Coolier - 新生・東方創想話

ちび巫女霊夢 ~紅魔郷EX~

2008/02/08 09:25:22
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   この話は『ちび巫女霊夢~紅魔郷~』の続編です。
   前作は読まなくても楽しめますが、読むと一層楽しめるかも知れません。







 ふか~い、ふか~い、地面の下。くら~い、くら~い、部屋の中。そこには一人の女の子がいました。女の子はとても長い時間をその部屋で過ごしています。あまりにも長い間なので、女の子には今がいつなのか時間も季節もわかりません。時々、メイドというのが訪れる以外はこれといって変化の無い毎日でした。けれどある日、女の子は部屋が振動しているのに気がつきました。こんなことは今まで一度もありません。女の子が不思議に思いながら、天井を見上げていると、遠くの方で音が聞こえました。耳を澄ませていると、音と振動は交互に女の子の元へやって来るのがわかりました。女の子はますます不思議に思いました。音がして部屋が振動しまた音がする……それが何度も繰り返され、やがて少し大きな音が聞こえました。その後の振動が止まると、それっきり音も振動もしなくなり、部屋にはいつも通りの静けさが戻ってきました。しかし、女の子は先程の振動と音が気になって仕方がありませんでした。さっきのはいったい何だったのか、女の子は考えますがさっぱりわかりません。けれど一つひらめきました。それは誰かに聞けばいいということです。幸いにもしばらく待てばメイドがやってくるはずです。女の子はその時を心待ちにするのでした。





 紅霧異変からしばらくたち、夏真っ盛りを迎えた幻想郷、その日は雲一つない快晴だった。蝉たちの鳴き声が響き渡る博霊神社、その縁側でレミリアと霊夢が向き合い、あやとりに興じている。その周りには折り紙やお手玉、人形なとが散乱していた。
「最近よく見かけるが、そんなに屋敷を空けて大丈夫なのか?」
 境内へと降りてきた魔理沙がレミリアの姿を見るなり尋ねた。
「あら、魔理沙……やきもちかしら? 私は友達の家に遊びに来ているだけよ。ねー、霊夢」
「ねーレミリアちゃん」
「仲のよろしいことで……しっかし、暑いなー。霊夢、麦茶もらうぜ」
 返事も聞かずに魔理沙は縁側から中へと上がり台所へと向かっていった。しばらくして、なみなみと麦茶を注いだコップを片手にし戻ってくると、縁側に腰かけ、脱いだ帽子で扇いだ。
 その姿を一瞥しレミリアは呟いた。
「そんなに熱いなら、黒い服をやめればいいじゃないの」
「おいおい、そいつはできない相談だせ……この服は大切な人から貰ったものなんだからな」
「なら、暑いのを我慢することね」
「そうだレミリア、またあの霧を出してくれよ。そうしたら涼しくなるぜ」
「嫌よ、そんなことしたら霊夢に怒られるわ」
「魔理沙ねーちゃん、わがまま言っちゃだめだよ」
「はいはい、悪かったな……つーか霊夢、遊び終わったらちゃんと片付けないとだめだぜ」
 散乱した折り紙やお手玉を指差す。
「あうっ、ごめんなさい……」
 少し首をすくめると、散らかっていた物を一ヵ所へと集め始めた。その時、雷鳴が轟いた。
「ひやっ!」
 あまりの大きな音に霊夢は手にした物を放り出し、レミリアへと抱きつく。レミリアはなだめるように霊夢を抱きしめ背中を撫でた。
「おおっ、ひと雨くるのか?」
 麦茶を飲み干すと、空を仰ぎ見る。しかし空には雲一つない。不思議に思い立ち上がり、周りを見渡す。すると、遠くの方にだけ雲がかかり雨が降っているのが見えた。
「なんだあれは、局地的集中豪雨みたいだぜ」
「あらやだ、わたしの家のある方角じゃないの。困ったわ、雨の中は力が出ないのよね。このままじゃ帰れないわ」
「えっ、それって大変じゃないの」
 レミリアから離れた霊夢は、雨の方を見る。
「とうとう追い出されたのか?」
「追い出されたというよりも、あれは……」
「そんなことはどうでもいいよ!」
 二人の会話を遮るように霊夢が声を上げる。
「このままじゃレミリアちゃんが、帰れないんだよ。お家の人たちが心配しちゃうよ」
「そうね、咲夜がいないと食事にも困るわね」
「仕方ないな、ひとっ飛び行ってくるか」
「レミリアちゃんはここで待っててね」
 霊夢は空へと飛び上がると一直線に紅魔館へと飛んでいった。
「おいまて霊夢、お前も留守番だって……あ~もう、ちょっとまてって!」
 霊夢の呼び止めに間に合わなかった魔理沙は、ホウキを取るとまたがり後を追いかけるように飛んでいった。
「……さて、運命はあの子にどんな結果をもたらすかしら。霊夢が関わるとどんな運命になるかわからなくなるわ、まるで霧がかかってるみたいにね……」
 誰に聞かせるわけでもなく呟くと、踵を返し部屋の中へと入っていった。


 ――霊夢たちが飛び立ってしばらくすると、黒い球体が博霊神社へと飛んできた。境内に降り立つと、球体が消え、中からルーミアが姿を現した。
「霊夢~あそぼ~」
 社へと走り寄りながら呼びかける。
「霊夢ならお出かけ中よ、ルーミア」
「あれ、レミリアちゃん……もしかしてお留守番?」
「まあ、あがりなさいな……1人で暇してたところだから。今、麦茶を入れてくるわね」
「わあ~ありがとう」
 台所へと向かうレミリアに、ルーミアは笑みを浮かべて声をかけると、室内へと入っていった。





