俺、生きてる!
まず、カオスに耐性のある方以外にはオススメできません。
いや、ほんとに。
れみりゃのカリスマがヤバいことになってたり、
アリスが総受けだったり、まともです。
パッチェさんと魔理沙は敵対してたり。
二次設定ばっかり。
( ´・ω・)
それでも大丈夫というかたは、どうぞお楽しみ下さゐ。
ここは幻想郷立セントアグネZUN学園。
様々な個性、能力、性格を持った生徒達がいる学園です。
時に、性格や能力などが合わずに衝突することもあります。
しかし、皆仲良く手を取り合い、お互いの能力を高めていきます。
好敵手となる生徒もいれば、親友同士となる生徒もいます。
我々、教師一同、そんな生徒達をまっすぐに導いていきたいと思います。
スキマから、あなたの暮らしを見つめる校長 八雲紫
*
「おはよー」
「おはようございます」
セントアグネZUN学園、通称ZUN学の朝。
校門をくぐれば、顔を見知った友とも、ちょっと苦手なあいつとも顔を合わせます。
明るい挨拶の声、どこからか聞こえる悲鳴、caved!という叫び。
いつものZUN学です。
「おっはよー!大ちゃん、こぁちゃん!」
大声を張り上げて、目の前を並んで歩く二人に
朝の挨拶を叫ぶは氷の妖精。
大きな青いリボンをなびかせて勢い良く駆けてくる少女は、
途中で躓きかけるも、なんとか耐えて、目の前で並んで立ち止まった二人の隣に立つ。
「おはよーチルノちゃん。朝から元気だね~」
そう返すのは、大ちゃんと呼ばれた妖精。
緑の髪が歩くたびに揺れる。
白い肌に映える緑と重なるのは、彼女の穏やかな笑顔。
低学年らしい可愛らしさの中に、不思議な魅力が見える。
「そんなに朝から飛ばしてると、授業中に寝ちゃいますよ~」
軽く苦笑いを浮かべるのは、赤く長い髪に、蝙蝠の羽をつけた少女。
ちなみに、背中にも大きな蝙蝠の翼が二枚ある。
彼女の両隣の妖精二人に比べて、雰囲気的に大人しい印象を受ける。
「だいじょーぶ!あたいサイキョーだもん。居眠りなんてしないよっ」
『あはははは……』
校門の奥、靴箱の数歩手前に、明るい笑い声が響き渡った。
純粋なその笑い声は、とても平和な日常の一ページ。
*
もう、校庭で遊んでいた生徒達も教室に帰り、
担任の先生が来るのを待っている。
そんな時間に、猛スピードで校門に向かう影が一つ。
「うわぁぁぁぁ!遅刻遅刻ぅーッ!」
「待ちなさい、霧雨魔理沙!遅刻した者は問答無用で、
この紅美鈴、紅美鈴が通さないわ!」
校門の前に立つのは、紅の髪に緑の服をまとい、服と同じ緑色で
龍と書かれた星の付いた帽子を被った中国風教師、美鈴。
紅美鈴の部分を強調しているのはいつものこと。
その目の前には、空飛ぶ魔法の箒に乗った金髪の少女。
箒はスピードを上げ、目の前で両手を広げる先生にまっすぐ飛んでゆく。
「え、ちょ、止まりなさい!止まってくださぁーいってば!」
「あーもう、なんかもう……止まれないんだゼー!」
派手に何かが吹き飛んだ音と、アスファルトにぶつかる音が響き渡る。
美鈴先生も、遅刻常習犯霧雨魔理沙も、
へこんだり折れ曲がってしまった鉄の門の後ろで目を回していた。
*
「……さて、じゃあ宿題の答え合わせをするぞー」
そう言ったのは、青い箱に青いピラミッドを乗せて、
上にリボンをつけた様なへんてこな形をした帽子を被り、
真面目さの伝わってくる凛々しい顔つきをした先生。
このZUN学でも一、二を争う常識を持った真面目であり、
結構不器用な教師である、上白沢慧音先生。
生徒達は、皆自分のやってきた宿題を机の上に広げる。
そんな中、一人だけいつまでも宿題のプリントを出さない生徒が一人……
「ん?チルノ、宿題はどうした」
「えーっと……忘れました」
「忘れました」という単語が耳に入るや否や、
まっすぐにチルノを見る、いや睨む慧音先生。
その視線に、チルノはビクッと身を震わす。
まるで蛇に睨まれた蛙状態。
「チルノ」
チルノは再び名前を呼ばれ、恐る恐る教壇の横、慧音先生の前に立つ。
教室中の空気が一瞬にして重たいものとなり、静粛に包まれる。
例えるなら、目の前に、震え上がる獲物を見据える巨大な獣がいるかのように。
「覚悟はいいな?行くぞ……」
「は、はい……」
その瞬間、生徒達は固く目を瞑る。
耳をふさぐものもいる。
そして、震えながら身をこわばらせるチルノ。
次の瞬間――
ドゴッ……!
鈍い、嫌な音が教室中に広がる。
そっと……目を開く生徒達。
目の前には、頭を両手で押さえて悶えるチルノ。
フゥ、とため息をつく慧音先生。
これがZUN学名物でもある、
厳罰「山田に代わってお仕置きよん♪」である。
宿題、持ち物を忘れた場合には、この恐怖が待っている……
*
「では、この問題。誰か分かる人~?」
にっこり笑顔で生徒達に尋ねるのは、
瑞々しい葉の様な緑のショートヘアで室内なのに日傘を差す、
風見幽香先生だ。
傘を持っていない右手でチョークを持ち、それで黒板に書かれた数字を指している。
「9+8=」という足し算の式。
はい!はい!と元気な声と共に手が挙がる。
そして、その中の一人を指す。
「はい、ルーミアさん」
「9+8はー、98なのかー?」
「違います、あと先生に聞かないでね。じゃあ他の人」
そう言うと、ほとんどの生徒の手が下がる。
声も聞こえない。
まさかのほぼ全員の回答「98」だ。
思わず、幽香先生は顔を引きつらせる。
「~♪」
「えーっと、リリーさん」
静かになってしまった教室で、ようやく上がった手。
今度はどんな回答が待っているのやら、と思いつつ幽香先生は手の主の名を呼ぶ。
リリーは立ち上がると、口をパクパクと動かす。
「~、~っ♪」
「……何ていってるのかしら……ごめんね、先生には理解不能だわ」
擬音でしか気持ちを伝えられないリリー。
こればかりかは担任である幽香先生にも分からない。
花のことは良く知ってるのにね。
「せんせー、リリーは17って言ってるんだよー」
どうしようかと迷っていた幽香先生に助け舟が。
目の前の青いリボンをつけた妖精、スターサファイアが手を上げて言う。
それを聞いて、満足そうにリリーは笑うと、
両腕を頭の上まで持ち上げて、その間から顔をのぞかせる。
「あぁ……○ってことね……正解です」
『すげー!リリー天才だー!ち○ち○DAー!』
「ちょ、そんな言葉大声で言うんじゃありません!」
一気に騒がしくなる教室。
⑨が揃いに揃ったこのクラス、毎時間この調子である。
幽香先生の苦悩は続く。
*
「さて……本日の遅刻生徒は二名。因幡てゐ、霧雨魔理沙」
『はい……』
靴箱前で正座をさせられているのは、今朝美鈴先生と激突した魔理沙。
そしてもう一人、永遠亭のウサギである因幡てゐだ。
正座する二人の前に立つのは四季映姫・ヤマザナドゥ先生。
身長が低く、顔も童顔であるが、一応教師である。
その足元には何故かラジカセ。
「今回で何度目だと思ってるんですか?
魔理沙さんは五十回。てゐさんも五十回。
二人合わせて百回ですよ!?」
『すみません……』
手に持ったあの棒、悔悟の棒でバシバシと二人の頭を叩く。
叩かれるたびに、魔理沙のおさげと、てゐの耳が揺れる。
心の奥底で、映姫先生はそれを楽しんでいるのだとか。
十数回ほど説教を垂れ流しながら二人を叩きに叩いた後、
お待ちかね、地獄の時間がやってくる。
誰が呼んだか、その地獄の時間は「地獄のドキわき★タイム」と言われている。
星が黒いのは、白黒つける能力を持った映姫先生が黒と判断したためだとか何とか。
「さて……五十回目ですから、今回は五分増し増しですよ……
実際のところ、私もやりたくないのですがね」
悔悟の棒で口元を隠し、目を伏せる映姫先生。
ゆっくりと立ち上がる魔理沙とてゐの二人。
三人とも、どことなく顔が赤い。
そして、映姫先生はラジカセのスイッチを入れる。
音楽が鳴り出すと、三人ともはっきりと顔が赤くなる。
例えるならば、鼻血みたいな色とでも言っておこうか。
メロディはラジオ体操第一と同じで、どこも恥ずかしがるようなところはない。
このラジオ体操の問題は声と体操の内容である。
『まずは腕を上に伸ばして足を手まで持ち上げるー♪』
初っ端からハードな内容の体操である。
しかも声は生徒会副会長である十六夜咲夜のものである。
そう、これがZUN学朝の名物「アグネZUN体操」だ。
「うおぉっ……!」
「相変わらず……きつい……ウサァ……ッ」
「ホッ。五十回目なんですから、慣れないと駄目ですよ?」
足は腰の辺りぐらいで止まっている魔理沙とてゐ。
足の付け根の辺りの痛みに、必死に耐える。
映姫先生は楽そうにY字のポーズを決めている。
スカートの中の楽園が丸見えなのは言ってはならない。
『次はー華麗にー♪イナバウア゛ァァァ!』
華麗にー♪の後に突然変わる声色。
穏やかで瀟洒な声から、患部で止まって(ryの二番のとこみたいな声になる。
「イナバウ……アガァァ……」
魔理沙はうめき声のような奇声を発しながら、後ろに体をそらす。
足の辺りが震えていて、今にも倒れてしまいそうである。
そして、あっけなく落ちる黒い大きな帽子。
ちなみに中はからっぽである。
「因幡の名を持つ私には楽々ウサー♪」
「まぁ、楽にできる方がいいですよね」
華麗にイナバウアーを決めるのはてゐと映姫先生。
会話をする余裕まである。
『次はーもっとー激しくなるわよ♪トリプルアクセルゥッ!』
「ほっ!」
魔理沙は体を捻ると、大きく飛び上がる。
体育が得意な彼女は、イナバウアーに慣れたてゐのように、
トリプルアクセルに慣れた様だ。
簡単に慣れられるものでもないのだが……
「イタッ」
てゐも魔理沙のように大きく体を捻って飛び上がるが、
上手く着地出来ずに転んでしまった。
身軽なてゐは、回転こそ出来るものの、軽いため回転の勢いで着地できないのだ。
