「水色、水色、水の色~♪青くはないのに水の色~♪」
今日も夜道で屋台の仕事。でも生憎天気は雨模様。
しとしと、しとしと静かに夜道を濡らす。
こんな日はあんまりお客は来ないけど、それでも私は屋台を始める。
こんな日でも来てくれる人がいるのなら、私はそれを拒みたくない。
「水面に陽炎、湖面に蜃気楼、海面には白玉楼♪」
屋台を叩く雨の音、私はそれに合わせて歌を歌う。
雨宿りに来た鳥たちは、歌う私に合わせて歌う。
「降って、流れて、飲み込まれ、最後は蛙の腹の中~♪」
雨は屋台の屋根を叩き、独特なリズムを奏でる。
暖簾を湿らす雨水は、垂れて地面に水面を作る。
水面にはねる水滴が、少しだけ高い音を作り出す。
「水色、不透明、水の色♪水の色じゃないのに水の色♪」
お客は全然いないけど、伴奏は沢山。歌うだけなら悪くない。
「いつ来てみても歌っているね」
「あ、いらっしゃい♪」
最初のお客は道具屋の店主。森の入り口でお店をやってる。
「とりあえず、お酒と串揚げの盛り合わせを」
「はいは~い」
私はお酒を霖之助さんに出し、串揚げの準備をする。
霖之助さんは静かにそれを飲みながら、雨と私の歌に耳を傾けている。
「雨が降ったら地面は濡れて♪雪が降ったら地面は凍って♪槍が降ったら穴だらけ~♪」
「・・・相変わらず意味不明な歌だ」
霖之助さんが静かにお酒を飲んでいると、二人目のお客さんがやってきた。
二人目のお客さんは始めてみる人。カエルの絵が描かれた白と紫の服に、目玉の付いている変わった帽子。見た目は結構幼い感じ。
「ここね。早苗が言っていたお店って」
「いらっしゃ~い♪」
「あら?先客がいるのね」
「初めて見る顔だね」
「ん、最近山に引っ越してきた洩矢諏訪子よ」
「僕は森近霖之助だ。しかし山?となると・・・、先日出来たという神社の関係者か?」
「そ、麓の巫女から話しでも聞いた?」
「いや、僕の場合は魔法使いの方だ」
「あぁ、あの子ね。あの子との『お祭り』も結構楽しかったわねぇ」
「『お祭り』?なにか彼女が催し物でもしたのかい?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。いや、そういうわけなのかな?ま、いいわ。店主さん、お酒と串揚げ、あと適当になんかちょうだい」
「は~い♪」
私はお酒を出してから、料理を始める。
それにしても、この人。山から来たとか言ってるけど、前に来たもう一人の巫女さんの家族だろうか?見た目的には妹あたりかな?
「しかし、あそこには人間は巫女一人と聞いていたが、君がその巫女なのか?」
「うん?違うわよ?巫女っていうか風祝は早苗、私は早苗に祀られる方」
「え!?ということは・・・」
「私はそこの神社の神様よ」
「「えぇっ!?」」
思わず私も歌を止めて驚いてしまった。
神様って、こんな姿なんだ~!