 雨の降る中を飛んでいた霊夢は、門前を行き来する門番隊の中に美鈴を見つける。
「おーい、美鈴ねーちゃーん!」
「とりあえずはなんとかなったけど……ん? わわっ!」
 霊夢は急降下すると美鈴の胸へと飛び込んだ。
「霊夢ちゃん。どうしてこんなところに……まさか、レミリアお嬢様に何かあったの!?」
 抱きとめた霊夢を少し離すと問いただす。霊夢は首を振り空を指差した。
「この雨を止めに来たの」
「雨を止めにって……」
「ふう、やっと追いついたぜ」
 霊夢の言葉に戸惑う美鈴の前に魔理沙が着地する。
「よう美鈴。この雨はなんだ? 事と次第によってはタダじゃすまないぜ」
「そうそう、このままだとレミリアちゃんが帰れないから雨を止めてよ」
 二人にじっと見つめられた美鈴はたじろぎ顔をそむけた。
「私に言われてもどうにもできないですよぅ」
「この雨はパチュリー様が降らしてるんですよ。フランドール様を外に出さないために」
 美鈴の背後にいつのまにか楊が立っていた。
「楊!?」
「隊長、結界石の配置完了。門番隊にも中の応援に行かせましたけど、我々はどうします?」
 驚きながら振り返った美鈴に楊は敬礼し指示を仰いだ。
「私たちも中へ行きましょう。妹様を止めないと」
 美鈴は霊夢を抱いたまま楊と共に屋敷へと歩き出す。その後を魔理沙がついていった。
「ねえ、フランドールって誰なの」
「そうだな、詳しく聞きたいな。一体全体何が起きてるのかを」
 玄関へ向かいながら二人は美鈴たちに尋ねた。
「私の口からはその……」
 美鈴は困惑し口ごもると、すこし歩を速めた。
「話してもいいんですけども、その場合私がクビにされてしまうかも知れないし、最悪の場合は命が……」
 楊が苦笑いしながら頭をかく。
「そうね、不用意に喋ったらあなたの額にナイフが刺さるところよ」
「さ、咲夜さん!」
「メイド長!」
 玄関前にたたずんだ咲夜の姿に美鈴と楊は驚き固まった。
 四人をじっと睨むように見下ろす咲夜に、霊夢は瞳を潤ませると、視線から逃げるように美鈴の胸に抱きつく。
「メイド長直々にお出迎えとは、手厚いもてなしだぜ」
 魔理沙が前に進み出て霊夢を庇うように立ち、咲夜を見据える。しばらく沈黙が続いたのち、咲夜が肩の力を抜くように息を吐いた。
「雨の中を傘もささずに来るなんて何考えてるのよ。霊夢ちゃん、魔理沙、タオルを用意するからついてらっしゃい」
 背を向け歩き出そうとして動きを止める。
「美鈴! 楊! あなたたちは門の前で警戒してなさい」
「ええっ!」
「そんなぁ」
「門番が門を無人にしてどうするのよ。それとも……なにか不服でもあるのかしら?」
「「わっかりましたーーーーーーっ!!!!」」
 咲夜が振り向きもせずに語気の鋭さを少し上げると、美鈴と楊は敬礼し、一目散に門へと走っていった。
「まったく……さあ、こっちよ」
 玄関の扉を開け、霊夢たちを招き入れると応接室まで案内しタオルを差し出した。魔理沙はタオルで体や服についた水滴を取り、帽子をはずすとガシガシと髪を拭いていった。霊夢もタオルを頭からかぶり拭いていくがうまくいかない。それを見た咲夜は霊夢の前にしゃがみこみタオルを霊夢から取る。
「そんなやり方じゃあ、ちゃんと拭けないわよ。ほらいらっしゃい、私が拭いてあげる」
 両手を広げるが、霊夢は目の前に居た咲夜に驚き、魔理沙へとしがみつく。
「おっとっとっ……はははっ、嫌われたな咲夜、霊夢はお前が怖いみたいだぜ。まあ、殺されかけりゃそうなるのも無理はないか」
「あれはお嬢様の命令だったからよ。あの時、屋敷には誰も入れるな、侵入者は排除しろって命令されてたんだから。もうそんなことはしないから……ね、いらっしゃい」
 咲夜は優しく微笑み霊夢を見つめる。しばらく戸惑っていたが、ゆっくりと咲夜の前へと歩いていった。
「じっとしていてね……」
 咲夜は手にしたタオルで霊夢を包むと、ゆっくりと優しく水分を拭き取っていった。
「あ、ありがとう、咲夜ねーちゃん……」
 拭き終るのを待って、霊夢は遠慮がちにお礼を言った。咲夜はそれに笑顔で答えると立ち上がった。
 その時、屋敷の奥の方から爆発音が響いてきた。
「さて咲夜……教えてくれないか、この雨とフランドールって奴のことをな」
 魔理沙は帽子をかぶりなおし咲夜へと鋭い眼差しを向けた。
「あなたたちがここへ来るのを、お嬢様が止めなかったってことは、教えてもいいかもしれないわね」
 咲夜は一度深呼吸すると喋り始めた。
「お嬢様には妹が御一人いらっしゃるの。お名前をフランドール・スカーレット、私は妹様とお呼びしてるわ。妹様は能力に問題があって、このお屋敷の地下深くに幽閉されているの。普段はおとなしくしているのだけど、時々暴れることがあるのよ。そういう時、間違っても外に出ていかないようにパチュリー様が雨を降らせているの。ちなみにこれはすべてお嬢様の指示よ」
「どうしてレミリアちゃんは妹を地下に閉じ込めるの。大切な家族なんでしょう?」
 霊夢は悲しそうな顔をし、咲夜を見上げる。
「それはね、さっきも言ったように妹様の能力にあるの。妹様はありとあらゆるものを破壊する能力を持っているのよ。あまりにも危険で強力なその力は妹様自身にも影響がでて、性格が狂ってしまっているのよ……」
 質問に答える咲夜の瞳にはうっすらと悲しみが宿っていた。
「なるほどな。それじゃあその妹様を止めればいいわけだな、そうすりゃこの雨もやむ。レミリアも家に帰ってこれるってわけだ」
「簡単に言うわね……でもまあ、責任の一端は魔理沙にもあるのだから頑張ってもらわないとね」
「どういうことだ?」
 魔理沙は首をかしげる。頭の中でいろいろと考えるが、そもそもフランドールとは会ったこともないので結論は出なかった。
「霧の出ていた時にパチュリー様と戦ったでしょ? あの時の音や衝撃が地下の部屋まで届いていたの。それに興味を持った妹様は食事を持っていったメイドにその時のことを尋ねたの。不運なことに、このメイドがおしゃべりでね。あなたたちが屋敷に攻めてきた時の事を全部喋っちゃったのよ。話を聞き終えたとたん妹様は、『私も弾幕バトルやりたい』って大暴れを始めたのよ」
「へぇ……にしてもずいぶんと詳しいな」
「そのおしゃべりメイドから直接報告を受けたからよ。ちなみに、その子は今ベッドの上でミイラ男のようになってるわ」
 咲夜は部屋の出口へと歩いていく。
「さあ、こっちよ……」
「なんだ、案内してくれるのか。てっきりこの部屋に閉じ込められるのかと思ったぜ」
「そんなことしたって無駄でしょう。扉を破壊されるくらいなら案内した方が後片付けが少なくてすむもの。そのかわり、私は案内するだけよ。手助けはしないから」
 そう言うとさっさと部屋を出ていった。
「おっと、おいてけぼりはなしだぜ」
「わわっ、まってよ~」
 魔理沙と霊夢は慌てて後を追いかけていった。


