―――――生まれては、消え。消えては、また生まれる。―――――――
―――――その発生に際限は無く、きっかけに限りはない。――――――
―――あらゆる場所、時間に存在し、人々の記憶と会話に住まう。―――
――文明が発展しても、いや、発展したからこそ生まれしものたち。――
―――――文明という光に照らされた社会に残る、新しき闇。―――――
――――光の洪水の中で生きている人々は、それらをこう呼ぶ。――――
―――――――――――――『都市伝説』と―――――――――――――
Modern legend of Alice ~呪われた着せ替え人形~
「何、この人形?」
アリスは店内にある変な形の人形を手に取った。
「あぁ、それは『外』から流れてきたものなんだ」
「『外』?ふ~ん。それにしても変わった人形ね。いったいどんな人が作ったのかしら?」
店主である霖之助の言葉にアリスは顔を彼に向けたあと、再び手に持つ人形へと視線を戻した。
その人形は布製ではなくすべすべした物質で出来ており、硬いが金属とは違う触感を与えてくる。
しかし何よりおかしいのは、一般的な人形よりかなり人に模して作られているが、何故か足が三本あるのだ。
「いや、そのタイプの人形は人の手ではなく、工場というところで勝手に作られるそうだ」
「あら、じゃあ外の世界ではもう手作りの人形は無いのかしら?」
「いや、あるはあるらしいが、そういったものは同じものを沢山作るために、工場というところで一気に作るらしい」
「・・・こんなのが沢山あるの?」
アリスは問題の人形に目を向けながら、嫌な顔をした。
造形が妙に人に似ているせいで、その三本足という異常さが際立って見える。しかも、無理やりつけられた感じではなく一見普通に見えるように作られているから、余計に気持ち悪さが目立つ。
偶に見る障害者を模したにしては、感じられる悪意が尋常じゃない。
「さてね、そう聞いただけだから真偽のほどは確かではないよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
霖之助は言い難そうに、少し言葉を濁す。
アリスが先を促すと、少しため息をついてから続きを口にした。
「どうもそれは、人々に娯楽と恐怖を与えるために作られたらしい」
「娯楽と恐怖?」
ある意味全く正反対の事を言われ、アリスは理解に苦しむといった顔をした。
「なにそれ、物凄く矛盾していない?」
「そうはいわれてもねぇ。どういうふうに使って娯楽と恐怖をわからないが、それはそういうものらしい」
「はぁ・・・」
「案外、肝試しとかに使われていたのかもね。ほら、あれは恐怖と娯楽を同時に味わうだろう?」
「ふ~ん」
確かに、この歪な人形は肝試しに使われたらそれなりに効果があるかもしれない。
アリスも霖之助の言葉にある程度は納得できたが、どうもそれだけでは無い気がする。
魔法使いであり、人形遣いでもあるアリスの勘がそう告げている。
そして、その勘ではこれは『よくないもの』だともいうことも告げていた。
(・・・でも)
しかし、アリスは前述したとおり魔法使いで、人形遣いである。
危険とわかっていても、それが何かしらの力を持っている未知の物体で、なおかつ自分の得意分野にあたるものであれば、好奇心がわかないわけが無い。
魔法使いとは知識の探求者であり、その為にその為に全てを捧げているといっても過言ではない。
「霖之助さん。これ、くださらないかしら?」
「ん?構わないよ。僕にとっては人形は趣味の範囲外だからね」
「そ、じゃあ貰うわね」
アリスは霖之助から件の人形を手に入れ、自分の家へと急いだ。
(さて、好奇心猫を殺すというけれど、この好奇心はどんなことを引き起こすかしら?)
