「浮き草、水草、蓮の葉緑~♪」
今日も屋台でヤツメを捌く。
最初のお客さんは誰かなと、歌いながら人が来るのを待つ。
「水草、水草、浮いたら浮き草、燃えたら燃え草♪」
私の肩には小鳥が一羽。歌に会わせて囀りながら体を揺らす。
今日は風が少しだけ強め、砂埃が入らないよう気をつけよう。
「邪魔するわよ」
「あ、いらっしゃ~い」
最初のお客は神社の巫女。
紅白衣装に赤いリボン。何故か袖だけ分かれている巫女装束。
「お邪魔しま~す・・・って!?妖怪のお店!!??」
「あれ、言っていなかったっけ?」
霊夢に続いて暖簾をくぐったのは、はじめてみるお客さん。
青白の衣装に緑の髪、蛇と蛙の髪飾り。衣装はなんか霊夢に似てる?
「聞いてませんよ!」
「ま、でも妖怪相手は慣れているでしょう?山に住んでいるんだから」
山?山って言うと妖怪の山かな?あそこに人間はいない筈だけど?
あ、そういえばちょっと前にお客さんが山に神社が出来たとか言っていたっけ?そこの人かな?
「まぁ・・・確かに妖怪の相手は慣れていますが・・・」
「だったらいいじゃない。さ、座りましょう」
「はぁ、それにしてもお客が来ても歌ってますね」
「こいつはいっつもそうよ。ま、歌ってても注文は受け付けるから」
「ふ~ん、それにしてもポップスみたいな曲調ですね。歌詞は滅茶苦茶だけど」
「ぽっぷす?」
「あ、外の音楽の一種で、こういったノリのいい曲のことです」
「へぇ~」
二人の巫女(神社だったら、もう一人も巫女でいいんだよね?)が椅子に座ってメニューを見る。
「あ、ご飯ものもあるんだ」
「そうだよ~♪夕食代わりに食べにくる人もいるしね~♪」
「ここね、ちょっと里から離れているけど、その代わり安くて美味しいものが食べられるから結構人気なのよ」
確かに里にもっと近づいたほうが売り上げは伸びるだろうけど、家から屋台をそこまで引っ張っていくのは大変なのよね。
「へぇ~。ん?これはウツボ・・・?」
「あれ、お客さんウツボを知ってるの?」
あれは『外』から仕入れているから、知らない人がほとんどだ。
頼まれて見せることもあるけど、ほとんどの人が見るだけで食べてくれない。
結構美味しいのになぁ。
最近では黒白魔法使いが注文したくらい。
「えぇ、まぁ。食べれるのは知っていたけど、こんなところで見るなんて・・・」
「へぇ、あれ食べれたんだ」
ひどいなぁ、食べれないものは売らないよ。
「はい、白身の魚で小骨が多いけど美味しいらしいです。でも、これ、海の魚ですよね?幻想郷で獲れるんですか?」
「それはねぇ、『外』からしいれているんだよ♪ある人に頼んで仕入れてもらっているの♪」
その人は二度目に私の屋台に来てくれたとき、外の魚を何匹か持ってきてくれて、それを料理してみたのだ。
それ以降、猫経由で仕入れを頼むことがある。
「『外』っていうとあいつか・・・」
「え、『外』って?」
「あぁ、幻想郷の外ってこと。いるのよ、一人結界を好きに移動できるやつが」
「・・・あぁ、八雲の大妖ですね」
「そういうこと。で、何にするか決めた?」
「あ、えぇっと、とりあえず鰻の蒲焼とご飯を」
「はいは~い♪」
「あれ、飲まないの?」
「まず、ものを食べてからのほうが悪酔いしませんから」
「ふ~ん、あ、私はお酒とヤツメの串揚げと地獄鍋ね」
「は~い♪」
私はお酒をコップについでから、鰻とヤツメと豆腐と泥鰌を用意する。
「地獄鍋?」
「ん?あぁ、泥鰌料理の一つよ。ほら、ああやって豆腐と泥鰌を一緒に鍋にかけるの。そうすると熱さから逃げようと豆腐の中に泥鰌が入って、一緒にゆだるわけ」
「・・・」
「そんな嫌な顔しないの。私達は生き物を食べているんだから、料理を嫌がるのはどうかと思うわよ?第一、あなたの頼んだ鰻だって生きたまま捌かれてるじゃない」
「それは、そうですけど・・・」
「神職についているんだから、そういった生き物の『業』についても理解しときなさい」
「・・・はぁ、そうですね」
お客さん、料理の話からいきなり難しい話にかわっちゃった。食べることになんでそんなに真剣になれるんだろう?