 屋敷の廊下を進んでいくにつれ、爆発音が徐々に大きくなり震動が伝わるようになってきた。さらにいくつもの悲鳴が聞こえてくる。そして、角を曲がったところで三人は立ち止った。
「こりゃひでえな……」
 奥へと延びる廊下の両端には負傷したメイドたちで隙間なく埋められ、看護するメイドたちが何人も行ったり来たりしている。魔理沙は身近にいた一人の元へと近寄った。そのメイドは眠っているが顔は苦痛にゆがみ体のいたるところに包帯が巻かれていた。
「かわいそう……」
 霊夢は咲夜へと寄り添うとスカートの裾をギュっと握る。それに気づいた咲夜は霊夢の頭を優しく撫でた。
「早く止めないともっと怪我する人が増えるんだよね」
「ええそうね」
 霊夢は大きく息を吸い込むと、顔を引き締め気合い入れた。
「魔理沙ねーちゃん、咲夜ねーちゃん行こう! 急がないとメイドさんたちがもっと怪我しちゃう」
「おう、そうだな!」
 霊夢と魔理沙は浮かび上がると廊下の奥へと飛んでいく。咲夜もそのあとを追いかけるように飛んでいった。
 廊下を進むにつれ、両端だけにいた負傷者たちが廊下全体へと広がっていた。負傷者もメイドだけでなく門番隊員の姿も混じっていた。
「あなたたち、何しに来たの!」
 鋭い声に三人が止まるとパチュリーが立ちふさがるように現れる。その後ろには小悪魔が寄り添うように控えていた。
「また来たのあなたたち、いったい何をしに……」
 パチュリーは魔理沙と霊夢の後ろにいる咲夜を目にし一旦言葉を止めた。
「咲夜、なんであなたがこの二人と一緒に、ここにいるのかしら?」
 刺のある口調で問いただす。
「魔理沙にお嬢様を人質に取られて、無理やり案内させられていたのです」
 しれっとした顔で口からでまかせを吐く。霊夢と魔理沙は、何を言っているんだと驚きの表情を浮かべ咲夜へと振り向いた。
「なるほど、レミィがねぇ……」
 咲夜の言葉から、パチェリーはレミリアが関わっていることを察し、呆れたように大きく溜息をつく。
「あの子が何を考えてるか知らないけど、あなたたちをこっから先に行かせるわけにはいかないわ。家の問題は家の者が解決するものよ」
 ゆっくりと近寄ってくると、目を細め魔理沙と霊夢を睨みつける。
「また戦うってのか……けど雨を降らせてる状態で私に勝てると思ってたら大間違いだぜ?」
 魔理沙はパチュリーの目の前へと寄っていき真っ正面から見据えた。
「あら、今日は喘息の調子もいいから、このくらいハンデがあってもいいくらいよ」
 パチェリーも負けじと睨み返し、口元に笑みを浮かべた。
「へえぇ余裕だな。ところでパチェリー……あの小悪魔の後ろにいるのがフランドールか?」
「えっ!?」
 驚いたようにパチェリーは顔を向ける。しかし、視線の先には小悪魔が一人立っているだけだった。
「スキありだぜ」
 魔理沙の声と共にパチュリーは胸に軽い衝撃を感じた。胸元へと視線を向けると、魔理沙の指が胸を突いていた。
「この程度の嘘に引っ掛かるなんて、注意力が散漫になってるんじゃないか? そんなんで私と戦おうなんてよく言えたもんだぜ」
「っ!!」
 パァン!
 頬を叩く、乾いた音が廊下に響きわたる。叩かれた魔理沙は苦笑いしながら頬を押さえた。
「痛いぜ……」
「このエッチ!」
 パチュリーは自分の胸を庇うように両腕で隠すと魔理沙から離れる。その顔は赤くなり、目尻には涙が溜まっていた。
「パチュリー様!」
 小悪魔が庇うようにパチュリーの前にやってくると、魔理沙を睨みつける。瞳には嫉妬の炎が宿っていた。
「で、どうするんだ。やるなら雨を止めてからにするんだな。それとも小悪魔との二人がかりでくるか、どっちでもいいぜ」
 挑発するように笑みを浮かべる。
「魔理沙ねーちゃん!! あそこ!!」
 突然、霊夢が叫び、魔理沙の袖を引張りながら廊下の先を指差した。
「ん? どうした霊、夢……」
 霊夢の指さす方向を見た魔理沙が絶句する。つられて見た咲夜やパチェリーたちも同じように言葉を失った。
「ねぇ、あそぼ~よ」
 そこには一人の少女が立っていた。片手にねじれた杖を持ち、背中から歪な翼を生やし、薄気味悪い笑みを浮かべながら、らんらんと瞳を輝かせながらこちらを見る姿はあまりにも不気味だった。
「フラン、いつの間にこんなところまで……小悪魔、あなたは他の者と一緒に負傷者の避難をさせなさい」
 そう言うと懐から一枚のスペルカードを取り出しながら、フランドールへと接近する。
「木符『グリーンストーム』」
 突き出したスペルカードが輝くと、凄まじい風が生まれフランドールへと絡み付く。そして、彼女を浮かせると廊下奥へと運んでいった。その後をパチュリーが追いかけていく。
「おっと、抜け駆けはなしだぜパチュリー!」
「あっ待ってよ」
 魔理沙と霊夢がその後を追いかけ廊下奥へと消えていく。
「はぁ、仕方ないわね……小悪魔、後のことは任せたわ」
「はい、わかりました」
 小悪魔の返事を聞くと、咲夜も廊下の奥へと飛んでいった。
「無事な人や動ける人は、負傷者を運んでください。とにかく少しでもここから離れるんです」
 小悪魔が声高らかに指揮すると、事の行く末を遠巻きに見ていたメイドや門番隊員たちが一斉に動き出した。
「パチュリー様、どうかご無事でいてください」
 廊下の奥へと向かって呟くと、自らも負傷者の搬送へと加わっていった。


「あははははっ、すごいねパチュリー…………でも、つまんないよ」
 フランドールが手にした杖を振るうと、風が四散する。そして、身をひるがえし着地した。
「もっと楽しいことしようよ。でないと、壊しちゃうよ」
 ギロリとパチュリーを睨む。
「ここなら、広いから暴れられるでしょう、フラン?」
「ここ?」
 疑問を口にしながら辺りを見渡すフランドール。そして、自分が出てきた大きな扉とその奥に地下室へと続く階段を見つけた。
「確かにそうだね」
 パチュリーはフランドールを階段前の広間まで連れてきたのだった。
「そうだな、存分に暴れられるぜ」
 パチュリーの隣に魔理沙がやってくる。
「暴れるのはもうやめなさい!」
 その後から霊夢も現れた。
「あんたたちが、メイドの言ってた、魔理沙と霊夢? お姉様を倒したらしいけど、子供とは思わなかったなぁ。でも……」
「これだけいれば」
「四対四で」
「遊べるよね」
 フランドールの後ろから更に三人のフランドールが姿を現す。その光景に魔理沙と霊夢は驚き目を見開いた。
「妹様……」
 いつの間にか咲夜が現れ、一歩前へと歩み出た。
「お怪我をしても恨まないでくださいね」
「怪我?」
 咲夜の言葉にフランドールたちはきょとんとした表情をする。が、しばらくすると高らかに笑いだす。
「あはははははははははははっ、怪我だなんて、咲夜にしては面白い冗談だね」
「それより自分の心配しなよ」
「あんまりつまらないこと言うと……」
「壊しちゃうよ」
 四人が同じ笑みを浮かべながら、それぞれ間隔を取って散らばる。
「そんじゃあ、お前の強さを見せてもらうぜ」
「悪い子にはお仕置きなんだから」
「では、僭越ながらお相手いたします」
「まったく、こんなことになるなんてね」
 魔理沙、霊夢、咲夜、パチュリーはそれぞれ四人のフランドールと対峙する。
「「「「さあ、あそぼ~~よ~~!!!!」」」」
 フランドールたちが弾幕バトルの開始を宣言した。



「フラン、悪いけどさっさと終わらせてもらうわよ。水&木符『ウォーターエルフ』」
 スペルカード宣言をすると、パチュリーの足元に魔方陣が展開する。そして、魔方陣の中からいくつもの水の塊が湧き出てくると、フランドールへと飛んでいった。
「あはははっ、いきなり水攻め? 余裕がないのかしら?」
 手をかざすと無数の弾幕が放たれ水塊を撃ち落としていく。
「そんな遅い弾が当たると思ってるの」
「そうかしら?」
 パチュリーが意味深な笑みを浮かべると、撃ち落とされ床に散らばった水滴が集まり、再びフランドールへと襲いかかる。
「おおっと、なるほどね。でも、当たらないよ」
 向かってくる水塊を避けると、次々に撃ち落とす。だが水はまたすぐに集まり襲いかかる。何度も何度も同じことを繰り返すうちに、フランドールから余裕が消えていく。気付けばいつの間にか水塊に包囲されていた、しかも魔方陣からは追い打ちをかけるように水塊が湧き出てくる。
「油断しすきたわねフラン。これでチェックメイトよ」
 パチュリーがフランドールを指差すと、水塊が一斉に襲い掛かった。避けようにも、かすらずに避けるには隙間が狭すぎる。一発でもかすればフランドールにとっては致命傷となる、パチュリーは勝利を確信した。だがすぐにその自信は砕かれた。
「こんのおぉぉぉっ!」
 フランドールが手にした杖を振りかざすと、炎が勢いよく吹き出し剣の形となる。彼女は剣を振るい迫りくる水塊を蒸発させる。
「切り裂け、レーヴァテイン!」
 パチュリーへと剣を振り下ろす。
「くっ!」
 とっさに飛び退くと、炎の剣が先程までパチュリーが居た場所を通り過ぎ床と魔方陣を破壊した。
「ふふふふっ、なかなかやってくれるじゃないのパチュリー。今度はこっちからいくよ!」
 剣を振りかざし、パチュリーへと襲いかかった。


