死して、博麗は神になる。
博麗霊夢の家の居間には、そう書かれた掛け軸が飾ってあった。鰻がのたうち回ったような字だが、見る物を圧倒させるような迫力がある。ただ、誰の作かは知らない。
魔理沙は、掛け軸を見る度に霊夢に訊いた。
「なあ、これってどういう意味なんだ?」
「さあ? 博麗も所詮は人だってことでしょ」
「よくわからないな」
「そういうもんよ」
同じやり取りを何度繰り返したか分からない。
だが、ついぞ霊夢はその答えを教えてくれることは無かった。今にして思えば、もう少ししつこく訊いた方が良かったのかもしれない。
詮無き思考が頭をよぎる。バカバカしい。
仮定の話をいくら繰り返したところで、それが現実になるわけでもなし。ただ空しいだけだ。
魔理沙はベッドから身体を起こし、窓から差し込む光に目を細めた。軽い二度寝のつもりが、どうやら昼まで寝過ごしてしまったらしい。縦横無尽に乱れた髪の毛を掻き、大きな欠伸をかみ殺す。
まだ眠っている体中の筋肉をほぐし、確かめるように腕を回した。この頃は肩が凝っていけない。素直に湿布を貼ればいいのだが、どうも婆臭くて嫌だった。
身だしなみを整え、いつもの服装に身を通す。後は鏡に向かって髪の毛を結ぶだけ。今日は何色のリボンを使おうか迷ったが、赤色にすることにした。特に意味はない。
野菜と牛乳で適当に朝食を済ませ、傘立てに放り込まれた箒を手に取る。
「っと、忘れた」
慌てて寝室へ戻り、帽子を頭へ被せた。これが無いと、どうにもしっくりこない。
戻る最中に打ち付けた膝を擦りながら、魔理沙は今度こそ外へと出る。やっぱり家の中を整理すべきかなと考えながら、大地を蹴った。
五秒後。魔理沙の頭の中に整理という文字は綺麗さっぱり消えていたという。
風を頬に感じながら飛んでいると、神社でちょこまか動く影を見つけた。話すことも無いが、これといった用事もない。
そもそも、家に居ても暇なので飛び出しただけだ。面白そうなものがあるなら、そっちに近づく。
高度を落として、箒から飛び降りる。
「いつも箒で掃いてるが、神社ってのはそんなに汚いのか?」
殺風景な境内で、箒を動かす巫女が一人。
挨拶代わりの皮肉にも、答える気配すら見せない。毎度のことだが、少しだけ寂しくもある。
魔理沙は頬を掻きながら、その小さな身体に自分の帽子を被せた。
「な、なんですか! 世界が急に真っ暗に!」
箒を投げ出し、小さな巫女はあたふたと彷徨い始める。目隠し鬼のようではあるが、生憎と変われる鬼は山へと出かけていて留守だ。
ひとしきり笑った後、魔理沙は巫女から帽子を取り戻した。日の下へ帰ってきた幼い巫女の顔には、ありありと不満の色が映し出されている。
「何するんですか魔理沙さん! いきなり失礼じゃないですか!」
「挨拶を無視されたもんでな、ついカッとなってやった。反省はいずれする」
「今してください」
子リスのように頬を膨らせませるあたりは、年相応なのだが。どこか懐かしい面影を残す少女へ、魔理沙は箒を手渡した。
巫女は疑心暗鬼の目つきで、渡された箒を見ている。
「……これは空飛ぶ箒じゃありませんよね?」
「どっちでも良いだろ。どうせ空飛ぶ巫女なんだから」
「それは先代の話です。私はまだ空を飛べるほどの熟練者じゃありません」
情けないことを、巫女は胸を張って答える。
先代、博麗。その名が示すとおり、博麗霊夢のことである。世間的には友人と呼べる立場に居たが、その全体像はいまだに謎だ。とらえどころが無いというより、元から存在していないように思える。良く言えば仕様。悪く言えばバグだ。
「相変わらず先代至上主義だな。私が言うのも何だが、そんなに尊敬されるような奴じゃないぜ。お茶中毒だし」
