「翠の渚に紅い鳥♪くるくるまわって星の彼方♪」
日が沈み赤提灯が映える頃、私の屋台は始まる。
おや、屋台を始めたら早速お客さんがやってきた。
一組目のお客さんは烏天狗の新聞記者さん。いつも急がしそうに空を飛びまわっている。
「こんばんは。もうやってますか?」
「いらっしゃい~♪やってるよ~♪」
「それはよかったです。ではまずお酒と・・・ん~ヤツメの盛り合わせで」
「はいは~い♪」
文さんはもらったお酒を飲みつつ、近くにいる小鳥と戯れている。
「黒い山肌、白の馬♪紫大樹に虹色降りる~♪」
私が機嫌よく歌っていると、文さんがふと思い出したように尋ねてきた。
「そういえば、知ってます?」
「ん?な~に~♪」
「いえ、最近山に新しい神社が出来たんですよ」
「しってるよ~♪」
「あやややや、知ってましたか」
言葉は残念そうだったけど、口調と表情は驚いていないようだった。
「ま、当たり前ですか。なにせここは幻想郷一情報が集まる場所の一つですし」
「そうなの~?」
「いや、店主であるミスティアさんが疑問に思ってどうするんですか・・・」
「だってそんな気はしないし~♪」
私がそう言うと、文さんはなんかすごいもったいないといった顔で言ってきた。
「いいですか?もともとこういった飲み屋というのは、古今東西情報の坩堝なんです。一日の終わりにお酒を飲む。その時に今日あったことを振り返る。また、その時に知り合いがいれば起きた出来事を言い合う。他にも、お酒のせいで口が軽くなり普段なら口にしないようなことも口走ってしまう。さらに、こういった屋台では店主に話を聞かれそうなイメージがあるけど、ミスティアさんはほぼ常に歌っているので、自分たちの話を聞いていないような感じを受ける」
「失礼ねぇ~、ちゃんと聞いているわよ。それに話を聞いていなかったら注文受けられないじゃない」
「いえ、そう感じるだけで、実際にそうとはいってませんって!・・・話を戻しますけど、そういったイメージのために、ミスティアさんの前で話すことに躊躇いが起きにくいんです。そして、なによりも、ここは人妖問わず様々な方がくるのでいろんなところの情報が集まるんです。そういった人たちがミスティアさんの前でいろいろ話すので、ここは幻想郷のありとあらゆる情報が集まってきやすいんです」
「へぇ~」
文さんの説明を聞いて、私は感心した。ここってそんなに情報が集まる場所なんだ。
「いやいや、感心しないでくださいよ。ミスティアさんのことなんですよ?」
「だって、人の話なんて気にしたことないし~♪」
「ううう・・・すごいネタの宝庫なのに」
文さんがすごい悔しそうな目で私を見てくる。
だって仕方ないじゃない、私は新聞記者じゃないんだから。
「だったら、文さんがここに通って話を聞いておけばいいじゃない」
「・・・私がいると、皆一様に口が堅くなるんです。特に九代目の幻想郷縁起が出されてからは」
「へ~、何か悪いことでも書いてあったの?」
「いえ、そういうわけではないんですけど、あれのおかげで私が新聞記者だということが広まってしまったんです。あと、天狗の記事はあることないこと書くって言うのも書かれていたんです。それで変なことを記事にされたくないからと、皆私の前ではあまり喋らなくなってしまったんです」
「そうなんだ~?」
「ですからっ!!」
「わっ!?」
急に文さんが乗り出してきたので、ちょっと驚いた。
「ここで、様々な話を聞いているミスティアさんに、なにか面白いことがあったかどうか聞きたいんです!」
「そういわれても~」
話し自体は聞いていても、殆ど興味が無いから片っ端から忘れているのだ。
それでも一応、思い出そうとはしてみる。
「・・・ぜんぜん思い浮かばないよ」
「そこをなんとか!」
