穏やかな日々を過ごす幻想郷は夏を迎えよとしていた。だが、今年の夏は少し様子が違った。
どこからともなく発生した紅い霧が幻想郷を包み込んだのだ。
紅い霧が出始めてしばらくたったある日。夕方の空をほうきに乗った少女が飛んでいた。その少女の名前は霧雨魔理沙、ごく普通の魔法使いである。彼女は目的地である博麗神社を見つけると、境内へと降り立った。
「おーい霊夢いるかー?」
社へと向かいながら呼びかけると勢いよく障子が開き、肩口に切れ込みの入った巫女服を着た小さな幼女が姿を現した。
「魔理沙ねーちゃん! いらっしゃーい!!」
少女は縁側から飛び立つと魔理沙の胸へと飛び込んだ。
「おっとっと、相変わらず元気だな霊夢は」
「うん、わたしはいつでもげんきなのだー」
魔理沙は飛びついてきた幼女――博麗霊夢を抱きかかえながら笑みを浮かべると、霊夢もまた満面の笑みを浮かべた。
「でも、このへんな霧のせいで洗濯物とかがなかなか乾かないからちょっとしょんぼりなのだ」
「だよなー、やっぱりこの霧は困るよな……」
縁側に腰掛け空を見上げる。日が沈んでいった空は日中程ではないが紅い霧が広がっていた。
「霊夢、あのな……私はこれからちょっと出かけてくるぜ。さすがに我慢の限界でやつだ」
「魔理沙ねーちゃん、この霧の原因を探しに行くのか? だったらわたしもいくのだ」
霊夢の言葉に魔理沙は目を見開き霊夢を見つめた。
「ばか、お前みたいな子供を連れていけるわけないだろ。お前の母親の靈夢からも任されてるんだ、危険なことをさせるわけには……」
自分の膝の上に乗せた霊夢の両肩を掴み、声を荒げる。すると、霊夢は魔理沙の手を振り払い、境内へと飛び出す。
「魔理沙ねーちゃん、わたしももうすぐ5歳なのだ。ママみたいに妖怪退治だってできるのだ」
地面から浮き魔理沙と同じ目線の高さに漂いながら、右手をあげた。どこからともなく二つの陰陽玉が飛んできて、霊夢に寄り添うように空中に静止した。
「魔理沙ねーちゃんが来なくても、わたしもこの霧の正体を探しに行くつもりだった。だから用意はすでにできてるのだ。わたしは博麗霊夢……幻想郷の平和を守るのが使命なのだ」
「霊夢……」
帽子の上から頭を押さえ俯くと、ゆっくりと立ち上がった。
「わかったぜ。そういうところは母親そっくりだな」
霊夢の頭に手を置き撫でる。
「ただし、無茶はするな、それと危なくなったら逃げる。この二つの事を守るんだ、いいな?」
「わかった、約束するのだ」
魔理沙は顔をあげ笑みを浮かべるとほうきを手に取った。
「それじゃあ、いくぜ霊夢!!」
「うん!」
二人は互いに頷くと空高く跳びあがった。
夜の境内裏を霊夢と魔理沙は飛んでいた。途中何度か妖怪が襲いかかってきたが、霊夢はそのすべてを手にした札で撃退していった。その姿に魔理沙は驚きを隠せなかった。
「なかなかの腕前だな霊夢。正直びっくりだぜ」
「えへへへ、毎日こっそりと練習していたのだ。わたしもはやくママみたいに一人前の巫女になりたいからね」
「そうか……ん? なんだあれは」
二人の前方に真っ黒な球体が浮かんでいた。
「んーなんだろうね」
ゆっくりとその球体に近づいていくと、球体が一回り大きく膨れ上がり、大量の弾幕を放ってきた。
「わわわっ!!」
「危ない霊夢!」
いきなりの攻撃に驚き動きの止まった霊夢の腕を掴み、魔理沙は急降下して弾幕を回避した。
「このやろうッ!」
球体を睨みつけると、手に魔力を集めいくつもの塊にすると球体に向けて放った。初歩的な魔術マジックミサイルだ。
「きゃあ!!」
球体にマジックミサイルが吸い込まれると、少女の悲鳴が聞こえた。
「ううー痛いじゃないのー」
球体が薄れるように消えると、中から両手を横に広げた少女が姿を現した。
「誰だよおまえは。いきなり攻撃してきやがって」
魔理沙は霊夢を背後へと庇い、警戒しながら少女へと対峙する。
「わたしはルーミアだよ。今は散歩しながらご飯を探してたのだ」
ルーミアがニヤリと口を歪めるように笑った。
「ああそうかい、散歩中だったのか。いきなり攻撃してくるからびっくりしたぜ」
「だって、夜に行動する人間なんて珍しかったからねーつい」
クスクスと笑う。
「知ってるぞー、そういう人間は妖怪に食べられても仕方がない人間なんだってー」
「そーなのかー」
驚いたように霊夢を見つめ目を輝かせる。
「じゃあ、目の前にいるのが食べてもいい人間なんだね」
ルーミアから妖気があふれ出す。
「あうっ……ど、ど、ど、どーしよう魔理沙ねーちゃん。わたしたち食べられちゃうよ!!」
慌てた声を出しながら魔理沙の背中にしがみ付く。
「そんなの簡単だ、私たちは妖怪を退治する存在だ。だからやっつければいいだけだぜ」
指を鳴らすと、小さな魔方陣が魔理沙の左右に現れ、ルーミアへと光線を放った。