「お姉様のお気に入りみたいだけど、どれほどのものかしらね?」
 杖を振りあげると、大玉の弾幕がいくつも生み出される。さらにその弾幕には中小の玉がまとわり付いていた。
「私を失望させないでね!」
 杖が振り下ろされると同時に弾幕が放たれる。弾は床や壁、天井に跳ね返りながら咲夜へと向かってきた。
「ご期待に添えるように頑張りますわ」
 そう言うと踊るようなステップで弾幕を避けていった。
「へえー、あくまでメイドとして振舞うんだ。なんか、ムカつくわ!!」
 何度も杖を振るい、次々と弾幕を撃ち出す。そのたびに咲夜は優雅に避ける。
「この、ばかにするなぁぁぁぁぁっ!」
 弾幕が勢いと数を増やし、咲夜に迫った。
「奇術『ミスディレクション』」
 咲夜の前にナイフの一群が現れ、一斉に飛び立ち弾幕を破壊する。そして、刃の向きをフランドールへと変えると一気に襲いかかった。
「なっ! ふっ……」
 突然の反撃に面食らったフランドールだが、冷静に最小限の動きでナイフを避けきった。
「なかなかやるじゃない。面白くなってきたわね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
 咲夜はスカートの裾をつまみ、うやうやしく礼をした。
「そんな態度をとっても無駄よ。あなたの挑発にはもう乗らないから」
 フランドールが睨みつけると、咲夜の顔から表情が消えた。そして、鋭く冷たい視線がフランドールを睨み返した。
「それが本来のあなたなのね。うふふふふっ」
「妹様、御覚悟を……」
 咲夜の両手に何本もの銀のナイフが輝いた。


「なんだ、私の相手は魔理沙なんだ。ちぇっハズレ引いたな~」
 フランドールはムスッとした顔で魔理沙を見た。
「おいおい、ハズレとはごあいさつだな。油断してると足元すくわれるぜ」
 自身の周囲にいくつもの小型魔方陣を作り出す。
「だってあなた、ただの人間でしょ、魔法が使えるだけの。咲夜みたいに時が止められるとか、霊夢みたいにすごい力があるわけでもない。魔力だってパチュリーに劣る。ほら、一番弱いじゃないの……それがハズレでなくてなんなのよ」
 その言葉に魔理沙の怒りが爆発した。
「私が弱いかどうか、お前自身が確かめてみろ!!」
 両手を突き出し魔力弾マジックミサイルを連続で撃ち出す。合わせるように小型魔方陣から光線イリュージョンレーザーが発射された。
 フランドールは退屈な顔をしながら佇み、迫っている弾幕に身を晒した。魔理沙の弾幕が吸い込まれるようにフランドールへ命中し爆発が起きる。
「なにこれ、これじゃ遊びにもならないよ」
 爆発の煙の中から現れたフランドールは全くの無傷だった。
「なら、こうだ!」
 小型魔方陣を一ヵ所に集め強力な光線を放つ。その光線に向けてフランドールが人差し指を突き出すと、接触した瞬間あっさりと霧散した。
「ぜんぜんダメ……期待ハズレだね。今度はこっちの番、あっさり壊れないでよ魔理沙」
 杖を構え、弓引く姿勢を取ると、魔力の矢が生み出される。
「まだ、私の番は終わってねぇ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!!」
 魔理沙が取り出した小瓶から中身をふりまくと、こぼれた液体が無数の星型の弾幕となってフランドールに降り注いだ。
「スターボウブレイク!」
 魔力の矢は手を離れると拡散し、降り注ぐ星をすべて撃ち砕く。そして、勢いそのままに魔理沙へと飛んでいった。
「なにっ! くそ……」
 襲い来る魔力の矢を避けながら、魔理沙はフランドールの強さに困惑する。だが同時に心躍らされる自分がいることも感じていた。


「お姉様を倒したって聞いたけど……私には信じられない。あんたみたいな子供にお姉様が負けたなんて!」
 フランドールの翼がはためくと、魔力が溢れ出し弾幕となって霊夢へと向かってくる。
 霊夢はフランドールを見据えながら弾幕を避けると、その隙間を狙い退魔針を放った。フランドールは杖で針を叩き落とすと霊夢から距離をとった。
「ズタズタにして、二度と立ち上がれなくしてやる!」
 杖を両手で持つと前へとかざし回転させる。回転の中心から、密集した弾幕が渦巻き状に放たれた。
 霊夢は時々途切れる弾幕の隙間を縫ってフランドールへと近寄っていく。
「まだまだーーー!!」
 回転速度が増し、弾幕が速くなる。霊夢は接近を止めると、回避に専念した。
「この……ちょこまか、ちょこまかと!」
 杖の回転を一旦止めると、逆回転をさせる。すると弾幕の渦巻きも逆向きになった。
「……夢想封印」
 霊夢は回転の止まった一瞬の隙をついてフランドールに近寄ると、霊気を解放し放った。
「えっ!?」
 目を見開くフランドールに霊気の塊が次々と殺到し光がはじけた。しかし、光がおさまるとそこにフランドールの姿は無かった。
「くっ……」
 霊夢は一瞬戸惑うが、レミリアとの戦いを思い出し周囲を警戒した。
「無駄だよ、あんたはもう私の手のうちさ!」
 どこからともなくフランドールの声が響きわたる。
「どこ、どこにいるのよ!」
 袖から陰陽玉と破魔札を取り出し身構えた。
「ここにはいない、あんたが壊れて誰もいなくなるだけよ!」
 周囲の空間から弾幕が生み出され、霊夢へと迫ってきた。





「霊夢ちゃん遅いねー、どこまでいったんだろう?」
 縁側に寝そべりながらルーミアはため息をついた。
「ねえ、ルーミア……」
「なに?」
 居間からの声にルーミアが顔を向けるとレミリアと目が合った。
「あなた友達はいる?」
「いるよ、みすちーにリグル、チルノちゃんに……」
 指折り数えながら答える。
「意外に多いのね」
「う~、意外にって失礼だよ~」
 起き上がり頬を膨らませた。
「あら、ごめんなさい。ところで、もし友達と大ゲンカしたらあなたはどうする?」
「ケンカ? そうだねー……」
 ルーミアは人差し指を口元に当て、しばらく考えると口を開いた。
「まずは考えるかな、原因とか自分と相手の事とか。それからごめんなさいって謝るの……そしたら仲直りできるよ」
「それでも仲直りできなかったら?」
「それはないよー」
 クスクスと笑いだす。
「なぜ?」
 レミリアは真剣な眼差しでルーミアを見つめた。
「だって、それで仲直りできなかったらその人は友達じゃないよ、ただの知り合いだね。それに、ケンカって相手と仲良くしようとした時に、想いのすれ違いで起きることだもの」
「そう……」
 満面の笑みを浮かべたルーミアから、レミリアは視線をそらすと、俯き押し黙った。しばらくして、決意したように立ち上がり、日傘を差した。
「ねえ、ルーミア。霊夢のお迎えにいきましょうか」
「いいけど、留守番は?」
「大丈夫よ……今日はもう人は来ないから」
「そっか、それじゃあ行こうかな」
 ふたりは縁側から外に出ると飛び立ち神社を後にした。