「そんなこと言われても・・・」
そんな押し問答をしばらく続けていたけど、これ以上やっても無駄だと悟ったのか文さんがやっとおとなしく座ってくれた。
「はぁ、毎回期待して聞いてみてもやっぱり結果は変わらずかぁ・・・」
そういえば、毎回似たようなことをやっていた気がする。
「まぁいいです。とにかく何か思い出したら教えてください」
「思い出したらね~♪」
とはいっても、思い出すことは無いだろうし、そもそもその言葉自体すぐ忘れる気がする。
ま、向こうもそれはわかっているでしょう♪
二組目のお客さんは狐さんと猫さん。
食材の仕入れの時に、お世話になっているお二人さん。
「こんばんは」
「こんばんは~」
「いらっしゃ~い♪」
「まずは腹ごしらえに、蒲焼とご飯を頼む」
「私も」
「はいは~い」
私はすぐに蒲焼の準備に移った。ご飯はすでに炊けているけど、これは同時に出さなきゃ意味が無い。
「おや、烏天狗の文じゃないか」
「どうも~、そのせつはお世話になりました」
「貴方の新聞は、偶に行くカフェなどで読ませて貰っているよ」
「う~ん、私の新聞はそういうところでしかあんまりとってくれないんですよねぇ」
「刊行ペースが遅いからじゃないのか?量もあまり多くないし」
「一人でやっているので、あれが限界なんですよ。あれだけっていってもネタを集めるのは大変なんです。編集もしなくてはいけませんし」
「・・・前にも言ったと思うけど私の式になれば、もっと効率が上がるわよ?」
「いえ、前に言いましたがそれは遠慮します。いくら効率が上がっても自由に飛べなければ意味はありませんし」
「まぁ、無理に進めるものでもないわね」
「そういえば・・・式で思い出しましたが橙さん、猫の僕は出来ましたか?」
「えっ!・・・あ~、まだよく引っかかれるわ。どうして言うことを聞かないかなぁ」
「だから、それは貴方の力量が・・・」
「最近はマタタビも多めにしているのに」
「・・・それ、マタタビのせいで酔って暴れているんじゃないんですか?」
「え~、そうかな~?」
ふとお客さんを見ると、猫さんがなんか深く考え込んでる。
そういえば、二人が来てから近くにいた鳥たちが皆どこかに行っちゃった。
やっぱり、天敵には近寄りたくないみたい。
仕方ないから、一人で歌おう♪
「ところで、最近は何か面白い証明とかやりました?」
「いや、最近はちょっと忙しくてな。そんな暇はないんだ」
「おや、何か事件でも?」
「そんな目を輝かせながら聞いてくるな。私の仕事は結界に関わることだ、そう話す訳がないだろう」
「そこをなんとか。結界の異常のなれば一大事件です!それはぜひ幻想郷の皆さんに知らせるべきです!」
「伝えられないものは伝えられない。第一、もし私が話したとしても多分、その記事は世に出回ることはない」
「なぜです?いくら藍さんとはいっても、天狗を敵に回すのは得策ではないですよ?」
「私ではない。確実に紫様が動くからだ」
「・・・はぁ、それでは諦めるしかないですね。幻想郷一の大妖を相手にするというのは、山全体で事に当たるとしても分が悪すぎます」
「賢明だね」
「蒲焼おまちどう~♪」
「お、ありがとう」
「いただきま~す」
あれ、今度は文さんが俯いてる?
何か記事にすることでも考えているのかな。
三組目のお客さんは始めてみる人、赤と紺の服装に長い銀髪を三つ編みにした女性と、着物のような洋服のようなちょっと変わった服に、長い黒髪を後ろにながしている女性。
「ここかしら、夜雀がやっている屋台って言うのは?」
「いらっしゃ~い♪」
「そうみたいね。ウドンゲが言っていた様子と一致するし」
ウドンゲ?あぁ、鈴仙さんのことかな?
となると、ウサギさん達の住んでいる屋敷の人かな?