「あーうー、わかっていたけどね、その反応・・・」
「い、いやすまない。まさか神様だとは思わなくて・・・」
うんうん。私も全く思わなかった。
「そりゃぁね。神奈子のほうが見た目は神様っぽいからねぇ。それに比べて私はこんなんだし・・・」
「ま、まぁ、神といっても千差万別だろうからね。実際秋を司っている神の姉妹も、それほど神々しい感じがしているわけではなかったし」
秋の神様って言うとあの、芋の匂いのする赤い服の神様だよねぇ?確かに見た目は霊夢なんかと同じぐらいに見えてたわね。
「・・・まぁ、いいわ。いまさら自分の姿に嘆いても仕方ないしね」
そう言って、諏訪子さんはお酒を飲み始めた。
「しかし、何故神がわざわざこんな場所に・・・?」
こんな場所とは失礼ね。否定はしないけど・・・。
「ん~、私の神社にいる早苗が前に麓の巫女に連れられてここに来たことがあってね。その時、ここの料理が美味しかったって聞いたからね」
「ふむ、まぁ、確かにここの料理はなかなか美味しいからね。常連も結構いるようだし」
「みたいね、他のとこでもここの噂はちょくちょく聞くもの」
「しかし、だからといって・・・」
「なーにー?神様が来ちゃいけないっていうの?」
「いや、そういうわけではないが、どうしても違和感がね」
「店主もそうなの?」
「え?私は歌を聞いてくれるなら来る者拒まずよ♪」
この屋台を始めた最初の目的とはずれるけど、今ではそれが屋台をやっている理由だし。
「ふ~ん。でも、確かにずっと歌っているわね。早苗の言った通り」
「店主の歌はここの特徴だからね。里では結構人気があるみたいだが」
「へぇ~、外の音楽に近いものがあるわよね。歌詞はすごいけど」
「む、外の音楽?あなたは・・・」
「諏訪子でいいわよ」
「・・・諏訪子さんは外の音楽を知っていのかい?」
「そりゃあ知っているわよ。もともと外の世界から来たわけなんだし」
「そうか・・・なら」
「・・・なに?」
「いや、外から来たということは外の道具の扱い方も知っているのかい?」
「ん~、その『外の道具』が何を指しているかによるけど、一応はね。まぁ、でも、そういうのは早苗のほうがもっと知っているとは思うけど。私は外にいたけど、外の文明を使って暮らしていたわけじゃないからね」
「なるほど」
「な~に~?外の道具に興味があるの?河童みたいだねぇ」
「いや、興味があるのは間違っていないが、僕が知りたいのは使い方なんだ」
「う~?」
「実は僕は道具屋をやっていてね。それで外から入ってくる品を結構持っているんだ。ただ、何に使うかはわかるんだがどう使うのかが分からなくてね」
「あ~、それで使い方を聞きたいわけなんだ?」
「そういうことだね」
「ん~、まぁ、じゃあ早苗に聞いてみるかな。上手くいけば河童と協力して便利なものが手に入るかもしれないし」
「そうか、それはありがたい」
「ま、聞いてみるだけだけどね」
霖之助さんと諏訪子さん、なんか約束を交わしてる?外の世界の道具がどうとかこうとか。
外の世界はいろいろあるっているけれど、私の歌声をもっと遠くまで響かせる道具とか無いかしら?こんど聞いてみようかな。
二人はしばらく外の世界について話していた。そんな中、三人目のお客さんがやってきた。
雨の日なのに思ったよりお客さんが来てくれる♪
三人目のお客さんはとっても強いお花の妖怪。
普段はおとなしくて、いっつも笑顔を振りまいているんだけど、何故かその笑顔が怖い妖怪さん。
今日はいつも持っている日傘の変わりに、普通の傘をさしてきた。
「こんばんは。お邪魔するわよ」
「いらっしゃい♪」
「おや、あなたは確か太陽の畑にいる・・・」
「フラワーマスターの風見幽香よ。あら、そっちの子は初めて見る子ね。なかなか強そうだけど」
「最近山に越してきた洩矢諏訪子よ。そこで神様やってるわ」
「あら、そうなの」
「・・・驚かないんだね」
「神なんてそこらじゅうにいるじゃない。いまさら一柱増えたところで驚かないわ。もちろんこんな屋台にいることもね」
「ふむ、長く生きたものは考え方が違うね」
「ふふふ♪あ、店主さんまずお酒をもらえるかしら」
「はいは~い♪」
私は幽香さんにコップに入れたお酒を出す。
「しかし、人のことは言えないがよくこんな雨の日に外に出たいと思ったね」
「うん?私は蛙の神だからね。カエルが雨を嫌がるなんておかしいでしょう?ケロちゃん雨にも負けずってね」
「私は花の妖怪よ?恵みの雨を嫌がるわけが無いじゃない。・・・降りすぎると根腐れ起こして困るけど」
「なるほど、つまりこの中で僕だけが物好きというわけか」
「そうなるわね」
「ねーねー、あなたはどうしてこんな雨の日に外に出たの?」
「ん~そうだな、強いて言えばなんとなく、かな」
「・・・よくわかんないね」
「そんなものさ、人の行動原理なんて大体なんとなくでよくわからないものだよ。長いこと付き合っているが、未だに魔理沙の考えは良くわからないし」
「あれは、ある意味とても単純だと思うけど」
「そ~ね~、すごく直情的な感じだったし。それよりは麓の巫女のほうがわかりにくいと思うな」
