「夜の闇~♪、森の影~♪、照らすは赤い提灯一つ~♪」
私は歌いながらいつもの場所に屋台を引っ張っていく。
「月の道~♪、星の跡~♪、目指すは恋しき人の下~♪」
今日も喉は絶好調、屋台の車輪が私の伴奏。
「あれ、ミスティアじゃない。これから屋台の仕事?」
「あれ、リグル~♪」
上機嫌で屋台を引いていると知り合いの蛍の妖怪が声をかけてきた。
「歌いながら返事をするのはどうかと思うよ・・・」
「いつものことでしょう~♪」
「いや、まぁそうだけど・・・」
リグルは苦笑しながら私の隣をふわふわと飛ぶ。
「また、いつもの場所でやるの?」
「そうだよ~♪」
「なら、このまま寄っていこうかな」
リグルはそういって私の横を歩き始めた。
私は彼女と話し(歌い?)ながら夕暮れの道を屋台を引っ張り歩いていく。
日も沈み、紅い提灯が映えるころ、私の屋台は仕事を開始する。
今日のお客はまずリグル。
彼女はヤツメではなくただの鰻を注文。
最初はヤツメウナギだけを売っていたのだけど、ヤツメの数が足りなくなったので鰻や泥鰌もメニューにいれたのだった。そいしたら意外とそれがうけ、今では普通にメニューに入っている。他にも変わったものなら鱧やウツボがある。といっても前者は値段が高く、後者はモノがモノだけにあんまり売れないけど・・・。
それはともかく、私はリグルに鰻とご飯をだした。
この時間は夕食代わりにくる人も多いから、ご飯も炊いておいてある。
リグルがそれを半分ぐらい食べると、里に住む半獣がきた。
「いらっしゃ~い♪」
「すまない、ヤツメと熱燗をもらえるか?」
「はいはい~♪」
私はすぐさまヤツメを準備する。
「おや、すでに先客がいたのか?」
「ん?里の半獣じゃない。飲みにくるには少し早いんじゃないの?」
「昨日は満月だったろう?溜まっていた仕事がひと段落してね」
「ふ~ん」
リグルと慧音が何か話している。
慧音は里にさえ近づかなければ基本的に大人しい。
私もリグルも仕事をしているため最近じゃ人を襲うことも無いから、慧音も特に何もしてこない。あ、でもリグルってまだ仕事しているのかな?前あったときはそろそろ飽きてきたとか言ってたけど・・・。
ま、私はとりあえず邪魔されず歌えれば何でもいいや。
「風みて♪、水みて♪、私はどこに~♪」
私は歌いながらヤツメを焼く。私の歌を聴いて近くで寝ていた雀が寄ってきて、私と一緒に歌いはじめる。
今宵も私の歌は絶好調♪
「おや?珍しい組み合わせだぜ」
「あら、本当ね。いつぞやの蛍の妖怪と里の半獣じゃない」
次のお客は二色の魔法使いと七色の魔法使い。
「いらっしゃい♪」
「おぉ、魔理沙にアリスか」
「おじゃまするぜ」
「おじゃまするわ」
魔理沙とアリスが腰掛ける。
「さて、まずは酒二つとヤツメ串揚げ二つな」
「はいはい~♪」
私はコップに酒を注ぎ、二人に差し出す。
「はぁ、今日は疲れたわ」
「それはご苦労だったな」
「その原因の多くはあなたの暴走なんだけど?」
「おや、そうだったのか?」
「まったく、どうしようもないとき意外は絶対一緒に行動したくないわね」
「そうか?私はアリスと一緒にいたいぞ?アリスといると私と全く違う魔法が見れて楽しいからな」
「はいはい。機会があったらね」
私は捌いたヤツメに衣をつけて油に放り込む。
「そうだアリス。次、里に来る予定はいつになるかな?」
「ん?そうねぇ・・・まだわからないけど何で?」
「いや、お主の人形劇が結構人気でな。よければ私の寺子屋でもやって欲しいのだが」
「お、アリス。いつの間にか人気者だな」
「茶化さないの。まぁ私としてはいつでもいいんだけど、人形の材料とかもそろそろ買いにいきたいし」
「人形劇って?」
油のなかでヤツメが激しいリズムで音を出す。私はそれに合わせて歌を歌う。
「ああ、アリスは偶に里に来て人形劇をやっていくんだ。それが子供たちの中でかなり人気でな」
「こいつ、一度に何体もの人形を別々動にかすんだぜ。本当に操っているのかすっごく怪しいぜ」
「何度も言っていると思うけど、あれは本当に全部自分で動かしているの。人形が勝手に動いているわけじゃないわ。第一それは私の研究目標だし」
「でも、それなら家事までいちいち人形にやらせるのは逆に大変じゃないか?」
「あれは最初にある程度命令を出して動かしているの。だからそこまで大変じゃないわ。それに、家事を一度に終わらせられたら研究にかけられる時間が増えるじゃない」
油の音が大人しくなってきた。私も歌を大人しくする。
「む、それは確かに重要だぜ。というわけで・・・」
「無理よ」
「・・・まだ何も言ってないぜ?」
「どうせ、大方やり方を教えろって言うんでしょう?あなたには無理よ。これは両手で同時に、全くの別の複雑な公式を解くようなものだもの。弾幕はパワーとか言っているあなたには出来ないわ。そもそも、魔法使いが自分の研究内容を軽々しく人に教えると思うの?」