ルーミアは広げていた両手を突き出し光線を防ぐと、距離をとった。すぐさま両手を上下へと伸ばすと、無数の弾幕が魔理沙たちに襲いかかった。
「魔理沙ねーちゃん、なんかあいつ強そうだよ」
「霊夢、私たちが戦う相手はああいう奴らなんだ。怖いか?」
弾幕を回避しながら、尋ねる。
「ちょっと。でも、大丈夫なのだ。見ててよ」
「あ、おいっ……」
弾幕の隙間を縫うようにルーミアへと接近する。
「くらえっ!! パスウェイジョンニードルゥゥゥ!!!!」
袖の中から、大量の針を取り出し一斉に放った。
「わわっ」
両腕で顔を庇うルーミアに次々と針が刺さっていった。
「ううーやったなー、こうなったら」
懐から1枚のカードを取り出す。
「闇符『ディマーケ……へぶっ!」
カード宣言をしようとしたルーミアの顔に陰陽玉がめり込む。
「ふあっ……」
ルーミアは気を失い一直線に地面へと落下していった。
「どうだ、まいったか」
「こらっ」
霊夢のそばへとやってきた魔理沙が軽く頭をこついた。
「危険な真似をするんじゃない。見てるこっちが心配するだろ」
「うー、ごめんなさい」
「よし、ならいこうか、こんなところにいつまでもいれないからな」
ションボリする霊夢の頭に手を置くと、魔理沙は優しく撫でた。
「でも、思ったより弱かったのだ。強そうな感じがしたから、針全部使っちゃったのに……」
「ははは、相手の強さを感じ取れるようになるのはそれなりの場数を踏まないとな。さ、いくぞ」
「うん……あのね、魔理沙ねーちゃん。おんぶしてもらってもいいかな。ちょっと疲れちゃったから」
「ああいいぜ。ほら、こいよ」
背中を向けると霊夢は陰陽玉を袖の中にしまい、魔理沙の背中に抱きついた。
「それじゃ、飛ばすからな。しっかりつかまってろよ」
肩を掴む小さな手に力が入ったのを感じると、帽子を深くかぶりなおしほうきに魔力を込めた。
紅い霧の漂う夜空を一筋の光が飛び去って行った。
過ぎ去っていく光を地面に寝そべったままルーミアは眺めていた。やがて、ゆっくりと起き上がると両腕を振る。パラパラと刺さっていた針が落ちていった。
「あれが、今代の博麗の巫女か……」
頭にあるリボンをゆっくりと掴み、引っ張ろうとした。その瞬間、パチリと電気が走り手を離した。
「痛っ……フフフ、かわいかったなあ」
含みのある笑みを浮かべながら、空を見上げる。先ほどまでとはまとっていた雰囲気が違った。まるで暗く冷たい闇の深遠のような気配だった。やがて、二人が過ぎ去った方向に背を向けると両手を広げる。
「さーて、今夜の御飯をさがしにいこーっと」
一転して能天気な声を上げると、闇をまとい何処へと飛び去っていた。
湖へとやってきた魔理沙は肌寒さに身を震わせると、速度を落とした。
「おいおい、夏もすぐそこだっていうのになんだこの寒さは。霊夢、大丈夫か寒くないか」
「ん、大丈夫だよ……」
「そうか。とはいえ、あんまり長居すると風邪をひきそうだな。早いとここの湖から抜け出るか」
「魔理沙ねーちゃん。なんか少し前からおんなじところを飛んでる気がするんだけど」
不安そうにあたりを見渡すが、湖から発生した霧と紅い霧によって視界は遮られ、自分の現在地すらあやふやになってしまいそうな感覚に霊夢は戸惑いを覚えた。
魔理沙は軽く舌打ちすると、再び加速していくが、進めども進めども変化の無い景色に内心焦りを感じ始めていた。
「魔理沙ねーちゃん……寒いよう」
霊夢の泣きそうな声に魔理沙はハッとし、その場に停止する。いつの間にか周囲の気温が少し肌寒い程度だったものから、ぐっと下がっていた。吐く息がほんのりと白くなる程だ。
「大丈夫か……くそ、布の一枚でも持ってくればよかったぜ」
初夏とはいえ深夜へとなるにつれ気温は下がる。ましてや霊夢は幼い、寒さの影響は魔理沙よりも大きく受けることになる。魔理沙は霊夢を抱き寄せると、体をさすった。
「まってろ、すぐにこんなとこ抜け出すからな」
「あっはっはっはっはー、抜け出すなんて無理無理、もう二度と陸地には上がらせないよ」
励ます魔理沙へと見下したような声が上空がかけられる。見上げると氷精と大妖精が浮かんでいた。
「この霧はお前の仕業か」
怒気をはらんだ声を出しながら、氷精の前へと浮かび上がる。
「へへん、このアタイの力をもってすれば、この程度のことなんて簡単だね。ずーっとこの湖をさまよって……」
「黙れ、この野郎!!」
怒りをあらわに叫ぶと、魔理沙の周囲に小さい魔方陣がいくつも展開し、次々と光線を放つ。
「うわわわわっ!」
「あの人そうとう怒ってるよチルノちゃん。やっぱりやりすぎなんだって」
慌てふためき、光線から逃げるように距離をとる二匹。
「大丈夫だよ大ちゃん、アタイは最強なんだから。それっ」
目の前に大きな氷塊を作り出し手を添える。すると氷塊はバラバラに砕け破片が魔理沙たちに襲いかかった。
「へん、そんな弾幕、欠伸が出る遅さだぜ」
