注意とお詫び)本作は作品集49「クリスタライズ・シルバー 序章」及び、作品集50の「クリスタライズ・シルバー それが起こる前の話」の続きです。そして、終わりませんでした。ごめんなさい。
ばらはあかい
すみれはあおい
おさとうはあまい
そうして きみも
俺は駆けていく。腰に一振り剣を差し、やっとのことで剣を扱えるくらいの長さまでに成長した手足を振って、駆けていく。人のいない方へ、緑が多い方へ、人以外の生き物が多い方へ、自前でこしらえた剣の訓練場のあるところへ。
尤も、最近は擦れ違う人もなく、悪戯好きの妖精だってご無沙汰している。人はともかく、妖精がご無沙汰な理由は知っている。
緩い勾配を上って剣の訓練場へと真っ直ぐ続く道から、脇の茂みに入って飛び越えて、抜けた先は雑木がまばらに生える急傾斜。視界の正面から勢いよく右端へ、左端へと消えていく木々。その内の一本を蹴って飛ぶ方向を変える。また木を蹴っては飛ぶ勢いを増しては方向を変え、もう一度木を蹴っては跳び直す。
そして、開けたところに着地。
春も始まったばかりのこの時期、寒さなどいくらでも残っている。特に今年は強烈な寒さが居座っている所為で一日通してずっと寒い日はざらで、春の訪れを感じさせてくれない。そんな中でも、俺が今いるここは別格、多分、ここに一掬いの水を持ち込んでしばらく待てば、きっと一塊の氷になるだろう。
今、俺が立つ目の前には、小さな『ある物』が凍って積み上げられた山がある。野晒しで、昼近い今でも霜が全く取れず、光を反射して山全体がキラキラするだけだった。そして山となっている『ある物』とは、恐らく体の芯まで凍り付いてぴくりともしない、限りなく死体に近い妖精達だった。
偶然、ここを見つけて、俺はよくここに来る。本音を言えば、あまり気持ちのいい場所ではない。けど、万が一にここの妖精が化けて出るようなことがあれば、やはり俺が何とかするしかないんだろうな。
その時、桜の香が鼻に付いた。
よりにもよってこんな所で?俺は微かな匂いを追って、凍り付いた妖精達の山をぐるりと回り込む。
桜色、の髪が肩まで伸びている女性が一人、佇んでいた。目を閉じ、頭を伏せ、そして手を組んで妖精達の山に向かっている彼女は、妖精達を弔っているように見えた。ゆったりとした服の上からでもわかる体の線の細さ、しかし腰には身の丈に届く位の刀が一つ、何より刀以外の全てが透き通っていた。彼女は、俺のよく知る生身の人間じゃない存在、霊だった。
でも、彼女は俺のよく知る霊でもない。今にも消え入りそうな気配が全くない。両手と両足がちゃんとあって、彼女自身の色彩も鮮やかで、ぼやけて見えるのは全身の輪郭のみ。だから、はっきりわかった。目をつぶって妖精達の山に向かった時の押し殺した静けさ、目を開けた時に垣間見たそこはかとない物憂える瞳、そして俺を見付けた時の驚いた顔。
見詰め合う。ついつい見とれていた俺は、何を言おうかと言葉を探すが、彼女は驚きの残った表情で、一歩、二歩と近付いてくる。
俺は覗いていたことへの謝りも、出会ったことへの挨拶もできないまま、彼女が近付いてくるのを見守っていた。彼女は俺より頭半分くらい背が高くて、斜め下にある俺の顔を眺めながら、俺の頬を撫でる。このしなやかな指と、あの大きな刀が結びつかない、などと仕様もないことで頭がいっぱいになっていたから、彼女に不意を突かれた。
「貴方、幽霊なの」
「う、生まれた時から、ずっと」
すごく、間が抜けていたと思う。
俺達は近くの木の下に腰を落ち着け、隣り合う。
彼女はよくしゃべった。「どうしてここにいるの」という質問に、俺が「桜の匂いが気になったから」と言ったのが始まり。お屋敷にある桜の見事さを滔々と語って、お屋敷の皆が誰それでこういう人物と説明を交えながら花見の席で彼等の珍奇な所作を聞かされ、一番の友達との花と酒を嗜みながら連歌をした話を印象に残っている歌の幾つかも含めて教えてもらい、さらに春の思う出話が延々と続く。その間、彼女はずっと満面の笑顔だった。
ここまで長々しゃべってから、彼女はあることに気付いた。