「あら、いつかの烏天狗と九尾ね」
「おや、輝夜さんに永琳さんですか」
「月の姫とその従者か」
「こんばんは、席いいかしら?」
「別にここはそういうのを気にする場所ではない」
「そう」
二人のお客さんは、椅子に座るとメニューを見ずに私に問いかけてきた。
「さて店主さん、ここでのでのお勧めはなにかしら?」
「え?う~んと・・・鰻や泥鰌、鱧やウツボもあるけれど、ここは一応ヤツメウナギの屋台だから、やっぱりそれかな」
「あら、鱧もあるのね」
「ありますよ~、ちょっと高いけど」
「じゃあ、お勧めのヤツメウナギと鱧をくれるかしら?調理方法は任せるわ」
「では、私はウドンゲが勧めていたヤツメウナギの串揚げを」
「はいは~い♪」
私はすぐに調理にとりかかる。
「そういえば輝夜さん、次の月都万象展はいつごろ行いますか?」
「ん?そうねぇ・・・場所とか警備の問題もあるし、もうちょっと先かしら」
「場所って・・・永遠亭でやるんではないんですか?」
「あのねぇ、普通の状態の永遠亭でやれるわけがないじゃない。多少改造したり、整理したりしなくてはいけないの。イナバ達にもいろいろ言っておかなくてはいけないし」
「なるほど・・・」
「何より警備の問題がね。この幻想郷、他人の迷惑を考えない人が多すぎるもの。展示物の盗難の危険もあるし」
「・・・あぁ、なるほど」
私は輝夜さんの言葉を聞いて、ある一人の少女が思い浮かんだ。多分、みんな同じ人物を思い浮かべてるだろうな。
「確かに、警備は重要ですね。それはもう厳重な警備の準備が」
「そういうこと。だから、その準備が済むまでもう少しかかりそうなのよね」
「わかりました。開催日程が決まりましたらご連絡ください」
「覚えていればね」
「すまない店主」
「はいは~い♪」
狐さんに呼ばれてそちらを見ると、猫さんのほうを心配しながら私に言ってきた。
「すまないが、水か何かをもらえないか」
「あ、は~い」
よく見ると、猫さんの目がかなり据わってきている。ちょっとマタタビ酒が効きすぎたのかな?
さっきから黙っていたのは猫さんを介抱するためだったみたい。
「あら、酔い覚ましならいいものがあるわよ」
私が水を用意して渡すと、永琳さんが猫さんの様子を見て狐さんに何かを差し出してきた。
「これをのませるといいわ」
「薬の天才によるものか、助かる」
「いえいえ、飲みに行くと姫が言っていたから、一応用意しといたのだけど役に立ったみたいね」
「そういえば永琳さんは天才薬師でしたね」
「まぁ、薬を作るのは得意だからね」
「それで思い出しましたが、胡蝶夢丸の売れ行きはどうですか?」
「そうねぇ・・・幻想郷の人達って精神も頑丈な人が多いみたいで、あんまり売れ行きはよくないわね。むしろナイトメアタイプのほうが売れるぐらいよ」
「なるほど、確かに幻想郷ではストレスを感じやすそうな人ってあまり見かけませんね」
「そうなのよね。まぁ、定期的に買っていく人もいるはいるんだけどね」
「あ~、それって・・・」
「森に住んでいる魔法使いね」
森に住んでいる魔法使いは二人いるけど、絶対みんなさっき思い浮かべた人とは別の人を考えているんだろうなぁ。
・・・なんか気苦労多そうだったし。
こんど来たときには私の歌で元気付けてあげよう♪
あのあと、狐さんと猫さんはすぐに帰り、輝夜さんと永琳さんもしばらくしたら帰っちゃった。
でも二人とも結構気に入ってくれたみたい。また来るとか言っていた♪
今屋台にいるのは、文さん一人だけ。
結構飲んでいるはずなのに、まだまだ平気そうなのは流石天狗だね♪
「天の水、星を飲み込み大洪水♪流れた魚に食われたお月様♪」
「本当に変な歌ですよね」
別にいいじゃない。これが私の歌なんだから。
「そういえば、少し前から気になっていたんですが・・・」
「な~に~♪」
「前は、歌いながらも周りの人間を鳥目にする能力を発動させてましたよね?」
そういえばそうだっけ♪
「でも、最近は普通の・・・普通?・・・ま、まぁそんな歌を歌ってますよね」