軽やかに襲ってきた破片を避けていく。しかし、避け終えたときには、魔理沙の視界から二匹の姿が消えていた。
「あっはっはっはっはー、こんなおとりに引っ掛かるなんて、バーカバーカ!」
どこからともなく聞こえてくるチルノの笑い声に、魔理沙の怒りは限界をこえた。
「…………こんなところで使うつもりはなかったが、もう頭に来たぜ」
スカートのポケットからミニ八卦炉とスペルカードを取り出す。カードをミニ八卦炉に張り付けると、霊夢を片手でしっかりと抱きしめた。
「しっかりつかまってろよ。くらえ、恋符『マスタースパーク』っ!!」
ミニ八卦炉を前方にかざすと、ウイィィィィンという振動音とともにミニ八卦炉から巨大な光があふれ出し、極太のレーザーとなって全てをなぎ払っていった。
霧の無くなった湖の上空に、チルノと大妖精は呆けたように佇んでいた。
「な、なんなよのさっきのは、当たったら死んじゃうじゃないの!!」
我に帰ったチルノが魔理沙を指差し怒鳴りつける。
「ち、外れたか……」
「魔理沙ねーちゃんすげーー、かっこいいなー」
目を輝かせレーザーの放たれた方向を見つめる。
「さて、いたずらがすぎるぜ妖精さんよ。とっととこの茶番を終わらせようか」
殺気にも似た怒気をはらんだ魔理沙の視線に、二匹はビクリと体を硬直させた。
「ふ、ふんだ。そんな脅しに、ア、アタイがひるむと、おも、思ってんの」
声を震わせながらも虚勢をはるチルノ。
「魔理沙ねーちゃんまって、わたしにまかせてよ」
魔理沙の腕をしっかりと掴むと、チルノを指差した。
「おい、そこの馬鹿氷精。とっとと道をあけろ」
「ムッカー! 誰が馬鹿だ、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだぞー。このガキー」
両手をブンブンと振り回しながら、霊夢を睨む。
「ふん、どうだかね。でも、馬鹿じゃないならこの問いに答えれるよね」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「な、なによ」
「ふふん、7+5はいくつ?」
ビシッとチルノを指さしながら言い放つ。
「ええっ? えーと7+5だから、まずは………………」
両手を顔の前に持ってきて指を折りながらうんうんとうなり声をあげる。
「えーと、えーと」
しばらくすると、顔からいくつもの汗が流れ落ちてくる。
「うぬぬぬぬぬぬぬっ」
頭から煙でもたちそうなほどうなり始める。それを見ていた霊夢は鼻で笑った。
「ほーら、そんな簡単な事もわからないなんて、やっぱり馬鹿ね」
「なんだとー、そういうお前はわかるのかよ!!」
「そんなの簡単よ。7+5はね……七十五よ!」
自信満々に宣言する霊夢。その言葉に周囲は沈黙した。時間にして数秒なのだが、数分にも感じれる時が経過し、沈黙が破られた。
「うっ……」
チルノが俯き体を震わせながら声を洩らす。
「ア、アタイは最強なんだ。お前みたいなガキに負けるなんて、負けるなんて……」
顔をあげると、両目からはボロボロと涙が溢れていた。
「ウワアァァァァァァァン……おぼえてろよ~!!」
大泣きしながら背を向け飛び去って行った。
「待って、チルノちゃん! あの、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。それじゃあ……」
行く末を見守っていた大妖精は、魔理沙たちに頭を下げるとチルノを追いかけて行った。
「噂通り、湖の氷精は馬鹿だったのだ。わたしの頭脳勝ちね」
大満足して頷く霊夢。
「あーあのなー霊夢、7+5は12だからな」
呆れ声で呟きながら、魔理沙は霊夢を抱き寄せる。
「え、そうなの?」
「ああ、また今度教えてやるよ。でもまあ、戦わず勝つなんてなかなか凄かったぞ」
「たまたまだよ。それより、さっきこの向こうに紅い霧の濃い部分が見えたのだ。行こうよ魔理沙ねーちゃん」
「わかった、とばすぜ!」
再びほうきを加速させ、魔理沙たちは湖を後にした。
「うええええん、くやしいよ大ちゃ~ん」
湖のほとりで、チルノは大妖精に抱きつき泣いていた。
「チルノちゃんは頑張ったよ、だから泣かないで。大丈夫、次はきっと解けるよ」
優しく頭をなでながら慰める。
「…………よし、決めた。次に会った時は絶対泣かしてやる。そのためには明日から特訓だ!! 大ちゃんも協力してくれるよね」
大妖精から離れると、空を見上げながら力強く拳を突き上げた。
「ええ、もちろんよ」
温かい眼差しでチルノを見つめる大妖精。しかし、明日になれば特訓のことなんてすっかり忘れていることを想像し苦笑いを浮かべるのだった。
「こら、そこのあなた。止まりなさい!!」
湖を抜けて飛行する魔理沙の前に中華風の服装を着た少女が立ちふさがった。
「お、なんだなんだお前は?」
「私は紅魔館の門番長 紅美鈴。先ほどお屋敷の近くに、ものすごいレーザーが降ってきたから見回りに来たのよ。犯人はあなたね」