アリスの腕の中で、人形が微かに身じろぎした気がした。
博麗神社では、いつもの通り霊夢が暢気にお茶をすすっていた。
「・・・ふぅ、最近は平和ねぇ」
ここのところ大きな異変も無く、妖怪たちもおとなしいので霊夢はのんびりと過ごしていた。
お茶をすすりながらぼぉーっとしている霊夢を見ても、誰もこの巫女が幻想郷の要だとは思うまい。
「相変わらず暢気ねぇ」
「・・・紫」
お茶をすすっていた霊夢の横から突如奇怪な空間が現れ、そこから妙齢の女性が顔を出した。
「・・・何しに来たの?」
霊夢は女性=紫の顔を見ると、露骨に嫌そうな顔をして尋ねた。
「あら、つれないわね。不真面目な巫女の代わりに幻想郷の危機を未然に防いでいるって言うのに」
「危機?むしろ異変を起こそうとしているのは、あんたのほうじゃないの?第一、どうせ頑張っているのは式の藍のほうでしょう?」
「あら、今回は私も少しは手伝っているわよ?なにせ、藍だけじゃあちょっと手が足りないみたいだし」
紫の言葉に霊夢の目が少し険しくなる。
「・・・何が起きているの?藍だけならともかく、あんたまで動いているとなると、かなり大変なことが起きているように思えるのだけど」
「最近幻想入りしてくるものたちが多くてね」
「ふ~ん、まだ外に妖怪が結構残っていたのね」
「まぁ、妖怪みたいなものではあるんだけど」
「何?妖怪じゃないとすると力のある人間でも大量に迷い込んできた?」
「それだったらどんなに楽か・・・入ってきているのはいわゆる怪談よ」
「怪談・・・?」
紫の言葉に、霊夢の顔が胡散臭げに歪む。
「怪談ってお話でしょう?怪談で語られる妖怪が入ってくるならともかく、何で怪談が入ってくるのよ?」
「ん~、まぁ霊夢の言うとおり怪談で語られる妖怪が入ってくるっていっても良いんだけど・・・やっぱりこれは怪談が入ってくるって言ったほうが正しいわね」
「・・・良くわからないわ」
霊夢が眉をひそめると紫は少しうなったあと、説明し始めた。
「最近入ってきているのは外の世界で『都市伝説』とか『ネットロア』って呼ばれるものなの。要は外で流行っている怪談ね」
「流行っているなら、どうして幻想郷入りしてくるわけ?」
「流行っているって言っても、これらは次から次へと新しい話が生まれてくるの。まぁ一種の娯楽みたいなものだから、飽きられるとさっさと忘れられて、新しい話が生まれるんでしょう」
「で、忘れられた都市伝説がこっちに流れてくるわけね?」
「そう。まぁ、中には入ってきたくてもこれないものもあるんだけどね。その怪談の媒体とするものが幻想郷の中に無かったりしてね」
そこで、紫は媒体として車やPC、携帯などを上げたのだけど、一部は香霖堂で聞いたこともあったが、殆どは霊夢にはどれも聞いたことの無いものばかりであった。
「ま、そういう訳で入ってこれないものも多いんだけど、その中での一部は幻想郷内に入ってきてしまうのもいるのよね。媒体が幻想郷内に存在していたり、自分そのものが媒体だったりしてね」
「後者は妖怪と変わりないじゃない。で、なんでそれが幻想郷の危機につながるの?こちらのルールを覚えてさえくれれば、幻想郷は全てを受け入れるんじゃなかったっけ」
「ルールを守ってくれればね」
「え?皆ルールを覚えられないようなやつばっかなの?まぁ、確かにそれはめんどくさいけど、紫や藍ぐらいだったら力ずくで・・・」
「力ずくでも効果があれば、まだ楽なんだけどねぇ・・・」
「・・・どういうこと?」
霊夢は紫の言葉と雰囲気に、嫌なイメージがわいてきた。
「『都市伝説』を怪談と言ったわよね」
「えぇ」
「これは、比喩じゃなくて本当のことなの」
「ちょっと、だから話だけが入ってくるって言うのは・・・」
「はいはい、ちょっとおとなしく聞いていなさい」
「・・・」
霊夢が黙ったのを見て、ゆかりは話を再開させた。