「てゐさんも、うまく着地出来ればパーフェクトなんですがね」
映姫先生は体を捻ることなく、垂直に飛び上がると、そのままくるくる回転する。
しかも勢い余って五回ほど。
どこぞの厄まみれの人形のように。
「おっと、二回多く回ってしまいましたね」
『さぁーて☆次は大好きな人思い浮かべてからウー☆してください』
「うぅ……ア、アリス☆ウー」
「れーせん☆ウー」
「こ、小町☆ウー」
『はぁはぁ……お、お嬢様……れみりゃぁ……レミ、レミリア☆ウー……ふふふ』
そうして、羞恥心を掻き立てる体操は通常Varよりも五分増し増しで続くのだった。
それにしても……この生徒会副会長、もう駄目かもしれない。
*
「遅いわね、魔理沙……」
午前の授業は終了し、お昼の時間。
生徒達は弁当を持って、各々友達や先生を誘って昼食をとる。
食べる場所は学校内であればどこでもいい。
人気昼食スポットは、幽香先生と美鈴先生が手入れしている花壇。
何故か、九尾の狐と猫又の銅像の前。
(この銅像の近くにいると二人の仲が深まる伝説があるらしい)
他にも、幽々子先生の好きな桜の木の下など。
そんな、誰もが楽しみにしている昼食の時間、顔を曇らせる生徒が一人。
彼女は人形のような可愛らしさの中に、大人びた雰囲気を帯びていて、
周りにはいつも、抱えるほどの大きさの人形がいる。
そして、彼女はZUN学でも、結構高い人気を誇る生徒である。
「アリスー!遅れてごめんなー」
「あ、遅いわよ魔理沙!」
アリスと呼ばれたその生徒は壁につけていた背を離し、自分の足でしっかりと立つ。
アリスの目の前には、ニヤニヤと笑う魔理沙。
授業中にぐっすりと居眠りをしていたせいで、
朝のアグネZUN体操の疲れは取れたものの、担任の先生に叱られていたらしい。
そのことを話すと、アリスは呆れたようにため息をつく。
「もう……魔理沙が遅刻するから……その……」
「ん?どうかしたのかぁ~?」
「何でもないわよ!ほ、ほら早く行かなきゃお昼食べられないわよ!」
「一緒にいれる時間が少なくなるでしょ」という一文を、咄嗟に飲み込むアリス。
ギャラリーはにやにやとしながら二人を見つめている。
二人は生徒で知らない者はいないほどの有名人。
それも仲良しで、初々しい。
にやにやが止まらない。
そのとき、魔理沙がアリスの背後で気づかれないようにブイサインを出す。
周りのギャラリー、特に男子は「うほっ」と小さく声を上げる。
そして、早足で歩くアリスのスカートの下の辺りに手を添え……
「ホワァッ!」
「い……キャアアアアアアア!」
躊躇い無しに一気にそれをめくり上げる。
アリスは一瞬で顔が真っ赤に染まる。
そして、周りから歓声が上がる。
それと同時にパシャというシャッター音と共にフラッシュがアリスの背に直撃する。
ちなみに、真っ赤になったアリスはそのことに気づいていない。
教室の窓の影に潜んでいたZUN学のブン屋のおかげで、
今日もまた、写真が裏取引される……
「ま、魔理沙ー!」
「今日は白ー!」
両手を上げて、屋上へ続く階段を駆け上る魔理沙を追うアリス。
上海もアリスの横に並んで飛んでいる。
ちなみに、アリスがスカート捲りにあったその廊下には、いつもティッシュが置かれている。
それは、必ず鼻血を噴出す生徒が最低でも五名以上はいるからだ。
*
「くぎぎーくぎぎーくぎぎー……なんてな」
声の主は筆記用具やおにぎりを並べた店、
購買部のカウンターで頬杖をついてそう呟く。
視線の先には、窓の向こうで魔理沙を追いかけるアリス。
そこに、二つの弁当箱を持った生徒が一人やってくる。
「こんにちは、霖之助さん」
「ん、あぁレイセンさん。こんにちは」
その声の主の方を向く購買部の店主。
薄い紫の長く滑らかな髪、その上に見える、クシャッとした耳。
透き通るような赤色の瞳。
月のウサギ、鈴仙・優曇華院・イナバである。
「お昼、どうですか?」
「あぁ、いいよ」
短い会話を交わす二人。
店主霖之助は、「昼食中」と書かれた木の札を取り出し、カウンターに立てる。
そして、一度大きく背伸びをしてから、レイセンの隣に並んで歩く。
どこでお弁当食べますか?そうだな……と、のどかな会話が続く。
もしかすると、ここはZUN学で一番、穏やかでのどかの空間かもしれない。
*
放課後、中学年と高学年はクラブ活動の時間。
皆それぞれ、自分のクラブの部室へと足を進める。
ZUN学のクラブは、文化と運動に分かれる。
あとは同好会があるくらいだ。
ちなみに、文化の人気クラブは料理クラブ、運動の人気クラブは野球である。
その野球部を窓の中、吹奏楽部の部室から見続ける者が一人。
「やっぱり外は騒がしいね~。ねえ、お姉さん」
「めるぽっ!」
「ガッ!」
音楽室で流れるようにメロディを奏でるのはプリズムリバー三姉妹。
だが、今は少し休憩中。
三女のリリカは窓の外を眺めながら姉に言う。
しかし、当の姉二人は意味の分からない言葉のやり取りをかれこれ十分続けている。
リリカは、返事が返ってこないこと百も千も承知である。
むしろ独り言と言ってもいいだろう。
しかし、うるさいと言えばうるさい。
さすがのリリカも我慢の限界が近づいてきたようだ。
「ねえ、お姉さん。次の『虹川特別超演奏会』の曲何にする?」
「めるぽっ!」
「ガッ!」
妹の問いかけになど、微塵も答えるそぶりを見せない姉二人。
めるぽとガッの単語が延々と続く。
しかし、リリカは続ける。
「お姉さんは、めるぽ!ガッ!って曲にするんだ……へぇ~。
それはどんな曲?めるぽめるぽめるぽガッガッガ!みたいな?
だったらミスチーのヴォーカルと私の伴奏で大丈夫だから……
少し……頭冷やそうか……」
可愛らしくも影が差す笑顔を、姉二人に向ける。
リリカはそっと立ち上がり、姉二人の前に立つ。
姉二人は、後ろへ一歩、座ったまま後ずさり。
ならばリリカはまた一歩。
そして再び姉二人が一歩下がり、それが何度か繰り返される。
言葉など聞こえるはずもない。
静粛に包まれた音楽室とは、なかなか怖いものである。
「…………」
哀れむような目で壁に追い詰められた姉二人を見るリリカ。
姉二人はお互いに抱き合ってごめんなさいの連呼を続けている。
リリカは、そんな二人を可哀想な卵焼きを見るような目で見つめ続ける。
「もう……もうそんな目でみんといて!」
音楽室に響き渡る、少しばかり大きめのメルラン声。
それをスタートの合図とするかのように、リリカの目が変わる。
それは、獲物を捕らえた、狩るものの目。
手には愛用のキーボード。
片側を両手で掴み、高く振り上げる。
楽器は大切にね!
*
ところ変わって、ここはとある同好会の集会所。
と言っても、結構広い。
クラブには満たない少ない人数である同好会にも関わらず、
その部屋は普通の部室の二、三倍はある。
部屋の中央には巨大な机、周りには椅子。
そこは会議室であった。
「では、これより
瀟洒でみりんでパッチェなフランちゃんウフフでれみりゃ☆うー同好会、
略して瀟洒な同好会の、会議を開催いたします」
「フォゥー!フゥーォッ!」
瀟洒な会議開始宣言をするのは十六夜咲夜。
騒ぎ立てるのは、他でもない同好会設立者レミリア・スカーレット。
他の同好会メンバーは、消極的にその掛け声に続く。
「ちょ……みんな消極的過ぎるのよ!私だって恥ずかしいんだから!」
ちっとも顔を赤くせずに言うレミリア。
説得力などあったものではない。
もう⑨と同等である。
「今回の会議の内容は『同好会のお菓子代をどうやって稼ぐか』です」
瀟洒に、議題を述べる咲夜さん。
すると、咲夜の前に置かれたカウンターらしきものが回る。
そこに書かれているのは、「瀟洒ポイント100」の文字。
他のメンバーの前にもカウンターは置かれているが、書かれている文字は違う。
パッチェさんことパチュリーは、「消極的ポイント999」。
その隣に座る小悪魔は、「小悪魔ポイント25」。
レミリアの右隣に座る、低学年なのに何故かいるフランは、
「妹ポイント999」。
当のレミリアのカウンターは
「カリスマポイント9999999」。
三桁目以降は自分の油性ペンで書き足したようだ。
「紅魔館のお金も底をつき、リアルホームレス状態。
博麗神社床下ダンボール完備の場所に住んでいるのが私達の現状。
紅魔館は家賃の滞納により差し押さえ。
もう後がないのよ!」
レミリアは頭を抱え、イナバウアーをするかのように体をそらす。
五秒ほどそうしていると、椅子が倒れ、頭を打つ羽目になった。
まったく、カリスマも金も何もない。
「それはそうと……何故に紅魔館にローンが……」
パチュリーが消極的に呟く。
それはもう消極的以外言葉が見つからないほどに。
視線は開いた本の文字をまっすぐ捉えたままだ。
他のメンバーも、眉一つ動かさず、机に突っ伏していたり、何かと消極的だ。
唯一と言っていい、話を聞いているメンバーは瀟洒な咲夜さんだけだった。
「悪魔の契約は絶対なのよっ」
「無い胸を張って言うんじゃありません、レミィ」
視線はあくまでも本に向けたまま、ビシッとレミリアに指を向けるパチュリー。
レミリアは、ムッとした表情でパチュリーを睨みつける。
本人からすればカリスマ駄々漏れな悪魔の眼差し。
しかし、今となってはカリスマ0のレミリア。
パチュリーの感じる視線は、つるぺた幼女の迫力無しな視線だった。
「お嬢様、今は博麗神社床下ダンボール完備で我慢するしかないですわ。
スーパーの試食コーナーで命を繋いでいる今ですが、
ダンボールに包まれたサバイバルのプロの方がいるじゃないですか。
顔は見えないですが……サバイバルの仕方をしっかり教えてくれてます。
いつか、サバイバルだけで瀟洒に食っていけるよう、頑張りましょう」
さすがは瀟洒な咲夜さん。