「ところで……あら?私、貴方の名前を聞いていなかったわ。ということは私も名乗ってない?」
俺はうなづいた。
「私は西行寺 幽々子。貴方は?」
西行寺の姓に聞き覚えはあるが、思い出すより前にこっちも名乗らないと。
「俺は魂魄 妖忌」
「あら、ずいぶんと立派なお名前。魂魄とは、どちらの家柄の方なのですか?」
緩い調子なりに真面目に聞いてくる。
「お嬢様の」「幽々子でいいわよ。貴方はうちの使用人ではないのだから」
ゆったりと、けれど言葉を遮ってまで、がつん、と言われた。こうなったら、ちゃんと「幽々子」と呼ばないと会話してくれそうにない。
「幽々子のように、ちゃんとした家柄なんてないよ。さっき自分のことは幽霊って言ったけど、実を言うとよくわからないんだ。経験上、幽霊が人の姿を取ることはあんまりないって知っている。しかも常時姿形を固定しておけるなんて普通じゃない。もっと普通じゃないのは、俺、ちょっとずつ成長しているんだぜ」
「まぁ」と言って、それっきり。幽々子が聞き役に回ってくれた。
「人の血が混じった幽霊だとそうなるらしいけど、俺はこいつ以外に供はいないから。ものの見事に馬の骨」
一息いれるも、幽々子の瞳が話の続きをせがんでいる。
「でも、まぁ、薄気味悪い幽霊でもガキはガキ。そんなガキをなんだかんだで面倒見るのが人情って奴でね。人から人と、人手をくるくる回りながら大きくなったって訳。まぁ、放っておいても死なないし、ちんまい頃は守り神様みたいな扱いでそこそこ持て囃されたから、そんなに苦労はなかったよ。
それで、自分の面倒を見られるくらいになったんで独り立ちして、すぐに人を気遣う余裕とか出てきたから、恩返しの意味も込めて、こいつで新しい仕事を始めたんだ」
今、腰にしている剣を指で叩くと、幽々子は眉をひそめた。
「人斬り?」
「いいや、元・人だったもの斬り」
幽々子が首を傾げたのを見て、俺が持っている剣の説明を始める。
「これは、銘もない上に切れ味も悪いナマクラだが、俺が使えばあら不思議。幽霊、亡霊、霊と名の付くものなら大体なんでも一刀両断で即成仏。で、まぁ、俺の根城を荒らさないとかを報酬に、依頼を受けて幽霊の成仏を稼業にしている。
そうなると、さすがに俺自身が名無しというのもまずい。だから、自分用のちゃんとした名前、いや、この場合は『魂魄 妖忌』って屋号をつけたんだよ」
「そんなすごい剣を持っているのに、本当にどこの家柄でもないの?」
俺の顔を覗き込んできた幽々子。確かにその疑問は尤もかもしれない。
「俺は両親がいないからわからないし、別に探そうとも思わない。
もしかたら前の持ち主、多分、俺の親は、この剣を長く受け継ぐ者欲しさに幽霊との間に子供を作ったのかもしれないな、って思うときはあるよ」
「もし、もしも本当に、妖忌の思った通りで、それで、親が出てきて、その剣を寄越せって言ったら、どうする?」
幽々子が詰め寄るように聞いてきた。
「渡さない。なんだかんだで、俺の一部だしな」
「そう」
説明は一通り終わった。しかし、そこで会話は途切れ、お互いに違う方を見た。ちょっと、暗くなることを話しすぎた。
そう反省して幽々子の顔を伺うと、真っ直ぐこっちを見ている。さて、なんと言ったらよいものかと悩んでいるところに、幽々子はポツリと言った。
「あの、白楼剣、なんてどうかしら。うちのお屋敷の名前を少し変えただけ、なんだけど」
一瞬、何を言っているのか全く理解できなかったが、自身に満ち溢れた幽々子の顔を見ている内に、剣の銘の話とやっと理解できた。
「いいのか?」
「いいの。そうしておけば、誰がなんと言おうと白楼剣だって言って押し通せるわ。そうだ、この際だから魂魄 妖忌という名前も改めて、魂魄 南無阿弥陀仏にしてみたら?」
「剣の方は有り難く頂戴するが、そっちは願い下げだ。名乗る度に俺が成仏しちまう」
すると、幽々子は笑った、俺も笑った。ただ、俺はその笑顔の裏で、全く別のことを考えていた。