「おいおい、いきなり人を犯人扱いしないでくれよ。証拠なんてあるのかよ」
内心ドキリとしながら聞き返す。
「こんな夜中に白黒の怪しい格好をした人間が飛んでたら、不審人物以外の何者でもないわよ。覚悟なさい!」
美鈴は構えをとると魔理沙を見据えた。
「ちっ……悪いが、そんな相手をしてる暇はないんでな。ずらからせてもらうぜ」
美鈴に向けてマジックミサイルを数発放つと、最大速度で、飛び去って行った。
「あ、待てぇっ!」
マジックミサイルを叩き落とすと、すぐさま後を追いかける。
「止まりなさい!」
クナイを取り出すと、妖力を込め前を飛ぶ魔理沙へと投げつける。クナイは一直線に魔理沙へと飛んでいく。
「おっとっと……」
妖力を察知し後ろから飛んでくるクナイを回避する。
「霊夢、しっかりつかまってろよ……霊夢?」
静かに思い自分の胸元を見下ろすと、霊夢は安らかな寝息をたて魔理沙に寄りかかり眠っていた。
「ちっ、こんな夜中じゃいつもは寝てる時間だものな。どうする……」
「追いついたわよ。おとなしくしなさい」
気づかぬ間に飛行速度が落ちていたらしく、美鈴がすぐ隣りへと追いつき手を伸ばしてきた。
「なんのっ」
魔理沙は急減速すると魔方陣を展開させ光線を打ち出す。
「ハッ!」
掛け声とともに体をひねり、光線を避けると、魔理沙へと接近する。
「甘いぜ!!」
帽子の中からキラキラと輝く液体の入った小瓶を取り出すと蓋をあけた。中から丸められた紙と液体が飛び出す。
「魔符『スターダストレヴァリエ』」
魔理沙が宣言すると、丸められた紙と液体が輝く。そして、無数の星屑となって美鈴へと襲いかかった。
「っ、きゃああっ」
直撃を受けた美鈴はきりもみ回転しながら紅魔館の門前へと墜落した。
「へっ、どんなもんだい」
笑みを浮かべながら門へと近寄っていく。
「華符『芳華絢爛』!!」
土煙を上げる墜落現場から宣言が聞こえると、黄色と赤の弾幕が幾重にも重なりながら魔理沙へと襲いかかった。
「おっとっとっと……」
突然の反撃に慌てて回避する。だが、その急激な回避運動の衝撃で霊夢がほうきから落下していった。
「しまった。霊夢! うおっ、このっ!」
追いかけようとするが、弾幕が邪魔をし、近寄れなかった。その間にも霊夢は眠ったままで落下していく。地面に激突すればまず助からない高さだ。
「くっ、このっ!」
魔理沙は覚悟を決めると、全速で霊夢へと飛んでいく。弾幕が体をかすめ服を切り裂くが、気にせずに突き進む。
「もう少し……」
手を伸ばし、霊夢の服に触れた瞬間、弾幕が魔理沙の手を直撃し弾き飛ばした。
「霊夢!!!!」
自らの手が届かず落下していく霊夢を再び追いかけるが、間に合いそうになかった。
「くっそーーーー!!」
ほうきへと限界量を超えた魔力を流し込み速度を上げ、地面に向けて加速していく。
「まにあえーーー!」
地面すれすれで直角に曲がると、今まさに地面へと激突しようとしていた霊夢へと近寄り手を伸ばす。だが、限界を超えた魔力にほうきが耐え切れず暴走を始めた。その結果軌道がズレ、霊夢の体に触れるが掴み損なった。
「霊夢ーーーーッ!」
ほうきへの魔力を瞬時にカットし転がりながら着地すると、すぐさま霊夢の元へと駆け寄った。そこには、地面を削りながらスライディングしてきた美鈴の胸の上で、何事もなかったように寝息をたてる霊夢の姿があった。
「いたたたたっ、なんとか間に合ったわね」
寝そべったまま、笑みを浮かべる美鈴。
「お前、なんで助けたんだ……」
「私は門番、お屋敷への侵入者を防ぐのが仕事。殺すのは仕事じゃないもの。それに……」
「それに?」
「こんな小さな子を死なせたら後味が悪いじゃないの」
そっと、霊夢をなでると、うめき声をあげながら目を覚ました。
「あれ、おねーちゃんだれ。魔理沙ねーちゃんの友達?」
「私は紅美鈴、紅魔館の門番長よ」
「じゃあ美鈴ねーちゃんだね……ふあっ、美鈴ねーちゃんのお胸柔らかくて気持ちいい……くー」
美鈴の胸に顔をうずめると、再び寝息をたてはじめた。
「えっ、ちょっと、起きてよ。こんなとこで寝られても困るわ」
困惑しながら体をよじるが、ダメージが大きくろくに動かなかった。
「美鈴っていったか。悪いが少しの間、霊夢を預かってくれないか。私は、その間にこの霧の異変を解決してくるからな」
「え、ちょっと待ってよ。私はあなたの敵なのよ、そんなことできるわけないでしょ」
「でも、霊夢の敵じゃないだろ? そうだ、これやるよ」
薄い青色の液体の入った小瓶を美鈴の額へと置く。
「回復用のポーションだ。それじゃ、頼んだぜ」
魔理沙はほうきに乗りなおすと、紅魔館の中へと飛んで行った。
「あ……もう、そんな言い方ずるいよ」
額の小瓶を手に取り、霊夢を見下ろし微笑んだ。
「でも、あの人大丈夫かな。あっちはパチュリー様の図書館の方角だったはずだけど」
