「ひとつ焼いたら私のため、二つ焼いたら貴方のため、三つ焼いたら誰がため~♪」
月の綺麗な夜、木々の葉でも遮れない月明かりが森の道をまだらに照らす。
今日も上機嫌な私の歌声が、あたりに響く。
「とりあえず今は、私のためにヤツメを焼いてくれるかしら」
「はいは~い」
私の目の前に座っているアリスが注文をしてくる。
今日は屋台を開始して早々に彼女がやってきた。
綺麗な人形が多いから、どうも興行の帰りみたい。
彼女の人形劇は見たこと無いから、一度ぐらい見てみたい。
すごいと評判だし、里に行ってみてみようかな?
・・・人形弾幕はこりごりだけど。
「あ、お酒も頂戴」
「は~い♪」
アリスの突き出したコップに私はお酒を注ぐ。
それをアリスは一気に飲み干す。
そして、再びコップを出してきた。
私はそれに再びお酒を注ぎながら話しかける。
「今日は随分ピッチが早いね~」
普段はもうちょっとゆっくり飲む人だから、大丈夫かな~と思う。
まぁ、どっちにしろ酔っ払うのには変わりないけどね~。
「ん~、最近いろいろとあってね。ちよっと疲れているのかも」
「でも、そんないつもと違う飲み方していると悪酔いするよ~?」
「ん、わかってはいるけどね・・・」
アリスは頬杖をつきながらぼぉーっと視線を彷徨わせている。
私は焼きあがったヤツメを出すついでに、アリスと視線を合わせようとしながら声を掛ける。
「何か溜まっているなら、話すだけでも話してみれば~?私は歌っているだけど、話すだけでも変わるかもよ~♪」
アリスは私と視線を合わせるが、軽く笑った後首を振った。
「気持ちは嬉しいけどね、これは聞いただけでもあなたにも被害が来るかもしれないものだから・・・」
「ふ~ん」
まぁ無理に話させるものでもないし、今回は諦めよう。
あ、でも、お酒は徐々に薄くさせようかな?
酔っ払いの相手は慣れてるけど、早いうちから悪酔いしている人がいるとお客に迷惑だしね♪
もちろん、薄くした分は安くはするよ~♪
「はぁ・・・都会派、名乗るのやめようかしら」
・・・本当に何があったんだろう?
「お邪魔するよ~」
「いらっしゃ~い♪」
「あれ、不死鳥の蓬莱人じゃない」
「ん、先客は森の人形遣いか」
二人目のお客さんは竹林の焼き鳥屋さん。
焼き鳥といっても、自分が燃えた鳥になるみたいだからちょっと意味は違うけど。
名前だけなら、私達の敵みたいだけどね。
妹紅さんはとりあえずお酒と、泥鰌を注文するとアリスの隣に座った。
「まだこんな時間なのに随分飲んでいるようだね。なんか、あったのかい」
「なんで私の飲んだ量がわかるのよ?」
「自覚無いと思うけど、かなり酒臭いぞ」
「む・・・」
「やっぱり、あれの関係か?」
あれ、妹紅さんは事情を知っているのかな?
「・・・ほっといて」
「あれは、あんたのせいじゃないって」
「直接の原因は違うかもしれないけど、一部の要因にはなっているわ」
「だから、自己嫌悪してるのか」
「いえ、それも無いとはいえないけど、一番の理由はあんなものをこれから何度も見なくちゃいけないかもしれないことが憂鬱だから」
あんなものってなんだろう?
「まさか、あんなことがそうそう起こるとも思えないし、それに起きたとしてもあんたがまた関わるって決まったわけじゃあないだろう?」
「・・・決まってるかもしれないから憂鬱なのよ」
「・・・?」
あ~、なんか話しているうちにどんどんアリスが落ち込んで言っている気がするな~。
こんな時こそ私の歌!って、その前に。
「はい、泥鰌お待ちどうぉ~♪」
「ん、あ、あと串揚げの盛り合わせも頂戴」
「は~い♪」
出来上がった泥鰌を妹紅さんに渡して串揚げの準備をして、さて・・・何しようとしてたんだっけ?