「いい、私が彼らを怪談といったのはね。彼らの行動が彼らを表す怪談によって制限されているからなの。彼らが活動するためには多くの場合、まず彼らの噂話を聞くことから始まるのよ。そうして、彼らの存在を知った者に対して、彼らは噂通りの影響を与える。その際に実体をもって行動するものもいれば、実体を持たないものもいる。つまり、そのものの噂を知ることで起こる、ある種の現象みたいなものなのよ。だから、例え実体を持っていても意思は持っていないの。自分に与えられたイメージどおりの行動しか出来ない。ほら、妖怪の話なんかはある程度行動に差異があるじゃない。でも、彼らは決められた行動しか出来ない。しかもそれは怪談と言われるぐらいだから、殆どの場合人に害をなすものが多い。しかも致命的なね」
「・・・」
「他にも厄介なことは、彼らはイメージそのものみたいなものだから、鬼や吸血鬼のように彼らに設定された弱点以外の攻撃は効きにくい。まぁそれは多くの妖怪にも言えるけど、妖怪との違いは必ずしも弱点が設定されていないことがあること。つまり起きたら逃げられないという話も多いのよ。仮に弱点があったとしても、それはその『都市伝説』にとっては致命的なものではなく、せいぜい無事に逃げられるといった程度。妖怪なんかでは偶に人間が妖怪を退治するっていうものがあるけれど、『都市伝説』にはそういったものはほぼ皆無ね」
「・・・すごく厄介ね」
「そう。私はそいつらの存在そのものをいじくって撃退しているけど、藍なんかは無理やり倒すしかないから、結構大変みたい」
霊夢は口に手を当て、考え込む。
「・・・それで、あんたがその忙しい中、わざわざ私に合いに来た理由は何?」
「察しているかと思うけど、私達が捕り逃した『都市伝説』の排除よ」
「藍と紫まで働いて取り逃がすことがあるくらい、数が多いのかしら?」
「いえ、数自体は私も働けば余裕で駆逐できるぐらいの数よ。ただし・・・」
「ただし?」
「彼らの多くは、その存在が噂になるまで行動しないって話したわよね。その為に、通常の状態だと妖気も何も殆ど発していないことも多い。その『都市伝説』の発動条件が揃うまでは、ただのモノだったり人だったりするのよ。こうなると、私でも偶に逃すことがあるわ」
「つまり、私にその逃した『都市伝説』とやらを排除しろってことね?」
「そういうこと。あなたのその尋常でない勘なら、私が逃した『都市伝説』も見つけられるでしょう」
紫は霊夢が理解したのを見て、安心したように笑う。しかし、すぐに顔を引き締めて助言する。
「いい、彼らとの話し合いは不可能。力ずくでも効果はない。見つけたらすぐに潰すこと。手加減する必要はないわ。スペルカードルールも理解できないし、それをすることもない。いや、出来ないって言うほうが正しいわね。だから、いきなり全力で攻撃すること。あなたが弱点をつけることは殆ど無いと思うから、倒しにくいとは思うけど頑張ってね」
「今日はやけに親切ね」
霊夢が珍しいものを見るような顔になると、紫は苦笑して、
「仕方ないわよ。博麗の巫女は幻想郷の要。何かあったら大変だもの」
「ま、せいぜい気をつけることにするわ」
「そうしてちょうだい」
そう言い残して
紫は隙間へと戻っていった。
「『都市伝説』ねぇ・・・」
霊夢はお茶をすすりながら空を見上げる。
「・・・仕方ないわね、少し見回りでもしましょうか」
霊夢はそう言うと湯飲みを片付け、札と針と玉、そしてスペルカードを持って空へと舞い上がった。
「なるほどねぇ。これは一種の呪いの人形なわけね」
アリスは自宅にて、先ほど手に入れた人形の解析を行っていた。
「微量に魔力を感じたのはその為ね。しかも、これはある状況に陥らないとその効果は発動しないと・・・」
アリスはわかったことを呟きながら、メモに文字を書いていく。
「でも、対象を指定する方法がわからないわね。無差別に呪いを発動させるみたい。あと、解除方法も不明ね」
ペンを唇に当てながら、アリスは人形をじっと見つめる。
「これ、恐怖と共に娯楽を与える品よね?無差別に呪いを発動させて娯楽を得る・・・?人が困るのを見て楽しむ愉快犯用かしら?でも、それにしては発動する効果が強すぎるし・・・」
アリスはうーんとうなりながら、考える。いい加減、この状態でわかることは限界に達していた。
「・・・いっそのこと呪いを発動させてみるのも手かしら?」