瀟洒に話をまとめあげてみせた。
もう、小悪魔は本を探しに出て行ってしまったし、フランは寝ている。
そこでレミリアおぜうが取った行動は……
「……れみりあ☆うー!」
カリスマ?なにそれおいしいのってなレベルとなったレミリアがそう声を上げる。
すると、同好会メンバー達は次々と席を立つ。
そう、このカリスマ0の掛け声こそが会議終了の合図である。
会議室に残るのは、瀟洒な咲夜さんとレミリアおぜうのみだ。
「お嬢様……今日の晩御飯はいかがいたしましょうか?」
「そうね、公園にいる鳩の餌のパンクズとかかしらね」
「瀟洒ですわ、お嬢様」
「そういえば、瀟洒って何かのお酒?」
「お嬢様……ッ!?」
*
「さて……手芸部、手芸部……」
本を片手に廊下を歩くパチュリー。
どうやら、手芸部を探しているらしい。
廊下の右にも左にも、教室はたくさんある。
パチュリーはそこに目もくれず、まっすぐにある教室へと歩く。
そして、一つの教室の前で足を止める。
扉には「手芸部」と書かれた張り紙。
迷わずパチュリーは扉に手をかけ、そのまま右に腕を動かす。
後ろから見た感じはごく普通の、いつもどおり落ち着いて物静かなパチュリー。
しかし、その顔は朱色に染まっていて、息も荒い。
「アリスー、来たわよ……ってあら?」
その教室には、人も妖怪も先生もいない。
ただただ静かなだけの教室。
パチュリーは微かに、いるはずだった人物の姿を見た。
ぼんやりと浮かぶのは、椅子に腰掛けて、ミシンを動かすその人。
細く、白い肌、金色の髪、澄んだ青色の瞳。
いないはずなのに、その姿が目に浮かぶ。
パチュリーは一度目を閉じて再び開く。
すると、その幻影は影も形も音もなく消えていた。
どうしたの、と心配そうに声をかけてくれる。
あり得ない期待を薄っすらと抱いていたが、やはり幻影は幻影だった。
もう帰ってしまったのか、と扉を閉めたその時。
「おりゃぁー…!……!?」
手芸部の部室から背を向けたパチュリーの左側から、小さくともはっきり聞こえた声。
左側、もっと奥の教室。
パチュリーはさっきよりもずっと早足にその教室へと向かう。
本人からすれば大急ぎで走っているつもりだ。
普段滅多に早く歩かないパチュリーが、早歩きをする。
それは、欲しい本の限定版を買いに行くときと、あと他に一つ。
パチュリーの探していたその人の元へ行くときだけ。
だが、今のパチュリーは走るというよりも全力疾走をしている感覚だ。
それは何故か。
そう、ようやく見つけたからだ。
パチュリーの探すその人を――
「アリス!」
家庭科室の扉を開き、自身の求めるその人の名を呼ぶ。
しかし、家庭科室内は大パニック状態。
一歩だけ家庭科室の白い床に踏み込んだその時――
「パチュリー危ないっ!」
突然の大声に、パチュリーは立ち眩みを起こす。
一瞬遠のきかける意識、力の抜けた足。
倒れかけた体を、なんとか足を踏み込んで支える。
パチュリーは軽く膝を曲げ、少しだけしゃがんでいるような状態で立ち止まる。
立ち眩みが起こったことをパチュリーが気づいた瞬間、頭上を何かがかする。
奇跡のグレイズを成功させた瞬間、背後からカランカランと、金属特有の音が聞こえた。
振り返ると、そこにはボウルと得体の知れない
深緑色の何か、もう少しハッキリ言えば、昆布色の何かが。
「だ、大丈夫?」
思わずしゃがみこんでしまったパチュリーの両肩に触れる手。
細く白い指、パチュリーを水鏡の様に薄っすらと映し出す青い瞳。
まさしく、パチュリーの捜し求めた人物、アリスだった。
パチュリーは、今の自分の状況を理解し、顔を赤らめる。
真正面、自分の目の前に想い人、自分の肩にはその人の綺麗な手のひら。
「だ、だだだだ大丈夫よ。い、いったい何があったの……?」
「う、うん……実はね」
アリスは、さっきまで何があったかを事細かにパチュリーに伝えた。
今日は料理クラブはクッキーを作る予定だった。
材料もそろって、さぁ始めましょうと言う所で問題は発生した。
突如空間が開き、そこからドバドバとクッキーの材料が。
そう、クッキーの材料を注文したはいいが、数を大いに間違えたらしい。
……0がいくつか多くなったのだそうだ。
材料がドバドバでてきた空間の切れ目から、校長が現れ、
「費用の方はボーダー商事の方でどうにかしとくから、クッキー出来たら頂戴ね♪」
と言って、切れ目の中に戻っていった。
するとすぐに校舎に残っている生徒と教師は家庭科室へ向かうように、
という放送が流れ、どんどん生徒と教師が集まる。
そして、クッキー作りが始まった。
でも、生地を作っていると突然変な匂いが漂い始め、
その匂いの発生している場所へ行くと、
そこには抹茶パウダーやら昆布やら大根やらを得体の知れない何かやら、
ドバドバとボウルに突っ込む西行寺先生の姿が。
魔理沙も悪乗りして、帽子ではなくスカートの中から
真っ赤なきのこを取り出し、ボウルの中に放り込んでしまった。
その瞬間、黄緑色だった生地が深緑色に変色したのだ。
いわゆる、化学反応を起こしてしまったのである。
ボウルからは更に酷い匂いが漂い始め、
椛や橙、藍などの妖獣達が倒れる羽目になった。
ちなみにウサギ二人と鴉天狗は無事だったらしい。
「ちょ……みょん、どうにかして頂戴な」
しばらく重い沈黙と異臭が渦巻く中、
鼻をつまんだ西行寺先生が、突如みょんこと妖夢にボウルを押し付けたのだ。
嫌々、妖夢はボウルを手に取り、酷く苦しげに、顔を紫色にしながら流し台へ向かう。
その時、悲劇は起こったのだ。
「きゃっ!?」
「のおぉ!?尻尾がもげるぅぅ!」
流し台で、異臭に悶え苦しみ、リバースしていた藍の尻尾を妖夢が踏んでしまったのだ。
ボウルは妖夢の手を離れ、宙を舞い、美鈴先生の頭上へ。
「こないでぇー!」
美鈴先生はそう叫んで、思いっきりボウルを殴り飛ばす。
再び宙を舞うボウルは、更に高く飛び上がり、今度はようやく落ち着いた椛の方へ。
椛は再びその異臭に殺られ、流し台へ駆け出す。
しかし、そこで藍の尻尾を踏んで転んでしまう。
藍はまたしても尻尾を踏まれてしまった。
「んごぉぁぁーっ!?もげるっ!千切れる!張り裂けるぅぅーッ!」
「椛、どっか捕まって!」
椛が藍の尻尾につかまり、家庭科室内の教師も生徒もどこかに捕まる。
その瞬間、突風が家庭科室の中に巻き起こる。
椛にぶつかる寸前でボウルは反対方向へと飛び上がる。
その反対方向とは、一番たくさん人が集まっていて――
「妖夢!」
皆がパニックになりかけていた時、西行寺先生の声が家庭科室に響き渡る。
その瞬間、洗面所でリバースしていた妖夢が宙を舞うボウルの前に現れる。
銀色の髪をなびかせ、二つの刀を構える姿は、とても格好良かったらしい。
「この楼観剣に……切れぬものなど!んぐぉっ……」
しかし、ボウルが眼前に迫り、異臭も至近距離から直撃。
妖夢は再び顔を紫色に染め、さっきよりも更に青くなって倒れてしまった。
ボウルは妖夢と西行寺先生を通り越し、アリスに向かう。
「……ッ!」
あまりの匂いのきつさで、操ろうとした上海人形を動かすのが遅れてしまう。
もう間に合わない、そう思い、硬く目を閉じるアリス。
その時、風がアリスを通り抜ける。
「おりゃあぁー!」
アリスの前には魔理沙がいた。
そして、その手にはミニ八卦路が。
「恋符!マスター……スパ――」
「やめなさい!」
マスタースパークを放とうとした魔理沙の後ろから、何者かの制止の声。
魔理沙が後ろを振り返った時、目の前には傘が一本と緑の短い髪。
そう、幽香先生である。
強く握られた傘は勢い良く、魔理沙の背中を打つ。
激しく鈍い衝撃が魔理沙の背中に走る。
そのまま魔理沙は傘の衝撃に吹っ飛ばされ、魔理沙自身でボウルを打ち返してしまう。
そして、ボウルは家庭科室の出入り口の扉へ一直線。
「アリス!」
「パチュリー危ないっ!」
……と、長くなってしまったがこういうことがあったのだ。
「そういえば、その……エプロン……」
「あ、これ?やっぱり似合わないでしょ、エプロンなんて」
アリスはほんの少し顔を赤くしてパチュリーから視線を逸らす。
オレンジと黄色のチェックの入ったエプロンで、上海もお揃いのエプロンだ。
それは、家庭的なアリスにはとても良く似合っていると、パチュリーは思った。
「か、可愛いわよ」
「え……ふふ、ありがとう」
アリスは少しだけ驚いたが、すぐに優しげな笑みを浮かべる。
パチュリーは、言ってから後悔してしまう。
そんなこと言うなど、とても柄に合わないのである。
いつもあまり素直に気持ちを伝えられない自分。
ここまで率直に自分の気持ちを伝えれただけで、結構恥ずかしいものがあった。
「じゃあ、パチュリー。行こっ」
アリスはパチュリーの手を引き、家庭科室に足を踏み入れる。
さっきまでのてんやわんやの大騒ぎは幕を閉じており、幾分か静かになっていた。
しかも、何か増えている。
「あ、輝夜さんと八意先生。それに妹紅さん、上白沢先生」
「あーアリス!ちょっと生地作るの手伝って~。
妹紅じゃ不器用すぎて足手纏いだわ」
「何だと輝夜!お前の方がやたら材料選びに手間かかってる上に、
さっきからずっと八意先生に頼りっぱなしなのになぁ?」
アリスを呼ぶのは、鮮やかな黒髪、派手で美しい着物の上に
言わずと知れたヤゴコロのマークの入った藍色のエプロンを着ている少女。
その少女、輝夜が混ぜた嫌味に、隣でクッキーを作っていた妹紅が言い返す。
白く光る髪が揺れ、少し渋めの赤いシンプルなエプロンの端がチリチリと音を立てる。
お互いに挑発しあって、料理の手を止める輝夜と妹紅。
まさに一触即発。
「おい、妹紅。ここで弾幕を展開するのはやめておけ。
もしも一つでも弾幕を出してみろ……晩飯抜きだ」
「姫も落ち着いて。あと、ちゃんと一緒に作りましょうね?