自分で敵と言っておきながらも、魔理沙の身を心配する美鈴であった。
ポーションで回復した美鈴は起き上がると、霊夢を抱き抱え門脇の詰め所へと向かった。
「楊副長いる?」
詰め所の扉を開けながら呼びかける。
「どうしました、美鈴隊長」
奥から美鈴とよく似た服装をした少女が歩いてきた。
「悪いけど、少しの間だけ門番を頼みたいの。私は自分の部屋へ戻ってくるから」
「いいですけど、どうかしたんです……」
美鈴の姿を見ていた楊は、霊夢の姿を目に留めると言葉を詰まらせた。
「隊長……実は子持ちだったんですか?」
「違う違う、私の子供じゃないわよ」
楊の言葉に全力で首を振り否定する。
「いやあ、すいません。てっきり母乳が詰まってるからおっきいのかと思ってしまいましたので」
頭をかきながら笑みを浮かべ、美鈴の胸を見つめる。
「馬鹿なこと言わないでよ、もう……この子は押しつけられたの。ともかく、私はこの子を部屋に寝かせてくるから。お願いね」
「わっかりましたー」
ヒラヒラと手を振り、屋敷へと走っていく美鈴を見送った楊は大きく溜息をついた。
「隊長も甘いなあ。まあ、そこがあの人のいいところなんだけどね……さて、シフト表の変更がいるなこりゃ」
実は門前でのやり取りを一部始終覗いていた楊は、今夜中に美鈴が戻ってくる可能性はないと確信していた。
「また、メイド長のお仕置きを受けるんだろうね、確実に……ご愁傷様です」
紅魔館に向けて手を合せる楊。すると、ドーーーーンという爆発音と共に、あたりが揺れ動いた。
「あっちはあっちで、ど派手にやってるみたいだねー」
図書館の方角に視線をやった後、詰め所へと戻って行った。
「全員集合、シフト表を組みなおすよ~」
楊は自分の仕事をするために待機中の門番隊員たちを呼び寄せた。
断続的にやってくる爆発音と揺れに、美鈴は冷や汗を流しながら自室へと向かっていた。
「うわー、どうしよう。これはきっと図書館はすごい戦場になってるだろうなあ。ううっパチュリー様ごめんなさい」
騒がしくなり始めた館内の廊下の隅をコソコソと身を小さくしながら走っていく。廊下の角で一旦止まり、そっとの奥を覗き見る。人影がいないことを確認すると素早く走りだす。
「とにかく、早くこの子を私の部屋へ連れて行かないと。万が一にも見つかったら大変なことになる」
自室の扉が見えた美鈴は、少し安堵した表情を浮かべた。だが、扉の前まできた瞬間、奇妙な浮遊感を感じた。その感覚にとまどい立ち止まると、しっかりと床を踏みしめ霊夢を抱きしめた。
「っ…………」
美鈴は全身に力を入れたままピクリとも動かなかった。いや、動けなかった。なぜなら、立っていた場所が変わっていたからだ。その場所は主の部屋へと続く階段前の広間だった。この場所は一部の者以外は決して立ち入らない領域、彼女自身も数度しか通ったことはない。それほど屋敷内で神聖であり同時に危険な場所であった。
「仕事もしないで何をしているのかしら美鈴?」
氷の刃物のように冷たく鋭い声が広間に響き渡った。
「咲夜さん……」
いつのまにか美鈴の前に紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が立っていた。
背中に冷たい汗が流れるのを無視しながら、ゆっくりと離れようとする。
「あら、お嬢様に何かご用でもあるのかしら?」
その言葉に美鈴が振り返ると、そこには主の間へと続く階段があった。
「咲夜さんあの聞いてください。この子はですね……」
「今は誰も館に入れてはならないはずよ。あなたはそんな簡単な命令すら実行できないのかしら。いえ、それどころか自らネズミを招き入れるなんて、弁明の余地もないわね」
音もなく咲夜の手に銀のナイフが現れる。
「咲夜さん、こんな子供に手を出すんですか?」
咲夜を見据えながら尋ねる。
「お嬢様の命令は絶対よ。ましてやその子の服は巫女服、この幻想郷で巫女と言えばお嬢様とパチュリー様の言っていた博麗の巫女しかいないわ。なら、なおのことお嬢様に会わせるわけにはいかない。こんな子供なのには驚いたけれど、危険分子なら排除しないとね」
咲夜は目を細め手にしたナイフを美鈴へと向けた。
「さあ、その子を渡しなさい。そうしたらあなたがその子を館に入れたことは不問にしてあげるわ」
咲夜の言葉に美鈴は俯くと唇をかみしめた。そして、ゆっくりと霊夢を階段に腰掛けさせるように降ろすと、自分の帽子を取り、霊夢の顔を隠すようにかぶせた。
「美鈴? 聞こえなかったのかしら」
「十六夜咲夜ッ!!」
立ち上がった美鈴は気合を入れるような声で咲夜を呼び捨てにすると、振り返り睨みつけた。
「こんな小さな子に手を挙げるようなまねを見過ごすわけにはいきません」
「そう……逆らうというのね」
始めから美鈴の行動がわかっていたかのような声で呟くと、一度深呼吸をした。