幽々子はきっと、亡霊だ。自分が死んでいることに気付いているのか、いないのか。それ以上に問題なのは、途轍もなく強い未練があるに違いない、ということだ。でなければ、こんな綺麗な、はっきりとした姿で現世に留まる事なんて出来ない。さて、どうしたものか。
「……忌、妖忌……」
「あ、何?」
それは名前を呼ばれて何度目だったろうか、俺がとりあえず考えるのを止めて、幽々子に目を向けなおした時、幽々子の笑顔は無かった。そして。
「お願いがあるの。剣の命名を報酬に、私を斬って」
幽々子の言葉の意味をまた掴み損ねて、俺は止まった。
そこまでわかっているのなら、俺も肚を割る。
「ここだけの話。俺がこの剣で、白楼剣で斬ると決めているのは、無縁仏とか水子とかの供養が余りうまくいかない霊だけにしている。幽々子だったら、さっきの思い出話に出てきた誰かの夢枕にでも立てば、きっといい供養をしてもらえる。もしも、俺が幽々子の所の使用人だったら、夢枕に立たれるまでもなく、一生懸命に供養したよ」
幽々子は笑った。ただし、寂しさを残したままで。
「嬉しいな。でもね、いないの。みんな、もう……」
そこまで言ってから、幽々子は木の葉向こうにある空を仰ぎ見、「あら」と口走って言葉が途切れた。俺も視線を追う。
直後、見上げた空から、つまり真上から、凍て付く様な突風に俺達は押し潰された。そして、どすん、と何かの塊が五つも降ってきた。それは人、いや、人のような手足があってカラスのような羽が生えた生物、天狗だった。しかも、振ってきた天狗達は全員が普段は持ち歩かない錫杖を握り締めている。
戦っていたのか、誰かと?
風は収まって、凍った妖精達の山はかたかた鳴って、カラスの黒い羽がゆらゆら降りて来る。真っ白な妖精達の山の上に、地面の上に倒れる天狗達の上に、恐らく俺達が宿る木の上にも。降りてきたのは羽以外、もう一つ、寒さ。
確実に、上空にいる、天狗を五人も倒してのけた奴。このままにしていればやり過ごせるか?確かめないといけない。だから、俺は幽々子に。
「下がって」と、言われた。
……え?
俺を押し退けて一歩前に出た幽々子。身長差ゆえに少し見上げて見送った幽々子の横顔は変わらぬ寂しさを包んでいるが、俺に見せていた様な誤魔化しはどこにもなく、確かな覚悟で敷き詰められていた。
「幽々子……」
声を掛けられたのは、その後ろ姿に、だった。振り返る幽々子、静かな顔の上に唇だけがゆったりと大きな弧を作り、らんらんと輝く瞳はただ一点、俺に向けられていた。今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「妖忌はそこに居て、あれは、私に用があるから」
幽々子が自身の刀に手を掛けているのを見て、俺も白楼剣に手を掛ける、直前に、幽々子の緩くて軽い声が被さった。
「私が化けて出たらお願いね~」
そして、幽々子は前に向き直った。たったそれだけのことなのに、俺は全く動けなくなった。完全に、気圧された。でも、「加勢する」の一言が言えれば、俺は助けに行ける。だから、俺は言った。
「お前、もう亡霊じゃないか」
違う。俺が言いたいのは、俺が言いたいのは。
「あはは~、そうだったね~」
飄々と遠ざかる幽々子。木陰から出て、一歩踏み出すと同時に、あの長い刀を抜く。日の光を浴びた長い刀身が反射で作り上げた光の線が、木陰の中にいる俺の前、絶対的な境界線を誇示するようにそこに横たわっていた。そして俺は、悔しいかな、境界線を越えるどころか、一歩も前に踏み出すことすら出来ず、見守るだけだった。
幽々子は、空を見る。俺は幽々子だけを見ていた。
「……だから、貴女はあんなに怒っているのね」
何を言っているのかわからない。でも、幽々子が両手で刀を握った事はわかる。
「この楼観剣に、断てないモノはないわ」
幽々子は、頭上の空を斬るように、あの長い刀、楼観剣を振るう。
瞬間に、また真上から叩きつけてくる寒風。苦しい、風よりも寒さが、幽霊であるこの俺が、まさに魂さえも凍り付かせる様な恐ろしい寒波が猛烈な風に乗って吹き付けてくる。かたかたと鳴った妖精達の山も、たちどころに凍り直し、より強固な一塊に。
幽々子!