なんか引っかかるけど、そういえば随分前から鳥目にする能力を使っていないなぁ。
「それがどうしたの~?」
「いえ、どうしてかなぁっと思いまして」
あ、そんなことかぁ~♪
「だって、もう鳥目にしなくったってお客さん来てくれるし。それに、いちいち鳥目にしていたら解除するのが面倒だもの」
「そ、そんな理由ですか・・・」
「そうよ~、理由なんてそんなものよ~♪あ、あと、ここに来るたびに鳥目になるって噂が立ったら、お客が減るじゃない。それも嫌っていうのも理由かな♪」
「はぁ、いまでは最初の戦法が逆に不利になるということですか」
「そういうことになるのかな?」
文さんはなんか納得して、次の質問を投げかけてきた。
「焼き鳥撲滅のほうはどうなってます?」
「あ~、あれ?」
そういば、屋台を始めた最初の理由ってそれだったわね~。
「わからないけど、それなりにこっちの屋台が繁盛してきたから、前進はしてるんじゃない?」
「ん~、確かにそうかもしれませんね。引き続きがんばってください。応援しています」
「あ、ありがと~♪」
でも、しばらくしたら忘れそう・・・。
ま、いっか♪
「ちょうどいいので、まず焼き鳥撲滅に向けて一緒に考えましょう」
「えっ?」
私は文さんに引きずられる感じで、焼き鳥撲滅に向けての議論をする羽目になった。
夜の屋台に強気の言葉と、戸惑いの言葉が飛び交う。
夜明けまでにはまだ少し・・・
キャラ的には、そろそろ全員出そろう感じかな?
でも秋姉妹を忘れないで…
創想話でも出番少ないし人気無さそうだけど…
出して欲しいです…
山の天狗たちも参加しているのかな?
ところであの人は胡蝶夢丸常用ですか……が、がんばれー
ですが、初めの方に有る「文さんにお酒はもらったお酒を飲みつつ」の表現がイマイチ解りません、「文さんはもらったお酒を飲みつつ」なのでしょうか?
誤字報告を一つ。
「まぁいいです。とにかく何か思い出したら教えてください」
「思い出しらね~♪」
↓
「思い出したらね~♪」ではないでしょうか?
確かによくよく考えたら、確かに文とみすちーは両方鳥でしたねwww
ちなみに、一応いっておくと、正確には烏天狗、白狼天狗なんかは種族じゃないんで、烏とかではないんですよ。
さらにいったら、その上には、小、中、大天狗ってなっているんです。
小天狗なのに文より上って言うのもなんだかシュールですがwww
今回は、人名も出さずに人物をイメージさせましたねww
確かに名前をいわれなくても、彼女だと分かりましたし。
次も頑張ってくださいね!!
>烏天狗
確かに言われてみればそうですが…、多分気分的なものでないかと。
一応オフィシャル設定みたいですし。
楽しみにしていらっしゃる方々がいて、大変うれしく思っています。
>お二人の名前が無い程度の能力様
はい、誤字です(汗)わざわざご報告ありがとうございます。
>三文字様
そうですね、次の夜で大体屋台にこれそうな方々は出揃うので、それから先はいままで出てきた人達が再登場することになると思います。
ただ、そうなると話のもって行きやすい又は自分の好きなキャラの出現率が上がりそうな気はしていますが(汗)
>秋姉妹
大変言い難いのですが、おそらく秋姉妹の登場はこのシリーズでは無いと思います。
なんとなく、二人は売買とか金銭の感覚がなさそうなので。
同様の理由で、妖精や他の神も多分出てきません。(諏訪子は例外でしたが)
あと、最大の理由は静葉の性格や口調の公式な設定が無いので、出せないのです。
同じ理由で、大妖精、小悪魔、リリー、椛が出せません。(涙)
藍さま黒いよ!ゆかりん怖いよ!なにするんだよ!!w
特に今回、みすちーと文が好きな自分には最高でした。
などと思わせる雰囲気が、このシリーズのいいところ。
二次設定がほとんど無く、登場人物が皆地に足の着いた雰囲気なのもGood
今までと違い内容の半分が文花帖と求聞史記の継ぎ接ぎなだけなのがなんとも・・・
2次設定無しでいくとそうなってしまうのは仕方ないんですけどねぇ・・・
文さん焼き鳥撲滅頑張ってー、と焼き鳥食べながら言ってみる。