「いや、教えてもらえないなら見て覚えるまでだぜ」
「・・・そういえばあなたってそういうの得意よね。そのマスタースパークも元々は別の人のものだったって言うし」
「研究の第一歩は知識の吸収からだぜ」
「あなたの場合は模倣でしょう・・・」
「串揚げお待たせ~♪」
綺麗に揚がった串揚げを二人の前に出す。
「お、きたきた。これが酒と合うんだよな♪」
「はぁ・・・。で、話は戻すけど、私としては寺子屋で人形劇をやるのはいつでもいいのだけど?」
「そうか、だったら来週の水曜あたりでどうだ?時間はお昼過ぎあたりがいいのだが」
「わかったわ。じゃあその日に里に向かうわね」
「感謝する」
「ねぇねぇ、私も見にいっていいかな?」
「ん?かまわないぞ。大人しくしていればな」
「流石に人里の中でいきなり暴れるようなことはしないって」
「一応言っておいただけだ」
「まぁ、私としては公演料がもらえるならばそれでいいわ」
「金の亡者だな」
「あのね、私の研究はあなたみたいにそこらへんのキノコで出来るわけじゃないの。結構お金かかるんだから」
「私だって全部キノコでやっているわけじゃないんだぜ?」
「ほんとかしら?」
なんか私の歌を誰も聞いていないみたい。
でも、私は歌えればそれでいいや。
月がそろそろ中天に輝くころ、リグルは寝床に帰り、それと入れ違いに新しいお客さんがやってきた。
四組目のお客さんは二羽のウサギさん。
「こんばんは」
「こんばんは~」
「いらっしゃい~♪」
「おや、鈴仙にてゐか」
「あ、どうも慧音さん」
「こんばんは~」
「お、永遠亭のウサギ達か」
「何時かの月のウサギと詐欺ウサギね」
「詐欺は酷いわね~。私は幸運のウサギよ?私はいまよりちょっと幸せになれる方法を教えているだけ」
「それが詐欺くさいんだって」
「いや、しかし、人を幸せにするのは良い事だぞ、うん。私だってどうやったら里の者たちを幸せに出来るか、常に考えているのだからな。うんうん」
「・・・もしかして、慧音酔ってる?」
「ん?酔っているわけないじゃないか。私は素面だぞ。フフフフフ」
「うげ、顔も白いし普通に会話していたから、てっきり酔っていないのかと思ってたぜ」
「あ~、とりあえずミスティアさん。お酒と鰻とヤツメの串揚げを二つずつ」
「はいはい~♪」
私はお酒の入ったコップを、二人に出した。
「さててゐ殿、どうすれば人々を幸せに出来るだろうか?」
「それわね、まずこの書類にサインしてか・・・」
「やめなさいてゐ。流石に酔っ払い相手に詐欺はまずいわよ。それに慧音さんを敵にしたら里で薬が売れなくなるじゃない」
「え~っ、いいじゃない。向こうから相談に乗ってきているんだから」
「そうだぞ鈴仙。私から頼んでいるんだ。口出しはやめてもらおうか」
「ちょっと慧音、よしなさいって。あなたは酔っていて正常な判断が出来ないのよ?」
「何を言う。私は酔ってなどいない!!」
なんか、お客さんたちが騒々しい。こっちも負けずに激しい曲を歌わないと♪
「酔っている人間(?)はみんなそれ言うから・・・って、魔理沙!あなたも止めてよ!?」
「なんで?面白そうじゃないか」
「・・・あんたはそういう性格だったわよね。あぁ、もうっ!」
「ん~、気分が良い。店主、あれをそのままくれ」
「はいはい~」
慧音が差したものをそのまま差し出す。
「ちょっ、ちょっと慧音!流石にそれはやめ・・・」
「んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ」
「お~♪」
慧音は私の差し出した一升瓶を、ラッパ飲みで一気に飲み干した。
「「一気!一気!一気!」」
「魔理沙もてゐも囃し立てない!!」
これは、私も歌で囃し立てないと♪
「って、ミスティアまでなに囃し立ててるのよ!?」
「・・・はぁ、てゐと来た時点で静かに飲むのは無理か」
一升瓶を一気に飲み干した慧音。飲み干したと同時に倒れちゃった。
今は屋台の側で寝かせている。
他のお客さんもいい具合に酔ってきているみたい。
「いいかぁ、まほーとはぱわーなんだぜぇ?ジミチなどりょくをはでに開花させるのがいいんだぜぇ」
「何言ってんの?魔法はブレインよ。地道な努力は認めるけど、それを使うときも計算されつくした美しい姿じゃないと!・・・そう、つまり私の魔法は美しいのよ!!ウフ、ウフ、ウフフフフフフ」
「・・・・・・・・・」
「・・・はふぅ」
魔法使いさんたちはお酒片手に何か言い争っていて、ウサギさんたちは黙って黙々と飲んでいる。
それにしても、黒いウサギさんは酔うと随分大人びて見える。
逆に赤い瞳のウサギさんは子供っぽくなるみたい。
「蝶浮いて~♪トンボが走って~♪蜻蛉止まる~♪」
私は歌いながらヤツメを捌く。
さて、そろそろ毛布の準備をしようかな?