危険といえば危険だが、アリスはある程度の危険なら対処できる自信があった。そもそも、魔法使いの実験には危険が付き物である。
呪いを受けるリスクはあるが、呪いそのものを見ることで新たなことがわかるかもしれない。
何より、外の世界の呪いというのに興味があった。
既に外の世界では呪い等は幻想入りしていると言われているが、そう言われていながらも残っていた外の世界の呪いとは、いったいどのようなものなのか?しかも、それは人形を媒体としている。
アリスの好奇心をくすぐるには十分すぎる内容であった。
「・・・とりあえず、やってみましょうか」
アリスは呪いから自分を守るための術式を作り始めた。
「こんなものでいいかしら・・・」
アリスは呪いの強さを考えてかなり強い防御用の術式を準備してから、人形の起動へと移った。
「えっとまずは・・・トイレに置く?」
儀式としては意味不明な手順に従い、アリスはトイレに人形を置き、一度出て扉を閉めた。
「後は、これでトイレに入って人形を見つければいいのね」
アリスはいつでも反撃できるように身構えてから、トイレの扉を開けた。
もちろん、そこには先ほどおいた人形がいるだけだった。
(・・・本当にこれであっているのかしら?)
アリスが少し疑問に思いながら人形に手を伸ばした時。
『・・・・・・るの』
「・・・っ!?」
いきなり、小さな女の子の声が頭に響いた。
(な、何!?)
アリスが警戒を強めると、再び声が聞こえてきた。
『・・・・ているの』
(テレパシー!?これが呪いの正体?)
最初は全てを聞き取るのはできなかったが、次第にはっきりと聞こえるようになった。
『私、呪われているの』
(・・・これが、呪い?)
アリスは少し拍子抜けした。そうしてこの程度なら、防御用の術式もいらないと思い始めた時、
『私、呪われているの・・・私、呪われているの・・・私、呪われているの・・・私、呪われているの・・・私、呪われているの・・・私、呪われているの。私、呪われているの。私、呪われているの。私、呪われているの。私、呪われているの。私、呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの。呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているの呪われているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
(・・・っ!!?)
頭の中が人形からのテレパシーでいっぱいになり、脳がぐしゃぐしゃにかき回されるような衝撃を受ける。
(こ、これが呪いの正体!?まずいっ!このままじゃあ発狂する!!)
アリスはすぐさま、人形に向かって弾幕を放った。
放たれた弾幕は過たず人形に全てヒットし、後ろの壁を貫いて外へはじき出した。
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
しかし、頭に響く声は鳴り止まない。
(倒せてない!?ならっ!)
アリスはスペルカードを取り出し、一体の人形を呼び出す。
――呪詛『魔彩光の上海人形』――
呼び出された人形から太いレーザーが生み出され、射程上の家の一部を巻き込みながら目標を貫く。
家が壊れてしまうの仕方が無い。それよりも対象の破壊を優先した。
何故か防御用の術式が効果が無い今、悠長に呪いの発動をとめる方法を模索している余裕は無く、『声』によって発狂する前に対象を破壊してしまわなくてはならない。
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
しかし、上海人形の攻撃が直撃したにも関わらず『声』は鳴り止まない。
(これでも、だめなのっ・・・!?)
上海人形より攻撃力の高いスペルといえば蓬莱人形か、ラストスペルのリターンイナニメトニスしかない。
(っ・・・!?)
アリスが反射的に体を横にずらすと、頭の横をなにか嫌なものが通り抜けていった。
(圧縮した呪いの塊!?こんなの食らったら一撃でアウトよ!!)