「あれはあれで意外と単純よ」
お客さんたち、巫女と魔法使いの話で盛り上がってる。
あの二人良く話題に上るけど、いろいろありすぎてすごいんだかすごくないんだかわからなくなってる。強いのは確かなんだけど・・・。
「巫女といえば、諏訪子さんのところの巫女も霊夢と同じ感じなのかい?」
「全然違うよ。まず、妖怪退治なんてしないし、なにより麓の巫女より真面目だもの」
「・・・あれより不真面目なのもあまりいないとは思うけど」
「せめて暢気ぐらいにしておいてあげたほうが・・・」
「あら、違うのかしら?」
「・・・否定は出来ないな」
「まぁ、早苗の場合は他の人とも比べても、ちょっと真面目すぎる感じがするからねぇ。もうちょっと柔らかくなってもいいと思うんだけど」
「性格なんてそう変わるものじゃないよ。変えられるのならとっくに僕が魔理沙の性格を変えているさ。いったい彼女にどれだけ商品を盗られたことか・・・」
「ふふふ、それじゃあ私が代わりに懲らしめてこようかしら?」
「君の場合はただ単に虐める口実が欲しいだけじゃないのか?」
「あら、私は虐めるのに口実なんていらないわ。やりたいときにやるだけよ。日課ってそういうものじゃないの?」
「それが日課というのもどうかと思うが・・・」
「ストレス発散にはうってつけよ」
「・・・はぁ」
しばらくお客さんたちは他愛も無い話をしながら、飲んでいた。
私も雨の音に合わせて、ちょっと静かな歌を歌う。外の世界で言うところの『バラード』ってやつかな。『バラード』の意味なんて知らないけど。
「それにしても不思議よね~」
「ん?何がだい?」
「ここって、人間も妖怪も来るんだよね」
「そうね。人間も妖怪も幽霊も見たことあるわね」
「その中には、人間に害をなす妖怪もいるのよね?」
「そうだね。人食性のような天敵の妖怪や、単純に虐めをするような迷惑な妖怪までみんな見かけるね」
「あら、私は別に人間以外にも手をだすわよ?」
「それでも、人間はここにくるのよね?」
「そうね」
「どうしてだろうな~って」
「それは、ここでは妖怪は襲ってこないことがわかるからじゃないのかい」
「なんでおそわないのかなぁ?別にここは人を襲うことが禁止されている里の中ではないんでしょう?」
「それは・・・」
「私の方を見ても困るわよ。少なくても私は、単純に弱い人間を虐めても反応が面白くないからよ」
「まぁ、君は人食いの性質は持ってないみたいだしね。そこまで人を襲いたいとは思わないのだろう」
「店主はわかる?」
諏訪子さんが私に振ってきた。
私は歌いながらちょっと考える。すると、すぐに答えが出てきた。
「それは、楽しくないからじゃないかな?」
「楽しくないって・・・妖怪によっては人を襲うのが生きがいでしょう?そんなことあるのかなぁ?」
諏訪子さんの言葉に霖之助さんも幽香さんも頷いている。
「じゃあね、なんで皆はお酒を飲むと思う?」
「そんなこと決まっているじゃない、飲みたいからよ」
幽香さんの答えに私は頷く。
「そ、飲みたいから。そして酔いたいから。じゃあなんで酔いたいんだと思う?」
「・・・あぁ、なるほどね」
幽香さんはわかったみたい。人を襲う側だからわかりやすかったのかも?
「お酒を飲みに来る人は沢山いるわ。そして、なんのために飲みに来るかも人それぞれ♪」
嬉しいことがあったから、嫌なことがあったから、単純に飲みたいから。
「でも、みんな酔いたい理由って、今よりもっと楽しくなりたいから♪」
嬉しいことがあった人は、もっと幸せになるために。
嫌なことがあった人は、そのことを忘れるために。
単純に飲みたい人は、酔うことで楽しくなりたいから。
もちろんお酒が美味しくて飲むのもあるけど、みんな基本は酔いたいものだと思っている。
「もちろん、人によっては逆に酔うと落ち込んじゃう人もいるけど、基本的にお酒を飲む理由って、酔って楽しくなりたいからだと思うんだ♪」
それは、私が何人もの酔っ払いを見てきたから感じたこと。
「そんな皆が楽しくなりたいところで、人間だ妖怪だ、襲うだ襲われるだ、とかって無粋でしょう♪それじゃあ、どっちも楽しくなれないじゃない♪」
「・・・なるほどねぇ。確かにそれは無粋よね」
「僕もそれには同意だな」
霖之助さんと諏訪子さんもわかったみたい。
もちろんこれが正解かどうかはわからないけど、私はそう思うな。
「さあ、疑問が解決されたところで、新たに注文いいかしら?」
「あ、私も」
「それじゃあ、僕も」
「はいは~い♪」
三人のお客さんはすっきりした顔で、また飲み始めた。
三人の声と歌声を、雨の夜道がやさしく包み込む。
夜明けまでにはまだ少し・・・
みすちーよ、芋の臭いは妹やで、お姉ちゃんは多分別のにおいがする…ハズ。
登場人物は誰でもいいんじゃないかと思うのだけど、よくよく考えるとこの人しか居ないなと思わせるてくれます。
>自分が書く文章には、二次設定(ネタ含む)はほとんど出てきません。
そういうのが好きな人もここにいますよ。
この作品の雰囲気が好きなので次回作にも期待しています。
という私としては問題無し!