「なら、あなたも倒すまでよ、美鈴!」
「止めて見せます、絶対に!!」
美鈴は床を蹴ると、咲夜へと突進していった。
――さかのぼること少し前のこと。
紅魔館内のヴワル大図書館へと侵入した魔理沙は図書館の主である魔女パチュリー・ノーレッジとの壮絶な戦いを繰り広げていた。互いに持てる知識と技を最大限に使い、弾幕をぶつけ合っていた。しかし、どちらも決め手に欠けていた。それは、双方のコンディションが万全ではなかったからだ。魔理沙は門の前での無茶な行動でほうきが思うように機能せず。パチュリーは持病の喘息の調子が悪く、奥の手が使えず。それでも、互いに相手を倒すことだけを考えていた。
「なかなかやるじゃないか、パチュリー・ノーレッジ」
「あなたもね、霧雨魔理沙……」
二人とも肩で息をしながら対峙していた。しばらくにらみ合い、息が整うと双方の顔から表情が消えた。
「でも、そろそろ幕引きといきましょうか。これ以上私の図書館を汚させるわけにはいかないからね」
「へっ、こっちも先を急いでるんでね。こいつで最後にしようじゃないか」
スペルカードを取り出し高々と掲げた。
「金&水『マーキュリポイズン』!」
「恋符『マスタースパーク』!!」
互いに宣言すると同時に、図書館はまばゆい光に包まれる。そして、一呼吸遅れて轟音が響き渡った。
「ひやああああっ」
本棚の陰に隠れていたパチュリーの使い魔である小悪魔は、図書館が崩壊しかねないほどの大轟音と衝撃に驚き、頭を押さえてうずくまった。やがて、静かになったのに気づくと立ち上がり。恐る恐る本棚の角から顔を出した。そこには、一人の人影が立っていた。
「パチュリー様ー!」
その人影を自分の主人だと感じた小悪魔は慌てて駆け寄った。だが、その姿がハッキリするとその場に急停止した。立っていたのは魔理沙だった。
「へへっ、体の頑丈さは私のほうが上だったな」
足もとに横たわるパチュリーと見つめあう。
「くっ……」
顔をしかめ、魔理沙から顔をそむけた。
「それじゃあ、悪いが先に……進ませて、もら、う……ぜ?」
踵を返そうとした魔理沙の全身から力が抜け、その場へと倒れ伏した。
「ようやっと毒が効いたみたいね。まったくここまで効きづらいなんて、頑丈にもほどがあるわよ」
「そうか、さっきのスペルは……へへっ、この勝負引き分けか」
「そうね。でも、喘息の調子が良ければ私が確実に勝っていたわ」
「ふん、私だってほうきが壊れてなけりゃ負けなかったさ」
「ふふふふふっ」
「はははははっ」
「「あはははははははははは……」」
お互いに大声で笑い出す。
「次は負けないぜ」
「次は負けないわ」
そう言うと二人は気を失った。
「はあっ……まったく。誰がこの片付けをすると思ってるんですかぁ」
一人取り残された小悪魔は、荒れ果てた図書館を見渡し深いため息をついた。
――そして、時間は再び進み。
「くうっ」
肩を切り裂かれ苦悶の声を上げる美鈴。その姿はボロボロで流れ出る血によって服は赤く染まっていた。
「しつこいわよ美鈴。これ以上続けるなら、その命の保障はできないわよ」
少し疲れたような雰囲気を含んだ声を出しながら、両手に何本ものナイフを取り出した。
「引くわけにはいきません……セイッ」
掛け声とともに咲夜へと接近すると、蹴りを繰り出す。だが、蹴りは空を切る。突如背後へと現れた咲夜は、手にしたナイフを投げつける。その動きと同時に、美鈴の顔が振り向き咲夜の姿を捉えた。
「光符『華光玉』!!」
体をひねりながら両手を突き出すと、気の塊が咲夜をめがけて飛んでいった。
「なっ!」
その攻撃に初めて咲夜の顔に驚きの表情が浮かび上がった。気の塊は、投げかけられたナイフをはじき飛ばすと、咲夜へとぶつかり爆発した。
「あうっ……」
爆発の衝撃で壁に叩きつけられた咲夜は、苦悶の表情を浮かべながら膝をついた。
「美鈴っ!」
声を荒げ立ち上がった咲夜の懐に、美鈴が入り込む。
「華符『破山砲』!!」
凝縮した気を込めた拳を咲夜の鳩尾に向けて放つ。
「っ!?」
だが、その拳は虚しく空を切った。
「傷魂『ソウルスカルプチュア』」
背後に現れた咲夜の瞳が赤く輝いたかと思うと、美鈴に無数の斬撃が襲いかかった。
「かはっ……」
美鈴は崩れ落ちるように倒れ伏し、そのまま動かなくなった。
「侮っていたわ、あなたの戦闘能力をね」
美鈴を一瞥し、踵を返すと霊夢へと近寄っていく。だが、その歩みが急に止まる。足元を見ると、美鈴が足をしっかりと掴んでいた。
「だめ、です……」
「あなた、お嬢様に忠誠を誓ったんじゃないの? それ以上逆らうなら本当に……」
掴む手を振り払い、美鈴を睨む。
「違いますよ……」
ゆっくりと立ち上がり、咲夜を見つめる。
「子供を手に掛けたら、咲夜さんはもう二度と戻れないところにいっちゃうから。だから、絶対阻止しますよ」
ニコリと柔らかな笑みを浮かべた。