ん~まぁいいか、とりあえず歌っておこう。
「まぁるいまぁるいお月様♪杵でついて、両手で丸めて♪やっぱりまぁるいお月見団子♪」
私が上機嫌で歌っていると、妹紅さんが微妙な目で私を見ていた。
「・・・毎回思うが、どんな思考でそんな歌詞が出て来るんだ?」
「えぇ~、変な歌かな?」
「「変」」
あぅ、そんなアリスまで一緒に言わなくても・・・。
「こんばんは」
「あ、いらっしゃい♪」
「また、お邪魔します」
三人目のお客さんは山の上の巫女さん。
最近よく顔を出してくれる。
「あれ、そこにいるのは人形劇の人と・・・?」
「ん、私は妹紅。主に竹林の案内役をやっているよ」
「あ、始めまして。わたし東風谷早苗といいます」
「ああ、あんたが最近山に引っ越してきたって言う神社の巫女かい?慧音から話は聞いているよ」
「あははは、巫女とはちょっと違うんですけどね」
早苗さんはちょっと苦笑しながら席に座った。
最初のうちはいつも風祝と訂正していたけど、最近は諦め気味みたい。
まぁ普通巫女と風祝の違いなんてわからないしね。そういう私もわからないし~♪
「店主さん。ヤツメの蒲焼とご飯をお願いします」
「は~い♪」
「あれ、飲まないのかい?」
「夕食を兼ねているのでまずはお腹に何かを入れてからです」
「ふ~ん」
さぁ蒲焼の準備をしないとねっと、あれ、ちょっと火が弱いかな?
そういえば、そろそろ新しく炭を手に入れないとね~♪
「そういえば、アリスさんの人形劇を見ましたけど、すごいですね。あんな数を一度に操るなんて」
「そう?ありがとう」
「あれを全部操っているなんてびっくりしましたよ。てっきりロボットみたいに自動で動いているかと思いましたし」
「ロボット・・・?」
「あ、こっちには機械の概念は無かったんでしたね。外の技術で自動に動く人形みたいなものです」
「自動!?勝手に動くの?」
「え?はい。といっても、決められた行動しか出来ませんけど。あ、でも最近はある程度勝手に動くのかなぁ?」
「詳しく聞かせてくれる?」
「え、といっても、私は全然詳しくないですよ?」
「それでもいいから!」
「わ、わかりました」
あれ、いつの間にかアリスが復活してる?
早苗さんになにか質問攻めをしてるみたい。
「なるほど、金属製ね。試してみてもいいかもしれないわね」
「でも、上手く動くにはコンピューターが必要ですよ?」
「それは作れないの?」
「無理ですよ、専門の技術と知識が必要ですし。技術だけなら河童達なら出来るかもしれないですけど・・・」
「そう・・・」
「外の技術なら香霖堂にあるんじゃないかい」
「あ、そういえば確かにそこに行った時、パソコンがありましたね」
「じゃあ!」
「でも、だめです。電気がありませんから結局は動きません」
「電気っていうと、あの雷みたいなやつか」
「まぁそうです」
「・・・雷ね。それならパチュリーあたりに頼めばどうにかなるかしら」
「ああでも、雷と同じって言ってもちょっと違うものですよ?本物の雷を当てたら完全に壊れちゃいます」
「む~、じゃあその電気について教えてくれるかしら?」
「私だって大したことは知らないんですけど・・・」
おやおや?なんか外の世界についての話になってきたみたい。
外の世界かぁ、一回ぐらい見てみたいものね。
「へぇ、じゃあ外の世界のものって電気が無いと殆ど動かないんだ?」
「えぇ、複雑なものは。外の世界には魔法みたいなものってありませんし」
「面倒ねぇ」
「その代わり基本的に誰でも使えるんですよ?使いこなすには才能が必要ですけど、使うだけなら才能は要りません」
「しかし、となると香霖堂にある外の世界のものって・・・」
「えぇ、電気が無いので結構使えないのが多かったです。使い方を教えて欲しいからといってみたはいいんですけど、店主さんが使い方がわからないものは殆どこっちでは使えないものでした」
「あ~、かなりショックを受けてそうね」
「はい、殆ど使えないことがわかるとかなり落ち込んだ顔をしていました」
「ははは、ご愁傷様だな」
「そういえば、この世界には石油があるんですか?」
「石油?」
「はい、香霖堂のお店でストーブが使われていたので」
「あぁ、あれね。ん~、なんかあれって紫が持ってきているみたいなことを聞いたことがあるような」
「紫っていうと八雲の大妖ですか?」
「そうそう、あいつは外の世界にも好き勝手にいけるみたいだから、そこから手に入れているんじゃないかしら?」
「はあ・・・」
「結局香霖堂も役立たずか・・・使えたものって何があったんだい?」
「えぇ~と、電池で動くものならいくつか動かせましたけど、特に携帯ゲームと懐中電灯は喜んだみたいです」
「なにそれ?」
「えと、携帯用の娯楽道具と火を使わない明かりです」
「へぇ、今度見に行ってみようかな」
「でも、これは非売品にするとか言ってましたよ?」
「・・・あそこの店主、本当に商売する気あるのかしら?」
「さぁ・・・?あ、他にも携帯とかデジカメも動きましたが、電波やプリンタが無いので実質意味はありませんでしたね」
「「・・・??」」
なんか、意味不明な単語が飛び交ってる。
外の世界って言葉が違うのかな?