さもなくば、姫も晩御飯抜きますよ……?」
ハッとした表情で、二人に静止の声をかけた教師二人の方に
カクカクと顔を向ける輝夜と妹紅。
掴みかかろうとした手もフリーズしたパソコンの如く、ピタリと止まる。
もちろん、さっきまでの鋭い視線など欠片も残していない。
むしろ残っていれば、二人はただではすまないだろう。
アリスから見ると、八意先生も上白沢先生も背中しか見えない。
しかし、二人の周りに渦巻くどす黒い何かはハッキリと感じ取れる。
それはもうハッキリ、目に見えるほどだ。
「「あの……何日間抜きですか……?」」
すっかり青い顔になってしまった二人の永遠の少女。
ぴったり、同じタイミングで同じことを尋ねる二人。
どす黒い何かを漂わせる二人の背中に、今度は何か変なものが見えた。
八意先生の背にはヤゴコロ、上白沢先生には白い尻尾とリボンをつけた角。
薄っすらと二人に重なって見えるそれに、アリスは怖くなって動けなくなる。
魔理沙がダッシュでスライディングを決めながら
アリスをお姫様抱っこして離れていなければ、
永遠にアリスはそこに立ち続けていたことだろう。
遠くで八意先生と上白沢先生の方をそっと見てみるアリス。
だが、顔はぜつみょんな角度で見えない。
見たくも無いのだが。
「「永遠に……」」
一字一字、相手の心に刻み込むかのように呟く教師二人。
なんという残酷な言葉を投げかけるのだろうか、この教師二人は。
ヒギィと叫びながら、さっきまで睨み合っていたことも忘れてお互い抱き合う輝夜と妹紅。
震える二人の目からは、咲夜さんの必殺技である、
鼻血「瀟洒なメイド長式萌心の紅滝」に勝るとも劣らない勢いで涙を流している。
「ア、アリス!早くクッキーを焼くんだ!」
「っ…………」
恐怖のあまり、体が動かないアリス。
魔理沙の声は分かっていても、自分で動かそうとしても、
どうしても体が動かないのである。
すると、アリスの隣で魔理沙が怪しげにニィッと笑みを浮かべる。
「そうだなぁ……アリスゥ、早く動かないと、今夜……うふふふ……」
「そ、そうだったわね!クッキー焼かなきゃ!」
黒く大きな帽子の下でギラギラと光る目に気づいたアリスは、即活動再開するのだった。
ちなみに、魔理沙は動こうが動かなかろうが、
今夜うふふなことをするのは決めているようだ。
白黒と七色の歴史に、新たな歴史が書き加えられるのも、遅くないだろう。
*
「みんな、出来たわよ~」
さきほどのヒギィでうふふできゃーいやんピチューンな出来事から数分後。
香ばしく甘く、ところにより混沌で昆布な香りが漂ってくる。
アリスの声に、家庭科室でぐうたらと待っていた連中が目を輝かせる。
昆布の匂いを避けて、甘い香りに集まる生徒と教師。
既によだれを垂らしているものもいるほど、それは美味しそうだった。
大きい皿に、様々な形のクッキーを並べていくアリス。
星、ハート、花の形や、器用に⑨の形になっているクッキーまである。
他にも「レえりねきえ〆」とチョコで歪な文字が書かれているものもあった。
「こ、これは一体……」
眉をひそめてそのクッキーと睨めっこをするアリス。
すると、その横にひんやりとした空気が流れてきた。
何かと思って顔を向けると、そこには午前に購買にいるレティだった。
「どうかしましたか?」
「これ……チルノちゃんが私にって作ってくれたのよ。
読みにくいことこの上ないけど、しらいわさんへって書いてあるの」
ホワイトロックで白岩さんという愛称のあるレティ。
朝に学校に来ると、すぐに購買へ行くのがチルノの楽しみでもある。
同じ冷気を操る者同士、仲良くなっていった。
レティは、チルノのいいお姉さん代わりで、そのことは結構有名である。
何故か年がら年中いるのは、その話を知った校長がこっそり境界を弄ったからだとか。
「ちょっと、アリス。これこれ」
アリスは、突然呼ばれて振り返ると、そこには真っ赤なリボンと黒い髪。
それに腋丸出しな巫女服という特徴的な服を見て、
一瞬でアリスはそれが誰かを理解した。
「どうしたの霊夢?」
作るのは面倒くさそうということでさっきまでいなかった霊夢。
空腹を訴える体を満たそうと、匂いにつられてやってきたことを
口の周りについたクッキーの食べかすが物語っている。
「このクッキー見なさいよ。なんか皿で一際目立つのよ」
霊夢の指差す方を見ると、そこに長方形の大きなクッキーが。
周りには結構たくさん人がいて、誰もがニヤニヤしている。
チルノだけは何と書いてあるかが理解不能らしく、レティに何とかいてあるかを聞いている。
「え、なに?……って何これぇ!?」
アリスの目に飛び込んできたのは、でかでかと「アリスLOVE」と書かれたクッキー。
もう、アリスは顔が真っ赤になっているのが自分で分かるくらい熱くなっている。
嬉しいといえば嬉しいのだが、それよりも恥ずかしい気持ちが先走る。
それにこれは食べてもいいものなのかも分からない。
「もぅ……誰が作ったのよぉ……」
両手で顔を包むように押さえるアリス。
周りからの視線も、何もかも恥ずかしい。
遂に耐え切れなくなって、家庭科室を飛び出してしまった。
顔を手で覆っていたため、前が見えなくて、
途中机の角に足をぶつけて痛かったのは秘密だ。
「あーもうっ、誰が作ったのよあのクッキー……」
運動場の端の花壇に腰掛けて俯くアリス。
野球部の練習風景も掛け声も、今のアリスには見えない。
一人静かに、花の香りに包まれて、うなだれる。
その時――
「危ないッ!」
聞きなれた声に、アリスはハッと顔を上げる。
その瞬間、何か硬いものを打ち飛ばした音が運動場に木霊する。
空の彼方に飛んでゆくのは、野球部の投げたボールだった。
アリスの青い目に移ったのは、なびく金色の髪と、アリスを見つめる強く輝く瞳。
「大丈夫か、アリス!?」
「え、えぇ……大丈夫よ」
片手にバットを持った魔理沙は、すぐにバットを放り出してアリスを抱きしめる。
野球部員は謝りに行こうと思ったが、空気を読んで練習に戻った。
「でも、何で魔理沙がここに……?」
「あー、実はな」
魔理沙はそういいながらポケットに手を突っ込んでごそごそと中を探る。
数秒程経つと、あったあったとポケットから手を引き抜く。
その手には、先ほどアリスが顔を真っ赤にして出て行く原因となったクッキーが。
「これ作ったの、私なんだ」
「えっ!?な、な、何でこんなの作ったのよぉ!」
家庭科室でのことを思い出し、再び赤面するアリス。
魔理沙は、んー……と唸る。
しかもアリスを抱きしめたまま。
「理由は私がアリスのこと、大好きだからだ。ただそれだけ」
そして、魔理沙は更に強くアリスを抱きしめる。
アリスも、それに答えるように魔理沙を抱き返す。
ただただ静かに、何も言わずに。
お互いの表情もまったく見えない。
それでも、気持ちは自分の心の様に分かる。
透き通るように、何でも見えるし伝わる。
『大好き』という気持ちが……
*
ここは運動場の端のまた端。
何本か生えている大きな木の下。
双眼鏡を片手に、熱心に心を伝え合う二人を見つめる鴉が一人。
「うっほぁ……熱い……熱いですよぉ、椛ぃ……!」
「ですねぇ、文さん」
よだれをだらだらと垂らしながら、高速でシャッターを切る文。
隣に座る椛は、幸せそうにニコニコと笑っている。
文の幸せと笑顔とシャッター音こそが、椛の幸せなのだ。
「しらいわさん!まりさはあたいのクッキーパクッたの?」
「違うわよ、チルノちゃん。甘ーい恋は、甘ーいお菓子と言葉で伝えるのがいいのよ」
ふふっ、と遠くを見つめながら言うレティ。
チルノはあまり訳が分かっていないらしく、頭の上に疑問符を浮かべている。
いつか分かるわ、とレティはチルノに言う。
「あ、そうだわ。咲夜」
「なんでしょうか、お嬢様」
「これ、咲夜のために作ったのよ!」
「口天イヤで……?」
「咲夜へって書いてあるのよ!うふふ、私ってば最高に礼儀正しいわ」
身をねじらせ、頬に手を当てて私最高と呟き続けるレミリア。
咲夜さんは泣きながらそのクッキーを瀟洒に頬張っていたという。
その涙には、喜びに満ち溢れていることだろう。
「クッ、魔理沙……アリスは必ず私が取り返すわ……」
パチュリーは涙目で紫のハンカチを噛んでいた。
そのハンカチは何度も噛んだ痕跡があり、もうボロボロである。
恐らく、このハンカチは苦い思い出としょっぱい涙の味が染み込んでいるのだろう。
*
ZUN学の朝。
いつもと同じ、挨拶と叫び声。
しかし、いつものZUN学とは違うところが一つ。
「アーリースッ!」
「ア、アリスッ!」
「きゃっ!朝から何なの魔理沙……ってパチュリー!?い、一体どうしたのよ?」
校門をくぐったアリスに突然飛びつく魔理沙とパチュリー。
パチュリーはかなり顔を赤くして、ウッと息を詰まらせる。
魔理沙は、そんなパチュリーなど気にせずにアリスの腕を自分の頬に摺り寄せる。
二人の魔法使いに抱きつかれて、アリスは身動きが取れない。
しかも周りからの興味に満ち溢れた視線が一気に集まってくる。
逃げたくても逃げられないこの状況を、どうやって打破するかを考える羽目となった。
そう、変わったのはアリスの学園生活。
魔理沙の遅刻癖。
パチュリーの積極性。
校舎の中をのぞいてみると、いつもと違う雰囲気の漂う購買部。
それは悪いものではなく、少しだけ、そこが明るく見えるのだ。
「おはようございます、霖之助さん」
「あぁ、おはようございますレティさん」
穏やかな笑顔で挨拶を交わす二人。
毎朝のことで、それは当たり前の日常。
しかし霖之助は、毎朝顔を合わすレティから、どことなく違った雰囲気を感じた。
「何かいつもと違いますね」
「あ、分かりますか?ちょっとだけ……いつもと違うお化粧をしてきたんですよ」
「へぇ、やっぱり。今日、誰かお客さんでも来るんですか?」
「いいえ……ちょっと、ね」
少しだけ頬を赤く染めながら呟くレティ。
とっくの昔に過ぎ去った青春のように、また恋をしてみるのも、いいと思った。
それが実るかなんて、分からない。
それに――
「あ、おはようございます。レティさん、霖之助さん」
「おはよう、レイセンさん」
レティは自分ともう霖之助の名を呼んだ生徒に挨拶を返す。
ゆっくり、薄紫の髪と真ん中で折れたウサギ耳を揺らしながら歩いてくる一人の生徒。
その生徒、レイセンは透き通るルビーをはめ込んだかのような目を細めて、
優しげに笑顔を浮かべる。
狂気など欠片も感じない、とても柔らかな。
「ん、おはよう。そうだ、今日もお昼……いいかな?」
「えぇ、喜んで!」
笑いあう霖之助とレイセン。
あぁ、やっぱり他人を想うことって、苦しいことなのね。
レティは二人を、自身の青色の瞳で見つめながら思う。
赤色の月兎と、青色の妖怪。
ほんの少し不器用で、でも実は根は真面目な彼の隣を歩くのは、
一体誰になるのか――
~第二話~
最近、学園での日々が退屈で仕方ない。
何が退屈かって?
平和過ぎて穏やか過ぎて……平和ボケしそう。
そりゃあ、生徒が穏やかな学園生活を送れるのはいいことよ。
し・か・し!しかしよ。
マンネリ過ぎるのもどうかと思うのよ!
あれよ、刺激が足りないの。
多少の刺激は必要でしょう?ほんとに。
それにそれに、何よりも!
まず私がつまらないのよ!この私がね!一番偉い私が!
ただただ平和に何事も無く過ぎる学園の日々。
放課後にはクラブ、終われば友達と帰って、自分の時間を過ごす。
ディスイズ・マンネリ!オーマイPAD!ヘルプミーえーりいいいん!