狭い室内では分が悪いと思い、すぐに開いた穴から外に飛び出す。
すぐにアリスを追うように呪いの塊が放たれる。
(蓬莱やイナニメトネスを放つにしろ、まずは動きを止めないと!!)
アリスはすぐさま牽制用の弾幕を撃つが、相手にはほとんど効果がなく足止めにすらならない。
(ならっ!)
――戦符『リトルレギオン』――
アリスから放たれた数体の人形たちが、一斉に呪いの人形に攻撃を仕掛ける。
しかし・・・
(うそっ!?)
流石に動きづらそうだが、相手は人形達の攻撃にもびくともせず、そのまま呪いの塊を放ってきた。
(くっ!?)
アリスはなんとかそれを避けたが、徐々に頭の中で響く『声』のために、動きが鈍くなっていく。
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
しかも、その『声』は徐々に大きくなり、アリスの精神を蝕んでいく。
さっきから、なんとか呪いの固まりを避けつつも何度か攻撃を加えているが一向に効果が無い。やはり、蓬莱並の攻撃力をもつスペルをぶつけるしかないのだろうか。
しかし、常に頭に鳴り響く『声』のために、これらのスペルを使う余裕がない。
(・・・っ!やばい!!)
アリスは呪いの固まりによる攻撃よりも先に、頭に響く『声』にやられそうになる。
このままこの『声』に飲み込まれれば、狂死するのは免れない。
(せめてっ!もう少しこの『声』が弱まれば!!)
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
間断なく聞こえてくる『声』に、アリスの精神は物凄い勢いで蝕まれていく。魔法使いであるアリスだからこそここまでもっているが、普通の人間ならとっくに狂死しているだろう。
しかし、アリスにも限界は存在する。しばらく呪いの塊を避けるだけ状態が続き、アリスがとうとう『声』に飲み込まれそうになったそのとき、よく聞いたことのある声が聞こえた。
――夢符『二重結界』――
(・・・!?)
見たことのある結界が人形を包み込み、それに伴い『声』の音量が下がった。
「まだ生きてる?」
「霊夢・・・」
現れた結界の近くに姿を現したのは博麗神社の巫女、霊夢だった。
「結構苦労しているみたいね」
「正直助かったわ」
まだ頭の中に『声』は聞こえるが、先ほどに比べたら随分と楽になった。流石博麗の結界は違うということだろう。
「霊夢は『声』は聞こえる?」
「えぇ、この『声』のおかげでここがわかったぐらいだもの。といっても、対象者であるアリスよりは弱いみたいだけど」
そういって、霊夢は自分で張った結界を見つめる。いや、正確にはその結界に閉じ込めているモノを見つめる。
「やっぱり私の結界でも、全く傷ついている様子はないわね」
「・・・霊夢は何か知っているの?」
「詳しい話は後、まずはこいつをどうにかしてからよ」
そういって、霊夢は新たなスペルを用意する。
「気付いていると思うけど、こいつには並大抵の攻撃じゃあ効果は無いわ」
「そうみたいね。少なくても私の上海人形では全く効果が無かったわ」
霊夢の言葉に、アリスは『声』のために顔をしかめながらも答えた。
「そう、上海でもだめだったの・・・」
霊夢はそれを聞いてすこし顔をゆがめた。
アリスが手数で勝負するタイプだとは言え、そのなかでもパワー型である上海人形の攻撃力は決して低くない。
霊夢の札を持つ手にわれしらずに力がこもった。
「とにかく、私のもつスペルの中で最強の攻撃力を持つのを使うから、アリスはやつを足止めしておいて」
「わかったわ」
霊夢とてパワー型とは言いがたいが、アリスよりは攻撃力に秀でている。
手数の多いアリスが足止めをするのは、当然のことだった。
「結界を解除したら、始めるわよ。いい?」
霊夢が符を手に持って聞いてきた。
アリスも符を符を手に持ち、無言で頷く。
「いくわよ!」
霊夢がそういった途端、結界が解除され、あの狂気へと誘う『声』が大音量で頭の中に響いてきた。
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
(・・・っ!!)