「美鈴、あなた……」
驚きの表情を浮かべ、一歩後ずさった。
「ごめんなさい、咲夜さん…………龍神乱舞!!!!」
美鈴の全身から気が噴き出す。
「はあああああああああああああっ!」
もの凄い速度で拳がくりだされ、咲夜を打ちのめしていく。その衝撃で咲夜の体が浮き上がる。
「とどめ……で、す……」
渾身の一撃が咲夜へと放たれるが、その攻撃が届くことはなかった。ポフッと軽い音をたてて咲夜の胸に拳が当たったかと思うと、美鈴は気を失い倒れ伏した。それを追うように咲夜も崩れ落ちる。
「くっ……危なかった……」
最後の一撃が決まれば確実に負けていた。紙一重の勝利に咲夜の呼吸が荒くなり、ガクガクと体が震えた。
「よくも、美鈴ねーちゃんをいじめたな」
広間に響き渡った声に顔あげると、目の前に迫るいくつもの霊気の塊とその隙間から怒った顔でこちらを睨む霊夢の姿が見えた。その景色を最後に咲夜の意識は途絶えた。
倒れた美鈴に治療用の護符を数枚貼り付け帽子を返すと、霊夢は階段を昇って行った。
「あの先に、いるのね……」
階段の先にある扉の奥から大きな気配感じた霊夢は速度を上げようとした。
「お嬢様のところには絶対にいかせないわ!」
それを遮るように霊夢の背後に咲夜があらわれる。
「ひやっ!!」
その鬼気迫る迫力に圧倒され、体制が乱れる。それでも捕まえようとする咲夜の手を避けながら、扉へと進んでいった。
「くっ、このっ、待ちなさい!」
満身創痍で飛ぶのがやっとの状態ながらも、咲夜は霊夢を捕らえようと掴みかかる。
「ヤダッ!」
霊夢が速度を上げると、咲夜は階段に片足をついた。
「逃がさないっ!!」
気力を振り絞り階段を蹴ると、霊夢へと跳びついた。
「捕まえたわよ!」
「うわっ……あうっ!」
霊夢の腰をガッチリと掴むと、跳びついた勢いそのままに、二人は扉前へと転がった。
「はなせ、はなせー!」
「暴れるんじゃないわよ!」
もがく霊夢を押さえつけると、その首に両手を回し締め上げていく。
「んぐっ! んっ!」
咲夜の腕を引っ掻いたり、叩いたりするが、幼い霊夢の力では全くの無力だった。
「やめなさい、咲夜」
霊夢の顔から血の気がひき始めた時だった。凛と威厳に満ちた声がし、ゆっくりと扉が開いていった。
それを見た咲夜は霊夢から離れ、片膝をつき部屋の中の者へと頭を下げた。
「お嬢様、これはその……」
「黙りなさい。そして、下がりなさい」
「お嬢様!?」
驚きながら顔をあげる。
「なぜですか! 私はお嬢様の御命令通りに……」
「私は下がれと言ったのよ、喋ることを許可した覚えはない」
少し怒気をはらんだ声と共に一陣の風が起き、咲夜を吹き飛ばす。悲鳴をあげる間もなく彼女の姿は階下へと消えていった。
「さあ、はいってらっしゃいな」
一連の出来事を茫然と眺めていた霊夢は、我に帰り、数回顔を振り部屋の中へと歩を進めた。部屋に入ると、開いたときと同じようにゆっくりと扉が閉じ、あたりは暗闇が支配した。
「ようこそ……私がこの紅魔館の主にして夜の王たる吸血鬼、レミリア・スカーレットよ」
部屋に響き渡る声とともに霊夢の前に紅い満月が姿を現した。その光景に霊夢は身を竦めるが、よく見るとその月は大きな窓の向こうに浮かんでいる、ただの満月だった。そして、その満月の照らされるように大きな椅子が一つあり、レミリアはそこに座っていた。
「でも驚いたわ、噂に聞いていた博麗の巫女がこんな子供だったなんてね」
椅子から立ち上がると、音も立てずに霊夢の前へとやってくる。
「あなただって子供じゃないの」
霊夢はムッとした表情でレミリアを睨みつけた。
「ふふふっ、怖いもの知らずねあなたは。まあ、子供はそういうものよね無邪気で無知。でも、それで幻想郷の管理者なんて勤まるのかしらね」
「馬鹿にしないで……それより、この霧を出したのはあなたでしょう。さっさと消しなさい」
「嫌よ、私は太陽が嫌いなの……でもそうねぇ、この幻想郷の全ての者が私に跪き崇め忠誠を誓うというのなら、考えてあげてもいいわよ」
完全に見下しながら霊夢に尋ねる。
「ふざけないでよ、そんなのできるわけないでしょ。どうせ霧を消す気なんてないくせに」
「あらあら、お子様のくせに勘は鋭いのね。じゃあどうするのかしら。クスクスクスクスクス……」
「そんなの決まってるじゃない、こらしめていうことをきかせるのよ!」
袖の中から陰陽玉が飛び出し淡く輝きだす。
「うふふふ、それしかないわよね。でも、子供の火遊び……いいえ、弾幕遊びは危険よ。御覧なさい」
窓の外の満月を指差す。
「今夜はこんなにも月が紅いから……楽しすぎて、殺しちゃうかもしれないわ!」
レミリアの瞳が紅く輝いた。
「はあ~、やっぱり隊長は戻ってこないか。まあ、静かになったから、今日はもう何もおこらないでしょう」
楊は門に寄りかかると、大きな欠伸をした。
ドゴォォォォォン!!!!