「あなたは先代の側に居すぎたから、先代の良さを理解できないだけです。妖怪に怯みもせず接し、力だけでなく言葉で説き伏せるその剛胆さ」
「勝手に住み着かれただけだろ。あと割と暴力的だった」
「……歴代博麗においても、あれほど傑出した人物は後にも先にも出ないだろうと言われています」
「まあ、あんな巫女は二度と出ないだろうな」
真実を教えただけなのに、巫女の顔は段々と険しくなっていく。妙に霊夢を神格化している割に、冗談や皮肉が通じない巫女である。魔理沙はそんな所が割と気に入っていたけれども、あちらは真逆の印象を持っているようだ。
鼻を鳴らし、顔を背ける。分かりやすいくらいに拗ねた子供だ。大人なら、大抵ここで折れる。だが残念ながら、魔理沙の心はそれほど成長してはいなかった。
「ああ、そういえばあの掛け軸はまだ飾っているのか?」
唐突な質問にも、巫女は答えない。仕方なく、魔理沙は許可無く住居へと入っていく。
「邪魔するぜ」
「邪魔だと思うなら帰ってください」
「ああ、悪い。邪魔したな」
「まったくです」
最初の頃は巫女も魔理沙の言動を窘めていたが、最近では何も言わなくなった。やれ、参拝のマナーがなってないだの、参道の真ん中を歩くなだのと昔は口うるさかったものだ。それでも閻魔様ほどでは無かったが。
勝手知ったる人の家とばかりに上がり込み、殺風景な居間に入り込む。箪笥と座布団ぐらいしか目立つものは無い。家自体が物置のような魔理沙からしてみれば、どうしてこれほど質素でいられるのか不思議だった。
「これも博麗の伝統なのか?」
皮肉げに口を歪めながら、目的の掛け軸の前に立つ。
これだけは何年歳を重ねようとも、色褪せることが無い。内容が意味不明でなかったら、きっと今頃は魔理沙の家にあっただろう。
「やっぱり、現物を見ても分からないな。あの巫女じゃ何も知らなそうだし……ん?」
掛け軸の端から、何か白い紙切れが顔を覗かせている。何気なく手にとってみると、そこには『魔理沙へ』と書かれていた。霊夢の文字だ。
霊夢から手紙を貰ったことなど一度もない。魔理沙は少しだけ驚きながら、手紙を裏返す。
『もしも私が死んでいるなら、きっと私はあなたの足下にいる』
素っ気なく、今日の献立の材料でも書くような筆筋で書かれていた。霊夢らしい。だが、内容は霊夢にしては回りくどい。
「謎かけは苦手だぜ」
手紙を懐に納め、魔理沙は家から飛び出した。すぐさま箒に跨り、空へと躍り出る。
まずは、この文章の意味を解読しなくては。
どういうつもりで、この手紙を宛てたのかはわからない。ただ、分かっていることがあるとすれば、博麗霊夢はもうこの世にいないという、とても悲しい現実だ。
「もう! 家を粗末に扱わないでください!」
下の方では小さな巫女が怒っていた。
ノックも無しに扉を開ける。
「よお」
自宅と大差ない暗さの癖に、妙に小綺麗に整った部屋の中。アームチェアに揺られながら、本をアイマスク代わりにしていた魔法使いが気怠そうな声を上げながら目を覚ます。顔から落ちた本を人形が慌てて掴み、本棚へと運んでいった。
名前も知らないハーブの香りが鼻をくすぐる。自分が言えたことではないが、本当に魔法使いらしい家だと改めて感心した。
「なんだ、魔理沙なの」
「酷いな、せっかく来てやったのに。ここの家主は謝罪とお茶をくれないのか」
「どちらもあげるわよ。私に非とお茶っ葉があればね」
人形が黄色い櫛をアリスへと運ぶ。椅子の脇に設えられた鏡を見ながら、髪の毛を整えるアリス。どこかの乱雑な魔法使いとは大違いだ。
「それで、何の用かしら? 貸した本を返してくれるのなら、大歓迎するけど」