鳥はそんなこと考えない。ものを食べなきゃ生きていけない。どうせ食べるなら美味しいものを食べたい。それじゃだめなのかなぁ?
「・・・そういえば、『業』って仏教用語ですよね?この世界にお寺があるんですか?」
「え、ん~、私の知っている限りではないわよ」
「え、でもそれじゃあどうして・・・」
「まぁ、幻想郷内なら情報だけが入っているってのも多いからね。『海』なんてその最たるものだし。もともと外の世界とつながっていたから、昔からあるものなら一般常識としてその時に情報は入り込んでいるのよ。」
「はぁ・・・」
「それに、閻魔様だっているし」
「閻魔様がいるんですか?」
「えぇ、会ったこともあるし」
「会ったんですかっ!?」
巫女さんたちは花がいっぱい咲いたときの話をし始めた。
そういえば、あの時私も閻魔になんか言われてたような・・・?
ま、いっか♪
二組目のお客さんは、チンドン屋の黒い人。
「・・・お邪魔するよ」
「いらっしゃい♪」
「あれ、チンドン屋の一番上じゃない」
「霊夢と、もう一人は初めて見る顔だな・・・」
「この人は?」
「あぁ、幽霊のルナサ。冥界でよく妹たちとコンサートやってるわよ」
「ゆ、幽霊!?」
「霊夢・・・」
「あれ、幽霊見た事無いの?」
「私は・・・」
「ありませんよ、っていうか冥界ってあの世のことですか?」
「騒霊であって・・・」
「ん~似たようなものかな。桜が綺麗で花見とかには最適よ」
「幽霊とは・・・」
「あ、あの世で花見・・・」
「ちょっと・・・」
「そう、季節になったら誘ってあげるわよ。空が飛べれば簡単にいけるし」
「違うのだが・・・」
「・・・うぅ、いろいろとカルチャーショックが」
「・・・聞いてくれ」
無視されているルナサがちょっと可哀想。私はそっとお酒を出す。
「・・・ありがとう」
「そういえば、今日は一人なの?白や赤の妹たちは?」
「あぁ、メルランは今日は墓場でソロライブ。リリカは作曲中だ」
「ふ~ん、あんたはしないの?」
「私は夜に演奏すには不都合が多すぎる」
「あ~、そういえばあんたの音って人を鬱にさせるものね」
「そう、だから静かな夜にはあまり演奏しない」
「それで、暇して飲みにきたってわけか」
私は楽しく歌いたいから、ルナサの演奏とは正反対。むしろ妹のメルランのほうが相性がいい。
でも、一回ぐらいはあわせてみたいかも?
「そういえば、妖夢とか元気してる?最近寒かったから白玉楼に行ってなかったし」
「寒いと行かないんですか?」
「だって、人魂って冷たいから寒いと近寄りたくないんだもの」
「・・・」
「彼女なら偶に見かけるが、いつも通り庭の世話をしていたな」
「ふ~ん」
「その妖夢さんって?」
「あぁ、冥界で庭師をやってりる剣士の半人半霊の少女よ」
「・・・えぇっと、その人は庭師なんですか?剣士なんですか?ってか半人半霊って生きているのでしょうか、死んでいるのでしょうか?半死半生・・・?」
「それは死にかけてる時に使う言葉・・・」
「さぁ、庭師兼剣の指南役みたいなことが阿求の本ににかいてあったけど、見た感じ庭師の方が主っぽい。ってか幽々子の世話役が一番しっくり来るかな」
「幽々子さん・・・?」
「冥界のお姫さま。こっちにすんでいればそのうち会えるわよ。生きていようと死んでいようとね」
「そ、そうですか・・・」
「・・・」
三人とも楽しそうに喋っている。私も偶にそれに加わりながら注文を受け付けていく。
そうしてしばらくすると、三組目のお客さんがやってきた。
三組目のお客さんは知り合いの妖怪。明るいのが苦手だから周りにうっすら闇を纏っている。
「あそびにきたよ~」
「いらっしゃい♪」
「今度はルーミアね」
「げ、神社の巫女」
「安心しなさい。人を襲わなければ何もしないわよ」
「そうそう。ここの巫女は仕事をしないので有名なんだから♪」
そう言った途端、霊夢に睨まれた。
でも、妖怪退治が仕事の巫女が妖怪の店で妖怪と共に飲んでる時点で、そういわれても仕方ないと思うけど?