「うわぁっ、なになになに!?」
突然の大爆音に振り返ると、館の一角から煙があがっていた。そして、その煙の中から羽の生えた人影が勢いよく飛び出していった。
「あ、あれは、レミリア様!?」
理解を超えた状況に、楊はぽかーんと口を開けたまま空を見上げていた。
空へと飛び立ったレミリアを追いかけるように、大きなお札博麗アミュレットが四つ煙の中から飛び出していく。さらにその後から霊夢が飛び出していった。
「いけっ!」
霊夢が呟くと、博麗アミュレットは意志を持ったように軌道を変えながらレミリアへと襲いかかる。
「ふふふふ、こっちよこっち」
踊るように博麗アミュレットを避けていく。だが、レミリアに避けられても軌道変え、再び襲いかかる。
「しつこいのは嫌われるわよ」
両手を広げると、レミリアから赤い魔力光が幾筋も放たれる。魔力光は博麗アミュレットを焼き尽し、何度も折れ曲がったり拡散しながら周囲を埋め尽くしていった。
霊夢は迫ってくる魔力光を難なく避けていくが、やがて周りをすべて囲まれ身動きが取れなくなる。
「これじゃあどこにも行けないよ」
しばらくすると徐々に魔力光が薄れ、消えていった。
「止まってるなんて、当ててくださいって言っているようなものよ!」
霊夢の死角から、魔力で作り出した槍を振りかざし、レミリアが突進してくる。
「しまっ……」
とっさに目を閉じ体を縮めた。しかし、それは自殺行為でしかない。レミリアの魔槍グングニルは人の体など簡単に貫き、滅ぼしてしまう。だが、陰陽玉が霊夢を庇うように前に出ると、強く輝いた。
霊力と魔力がぶつかりバチバチと火花を散らす。
「ふえっ……ママ?」
恐る恐る目を開けた霊夢は、陰陽玉から靈夢の気配を微かに感じ取った。
「よしっ……くらえ、夢想封印!」
キリリと顔を引き締め、霊夢は体内から霊力を解放した。解放された霊力はいくつもの塊となって、レミリアへと殺到し爆発した。
「やった!」
爆発がおさまった後にレミリアの姿が無いのを見た霊夢は、小さくガッツポーズをした。
「なにが、やったのかしら?」
背後からの声に振り返ると、無数のコウモリが集まりレミリアの姿が浮かび上がってくる。
「この程度のフェイントに引っ掛かるなんて、まだまだね」
そっと霊夢の胸へと片手を添える。瞬間、手から激流のごとく紅い魔力が溢れ出て霊夢をのみこみ吹き飛ばした。
「うっあああああああああああっ!!!!!!」
巫女服の中に張り付けておいた防護用の護符がすべて燃え尽きるのを感じながら、霊夢は必死に体勢を立て直した。
「あら、意外と頑丈なのね。でも、そろそろ終わりにしましょうか」
大きく翼を広げると、周囲の紅い霧がレミリアへと集まっていく。それにつれ、どんどんと魔力が上昇していった。
「負けない、負けられない。私は博麗の巫女なんだから~!」
その叫びに陰陽玉が応えるように輝きを増していく。
「さようなら、博麗の巫女!」
吸収した霧を魔力に変換し解放する。紅い魔力がすべてを紅く染めあげながら霊夢へと押し寄せた。だが、再び陰陽玉が前へと出て、霊夢を魔力から護った。霊夢はレミリアをしっかりと見据えると懐からお札の束を取り出し、放った。
「無駄よ、あなたの攻撃は効かないわ」
レミリアの姿が無数のコウモリへと変化し周囲へと散らばっていく。しかし、それよりも速い速度でお札は広がっていき、結界を形成した。
「悪しき者に天罰を、封魔陣!!」
結界の中に幾筋もの雷が発生し、コウモリを直撃する。
「きゃあああああああああああっ…………!!!!」
レミリアの悲鳴が響き渡るなか、結界が破裂し光が辺り全てを包み込んだ。
「こんどこそ、やったよね……」
レミリアの魔力が消えたのを感じ取ると、霊夢は脱力したようにゆっくりと地上へと降りて行き、気を失った。
ずっと空での戦いを見ていた楊の前に、霊夢がゆっくりと降りてくる。自然とそれを抱きとめた。
「あ~、思わず抱きとめちゃったけど、この子どうしよう」
「いますぐ、客間につれていきベッドに寝かしつけなさい」
途方に暮れる楊に背後から声がかけられる。
「レ、レミリア様!?」
振り返ると、ボロボロの姿のレミリアが立っていた。
「はやくしなさい。その子は私の特別な客よ、くれぐれも粗相の無いようにね」
「はい、ただちに!」
楊は背筋を伸ばし返答すると、一目散に屋敷の中へと走って行った。
こうして霊夢にとって初めての異変、紅霧異変は幕を閉じた。
レミリアの命令を受けたメイドたちから手厚いもてなしを受けた霊夢は、翌日晴れ渡った幻想郷の空を魔理沙と共に帰って行った。
もう少し細かく凝ってればもっと面白くなりそうです、頑張って下さい。
知ったようなことを言ってすいません。
『起』と『結』が薄かったような気がします
でもこういう話は嫌いじゃないです
面白くなかった。
ぜひ続編も!!
あと・・・ちび霊夢かわいいよちび霊夢!
いくら子供でも博麗の巫女が異変解決中に眠るとは…。
美鈴VS咲夜さん、パチェVS魔理沙は弾幕ごっことは思えませんでした。スペカは使ってるんだけど、何か違うような。
紅魔郷の話なので、スペカも紅魔郷で使用されたものにして欲しかったです。展開上萃夢想のスペカを使わざるをえなかったのかも知れませんけれども。
ちび霊夢は可愛かったです。
皆様のご意見を参考により一層の精進をしていきたいと思います。
次回作の予定としては紅魔郷エクストラを考えています。
ちび巫女霊夢かわいいです~
とってもGJです!
あと、咲夜さんがキャラ的にあんまりいい感じに書かれていないというか、一人だけ救われない感じがします。
とはいえ、どのキャラにも際立つエピソードが付いているし、何より霊夢がかわいいですね。
東方といえば、異変解決後の懇親だと思うので、上で言った咲夜さんに関する指摘をいかして、後日談が書けるかもしれませんね。(書いてほしいなーという遠まわしな言い方)
以上、素人の意見でした。天人さんに参考になったらいいなぁ……
うーん、もう少し舌鼓をしてから投稿した方が
自分の書きたいことをしっかり纏め切れてない感じがします。