「悪いが、今日は別の用事だ。これを見てくれ」
髪の毛のセットを終えたアリスに、霊夢の手紙を手渡す。魔理沙と似たような反応をしながら、アリスは例の一文に目を通した。読んだ後の反応も同じようだったので、思わず吹き出す。
「何よ」
「いや、別に」
訝しげな視線を向けられる。それで居心地が悪くなる魔理沙ではなく、むしろ楽しそうにニヤニヤと笑みを返した。
ため息をつき、アリスは手紙を閉じた。
「見たけど、私にどうして欲しいのかしら?」
近くの椅子を引っ張ってきて、腰を下ろす。赤い背もたれがクッションのように柔らかく、安くはないことを教えてくれた。
「謎かけはアリスの方が得意だろ。暗号はブレインだ」
「暗号はパターンよ。幾つかの手法を当てはめれば、よっぽど特殊なものでない限りは解読できる。まあ、これは暗号ではなくなぞなぞに近いものだから、パターンじゃ解けないでしょうけど」
手すりに置かれた櫛を人形が運ぶ。小綺麗な部屋でいられるのは、こまめに人形が掃除しているからなのだろう。一体ほど持ち帰ってみようとも思ったが、操る技術が無いので止めた。
「ちょっと、聞いてる?」
「ああ、悪い悪い。アリスが役に立たないってとこまでは聞いた」
「言ってないわよ。間違ってないけど」
魔理沙の知り合いの中で、こういうものに最も適しているのがアリスだった。研究用の魔術書が納められている本棚の隣には、和洋問わないミステリがずらりと揃えられている。何冊か魔理沙も貸して貰ったことはあるが、睡眠剤にしかならなかった。
そんな魔理沙だからこそ、アリスを頼ってきたのだが。どうやら当てが外れたようだ。
櫛を運んでいた人形が、今度は手紙を運んでくる。
「お前は何か分からないのか?」
人形に尋ねてみるが、首を傾げるだけだった。
それにしても無駄に動作が細かい。首に間接を作って、何か意味かあるのだろうか。俄に人形へ興味を持ち始めた魔理沙を制するように、アリスが口を開く。
「霊夢が何を伝えたかったのかは知らないけど、誰か他の人に訊くことね。生憎と私には意味不明よ」
肩をすくめるアリス。とはいえ、魔理沙の知り合いで頼れそうな奴はもういない。後は貸しを作ると面倒な奴と、そもそも頼りにならない奴の二種類だ。
ただ、ひょっとしたら頼りになるかもしれない奴が一人いる。彼女なら、何か分かるかもしれない。霊夢と同業者なわけだし。
魔理沙は腰を上げ、ついでに本棚から一冊ほど本を拝借した。話を聞きながらも、本のチェックは怠らない。最早止める気力すら無いのか、アリスは形式ばったように返しなさいよ、と呟いた。
だから返事もいつも通り。死んだら返す。
「聞き飽きたわね、その台詞も。どうせなら、これも持っていきなさい」
アリスがそう言うと、人形が緑色の缶を持ってきた。ラベルはどこにも貼られていない。
「なんだこれ?」
「お茶の葉よ。ここに立ち寄った行商人から貰ったんだけど、和風のお茶は苦手なの。あなたが飲むか、そうでなければ霊夢にでも供えておいて頂戴」
「なんだ、非は無くてもお茶の葉はあったんじゃないか」
とはいえ、魔理沙もどちらかといえば洋風のお茶を好む。だから、きっとこれはアリスなりのお供え物なのだろう。ただの推測に過ぎないが、これは当たっている気がした。
魔理沙は本と缶を小脇に抱え、玄関へと向かう。去り際、ふと振り返って尋ねた。
「そういや、今日は車椅子じゃないんだな?」
アリスは人形達に本棚を整理を命じながら、皮肉げに答える。
「今日はそういう気分なの」
瑠璃色の瞳が悲しく揺れた。
守矢神社にたどり着いた頃には、だいぶ日が落ちていた。春を過ぎた頃とはいえ、夏ほど日の入りは遅くはない。