「それもそうだね~」
「あのねぇ」
「確かに・・・」
「ルナサも・・・って、なんで早苗まで頷いているのよ!?」
「だって、あなたの神社の信仰が少ない理由ってそのせいじゃないんですか?」
「わ、私だって仕事はちゃんとしているわよ!紅霧異変とか永夜異変とか・・・」
「でも、どれも確証が取れていない上に表立っていない・・・」
「あう・・・」
「そういえば、夜を長くしていたこと自体は、実際にやっていたのは霊夢自身じゃなかったっけ?」
私は霊夢と始めてあったときの夜を思い出す。
「いや、やっていたのは紫で・・・」
「でも、主犯の一人ではあるんですね?」
「え、えっと・・・」
「・・・これでは仕方ないな」
「うぅっ・・・」
あ、霊夢が突っ伏しちゃった。
霊夢が突っ伏したまま空のコップを出してきたので、私はそれにお酒を注ぐ。
これは自棄酒の予感。
「あのねぇ、私だってがんばってはいるのよぉ・・・なのに、だぁれも認めてくれないぃ~。なんでぇ~」
「わかりますわかります。がんばっても報わないことってありますよねぇ。私だって・・・」
「・・・二人ともそれぐらいにしておいた方が」
「す~、す~」
結局もう一人の巫女も自棄酒に付き合って、愚痴の言い合いになっちゃった。ルナサが止めようとしているけど、多分むりだろうなぁ。
ルーミアも二人の巫女に付き合ったけど、すぐにダウンしちゃって寝ちゃった。
「あら、面白いことになっているわね」
「あ、いらっしゃい♪」
そんな中、四組目のお客さんがやってきた。
四組目のお客さんはいつもお世話になっている妖怪さん。
「霊夢、いつもとは変わった酔い方をしているわね」
「ゆかり~」
あ、霊夢が紫さんに抱きついている。
「私ぃ~、がんばっているわよねぇ~?」
「そうね、それなりに頑張っているんじゃない?」
「そうよねぇ~」
「あれ~霊夢さん~、この人誰~?」
「はじめまして。八雲紫と申しますわ」
「こちらこそ~はじめまして~。東風谷早苗と申します~」
「あら、山に出来た新しい神社の巫女ね」
「巫女じゃなくてぇ~、風祝ですぅ~」
「似たようなものじゃない」
「ちがいますよぉ~」
「ゆ~か~り~」
「はいはい。おとなしくしていなさい」
紫さんが何かすると二人の巫女さんがもともととろんとしていた目が、さらにとろ~んとしてきて、そのまま寝ちゃった。
「素面で酔っ払いの相手は疲れるからね」
「・・・はぁ、これでやっと安心して帰れる」
そう言ってルナサは代金を取り出し、飲食代を支払って帰っていった。
「またどうぞ~♪」
「下に妹がいると、世話焼きになるのかしらね?」
紫さんは飛んでいくルナサを見送りながら、そう呟いた。
「さて、店主。いつものをお願いね」
「は~い」
私は普段とは違う包丁を出して準備する。
「いつみても、上手いわね」
「こんなの、そこの巫女の弾を避けるより簡単よ~♪」
私は花が咲き乱れたときの事を思い出しながら言う。
「それもそうかもね。でも、それが料理できるのは幻想郷であなただけよ」
「え、紫さんは他には出してないの?」
「妖怪に仕入れを頼むなんて、同じ妖怪ぐらいしかできないわよ。そして、妖怪でこういったお店を持っているのはあなただけだし」
「ふ~ん?」
私は喋りながらも、包丁は動かしたままだ。
ついでに歌も歌いだす。
「百枚、千枚、一万枚♪割れたお皿はあと何枚♪」
「相変わらず、意味不明な歌ねぇ」
私はそのまま歌いながら料理をしていく。
紫さんは霊夢の頭を撫でながら料理を待っている。
「お待たせ~♪はい、鱧の湯引き」
「うん、これこれ。これがここにくる楽しみなのよね。藍だとここまで上手く骨切りは出来ないし」
紫さんはそれを美味しそうに食べる。
鱧は親指の長さ位の間に30回ぐらい切れ目を入れなくてはいけないから大変だ。
さて、次の注文まで何の歌を歌おうかな?