「はあはあ……」
 霊夢は息を弾ませながら弾幕を避けつつ、フランドールの姿を探していた。
「しぶといね。でも、これならどう!?」
 迫る弾幕の量が増え、速度が増す。
「くう……こうなったら!」
 霊夢は周囲へと札をばらまいた。札は弾幕の隙間を通り抜けていった。
「無駄だよ、そんなの意味ない」
「そうでもないよ」
 拡散した札が結界を作り出し弾幕と霊夢を閉じ込める。霊夢は全身に力を入れると叫んだ。
「封魔陣!!」
 結界内に雷が発生し、縦横無尽に走り回った。
「くううううううっ」
 霊夢は自分に防護する結界を張らず、襲い来る雷に耐えながら、陣を維持する。
「じ、自分ごと攻撃するなんて……きゃああああああっ!」
 フランドールの悲鳴をのみ込み陣が爆発した。爆煙が収まると、ススだらけの霊夢とフランドールが立っていた。
「無茶苦茶するわね、頭おかしいんじゃないのあんた!?」
 フランドールは声を荒げながら霊夢から離れていく。
「狂ってる人にそんなこと言われたくない……ああ、違ったよね、狂ってるふりをしてるだけだよね」
 霊夢は力のこもった眼差しをフランドールへと向けた。
「なに、言ってるのよ……さっきので頭壊れたんじゃないの?」
 反論するフランドールの声は上擦り、その瞳には動揺が浮かんでいた。


「それそれ、逃げないと切り刻んじゃうよパチュリー!」
 がむしゃらに振り回される炎の剣から身をかわしながらパチュリーはスペルカードを取り出す。
「調子に乗らないで! 月符『サイレントセレナ』」
 パチュリーの頭上から噴水のように弾幕が湧き出て、フランドールに降り注ぐ。
「おっとっと、この程度?」
 弾幕を切り払い、避けながらパチュリーへと徐々に近寄っていく。
「調子に乗らないでって言ったでしょ……日符『ロイヤルフレア』」
 両手を頭上に掲げると、魔力が集中し擬似的な太陽を作り出す。そして、その擬似太陽をフランドールへと投げつけた。
「こんなの、切り裂いてやる!」
 炎の剣と疑似太陽がぶつかり合うと、大爆発が起き、閃光が辺りを覆う。パチュリーはとっさに障壁を張り防御した。
「くうぅぅぅぅぅぅっ!」
 凄まじい威力に障壁ごと後ずさる。
「ううううっ!」
 閃光がおさまると、うめき声をあげる壁にめり込んだフランドールの姿が現れる。全身に火傷を負い、両腕が真っ黒に焦げていた。しかし、すぐに再生が始まり、火傷が治っていく。
「今度こそチェックメイトよ」
 両手の中に魔力を集めながら、フランドールへと急接近する。その時フランドールが不敵に笑った。
「っ!?」
 パチュリーが危険を感じ止まると、周囲に魔方陣が現れ取り囲む。
「トラップ魔法!?」
「私の勝ちだねパチュリー」
 フランドールが笑みを浮かべると、魔方陣から弾幕が吹き出しパチュリーをのみこみ爆発した。
「壊れちゃったかな?」
 壁から抜け出たフランドールはゆっくりとトラップのあった位置へと近寄っていく。
「フランドーーールーーー!!!!」
 くすぶる煙の中から、怒りをあらわにしたパチュリーが飛び出してくる。その周囲には五色の魔力結晶が浮いていた。そして、パチュリーの両手と魔力結晶から大量の弾幕が放たれる。その様は彼女の怒りを代弁するかのようだった。
「ぐうっ!」
 直撃を受けたフランドールは床へと墜落した。同時にパチュリーも胸を押さえ落下し倒れ伏す。苦しそうに咳きこみ、口元から一筋の血が流れ落ちた。
「こんな時に……ゲホゲホゲホッガハッゴホッ!!」
 相次ぐ大魔法の使用による反動が喘息となってパチュリーを襲う、それでも体を動かし朦朧とする意識の中、煙をあげて横たわるフランドールの姿をとらえた。


 手にした銀のナイフを投げると同時に咲夜の姿が消える。
「ふん……」
 フランドールは驚くこともなく、ナイフを避ける。しかし、避けた場所にどこからともなくナイフが飛んできた。
「っと。ふふふっ……いいわ、そう来なくちゃ」
 杖でナイフをはじき落とし、フランドールは目を閉じた。同時に周囲にナイフが現れ襲ってくる。それを気配だけを頼りに避けていった。
「この程度の攻撃じゃあ、やるだけ無駄よ……もっと楽しませてよ」
 フランドールの背後に咲夜が音もなく現れ、ナイフを構えた。
「ねえ、咲夜」
 目を開き笑みを浮かべる。咲夜の姿が消えると同時に、その場所を魔力の刃が通り過ぎた。
「避けたか……やっぱり厄介ね時を止めるって」
 離れた所に現れた咲夜のスカートの裾が切り裂かれていた。
「でもね、そんなのも関係なく切り刻んであげる」
 フランドールのそばに四本の魔力の刃を持った二つの明滅する魔方陣が現れた。手をかざし弾幕をばらまく。咲夜の姿が消え、フランドールの隣に現れる。だが、すくに消えると、そこを魔力の刃が通過していった。
「さあ、どうする咲夜。遠くは避けられ、近くは攻撃できる隙がないよ。まさか、もう降参じゃないよね」
 少し離れた場所に現れた咲夜は、ナイフを持つ手に力を込めフランドールを睨みつけた。
「いい気になるな、吸血鬼!」
 咲夜の瞳が赤く輝く。同時に恐ろしいほどの殺気が放たれる。
「あはははは、イイ……イイわよ咲夜、そのピリピリした感じがたまらないわ」
 フランドールが弾幕を撃つために手をかざすと、咲夜の姿が消え周囲に無数のナイフが現れる。すかさず一斉に降り注ぐナイフを杖で払いながらその場から脱出した。その背後に咲夜が現れフランドールの背中を十字に切り裂く。
「ぎゃっ!」
 魔力の刃が通り過ぎる時には、すでに咲夜の姿はなかった。
「咲夜あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 目を血走らせ、周囲に弾幕をばらまく。咲夜は何度も出たり消えたりし、フランドールを翻弄していった。
「あああああああっ!!」
 魔力の刃をところ構わず走らせ、弾幕をさらに大量にばらまく。咲夜はその隙間をかいくぐりフランドールを切りつけていった。
「こんな傷なんか……痛っ!?」
 フランドールは再生のために傷口に魔力を集中させるが、激痛に顔を歪めた。
「傷が塞がらない? そんな……」
 愕然としながら、体を抱きしめ片膝をついてうずくまる。その目の前に咲夜が現れた。
「妹様、吸血鬼にとって、銀の武器は弱点なんですよ」
「咲夜……」
 冷たく見降ろす咲夜にフランドールは恐怖を感じた。
「それともうひとつ……私はかつてお嬢様と戦ったことがあります。それに比べると妹様は未熟ですね。これで、さよならです」
「咲夜あぁぁぁっ!」
 魔力の刃が咲夜に襲いかかるが、その時にはすでに姿が消えていた。代わりに大量のナイフが現れる。
「幻符『殺人ドール』」
 死刑宣告のように咲夜の声が響き、フランドールへとナイフが一斉に降り注いだ。