石畳の上に舞い降りた魔理沙。辺りには人の気配が無い。休業しているわけでもあるまいし、どこかへ買い物にでも行ったのか。
早苗の他にも神様が二柱ほど居るのだが、そっちは殆ど神社にいない。大抵は湖で仲良く昼寝をしている。気楽な連中だ。死んだら神様になろうと、魔理沙は密かに決めていた。
「にしても不用心だな。泥棒が入ったらどうするんだ」
「妖怪の山を登って盗みにくる人なんて、私が知っている限りでは一人です」
「根性のある奴がいたもんだ」
「あなたですよ」
冷たい声色に振り向くと、予想通りの人物が立っていた。琥珀色の双眸が、責め立てるように魔理沙を睨む。
「お前から何か借りた覚えは無いんだが」
「被害者達の訴えを毎日のように耳にしているんです。被害が無くとも、心が痛むのは当然。むしろ、まだ借りていると主張していることに驚きです」
深みのある声だ。顔は皺だらけになったが、威厳は昔より遙かにある。ただ服装もかつてのままなので、一部の妖怪からは冒険だと評価されているらしい。
「嘘じゃないぜ」
「ええ、そうでしょうね。現在進行形のそれを、嘘とは言いません。泥棒であることに変わりはありませんけど」
しつこくも、決して正面からは責めようとしない。嫌らしい老獪さを覚えたようだ。
こういう所だけは、若い頃の方が良かったと思える。あの頃の早苗ならば、きっと今頃は口を尖らせて魔理沙にお説教を聞かせていただろう。閻魔ほどで無いにせよ、早苗も相当の説教好きだった。
「残念ながら、今日は何か借りにきたんじゃない。ちょっと用事があって来たんだ」
「へえ。だったら、その本は何なんですか?」
「アリスから借りた」
眉間に指を当て、頭痛を抑えるように難しい顔で肩を落とす。老獪さを兼ね備えた早苗でも、魔理沙をどうこうすることは出来やしないのだ。
「まあ、いいです。言ってきくような人でもありませんから。とりあえず、用事を済ませて本を読み終えたら、アリスさんに返してあげてください、とだけ言っておきます」
「わかったぜ、と言っておく」
本を小脇に挟み、懐から取り出した手紙を早苗に渡す。
「これは?」
「読めばわかる」
一通り目を通す早苗だが、やはり眉間には皺が寄る。
「読んでも分かりません」
「だろうな。私にも分からない」
「じゃあ、何で読ませたんですか」
もっともな質問だ。
「それは霊夢が残した手紙なんだが、何を言いたいのかさっぱり分からない。だから誰かの知恵を拝借しようとしたんだが、アリスは駄目だったんでな。早苗なら何か分かるかと思ったんだ。同じ巫女だし」
「それを言ったら、あなただって同じ人間じゃないですか」
そう言われると、返す言葉もない。
「でも、霊夢が手紙を書くなんて珍しいですね。これ、どこにあったんですか?」
「掛け軸の裏だ。見たことないか? 『死して、博麗は神になる』って掛け軸」
魔理沙の言葉を聞いて、急に早苗が押し黙る。口元に手をあて、何やら小難しそうな顔で再び手紙に目を通し始めた。
「おい、どうかしたのか?」
呼びかけても返事が無い。ひょっとしたら、と小声で呟いている。
何か分かったのか。魔理沙の期待に応えるように、早苗は手紙を閉じた。
「博麗の一族が何を考えているのかまでは知りません。ただ、その文章が意味する所は分かりました」
「勿体ぶるなよ。答えを教えてくれ」
催促する魔理沙に、早苗は手紙を手渡す。
「博麗の巫女に聞けばわかります」
「いや、あいつは何も知らないぞ。何回聞いても、答えは知りませんだ」
「それは質問が悪かったのです。こう尋ねれば、きっと答えは導き出せる。今のあなたになら、ね」