と、言うわけで……
生徒達に刺激を与えるため、私は一つの計画を立てるのだった。
ゆかりんってばTE☆N☆SA☆I☆
以上、「校長ゆかりんのひみつ☆にっき」より抜粋
朝、いつものように挨拶が交わされ、所により叫び声の聞こえるZUN学。
青色の氷精や赤い髪の小悪魔、緑の髪の妖精が
いつものように並んで校門の奥を歩いている。
金髪に赤いカチューシャをする、人形のような少女が、
白黒と紫の魔法使いにひっつかれ、朝から疲れた表情で
ふらふらとおぼつかない足取りで歩いている。
門には、気持ちよさそうに立ったまま熟睡する紅髪の教師。
その辺りはとても普段通りで、何も変わりの無い日常。
しかし……違うところがいくつかあるのだ。
まず、運動場は巨大なクレーターがいくつも完成している。
運動場の端の桜や花壇、遊具は無事だが、
グラウンドでのランニングなどは到底無理そうだ。
何しろ、直径五十メートルはあるかという穴がボッカリ出来ているのだ。
他にも、十メートル程の穴も大量にある。
元々の運動場など、影も形も残っていない。
次に、生徒達は鞄などを持ってきておらず、所々に傷があった。
重傷を負っている者は誰もいないが、絆創膏などが張られていたり、
ガーゼが張ってあったりしている生徒は数名いる。
そして、何よりも生徒の数が少ないのだ。
いつもならもっと賑やかで、たくさんの生徒が校門をくぐる。
しかし、生徒は十分の一以下しか校門をくぐっていない。
一体、今日この日、ZUN学で何があるというのだろうか……
「あーもう朝から腕が疲れるから離れてよぉ……」
「ん~……まだまだこうしてたいんだぜぇ~」
「ムッキュ~ン」
現在この教室には、数人……といっても今会話にならない
会話をしている魔法使い三人しかいない。
人数の関係上、三つ並んでいる一番後ろで窓際の席、
中央にアリス、右にパチュリー、左に魔理沙が座っているが、
席など関係ないほど、両端の二人は中心のアリスに
校門をくぐったときのようにべったりとくっついたまま。
その姿はまるで親に甘える子猫か子犬かのよう。
当のアリスは今日で何度目かのため息をついている。
自身の操る上海と蓬莱で二人を引き離そうと足掻いてみるも、
アリスの白く細い腕にしっかりと二つの腕を結び付けている二人には
まったくと言っていいほどに効果は無い。
朝からの疲れで、魔力を集中させることも出来ないからだ。
じんわりとアリスの目に涙が滲んでいる。
「だれか助けてぇ……」
「きょーはあさからきてくれてありがとね、ふたりとも!」
「だってチルノちゃんの晴れ舞台だもん!ね、小悪魔ちゃん」
「もちろん!それにしても凄いよね、チルノちゃん。
全校生徒での弾幕勝負に残っちゃうなんて」
自慢げに胸を張るチルノ。
愛らしい笑顔の輝く顔の頬の辺りには絆創膏が張ってある。
全校生徒での弾幕勝負、小悪魔の言うそれが、
チルノの頬に絆創膏を張ることになるきっかけだったのだろう。
それを、少し青い顔で、無理矢理感溢れる笑みで聞く大妖精。
彼女の脳内には、その弾幕勝負でのことが鮮明に流れていた。
『恋符、マスタースパァァァク!』
『きゃぁぁぁぁぁ!』
『のの字弾幕ー!』
『いにゃぁぁぁぁ!』
『吐き気の起きる毒霧~』
『おろろろろろろ』
運動場のど真ん中での出来事であった。
結界が張られた運動場、逃げ場などない。
飛び交う無数の光弾、レーザー、のの字、鋭い閃光を放つシャッター。
強く高らかに叫ばれるスペルカード宣言。
生徒は空を飛び、地を駆け、箒は風を切り、妖しげな旋律が響く。
人形は戦場で剣を華麗に振るい、光と影は火花を散らしてぶつかる。
鋭く光る刀、空を舞うスパナやペンチ、鎌鼬の如く相手を裂くナイフ。
教師達によって常に変化をもたらされる結界の中の戦場。
そこに響くは悲鳴と爆音、そしてスペルカード宣言。
燃え上がる炎、流れる風はいつしか竜巻へと変わった。
一体我が友はどうやってその戦場から逃げ延びたのだろうか。
大妖精は甦る悪夢を振り払う。
「と、とにかく今日は頑張ってね!」
「もっちろんよ!あたいのサイ⑨なとこみせちゃうんだから!」
チルノは相変わらず自信満々と言った態度。
この日行われるイベントになど、チルノは知る由も無い。
知ってても覚えているはずがない。
まず知らされていない。
「っしゃー!やる気出てきましたよ椛ぃー!」
「その意気です、文さん!」
『広報』と書かれた紙の貼り付けてある扉の向こう側。
純白の髪に、ぴんと立った可愛らしい三角耳。
ふりふりと揺れる、やはり純白の尻尾。
その隣には、窓から差し込む日の光を受け、
鮮やかに、そして妖しく美しく光る純黒の翼。
その翼の持ち主の元気良さを物語るかのような、ショートヘア。
その部屋にいるのは、広報委員会の射命丸文と犬走椛。
二人の手にはハッキリとした暖かさを持ったおにぎり。
射命丸は再びおにぎりに噛り付く。
米の味を引き立てる塩味、乾いた歯ごたえの海苔。
そして、かじられた純白純黒のおにぎりから顔を出すのは……
「うぉっほぉう!これはいい明太子ですねぇぇぇ!」
「そう言っていただけると私も嬉しいです~」
きらきらと子供のように瞳を輝かせる射命丸。
それを自身の純粋で無垢な瞳に映すと、にっこりと笑顔になる椛。
射命丸は数秒と経たない内に、おにぎりを完食してしまった。
しかし、まだまだこの鴉天狗の胃袋を満たすには足りていない様子。
「椛ぃ……」
「分かってますよ、文さん。
すぐおかわり握ってあげますからね」
そういうと、椛は文の座っていない左隣で、この光景に溶け込み、
異様に存在感を放たない炊飯器のボタンを押す。
カチッと軽い音がして炊飯器の蓋が開くと、白い湯気が立ち上る。
湯気に包まれて現れたのは、美しい白の米。
文は期待に目を輝かせ、まだかまだかと待っている。
椛は、文の子供のような期待を一心に集めた視線を背に受け、
優しく、丁寧に、その純白の米を握る。
大事なものを握るように、小鳥の雛をその手に乗せて撫でるように。
「咲夜」
「はい、お嬢様」
「今日は何の日?」
「気になる日」
「私のカリスマ?」
「溢れるカリスマ」
「高貴な悪魔にゃ?」
「ローンを捧ぐ」
『はいオッケェェェェ!』
朝から意味不明な会話を交わし、ハイタッチを決める変質者が二人。
この会議室には、たった二人、メイドと吸血鬼しかいない。
吸血鬼も十進法を採用しましたとばかりに手を広げ、
くるくるとどこぞの雛人形かこまの如く回転するレミリア。
咲夜はその横で、ティッシュを鼻に詰め込みながら紙吹雪を降り注ぐ。
二人しかいないのに、なんという虚しさ。
これではカリスマも瀟洒も金も何もない。
何も無い。(大事なことなので二回言いました)
「今日も絶好調ね私!」
「流石ですわ、お嬢様」
確実に危ない目をした咲夜が、レミリアを抱きしめる。
レミリアは咲夜の危ない目にも気づかず、咲夜の白い首に腕を回す。
まるで、親に甘えて抱きつく子供と、それに答える親のようでもある。
いや、シスコンの姉と何も知らない妹か。
後者の方がしっくりくるのは当然の結果なのだろう。
そこへ……
「お姉ちゃあぁぁぁーん!」
手には黒い杖、帽子から覗かせる金髪に、赤い瞳が映える。
背には歪で、しかし美しい宝石を実らせたかのような翼。
元気一杯な声には、彼女の無邪気さが現れている。
まだまだ子供らしい小さな腕で勢い良く開いた扉は
ミシッと何か嫌な、明らかに硬いものが潰れるような音を立てた。
そして、レミリアと咲夜が扉に目を向けたときは、
扉は握りつぶしたスポンジの様に、ぐしゃぐしゃという言葉が似合う
とても悲惨な状態と化していた。
「フラン!どうしたの?」
「これ、お腹すくだろうからって先生がくれたの!」
レミリアは自らの妹の愛称で、にこにこと笑顔を浮かべている
自身の唯一の肉親に尋ねる。
咲夜はもう少しレミリアを抱きしめていたかったが、
一歩下がって二人を見守る。
二人に動揺などは微塵も感じられない。
妹の力で何かが壊されるのはいつものことなのだ。
しかし、今会議室にいる吸血鬼姉妹とそのメイドの興味は、
フランの手に握られたバスケットに釘付けだ。
嬉しそうなフランから、レミリアへ向けて突き出されたバスケット。
レミリアはバスケットを躊躇うことなく開く。
すると、すぐに美味しそうな香りと、様々な色の三角が目に映る。
白に、柔らかな色の黄や緑が覗かせる。
そっとそれを手に取るレミリア。
すぐに伝わってきたのは、それの柔らかな感触。
一口頬張ってみれば、シャキシャキとしたキュウリの歯ごたえと、
ハムの柔らかさ、そしてふわふわとした真っ白いパンのハーモニー。
レミリアはすぐにそれを口に突っ込んで、再びバスケットに手を入れる。
だが……
「お姉ちゃん!まだサンドイッチ口に残ってるでしょーが!」
「うぇ」
「食べ物口に入れたまま喋らない!」
どっちが姉だ。
と、言いたくなるような光景である。
一歩後ろにいる咲夜は、はぁ……とため息をつく。
「ほら、さくやも困ってるじゃないの!」
「むぬん?」
口を尖らせ、不満げな表情のレミリアにそういうフラン。
人差し指をピシッと咲夜に向け、レミリアにそのことを伝えようとする。
だが、レミリアは聞こえない振りをしてそっぽを向く。
「あーもう!お姉ちゃん、さくやが……」
「……ハァハァ」
フランは未だに顔を逸らし続けるレミリアの肩を揺さぶりながら
しっかりはっきりくっきりと言い聞かせる。
しかし、フランはピシリと石像の如く固まる。
レミリアが困らせているはずの相手は咲夜。
明らかにレミリアのマナーの悪さに困っている声ではない。
最近姉のカリスマが突如として低下しているため、
姉の代わりしっかりしてきたフランには、咲夜の方から聞こえる声が
とってもとっても危ない声だというのはすぐに分かった。
特に、自分の様な見た目が幼女な者に対しては、
数十倍程危険度が跳ね上がる。
「……やっぱいい」
「あー美味し。どことなくボリボリするものがあるけど」
止まらない鼻血を、自分のエプロンで抑える咲夜。
アホのようにサンドイッチを食べつくそうとするレミリア。
一体、姉はいつからこんなことになってしまったのかと、
会議室の隅で体育座りをしながら頭を抱えるフラン。
いつの間にか出現して、咲夜のヘッドドレスを取り、
自分に付けている、チビ小悪魔こと、ここぁ。
もうこの人たち、駄目かもしれない。
生徒会長と副会長は、もう末期である。
一方ここは職員室。
やや蒸し暑いこの日、ひんやりとした空気が漂っている。
ここでは生徒達のベターな人生or妖怪ライフを導く教師達が、
自分の席で各々の仕事をしている……はずだったのだが。
「えーりんせんせ、えーりんせんせ」
「あら、どうしたのメディスンさん。
ちなみに私は永琳先生じゃなくて風見幽香よ」
デスクで算数の問題の書かれたプリントと向き合っていた幽香先生に、
生徒であるメディスンが尋ねる。
メディスンは勝手に職員室に入ってはうろうろと動き回っていたり、
教師達とお喋りしているのだ。
特に最近は永琳先生と一緒にいることが多いようだ。
とことこと歩いて、永琳先生の所へ歩いていく。
「あら、今日も来てくれたのね。
お昼にみんなと学校に来ても良かったのに」
「ううん、いいの!ね、スーさん!」
メディスンの隣を飛ぶ、妖精は小さくうなずいた。
何とも和やかな光景に、自然と永琳の頬が緩む。
生徒達を実験台にしての薬の作用確認をしているときとは大違いだ。
純粋な気持ちで、自分の実験に付き合ってくれるメディスンが、
永琳は大好きでお気に入りである。(友人として)
そして、いつも自分の身の回りの出来事をたくさん話してくれる。
それが新しい薬のアイデアにもなるため、一石二鳥である。
メディスンとも話が出来るし、アイデアも浮かぶ。
それよりも、永琳はメディスンといること自体が楽しかった。
「あ、そうだ!えーりんせんせに聞きたいことがあったの!」
「何かしら?」
「『けいぶど!!』って何?」
職員室で茶を啜っていた教師達が一気に茶を吹いた。
それはもう向かい合っている相手の顔に全茶命中するほどに。
回避不能の弾幕である。
教師達の視線は自然と慧音先生へ向く。
「まさか……慧音先生……」
「な、永琳先生!?私のはずがあるか!そんなの……
む、むっつりスケベ幽香先生の方が!」
「何で私がムッツリスケベになるのよ!?