「ねぇ、ミスティア」
「なに~♪」
「あなたは妖怪よね?」
「もちろんそうだよ~♪」
「しかも人を襲うタイプの」
「ん~一応ね~♪」
そういえば、最近は全く人を襲っていないなぁ~。
「あなたが屋台をしていると、こういった風に酔いつぶれて寝ちゃう人もいるわよね?」
「そうね~♪」
半分ぐらいは酔いつぶれるかな~?
「そういったとき、襲いたいとか思ったことはないの?」
「ん~、そういえば無いなぁ~♪」
「なんで?人を襲うことこそ妖怪の本分でしょう?」
「ん~?」
私は少し考える。確かに私は人を襲う妖怪だ。紫さんの言うことは正しい。
でも、それでも・・・
「人を襲ったら、もう屋台に来てくれなくなるでしょう?」
「もともと、こっちは副業でしょう?だったら構わないのじゃないかしら?」
「でもね~」
私は寝ている二人の巫女を見る。
「霊夢に退治されるのが怖いの?」
「ん~それもあるけど~」
一番大事なのは・・・
「私の歌を聞いてくれる人がいなくなるじゃない」
私は歌うことが好き。そして、せっかく歌うならいろんな人に聞いてもらいたい。
歌うことこそが本当の私の本分。
「だから屋台を続けているし、その為に人を襲うこともしないの」
「そう・・・」
紫さんはそれを聞くと少し笑った後、また飲み始めた。
私は再び歌いだす。聞いてくれる人がいることの喜びをこめて。
夜明けまでにはまだ少し・・・
ああ、飲みに行こうかな・・・
良き雰囲気かな。
みすちーの屋台に行ってみたい…
人里が比較的平穏なのでは…とか言ってみる。
ルナサが哀れだったけど、この雰囲気はいいですなぁ。
誤字?
>「あれ、言っていなかったけ?」
『なかったっけ?』かなと思ったんですが…どうでしょう?
やっぱり大好きです。
キャラたちのやり取りも面白かったし、騒がしくもゆったりとした屋台の雰囲気がとてもよかったです。
確かに
人を襲うよりも、歌
ああ、『もう歌しか聞こえない』のはミスティア自身なのね
って、ちょっとこわっ!
このふいんき(ryはいいですよね~。
どうにも突然鰻の蒲焼が食べたくなりました。
アフリカでは、動物みんなで水を飲んでる間は、ライオン等に肉食獣も他の動物を狙おうとはしないで、仲良くしているって聞いたことがありますが、そんな感じなんでしょうね~。
次回作、期待していますね!!
屋台の雰囲気を気に入ってもらえたようで何よりです。
『屋台の会話』はネタと気力が続く限り続けていこうと思っているので、よければこれからも読んでくれると嬉しいです。
>⑨さん
誤字の報告ありがとうございます。
>ライオン等肉食獣~
この場合のライオンは(人)肉食のルーミアでなくて、霊夢なのでしょうね(苦笑)
でも、霊夢がいなくても妖怪たちは水場(=屋台)ではだれも襲わないと思っています。
そういえば、いままで寺関連って無かった気がしますね。葬式とかどうしてるんでしょうね。
ところで、幻想郷的には 求聞史紀 ではなく、幻想郷縁起 のほうがいいのではないでしょうか。
ニケさん以来かもね屋台ネタで
面白い作品読んだのは。
上手く吸収してなお楽しめる作品に
仕上げてみては如何でしょう?
にしても霊夢は酔うと甘えん坊になるのか?
やんわりとした空気が伝わってきて大変和めました。
この文章を書く前に読んでいたので、参考どころか、かなりの影響を受けてますよ(笑)
一夜目のみすちーが歌うばっかで、ほとんど会話に加わらなかったのは、あの作品の雰囲気がそうだったので引きずられてしまったのが原因です(苦笑)
自分の作品もあれだけの点数を叩き出せれるようになりたいものです。
けれども人によって微妙な違いが出てくるから、飽きずに読めるものなんだよなぁ。
1.話の筋やオチ自体が似ている 2.話の舞台が似ている
の2つだろうけど、こういう屋台ネタは後者だから
おなじような設定でもいろんな話が出来るから面白いんでしょうねえ。
1は飽きるけど、2は「もっと他のシチュエーションも見たい」という気にさせられて飽きない。
あの歌の歌詞はどうやって考えてるんですかね。
でも、良かったです。
ああ、蒲焼くいたい。