そうして早苗が教えてくれた質問は、思わず首を傾げたくなるような質問だった。正直、何がどう関係しているのか理解不能だ。騙されているのではないか、とさえ思ってしまう。真面目な早苗の言葉で無ければ、きっと魔理沙は信じなかっただろう。
「そういえば、霊夢のお墓参りはもう済ませたんですか?」
唐突に、早苗はそんなことを訊いてきた。あまりに突然のことだったので、さしもの魔理沙も返答に困った。
「いや、どういうわけか霊夢の墓は無い。というか、博麗の墓自体が無いらしい。巫女も墓参りがしたくても出来ないって、少し不満そうだったしな。神社にお参りすることで、墓参り代わりにしてるんだとよ」
早苗は目を閉じ、鼻からため息を漏らす。
「そう、ですか。不躾な質問をしてすみませんでした。あなたの疑問はきっと、もうすぐ解決すると思いますよ。何かも、全て」
それだけ言い残し、早苗は本殿へと去っていった。意味ありげな言葉だが、追いかけて訊くほどではない。それに、全てはもうすぐ分かると言っていたし。
魔理沙は手紙をしまい込み、博麗神社へと戻るのであった。
神社に戻ってもまだ、巫女は掃除を続けていた。これでは、魔理沙が皮肉を言いたがる気持ちも理解できる。そんなに神社は汚いのか。
ただ、今の魔理沙にはそれだけの余裕が無かった。心にあるのは、霊夢の手紙の真相のみ。
巫女は戻ってきた魔理沙を一瞥し、関わるなとばかりにそっぽを向く。どうやら、まだ怒っているらしい。だが、今は巫女の機嫌など関係ない。
早苗の言葉を反芻しながら、魔理沙はそれを言葉に変えた。
「なんで、参道の真ん中を通っちゃいけないんだ?」
ぱぁーっと、目に見えて巫女の顔が明るくなる。空は夕暮れに染まりつつあるのに、ここだけライトで照らされたかのようだった。
「とうとう、魔理沙さんも礼儀を学ぶつもりになったんですね。あまりにも遅い気はしますけど、まあいいでしょう。学ぶ姿勢は評価しないといけませんからね」
握手しかねない勢いで、魔理沙に接近してくる巫女。この程度で質問でこれだけ喜ぶのだから、霊夢を絶賛する人間が現れたら尊敬の念を覚えることだろう。
「それで、参道の真ん中を歩いてはいけない理由でしたっけ?」
「ああ、そうだ」
「理由は簡単です。参道の真ん中は正中と言って、基本的には参拝客が歩かないように気を付けなくてはいけないのです」
人差し指をピンと立てて、先生のように巫女は説明を始める。
「だから、何で真ん中を歩いちゃ駄目なんだよ」
少し苛ついたように、魔理沙は尋ねた。
巫女は胸を張って答える。
「そこが、神様の通る道と言われているからです」
ああ。
全てが、繋がった。
同時に、背筋が凍りついた。
自分の推測が合っているとすれば、博麗霊夢のお墓の場所が分かってしまう。
ふと、足下へ視線を下ろす。そこはまさしく、参道の中心。正中と呼ばれる通り道であり、博麗一族の墓そのものだった。
死して、博麗は神になる。
遺骨を神の通り道に埋めることで、博麗は神様と同じ存在になれる。あの掛け軸はそういう意味だったのだ。だから、霊夢は『もしも私が死んでいるなら、きっと私はあなたの足下にいる』と書いたのだ。
その心中を察することは、魔理沙にも出来ない。止めて欲しかったのか、それとも知っていて欲しかったのか。
巫女は他の礼儀についても解釈をしているが、魔理沙の耳には届いていなかった。おそらく、この様子では巫女も知らないのだろう。霊夢達がどこに埋葬されているのか。誰がそれを伝えるのかは分からないが、少なくとも魔理沙の口からは伝えられそうにない。
「って、どこ行くんですか魔理沙さん!」
巫女の制止を振り切り、賽銭箱の前に立つ。