そんなの……えーっと、あのサボり塚小町先生がきっと!」
「ちょ、何であたいに回ってくるのさ!?
そこら辺の妖怪とかって可能性もあるでしょーが!」
職員室で始まる口の弾幕勝負。
どの先生も、何とかグレイズを決めていく。
ちなみに、このグレイズとはたらい回しとまったく同じ意味を持つ。
どの先生も言葉の弾幕をギリギリでかわすため、
お互いがお互いに精神を削りあっている。
「あのね、スッパテンコーの人がね、何かアッー!って言ってたから、
何してるのって聞いたら、ちぇええん!!けいぶどー!!って……」
『あの煩狐えぇぇぇぇ!』
その数分後、校舎裏でスッパテンコーしていた藍が
薬の実験台にされてしまったのは、後日校内新聞にて公表された。
尚、本人はまったく反省してはいないらしい。
「反省しなくて何が悪い!スッパテンコーして何が悪い!
何はともあれ続く!
みんな、スッパになって待っててくれよ!」
~第三話~
日は空高く昇り、地上を明るく照らす。
暖かさに包まれた世界で、様々な生き物が目を覚ます。
幻想郷立セントアグネZUN学園にも、その光は差し込む。
背景を切り抜いた様な窓から、穏やかな陽光は流れ込む。
そして、目を閉じていた生徒はそっと瞼を開く。
「ん……あ、私寝てたんだ……」
「あ、起きた」
「あら、起きたの」
青い瞳に映される、一つの影と、耳に届いた二つの声。
一つの影は鮮やかな紫の髪の少女、パチュリー。
二つの声は、目の前のパチュリーと、嫌というほど聞きなれた声。
しかし、聞きなれた声の主は、青い瞳には映らない。
青い瞳の人形遣い、アリスは、辺りを少し見回す。
だが、広いとも言えない教室に、声の主である魔理沙の姿は無い。
その時、何か嫌な視線を感じるアリス。
まさかと思い、さっきまで自分が突っ伏していた机を前に押す。
そこから、少し癖のある長い金髪が。
「あ」
「……んの、ド変態がッ!」
アリスは椅子に座ったまま、体育座りで
アリスのスカートの裾に手を伸ばす魔理沙を蹴る。
魔理沙は、蹴られた瞬間、光悦とした表情でパチュリーに
グッと親指を立ててサインを送り、床に倒れて動かなくなった。
アリスは意味が分からず、本に向き合ったまま、
魔理沙にグッドサインを返すパチュリーに目をやる。
そのまま、三人しかいない教室に静粛が訪れる。
何をするでもなく、上海の手入れをしたり、
時折倒れっぱなしの魔理沙を眺めるアリス。
光悦とした表情で倒れたままの魔理沙。
分厚い魔道書のページをめくり続けるパチュリー。
何とも静かで意味不明な光景である。
「…………ねぇ、どうしよ」
「どうって言われても……私にはどうにも……」
「私にも、これをどうにかする方法なんて思い浮かばないよ……」
氷の妖精チルノ、大妖精、小悪魔。
三人の目の前には美味しそうなクッキーが盛られた皿。
チョコクッキーやクリームをサンドしたクッキー。
一目見れば、プロの作ったお菓子かと思うほどである。
そんなお菓子を、何故この三人が口にしないのか。
それには大きく、それでいて致命的な理由がある。
『これ、三人で食べてね~』
そう、永琳先生がこれを持ってきたのだ。
好奇心に満ち溢れた笑顔の裏には、黒い何かが潜んでいる。
三人は直感し、どうしても口を付けることが出来なかった。
実はこの三人、過去に同じような手口で薬の実験台にされたのだ。
ある者は頭から冷蔵庫に飛び込み、ある者は一度死んだ。
そしてある者は数時間掃除用具箱に篭った。
「じゃあ、さ……あの方法を使うしか……」
「こぁちゃん!?あれは危険すぎるよ!」
「でも、いまはやるしかないって!やらなきゃあたいたちがやられる!
大ちゃんもわかるでしょ……」
俯く三人。
そして、そっと顔を上げる。
三人とも、お互いの瞳の強い意思を確認して、立ち上がる。
視線を向ける先は、教室の扉。
小悪魔が一歩踏み出し、そして強く床を蹴り、駆け出した。
それに続くように大妖精とチルノも駆け出す。
扉を開き、長い廊下を走る三人。
ただ我武者羅に、廊下のいたるところから感じる気配から逃げる。
風を切り、迫る足音から逃げ続ける。
廊下を抜け、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に出た時、
聞こえる足音は三人のものだけだはなくなった。
カツカツ、というハイヒールかなにかの靴の音。
タッタ、という小悪魔たちと同じ上靴の音。
しかし、それは徐々に数が増えている気がする。
だが、絶対に振り返ってはならないのだ。
振り返ったとき、三人の負けは決まる。
いつもしている図書館の整理で体力があるため、
とにかく、ただ前だけを見て駆け走る小悪魔。
小悪魔の鮮やかな赤髪を追うチルノ。
しかし、その後ろには荒い息を上げ、辛そうな大妖精。
その時!
「いやあああぁぁぁぁッ!」
「……っ、しまった!」
「大ちゃぁーん!」
大妖精の悲鳴に立ち止まり、咄嗟に振り返ってしまった小悪魔とチルノ。
しまった、と思ったときにはもう遅い。
永琳先生の実験台となった生徒達が渡り廊下一杯に広がり、
逃げた実験台を追い詰める。
その無数の死んだ目をした生徒の奥に、揺れる白銀の髪。
そう、永琳先生である。
にっこりと口の端は上がっているが、
それは好奇心というものなどではない。
狂気のマッドサイエンティストの目であった。
「逃げてこぁちゃん、チルノちゃん!
お願い!私、きっと帰るから!」
「……絶対に無事でいて、一緒に帰ろうね!」
渡り廊下を抜け、中央の校舎への廊下を振り返る小悪魔。
そして、強くチルノを抱き上げ、中央校舎へと走り出した。
チルノだけは、チルノだけは守り抜かないといけない。
小悪魔は強い意志を持った目で、前だけを見つめる。
迫りくる永琳先生の実験台となった生徒から逃げ続ける。
大妖精を助けに戻りたい気持ちを必死で抑えながら。
「あーあ、サンドイッチ美味しかったわ~」
「お姉ちゃん、結局一人で全部食べちゃったよね」
静かな廊下に足音が響く。
先ほどまでサンドイッチを口に突っ込んでいたレミリアと、
その妹であるフランドール、そして二人の従者である咲夜だ。
満足げな表情のレミリアの隣を、フランは無表情で歩く。
サンドイッチを一つも食べることが出来なかったのが不満なのだ。
咲夜は血塗れのエプロンを取り替えることも無く、
明らかにヤバい表情で二人の吸血鬼姉妹に熱い視線を送っている。
そして、三人は誰もいない静かな教室へと入ってゆく。
しんと静まり返った教室で、フランは自身の席へ向かう。
そこで、気になるものが目に入る。
それと同時に、レミリアもその「気になるもの」に気づく。
「なぁにこれぇ?」
「お姉ちゃん……クッキーも忘れちゃったの……?」
信じられない、という表情でフランが自身の机から団扇を取り出す。
最近やたら蒸し暑くなっているため、持ってきていたらしい。
レミリアの方は、既に教室の中の「気になるもの」ことクッキーに
飢えた獣の如く噛り付いていた。
フランが止めようと一歩足を踏み出した時には、既に遅かった。
もうレミリアは更に目一杯盛られたクッキーの山を平らげていた。
「ちょ、お姉ちゃん!
誰のかも分からないクッキー食べちゃ駄目でしょ!?」
「フッ、甘いわねフラン。
生きるためには、時に残酷なこともしなくてはならないのよ。
そうして私はたくましく生きてきた!」
遂に、フランは泣いた。
咲夜は鼻血を再び噴出させた。
レミリアはそこらへんの椅子を並べて寝た。
本当に、もうこのレミリアと咲夜さん駄目かもしれない。
紅魔館も取り返せないかもしれない。
「ハッ、起きたぜ」
「あ、魔理沙。ようやく起きたのね」
「チッ、起きなくても良かったのに……」
並べられた椅子の上に寝ていた魔理沙は、ゆっくり体を起こす。
パチュリーは他の誰かの席で本を読み、
アリスは魔理沙の顔を心配そうにを覗き込んでいる。
さっきのことは、魔理沙が明らかに悪かったのだが、
アリスは少し申し訳なく感じていたらしい。
「ごめんね、さっき……痛かったでしょ?」
「アリス……!やっぱ愛し――」
「ぱちゅりん☆ギャラクシーバックドロップィイ゛エ゛ア゛ァァァァァ!」
アリスに腕を伸ばした魔理沙を掴み、
容赦なくバックドロップを食らわせるパチュリー。
一体、いつもの喘息はどこへ行ったのだろうか。
顔に黒い影を浮かばせ、紫色のいつも生気の感じられない目は
強く光り、カッと見開かれている。
鈍い音が響いたと同時に、魔理沙は再び白目を剥いて伸びていた。
アリスはいまいち状況を把握出来ていないらしく、困惑している。
「別に大丈夫よ、この程度。しばらくしたら復活するでしょ」
「そ……そうよね」
「魔理沙復活」
「早ッ!?」
アリスは驚きを隠せない様だが、パチュリーはまったく動じていない。
しかも、魔理沙はピンピンしていてまったく怪我の痕は無い。
こんなにも人間は丈夫だったか、と思うアリスであった。
「私はアリスが好きだから、いくらでも復活できるんだぜ。
愛のパワーは蓬莱人間にも負けないんだぜ?」
「野良魔法使いの愛なんて、荒っぽすぎてアリスが可哀想だわ。
アリスには私の繊細で純粋な愛がぴったりなのよ」
鋭い視線をぶつからせ、睨みあう魔理沙とパチュリー。
このままだと間違いなく弾幕勝負へと発展する。
アリスは一瞬でそれを理解する。
だが、理解してもそれを止める方法が浮かばない。
教室なんかで弾幕勝負をされたら、ただではすまない。
まず校舎がボロボロになるのは確実。
もしもそれで賠償金やら修理代やらを請求されたら……
アリスは震えが止まらなくなった。
アリスは一人暮らしで収入は母からの仕送りくらいしかないのだ。
魔理沙やパチュリー、時には射命丸が勝手に
家に上がりこんでいることもあるのだが、
大抵晩御飯を一緒に食べたり、セクハラをしたり
いきなり泊まると言い出して危険な展開に持ち込もうとしたりするだけ。
賑やかにはなるのだが、身の危険が伴うのである。
アリスにほとんど利点は無い。
むしろ支出と心の傷が増えるだけである。
「あーもう、二人ともやめ――」
『はーい、みんなの崇めるゆかりん様よ~ん!