アリスは一瞬『声』に飲み込まれそうになったが、歯を食いしばって耐え、スペルを発動させた。
――戦操『ドールズウォー』――
アリスの指示で大量の人形たちが目標を取り囲み、各々の武器で対象を切り刻む。
だが、対象の人形には傷一つつかない。
しかし、多くの人形によって呪いの人形は身動きが取れないようだ。
「今よ!霊夢!!」
――宝具『陰陽鬼神玉』――
霊夢の手から極大の陰陽玉が放たれ、人形に向かっていく。
身動きの取れない人形は、霊夢のスペルを避けられず陰陽玉が人形に直撃した。
陰陽玉に直撃された人形は、その体が見る見るぼろぼろになっていく。
それに伴い、頭の中に聞こえていた『声』が徐々に小さくなっていく。
(やったかしら!?)
二人がそう思ったその時、
(えっ!?)
突如、人形がその場から忽然と消えた。
(うそっ!何処に!?)
「アリス!後ろ!!」
霊夢の声でアリスが振り向くと、目の前にその人形が浮いていた。
『のろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているののろわれているの』
人形は残った全ての力をかけて、アリスだけでも狂死へと誘おうとしているのがわかった。
(うくっ・・・!!)
今までのとは比べ物にならない音量の『声』が、アリスを襲った。
霊夢が、すぐさま新しいスペルを出そうとしているが、さっきの陰陽玉がまだ残っているせいで、次のスペルが発動できない。
アリスもとてもではないが、スペルを放つ余裕は無い。
人形の全力の『声』は、いかにアリスといえども数秒ももたないほどの威力を持っていた。
(だ、だめっ・・・)
アリスの精神力が限界を迎え、霊夢が間に合わないと絶望しかけたその時、
――魔空『アステロイドベルト』――
突如、大量の星弾が人形を襲い、それと同時に『声』が弱まった。
「いけ、アリス!!」
耳に聞こえてきた声に反射的に反応して、一体の人形と符を取り出す。
「これで、最後よ!」
≪ラストスペル≫
――魔操『リターンイナニメトネス』――
取り出した人形を呪いの人形に押し付け、スペルを発動させた。
スペルが発動した途端、人形から膨大な魔力があふれ、アリスごと呪いの人形を吹き飛ばした。
(これで、倒したのかしら・・・?)
気を失う直前アリスが目にしたのは、箒に乗って不適に笑う黒白の魔法使いだった。
「・・・ここは?」
「お、目が覚めたか?」
アリスが目を覚ますと、そこは自分のベッドで、自分の顔を魔理沙が覗き込んでいた。
「一応手当てはしといたが、しばらくは安静にしておいたほうがいいぜ」
「・・・」
アリスは魔理沙から視線をそらし、周りを見る。
すると、そこには霊夢と紫が立っていた。
「どう、気分は?」
「・・・いいと思う?」
「ま、言い返すぐらいの元気はあるみたいね」
霊夢が少し安心したように息をつく。
「・・・あの人形は?」
「大丈夫。あなたの攻撃が止めとなって、完全に破壊されたわ。後始末はこいつに頼んだし」
そう言って霊夢は紫を指し、紫は微かに笑った。
「しかし、頼んですぐに見つけてくれるとわね。流石博麗の巫女」
「わたしだって、こんなにすぐ見つかるとは思わなかったわよ」
霊夢と紫が何か言い合っているが、とりあえず聞きたいことがあるのでアリスは二人に声をかけた。
「ストップ。さて、霊夢。あの人形について聞きたいんだけど?」
「それは私から説明するわ」
そう言って紫が、最近幻想郷に入り込んできた『都市伝説』について話し始めた。
アリスと魔理沙はそれを聞き、同時にため息をついた。
「厄介なものが入ってきたわねぇ」
「全くだぜ」
とりあえず今回の『都市伝説』は三本足の人形をトイレで見つけたら、狂い死んだというものだったらしい。
しかし、聞いてみるとすごい矛盾のある話だ。
人形を見つけた人間が死んだのなら、どうしてその人が三本足の人形を見つけたということがわかるのだろう?