「ねー、さっきから避けてばっかだけど、それしか能がないの?」
 フランドールはその場から一歩も動かずに、魔理沙目がけて魔力の矢を放つ。それとは逆に、魔理沙は止まることなく魔力の矢を避けながら、弾幕を放つ。だがすべてフランドールに当たるとはじけ、効果が無かった。
「はあ~、つまんない、つまんない、つまんない!」
 イライラを隠しもせずに声を荒げると攻撃をやめた。
「好き勝手言ってくれるぜ……」
 額に浮かぶ汗をぬぐいながら魔理沙は迷っていた、試作品の薬を使うかどうかを。
(これを使えば魔力を一時的に高められるはず、でもまだ試験中だから必ず効果があるとは限らない……それに、副作用もどんなものかわからない)
 スカートのポケットに手を入れ中にある小瓶を握りしめる。
「さっさと終わらせて違う人と遊ぶよ」
 片手をあげ、人差し指で円を書く。すると、鎖状に連なった弾幕が周囲に張り巡らされた。
「これなら避けられないでしょう」
 鎖弾幕に囲まれた魔理沙めがけ弾幕を放った。
「うおっ!」
 思案していた魔理沙は、目の前に来た弾幕に気づいて我に返り、とっさに避けた。だが、その大きな動きがあだとなり鎖弾幕に接触する。ジュッ! という肉の焼ける音がし、魔理沙の背中は服が破れ焼けただれていた。
「ぐっ……くっそう!」
 悲鳴を呑み込むと、鎖弾幕に触れないように慎重な動きで、迫る弾幕を避けていった。
「カーゴーメー、カーゴーメー、籠の中の魔理沙は~」
 馬鹿にしたように歌を歌いながら、フランドールは指を鳴らした。
「弾幕につぶされて、壊れちゃえ!」
 鎖弾幕がはじけ飛び、破片が魔理沙へと襲いかかる。
「え? うあああああああっ!」
 一度被弾し、必要以上に慎重になっていた魔理沙は、はじけ飛んだ弾幕にぶつかる。そこへさらに弾幕が襲いかかり、魔理沙は吹き飛び床へと叩きつけられた。
「あははははっ、壊れちゃったかなー?」
「ぐ……あ……」
 倒れ伏した魔理沙の意識は闇の中へと沈んでいった。

(私は死んだのか? だとしたら、あっけないぜ……)
 真っ暗な闇の中を漂いながら魔理沙は、短かった人生を振り返っていた。
「へへへっ、短いけど楽しい人生だったな」
 帽子を押さえ顔を隠す。しばらくすると、光る雫が魔理沙の頬から次々と零れ落ちてきた。
「うっ、くっ、グスッ……ううううっ」
 嗚咽がもれ、体が震え出す。
「チクショウ! チクショウ! まだ死にたくないよぅ……私はまだやりたいことがいっぱいあるんだ。霊夢のことも任されてるってのに、これじゃあ私が迷惑かけてるだけじゃねえか!」
 感情を爆発させ、泣き叫び暴れる。しかし、どんなに動いても手ごたえのない状態に、魔理沙の胸には虚しさだけが募っていった。
「グスッ……うっうっうっ」
「いつまでメソメソ泣いてんだい、このバカタレが!」
 魔理沙の頭に拳骨が振り下ろされ鈍い音を立てた。
「痛ってぇ! なにす、ん、だ…………」
 頭を押さえながら振り返った魔理沙は、口をぽかんと開けたまま固まった。そこには、青い衣を纏い緑色の長い髪をなびかせる女性が立っていた。
「え? あ? 魅魔様? ええっ! 魅魔様!?」
「ひさしぶりだねぇ、魔理沙」
「な、なんでここに魅魔様がいるんだ?」
 理解を超える出来事に魔理沙は目を白黒させた。
「おちつけ……あの時言っただろ、私はいつもお前と共にあるって」
 そう言って、魔理沙の胸へ拳を当てる。
「あ……はい、そうでした」
 懐かしさに思わず昔の口調で返事していた。
「なあ魔理沙。さっきの戦いはなんだ? 相手が強すぎて臆病風に吹かれたか? 私のところから離れてって何してたんだお前は」
 胸に当てていた拳を開き、魔理沙の胸ぐらを掴むと引き寄せた。
「弾幕はパワーがお前の信条だろ。いつだって全力全開でやってきた。お前は人間だ、だから弱いのは当り前だろ。でもな、無限の可能性を秘めているのが人間なんだ。一か八かの賭けを戸惑うなんてらしくない事するな、常に前向きで、自分に対してゆるぎない自信を持て!」
 じっと魔理沙の瞳を見据えまくし立てた。
「好き勝手言ってくれるぜ……でも、ありがとう魅魔様」
 俯いた魔理沙は、ニヤリと笑みを浮かべ顔をあげた。その瞳には闘志が宿り、自信にあふれていた。
「魔理沙……」
 魅魔が掴んでいた手を離すと、魔理沙は背を向け歩き始めた。
「見ててくれよ魅魔様、私の戦いをな!」
 立ち止まり親指を立てると、光に包まれて消えた。
「なんだい、胸に飛び込んでくるかと思ったのに。強くなりすぎだよ、バカヤロウ……」
 ぼそりと呟くと、魅魔は悲しみと喜びの混じった複雑な笑みを浮かべた。

「はあ、やっぱりハズレは弱いなあ……」
 倒れ動かなくなった魔理沙を見やり、フランドールは溜息をつく。
「次は誰と遊ぼうかな」
「ちょっとまちな……」
 魔理沙がゆっくりと立ち上がり、フランドールを睨みつけた。
「まだバトルは終わってないぜ!」
 ポケットから小瓶を取り出すと一気に飲み干した。
「きたきたきたあぁぁぁぁぁっ!」
 魔理沙から魔力が爆発的にあふれ出る。
「くらいな!」
 手をかざすと機関銃のようにマジックミサイルが放たれる。
「へえ、そんな力隠してたんだ。でも……ふぐっ!?」
 フランドールは構えることなくマジックミサイルに身を晒すが、一撃目が当たった瞬間体がのけ反った。そこへ次々に弾が襲いかかり、倒れ伏す。
「くっ、やったわね!」
 起き上がると杖を構え矢を生み出す。
「次はこいつだ!」
 小型魔方陣をいくつも描くと、そこからレーザーが放たれる。空間を削るようにレーザーが走り、フランドールの杖を弾き飛ばした。
「トドメだ!」
 懐からミニ八卦炉を取り出し、札を張り付ける。
「恋符『マスタースパーク』っ! いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
 極太のレーザーが溢れ出しフランドールへと放たれた。
「こ、こんな攻撃、耐えれるわけなっ……」
 迫るレーザーから逃げるように背を向けた瞬間、悲鳴を上げる間もなくフランドールは閃光の中へと消え去った。
「うおおおおおっ、抑えきれないいいいいっ!」
 魔力増幅のかかったマスタースパークの衝撃に耐えきれず、魔理沙はふっとび壁へと叩きつけられた。
「ぐうううううっ……」
 魔理沙が壁へとめり込み始めるとマスタースパークはその威力を弱めていき消えた。
「へへへっ、やったぜ魅魔様……」
 魔理沙の見つめる先には雨の降る庭が見えた、マスタースパークが外まで壁を貫通していたのだ。