もうそろそろしたら、今日呼ばれた生徒達は体育館まで来てね~。
来なきゃスキマ送りでビュンビュビュンでゆっかゆかにしちゃうわよ☆
じゃ、ゆかりん待ってるからね~ん』
突然の放送に、学園中の音が消えた。
まるで時が止まったかのように、自然の奏でる音色まで。
そして……時は動き出す。
「……ついに来たわね」
「ついに来たんだってばぜ」
「私スキマ送りにはされたくないなぁ……」
その時、にやりと魔理沙の口元が釣りあがる。
そして、勢い良く窓を開け、靴箱に置いていた箒を呼び戻す。
パシッと音を立てて箒を掴むと、アリスに向き直る。
「よし、行くぜ!」
いつものような、イタズラを思いついた子供のような笑顔。
アリスの手を取り、箒に乗せ、そして魔理沙自身も箒にまたがる。
パチュリーは静かに本を閉じ、本棚に戻す。
「んじゃ……飛ばしていくぜッ!」
「アリス、落ちたら私が受け止めてあげるから安心しなさい」
「えっ、ちょ、ま……きゃあぁぁぁー!」
箒は勢い良く窓から飛び出し、螺旋を描いて渡り廊下へ降りる。
パチュリーは箒の後ろについて、しっかりと目で箒を捕らえている。
そのまま箒はコンクリートの渡り廊下を滑るように飛ぶ。
箒の速度は上がり続け、壁にかけられた絵画などが吹き飛ぶほどだ。
アリスは魔理沙にしっかりと抱きついている。
魔理沙は前を向き、アリスは目を閉じているため気づいていないが、
後ろにはとてつもなく羨ましげに箒を見つめるパチュリーがいたとか。
そして、いくつかの影を追い抜くと目の前がパッと開けた。
校舎を抜け、目の前には体育館の扉。
「しっかり掴まってろよ!」
「え、まさか」
「そのまさかなんだぜー!」
箒は迷い無く体育館の扉に突っ込み、
扉は衝撃に耐えられずに跳ね開けられた。
魔理沙は箒を強く握り、前に体重をかけて急ブレーキをかける。
魔理沙は前のめりになり、箒は周りの空気を押しながらも止まる。
しかし、後ろに乗っていたアリスは……
「は……はれ?」
急ブレーキによって、体育館の天井に向かって吹っ飛ばされていた。
そこへすかさず漆黒の翼が風を切って鋭い光を放つ。
そう、シャッターである。
しかもその漆黒の翼はアリスの真後ろ、つまり……そういうことである。
「今日は縞パンですか!」
「んなっ!?あーもう、何で私の周りには変態が集まってくるのよぉー!」
「シャンハーイ」
その瞬間、極太レーザーが上海人形から発射され、
漆黒の翼こと射命丸文は墜落した。
しかし、彼女が命と残機の危険を冒してまで手にした
楽園の写真が入ったカメラは、椛の手に渡っていた。
文は更に黒くなり、髪の毛はチリチリとなってしまったが、
ここは幻想ブン屋の意地で立ち上がった。
「ったくもう……あ、カメラが文の手に」
「そこの鴉天狗!その写真、焼き増しして私に譲りなさい!」
「少々お高くつきますが……
分かりました、輝夜姫様にだけ特別価格で――」
「私にも売って頂けますか、その写真」
「いいですとも、いいですとも。むふふふふ……」
「ちょ、文!何で早速人のパンチラ写真売りさばいてるの!
とりあえず東風谷さん、この学園の常識人最後の砦なんだから、
カンバック!何はともあれカンバックプリーズ!」
さりげなく文に交渉しようとする、常識人最後の砦こと東風谷早苗。
にっこりと笑顔で文の手を握る早苗の肩を揺さぶるアリス。
しかし、既にその砦は木っ端微塵に崩壊していた。
残念、東風谷早苗は変態共の仲間入りを果たしてしまった!
「はいは~い、これでみんな揃ったわね!
こんにちにゃん♪みんなのアイドルゆっかりんです☆」
「えー、ゆうかり~ん?なのかー」
「先生をゆうかりんとか言うんじゃありません、ルーミアさん!」
「きんもーい」
「てゐさん!?」
「ゆうかりんが許されるのはぁー、しょーがくせーまでなのかー」
「キャハハハハハハ!」
幽香先生はへこんで体育館の隅でいじけてしまった。
慧音先生だけが幽香先生を慰めにいくのであった。
ちなみに、ルーミアとてゐは映姫先生に悔悟の棒で暴打されたとか。
別にそれを気に留めず、長々と話を続ける校長。
まったく話を聞かずに遊びまくる生徒達。
まさにグダグダ。
「アリス、アリス」
「あら、レミリア……どうかしたの……?」
最後の砦の崩壊に涙を流すアリスのスカートを引っ張るのはレミリア。
わくわくとした表情で、瞳はキラキラとしている。
遠くから魔理沙とパチュリー、ついでに文が目を光らせている。
魔法使い二人はアリス、文はネタかパンチラでも狙っているのだろう。
「アリスってさ……パッドとか入れてる?」
「入れてないけど……ってイヤァッ!」
アリスのカーディガンの上にはレミリアの小さな手。
しかも指はやたらわきわきと、じっくり動かされている。
アリスは逃げようにも吸血鬼の強力な力でしっかりと
スカートを掴まれて逃げられない。
「てめぇコラ絶賛カリスマ低下中のリアルホームレスれみりゃがぁぁぁ!」
「やめなさいレミィ!さもなくば炒り豆とかぶっかけるぞゴルァ!」
「あやややや……元紅魔館の主、レミリア・スカーレットが
白昼堂々と変態行動……ッシャー!これはイケる!」
「お嬢様の邪魔はさせないわ。
食らいなさい、変態集団!幻世『ザ・ワールド』!」
その瞬間、大量のナイフが出現し、断末魔の叫びが体育館に響いた。
ちなみに、校長は既にゆかりんワールドに突入しており、
断末魔の叫びなど、まったく気にしていない。
幽香先生もようやく立ち直ってきたところだ。
「まぁ、話はこれくらいにして……今日の本題を話すことにするわ。
今日は選ばれた選手である貴方達に、カルタで勝負してもらうわ」
『……はぁ?』
体育館中の生徒が間の抜けた声で、ステージ上の校長を見上げる。
教師達はハァ、と溜め息をつくが、校長は至って落ち着いている。
しかも校長の目はまっすぐで、珍しく真面目だ。
小悪魔に抱えられて飛び込んできたチルノは目が⑨になっている。
小悪魔のほうは安心感と強烈な喪失感により気絶してしまっている。
「しかも、このカルタは今回のために私が心を込めて作った、
手作り完全オリジナルZUN学カルタなのよ!」
『…………』
正直、生徒も返答に困った。
高らかに掲げられたカルタを見上げ、目を点にする生徒一同。
何とも言えない表情で拍手をする教師達。
藍と橙だけは、校長の隣でクラッカーを鳴らしていた。
そして、自慢げに胸を張ってみせる校長。
妖夢の心にとてつもなく大きなダメージ!
「そして、みんなは一人じゃないわよ。
弾幕勝負に敗れた生徒達も、応援に来てくれてるわ」
校長はパチンと指を鳴らす。
すると、体育館の壁にスキマが開く。
中からは、弾幕勝負で敗れた生徒達の姿が。
「チルノちゃーん!私、一生懸命歌って応援するからねー!」
「みすちー!うん、あたいのさいきょうなとこみせちゃうんだからー!」
スキマから身を乗り出して手を振るミスティア。
チルノは大声で返事を返し、体を一杯に動かして手を振り返す。
ミスティアの隣にはレティの姿も。
「レイセンさーん、頑張って下さーい!」
「わざわざありがとうございます、霖之助さんっ!」
笑顔で声の主に返事を返すのは、鈴仙・優曇華院・イナバ。
声の波長を操り、霖之助の耳元にはハッキリと彼女の声が届いた。
鈴仙がすぐ傍にいる様で、思わず頬を染める霖之助。
霖之助は再び小さく、頑張れ、と呟いた。
レティは人二人分程離れたところで、ほんの少し寂しげに微笑んだ。
「妖夢さーん!頑張ってー!
貴女の気持ちならーっ!私だって痛いほど分かりますからー!」
「リグルさん……っ!同志よぉー!」
妖夢は喜びの涙を零す。
妖夢の心の傷は凄まじい速さで回復してゆく。
これも同志、リグルの力。
お互いが胸に秘める悩みは、同じなのであった。
……胸だけに。
「早苗ー!頑張れー!ガンキャノンが付いてるよー!」
「誰がガンキャノンよ!」
「早苗ー!やっぱ訂正ー!でかいガンキャノンが憑いてるよー!」
「憑けてどうする!」
スキマの中で漫才を繰り広げる二人の神。
苦笑いしながら、それを眺める早苗であった。
しかし、そことなく何か重いものが背に乗っている気がする。
だが、背に触れても何も無い。
諏訪子の言ったことは、もしかすると本当のことなのかもしれない。
「それじゃ、今からルールを説明するわよ。
一つ!カルタを一番多く取った者が勝ち!
二つ!スペルカードは使用禁止!
三つ!それ以外は何してもオッケー!
四つ!基本的なルールはカルタのルールだから理解して頂戴ね!