まぁ、このような話だからこそ、『都市伝説』は情報としての存在になっているのかも知れない。
そうアリスは考えた。
「ま、とりあえず、今回の事件はこれで終わりね。じゃあ霊夢、また見つけたらよろしくね」
「二度と見つからないことを祈るわ」
「ふふふ」
紫は意味深な笑みを浮かべて、隙間へと入っていった。
その際、一瞬だけ目があったようにアリスは思った。
「さて、私はかえるけど。一人で平気よね」
「えぇ、動けなくても人形があるからどうにかなるわ。助けてくれてありがとう」
もともと、家事はほぼすべて人形たちにやらせていたので、動けなくてもあまり支障は無い。
アリスは二人に礼をいって帰そうとしたが、魔理沙はそのまま居座り、
「いや、けが人を一人で置いておくわけには行かない。ここは私が・・・」
「結構よ」
魔理沙が言い切る前にアリスは拒否した。
「ひどいぜ、そんな言い切る前に即答しなくても」
「あんたのことだから、家中を引っ掻き回された挙句、私のコレクションをいくつか盗みかねないもの」
「盗むなんてそんなことしないぜ。ただ、かってにしばらくの間借りるだけだぜ」
「そのしばらくって言うのは、あなたが死ぬまでとか言うんでしょう?冗談じゃないわ。居残るようなら人形たちをけしかけるわよ」
アリスが睨みだけではなく実際にに人形を操りはじめると、魔理沙はしぶしぶ帰っていった。
魔理沙がでていったのを確認してから、アリスは人形たちを元の場所に戻した。
「ふぅ、さてまず最初にやることは・・・」
アリスは今やら無くてはいけないことを頭に思い浮かべ、頭を抱えた。
「・・・家の補修からか」
大きな穴が開いているトイレを思い浮かべ、アリスはげんなりするのであった。
こういった系統のSS結構好きなんで期待してます
凄くメルブラのタタリと設定が酷似しているんだけど・・・・・
もしパクリであるなら言語道断!確実にマイナス点、独自で思いついたのであればプラス点。
しかし真意が判らないのでフリーレス。
娯楽と恐怖を与える・・・肝試しと似ていますがまったく別のものなのですね。
↓の方、『都市伝説』ですよ。
怪談に出てくる人形がアリス宅に→害をなそうとしたら先住の人形たちにもっこもこ(全部アリスが気づかないとこで進行)→アリスが何も知らない間に解決
とか思ってしまった
都市伝説と三本足、ときた時点で、ニヤリとしてしまいました。
だけど、直接攻撃してきたのが残念。もっと間接的に精神を追い込んでくるかと思ったんですが・・・まあ、今後の作品もあるようなので、そちらを楽しみに待ちたいと思います。
これでは性質の悪い妖怪と大して変わらない気がしますし・・・
まあ、次回に期待します。
期待していりので頑張って下さい
『メリーさん』とか『くちさけ』と言った都市伝説の妖怪どもが、
幻想入りするということか・・・?
たどしたら幻想郷がピンチではないかwww
やはり幻想郷の彼女達と絡めるとなるとさじ加減が難しい所もありそうですね
個人的にはターボババア(ジェットババアの方が分かり易いかな?)と魔理沙のレースとか見てみたいですがそれは置いておいて次回作にも期待
しかしこの設定だと電話の無い幻想郷にメリーさんは入れないと言うことか
一番好きな都市伝説なだけに少し残念w
その要素も薄いし
まさに外国ホラー
好みの問題ですみませんが私としてはちょっと
例えば
精神的(心理的)なダメージとか、時間をかけてじわじわとか
・・・空気?