アリスから貰ったお茶の缶を取り出し、賽銭箱の中へ放り投げた。霊夢曰く、神前の供物は神様のもの。賽銭箱の中身は巫女のもの、だそうだ。酷く乱暴な考え方だが、きっと、このやり方なら霊夢に届く。
そう思っての行動だった。
巫女は不思議そうに魔理沙を見ていたが、当の魔理沙にも何をしたいのだが分からない。急に、霊夢の墓参りがしたくなったのだ。神様と肩を並べる霊夢ではなく、魔理沙のよく知る博麗霊夢に。
振り返った魔理沙の目の前に、長く続いた参道が飛び込んでくる。
生涯で最も短い思考を行い、生涯で最も悩んだ末に。
「また来るぜ」
魔理沙は参道の真ん中を歩いて帰る。
それはとても、魔理沙らしかった。
そして氏の後書きにも唸ってしまいました。
自分も若輩の身なれ、生き死にを考えるには若過ぎます。精神が幼いともいいますが、それゆえに唸らざるをえませんでした。
ですが生きている以上死を忘れることはできませんし、他人の死を直接的にも間接的にも想像するのは難しいです。そして自分にも答えは出せないでしょう。
年月を経た者たちに諸行の無常を感じ、しかして魔理沙は常どおり。そこに無常は感じずに、ただ普遍だけを残した最後に、静かな賞賛を贈ろうと思います。
魔女のアリスがなぜ車椅子なのか気になってしまいました。
それにしても霊夢の遺骨は誰が埋めたんだろうか?
霊夢の残した手紙の意味を知ってしまった魔理沙。
短い思考だけどそれでも彼女にとっては苦悩の末に正中を通るという行為を行った。
なんだか魔理沙らしいけれで悲しくもありました。
これからも彼女はその事実に苦しみながらも通っていくんでしょうね・・・。
死は誰にでも訪れるものです。私にはその答えが出せるかは解らないですね。
とても面白い作品でした。
霊夢は何が言いたかったのか。
魔理沙はどう受け取ったのか。
いろいろと疑問が尽きないお話でした。
アリスはなぜ車椅子だったんだろう。
年老いて足腰弱くなったのか、弾幕ったのが原因か。
霊夢はどんな想いで?魔理沙は?など疑問は残ったけれど、良かった。
アリスの身の上に何があったのか凄く気になります。
しっかりと自分の答えが出せる魔理沙はすばらしいよ、全く
鳥肌が立ちました。
アリスは捨虫の法はついぞ会得しなかったようだ。
死。死か。死、ね……。
私は魔里沙のように答えを見つける機会に出逢えるであろうか。
感想欄を見て得心がいった
重い話だ
誰が埋めたのか?とか気になるし、アリスが車椅子?ってのも気になるし。
読後のもやっと感が残る作品ですね。
早苗のチャレンジスピリットはある意味すごいなw
でもいいお話GJ
なんとなくそう思いました。
寂しい話ではありますが、良い話でした。
しかし、やはりなぜアリスが車椅子だったのかがよくわからないな
アリスは種族:魔法使いである以上、人間の老化が当てはまるはずは無いし
魔理沙との弾幕で怪我をしたとかならあの皮肉は最低レベルのものでしょうし
霊夢といつまでも同じ立ち位置にいるのが彼女らしい。
だから、私はそうしたんだ。
神への冒涜以外の何物でもない。
正中という一般的概念を持ち合わせる社なら尚更。
いくら幻想郷と言えど非常識なのでは
でも、博麗神社そのものを含めて境内全てが神体であり、先代までの博麗の巫女が神として祭られているのであれば、
「遺骨を境内の正中に埋める」という行為も、「神体と同化させ神として歩ませる」と読み替えられるので、ありえない話ではないですね
(仏教になりますが、仏舎利も釈迦の遺骨等を砕いたものといわれているのですから)
全体からにじみ出る雰囲気というか、そういうものといいオチといい好きな作品。
あとちび巫女がちょっと可愛い