「本当に狂ってるなら、メイドさんたちをいっぱい殺してるはずだよね。でも、ここに来るまでの道で見てきたけど、大ケガをしてる人は見たけど、誰一人死んで無かった。あなたはそんなに強いのに、すごい力を持ってるのに、誰も殺してない」
 霊夢は目を吊り上げフランドールを睨みつける。
「そんなのあたり前じゃないの。私は遊んでるんだから、おもちゃをそんな簡単に壊すわけないでしょ!」
 顔をそむけ、言い返す。しかし、ソワソワして落ち着かない様子だった。
「ウソだ!!」
「何がウソなのよ!!」
 フランドールはカッとなって霊夢を睨むが、目を合わせたまま固まった。怒りと悲しみの入り混じった瞳に、心の奥底まで見透かされたように感じたからだ。
「狂ってるなら、私の話なんて聞かないはずでしょ。それに、あなたの暴れ方……ただかんしゃくを起こしてるだけにしか見えないもの。だから、だから……」
「うるさいうるさいうるさいうるさーーーーい!!!! お前に何がわかるっていうのよ! 私には、お姉様の未来を壊した私には、狂うしか方法が無かったのよーーーーー!!」
 フランドールが絶叫すると、魔力が溢れ出しいたるところで弾幕へと変換さればらまかれた。狙いも何もない、触れたものをただ破壊する、無差別攻撃弾幕だ。
「みんなみんな、こわれちゃえーーーー!」
「いい加減にしなさい、あなたはただ逃げてるだけよ! レミリアちゃんからも、自分自身からも。ただ逃げて、狂ったふりをしてるだけだよ!」
 弾幕を避けながら霊夢は叫ぶ。しかし、フランドールは両手で耳を塞ぎ聞こえないふりをした。
「あんたみたいな子供に何がわかるっていうのよ!」
「わかるよ! ずっと逃げ続けたら、最後はもう取り戻そうとしても取り戻せなくなるんだから! 謝りたくても、甘えたくても、お話ししたくても、できなくなっちゃうんだよ……それでもいいの?」
 瞳にうっすらと涙が浮かぶが、それを拭うとフランドールへと近寄る。だが、弾幕が激しくうまくいかない。
「なんなのよ、なんなのよあんたは! なんでそんなに私をかまうのよ。ほっといてよー!」
 フランドールが泣き叫ぶと、弾幕が一層激しくなる。激しさを増した無差別弾幕は彼女自身をも傷付けだした。
「っ……この、わからずやーーーーーーー!!!!」
 霊夢の全身から凄まじい霊気が溢れ出す。フランドールを見据えると一直線に飛んだ。弾幕など関係なかった、霊気に触れた瞬間に弾は消滅していた。
「目を覚ましなさい!」
 フランドールの目の前へと来ると懐から一枚の札を取り出す。札に霊気を込めフランドールの額へと張り付けた。
「夢想封印!」
 札へ向けてさらに霊気を注ぎ込んだ。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
 フランドールの叫び声が紅魔館に響き渡った。
 力尽き倒れたフランドールは、薄れゆく意識の中はるか昔の事を思い出していた。





 それははるか昔、フランドールが生まれて間もないころだった。
 吸血鬼の中でも名門であったスカーレット家だか、その屋敷は森の奥深くにひっそりと建っていた。彼らは人との接触を極力避けていた。その理由は幼い姉妹の力のがあまりにも危険すぎたからだ。
 姉のレミリアは運命を操る能力を、妹のフランドールはありとあらゆるものを破壊する能力を持っていた。二人の両親はその力の危険性に恐怖するあまり、姉妹を屋敷に閉じ込め一歩も出さないようにした。
 理解力のあったレミリアは両親の仕打ちにも納得し、屋敷でおとなしく過ごしていた。しかし、幼いフランドールには外に出れないことが苦痛だった。外に出ようとしては見つかり怒られるをくりかえすうちに、フランドールは意地でも外へ出ようと思うようになった。
 それは、ある曇りの日のことだった。家族の寝静まるのを待ったフランドールは寝床を飛び出すと、日よけのフードをかぶり屋敷から抜け出した。
 フランドールは、初めての外の世界に興奮しはしゃぎまわった。やがて、近くの村へとたどり着いた彼女はそこで一人の少女と知り合い友達となった。少女との遊びに夢中になるフランドール、だが曇っているとはいえ日中、しかも普段は寝ている時間。体力の低下は想像以上であり、フランドールは極度の空腹に襲われた。そして、本能の赴くまま少女に近寄り首筋に牙を突き立てた。
 その結果、フランドールは村人全員から追われる事となった。迫る群衆に恐怖したフランドールは能力を使い、人を殺めてしまう。怒りに支配された村人は、逃げたフランドールの後を追い、屋敷へと襲撃をかけた。押し寄せた村人によって屋敷は焼き払われ、両親は殺されてしまう。だが、両親は自らの身を犠牲にし、レミリアとフランドールを逃がした。
 その後、姉妹は放浪の末に新しい住処を見つける。しかし、フランドールは自分のした事にショックをうけ、その苦しみから逃れるために狂ったふりをして、地下室へと閉じ込められたのだった。





 意識を取り戻したフランドールは泣いていた。
「ここは?」
 いつもの地下室ではない事に気が付き起き上がった。
「応接室だよ。無理言って咲夜ねーちゃんに運んでもらったの」
 傍らに座っていた霊夢が答えた。
「なんで? なんで地下室じゃないのよ。私は、私はもう外に出ちゃいけないの! 外に出たら、外に出たら……」
「まだ、そんなこと言ってる。いいよわかった……逃げたいならずっと逃げればいいよ。でもね、逃げる場所は地下室じゃない」
 霊夢は立ち上がると、フランドールの手を掴む。
「来なさい!」
 力の入らないフランドールは引っ張られるままについていった。
「ここよ」
 たどり着いたのは玄関の扉の前だった。
「あなたが逃げるのはこの扉の向こう……外よ。ほら、出ていきなさい」
 霊夢は手を離すと、フランドールの背中に回り、扉へと押していく。
「ちょっ、ちょっと、なんで外に出なきゃならないのよ?」
「それはもう地下室が無いからですわ、妹様」
 咲夜が日傘を手に歩いてきた。
「先ほどの戦いで、地下室は壊れ埋まってしまいました。この屋敷にはもう妹様を置いておく場所はありません。それに、暴れるたびにメイドたちが怪我をしますので、正直迷惑です」
「なによそれ! じゃあ私はどこにいけばいいのよ!」
「だから、外だよ。外に出てどこか好きな所で、死ぬまで隠れてればいいじゃない。もうみんなあなたの世話なんてしたくないんだって、ねえー」
 霊夢が振り返りながら同意を求めた。フランドールもつられて振り向くと、そこには紅魔館のメイドたちが勢ぞろいしていた。
「っ!?」
 その光景にフランドールは息をのんだ。
「さあ、妹様。これを……餞別代わりです」
 咲夜が日傘をさし出す。
「咲夜? うっ……あっ、あっ」
 フランドールは咲夜の顔を見て言葉を失った。顔には一切の表情がなかった、ただ冷たい瞳がフランドールを見つめていた。よく見ると、周りのメイドたちも同じように無表情だった。
「あっ、ああああ……うあああああああああああっ!」
 自分を拒絶する瞳から逃れるように、フランドールは扉を押し開け外へと駆けだした。しかし、ろくに回復していない身体がついていかず、足をもつれさせ転んだ。しかも、転んだ先は階段、彼女はそのまま地面へと落ちていく。おもわず目を瞑り、衝撃にそなえた。
 だが、想像していた衝撃は来ず、ポフリと柔らかい何かにぶつかっただけだった。
「ダメじゃないのフラン。外に出るときは日傘を差さなきゃ」
 その声に、自分の一番大切な人の声にフランドールはゆっくりと目を開けた。
「お姉様?」
 目の前に優しく微笑むレミリアの顔があった。そこでフランドールは自分がレミリアに抱きしめられていることに気付いた。
「お姉様どうして? 傘は? 雨は? それより……」
「落ち着きなさいな、雨はもうあがっているわ。傘も必要ないのだってほら、太陽の光は遮ってるから」
「レミリアちゃーんこれでいいのー?」
 レミリアの背後、門のところに黒い壁が広がっていた。ルーミアが闇で作り出した壁が、玄関へと降り注ぐ太陽の光を遮っていた。
「ありがとうルーミア。もう少しそのままでいてね」
「うん、いいよー」
「ね、フラン……私ね、あなたにずっと言いたい事があったの」
 そう言うと、レミリアはフランドールから離れた。
「お姉様?」