いい加減魔法使いたちの様子が危なくなってきた。多分、もうすぐ落ちるだろう。
ほら、言っている側から黒白のまぶたが落ちた。続いてすぐに七色のほうもテーブルに突っ伏す。
私は毛布をかけるため、屋台の反対側へ向かう。
「ねぇ、店主」
私が二人に毛布をかけていると、黒いウサギさんが声をかけてきた。
「ん、何~?」
「こっちにも毛布をもらえないかしら?」
良く見ると、赤い瞳ウサギさんもテーブルに突っ伏していた。
「はいは~い♪」
私は毛布をもってきて、赤い瞳のウサギさんにかけてあげる。
「鈴仙もねぇ」
黒いウサギさんが何かを呟く。
「月から一人で逃げてきて、たった一人ぼっちで地球で暮らしているのよね。輝夜様も永琳様もやさしくはしてくれるけど、地上のウサギは言うことを聞かないし、最近まで軽々しく永遠亭の外にすら出られなかった」
黒いウサギさんの口調は、見た目以上の年齢を感じさせた。
「やっぱり、大変なのかしらね・・・」
「ん~でも」
「ん?」
私は思わずウサギさんの言葉に返していた。
「それなりに幸せだと思うよ?」
「どうしてそう思うのかな?」
ウサギさんが不思議そうに聞き返してくる。
「だって、ほら」
私は赤い目のウサギさんの寝顔を差す。
「幸せそうに眠っているじゃない?不幸な人って、寝顔も大抵苦しい顔になっているもの。特に酔ったときはね♪」
それは私が屋台を始めて知ったこと。もちろん例外はあるけど、幻想郷の人って皆意外とわかりやすい人が多い。
「・・・確かにそうかもね」
黒いウサギさんは笑って、コップを差し出した。
私はそれにお酒をついで、次の歌を歌いだした。
今度は今までとは違う静かな歌。
「あら、珍しい歌ね。でもなんとなく、聞いたこともある気がするけど」
実は、大抵のお客はこの曲を聞いている。でも覚えてはいない。
なぜならそれは、大抵皆が酔いつぶれたときに歌う歌だから。
「まぁ、悪くはないわね」
夜が更けてくる森に流れる、夜雀の子守唄。
夜明けまでにはまだ少し・・・
とても癒されました。
相手の方が酔ってるみたいだけどw
>黒いウサギさんは酔うと随分大人びて見える
多分、地が出て来てるのではないかと。
ウフフ魔理沙ならぬウフフアリス(読みにくい・・・)は笑いましたね。
いい味してますww
>「鱧」は、「ハモ」っていいます。
主に京都とかの方で懐石なんかで出る高級魚です。
みすちー同様、小骨が多い魚なので、皮を残したまま、身と骨を細かく刻んでゆでたりするらしいですよ。
食べたこと無いですが。
にしても、ウフフアリス・・・何か怖っ!
それはそうと、酔っぱらうとその人の本性が出てくるんですよねぇ
だからお酒は大好きです。
この話は二次ネタも無く、戦闘とかもないので盛り上がりもかけるかなぁ・・・とか思っていて好まれにくいかなとか考えていたのですが、思っていたより受け入れられてよかったです。
>てるるさん。『鱧』の説明ありがとうございます。
明らかに常用漢字外だったので、やっぱりウツボみたいにカタカナで書いておいたほうがよかったですかね(苦笑)
ただ、文化帖のイラストで屋台の提灯に『八目鰻』と書かれていたので、意外とみすちー漢字が出来るのかなと思って漢字で書きました。
あと、無用かもしれませんが同じく明らかに常用漢字外の『楸』、これ『ひさぎ』と読みます。
>ウフフアリス
これは、まぁ、妖々夢でアリスが随分色のことを気にしていたうえ、都会派を強調していたので、ちょっとナルシストな面もあるかなぁ?っと考えて笑わせたらこんな笑い方に(笑)
海の無い幻想郷でどうやって仕入れたんだみすちー?
鱧の骨切りはチットした職人の
腕の見せ所ですからね~。
マメ知識。
鱧は生命力が高い生き物です。
ですから海から遠い場所や京都で広まった食べ物ですね。
ミスティアの屋台関係は連作があったんですけど、作者さんがここを去られるときに
全部消して行かれちゃったので、この作品がシリーズ化して新たな代表作になられる
ことを期待したり。
いつも通りな感じが漂う屋台の風景、じわりと心が温かくなりました。
酒の席と可愛らしくも騒がしい店主、ミスティアのお話。楽しく読ませていただきました。