>二次設定
あっさりしてて良いかとww
ミスチーの屋台・・・行ってみたいなぁ・・・と思う自分がいるw
>お姉ちゃんは別のにおい
なら姉のほうはジャガイモの香りとか如何?w
>芋の匂い~
秋姉妹は結構一緒にいると思うので、みすちーにはどちらから匂いがしるとかわからないんじゃないかと思います。
>この人しかいない~
褒めてもらって恐縮ですが、登場人物自体は結構思い付きによるアトランダムで、二夜目のルナサなんかはメルランが来ていたかもしれません。そういう意味では登場人物は誰でもいいんですが、その会話に至るには絶対そのメンバーじゃないといけないんだとも思います。きっと、メルランが来ていたら全く別の会話になっていたでしょう(苦笑)
>変わった組み合わせ~
思いつくままに登場人物を決めているので、こういった変なメンバーになってしまったようです。でも、自然といってくれたのはとても嬉しいです。
>次回作に期待~
ありがとうございます。ちょっと今はやらなくてはいけないこともあるので、多分それが片付いたらになりそうです。
・・・変なテンションに取り付かれたら、書いてしまうかもしれませんが(笑)
>二次設定があっても~
そう言ってもらえると、投稿するのが楽になります。
二次設定をほとんど排除している話って、自分が読んだもの中ではあんまり無いので。
>とっても「粋」~
なかなか嬉しい褒め言葉です。
諏訪子もかなり長生きなので、こういうちょっと大人っぽい感じを持っていてもいいかなぁっと思って、こんな雰囲気の屋台に登場させました。
>面白い。~
ある意味最高の賞賛ですよ。
基本的にそれが聞きたいが為に作品を見せるものですから。
この後早苗さんは香霖堂に行くかな・・・?
>二次設定
最近本来の設定が無視されつつあるのでこういう考えは大歓迎。
>二次設定
何気ない日常は行雲流水ってなものですよ。花見酒、月見酒。酒は風流を楽しむものです。こういう雰囲気では不要かと思います。
>>二次設定
無い、あるいは僅かな方が好みなので全然大丈夫ですよ。
話も盛り上がる。
屋台は色んな人生が見られますしね。
すごく和みます。
いや~、今回は酒が中心ですか~。
まだ高校生なんで酒は飲めないですがorz
逆に、このしみじみした雰囲気に2次設定ネタは少ない方がいいと思ってましたから、むしろありがたいです。
次回作、待っているのでがんばってくださいね!
二次設定?そんなものは無くても大丈夫ですよ。
さて、実はこの屋台の会話シリーズは、昨年の11月に検索サイトを通じて知り、また、拝読も差せて頂きました。しかし、お酒の肴に読んでいた所為か、この、小説の独特な雰囲気の所為か、はたまたミスティの歌がこの、小説から幻聴の如く、私の耳に届いた所為か、感想を書き込まないと言う、大失態を犯してしまいました。此処に深く作者様、また管理者様にお詫びを申し上げます。
言い訳も終わったし、此処から感想を書き込みしますか!(えー、今からかい;
この、作品の雰囲気最高です!特にミスティの女将さんぷりが良い!そして、東方Project原作者のZUN氏の醸し出す雰囲気と感じが一緒な感じがします。本当にお酒の肴にぴったしです!あー、今日も仕事終わりに、ミスティの屋台に行くか!(もう、来ているか;
では、長文になりましたがこれにて、失礼します。
追伸、ミスティは、私の歌姫!って言って良いと慧音先生が言っていたとか言わなかったとか・・・。