…………は、どこにもいない。どこだ、と思う前に、地上に叩きつけられて跳ね返った風の為に舞い上がった黒い羽の軌跡に、俺は見るべき場所を知り、木陰から飛び出した。
上空に幽々子がいた。また確信もした。あの時、幽々子は寒風を斬ったのだ。そして、今、無風の空を行っているに違いない。
幽々子の無事な姿に安心した。だから、次の一瞬を見逃がしたに等しかった。
垂直に上昇する幽々子と、垂直に落下する青い何かが、一直線、一点に、重なった。
光、の様な、目を覆わんばかりの凄まじい何かが炸裂した。寒波だったのかもしれない。でも、次の瞬間にはそんなこと、どうでもよくなった。何故なら。
幽々子が千切れ掛かって、遥か上空を漂っていた。風が一つ吹きでもしたら、そのままバラバラになってしまいそうな程、首も、腕も、腰も、足も、捻れるような、削げるような、有様で。
その時、幽々子が流れる先の青い空に、黒い割れ目、と形容するしかないような黒い線が出来た。「なんだ、あれ」と思う間に、空の割れ目から手が伸びる。中にいる誰かが、幽々子を抱き締めるなり、空の割れ目は二人を飲み込んで、いつもの空に戻った。
「幽々子……」
呆けて空を眺める俺の視界の端に、幽々子がいた高さから落下する何かを捉える。今、あの高さから落ちてくるのは、幽々子以外には戦った相手だけだ。俺がそう結論付けると同時に、木々の枝葉を突き破る音と、あまり鳴り響きもしない墜落音。
墜落場所に行こう。真っ先にそう思った後で、俺の足が止まった。相手は凄まじい力の持ち主で、天狗とも敵対している。しかも墜落の衝撃を弱めたことから、まだ意識はあるだろう。俺みたいな剣術をかじった程度の幽霊が、しかも手にした武器は幽霊以外にはナマクラな剣一本、これじゃ下手すれば、妖怪どころか妖精相手にも遅れを取る。
引き返すのが、一番賢いんだろう。そして全部忘れるか、もしくは空に消えた幽々子が俺の日常と接点があることを期待するか。
なら、することは一つ。
駆け出す。向かうは、そう、向かうは、幽々子と戦った何者かが墜落した場所だ。
墜落場所には道など続いていない。そこは雑木林の中であり、茂みの奥。分け入って、近付くにつれ、冷たい空気の密度が増す。頼りに出来るような物音もほとんどないので、どんどん冷たくなる空気の中心を目指すのみ。
そして、下に向かって折れ曲がった枝を見付け、その下から呻き声のような微量の声も聞き取る。茂み一つ向こうが、それだ。
一瞬、立ち止まる。さっきは飛び越えられなかった境界線が、再び現れたように感じる。この向こうが、幽々子のいる側だ。なんで、俺は幽々子にこだわるのかな、それを確かめる為にも、俺は向こう側に行く。
俺は、扉を開くように茂みを割って、一歩、踏み出した。
女性が仰向けに横たわっている。清らかな白と鮮やかな青の衣装を汚すのは、血。それは胴体の中心、つまりはへそ付近から右肩に掛けて斜めに斬り裂かれた傷口から流れ出したもの。大きな傷口の切断面には霜、恐らく傷口を凍らせて止血を試み、成功はしていた。目を閉じて、息も絶え絶え、というより息をしているのかも怪しい。
俺は彼女を知っている。冬にわいて出る妖怪、レティとかいう奴だ。妖精に混じって冬を謳歌している彼女が、どうして幽々子を。あの凍り付いた妖精達と関係があるのか?