「くるりくるり~目が回る~♪まわった目玉が宙返り~♪」
夜もかなり更けてきた。
三人は未だに外の世界について話している。
「だからぁ~私はピラミッドもぉいいと思うんですけどぉ、やっぱりぃスフィンクスがいいとぉ思うんですよぉ~」
「そうそう、狛犬のあの二対で座っているのがいいよね。なんか門番って感じが」
「でも、ガーゴイルのあの構造は、優美さに欠けると思うのよね~」
ただ、酔っ払っている為か全く話がかみ合っていないけど・・・。
というか、三人は何を話しているつもりなんだろう?
「ヨーロッパに一回ぐらい旅行に行きたかったなぁ」
「いけばいいじゃない。紅魔館はすぐそこよ」
「ん~、それもそうね」
でも、なんで会話がつながっているんだろう?
微妙に話が合っているのかしら?
「さて、私はそろそろ帰るわ~人形の手入れをしないといけないし~」
アリスが立ちあがって、帰る支度をし始めた。
にしても、そんなに酔って人形の手入れなんて出来るのかなぁ?
「じゃあ私もそうしようかな」
「あ、私もぉ帰りますぅ~」
妹紅さんと早苗さんも帰り支度をし始めた。
「それじゃあ~」
「また来るよ」
「さぁよぉ~うなら~」
三人とも代金を払って、ふらふらと飛んでいった。
途中で事故ら無ければいいけど、特に巫女さん・・・。
さて、お客さんがいなくなると、どこからとも無く鳥たちが集まってきた。
「はい、みんな」
私は彼らに食べ物を出しつつ空を見上げた。
多分今から新しいお客さんは来ない気がする。
だから一応提灯の火は落とさずに、鳥たちとのおしゃべりを楽しむことにする。
たまにはこうやって、仲間達と喋るのもいいものだ。
「へぇ~、卵がかえったんだ。良かったねぇ~。あ、そっちはつがいが見つかったんだ?」
赤い光に照らされる鳥たちが、楽しそうにおしゃべりをしている。
夜明けまでにはまだ少し・・・
ノンベーになるとまったく話が噛み合ってないのに
何故か話が盛り上がってるwww
今宵も良い夜でした、コッチも勘定お願いね。
この雰囲気が大好きです、これからもマイペースでいいので続けてほしいです。
外の技術と早苗さんを合わせるのはよくありますが、ロボットと自立人形ですか。たしかにアリスからしたら知りたいでしょうが、現状では上海たちと大差ないですよね。
白狼天狗と厄神様が来店してくれますように。頑張ってください。
こういう雰囲気もいいなあ
まぁ巫女とかスキマとかがいるから大丈夫さ!
都市伝説も読んできました!
とても好みなお話でしたので、そちらも楽しみに待っています。
この作品の雰囲気もほのぼのとして好きです。
携帯は電池が残っていれば電波がなくてもカメラ(印刷できないけど)、アラーム付き時計、電卓などの機能は使えるんですけどねぇ……やっぱり霖之助には電話としての「離れたところと会話する用途」だけがでるんですかね?
都市伝説の方も新作待ってます!
相変わらず和みますです~。
次回も待ってますよ~
・・・・・ちなみにヨーロッパはまだ無いですが、ガラパゴスになら行った経験ならありますよ~
屋台シリーズを読んだあとは無性に飲みに行きたくなる。
酔っ払いの扱いにも大分慣れてきたようでw
機械人形談義か・・・アリスはにとりとも気が合いそうだ。
今回も違和感ありませんでしたし、キャラの災難も深く突っ込まずに表現してますし。
お酒によって失敗したことがある人間なら、あるある、といってしまいそうなシチュエーションですねw
そしてRemained visionsの方を楽しみにしてくださっている方々、すみません、もともと書く速度はあまり早くないのでもう少々待ってくださると嬉しいです。
文章の催促自体はとても嬉しいのですが、それに追いつかない自分の技量には困りものです。
現在キャラが暴走中で収拾つかなくなっているので・・・。
もともとキャラが暴走しやすいタイプらしく、今回も三人目は鬼のつもりが風祝に、しかも出てきた直後は外の会話だけのはずがロボット談義に(汗)
プロット作成が下手な証拠なのでしょうが(涙)
あ、そうそう、蛇足ですが一応これの時系列はRemained visions 3rdの後になっています。
書き始めたのはこちらの方が後だったもので、へんな感じになっております(苦笑)
のんびりとしてよかったです。