優勝者は好きな人に一つだけ何でも命令が出来る権利を与えるわ」
『おぉーっ』
意外と凄い優勝商品に、生徒達は歓声を上げる。
そして、様々な妄想が脳内に駆け走る。
ある巫女は多額の賽銭と\お嬢ちゃ(ry パンツはいてません!/を。
ある者は\瀟洒にガードで鼻血がブッ/をしようと。
ある者は\掘 ら な い か ?/なことを企てる。
またある者は\ちょwお姉さま自重www/なことを考えている。
「それでは……」
体育館内の空気が一気に張り詰める。
静かに見守るギャラリー、高鳴る鼓動を抑える選手。
校長は高く手を振り上げ、そっと目を閉じる。
そして、高らかにこう叫ぶ。
「次回に続く!」
『なんだってー!?』
~第四話~
「さーて、カルタも並べ終わったし……今度こそ始めるわよ」
ごくりと息を飲む生徒達。
ごくりと茶を飲む教師達。
ステージの上とステージの下で、緊迫感がまったく違う。
だが、これは校長の力ではないだろう。
自然と発生した天然境界というものだろう。
「それでは……読符『カルタ取り大会開催』発動よ!」
すると、どこからともなくクラッカーの音が鳴り響く。
紙吹雪も舞い、華やかに空間を彩る。
が、生徒達の緊迫感は薄れはしなかった。
空気を呼んでいないことをしたような気になって、
分身した藍はちょっと冷や汗を流したが、
隣で嬉しそうに跳ね回る橙を見て、心を癒され、ノーダメージ。
そして、式とその式はギャラリーの集まるスキマへ退却するのだった。
「ゴホン、では……記念すべき第一回目。藍!」
「結局私が読むんですね……
えーっと……『さぁ行こう 異変解決 頑張ろう』」
藍はいつの間にか校長の隣に現れ、カルタを読む。
そして、生徒達は体育館中に散らばったカルタを睨む。
すると……
「はいっ!」
勢い良く振り上げられた手には、空飛ぶ霊夢の絵。
右上には「さ」と書かれている。
それを手に取ったのは、ZUN学一の俊足を誇る鴉天狗、射命丸。
望遠鏡でカルタを確かめると、藍は次の札を手に取る。
「『それは何 お値段以上の にとりです』」
「もらっ――」
「させるか!」
ゴッと鈍い音が響く。
その瞬間、射命丸は大きく後ろへ吹き飛ぶ。
射命丸を吹き飛ばした、否、殴り飛ばしたのは、
純白の髪をはためかせる不老不死の蓬莱人形。
そう、藤原妹紅だった。
その手には、青い髪の河童の少女と「そ」の文字が描かれた札。
「文さーん!」
椛がスキマから身を乗り出して、文の名を呼ぶ。
文は黒焦げになって、まさに焼き鳥状態である。
しかし、文は平然と立ち上がって見せる。
そして、椛にグッドサインを見せて、体育館の中心近くに戻る。
彼女は負けられないのだ。
椛のため、写真の現像のため、自分のため。
セクハラのため、パンチラのため。
最速最高の記者としてのプライドのため。
「では次……『永琳は 天才薬師よ 何でもござれ』」
「取った!」
腕に紙の包みを持った永琳先生の描かれた札を取ったのは、
永琳先生を師匠と慕う、鈴仙だった。
流石は弟子である。
すぐ近くで気づけなかったてゐが地団駄を踏んでいる。
「くっそぉ!パンツ履いてないくせに!」
「誰がノーパンよ、この兎詐欺がぁー!」
てゐの顔面に鈴仙の容赦ない鋭い回し蹴りが炸裂。
強烈な衝撃に耐えられるはずも無く、てゐは大きく吹っ飛び、
きりもみ回転しながら頭からスキマにダイブ。
意外とあっけなく、この悪戯兎詐欺は脱落してしまうのだった。
因幡てゐ・脱落
「えー……『拳法か いいえケフィアか 太極拳』」
「はい取った!」
ぴょこんと飛び跳ねたフランの手には、太極拳をしている美鈴の絵。
そして、「け」の文字。
咲夜はパチパチと隣で拍手を送る。
しかも横にラジカセを置いている。
そこから、大喝采の音が流れ続けており、
はたから見ればやかましいことこの上ない。
『わーわー!ヒューヒュー!』
「さくやー、もういい加減止めてもいいよぉ……」
『粉砕・玉砕・大喝采!ガーッハッハッハッハッハ!』
「何これ!?」
突然響き渡った大音量の叫び声に驚いたフランは、
思わず自身の能力でラジカセを粉々にしてしまった。
あー……、と残念そうに声を漏らす咲夜。
ため息を零して小さく「高かったのに……」と呟いている。
そんな咲夜などお構いなしに、藍は次の札を読み上げようと手に取る。
そして、札に書かれた文字を口に出す。
「メイド長 P――」
「嘘だッ!!事実無根のぉぉぉ嘘だッ!!」
『!?』
藍の声を遮る奇声、否、叫び声が体育館中に響き渡る。
その絶叫を運悪く耳元で聞いてしまったルーミアは倒れ、脱落。
ついでに、スキマのギャラリーの、耳のいい妖獣達もダウンした。
目を白黒させながら、無事だった生徒達は、
未だに叫び続けるその声の主に視線を向ける。
「お、おじょ、じゅさ、しゃまぁー!?ヲをおきを確かにぃー!」
「あぁっ!さくやが精神的ブラクラに!ってかさくやの方がお気を確かにぃー!」
もう正しく言葉を発音することさえ出来なくなった咲夜。
あたふたと慌てるのは、声の主の妹。
そう、突然叫び声を上げたのはレミリアだった。
霊夢や鈴仙は素早くスペルカードを構え、臨戦態勢に入る。
しかし、魔理沙は未だに目を白黒させていた、白黒だけに。
パチュリーはパニック状態にある咲夜の肩を掴み、
しっかりと盾にしながら、レミリアの様子を伺っている。
「あ゛に゛ゃああぁぁぁぁ!」
「何かすごくめんどくさそうな病気にかかってるわね、あんたのお姉さん」
「はわわわわわ……って、私がパニックになってどうするっと……
コホン、そうねー……こうなった原因はお姉ちゃんにあるけど」
なんという切り替えの早さと自分への突っ込み。
霊夢はフランの成長ぶりに少しだけ驚いた。
妖怪も、成長し続けることを霊夢は覚えた。
鈴仙は今後、自身が狂気に陥った際の対処法として、
「自分への突っ込み」と「素早い切り替え」をメモするのだった。
「とにかく、理由は後で聞かせてもらうからね!
霊符、夢想――ってあら?
「あー!私のレーヴァティンが無い!?」
さっきまでスペルカードを構えていた生徒達が慌て始める。
なぜなら、さっきまでその手にあったはずのスペルカードが、
とつぜん無くなっていたのだから。
ちなみに、妖夢の二つの刀とフランのレーヴァティン、
他にもアリスの人形や咲夜のナイフもだ。
ならばと鈴仙はすかさず手で拳銃の形を作り、弾丸を打ち出す――
「って……ウソォ!?」
ことが出来なかった。
通常弾までもが打ち出せなくなったことに気づいた生徒達は、
更に深く、軽くパニック状態になり始める。
弾幕もスペルカードも使えない……一体どうすれば。
しかし、何故使えなくなったのか。
すぐにその答えの浮かんだ霊夢はステージを振り返る。
そこには、手に何枚もの符――スペルカード、
その横に立つ藍は妖夢の刀やレーヴァティンや人形を持っている。
「ちょっと、校長!どういうつもりよ!」
「えー、だって今ここでスペカ使ったら体育館木っ端微塵でしょ?
別に損益分岐の境界弄れば簡単だけどめんどくさいしぃー……
それに今はスペカ使用禁止っていうルールがあるでしょ」
「でも今は緊急事態でしょ!
……あーもう、いいわよ。
やりゃいいんでしょ、やりゃ」
両手を振り上げ、口を3の字に尖らせながら言う校長。
もう怒りやらそんな感情を通り越して呆れた。
今はお払い棒も針も札も賽銭も無い。
つまり完全なる丸腰状態だ。
「フッ、面白いわ……
いいわよ、受けて立ってやるわ。
レミリア、覚悟はいいかしら?喰らえ、博麗真剣奥義!」
「あやっ?」
「『射命丸記者の喪失~宇宙駆けし疾風鴉~』」
霊夢がそう呟いたとき、レミリアに向かって一直線に黒い影が、飛んだ。
スキマでは椛が泣きながら現像の完了した写真を胸に抱いた。
魔理沙はこの隙に他の生徒達のカルタを盗んでいった。
「うあああぁぁ!!鳥ぃぃぃ!!」
黒い影がレミリアに重なると思った瞬間、奇声と共に影は反対方向、霊夢の背後へと打ち返された。
そのまま、黒い影こと射命丸は壁にぶつかり、跳ね返りながらバスケットゴールに入った。
しかも途中で翼が引っかかってゴールから出れない、哀れ射命丸。
「くっ、私の博麗真剣奥義が通用しないなんて……コイツ化け物!?」
「いやいや霊夢。ここにいる奴の半数以上が化け物だろ。知能的な意味も含めて」
自分の持つカルタに躊躇うことなく他人の取ったカルタを混ぜながら言う魔理沙。
サッと振り返った霊夢の怪しく光る目は、とても悪い顔をした魔理沙を映していた。
しかし、魔理沙は霊夢の目に気づくことは無い。
「ならば五ミリ程奥の手を出すまでよ。巫女の奥の手『シロクロケット』!」
「アガスッ」
良く分からない声を上げながら、魔理沙の首を鷲掴み、巫女掴みにする霊夢。
だらりと力なく魔理沙の腕が垂れ下がっているのは、
霊夢が少しだけ手に力を込めて握ったため、魔理沙の首の骨がグキッとなったためである。
グキッが指し示すことは、ご想像にお任せします。
「レミリア!これをかわさなかったらアンタすごいカリスマが手に入るわよ!」
「マジで!?」
「逝っけええぇぇー!」
確実に致命傷を負ったロケットが、受け止める気満々なレミリアに突っ込んでいく。
そして、レミリアの伸ばす腕に、魔理沙が掴み取られるかと思ったその時――
「マッガーレ」
「何ぃ!?」
魔理沙はレミリアの一歩手前で、直角に曲がった。
レミリアの腕をかすり抜ける魔理沙。
(勝った)
霊夢は確信した。
だが――
「ゴフッ」
鈍く重い音がしたと同時に、体育館が揺れた。
その瞬間、体育館にいた生徒達の目が大きく見開かれた。
驚きに満ち溢れたその表情。
目の前の惨劇に校長は「やると思った……」と呟く。
『…………』
言葉を失う生徒達の視線の先には、体育館の床にめり込む魔理沙。
頭から体育館の床を突き破り、垂直に伸びたその姿は、墓標を思わせる。
投げた本人も、受け止める気満々だった方も、この展開はシュールすぎて予想できなかったらしい。
「……あ、私保健室行ってくるわ……」
「あ、うん。分かった……行ってらっしゃい……」
明らかに気まずい状態から逃げ出すレミリア。
霊夢や他の生徒達はそれを静かに見送るのであった。
一人の吸血鬼を送り出すその瞳は、
レクイエムを歌っているようだとかなんとか。
「あ、ちょっとあなた」
「どうしたんですか、永琳先生」
とことこと歩み寄り、のんびりアリスに声をかける永琳先生。
この呼吸をするのも虚しく感じる空間の中で、
よく平気で喋れるな、とアリスは思ったが、別に言わなくてもよさそうだから言わなかった。
何しろこの永琳、狂気薬師(マッドサイエンティスト)なのだから。
その場の雰囲気、空気に影響されず、しかもそれをぶち壊す程度の能力など習得済みなのである。
「一緒に保健室行って来なさい。あれ何するか分からないから」
「……えっ」
そうして、人形遣いは狂気薬師に強制的に保健室へ向かわされるのであった。
もともと拒否権どころか選択肢も無いアリス保健室ルートであった。
「続くのぜ!」
『うぉっ、抜けた!』
誤字・・・ですよね?ネタだったら全力で謝ります。
大事な事なので(ry
いかん、サンドイッチが食いたくなってきた。
アリスの手作りと思い込みながらコンビニのサンドイッチでも食うか。
>どうぞお楽しみ下さぬ
どうみても誤字です、本当にありが(ry
ご報告ありがとうございます。
にしてもあり得ないミスしたなぁ……
>4の方
おぜう様のカリスマは何処に?答えはみんなの心にきっとある。
サイドイッチ食べたい気分ですがスパゲッティ作ってます。
ミートソースとか無いんで、いつもお茶漬けの素とか塩かけて食ってます。
アリスの手作りと思いながら食うか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。