……って、考えている場合じゃない。すぐに何とかしないと。応急処置、は後だ。天狗も彼女を狙っている。なら、追っ手の足も速い。こうなると応急処置している間も惜しい。レティが妖怪である以上、この怪我で死ぬことはない。やることが決まった。
「少し、我慢してくれ」
返ってくる言葉はない。当然か。俺はただ、レティを背負って自分の根城に行く。
俺自身の手腕を誇ればいいのか、それとも日頃の行いのよさの賜物か、俺が根城にするあばら家まで誰に出くわすことなく、来れてしまった。
安心しきって慣れたあばら家に入った途端、何者かの掌が眼前に添えられた。そして、俺の体が動かなくなった。目の前の、凛々しい面持ちに、自身の背後より立ち上るような大きな狐の尻尾を九つも生やした女が、一方的にしゃべる。
「騒動を避ける為とはいえ、金縛りを掛けた事はご容赦を。ただ、貴方はご存じないかもしれませんが、背負っている女性は、今や天狗に追われる身なのです」
知っている、と声すら出ない。まさか、このままレティを連れて行くつもりか。
「おわかり頂ければ、術を解いてからも静かにしてください」
動くようになった。
「八雲 紫が式、八雲 藍といいます。まずは奥へ、看護は人目を避けて行います」
今度こそ安心して、俺が一息ついている間に、この八雲 藍と名乗った女性はテキパキと動いて、手当てを済ませたレティを横にして、合間にあばら家の掃除まで完了させてしまった。こうなると、寝床以外は何もないここも、それなりに見えるものだ。
さておき、レティを傍らに、足を崩した俺と正座する藍が向かい合う。
「申し訳ございませんが、魂魄 妖忌様はどちらにおいでなのでしょうか?」
あ、そういうこと。
「魂魄 妖忌は俺だよ」
目を丸くした藍は、その後でひたすら平謝り。
「誠に申し訳ございません。知らぬことはいえ、留守中に厚かましくも上がりこんだ身でありながら家主を金縛りにするなど言語道断。如何なる責め苦も一身に負います故、何卒、何卒お力添えを!」
俺は藍によく見えるよう、レティを指差して。
「とりあえず、静かにしてくれ」
藍はぎょっとした後で、うなだれた。心なしか、あれだけ立派だった九尾が萎びて見える。本音を言うと、こっちも彼女に謝りたい。歴戦の古豪っぽく聞こえる名前をわざわざ名乗っておいて、こんな小僧が出てきたら誰だってそうなる。
とはいえ、この力のありそうな式神が俺を訪ねて来る理由は一つしかなく、同時にそれも断り易くなったので、今回の勘違いは俺にとって渡りに船だ。
「見ての通り、今は立て込んでいて成仏屋稼業は休業中なんだ。悪いけど引き取ってくれ」
しかし、藍から返ってきた言葉は意外なものだった。
「彼女の事ですが、お体の傷を診た限り、あながち無関係とは言えません」
今度は、俺が目を丸くする番だった。
凛々しさを取り戻した藍は、改めて居すまいを正し、その凛々しさで以て訴える。
「西行寺家が息女、西行寺 幽々子様の亡霊を斬って頂きたい」
本当に、渡りに船だった。
だけど……
物語の本筋が少々理解しにくいのですが、そこは他の伏線も含めて続編で明らかにされることを期待しています!
しかしこのレティ、天狗五人を凍らせるとはかなり強いですねww
続きに期待