな表情で逢いに行ったって、きっとこう言うわよね。」
私は、お墓の前に立っている魔理沙を思い浮かべてみる。
そして、そんな魔理沙のところに、私はパチュリーと、2人で笑顔で逢いに行ってみる。
「…そうね、魔理沙なら、何も気にせずにこう言うわね。」
きっとパチュリーも、全く同じ事を考えているのだろう…。
お墓の前に立っている魔理沙は、私たちを見つけた瞬間に、あの見慣れた笑顔を浮かべて…。
「そうですよ。魔理沙さんなら、いつもと変わらずにこう言ってくれますって。」
小悪魔もまた、花が咲いたような笑顔でそう語る。
…私とパチュリーが前に立ったら、魔理沙はきっと、軽く手を上げて、こういうに違いないんだ…。
「「「「よう、また逢ったな。」」」」
図書館にいた全ての者の声が、重なった…。
魔理沙が死ぬか死なないか、死んでどうするか。妄想のし甲斐がありますよね
感想を書くのは苦手なので、評価が全てです。良い物を読ませて頂きました
いい話なんだけど↓の方の意見も事実。よってちょっと評価割引。
永きを生きる者たちは、死を乗り越えていかなければならない。そして幻想郷は在り続けるのですね。
私は動機、過程がどうあれ中身が良ければそれで良いと思いますが…死を扱うには内容が少し薄く感じたので。
それからしばらくして・・・って話はなかなか少なめなので、いい感じでした。
最後のあれは、さすが魔理沙ってかんじですねぇw
まぁ、中々のお味でしたが...もう少し、味に深みが欲しかった所ですね
今後に期待します
>14:49:58の名無しさん
>最近は何か切ないSSが豊作ですねぇ。大好き
豊作な状況でもなければ書かなかったと思いますね。元々こういう話はちょっと苦手な物で…。
>魔理沙が死ぬか死なないか、死んでどうするか。妄想のし甲斐がありますよね
魔理沙は本当に不思議な子です。
>14:52:01の名無しさん
>安易に死を絡めるべきでは無いと思います。
…う~ん…、…安易に絡めた、と思われたのであれば少し残念です…。
確かに文章としては少し軽かったかもしれませんが、意味を軽んじて使った心算はなかったので…。
…修行不足ですねぇ、私も…。
>16:15:29の名無しさん
>こあはいい子だなぁ・゚・(ノД`)・゚・
悪魔の姿をした天使ですよ、こぁは。いろんな意味で。
>17:49:23の名無しさん
>永きを生きる者たちは、死を乗り越えていかなければならない。そして幻想郷は在り続けるのですね。
妖怪と人間、違う種族が生きる幻想郷。それが故の悲しみもまた、幻想郷の特別な物なのでしょう。
>死を扱うには内容が少し薄く感じたので。
…そこはあれです、完全に私の意識の問題だったと思います。
元々「死」と言う言葉に嫌悪感を抱いてるものですから…。…あまり濃い内容を書きたくなかった、と言うのが…。
最も、「死」を扱う上では、命を重く扱わなくてはいけないと言うのも判ってはいますが…。
…そればかりは出来ればお許し願いたいです。だったらそもそも書くな、と思われるかもしれませんが。
>18:13:55の名無しさん
>最後に図書館に4人いる!!!!?
ええ、それが「答え」ですよ。
>てるるさん
>最後のあれは、さすが魔理沙ってかんじですねぇw
死者は思い出と共にあり、です。
>通りすがりさん
>もう少し、味に深みが欲しかった所ですね
…死を扱うには、まだまだ作家としての意識が足りなかったと思います…。…反省…。
魔理沙の性格やアリス・パチェの心情をよく考慮したいい小説でした
フランもきっと魔理沙がいなくなったら暴れるだろーなー
通い妻ならぬ通い亡霊!?ちょっと怖いかも。
nineさんの作品はいくつか読んでます あの人もすごいですよね
私のコメントを見て「読みたい」と思った人は、是非見に行くべきだと思います
この作品に対してですが、一言でまとめると とても感動しました
>名前?何それおいしいの?さん
>こういう話って結構鬱になるのですが全然なりませんね
それは多分私の性質の問題だと思います。欝なまま終わらせる小説は多分一生書きません。と言うより書けません。
>フランもきっと魔理沙がいなくなったら暴れるだろーなー
実際にアリスが後追わされかけてますからね。でも立ち直るのが一番早いのもフランっぽそうなんですよね。
…あれ?そう言えばその話を入れるはずだったんだけどなぁ…、…何処行っちゃったんでしょう…。(ちょっと待て
>07:33:01の名無しさん
>通い妻ならぬ通い亡霊!?ちょっと怖いかも。
確かに怖い!!
すみません「生き続ける」の間違いです。報告ありがとうございました。
>からなくらなさん
>一言でまとめると とても感動しました
ありがとうございました、
切なくなるストーリーで、皆の個性が出ていたのではないでしょうか。
>21:15:53の名無しさん
>切なくなるストーリーで、皆の個性が出ていたのではないでしょうか。
それを一番意識して書いたので、そうであれば嬉しいです。ありがとうございました。
コメントのラスト2行が蛇足かなぁ と思いました。
と言う訳でコメントありがとうございましたー。
>13:08:34の名無しさん
>コメントのラスト2行が蛇足かなぁ と思いました。
う~む…。…私としては物語の鍵として入れた心算だったのですが…。…余計でしたかね…。
カギカッコの数なんて普通は気にしないのではないか、という気がして…。