うまく伝えれなくて申し訳ない(というか、私の好みとか言ったってしょうがない気もorz
とか言ってみる
作品はただの戦闘ものとしか感じませんでした
人形、普通のマジックアイテムみたいに扱われてたし
一番のいい感じである雰囲気があまり出ていない感じなので、厳しめの評価を。
なんとなく途中の怪談の説明が、まるで電撃文庫の『Missing』みたいな感じがしましたが、実際、参考にされるといいかと。
この作品も、空気で怖がらせる作品なので。
次回、もう少しいい雰囲気を出して欲しいところです。
ん~、やっぱりホラーにしないと、違和感があるみたいですね。
妖怪や亡霊がそこらじゅうを闊歩している幻想郷で、こういったホラーは成り立ちにくいと思っているのですが・・・。
まぁ、そこをどうにかするのが物書きとしての実力なのでしょうが。
う~・・・精進します。
あと、ジャパニーズホラー的な雰囲気を求めている方が多いようですが、幻想郷入りできそうな『都市伝説』って、ぱっと知っている話を思い浮かべると、どうしても肉体的なものが多そうなんですよね。
オリジナルの『都市伝説』を作れば別なんでしょうけど。
今回は流石に呪いでいけましたけど、多分、これからはホラーよりもスプラッタ系が増えるかもしれません。
>メルブラ
メルブラは知っているというレベルで、話の詳しい内容などは知りません。なので、今回の話の設定の元にはなっていません。
今回、ある程度影響を受けているなと思っているのは、スニーカー文庫で昔あったシェアードワールドノベルスぐらいで、その他のゲーム、文章を参考にはしておりません。
・・・ただ、ありがちな設定だと思っているので、どっかでかぶっている可能性は否定できないんですが・・・。
>Missing
ちょっとあれはすごすぎて、参考にしようと思っても、多分力量の問題で変な形で入り込んで、余計にだめにしてしまう気がするのですが・・・。
このご時勢好奇心を満たす物なんてそこら中に転がってるもんなー
続編期待してます
そんな意味でこの点数。
続編期待してますね。
違和感無く『外敵』を演出するには良い素材です。
ってかゆかりんのモデルってずっとアレだと思ってるんですが。
トイレで紫鏡を持って4:44に・・・そう、「紫バb(スキマ
私なりの考えでは都市伝説は未知に対する人の恐怖心から生まれるものなので、決して幻想郷入りしないと思いますが、民間伝承の魑魅魍魎たちは幻想郷入りしていることもありますので、こういう見方もあるんだなぁと、読んでいて面白かったです。
都市伝説と民間伝承の関係を見ていると、何だかわくわくしてきますよね。
楸さんはキャラに不自然な設定を加える事がないので、安心して読んでいられます。
ただたんに、マジックアイテムとの直接戦闘
まぁ、これはほとんど全部の都市伝説に言えることですが。あと外国から入ってきたのが日本風にアレンジされたのとかもありますし。
全く関係のない話ですが、ジャパニーズホラーといえばやはりS子さんかとww。某格ゲーでも大活躍ですし、あの方ならスペルカード使ってきても違和感ないしww。長レス失礼。
単なる戦闘に終始してしまいましたが、まだ一話目ということもあって
辛めに評価している人たちもそう簡単に結論を出すのは早いかと。
この面子だけでない、たとえば永夜組にも怪奇が訪れて、やがて、みたいな
大規模異変話になる展開を期待するのはダメですか?
決められた設定さえ打ち破るとはさすがだww
続編希望です。
そのうち「世にも奇妙な物語」も幻想郷入りしたりして・・・
この話も中々のスリルでっせ~。
でも戦闘しただけなのが残念。
肝心の都市伝説に関する説明や描写がちとおざなりなのが残念。
>3
妖怪・オカルトを題材にしたライトノベルでは非常に便利かつありがちな設定。
伝記系の読者を新規開拓したのは型月の功績だけど、
自分にとって印象の強いものをなんでも唯一無二のオリジナルだと思いたがる輩を
誘発しやすいのが玉に瑕。
貴方のような。
現代の妖怪もなめたもんじゃないですねえ。
伝説の名を冠するだけはある、ということなのでしょう。
面白かったです。