「ご め ん な さ い」

 レミリアは大きな声でハッキリ言うと、頭を下げた。
「え? やだお姉様……やめてよ、何で謝るのよ。悪いのは私なのに!」
「いいえフラン、私はあなたの苦しみを理解してやれなかったわ。あなたが地下に閉じこもったのをいいことに、私は逃げたの。あなたの事を考えることから。本当はあなたを救わなきゃいけなかったのに、そばにいて助けなきゃいけないのに、怖くて何もできなかった。いいえ、怖い事を理由にして逃げていたの。だからお願いよフラン、こんな愚かな姉を許してほしいの」
「許すも何もないよ!」
 フランドールは涙を溜めながらレミリアへ再び抱きつく。
「私のほうこそ謝らなきゃならないのに、ずっと逃げてた。ずっと目をそむけてた! だから私の方こそごめんなさいお姉様……」
「フラン……これからはずっと一緒よ。今日からまた始めましょう私たちの姉妹としての日々を」
「お姉様……うん」
 フランドールは満面の笑みを浮かべ、腕の力を強めた。
「さあ、屋敷に戻りましょう」
 レミリアは離れるとフランドールの手を取り玄関への階段を上がっていく。
「え、あ、お姉様。私は……」
「大丈夫よ」
 中へと入るのを戸惑うフランドールへと優しく微笑み、握る力を強めた。
「それとも、私と一緒にいるのは嫌?」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、入りましょう」
 ゆっくりと扉を開ける。
「今、帰ったわ」
 凛と威厳のある声が玄関ホールに響いた。
「「「「「おかえりなさいませ、レミリア様! フランドール様!」」」」」
 玄関ホールを震わせ、メイドたちが頭を下げた。その光景にフランドールは唖然とし立ち尽くした。
「ふふふっ、ごめんなさいフラン。実はあなたが寝ている間に私は一度帰ってきたの。そして、みんなに一芝居打つように頼んだの」
「え、それじゃあさっきのは……お姉様!」
 すべてを理解したフランドールは頬を膨らませレミリアを見た。
「だからごめんなさいってば。お詫びにあなたの新しい部屋に案内するわ」
「新しい部屋?」
「そうよ、これからは地下室じゃなくて、私の私室の隣があなたの部屋よ」
 その言葉を聞いたとたんフランドールの顔に笑顔が溢れ、瞳がキラキラと輝いた。
「はやくいこうお姉様! ねえ、はやく!」
「はいはい、わかったから落ち着きなさい。咲夜!」
「なんでしょうか、お嬢様」
「お茶を用意してちょうだい。あと、私の友人に何か食べ物をお願いね」
「友人ですか?」
「そうよ、ねえ? ルーミア、約束だったものね」
「わはー、そうだよー」
 いつの間にか入口にルーミアが立っていた。
「かしこまりました」
「ところで……霊夢は?」
「魔理沙の所へ看病に」
「そう……じゃあ、行きましょうかフラン」
「うん、お姉様」
 姉妹は仲良く屋敷の奥へと歩いていった。


 紅魔館のとある一部屋。いつもはメイドたちの寝室の一つだが、今は医療部屋となっていた。霊夢は倒れた魔理沙の様子を見に、此処へとやってきた。
「魔理沙ねーちゃん無茶しすぎだよ、もう……」
 ベッドにうつ伏せで横たわる魔理沙に呆れた声をかけた。
「へへへへっ、まさが薬の反動がこれほどとは思わなかったぜ。いたたたたたっ」
「とりあえず、背中には薬を塗って治癒の護符を貼るね」
「ありがたい、たのむぜ」
 魔理沙の背中はひどい火傷を負っていた。霊夢は薬を垂らすと、ゆっくりとやさしく塗り伸ばしていく。
「こないだといい、今回といい。あなたって、本当にメチャクチャするのね」
 隣のベッドに横たわったパチュリーがポツリと呟いた。
「パチュリーだって似たようなものじゃないか。というか、あんなに熱くなるなんて意外だったぜ」
「ふん……ケホケホッ」
 せき込みながら寝返りを打ち、魔理沙に背を向けた。
「はい、おしまい」
 ペタリと治癒の護符を魔理沙の背中に張り付けた。
「ありがとだぜ、霊夢。それじゃ私は一眠りするからな」
 魔理沙は枕を引きよせ体の下にいれると目を閉じた。
「早く良くなってね」
 そう言い残し霊夢は部屋を後にした。





 この日以来、フランドールは自分の力をコントロールするためのに毎日勉強と練習に励んだ。紅魔館の住人と、時々やってくる魔理沙も、一緒に手伝った。そのかいあってか、フランドールは徐々に力を制御出来るようになっていった。また、レミリアとの仲も今まで以上に仲良くなったという。
 紅魔館は今日も姉妹と住人たちのたのしい笑い声が響いていた。


 しかし、霊夢は複雑な心境だった。なぜなら、レミリアや魔理沙が神社へと遊びに来る回数が前より減ったからだ。
 前回の予告通り、紅魔郷のエクストラです。
 今回も霊夢ちゃんが活躍します。でもそれ以上にフランちゃんが目立ってしまったかもしれませんが。楽しんでいただけたら幸いです。
 それではまた。
天人 昴
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コメント



0.940簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
面白かったルーミア出してくれてありがとう
2.70名前が無い程度の能力削除
前作もそうだが、あえてちび霊夢にしたあなたの愛を感じる作品
3.90名前が無い程度の能力削除
ちび霊夢いいこだなぁ
妖々夢にも期待
5.70脇役削除
魅魔様、カッコイイ!
でも、実際のゲームではマスタースパークは効かないという罠
7.100名前が無い程度の能力削除
ああ…次は妖々夢だ…
あまさず楽しませてくれよ
8.80名前が無い程度の能力削除
いい話でした、本当に
9.70幽霊が見える程度の能力削除
脇役さん、俺もそうおもったぜ・・・
11.100創製の魔法使い削除
あぁ、良いお話でしたw
あー霊夢が可愛い過ぎますね~ww
16.無評価天人 昴削除
皆様コメントありがとうございます。
前回の意見を参考にし、いろいろ考えながら書いたら前回より長く。(本編六面分よりエクストラ一面のほうが長い物語に。前作が薄いと言われた意味がわかりました)

>脇役さん
なんとゲームでは効かないのですか。私はノーマルすらクリアできないので知らなかったです。
エクストラの内容はリプレイを落として見ただけなので・・・
魅魔様については最初出す予定はありませんでしたが、バトルを書いているときに魔理沙が好き勝手に動き始めた結果、登場しました。イイ意味でキャラが独りでに動いてくれたんだと感じています。

登場人物ですが、本編のキャラ全員出そうと考えていたのですが、どうしても、チルノと大妖精だけ絡ませ辛かったのではずしました。
チルノは妖々夢にも登場しますしね。この時は夏の暑さにバテて大妖精に看病してもらっていた、ということにしておいてくださいな。


さて次回作ではちび霊夢の魅力を引き出す作品にしたいと考えています。